雑誌「真夜中」 - Dai FUJIKURA

9/6
(*7)さ ん の 大 フ ァ ン だ
9/7
年代に書かれた作品
最 初 聞 い た と き は、
「ド ビ ュ ッ シ ー じ ゃ ん!」っ て 思
――武満徹さんの音楽から、どのような影響を受けま
したか。
Q2 ったので、
CDなどを貸していただきました。
た と こ ろ、そ の 先 生 は 武 満 徹
がたまたま英語の先生で、留学に向けて習いに行ってい
時代をこえ、演奏者が作曲家とつながる一番大きな手がかりは「楽譜」
。
楽譜は音楽における「言葉」のようなもの? いまや世界中で彼の作品が演奏されている ――
ロンドン在住の作曲家・藤倉大氏との「現代音楽」と「楽譜」をめぐるQ&A
Q1
――現代音楽の楽譜は、一般的になじみが薄いもので
すが、藤倉さんが 、 初 め て 現 代 音 楽 の 楽 譜 に ふ れ た と き
のことを、おしえ て く だ さ い 。
その前にもっと 基 本 的 な こ と を お 話 し す る と 、 現 代 音
楽ってどこから現 代 音 楽 な ん で し ょ う か ?
(*1)
、
「今日」からさか の ぼ っ て み ま し ょ う か 。 例 え ば 今 生 き
ている作曲家で重要な作曲家であるブーレーズ
いました(笑)
るなあ、と夢中になっていたものです。
群は、構成も音作りも素晴らしくオリジナルなものがあ
でももちろん深く聞くと、特に
うでしょうか? ラ ヴ ェ ル は シ ェ ー ン ベ ル ク の 『 月 に 憑
僕が学生の頃はとても影響を受けていたと思います、
(*2)は ど
彼は現代音楽の作 曲 家 に 間 違 い な い で す よ ね 。 で は 、 彼
かれたピエロ』(*3)の影響下で『マラルメの三つの詩』
作品を書いていた頃、2006年だったでしょうか、作
後 ま で「ピ ア ノ(弱 音)
」で 演 奏 さ れ ま す。あ と、こ の
も好きでした。というのもあり、この作品は最初から最
もちろん僕も他 の ジ ャ ン ル の 音 楽 ( ポ ッ プ ス と か ) を
ではないと思いま す 。
よって初演されたときに、偶然 I.C.E.
の奏者がロンドン
にいて、コンサートに来てくれ、クラリネット奏者のジ
「 returning
」が
もちろん初演時の演奏は小川典子さんでした。
ギリスのフィルハーモニアと名古屋フィルの共同委嘱で、
すれば生活ももっ と 豊 か だ っ た だ ろ う し 、 も っ と 人 気 が
ョシュ・ルービンがとっても気に入って是非アメリカで
(*1)ピエール・ブーレーズ Pierre Boulez
( 1925–
)
フランスの作曲家、指揮者。パリ音楽院でメシアンに学び、 音技
法の 主唱者 レイボヴィ ッツに師事。指 揮活動 では BBC
交響楽団の首
席指揮者や、ニューヨーク・フィルの音楽監督を歴任。フランス国
立音響音楽研究所 IRCAM
の創立者で初代所長、 年まで務めた。近
年はシカゴ交響楽団やベルリン・フィル、ウィーン・フィルの定期
演奏会などで活躍。代表作に『ル・マルトー・サン・メートル』
『プリ・
スロン・プリ』『レポン』
『ノタシオン』など。
91
(*3)『月に憑かれたピエロ』 "Pierrot lunaire"
( 1912
)
オーストリアの作曲家で、調性を脱し無調音楽に到達、 音技法と
呼 ば れ る 作 曲 法 を 発 案 し た シ ェ ー ン ベ ル ク Arnold Schönberg
( 1874–1951
)の、ベルギーの象徴派詩人ジローの詩をテキストに用
いた無調時代の傑作。
(*2)ラヴェル Joseph-Maurice Ravel
( 1875–1937
)
フランスの作曲家。代表作に『亡き王女のためのパヴァーヌ』『鏡』『夜
のガスパール』
『ボレロ』など。精密さ、細かさ、完璧な構図を称え、
ストラヴィンスキーはラヴェルを「スイスの時計職人」になぞらえ
た。
12
が 生 ま れ た と き に 生 き て い た 人、ラヴェ ル
という曲を書いたそうです(ちなみにブーレーズもこの
いると思います。でも僕としてはワザと武満さんを彷彿
今はどうでしょうか、いろいろな影響が混ざって書いて
(*4)
とさせるものは書かないようにしています。例えばタイ
ラヴェルと同じ 時 代 に 生 き て い た ド ビ ュ ッ シ ー
トルに夢、雨、などを使うのは避けています(笑)やは
二人に大きく影響を受けている)
。
(彼に大きく影響を受けたというポップアーティストは、
りどうしてもヨーロッパで活動する日本人作曲家として
Q3
見られたときに、武満さんの存在は無視できないですし。
(*5)の 音 楽 の 影 響、ワ ー グ ナ ー は 憧 れ
(*6)の 家 の 前 に 宿 を と っ て 一 種 の
例えば坂本龍一さん)、ドビュッシーが逃れられなかっ
たワーグナー
の ベ ー ト ーヴェ ン
追っかけをしていた ……
。と な る と「今」か ら ベ ー ト ー
ヴェ ン ま で、ま っ た く 途 切 れ が あ り ま せ ん よ ね 、 人 間 的
――人間も音楽も、脈々と続いている、その流れのな
かで、藤倉さんご自身はこの「現代音楽」という言葉を、
に も 音 楽 的 に も。「現 代 音 楽 だ け は 苦 手」と い う 人 は、
どこからを「現代 音 楽 」 と 言 っ て い る の で し ょ う か ?
