『社員区分の見直しによる非正社員の活用』

第 10 期人材マネジメント研究会[第 4 回]
ゲスト:橋本
圭司
氏(株式会社ロフト
平成 21 年 9 月 17 日
人事部部長)
『社員区分の見直しによる非正社員の活用』
Ⅰ.イントロダクション
●コーディネーター
平野光俊教授より
はじめに
今回の第 4 回目は、ロフトさんにお越しいただき、非正規労働のお話をしていただきま
す。特に、正規・非正規という単純なわけ方に帰結しない雇用区分についての詳細をロフ
トさんにお話していただこうと思っています。非正規問題は社会的にも大きな問題であり、
これからの社会でどのように扱っていくかということには皆さん興味があることだと思っ
ています。
今回お話していただけるロフトさんでは、すべてのパートタイマー社員を正社員へと転
換するという雇用保障を強める取り組みを行いました。しかし、正社員にすることで、コ
スト増、また雇用保障リスクが高まるという問題につながります。それを上回るメリット
があるからこそ、正社員にするという決定を行なったと思います。
ロフトのビジネススタイルやマーチャンダイジングなどを含めて、そのような決定をし
たプロセスから見ていき、じっくりと深い議論をしていきたいと思います。
Ⅱ.LOFTのケースについて
●ゲスト・スピーカー講話:
「ロフトの人事制度に関する取り組み」
株式会社ロフト
人事部長
橋本圭司氏
はじめに
今日は、ロフトのポジショニングから、私達がなぜこのような人事制度を取り入れたの
か、また人事制度の内容や制度の導入過程、そして導入の結果、社員のモチベーションが
どのように変化したか、などについてお話させていただきたいと思っています。未だロフ
トは売り上げ 1000 億も満たない企業でございます。そのような企業だからこそ導入できた
制度かもしれないと私たちは思っています。また、皆様方にご教授をいただきながら、私
達も勉強させていただければと思っています。
概要‐2(数字はスライド番号)
ロフトブランドは、1987 年に西武百貨店の一部門、渋谷で誕生しました。今年で 22 年
目です。関西では、1990 年にロフト梅田店オープン。オープン前、駅から離れているので、
お客様が呼べるのかが心配の種でありました。しかし、渋谷のときも渋谷のスクランブル
交差点がロフトの手提げで埋め尽くされるようになったように、梅田も茶屋町現象と呼ば
れるほど大ヒットしました。その現象は、阪急電車にも茶屋町口の出口を作ってもらった
ほど大きなものでした。ヒットした原因のうちの 1 つは、他の百貨店は白地がベースであ
るのに対して、ロフトは黄色に黒の手提げであったのが、若者の共感を得たのではないか
と私達は考えています。
概要‐3
ロフトの 09 年度、売上高は 790 億円でした。また、今後2、3 年で 1000 億、小売りベ
スト 100 を目指していきたいと考えています。分かりやすい比較としては、ロフトのライ
バル企業に上げられます東急ハンズでは、1000 億弱でございます。私達の間では男のハン
ズ、女のロフトと呼んでいます。また、ハンズはモノの館、何でもそろうといったイメー
ジに対し、ロフトは時の館、時代や流行にのった商品があるというイメージでございます。
ロフトのポジショニング‐4
ポジショニングと致しましては、2 つありまして、1 つは、今様の暮らしのスタイル、暮
らしの道具の提供でございます。したがって、今年度と 22 年前の品揃えは全く違います。
すなわち、時代や流行に沿った生活スタイルに合った提案をしていきます。直近であれば、
不況によるツモリ消費という現象がございました。よって、私たちの商品もツモリ消費に
あった品揃えに変えていました。
もう 1 つは、豊かで快適な都市の一人住まいの暮らしを提案することでございます。タ
ーゲットとしては、25 歳±5 歳の女性、都市生活者でございまして、常に、わくわく、ど
きどき、楽しさ、驚き、発見のある品揃えをし、時間が経つのを忘れてしまうような店舗
作りを目指しています。
営業プロフィール(ビジネスモデル)‐5
生活雑貨が 55 万種類ありますが、例えば、赤のボールペン、青のボールペンといったよ
うに色毎にも種類わけしております。年間約 3300 万人にお買い上げいただき、買い上げ率
は約30%でございます。つまり、約 1 億人の人数に来店していただいています。来店頻
度は月 3 回でリピーターのお客様が多くなっております。また、低単価でございまして、1
客あたり 2300 円、1 品単価 800 円でございます。そして、通常、百貨店は商品回転率が3
から4回転の中、私たちは 7 回転という高回転で営業しています。また、アソート型の多
店舗でロフトの商品は、オリジナル商品がなく海外国内からバイヤーが仕入れております。
