マラケシュ通信5(2016 年 11 月 18 日 モロッコ・マラケシュ) 2016年11月17日、日本に化石賞がダブルで贈られました。第1位は日本を含む7ヵ国合同、 第2位は日本単独の授賞です。 COP 議長による COP22、CMA1 の決定文書案 11 月 18 日午前 2 時 30 分付の COP 議長による決定文書案が出ました。 今後のパリ協定締約国会合の開催スケジュールは、2017 年の COP23 で再開会合を開き、 2018 年の COP24 で決定を出すという方向で固まりつつあるようです。しかし、2017 年の再 開会合で何をするのかについては、各国の間でまだ意見の隔たりがあるようです。18 日午 前 2 時 30 分付の COP 議長の決定文書案では、2017 年の CMA の再開会合を CMA と COP が合同 で開き、パリ協定実施に関する進捗とその時点での成果を確認する(レビューする)と書 かれています。これについては一部の途上国グループは 2017 年に再開したときに、決定を 出せる分野があれば決定を出すと書き込むよう主張しています。 私たち NGO が注目している 2018 年の促進的対話については、COP22 議長と COP23 議長が 協力して、2017 年 5 月の補助機関会合の合間にコンサルテーションを実施し、COP23 で報 -1- 告すると書かれています。この部分は 1 つ前のバージョン(11 月 15 日午後 11 時 30 分付) で「締約国に 8 月末までに意見を提出するよう要請する」と書かれていて、促進的対話に ついて話し合う機会が 2017 年の COP23 までもたれない可能性がありました。もともと議題 に含まれていなかった促進的対話ですが、今回の案では、促進的対話の議論が 5 月の補助 機関会合で話し合われて COP23 へつなぐ方向で検討されていることがうかがえます。 京都議定書のもとに設置されている適応基金については、パリ協定のもとで機能すると されています。 COP 議長はこの決定文書案を午前 11 時に非公式協議を再開するので、それまでに検討し てほしいとしており、予定では夕方 3 時から閉会総会が会議スケジュールに掲載されてい ましたが、13 時時点でスケジュールから削除されています。閉会総会がいつ始まるかは、 まだわかりません。 資金問題 COP22 は最終日を迎えましたが、いくつかの問題では交渉が停滞したままです。資金問題 もそのひとつです。 最近の試算によれば、2020-2030 年の間に 70 ヵ国あまりの途上国の NDC を実施するだけ で 4 兆ドルもかかるとされています。また、これから数年の間に大幅な支援と能力の強化 が必要で、パリ協定の実施に関しても、資金問題は極めて重要な課題になっています。 パリ協定と資金問題 COP21 でも資金問題は最後まで揉めたテーマのひとつでした。COP21 での資金問題の論点 は、①先進国が主張していた資金提供国の拡大と、②2020 年以降の資金規模の拡大が交渉 の論点でした。①については、先進国は従来の先進国だけでなく、すでに先進国なみの経 済力をもつ一部の途上国も資金供与をすべきだと主張していました。これについては、先 進国の資金提供義務(パリ条約 9 条 1)に加えて「他の締約国が自発的に引き続き支援を提 供することができる」 (9 条 2)とされ、先進国以外の「他の締約国」 、すなわち先進国なみ の経済力をもつ一部の途上国も、 「自発的」に資金を提供できると記述することにより妥協 が図られました。②の 2020 年以降の資金供与の規模については、具体的な数値目標は記載 されませんでしたが、COP 決定で「2025 年まで、先進国が 1,000 億ドルの資金動員を引き 続き行う意思があること」 (パラ 54)を確認し、「2025 年までに、CMA が 1,000 億ドルを下 限とする資金の世界目標を設定する」ことを決定しています。このことは、2020 年までに 1,000 億ドルを拠出するという従来の合意は維持しつつ、2020 年以降の資金については、 引き続き気候資金の動員を先導することが先進国の義務とされ、このような気候資金の動 員はそれまでの努力を超える前進を示す(progression beyond)とされました(9 条 3) 。 1,000 億ドル到達へのロードマップ COP22 で問題になっているのは、2020 年までに年間 1,000 億ドルに到達するまでのロー ドマップ(いつまでにいくらの気候資金を確保するのか、確保できるかを示す工程表)で す。 