どのように覚悟しながら作曲されているのでしょうか。
「 returning
」は、ピ ア ニ ス ト の 小 川 典 子 さ ん 個 人 に 委
嘱された作品です。この作品が数年後に書くことになる
今シカゴへ向かう機内です。
僕 が 最 初 に 現 代 音 楽 、 そ し て そ の 楽 譜 に ふ れ た の は 、
中学生のときです 。 家 の マ ン シ ョ ン の 下 に 住 ん で い た 方
一つは、全ての音楽はその時の現代音楽だった ……
と
いうことですね。 で す か ら 今 「 古 典 」 と 言 わ れ る も の も
当時は現代音楽だ っ た わ け で 。 ち ょ う ど 、 指 揮 者 の 金 聖
響さんとベートー ヴ ェ ン の 『 運 命 』 の 話 を し て い て い た
んです。この曲の 第 一 回 目 の 譜 読 み の リ ハ ー サ ル は ど う
ピアノコンチェルト「 Ampere
」の〝種〟になれば、とい
うことで委嘱していただきました。僕は大学生の頃から
そして、いつも 現 代 音 楽 で 発 表 さ れ て き た 手 法 が 、 数
曲の根本的なシステムを作り上げられないものかと、考
小川典子さんの大ファンで、特に彼女の弱音の音がとて
十年後にポップス や ら 他 の も っ と ポ ピ ュ ラ ー な 音 楽 の ジ
えていました。数ヶ月の書き直しの結果、あるシステム
だったんだろうか ……
特に、合わせるのが難しいと言わ
れる最初の部分と か 。 た ぶ ん オ ー ケ ス ト ラ も 困 惑 だ っ た
ャンルに伝わって い く 、 と い う こ と で す 。 今 の エ レ ク ト
だろうと思います 。
年代に作曲されたシュ
を使い始めました、それは柔軟なもので、今でもいろん
、
な形で他の作品を書くのに使われています。この、ある
ロニカ音楽を聞い た あ と 、
(*8)の電子音楽を聞いても、シュトッ
トックハウゼン
クハウゼンの音楽 の 新 し さ が わ か る し 、 今 の ア ヴ ァ ン ギ
)の影響が大きく現れています。
ルトの方はかなりダイナミックな作品となりました。イ
部屋の家具、のようなピアノ曲と違い、ピアノコンチェ
(*
ャルドのジャズの 世 界 で も 、 ジ ョ ン ・ ケ ー ジ
ェルドマン
あって、今よりた く さ ん の 人 が 僕 の 書 く 作 品 を 好 き っ て
いつも「最初」 は 現 代 音 楽 な の で す 、 と 言 っ て も 過 言
言ってくれていた と 思 い ま す 。 で す が 、 僕 と し て は 、 人
初演を、ということで今回演奏されることになりました。
僕は、彼ら I.C.E.
