高校における語彙指導の在り方に関する考察

高校における語彙指導の在り方に関する考察
ーコーパス言語学を利用した指導ー
研究の概要
コンピュータの発達とともに,コーパス言語学の発達・発展は最近特に目を見張るものがある。ま
た,10 数年前に Michael Lewis 氏の提唱した新しい理論"Lexical Approach"も特に注目されるよう
になった。
これらの新しい理論や方法をどのように高校現場の英語教育に生かすかという視点で,高校におけ
る英語の語彙指導の在り方をあらためて考察するとともに,学習者の立場に立ってその学習者が習得
しやすい指導の形が望ましいとし,その指導の方法を提案した。
また,使用教科書の内容と県内の高校での語彙指導の現状を調査・分析の上,指導の問題点を考察
し,さらに使用教科書の内容と高校で指導すべき語彙についても考察することにした。
コンピュータによる KWIC 検索等のツール(ソフト)を利用しての分析方法を紹介し,その分析
結果を生かした指導内容と指導の在り方を考え,生徒が使いやすい教材提示と指導方法の提案により,
学校現場での活用に資する。運用語彙の習得のためには,単語個々の別々の指導よりも適当な
"chunks"の形での習得が望ましいする提案の形にした。
キーワード
語彙指導,コーパス言語学,Michael Lewis,Lexical Approach, KWIC 検索, 運用語彙,chunks
Ⅰ
主題設定の理由
1
語彙指導の重要性
外国語教育における語彙指導の重要性は,はるか昔から指摘されていながら,今日でも繰り返し指
摘されている,まさに「古くて新しい」問題であると言えよう。
どんな言語であっても,語彙は,コミュニケーションの基本を担うものであるのだが,日本の英語
教育の現場では,語彙指導の重要性は長く軽視されてきたとも言えるのではなかろうか。
教科書での新出語は授業で指導をするにしても,その整理や習得作業は生徒各自の努力にまかされ
てきた。多くの教員は,同意語や派生語あるいは接頭辞,語源などに触れて丁寧に指導してはいるは
ずであるが,生徒が頭を整理しやすい形,習得しやすい形の提示まで配慮しての指導は少ないのでは
ないかと思われる。
教科書以外の語彙習得に関しては,さらに大雑把ではなかろうか。多くの学校で,大学入試等の準
備の必要性から単語集を指定して持たせるのだが,その単語集を範囲ごとに時折,テストをするだけ
であったり,あるいは買い与えるだけに終わっている場合もあるのではないか。学校現場の教員に調
査しても,習得する努力は生徒各自にまかされている実態がうかがわれる。この点での教員の助力は
求められると。
石川慎一郎氏は次のように厳しく断言している。
「英語力の基礎として語彙力が重要であることは言を待たないが,日本の英語教育においては,体
系的な語彙指導がほとんど行われていない。たとえば中学校では,新出単語の発音や意味を指導する
が,3 年間で扱う語はわずか 900 語程度である。高等学校では,大学入学試験準備の必要もあって,
何らかの英単語を副教材として指定する場合が多いが,実際の語彙学習は生徒に一任しているのが現
状である。大学においては語彙指導自体がほとんど存在しない。」
-1-
過去を振り返ってみても,赤尾の「豆単」で育った世代,次の「シケ単」「デル単」世代,あるい
はそれよりずっと以前の「コンサイス」世代においても,語彙の習得は生徒にまらせられていたと言
ってよいのではなかろうか。
これは米山朝二氏が指摘するように,「英語学習の初期の段階では,英語の構造に習熟することが
最も大切であり,語彙は必要最低限にとどめるべきである」,という考えがこれまで支配的であった
という事情もあろう。後述するが,学習指導要領の改訂においても徐々に指導すべき語彙が減ってき
ているのもこれと関係があると考えることができる。
語彙指導といっても,単に指導する語数が多ければよいというものでもない。どの語を習得すべき
かという質的な問題もある。しかし,中学校や高校,大学での現場で,しばしば「語彙不足」の問題
が話題になるとおり,この量的な問題は実に大きい。
語彙は受容語彙(passive vocabulary)と運用語彙(active vocabulary)の 2 種類に大別されるが,使え
る語彙(運用語彙)とするのには,その語に関する知識,すなわち語形の変化や同意語・反意語等様
々な関連したものを知っておいた方がよく,特にどの語と結びついて使われるかという知識の習得が
重要である。当然ながら,運用語彙が多いほど「発進力」は高くなる。
自然な英文を生み出すのには,自然な結びつき(共起関係)を覚えておく必要がある。個々に覚え
た語を無理矢理に結びつけて英文をつくりだしたり,和英辞典から語を引っ張り出して結びつけると,
不自然な英語になるのは当然である。生徒のつくる英文が不自然になりがちなのはこれが大きく関係
していると考えられる。ここで,新しい単語を1つ1つ覚えるのではなく,その前後にある既知ある
いは半既知のものと結びつけた"chunks"の形で習得することの重要性をここで指摘したい。
単語をどんな語がどんな関係で用いられるかの指導は重要である。コロケーション(collocation)等
の問題と言ってよいだろうか。"A strong possibility", "a handsome salary"あ るいは"a close friend"
など,例は多いが,語をひとつひとつ覚えるのでなく,できれば既知のものとつなげて指導すること
により,記憶しやすくかつ利用しやすい知識となり,運用語彙として活用しやすくなろう。
ここで取り上げたいのは Lexical Approach の理論である。
M. Lewis 氏を引用した Olga Moudraia 氏(2001)の次の言葉に耳を傾けたい。
"The lexical approach to second language teaching has received interest in recent years as an
alternative to grammar-based approaches. The lexical approach concentrates on developing
learners' proficiency with lexis, or words and word combinations. It is based on the idea that an
improtant part of language acquisition is the ability to compredend and produce lexical phrases
as unanalyzed wholes, or "chunks" and that these chunks become the raw date by which learners
perceive patterns of language traditionally thought of as grammar. Instruction focuses on
relatively fixed expressions that occur frequently in spoken language, such as , "I'm sorry," "I
didn't mean to make you jump," or "That will never happen to me," rather than on originally
created sentences."