また、セルフセレクションといって、自ら接客をしないのが特徴でございます。清掃や品
整理をやっている際にお客様から声があったとき応えるという形をとらせていただいてい
ます。
営業プロフィール(売場構成)‐6
売り場は、バラエティ雑貨、文具、健康雑貨、家庭用品、家具の 5 分類でございます。
各々にキャッチコピー的なものを作り、キーワードを用いながら、店舗作りをしています。
例えば、食事を楽しむといったキーワードでありましたら、テーブルウェアを用意すると
いった具合でございます。
営業プロフィール(店舗類型)‐7
4 種類の店舗形で営業をしています。今後は、300 坪タイプをメインとしていきたいと考
えています。また、新業態として、100 坪の駅中を中心としたミニロフトがございます。こ
れは、東京で 6 店舗ございまして、女性のシャンプーなどの健康雑貨と文房具の 2 種類を
メインに扱っております。
人事の“仕組み”(組織・人事体制の変遷)‐10,11
企業が発足した 1996 年から随時変更してきました。2007 年まで、社員区分が本社員、
契約社員、パートタイム社員とございまして、2002 年度の改訂までは本社員以外、つまり、
契約社員とパートタイム社員は 5 年有期で契約していました。しかし、5 年有期だと知識・
スキルを持った人が一気に抜け、店舗の大幅な戦略ダウンにつながるという問題がござい
ました。
よって、6 ヶ月契約の更新に変更したのですが、今回の人事制度を導入した背景と致しま
して、パートタイムの定着率が悪く、人が集まらないという問題がございました。定着率
については、どれほど悪かったかと申しますと、1700 人が入社して 1700 人が退職すると
いう具合でございました。これでは、何のための採用かといった問題がございましたので、
なぜやめるかを 1 年間ヒアリング行いました。その結果、
「正社員で働きたい」、
「時間給の
高いところで働きたい」、という理由が 7 割から 8 割を占めました。
さらに、人が集まらないので数千万円もの媒体費がかかり、その足りない分を人材派遣
で補っていましたので、コストが増える一方でありその体制で運営していくには限界があ
ると思っていました。
その結果、人事制度自体を変えたのですが、そのときに新聞で報道されたのが、スライ
ドの 11 です。全パートを正社員化と書いていますが、私達はその書き方に抵抗致しました。
なぜなら、正社員とパートタイム社員との区分をなくすのが目的であり、正社員、正規、
非正規といった呼び方をなくし、ロフト社員という呼び方で共通化したかったからです。
人事制度の基本的考え方①、②‐12,13
私たちは自ら仕入れ、自ら売り切ることを企業理念としています。初めて聞く方には、
それは当たり前ではないか、と思うかもしれませんが、私が百貨店に在職していたときは、
そういう考えとはかけ離れていました。具体的には、ヴィトンやシャネルといった売り場
は、百貨店の社員が仕事を行なっているのではなく、その企業の社員が仕事をしているの
です。
すなわち、フロアの場所貸しという形であり、それが中心になっていました。
そういった背景がございましたので、ロフトでは、「場所を貸す」ということではなく、
ロフトで働く社員が商品を仕入れて、商品を売り切るといったことを大切な理念としてし
います。そして、
「職務と責任と時間を契約する」、
「全社員思想」、
「65 才まで安心して働け
る雇用の保証」の 3 つを柱として、人事制度の改正に着手しました。
そのときに労働組合とも手を組んだプロジェクトを行ないまして、年齢ごとにどのよう
に働きたいかということをヒアリングしました。また、主婦、独身の女性といったわけ方
も行い、同じようにヒアリングを行ないました。その結果、人事理念と生産性の向上、す
なわち、仕事のやりがいと生産性のアップの 2 本を柱としてこのような人事制度を作りま
した。
人事制度の基本的考え方③‐14
正規・非正規をなくしたのは、現場の顧客から見たら、誰が主任で係長でパートでとい
った区分は関係がございません。それでは、なぜロフトは契約社員、パートタイム社員、
正社員という区分を作っているのか、という疑問から始まりました。そして、社会保険法
上、労働基準法上、職業安全法上を確認し、各省庁にも確認を行なったところ、法的な根
拠はなく、企業側の論理によって決められている、という結論に達しました。
したがって、ロフトで働くすべての人は同一労働、同一賃金であり、そういう区分をな
くそうというのが基本理念にあったので、正規・非正規という呼び名や社員区分に関して
は撤廃しようという考えに至りました。
人事の基本的考え方④‐15
以上より、55 万種類の商品のオペレーションを可能にするビジネスモデルの実践を行な