を2003年から知っていて、その
頃は、メンバーがいろいろな都市から集まり、リハーサ
で小川さんに
City of London Festival
生をかけてやるん だ っ た ら や っ ぱ り 一 番 チ ャ レ ン ジ ン グ
な現代音楽をやり た い の で す 。 い く ら 今 は 誰 の 興 味 を ひ
ル期間は「誰か知り合いのアパートの床で寝る」という
かなくても、もし か す る と 五 十 年 後 、 百 年 後 、 何 か に 影
響を与えることが で き る か も し れ な い 。 こ れ は 芸 術 / 文
シカゴで、リハーサルスペースもあり、
CDがどんどん
しい! それから七年、今やオフィスはニューヨークと
でも何が凄いって新しい音楽への興味と気合いが素晴ら
にはシカゴ交響楽団のメンバーでもある演奏家がいます。
演奏家一人一人は若いのにずば抜けて素晴らしく、中
ました。
の新しい音楽をしたい! という気合いのみでやってい
状況、それでもアメリカでなかなか聞けないヨーロッパ
学でしかできない こ と で す よ ね 、 ス ポ ー ツ と か で は 次 の
9/9
世代の文化を influence
することはできないですし。
明日シカゴへ飛 び ま す 。
Q4
)
ピエール・ブーレーズ氏と
© Jean Radel
tue
(*9)
、フ
70
(*7)武満徹( 1930-1996
)
東京生まれ。幼少時代を満洲の大連で過ごす。戦時中に聞いたシャ
ンソン『聴かせてよ、愛のことばを』で音楽に開眼。独学で音楽を
学 ん だ。 1950
年、処 女 作 は ピ ア ノ 曲『2 つ の レ ン ト』
。 1957
年、結
核の病床で書いた『弦楽のためのレクイエム』がストラヴィンスキ
ーに絶賛され、名を世界に知らしめた。 1967
年、ニューヨーク・フ
ィルハーモニー交響楽団の創立 周年記念作品をバーンスタインよ
り委嘱。琵琶と尺八、オーケストラとによる協奏的作品『ノヴェン
バー・ステップス』を発表。
(*6)ベートーヴェン Ludwig van Beethoven
( 1770–1827
)
ドイツの作曲家。古典派音楽の大成者。またソナタ形式で数多くの
傑 作 を 残 し た。代 表 作 に ピ ア ノ ソ ナ タ『悲 愴』
『月 光』
『熱 情』
、交
響曲『運命』
『第九』など。
(*5)ワーグナー Wilhelm Richard Wagner
( 1813–1883
)
ド イ ツ の 作 曲 家。
「歌 劇 王」と 呼 ば れ る。代 表 作 に『さ ま よ え る オ
ラ ン ダ 人』
『タ ン ホ イ ザ ー』『ト リ ス タ ン と イ ゾ ル デ』
『ニ ー ベ ル ン
グの指輪』など。
(*4)ドビュッシー Claude Achille Debussy
( 1862–1918
)
フランスの作曲家。代表作に「月の光」
、マラルメの詩に基づいた『牧
神の午後への前奏曲』や、
『海』
『子供の領分』など。
12
(*8)カールハインツ・シュトックハウゼン ( 1928-2007
)
Karlheinz Stockhausen
ドイツの作曲家。 1952
年、パリに渡りメシアンに師事する。その後、
ジョン・ケージとの出会いから不確定性や空間的要素を取り入れた
作風へと移行、生演奏に音響処理を施す「ライヴ・エレクトロニクス」
の手法なども採用した。ビートルズのアルバムジャケットに登場し
たこともあり、マイルス・デイヴィス、ビョークなどが影響を受け
たと語る。代表作に『コンタクテ』『グルッペン』『光』など。
(*9)ジョン・ケージ John Cage
( 1912–1992
)
アメリカの作曲家。 1940
年にグランドピアノの弦にゴム・木片・ボ
ルトなどの異物を挟んで音色を打楽器的なものに変化させたプリペ
ア ド・ピ ア ノ を 発 明。 1951
年 に 採 用 し た、作 曲 の 過 程 に「偶 然 性」
が関与する手法「チャンス・オペレーション」でその後の音楽に影
響を及ぼした。代表作に『想像上の風景』シリーズ、
『4分 秒』
『プ
リペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード』など。
(* )モートン・フェルドマン Morton Feldman
( 1926–1987
)
アメリカの作曲家。図形楽譜の創始者であり、後年は演奏時間の長
い 静 謐な作品が 多い。『ザ・ヴィオラ・イン マイラ イフ』
『トライ ア
ディック・メモリーズ』『フォア・サミュエル・ベケット』
33
60
ふじくら・だい 1977年、大阪生まれ。作曲家。ロンドン在住。5歳
でピアノを始め、15歳で英国に留学。受賞多数。シカゴ交響楽団、
BBC交響楽団など世界各地のオーケストラやアンサンブルから作曲を
委嘱。また最近はポップミュージックも手がけ、デヴィッド・シル
ヴィアンとのコラボレーション最新作は『sleep walkers』収録の
「Five Lines」。坂本龍一氏との新作も控えている。
www.daifujikura.com