" The Lexical approach makes a distinction between vocabulary -- traditionally understood as a
stock of individual words with fixed meaning -- and lexis, which includes not only the single
words but also the word combinations that we store in our mental lexicons. Lexical approach
advocates argue that language consists of meaningful chunks that, when combines, produce
continuous coherent text, and only a minority of sopken sentences are entirely novel creations."
Chunks の重要性については,I.S.P.Natio 氏(2001)もその著書"Learning Vocabulary in Another
Language"の中で"Chunking and Collocation"と いう独立した章を設けて丁寧に説明し,さらに
-2-
"Language knowledge is collocational knowledge"と 言い切っている。国内でも赤野一郎氏(2006)は
"Every word has its own grammar"とし,「コーパス言語学から見た語彙指導のあり方」という論文
を発表しているが,これは"Language consists of grammaticalized lexis, not lexicalized grammar"
という Lewis 氏の Lexical Approach の理論と基を一にしていると言えよう。
「単語は英文で覚えよ」
という論はかねてからあったが,それが chunk としてまとまりがあるものなのか,あるいは,G. Miller
氏等の説から判断して量的に(長さの点で)どうなのかを考えると,それらを考慮していない場合の
方が多かったのではないかと推測する。
Harvard 大学の心理学者,George Miller 氏は 1956 年に"The Magical Number Seven, Plus or
Minus Two; Some Limit on our Capacity for Processing Information."と いう有名な論文を発表し
た。われわれの短期記憶(short term memory)の能力は"seven plus-or-minus two" chunks である
と述べた。
生徒が覚えやすい量(長さ)も十分に考慮する必要がある。
すでに「chunk 指導」の重要性に気付いて,その指導法について論じ,実践している教員も少なく
ないようである。意味理解の点で,チャンク・チャンキングの考え方を利用しての指導例もある。し
かし,語彙指導においてもその重要性をあらためてここで強調したい。
2
教科書と教員の指導
教科書には頻度順に語彙が登場するわけではない。また,教科書には重要な語が含まれていること
は間違いないが,トピックに関する特殊な語彙も含まれていることにも教員は注意しなければならな
い。指導に強弱があってよい。しかし,日頃の指導の中で,この点の配慮があるかは疑問である。真
面目な生徒ほど教科書に出現するものはすべて同じように努力して習得しようとする。これはこれで
本当に価値ある努力であり,評価すべきものではあるが,
「効率性」の面で問題はなかろうか。また,
生徒の「能力」を超えることがないだろうか。時間的な問題もある。
相澤一美氏の次の指摘に耳を傾けたい。
「中学校や高等学校用の検定教科書には,新出語がどの頻度レベルなのか何の情報を与えられてい
ません。トピックの関係で,一生のうちで2度と出会わないような低頻度の語も含まれている場合が
あります。重要なことは,教科書の新出語彙を,頻度の観点から一般的な単語と稀な単語に区別して,
どの単語を優先すべきかを学習者に示すことです。
(中略)
教師にとって重要なことは学習者が覚えるべき語と覚えなくてもよい語をはっきりと示すことで
す。頻度が高い語は繰り返し出会う可能性が高いですから,学習者の注意を喚起します。他方,低頻
度の語の場合は,意味を語注などで学習者に提示するだけにとどめておき,覚える必要がないと指導
します。」
(『学習語彙の指導マニュアル』
pp.110 - 11)
そこで,教員は,研究者や諸機関の提示する語彙表やコンピュータ分析(concordancing)で頻度を
調べて,それに応じてのメリハリをつけた指導が重要であると考えるのである。もちろん,頻度と重
要性の程度は必ずしも一致しないのだが,それは得られたデータを盲信・盲従することなく,教員が
慎重に判断することであり,これも教材研究のひとつと言えよう。
教科書のいわゆる「余剰性」の欠如の問題もある。何度も教科書に登場する語である場合,意識し
なくても記憶にとどまりやすいが,実情は,頻度が高く,重要語であるにもかかわらず,教科書には
1度ないしは2度程度しか登場しない語が多い。これでは教科書を一通り学習するだけでは記憶にと
どまりにくい。教員はこの点に特に注意をして指導すべきある。繰り返しの指導(復習)も当然,大
-3-
切な作業になる。
教科書の英文に出現する語の頻度も調査した上での,教科書全体を見渡しての「体系的な」語彙指
導も重要になってこよう。この点でのシラバスづくりも大事な作業である。
さらに教科書に載る語彙の数の問題もある。教科書だけでは不足であると考える教員や学校は多い。
しかも,学習指導要領の改訂でそのたびごとにこの数は減ってきているのが実情である。多くの研究
者もこの問題を指摘する。学校や教員が教科書とは別に生徒に単語集を持たせる所以でもあろう。し
かしながら,この大学入試用単語集も,石川慎一郎氏の研究・分析によれば,その信頼性の点で問題