うことにしました。また、ロフト社員という呼び名にする際に、働く時間をどのように区
分するというのも議論いたしました。その結果、週 20 時間~40 時間の中で自ら働き方を選
択するという決定をしました。
また、就労ニーズについては、キャリアアップ、ワークライフバランス、短い期間だけ
働きたい、という人に分かれました。したがって、キャリアアップの人たちは、無期契約
を基本とし、一部有期契約(1 年・3 年)は個人で選択を可能にしました。これは、無期雇
用だけでなく、有期雇用で働きたいという人がいたからです。例えば、主婦の方で子供が
小学校のときは働き、子供が中学校のときは家庭に入りたいというニーズがありました。
時間に関しまして、1 つ問題として恐れていたことが、もしすべての人が時間を延長すると
したなら、人件費が大幅にアップするという問題がございました。例えば、今まで 5 時間
働いていたすべての人が、8 時間を希望するといった具合です。しかし、5 時間の人は 5 時
間のままで働きたいという人がほとんどでした。逆に、時間を延長する人は 1 割弱でした。
また、1 日 5 時間か 7 時間が基本なのですが、7 時間の人も 7 時間のままで働きたいという
人が 6 割から 7 割いて、8 時間に延長する人は 3 割から 4 割でした。
以上から、現場の人の働く時間はその人の生活スタイルに根ざしていると私たちは考え
ました。また、無期契約の範囲ですが、20 時間も 40 時間も同様に無期契約で保障いたしま
した。
ロフトの新社員体系‐16,17
人事を新体系にした際、賃金体系もチェンジしました。旧体系では、パートタイム社員
はアシスタント、ステップ1、ステップ 2 という区分に分け、時間給の 6 ヶ月契約でござ
いました。それを、グレードという等級に分け、8 段階のステップを設け、さらに時間給を
大幅に上げて変更いたしました。
従来の制度では、ステップ2まであがると何年働いても時間給は上がらず 950 円でした。
また、リーダーからは月例給になりまして、マネジメント層の職務になっていましたので、
マネジメントをしたくない人にはそれ以上は上がれない仕組みでございました。
しかし、新体系の制度では、グレードの 1-1 で 960 円と大きく時間給をアップしました。
そして、最大のグレード 3-4 で 1200 円にまで時間給を増やしました。そして、グレード
1-2 を高卒の初任給に、グレード2-2を短大卒の初任給に、グレード3-2を大卒の初
任給にしました。ステップアップの期間にもよりますが、大体 4 年で大卒と同じところま
でいくようにしました。高卒時間給が 1000 円なのですが、世間のフリーターは時間給が低
いのが特徴でございますが、ロフトは初任給が 16 万から 17 万もらえます。また、時間給
については日本全国を4つにわけて、高卒初任給、消費者物価指数、民間家賃をミックス
して、エリアごとに設定しています。
従来はパートタイム社員が契約社員になるときは、館長推薦を出し、その後面接を行な
い、晴れて正社員に上がるという手続きをとっていましたが、今回の制度から、リーダー
から上の職務である、主任、係長、店長、課長にもステップアップができるようになりま
した。
ただし、リーダーから上の職に上がってもらうには、32 時間以上 40 時間まで時間の制約
を設けました。しかし、フルタイムでないと、課長、部長になれないという仕組みではご
ざいません。その時間の制約を設ける際に、20 時間の本社のトップがいてもいいのではな
いかという声はありました。しかし、ロフトは年 4000 時間の営業時間があり、フルタイム
の週 40 時間で働いている人でも 2000 時間しか働いていません。よって、週 20 時間で働く
のでしたら、年 1000 時間しか働かないことになります。そういう人に課長職が務まるかと
いうことを検討した結果、非常に難しいという結果に落ち着きました。しかし、フルタイ
ムじゃないと上にいけないということには疑問の声がありましたので、32 時間から 40 時間
という時間制約を設けさせていただきました。実際に、週 35 時間の課長もいます。
制度改正の際に、従来働いていた人も働く時間を選択できるように致しました。
前々から、育児や介護のとき働く時間を短くする時短制度というものがございましたが、
育児をしている女性の係長にリスニングしたところ、子供がいるという理由から時短制度
をとっていると負い目を感じている人がいました。
したがって、自ら時間を選んでもらい、その際に理由は問わないように致しました。
ただ、32 時間ばかりの人がいる店舗が出来上がったらどうなるかという問題があります。
時間に直すと、40 分の 32 のオペレーションになりますので、残った 5 分の 1 のオペレー