ロードマップについて、今年 10 月に OECD がまとめた「1,000 億ドルへのロードマップ -2- (Roadmap to US$100 Billion) 」では、2013 年の時点で年間 520 億ドルだったものが、2014 年には年間 620 億ドルに増え、2020 年に 1,000 億ドル達成は可能としています。しかし、 気候資金の定義がはっきりしていないこともあって、この 620 億ドルには開発援助(ODA) 案件が多く含まれており、海外への企業進出のための商業ベースの融資も含まれている可 能性が高いと言われています。 また、このロードマップでは 1,000 億ドルのうち適応分野の金額は 5 分の 1 にとどまっ ていることも問題です。すでに気候変動の被害はすでに発生しており、今後適応に必要な 費用は巨額になると予想されます。さらに、適応を超えた「損失と損害(ロス&ダメージ)」 に関する費用は、適応に関する費用を上回ると考えられており、緩和(排出削減)が遅れ ると、これらの費用はさらに増大します。 日本の拠出と石炭火力 日本は最大の資金拠出国であり、山本環境大臣のステートメントでも、2020 年の 1,000 億ドルのうち 130 億ドル(約 1.3 兆円)を日本が拠出するとしています。 しかし、残念なのは、日本が、たとえばインドネシアなどへの高効率石炭火力の支援を 気候資金に含めようとしていることです。OECD がまとめた「1,000 億ドルへのロードマッ プ」では、日本とオーストラリアが高効率石炭火力への支援を気候資金に含めるよう要望 したが、ロードマップには含めなかったと脚注がつけられています。 適応基金 資金問題では、京都議定書のもとに設置されている適応基金のパリ協定との関係やその 規模などについても交渉が続いています。 適応基金は京都議定書の下に設置されている基金で、途上国における具体的な地球温暖 化の悪影響に適応するための事業や計画に拠出されることになっています。その資金源は、 先進国の自主的な資金拠出の外に、クリーン開発メカニズム(CDM)事業における認証排出 量(CER)の利益の一部(CER の 2%)が適応基金に入れられることになっています。京都 議定書は 2020 年にパリ協定が始動することにより、その役割を終えることから、適応基金 を京都議定書からパリ協定の下に移行させるかが問題となっています。適応基金はまだ規 模は小規模ですが、適応事業に供与されることになっていること、資金源が確保されてい ることから、これをパリ協定の下で位置づけたいという途上国の要求は当然だと思います。 11 月 18 日午前 2 時 30 分に示された COP の議長のドラフトでは、適応基金はパリ協定の 下に位置づけられることになっています。 日本に化石賞 11 月 17 日、気候変動問題に取り組む NGO の世界的なネットワークである気候行動ネット ワーク(CAN)が日本に化石賞を贈りました。第 2 位は日本単独で、第 1 位はトルコ、ロシ ア、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、日本、インドネシアの 7 ヵ国合同で 贈られています。理由は、日本が国内で 48 基にもおよぶ新規の石炭火力発電の新規計画が 進行中であること、海外支援で石炭火力発電所の建設をすすめようとしていることが挙げ られています。 -3- 山本環境大臣との懇談 11 月 16 日午後 3 時 45 分から、山本環境大臣と海外および日本の NGO メンバーとの懇談 が行われました。 海外の NGO は、WWF のプルガル・ビダルさん、憂慮する科学者同盟のオールデン・メイヤ ーさん、グリーンピースのアリフ・フィヤントさんの 3 人で、日本からは CASA を含め 5 団 体から代表が参加しました。WWF のプルガル・ビダルさんは、ペルーの元環境大臣で、2014 年にリマで開催された COP20 で議長を務められた方です。 オールデン・メイヤーさんからは、 「トランプ次期大統領が決まっても、アメリカの自治 体、ビジネスなどの流れは変わらない。今日、365 の企業がパリ協定から脱退しないように トランプ次期大統領に要請した。安倍首相にトランプにパリ協定に残るように働きかける べきだと伝えて欲しい」との要請が行われました。プルガル・ビダルさんからは、「パリ協 定が発効した。