( * ) September 11 s t 2010, the Museum of Contemporary Art,
Chicago, USA "ice" for ensemble "returning" for piano (US premiere)
performed by I.C.E. Conducted by Jayce Ogren
(* ) September 18th 2010, Black Diamond, Copenhagen, Denmark
"Fifth Station" for ensemble (Danish Premiere) "time unlocked" for 6
players (Danish Premiere) performed by Athelas Sinfonietta
Copenhagen Conducted by Pierre-André Valade
すべての音楽は、そのとき、現代音楽だった
125
70
mon
thu
10
11
12
10
」と「 returning
」
――今週末シカゴで演奏される「 ice
について、書いたきっかけやコンセプトをおしえてくだ
さい。(*
11
© Copyright 2005 G. Ricordi & Co. (London) Ltd,
reproduced by kind permission of the publisher
れていて、今回「 ice
」は初めてこの団体全員に書いた
作品です。作曲家である僕が次にどの音を書くのか早く
見たいし興味がある! という演奏家達に囲まれて音楽
出ている。ニューヨーク・フィルハーモニックとの共演や、
ピアニストのピエール ロ=ラン・エマール、ジャズ界の
鬼才ジョン・ゾー ン 、 僕 も 仕 事 を 一 緒 に さ せ て も ら っ て
を作るというのは本当に素晴らしいことです。
についてのお話にもありましたが、作曲家
―― I.C.E.
と演奏家のコミュニケーションのツールとして、楽譜は
9/
どのような役割を果たすのでしょうか。
Q5 いるポップアーテ ィ ス ト 、 デ ヴ ィ ッ ド ・ シ ル ヴ ィ ア ン と
のコラボなど、す ご い 勢 い で 成 長 し て い る 団 体 で す 。
今でも彼らのリ ハ ー サ ル へ の 意 気 込 み は 強 く 、 ほ ぼ 時
間 制 限 な し の リ ハ ー サ ル、
「で き る ま で や る」と い う の
る=しっかり弾か な い と か っ こ 悪 い 」 と い う 他 に み な い
と「全員がスコア を 勉 強 し て い て 他 の パ ー ト を 知 っ て い
団体だと思います 。 僕 の 作 品 は も う 何 十 曲 と 演 奏 し て く
作品群から撤去)
。
ルに散らばっているという作品でした(その作品は後年
作品が演奏されたときのオケ作も、いろんな楽器がホー
空間配置にとても興味をもっていて、日本で最初に僕の
「 Fifth Station
」は ま だ 学 生 の と き に 書 い た 作 品 で、
ロンドン・シンフォニエッタの委嘱でした。その頃僕は
)
おしえてください。 (*
9/
いと思います。もちろん演奏家の interpretation
もあり
ますから、いろん な 弾 き 方 が あ っ て も 良 い わ け で す が 。
Q6 今 週 末 コ ペ ン ハ ー ゲ ン で 演 奏 さ れ る「 Fifth
――
」と「 time unlocked
」に つ い て、書 か れ る き っ
Station
かけや、どういうことを表現しようと考えていたかなど、
「 Fifth Station
」で は 好 き な こ と を 試 し て も 良 い と い
うことでしたので、 人の演奏家をチェロとトランペッ
ト、指揮者を除いて観客を囲むように配置し、指揮者は
観客へ向いて指揮する、というアイデアで書きました。
これを生で聞いた友人が言うには、ヘッドフォンで音楽
(*
)
を聞いているみたいだと言ってました。一番再演される
ことの多い作品かと思います。
後にブーレーズ指揮、アンテルコンタンポラン
でフランス初演されたときには、ブーレーズの指揮のジ
ェスチャーに、客の頭の上を通じて客席の後ろにいる演
奏家が反応するのは、作品の良し悪しとは無関係に面白
い経験でした、彼のジェスチャーはすごく小さく、無駄
な動きがなく、ときには指がちょっと動くだけで、かな
り離れた演奏家たちが一斉にパシッと同時に弾くのです
から(このときのコンサートでモニターは使われなかっ
たので、ホールの後ろに陣取っていた演奏家たちは指揮
者が見えにくかったと思います、それなのに合ってしま
う)、よくある身振りの大袈裟な指揮者って一体なにを
©copyright by G. Ricordi & Co., Bühnen- und Musikverlag, München
「Fifth Station」空間配置のスケッチ。
(*
)アンサンブル・アンテルコンタンポラン 」は ア ン テ ル コ ン タ ン ポ ラ ン 周 年 の
「
time
unlocked
為に書いた作品です。
オーボエ、クラリネット、バスーン、
体 ?