ションはどうなるかということです。現在のところ、店舗で数人しかいませんのでうまく
いっておりますが、そのような問題も考えていかなければならないと感じています。
ロフトの新社員体系(入社~評価~手当て・インセンティブ)①‐18
先ほど、全社員が無期契約を基本としていると説明致しましたが、グレード1、グレー
ド2、グレード3といった現場のロフト社員は、はじめから無期契約ではございません。
入社からロフト社員への格付けの間、すなわち、入社後 6 ヶ月の間は、6 ヶ月間の有期契約
を結ばせていただいています。例えば、3 月 1 日から 8 月 31 日までの 6 ヶ月の雇用契約書
を作って、その間は、基本的な社会人の知識や勤務ルールといったものを中心に勉強して
もらいます。1 ヶ月、2 ヶ月、4 ヶ月で直属の上司と面談し、最終的に 6 ヶ月後に無期契約
になるかそこで雇用終了になるかを決めています。
しかし、半年で 50%の人が退職しておりまして、自ら辞職する人が全体の 30%から 35%
おり、また 10%から 15%は雇用を終了させていただくという人でございます。自ら辞職す
る人は、軽い気持ちで入ったという理由で、雇用を終了させていただく方は、基本的に小
売りに向いていないと思う理由でございます。例えば、6 ヶ月の間に数回クレームをおこし
た人は、辞めていただいております。また、チェックシートがございまして、そのシート
に仕事の記述をしていき、契約の際に判断する材料として用いています。
また、ロフト社員として入社後 6 ヶ月に辞令を配るようにし、東京や大阪で入社式を行
なったりもしています。これは、会社を理解してもらうためであり、月 1 回で行っていま
す。
ロフトの新社員体系(入社~評価~手当て・インセンティブ)②‐19,20,21,22,23
インセンティブの仕組みですが、グレード1の人に最初から仕事の遂行能力を求めても
無理がございますので、資料の通り(スライド 20 を参照)、経験を 20%、姿勢と態度を 40%
ずつにしております。また、グレード3では、経験を 60%にして、より仕事の遂行能力に
重きを置いて評価しています。また、昇格もある一方で降格もあります。このインセンテ
ィブですが、従来は正社員の方だけでしたが、今回の制度改正にあたって、グレード 1・2
の人には奨励手当てという形で、グレード 3 の人にはインセンティブという形で行なうこ
とに致しました。資料の通り(スライド 22,23 を参照)、勤務状況では遅刻・早退・欠勤な
どを行なうことで、ポイントを減らしていく形を取らせていただいています。1 ポイントは
300 円でございまして、グレード 1・2 の人は最大 3 万円もらうことができます。グレード
3 の人はインセンティブでございますので、店の売り上げに連動した分賞与をもらえるよう
になっております。インセンティブについては、みんな同じ日に同じ喜びを味わってもら
えるようにという気持ちで作りました。
また、ロフトでは給与明細がなく、携帯かパソコンで見ていただきます。そこにポイン
トを表示するようにし、いつでも賞与がどれぐらいもらえるかを見られるようにすること
で、社員のやる気を促すことができたらと考えています。
制度導入後のロフト社員の状況変化‐25
制度変換後から就労ニーズアンケートを取ったところ、採用倍率が 1,25 倍から 3,5 倍、
退職者が 1375 人から 910 人、フルタイム社員も約半分を超え、5 年以上頑張って働こうと
いう人も 28%から 40%、働くことの満足度も 48%から 58%になりました。
また、渋谷、梅田、神戸といった都会ではこのような上向きに推移していっているので
すが、地方では、辞める人がほとんどいなくなってきています。
しかし、辞める人がいなくなることによって起こる人材の硬直化が今後の課題として上
げられています。グレード 1・2 の人たちは店舗契約を行なっているので、店舗をまたぐ異
動はないのですが、リーダーの 2 から上の人たちは本社との契約になりますので、全国勤
務が必須であり店舗による異動があります。なぜなら、毎年5店舗以上出店しておりまし
て、私たちの企業では出店が成長戦略と考えているからです。
組織・状況認識の視点‐26
今回の制度変更で社員のモチベーションを高めることに成功しているのではないかと考
えているのですが、特に「ギブからテイク」、
「管理から参加へ」、といった点に制度を作る
際のウェイトを置きました。なぜなら、「やる気×やる力=チーム力」という考え方がござ
いまして、やる気の持続とやる力の両方が大切だと考えているからです。
組織・状況認識の視点‐30
今回さまざまな変更をさしていただきましたが、元々企業ごとの共済会があったのです