これからは 2020 年、多くの国の削減目標の実施期限である 2030 年などの 道程(マイルストーン)を確実に歩むことが重要なこと、2050 年の低炭素戦略は、アメリ カとドイツが作成・発表し、フランスも作成中である。日本のリーダーシップを期待する」 との要請が行われました。アリフ・フィヤントさんからは、「日本は国際協力銀行(JBIC) を通じて、インドネシアで新規の石炭火力発電所を 5 基(合計約 100 万 kW)を建設しよう としているが、地元住民は反対している。石炭火力より再エネへの支援をお願いしたい」 との要請が行われました。日本の NGO を代表して気候ネットワークの浅岡美恵さんが、日 本がパリ協定をしっかり実施するとステートメントで発言するよう要請しました。 山本環境大臣の閣僚級会合でのステートメント NGO との懇談の直後に、閣僚級会合で山本環境大臣のステートメンが行われました。その なかで、山本環境大臣は、 「ここマラケシュで、パリ協定の発効を各国と祝えることをうれ しく思う。世界は、今世紀後半に人為的な温室効果ガスの排出と吸収源による除去の均衡 を達成するべく大きく舵を切った。パリ協定の実施に向けて統合的な対策を推進し、豊か で、強靭な地域社会を、国際社会と連携して構築していかなければならない。日本は、そ の中で中心的な役割を果たす。 」 、 「パリ協定実施に係る実施指針の議論に対し、我が国の経 験、知見に基づき、積極的にルール作りに貢献していくことを約束する。」と発言しました。 フランスのオランド大統領のように、もう少し明確に、日本はパリ協定をしっかり実施 する、トランプ次期大統領にも働きかけると発言して欲しかったと思いますが、まあ及第 点だと思います。 -4- 我々は勝つ―トランプ氏に関わらず(2016 年 11 月 16 日投稿 モーガンさん1のブログより) ジェニファー・ 私は今日希望に満ちて決意した。気候変動と闘うための、歴史上類を見ない、真に地球 規模の合意であるパリ協定。その第 1 回目の公式会合が開催された。私はもう何十年もこ の瞬間に向かって闘ってきた。これは決してただの外交問題ではない。この第 1 回目の会 合が今年開催されることを予想した者は少なかった。しかし、我々はここまで到達した。 世界は記録的なスピードでパリ協定を発効させた。気候変動という脅威に対し世界は団結 できないだろうと主張していた皮肉屋たちは間違っていたことが証明された。世界は我々 が直面する最大の脅威に、協働して取り組もうとしている。 (中略) 私はマラケシュで、よりよい再生可能な世界をすでに作りはじめている人に会ったり、 COP22 の議長国であるモロッコがその電力システムのうち 52%を 2030 年までに再生可能エ ネルギーでまかなうようシフトしつつあるという話を聞いた。私が所属するグリーンピー スの地中海エリアの同僚から、モロッコのタハラの女性たちがこのエネルギーシフトを先 導しているという話も聞いた。遠隔地の村タハラのソーラー・パワーや学校、モスク、そ して女性たちのクラブのおかげで、信頼できる無料の電気を手に入れることができたのだ。 ほかにブラジルが石炭に対する 10 億ドルの補助金を拒否していることを知ったし、中国 の再生可能エネルギーが、古くから石炭で繁栄してきた町においてさえも雇用を生み出し ていると知った。 これらのストーリーは、エネルギー革命が人々にも地球にも同様に起こっているという ことを示している。これはいまや止めることはできない。我々は化石燃料の終焉をみとる 世代になるだろう。いや、我々はそうなるように一生懸命動かねばならない。 もちろん、個人的に化石燃料に投資しているドナルド・トランプ氏が選ばれたという選 挙結果は、日差しあふれるマラケシュを覆った暗雲のようなものだが、ここに集まってい る国々は次々に、アメリカが何をしようと、気候変動に関する行動をとり続けるという意 思をはっきりと示した。ドイツ環境大臣はアメリカが削減に失敗した分はヨーロッパがう め合わせると明言した。ここマラケシュにいる国々は、気候変動対策が各々の国の国益に 適っていると理解している。気候変動問題の必然的な成り行きが、ここにいま起こりつつ ある。彼らはこれ以上の干ばつあるいは激烈なハリケーンに代価を払いたくはないのだ。 (中略) 私はアメリカ国内で多くの州、都市、ビジネス、市民が気候変動対策のために行動して いることを知っている。だから、暗雲に覆われても、そこには光が差している。