は多い。次々と新しいものが出版される理由でもあると言えよう。
どの程度語彙が必要か時間と字数のある限り考察したいが,教員としてまず,すべきことは,教科
書の語彙の発展性を持った指導であり,しっかりとした strategy を構築したいものである。
Ⅱ
研究の目標
語彙指導の現状を様々な面から分析・考察するとともに,コーパス言語学によるコンピュータを利
用した分析方法を紹介し,その分析結果を生かした指導の在り方を提示する。
Ⅲ
研究の方法
近年のコーパス言語学に関する多くの論文と,その応用・活用を論じた研究を情報として収集し,
その論をどう学校現場に生かすかを考察する。
また,コンピュータにダウンロードして使用できるツールや Web を利用しての教材の分析の方法
を研究し,学校現場の教員が使いやすいツールを多くの候補の中から探し,その利用法を紹介すると
ともに,その利用を提案する。具体的には"Range"や"Antconc"などの分析ソフトの紹介や,常に新
しい情報を得られる Web-based の役立つツールを利用しての分析とその結果を生かした指導を提示
する。さらに,近年発展が著しく,様々な分野での活用の有効性が特に注目されている Google 等
Search Engine を道具としてとして英語教育に利用することの利点や問題点をも考える。
同時に,県内の高校での語彙指導の現状を調査し,その問題点を考察するとともに,あらためてさ
まざまな視点から語彙指導の在り方を考え,問題を提起し,それらを踏まえての望ましい語彙指導の
在り方を考察する。ここで新しい理論もできるだけ導入・研究する。
Ⅳ
研究の内容
1 コーパス言語学について
(1)コーパス言語学とは何か
コンピュータやインターネットの発達と普及に伴い,現在,英語教育や英語学の分野で2つの分野
が大きな注目を集めており,その一つはCALL(Computer Assisted Language)であり,もう一つ
が英語コーパス言語学(English Corpus Linguistics)であると言う(吉野, 2000)。
そもそも"corpus linguistics" という表現は,Aarts & Meijs(eds.), Corpus Linguistics( 1984)の出
版以後広く一般に使われ始め,1990 年前後に定着したと言えるまだ新しい語であり,当然,新しい
分野でもあると言える。
英語コーパス言語学とはコンピュータで処理可能な電子コーパスを検索して言語分析,記述を行う
言語学一般を指し,英語の電子コーパスを検索して英語の分析・記述を行うものであると定義できよ
う。コンピュータ,特にパソコンの発達・普及とともに,近年急速に発達した言語学である。
-4-
(以下補助資料1)
(2)コーパスとは何か
コーパス(corpus)とはもともとラテン語で「体」を意味する言葉であり,すでに古代ローマ時代か
ら文献や事実の集大成を意味する語として使われていた(「ローマ法大全」Corpus Iuris Civilis)。そ
して,この語がそのまま学術用語としてヨーロッパ各国に取り入れられ,現代まで引き継がれている
と言える。ある特定のテキスト群の資料総体を「コーパス」を呼ぶと定義して良い。
(以下補助資料1)
(3)コーパス分析について
コーパス自体は資料にすぎず,これを分析する必要があり,その分析はコンコーダンスソフトウェ
ア(コンコーダンサー concordancer と呼ぶ)を用いて行う。ある語がどのような文脈で用いられて
いるかを示すものがコンコーダンスである。
(以下補助資料1)
2 学校での語彙指導
(1)語彙指導の在り方
まず,あらためて語彙指導の在り方を考察したい。
語彙には,単に意味内容が「理解できる」語,すなわち受容語彙"passive vocabulary"と「使える
語」,運用語彙"active vocabulary"との区別があり,多くの研究者が述べるように前者の方が量的に
は多い。両方の語彙が多いに越したことはないのだが,発信型の英語を身につけるのには,できるだ
け後者も多いほど良いわけである。語彙は,聞いたり,読んだりの偶然に出会った語の形や使い方な
どから身に付けるべきである等の論があるが,それでは質・量ともに不十分である上に,何より「使
える」までに膨大な時間もかかる。十分な時間をかければこれも可能ではあろうが,生徒にそれだけ
の時間はない。効率的な習得にはやはり教員の指導・支援が必要であると考えるのである。
例えば,日本語で考えると,「傘」という語を単独で覚えるだけでは役立つことは多くない。「傘」
だけを単独で使う場面は意外に少ない。「傘を開く」「傘を閉じる」等の表現まで覚えておいて初め
て使える場面が多くなろう。単語を1つずつ覚えるのは効率が良くない。
そこで,単語を単独で覚えるのでなく,他の語とどう関連して使われるかも知っておいた方が役立
つであろうし,どんな使い方をするのかも知っておくべきであると主張するのである。補助資料に挙
げる Robert Waring が「常識」の1つとした次の言葉を再掲する。
"There are 2 major stages in word learning. The first stage is matching the word's spelling and
pronunciation (its form) with its meaning. When this is known, the student should then work on
the deeper aspects of word knowledge. This may include the words it goes with, and does not go
with; whether it is formal or informal; whether it is spoken or written; its similarity to other
words; its shades of meaning; whether it is frequent or not, and so on."