が、社会保険の適用者のみ会員になれたのですが、今回の制度変更で週 20 時間働いている
方すべての人が入れるようになりました。例えば、お子様の入学祝金ですが、去年は 4 件
でしたが、今年は 55 件もの利用がありました。以上から、一般の主婦にも利用してもらっ
ているという認識をしております。
資料以外でのこと
この後ロフトが取り組もうとしていることの 1 つとして、ワークライフバランスという
視点から 25 歳、35 歳、50 歳、60 歳という節目、節目の働き方を詳細に見ていこうと思っ
ております。もう 1 つは、働く時間が選択できるということから発生する、ジョブシェア
リングやワークシェアリングの問題がございます。60 歳から 65 歳まで定年再雇用を行なっ
ています。ロフトでは、働く時間単価を変えず、週 28 時間未満で行なっています。一般の
企業では働く時間単価を下げていますが、ロフトでは時間単価が一気に下がるとは考えて
いないからです。
また、フロント以外の課長、部長、係長といった私たちの評価を簡単に説明致しますと、
相対評価のリセット方式で行なっています。Aが 10%、Bが 20%、Cが 30%、Dが 40%
というように行なっているので、評価によるコストアップはないのが特徴でございます。
したがって、予算達成をしていても、していなくても、コストアップはございません。例
えば、係長では半年ごとに評価を行なっておりますので、半年の間A評価でも、次の半年
の評価がD評価であれば、その半年の月給はD評価の給料になります。また、課長、部長
といった上の役職になるごとに差額が大きくなっていきます。つまり、定期昇給は一切あ
りません。
しかし、先ほど説明させていただいた通り、フロント社員のコストプッシュがございま
して、年間で4億円ほど人件費が上がりました。私たちの企業では、生産性的には厳しい
ので、2億円をコストダウンさせてもらいました。特に、媒体費は店舗募集で補えるよう
になりましたので、それで数千万円の削減になりました。さらに、人材の安定的確保によ
って、人材が足りないときの人材派遣業の費用は 1 億円の削減になりました。
ただし、残りの 2 億円分のコストアップに見合った売上高・利益というものは上がって
いるかというと、リーマンショックなどの不況もございまして、そこまで大きく成果は上
がっているとは言えないのが現状です。
最後に、無期雇用による人材の硬直化の問題ですが、実は半年で 50%の人が辞めていた
状況ではうまく回転していました。したがって、5 年、10 年後にこの制度でうまくやって
いけるのかという問題がございます。全員が上の役職に上がれる仕組みにはしていますが、
全員が上の役職に上がりたいと思うかどうかは別問題であります。すべての人がキャリア
志向であれば、うまく回ると思っていますが、グレード 1・2 の人ばかりになると、ある一
定のタイミングで硬直化するのではないかと考えています。今後は、現在は店舗ごとに契
約をしていますが、月範囲内では異動が出来る仕組みに変えていったり、そうした部分で
活性化を予定していますが、10 年後にもう 1 度制度の見直しが必要ではないかと考えてい
ます。
質問タイム
Q.雇用保障をすることによって、元々いた社員の人が事業の縮小などによって、臨時雇
用者を切らないといけないとなった場合、あらかじめ優先順位や協定といったものを結ん
でいるのでしょうか。
A.基本的には、就業規則では店舗閉鎖による雇い止めを記載しております。新卒は、グ
レード 3-2 という全国勤務ができるのを前提に入社しています。しかし、下から上がって
きた主婦の人たちは全国勤務がムリな方が多いです。会社としては、基本は全員平等で考
えているので、近くに店舗がある場合は全員異動、逆に近くに店舗がない場合に限っては、
どうしても離れられない人に関しては雇い止めにさせてもらっています。また、全国型勤
務の人は全員雇用保障をしておりまして、もし異動による余剰人員が発生した場合は、全
国型の人に異動してもらうという形を取っています。
Q.成果を評価するときに勤務時間の長さは評価に入るのか?
A.グレード 3 の人で週 20 時間勤務の人もいます。評価は、グレード 3 からがインセンテ
ィブになっていますので、インセンティブの人たちは時間で対応しています。例えば、グ
レード3のインセンティブは最大半期9万円ですが、週 20 時間であれば4万5千円になり
ます。なぜなら、働く時間と貢献度は時間が重要であると考えていますので、時間を評価
に入れさせてもらっています。ただし、ステップアップの際は本人の能力知識に対応して
いるので、勤務時間との関係はございません。
Q.元々いた正社員の人たちで、制度改正によって不利益になった人たちはいたのか。そ
れとも特になかったのか?