…)と考えさせられたコンサートでした。
だけは守って欲しい」というのは伝えられないといけな
分かりません。ですので、書法というのは「最低限これ
できるだけ、 Skype
やらを使っ て、リハしたい っていう
演奏家とはしますが、全部が全部どう演奏されているか
僕の作品は世界のいろんな所で演奏されているので、
たくさんの演奏家と仕事をしてそういうのも学びます。
よく言われていました。本当にたくさん習いましたし、
と。同じ結果で違う書き方をしろ、という意味です)と
適当にごまかすな!」
(だからそういう書き方をするな、
雑 性 を 持 つ 書 き 方 を す る と、
「こ こ は 僕 が 奏 者 だ っ た ら
ンジャミン、二人とも指揮者でもあるので、無意味な複
けない俺って ……
と思わせる、みたいな(笑)
僕の師匠達、ペーター・エトヴェシュ、ジョージ・ベ
ちゃ難しい、でもそこまで複雑そうに見えない楽譜が弾
いけど、いざ弾いてみて、テンポを見てみるとめちゃく
か、ぱっと見た楽譜の感じは、そこまで複雑そうじゃな
曲なのに演奏家が間違ったら即わかりそうで怖い! と
います。よく僕の場合言われるのは、みんなが知らない
家になるたけ練習してもらう書き方というのも実験して
僕の作品は技巧的に難しいものも多いのですが、演奏
って思わせる書き方というのがあるかもしれません。
て「ああ、作曲家はこういう感じで弾いて欲しいんだな」
よりもっと抽象的でもありえる楽譜です、書き方によっ
ん、知らない間に相手を怒らせてしまった、とか。文章
それは文章やメールでもみなさん経験あるかもしれませ
ですが、人によって解釈の仕方はそれぞれですよね、
ですので、楽譜はそれをリアライズするための
sound?
ツールだと思っています。
が、僕 の 場 合 は 一 番 の 目 的 は「結 果」
、 How does it
とっても良い質問ですね。人それぞれ、だと思います
Ensemble Inter Contemporain
年、ブーレーズにより創設。パリのポンピドゥー・センター管
1976
轄の音響音楽研究所 IRCAM
(イルカム)に所属する、現代音楽に特
化したオーケストラ。
13
ピアノ、
ヴァイオリン、
ヴィオラという編成です。このア
ンサンブルを一つの大きなピアノと考え、
ヴィオリンと
ヴィオラはギターピックで弦を弾きピアノの鍵盤の延長、
木管群はピアノのペダル(残響)の延長という感じでし
ょうか。
両方の作品も、変わった編成と空間配置で、演奏され
そうな可能性を低くする要素満載(笑)なのに、案外再
演される曲です。
Q7
「 SAKANA
」も そ う で し た が、
「 Fifth Station
」の よ
――
うに、観客のなかに演奏者がいる設定は、藤倉さんにと
ってどういう意味を持つのですか?
9/
どうして音は前からしか聞こえなくてはならないのか、
というのが逆に僕の疑問でもあります。
Q8
以前「情熱大陸」で、藤倉さんが、手書きで書いた
――
ものをデータ化する作業を通じて、その作曲を客観的に
見ることができるとおっしゃっていましたが、もうすこ
しくわしく教えてください。
手書きだとどうしても自分の目には、オリジナルなこ
とをしているっていう妄想にかられそうな気がして ……
。
ですので、コンピュータで清書したものを見ながら書き
進めて行く方が、前に見たことがあるような楽譜の部分
など、見つけやすい気がします、もちろんそういうとこ
ろは消去して書き直しなのですが。
すべての音楽は、そのとき、現代音楽だった
10
fri
13
30
12
やっているんだろう?(それに騙されている観客って一
25
sat
10
18
sat
Q9
「美 し い 言 葉 」 が あ る よ う に 、
「美 し い 楽 譜」も あ
――
る よ う な 気 が し ま す。藤 倉 さ ん に と っ て、
「美 し い 楽 譜」
いうこともよくあります。
いうことで、その後に「でもお前、忘れるなよ、お前は
作 曲 家 な ん だ、キ チ ン と し た 格 好 な ん か し て 行 く な
よ!」
。今でも忘れられません。作曲家は基本的に自由
業なのです。自由業は大変難しい生き方だと思いますが、
藤倉さんが敬愛する音楽家の言葉で印象に残ってい
――
るもの、記憶に残っているものがありましたらおしえて
ことですね(笑)
だからサラリーマンみたいな格好をするな! っていう
Q
る よ う に、
「挑 発 的 な 楽 譜 」 も あ る よ う な 気 が し ま す 。
ください。
ネクタイをしめないで生きていくことができますよね。
藤 倉 さ ん に と っ て、
「挑 発 的 な 楽 譜」と は ど ん な 楽 譜 で
から連絡があり、僕とミーティングしたいって言われて、
じゃないといけない」
。と、
Q
は行かないです。
ちなみに僕は正装が大嫌いで、それもあって結婚式に
うーん、それは 違 う と 思 い ま す 。 美 し い 言 葉 、 挑 発 的
その前の日に僕の作曲の先生であったダリル・ランズウ
すか?