ここで注目したいのは,語の"deeper aspects"のひとつである"the words it goes with, and does
not go with"である。これが特に学ぶ価値があるものといえよう。こうしたものの代表としてコロケ
ーションという表現を使う研究者もいるが,この語の定義は実にさまざまで研究者により微妙に異な
ることが多く,限定されたものになり,誤解を生む危険があるので,敢えてここでは使わないでおき
たい。
この学習すべき語のまとまりを別の表現で「連語項目」(multi-word items)と呼んでもよいであろ
うか。この MWI の定義も研究者により様々であるが,この方が誤解はより少ないのではないかと思
-5-
われる。あるいは単に chunks と呼んでよいかもしれない。要するに,単語を1つ1つ単独ではなく,
一緒に使われることが多い(共起する)語とともに覚えることの重要性をここで挙げたいのである。
句動詞,イディオム,複合語(compounds),固定フレーズ(fixed phrases),プレハブ(prefabs),あ
るは慣用表現等さまざまなものが含まれる。この固まりを研究者は様々な表現で表している。
Kavaliauskienë & Januleviéienë 両氏(2001)は次のように述べる。
"Quite recently computer analysis of the English language has revealed a widespread
occurrence of lexical patterns in language use. Some researchers call them 'lexical phrases' or
'lexical items', others prefer the term 'multi-word chunks' or just 'chunks' of language."
このチャンクの考え方は Nation 氏(2001)が"Language knowledge is colloational knowledge,""All
fluent and appropriate language use requires collocational knowledge," "Many words are used in
a limited set of collocations and knowing these is part of what is involved in knowing the words,"
(p.318)等と述べてその重要性を説いている。
また,この考え方は横川博一氏及び島本たい子氏が「英語のメンタルレキシコン」
(松柏社 2003)
の第 12 章でコーパス言語学と関連づけて詳細に解説してくれている。参照されたい。
(補助資料2)
(2)Lexical Approach の理論の活用
M. Lewis によるこの新しい理論が注目されている。
この「レキシカルアプローチ」に似たものに「レキシカルシラバス」があるが,理論的には非常に似
ている理論であろう。どちらにしても,増本氏( 2003
p.262 )が述べるように,「実際の教育現場で
の効果については,まだ,実験的に十分証明されていない。」 この考え方を,すでに現場で生かそ
うという試みを始めている教員は日本にもいるようではあるが,数的にはまだそれほど多くはないで
あろうと思われる。当然ながら,その効果は十分に実証されているとはいえない。
そこで,この論では,この比較的新しい考え方を用いて,指導計画・指導案を作成しようという試
みを提示するものである。
まず,中心的な教材である教科書の内容を分析する。どんな語がどのように用いられているのか。
また,どんなチャンク(chunks)の形が現れているのか。重要語を学習するのにどんな形が望まし
いか。教員の考察と工夫が求められるところである。
教科書以外の語彙指導をどうすべきかの考察はその後ですべきものである。
(以下補助資料3)
(3)教科書と求められる語
ア
学習指導要領と必修語
使用している教科書の実態はどうであろうか,その考察をする。
(補助資料4)
イ
高等学校の指導状況とその考察
県内の高校の指導の状況とその問題点を考察する。
(補助資料5)
(4)指導すべき語彙について
教科書に出現する語彙の習得だけでは不十分であることは多くの研究者が指摘するところである。
ではどの程度,指導すべきであろうか。また,指導すべき語をどう選択すべきであろうか。それを
-6-
論じる。
(補助資料6)
3 Web As Corpusの利用
コーパス分析のツールについては補助資料1で述べたが,Web-based のコーパス分析はその特徴
の違いはあるにしても,現在,意外に多くのツールが利用可能である。便利で役立つものが多く,教
員として様々な形での利用を特に勧めたい。この Web を資料として活用することを論じる。
(補助資料7)
4 新しい辞書の活用
最近,次々に新しい辞書が出されている。この活用も注目したいところである。自分が使い慣れた
辞書や参考書・文法書等に頼りがちの教員は少なくないのではないかとも思われる。常に新しい情報
を求める姿勢が求められるのは英語科教員だけではないのだが,新しい「動き」に対しての「鋭敏さ」
を英語科教員には特に求められると言ってよい。また,同時に新しい情報の「信頼性」の程度を調べ
判断する「慎重さ」
「丁寧さ」も必要である。新しい「表現」を情報として何度も受信したとしても,
それを指導の場に取り入れるべきかは慎重に判断しなければならない。新しいものがすべて良いわけ
ではない。社会的認知度も重要になってくる。その情報を新しい辞書からも得られるのである。
(補助資料7)
Ⅴ
指導教材の作成
語彙指導においても,さまざまな教材が考えられるが,当然ながら,やはり中心は教科書であるべ
きである。まず,教科書内容に関して,しっかりとした「指導」あるいは「習得」が望まれる。
これまで,文法事項の指導などは,教員の意識が高く,教員だけでなく生徒もその重要性を意識し
て単元ごとあるいは文法項目ごとに体系だった指導がなされてきたのだが,意外に語彙に関しては「体
系化」された指導はなされてこなかったと言える。
学校現場の教員は実に忙しい。できるだけ時間をかけないで効率的な教材分析ができる手法が望ま