A.正社員への特別不利益はないと考えています。逆に、まだまだ正社員のほうが優遇さ
れていると思います。例えば、正社員は月給で、フロントの人たちは時間給でございます
ので、もし朝に病院へ行くなどをして抜けた時間分は、正社員の場合ですと、それほど不
利益にはなりません。一部のメンバーから、正社員の人も時間給にしたらどうかという声
はあったのですが、職務用件や資格要件に関わることなので難しい。2007 年から新卒募集
を始めていますが、新卒も時間給で行なうことも検討中でございまして、時間給で行なう
と新卒が集まらないかもしれないというリスクがあるのが現状です。現在、新卒は月給で
すが、もし時間給であったら、というアンケートを取ったところ、半分の人は応募してい
たという結果が出ました。また、時間給だとカードの審査や家のローンが申し込めないと
いった現実がございますので、中々悩ましいところでございます。
Q(平野先生)効果として定職率が増えてきているが、制度として最も効果があったのは
なにか。例えば、正社員になることによる無期雇用であったのか、それとも時間給が上が
ったからなのか。それとも、内部要因ではなくて外部要因であるのか。例えば、現在不況
であるので、失職コストが高まっているから辞める人が減っているのか。また、それら内
部要因と外部要因の両方だと考えているのか。
A.一番効果があったことは、従来はステップアップをする際にレポートや面接という登
用試験が必要であったので、その垣根がとれたことだと思っています。今回説明しなかっ
たのですが、飛び級制度もありまして、上司の推薦があれば飛び級で上がっていける制度
もございます。それによっても、社員のモチベーションを上げることができたと考えてい
ます。
実は、無期雇用はそれほど効果があるとはいえないと考えています。6 ヶ月で半分やめて
いくという人がいる中で、ロフトの社員は 20 代の人が多いのですが、20 代の人たちはそれ
ほど無期雇用の傾向が強くないのが現実です。また、30 代・40 代の人たちは、面接の際に
時間給だというと断っていきます。したがって、縦軸のステップアップによる効果が一番
だろうと理解しています。
Q.(平野先生)もしそうであるとするなら、雇用保障のリスクを避けつつ同じ効果が保て
るとするなら、わざわざパートタイム社員を正社員にしなくても良かったのではないか?
A.正社員と本社員という属性の区分はそれ以前の問題で撤廃したいという考えがありま
した。また、入社の時点では全員がグレード1-1のスタートではありません。そして、6
ヶ月後に本格付けを行ないますので、そのときに入る時点での評価から上がる人も逆に下
がる人もいる。
平野先生の解説
はじめに
イオンケース(事前配布のケース)とロフトの違い。
キャリアパスのルートは同じような構造だが、基本原理が違う。すなわち、ロフトは有
期雇用を辞めて無期雇用契約になっている。しかしイオンの場合有期雇用のままである。
これは基本方針の違いである。イオンでは、それをもう一度無期雇用に変えようかと侃々
諤々と議論している。なぜならば正社員ブランドの大復活がある。不況で正社員のブラン
ドが復活しているため、採用の問題や、定着の問題を含めてどうするかという議論になっ
ている。戦略面で考えると、イオンの出店戦略は基本的にスクラップドアンドビルドであ
る。雇用保証のリスクはおそらくロフトより敏感であり、そこを考えざるをえない。もう
一つは中途半端な部分。エリアに複数店舗があるので、一店舗占めても多店舗で吸収しよ
うと努力できる。しかし全部吸収するとコスト増。そういう戦略面の状況要因があり、雇
用問題は相当なナーバス。そこをどうするのかが相当難しい。それに直面しているのがケ
ース。
スライド2
人事管理に関しては、イギリスのアトキンソンによれば、人事管理においては、3つの
柔軟性を高めることが重要である。機能的柔軟性と数量的柔軟性と財務的柔軟性である。
機能的柔軟性は簡単に言えば多能工化である。例えば企業が戦略転換、生産物の転換をし
た際、それ以前の戦略ないし生産物に紐づいて労働者が技能形成をした場合、転換があっ
たときに以前のスキルが使えなくなる。それであればもともと多能工化しておけばスムー
ズに戦略転換、生産物転換に対応できる。結果的に機能的柔軟性の便益を高めることがで
きるという考え方である。日本では、正社員と言う雇用区分でこの便益を高めてきた。他
方で正社員にすることは、数量的、財務的柔軟性を損なう。数量的柔軟性は必要労働量の
変化に対する柔軟性。財務的柔軟性は例えば業績の変動によって目標分配率に対応した人
件費のコストコントロールのこと。いずれにしても人件費の変動費化、つまり非正規の方
がよくなる。その際非正規を増やすということは、外部労働市場との連携を深めることに
なる。正社員主体は企業内部の労働市場を管理すればよいが、非正規をたくさん使う場合
は外部労働市場との連結を意識する必要がある。
スライド3
小売業独自の生産性指標について。小売業以外では、労働分配率(人件費/粗利益)が