歴史の潮 1 ジェニファー・モーガンさんは、気候変動問題にかかわる世界の NGO で知らない人はない、 トップリーダーです。1996 年の COP2 のときはアメリカの CAN のコーディネーターでしたが、 COP2 から COP3 の間は、請われてドイツ政府のメルケル環境大臣の下で働き、COP3 の直前 に NGO に戻ってきて、COP3 での日本の NGO の活動に全面的に協力してくれました。その後、 WWF や WRI(世界環境資源研究所)を経て、現在はグリーンピースの気候変動問題の代表で す。 -5- 流は、もう舵を切っている。対策はすでに実施されている。気候変動とこれからも闘い続 けることを、我々はここに誓う。そして、我々は必ず勝利する。 1.5℃への短期的に最も重要な歩み The Climate Action Tracker (CAT)2は、パリ協定の 1.5℃未満に到達するために、世界 の主要な 10 のセクターが何をすべきかを発表しました。 1.電力:再生可能エネルギーおよびそのほかのゼロカーボンならびにローカーボン発 電の成長率を 2025 年まで持続させ、2050 年までに 100%にする 2.石炭:新規の石炭発電所はなし、石炭火力発電からの排出量を 2025 年までに少なく とも 30%削減する 3.自動車:化石燃料で走る車輛は 2035 年までに販売終了とする 4.航空および海運:1.5℃目標に適合するビジョンづくりを進め合意する 5.建築:すべての新規のビルは 2020 年までに化石燃料を利用せずゼロエネルギーで 6.建築:2015 年時点で 1%未満のリフォーム率を 2020 年までに 5%まで引き上げる 7.産業:排出量の多いセクターにおける新規設備は 2020 年以降で低炭素にし、稼働率 を最大にする 8.LULUCF(土地利用、土地利用変化及び林業) :森林及びそのほかの土地利用からの排 出を 2030 年までに 2010 年比 95%まで下げ、正味の森林破壊は 2020 年代で停止する 9.農業:現在の水準以下を維持、地元の優良事例を確立して普及、研究の強化 10.二酸化炭素(CO2)除去:CO2 除去に関する研究に着手し、計画を立案する 会議場から COP22 も最終日を迎えています。今日の午前 2 時 30 分(マラケシュ時間)に、議長からの COP22 と CMA1 の決定草案(ドラフト)が提示され、午前 11 時までに検討するよう要請されていました が、この議長のドラフトを一部の締約国が拒否しているとの噂もあり、今日中に決着がつくかど うかもわかりません。午後 3 時から予定されていた COP22 と CMA1 の閉会総会の予定も、スケジ ュール表から消えています。いつもの光景ですが、今回はトランプ政権の誕生という気候変動問 題にとって大波が押し寄せて来ているだけに、いつもの光景が展開されていることに安心感も感 じます。 会議最終日になって、会議やサイドイベントも少なくなり、会場は少し閑散としています。 政府代表団も含めて、会議が予定どおり午後 6 時には終わって、モロッコでの最後のタジン料 理に思いは移っていますが、今夜も遅くなりそうだとの観測も出始めており、最後のタジンへの 諦めムードも漂い始めています。 発行:地球環境市民会議(CASA) 2 〒540-0026 大阪市中央区内本町 2-1-19 内本町松屋ビル 10-470 号室 The Climate Action Tracker (CAT)。世界の著明な 4 つの研究機関(Climate Analytics、 TEL: +81-6-6910-6301 FAX: +81-6-6910-6302 Ecofys、New Climate Institute、Potsdam Institute for Climate Impact Research)で 早川光俊 +81-90-7096-1688、[email protected] 構成される民間の研究機関です。 土田道代 +81-90-4299-8646、[email protected] #これまでの通信は、以下のサイトをご覧ください -6http://www.bnet.jp/casa/cop/cop.htm #CASA の facebook ページ https://www.facebook.com/ngocasa1988 -7-
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