OK-8-3 高齢脳損傷患者の表情認知の特徴 Features of facial expression recognition in elderly patients with brain injury ○韓 侊熙 (OT) 1,3),丸田道雄 (OT) 2,3),高橋弘樹 (OT) 1,3),國崎啓介 (OT) 1),田平隆行 (OT) 3) 1) 社会医療法人 雪の聖母会 聖マリア病院,2)社会医療法人 雪の聖母会 聖マリアヘルスケアセ ンター, 3)西九州大学大学院 生活支援科学研究科 リハビリテーション学専攻 Key words: 社会的認知,認知機能,コミュニケーション 【序論】 2013年アメリカ精神医学会は認知症診断基準を改訂し,これまでの記憶障害や言語障害,実行機能 障害に加え,新たに社会的認知の障害を盛り込んだ.社会的認知とは,表情の認知,心の理論,共 感,駆け引き,社会性,理性的抑制,自己認識とされ(伊古田,2014),社会生活に不可欠で高次 な認知機能である.社会的認知の評価の一つとして使用されている表情認知に関しての研究は数多く あり,例えば扁桃体損傷患者(Adolphs,1999)やパーキンソン病患者(吉村,2005)及び,外 傷性脳損傷患者(Radice-neumann,2007)の表情認知能力の低下などが報告されている.今回, 我々はJAFEE(The Japanese Female Facial Expression,2004)の画像を用いた表情認知課題 (概念及びデータ駆動型)を使用して高齢脳損傷患者の表情認知能力の特徴を検討した. 【対象】 対象は当院で意識障害がなく課題が実施可能な高齢の脳損傷患者25名(男性14名,女性11名,平均 年齢77.8±9.4歳,脳梗塞患者15名,脳出血患者10名,MMSE21.9±6.2)であった.被験者と代 諾者には口頭および文章にて研究の趣旨を説明し同意を得た.また,本研究は聖マリア病院の臨床研 究審査委員会(研15-0801)承認を得て実施した. 【方法】 認知機能評価としてMMSE,CDR,FAB,WMS-R(遅延再生)を実施した.表情認知課題は概念駆 動型とデータ駆動型の2つの課題で構成されている.1課題につきA4用紙に12問ずつ配置され,合計 24問実施した.概念駆動型は,喜び,怒り,悲しみ,驚き,嫌悪,恐怖の6つの表情名の中で1つの 表情名を呈示して,その表情概念に合う表情画像を選択する課題である.データ駆動型は,6つの表 情画像からその表情名を想起し選択する課題である.それぞれ正答数と所要時間を求めた.表情画像 は,九州大学で収集されたJAFEE(The Japanese Female Facial Expression,2004)の中から 感受度率3.4以上を使用した.統計処理は,認知機能と表情認知課題の正答数との関係はスピアマン 順位相関検定を用い,表情間の正答数の比較は分散分析を使用し,有意水準は5%とした. 【結果】 概念駆動型の正答数とMMSE,FAB,WMS-R(遅延再生)では有意な正の相関が,CDRでは有意な 負の相関が認められた(P<0.01).概念駆動型の所要時間とMMSE,FAB,WMS-R(遅延再生) では有意な負の相関が,CDRでは有意な正の相関が認められた(P<0.01).表情課題では,表情間 で主効果が認められ(F=7.267,P<0.001),「怒り」は,「悲しみ」,「驚き」,「嫌悪」,「恐 怖」に比し有意に高値であり(P<0.01),「喜び」は,「悲しみ」,「恐怖」に比し有意に高値で あった(P<0.01). 【考察】 本研究により,高齢脳損傷患者において認知機能(MMSE,CDR,FAB,WMS-R)が低下するに伴 い表情認知能力が低下することが示唆された.このことは,記憶や前頭葉機能などの認知機能が表情 認識に影響を及ぼしていることを示唆する.また,表情別においては「喜び」と「怒り」が認識しや すい結果となった.Makiら(2013)はアルツハイマー型認知症患者の喜び表情の認識能力は低下し ないとしており,認知機能が低下している高齢脳損患者においても同様の結果が得られたことから, 「喜び」や「怒り」表情は社会生活,特にコミュニケーションを図る際の重要なファクターであると 推察された.
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