しい。そこで,簡単に,効率的に教材分析をし,指導計画を立てる方法を提案したい。
1
指導計画作成の手順
(1)教科書全体の英文内容を分析しての立案
年度初めに,教科書の内容(本文等の英語)をすべて分析ツール(コンコーダンダンサー)によっ
て分析し,その結果を参照しながら,年間の指導計画の概要を立てる。重要語であっても出現回数の
少ないものは演習等を活用し,生徒が触れる機会を意識して多くさせる計画を立てる(繰り返し学習
の重要性)。また,語の重要性に応じての指導の強弱をつけるべく指導の戦略を立てることが重要に
なってくる。
(2)各単元(課)の内容を分析しての立案
各単元ごとの語彙指導の計画を立てる。重要語に関しては共起語を調べ,chunks の形で指導する
案を立てる。本文の中での表現に関しても,chunks として指導すべきものを pick out する。生徒が
単語個々別々に学習する形でなく,「まとまった」形で習得しやすい形での指導を工夫する。復習や
練習問題等の繰り返し学習の計画も入れた総合計画の作成をする。これは2あるは3課ごとの立案で
-7-
よいであろうか。使用教科書の展開に応じて弾力的に立案時期を決める。
(3)各授業の指導内容の立案
教科書全体および,各単元ごとの計画を参照しながら,各授業のプランを文法項目と同様にしっか
り立てる。新出語の指導においても,教科書の中の表現で chunk として指導できるものは,できる
だけその形で習得させる形とする。単語を単独でなく,共起語を辞書やコンコーダンサー等を使って
調べ,その形で提示する。生徒が習得しやすい形を意識してできるだけ工夫する努力をする。
2
指導計画例
Pro-Vision English Course I(桐原書店
平成14年文部科学省検定済)を例に指導計画を作る。
この教科書は文科省のまとめ(『内外教育』平成 18 年 1 月 27 日号)によると,2006 年度の全国高
校教科書採択状況では,第5位に位置し 5.3 %の占有率になっており,採択数において上位にランク
されるものである。
(1)教科書内容のすべてを JACET800 分析プログラム((v8an - revised web edition)を用い
て分析する。これは Web 上で利用できる。教科書は指導書付属の CD-ROM が利用が便利である。
(表1)全体分析データ
level
indexes
%
tokens
%
level
level
level
level
level
level
level
over
cont.
8 forms
non-
p r o p e total
words
nouns
1
2
3
4
5
6
7
8
707
182
86
30
32
22
15
14
59
7
32
89
1275
55.451
14.275
6.745
2.353
2.51
1.725
1.176
1.098
4.627
0.549
2.51
6.98
100
5593
366
164
59
70
32
24
31
99
54
45
256
6793
82.335
5.388
2.414
0.869
1.03
0.471
0.353
0.456
1.457
0.795
0.662
3.769
100
i/t = 18.769 %
テキストファイル(.txt)の形で入力した結果である。JACET8000 のレベルに応じた指標がついた
レマ化された頻度リストが作られる。この表で idexes はレマ化された語の出現数を表し,tokens は
通常の語数の数え方で表される語数である。例を挙げると"look,looked,looking"は index 換算では1,
token 換算では3となる。%は各レベルの語彙のカバー率である。
i/t は「indexes の総語数÷ tokens の総語数× 100」で算出されるもので,i/t の値が小さいという
ことは,同じ語が多く使われていることを表していて,簡単なテキストと言うことができる。
別表はレベル別の語の頻度リストである。カッコ内の数字がレベル,各語のあとの数字が頻度であ
る。
(補助資料8)
レベル1はこのリストによると中学校レベルとしているのだが,教科書の必修語 100 語及び教科
書出現語からも慎重に考える必要がある。また,これがレベル1の語(中学校レベル)としてよいの
か,指導する生徒の状況を考えると,中・高の教員としては異論もある語も確かに多い。しかし,そ
れだけ基本語としての重要度が高い語であるとここでは考えたい。
出現する頻度が特に少ない形容詞や動詞など意味や使い方(共起語など)を pick out しておいて,
教科書に出現した際に重点指導が望ましい。
レベル2,3,4も同様に整理しておく必要があるであろう。
レベル5以上では,指導の強弱を考えなければならない。
レベル6以上の語を挙げてみると次のとおりである。
-8-
(表2)レベル6~8の語
(6) architectural 1
(7) disapprove 1
(8) battlefield 1
(6) belly 1
(7) ecology 4
(8) candy 1
(6) claw 1
(7) environmentally 1
(8) coordinator 1
(6) comfortably 1
(7) generosity 1
(8) courageous 7
(6) counselor 1
(7) grandparent 1
(8) cute 2
(6) donate 1
(7) luckily 1
(8) dessert 2
(6) dusty 2
(7) nutrient 1
(8) endangered 3
(6) dwarf 1
(7) remnant 1
(8) extinct 3
(6) ecological 1
(7) severity 1
(8) fertilizer 1
(6) fax 1
(7) sorrow 2
(8) forgiveness 1
(6) frank 5
(7) sponge 3
(8) humanitarian 2
(6) goodwill 2
(7) starving 1
(8) southeast 1
(6) gratitude 1
(7) stern 2
(8) staple 5
(6) imaginary 2
(7) thoughtful 1