一般的だが、小売業では労働集約型産業なので、他の指標を使う。それが人時生産性とい
う指標である。(スライド参照)小売業では、人時コストをいかに下げるかがマネジメント
に重要な概念となる。ロフトでは、課長クラスはこれが、3000円、レジ担当は110
0円という話だった。下げる方法は人件費を下げればよいのであるから、総労働時間が一
定で人時コストを下げたければ、単位当たりのコスト格差を利用する。すなわち正社員で
やっている仕事を非正規に切り替えていけば人時コストは下がる。小売業は正社員の非正
規に転換させるということを長らく取り組んできた。従ってそのノウハウを持っている。
スライド4
ではどのようにしていくかだが、2つの考え方がある。一つは担当者クラスの正社員を
パートにする。パートの労働量が上がるので、これを量的基幹化という。これをやりきり
更にということになると、管理監督職層の正社員を非正規に転換。それを質的基幹化とい
う。1990 年代まではチェーンストアでは量的基幹化が一般的であった。イオンにおいては、
1996 年でパートタイマー比率は 67%であった。それを徐々に上げていき 2000 年では 72%
であった。現在では 85%に近いのではないか。これがさらに進めば外食チェーンのような
状態になる。
スライド5、6
ここで均衡処遇の問題が起こる。厚生労働省の考え方でスライドのようになる。元々は
正規非正規で仕事を分断していたが、非正規もともに立ちあがっていくと、処遇格差の問
題が起きる。これを解決するにはどのようにするのか(方法論)。もともと正規非正規で仕
事を分断していた。新しく中間形態の社員を作って、均衡処遇にすると、コスト増の可能
性が大いにある。すなわち正社員の人時コストが高ければそれに合わせるとコストが増に
なる。これをどうすればよいか。一つのやり方は正社員の人件費を下げる。イオンのやり
方では、正社員を下げ、非正規を上げた。
スライド7
そうすると、ここにきて3つの雇用区分ができる。フロントラインの部分と、中間形態
の部分、そしていわゆる総合職の区分。そこでポートフォリオの考え方がでてくる。それ
を提唱したのが現在の日本経団連(1995)である。当時バブルの崩壊により、日本企業は
人件費の高止まりで困っていた。そこにこの提唱は企業に大きなインパクトを与えた。95
年から 15 年は経過したが、結果としてはっきりしたのは日本では中間型が増えなかったこ
と。増えたのは雇用柔軟型グループであった。ただこのポートフォリオの考え方は悪くな
い。より理論的に精緻にしたい。そこに必要なのが2つの理論である。
スライド8
ひとつが Resource Based View という考え方である。ここでは単純な因果モデルを想定
している。目的変数が持続的競争優位、説明変数が資源。資源に価値があれば競争優位が
生まれるという単純な線形因果モデルであるが、資源はある条件を満たさねばならない。
一番重要なのは模倣ができないということ。もし企業が保有している資源が他者にとって
模倣が難しければ競争優位が持続する。ここで模倣が難しいというのは、当該企業の中で、
人的資源や企業特殊的な技能を保有するときに、競争優位が持続するということ。すなわ
ち人的資源として、弁護士や会計士という価値のある人たちを置いても、彼らは市場で交
換可能であるから、それは企業の競争優位の源泉にはなりえない。企業独自の人的資源が
必要。そうであればコアな人材は長期内部育成して企業特殊技能を発展させねばならない。
スライド9、10
もう一つは取引費用の問題。これは 6 月の第1回でもお話したが(第 1 回参照)
。メーカ
ーとサプライヤーの関係で説明すると、例えばトヨタのプリウスのエンジンの噴霧器をデ
ンソーが作るとする。プリウスは新型エンジンなのでそれに対応する噴霧機には特殊な金
型工作機が必要。それを大量に工場に初期投資する際に数十億かかるとする。思考錯誤し
て噴霧器の開発。それに 50 億かかっていれば、もしそれをトヨタが内製すると言えばデン
ソーの50億投資は無駄になる。もしデンソーが豊田の裏切りを予想すればそもそも50
億の投資をしない。どうすればいいのか。そのときトヨタがとるべき道はデンソーを内部
化する。しかし内部化するとコスト高になる。トヨタの選択は「系列」というもの。決し
て裏切らないことを系列で造った。何故裏切らないのか。一つは信頼。株式の持ち合い。
そしてもうひとつは豊田会。サプライヤーの会で横の情報が筒抜けになる。一社裏切りに
あえば一斉に全社が関係特殊投資を控える。そうすると系列が崩壊する。そうしたいくつ
かのストラクチャーを作って裏切りのない形をつくっている。
スライド11
ここでのポイントは、もし二者間の取引で投資活動が相手の企業の利得に資するだけあ
り、裏切りを予測すれば、最初から初期投資のインセンティブを失う。これをホールドア
ップ問題という。私のアイデアではこの関係を労使関係で考える。経営者と労働者の取引
関係において、もし労働者が経営者に当該企業でしか通用しない企業特殊技能を提供し、
それに対し対価を払うという労使関係が成立するならば、裏切らないという構造をつくら