な言葉に適するの は 、 美 し い 音 楽 、 挑 発 的 な 音 楽 、 で あ
ィック氏に言われたこと。ミーティングの準備とかそう
歳のときに大手の出版社
っ て、楽 譜 は 単 な る 表 現 を 伝 達 す る 手 段 だ と 思 い ま す 。
20
ジョージ・ベンジャミンの「音楽の全てにおいて完璧
と は ど ん な 楽 譜 で す か? ま た、
「挑 発 的 な 言 葉」が あ
サックス奏者・大石将紀氏からの委嘱作品。
「この作品で、僕は初めて微分音をたくさん使いました。全ての微分音は気に入った
サキソフォンの重音(マルティフォニックス)を転調などしながら出してきたもの
です。弦で微分音を弾くと「え? この人ひょっとして下手?」っと聞こえてしま
うのですが(通常の12音階で耳が慣れている僕らにとっては、音が狂っているよう
に感じてしまう)、サキソフォンは一つ一つの微分音を指で押さえる事ができるので、
これはいい機会! と思い挑戦してみました。あまりの多さにどの音が微分音でどの
音が半音なのか分からない感じかなと思います。
曲全体は、海の底の暗い所でちらちらと動く魚のような感じです。タイトルはもう、
ずばりSAKANAにしてしまいました。
ゆっくり、ゆったりとした作品を書くつもりだったのが、出来上がればすごい速い
曲になってしまったのですが、実はそこまで曲の速度は速くないのです。ハーモニ
ーの動きはとてもゆったりしていて、トリルをリズム化した感じなので、奏者にと
っては超高速ですが(「ゆっくりした曲って全然速いじゃないですかー」とこの作品
の初演者の大石さん。その通りなんですけど…)、ゆっくりとも聞ける…かな? と
思います。」(プログラムノートより)
© Copyright 2008 G. Ricordi & Co. (London) Ltd,
reproduced by kind permission of the publisher
それは、自分の嫌いなものが無い世界ということじゃ
としたらどのようなものですか。
され続けているのだと思いますが、いま「言葉」にする
した。その「パラダイス」のイメージを作曲を通じ追求
ダイスを作れるから、とおっしゃっていたのが印象的で
できないけれど、音楽の世界では自分の思いのままパラ
藤倉さんがインタビューで、自分の音楽の世界では、
――
偶然性に頼りたくない、なぜなら、人生はコントロール
11
ないでしょうか。
©copyright by G. Ricordi & Co.,
Bühnen- und Musikverlag, München
『Mirrors』のイメージスケッチ
10
譜面だけ美しくて も 鳴 っ て い る 音 楽 が し ょ う も な い 、 と
「名門・シカゴ交響楽団からの委嘱。
『Mirrors』の冒頭では、ピチカートの音と、ピチカートの音の逆回しの
ようなアルコ(弓で弾く音)の持続音とが交互にあらわれるのを、シンプルかつ明確に聞くことができるでし
ょう。こうした逆回しのような音の効果は鏡のようですが、動作だけでなく和声もやはり鏡のようになってい
ます。それがこの曲のタイトルの由縁です。しばしばこの鏡は歪められますが、そのとき音の素材は、催事場
のミラー・ハウスに入ったかのような様態になります。このような〈鏡〉というコンセプトは、曲全体に水平的・
垂直的に行き渡っています。
」
(プログラムノートより)