(8) unfinished 1
(6) kindness 1
(7) transplant 3
(6) sleeping 1
(6) solitary 2
(6) starve 1
(6) turkey 3
(6) varied 1
(6) walker 1
(6) wheelchair 1
現 代 社 会 の 事 情 及 び 日 常 生 活 を 考 慮 す る と counselor, fax, starve(starving), wheelchair,
ecology(ecological), dessert, staple, extinct な ど は 高 校 1 年 生 と し て 必 要 な 語 彙 し て よ い で あ
ろ う が , architectual, dwarf, remnant, severity, fertilizer, humanitarian, stern な ど は 必 要 性 が
どれだけあるか問題である。指導のメリハリをしっかりつけたいところである。
candy, kindness, sleeping, walker, southeast, unfinished な ど は 日 常 の か か わ り , あ る い は 既
知の語と関連性が強いのでそれに合わせた指導が望ましい。軽い指導ですませられるものも
ある。
(2)各課ごとに分析し具体的な指導方針を立てる。
ま ず , Lesson 1 の 内 容 を 分 析 す る と , 次 の ( 表 3 ) に な る 。 ア ス タ リ ス ク を 左 に つ け た も
の が 新 出 単 語 の 扱 い に な っ て い る 。 固 有 名 詞 ( 人 名 ) を 除 い て も 27 語 で あ る 。 総 語 数 と 比
べても実に多い。
何 よ り ,高 校 に 入 学 し た ば か り の 生 徒 に と っ て ,中 学 校 の 授 業 内 容 と 比 較 し て ,1 課 で 27
語はその多さにとまどうのではなかろうか。
また新出語を含めて1度だけしか出現しない語も実に多い。
先 に 挙 げ た i/t の 値 を 調 べ て 見 る と 41.839%で あ り , 総 語 数 に 比 べ て い か に 異 語 数 が 多 く ,
そ れ だ け 教 科 書 の 内 容 が 凝 縮 さ れ ,「 余 剰 性 」 が な い こ と が わ か る 。
教科書の一通りの学習だけでは「習得」はむずかしく,ここに教員の手腕や工夫が問われる
-9-
ところである。各ページの下に注意すべき表現や用法も載っている。これらを参考にしなが
ら ,新 出 語 だ け で な く ,他 の 表 現 の 指 導 内 容 を 検 討 し た い 。生 徒 が 覚 え や す い 形 で あ っ た り ,
使用する機会を考えながら,単語を個々単独の形でなく,1つのまとまった表現を提示する
必要があろう。
( 表 3 ) Lesson1の 出 現 語
さ ら に ,こ の 課 の み に 出 現 し 他 の 課 に は 現 れ な い 語 の 指 導 に は 注 意 を し な け れ ば な ら な い 。
Antoconc あ る い は Range を 使 用 し て , 教 科 書 全 体 の 出 現 語 と こ の 課 の 出 現 語 を 比 較 し た デ
ータがつくれる。これを基にしての「戦略」を立てる必要があろう。比較的出現回数が多く
てもこの課のみに出現して他で現れない場合には,この課がここでの習得を特に意識しなけ
ればならない。まして,出現数が1度しかない場合,慎重な指導が望まれる。
例 え ば こ の 教 科 書 に 1 度 し が 出 現 し な い kindness が こ の 課 に 現 れ る 。 "show kindness to
someone else"の 形 で 使 わ れ て い る 。 こ れ は こ の 形 で 習 得 さ せ る の が 良 い 案 で あ ろ う 。
ツ ー ル の ひ と つ "Just the Word"(http://193.133.140.102/JustTheWord/index.html)で 検 索 す る
と次のようなデータを得られる。
- 10 -
(図 1 ) kindnessの 検 索 結 果
ま た , こ の 課 の 新 出 語 patient は こ の 課 の み 2 回 出 現 す る の で あ る が , doctor や こ の 課 に
現 れ る nurse( こ の 語 も こ の 課 の み 出 現 ) と 共 に 覚 え る 方 が 効 果 的 で あ ろ う 。
内 容 を チ ェ ッ ク す る と 本 文 の 中 に "Think of the patient."と い う 表 現 も 現 れ て い る 。 ま と め
て ,Doctors and nurses should think of patients."と い う 文 を 提 示 す る と 状 況 も わ か り や す い し ,
習得しやすいと考える。こうしたものは,単に短いだけでなく,意味が具体的なもの,具体
的 に イ メ ー ジ し や す い が 望 ま し い ( 補 助 資 料 2 を 参 照 )。
Operation も こ の 課 の み の 出 現 で あ る 。 こ の 語 だ け 覚 え て も 益 が 少 な い 。「 手 術 を 受 け る 」
「手術をする」という動詞まで関連して指導しておきたいし,覚えておきたい。
ウイズダム英和辞典(三省堂)には operation の項に次のコーパス記事が掲載されている
患者が手術を受けるのは have,ungergo など
医師が手術を行うのは perform carry out, など
先 に 挙 げ た "Just the Word"の 検 索 に お い て も "operation"と 共 起 す る 語 は 次 の 例 が 多 い 。
( 図 2 ) operationの 共 起 語 の 検 索 結 果
共 起 す る 語 と し て carry out や perform も ( あ る い は そ の ど ち ら か を )「 一 括 り 」 の 表 現 と
して指導しておきたいところである。教科書に現れない語(語句)まで提示することは負担