ないと労働者は初期投資を行わない。だから、その装置として正社員にすべきだというこ
とになる。その結果、雇用保証は「コミットメント装置」となる。(スライド参照)安心し
て行う。取引効率が良好になる。もしそういうケースではなく、関係特殊投資が必要がな
いのなら、外部のスポット市場でいい。
スライド13
その2つの理論的バックグランドを考えて、縦軸に人的資産特殊性、横軸に業務の不確
実性・複雑性をとると、スライドのようになる。3つの雇用区分を企業の中で類型化し、
その上でマネジメントすれば、企業のパフォーマンスが上がるだろうということである。
スライド17
実際の企業はどうなのかというと、大阪府の千数百社の調査データでは、結果的にスラ
イドのようにプロットされる。問題は各社固有にどこに位置づけるのかを見つけてこなけ
ればならないということ。メジャー(測定方法)を見つけなければならない。ロフトでは、
新卒で入ってくると正社員なので右上、6 か月のOJTはでは左下。J1~L2までの転居
転勤の拘束性を排除している人が中間形態。L2以上は転居転勤の拘束性を需要するので
上。全体は「ロフト社員」という一つの傘であるが、その中身はこのように分けられるで
あろう。
スライド18
ただし、これは1shot であり静態的であるため、動態性が必要。左下にいる人を中間形
態に転換するような仕組みをつくる。それがインセンティブ。ロフトにおけるJ1~Lま
たはそれ以上、というキャリアパスの明示化が制度の定着を助ける。これと同じで、3つ
の間を閉じてはいけない。なんらかの条件で転換が可能にする。そこで働く人のインセン
ティブを引き出してやるという考え方がこのインプリケーション。それがインセンティブ
効果である。
他方、スクリーニング効果では、左下で人材を見極めておく。OJTの 6 か月の間で見
極めて、転換した人に集中的に投資をかける。これにより投資効率があがる。
効率性と価値創造の便益に関して、今回は省略(スライド参照)。
スライド19
事業所と労働者にパラレルな質問項目で聞くと、事業者が期待しているよりも労働者が
うんと意欲的であることが分かる。雇用形態にかかわらず労働者の意欲の方が常に事業者
の期待より上にある。
一方、働き方については事業者と労働者の回答はほぼ均衡しており、事業者は不確実で
複雑な業務を期待しているし、労働者もその不確実性は認識している。二つの結果を踏ま
えると、企業側は働かせるのは不確実で難しいことを従業員にさせているが、技能の形成
についてはたいしてやっていないということになる。言い換えれば、企業は、技能を身に
つけたいという労働者の期待に応えていない。
まとめ
スライド20
3つの雇用区分は合理性があり、その間を閉鎖的にしてはいけないということ。それが経
営合理的であるということである。個別に見極め(個別的)、そしてダイナミクス(動態的)
にマネジメントを行うことが重要である。
金井先生の4つの質問:橋本部長のキャリア
人事にくるまでのキャリア
就職時銀行。配属がコンピュータ室。研修に行き、プログラム作っていたが、バグを上
司に調べてもらった際、自分はこんなことやりたいわけじゃないと思い西武百貨店に転職。
そこで家庭外商が行いたかったが、経理に配属され、梅田ロフトに転勤。分社独立の際に
ロフトを選び転籍。その後経理、店舗課長、財務、総務、そして人事というキャリア。人
事の中で思うのは、財務経理時代から新しいことが好きで、色々な制度変更を行ってきた
が、人事は社員全員が関わるのは簡単に動かせず難しいと感じた。その中でパートタイム
は業務で分けるパートタイムオペレーションを行う。社長により同一労働同一賃金を言わ
れ、今回の制度設計に変更することとなった。
今回のプランの導入時に計画面でどんな苦労をしたか
人事の労務知識はメンバーの方あったため、属性をなくそうという話をすると現実性か
ら人事メンバーは反対。百貨店の元人事部長にコンサルとしてアドバイスをもらった。す
ぐにプロジェクトを立ち上げて、人事メンバーと労働組合と、各店舗の共感するメンバー
に集まって十数名と 1 年ぐらいかけて議論した。その中で、東大の佐藤教授にWLB推し
進める中で、アドバイス頂き、その後押しでスタート。
導入、実施面でどんな喜びと苦労があったか
人時生産性が必ず上がることを大前提。予算組もこれで組んでいるのが現状。総人時を
変えずに進める点が難しい。
働く人と話をしても、制度導入については前向きな意見ができているのは喜ばしいこと。
一方で、変則的な働き方をする時には、現場のシフトを組むのが難しくなる。これによっ
て業務がかえって煩雑になるのではないかという意見は出た。
一番よかったこと
就労アンケートでモチベーションが年々上がっている。企業満足度も上がっている。現
場を歩くと、特に主婦の方の声で無期雇用がありがたいという話をもらう。そういった点
がありがたい。
挑戦課題として、制度はいいが魂が入っていない(社長談)。数字を上げないといけない
部分が難しい。また、「正規雇用者」「非正規」が当たりまえなのが若干悲しい。