が多いと考える向きもあるが,まとめて意味をなすものである場合はより学習しやすい状態
に な る と 思 わ れ る 。 補 助 資 料 2 の 最 後 で 述 べ た よ う に 西 林 克 彦 氏 ( 1994) の 説 の と お り で
ある。
ここで,注意しておきたいのは語の共起関係の強さを判断する問題である。こうした表の
中 の 数 字 が 多 け れ ば 。 そ の 順 で 共 起 関 係 が 強 い と い う わ け で は な い 。 単 語 [A]と 単 語 [B]が
両 者 と も そ れ ぞ れ に 使 わ れ る こ と が 多 い 語 で あ る 場 合 , [A]と [B] が 共 起 す る 頻 度 は 回 数 的
には当然多くなる。しかし出現回数が多いからといって「結びつき」が強いというわけでは
な い 。他 の 要 素 と 比 較 し て の 考 察 が 必 要 と な る 。す な わ ち ,T-score や MI score,Log-likelihood
- 11 -
等の検定によって判断するところとなるのだが,論題から逸れてしまうので,この論ではこ
の点での深入りは避けたいと思う。
しかし,こうした数学的な分析を要する点も,言語のコーパス分析・研究が,文学部など
文系の学部学科よりも情報工学関係の分野での研究が多くなっていると思われる理由のひと
つであろうか。
さ ら に , emergency も こ の 課 の み 1 回 登 場 す る 語 で あ る が , 現 代 社 会 の 中 で 重 要 語 と 考 え
る べ き 語 で は な か ろ う か 。 Brigham Young University の View(http://view.byu.edu/)で 共 起 語
を 検 索 す る と 別 表( 補 助 資 料 9 )の と お り で あ る 。高 校 1 年 生 の レ ベ ル を 考 え emergency food
や emergency call な ど と と も 指 導 し て お き た い (対 象 生 徒 の レ ベ ル に よ っ て は aid と と も に 指
導しておいても可能であろう。習得しやすさという点から教科書以外の語も指導してもよい
と 考 え る )。 補 助 資 料 9 の 有 用 な 一 部 を 課 題 と し て 提 示 し , 生 徒 に 調 べ さ せ る の も 一 法 で あ
る。各自の興味関心の違いによって印象に残るものは異なるが,この語の印象度は強くなろ
う。
この課の終了後に,学習した語(や表現)の復習としての指導計画も用意しておきたい。
復習問題だけでなく,学習したものから類推できる例(他の共起語を挙げての提示)も工夫
で き る 。特 に 指 導 は し な く と も ,状 況 説 明 の 中 で emergency exit を 問 う こ と も 可 能 で あ ろ う 。
Exit が 初 対 面 で あ っ て も 類 推 可 能 な 場 面 ( 状 況 説 明 ・ 絵 ) の 設 定 も 工 夫 で き よ う 。 常 に 既
習・既知のものを問うだけでなく,類推して答を見つけるトレーニングも大事である。
忘 却 曲 線 の 理 論 で 有 名 な エ ビ ン グ ハ ウ ス (Ebbinghaus) が 繰 り 返 し (repetition) が 重 要 で あ
る (the remedy for forgetting)と も 主 張 し て い た こ と は 意 外 に 知 ら れ て い な い 。
(3)各授業の指導案の立案
語彙の指導において,新出語,重要表現に力点を置いての指導が当然,必要である。教員
は , ほ と ん ど の 場 合 , 各 授 業 内 で ( 特 に 始 め の 方 の 時 間 で ), 単 語 ( 特 に 新 出 語 ) の 指 導 を
す る と い う Teaching Plan を 立 て て , 実 践 し て い る 。 し か し , 発 音 や 意 味 , あ る い は 派 生 語
等に一通り触れるだけであり,生徒が「習得」しやすい形,あるいはすぐに「使える」形で
の配慮は不足していたのではないかと考えるのである。一方,文法指導については実に手厚
い。今後この語彙の面の指導に関しての手厚い配慮も求められるところであり,それを強調
し た い 。「 使 え る 」 形 を 考 え て , で き る だ け Chunks と し て 提 示 し , 生 徒 が 機 会 あ る と き に
その表現の使用を期待しての指導が望ましいと考えるのである。
高 校 の 教 科 書 で 新 出 語 と さ れ る の は , 中 学 校 と 比 べ る と は る か に 数 が 多 い 。 PRO-VISION
Ⅰ ( 桐 原 書 店 ) の 場 合 Lesson 1 の Section 1 だ け で 9 語 も あ る 。 こ れ に 課 の 導 入 部 の 3 語 を
加 え る と , 12 語 に も な る 。 普 通 , こ れ が 授 業 1 コ マ (45 分 ~ 50 分 ) の 内 容 で あ ろ う が , 授
業 1 時 間 で , 新 語 9 ~ 12 語 は 入 学 し た ば か り の 生 徒 に と っ て は , 処 理 は 実 に た い へ ん で あ
ろうと推測される。
次 が そ の 12 語 で あ る 。
courageous, courage, solve, operation, stomach, instrument, material, sponge, remove,
object, patient, explain
さらに,新出語として扱われていなくとも,生徒の学習・習得状況を判断すれば,同程度
- 12 -
に近い比重を置いての指導が必要になる語も英文の中に何語も出現する。
face(v.), nurse, attend, job, leave, inside, lift, floor, foot
重要表現も出てくる。
be afraid of, make mistakes, make sure, take out, do fine
やはり,中学校での学習状況(必修語・教科書)をも十分考慮しての指導計画が必要であ
ろ う と 思 わ れ る 。こ の よ う な 使 い 方 の fine は 当 然 学 ん で こ な か っ た で あ ろ う 。ま た ,"take out"
も,本来の意味を意外にも知らないのではないかと思われる。
これらの重要表現は「熟語」あるいは「文法事項」のひとつとして,これまでも指導は必
ず あ っ た と 思 う の だ が , 生 徒 を 考 え ,「 覚 え や す い 」,「 使 い や す い 」 形 で 指 導 が な さ れ て き
たかは問題がある。教員の工夫が望まれるところである。
指 導 例 の 一 つ と し て は "Dont be afraid of making mistakes./ Be courageous. Be brave./
Face the problem with courage."の 形 が 考 え ら れ る 。
スラッシュで3つの部分に分けるのだが,意味はひとまとまりになろう。ここで次の7つ
の学習をする。
① Be で 始 め る 命 令 形 , ② そ の 否 定 命 令 , ③ be afraid of
...ing の 形 , ④ make mistakes
の 表 現 ,⑤ ほ ぼ 同 意 語 courageous と brave の 習 得 ,⑥ 表 現 with courage の 習 得 。⑦ 動 詞 face。
こうしたチャンクが,まとまった意味内容を表し,語及び語句の意味の関連が十分になさ
れ て い れ ば , 覚 え や す い 形 に な っ て い る の で は な か ろ う か 。 形 容 詞 "brave"は こ の 課 の 次 の
Section で 新 語 と し て 出 現 す る 。 こ こ で ま と め て 学 習 し て も よ い 。
ま た 教 科 書 の 本 文 で 使 わ れ て い る も の は で き る だ け そ の 形 で 利 用 す る 。 chunk の 意 味 内 容
も教科書のテーマに合わせられるものはその形を利用する。
指 導 例 を 【 補 助 資 料 10】 に 挙 げ て み た い 。
Ⅵ
研究のまとめと今後の課題
新しい理論が次々に生まれている。学校現場で活用できるものはできるだけ取り入れていく姿勢は
大切である。しかし,新しいものがすべて良いものであるとは限らないわけで,むやみに新奇なもの
を追い求めることは避けなければならない。じっくりと研究し,取捨選択をした上で,良いと思われ
る新しい考えを取り入れようとする際には,指導する生徒の状況やその環境等,多面的に判断しなが
ら活用方法等に工夫を加える慎重さが求められる。
指導力向上に向けて努力しているのだが,毎日の学習指導・生徒指導等に忙しく,研究・研修のた
めの時間を十分とれず,新しい理論に触れる機会がなかなかとれない教員が多いのではないかと推測
する。もちろん,
「英語教育」等の雑誌や研究会などから,あるいは書物から情報を仕入れるのだが,
教壇での活用に生かすという点で十分な情報を得るのは難しいのが現状であろう。
そこで,役立つ新しい理論を紹介し,その学校現場での活用法を提案するのも私の役目であろうと
考えた。今回は,コーパス言語学を応用し,コンピュータを活用してその分析結果のもとに体系的な
語彙指導の在り方を提案するとともに,Lexical Approach の理論から,chunks の形で習得していく
語彙学習を提案した。当初の予定では,Mental Lexicon の考え方を応用する指導を考察することま
で考えていたのだが,コーパス言語学が予想以上に発展しており,それを追うのに時間がかかった上
に,さらに Lexical Approach も予定以上の時間がかかり,Mental Lexicon まで十分追えなかったの
- 13 -
が残念である。この論も教壇での活用が期待できる論であると思われる。今後の研究になると思うの
だが,興味ある方は各自で研究してほしいとも願っている。実に興味深い論である。
ここでは学校現場での活用を提案しているのであるが,授業1コマの中での数分から 10 分程度の
内容であり,それぞれの教科書の内容に応じて plan を立てることが望まれる。また,教科書以外の
語彙の指導に関しても配慮が求められる。何より体系的な指導が求められるところである。
指導計画をまとめると次のようになろうか。
(1) 年度初めに教科書の内容を分析,語彙リストから,語彙指導に関して年間指導計画を考察する。
(2) 各単元(課)ごとに分析,具体的な語彙指導案を作成,繰り返し学習(小テスト等)のプラン
を立てる。重要語に力点を置いた指導の強弱を工夫する。
(3) 各授業の指導案を立てる。生徒が覚えやすい形での教材提示を工夫する。コーパス分析を利用
しての「ひとまとまり」の形での提示を考える。
(4) 教科書を補足するために単語集等の補助教材を利用する場合,まず生徒の実態を踏まえた慎重
な選択が必要になる。当然ながら,生徒の過度な負担は避けなければならない。
(5) この教材に関しても体系的な指導計画が求められる。「重要性」「緊急性」に応じて取捨選択も
必要である。時に教員に「捨てる」勇気が求められるところでもある。
(6) 補助教材の内容に関しては,教科書とできるだけ関連させるだけでなく,定期的に指導するよ
うに指導計画を作る。単にテストだけの形は避けるようにする。
実際の学校現場での実践とその結果の考察に関しては今後の課題となろう。
Ⅶ
References
Nation, P.(2001) Learning Vocabulary in Another Langugage. Cambridge University Press
門田修平編(2003)
池村大一郎,中西義子,野呂忠司,島本たい子&横川博一
『英語のメンタルレキシコン』
齊藤
俊雄,中村
純作&赤野
一郎(1998)
著
松柏社
『英語コーパス言語学
ー
基礎と実践』
研究社
Stubbs, M. (2006)
鷹家秀史,須賀
高梨
(南出康世・石川慎一郎訳)『コーパス語彙意味論
廣(1998) 『実践コーパス言語学』
康雄,卯城祐司(2000)
ー語から句へ』
研究社
桐原書店
『英語リーディング事典』
研究社
(他は補助資料 11)
平成18年度
執筆者
- 14 -
山梨県総合教育センター
主幹・研修主事
遠 藤
力