生涯スポーツ社会の創出に向けて

生涯スポーツ社会の創出に向けて
佐 藤 由 夫
(日本自由時間スポーツ研究所所長)
1.はじめに
○時代の変遷と価値観の変化
◆バブル崩壊は、社会構造の変革を急速に招き、新しい社会観や価値観を形成しつつあります。ゼロ
あるいはマイナス成長時代において、国民生活はこれまでとは一変してつつましく、ささやかなもの
へと変容しながら、新たな世紀のスタートを切りました。企業経営の健全化、雇用の安定化など社会
的課題はかつて無いほど大きなものとなる一方、20 世紀を総決算し、新しい 21 世紀を人間として
いかに生き永らえるかについて、正面から考えるようになったことは、大きな進歩です。
◆特に少子高齢社会における「健康問題」の解決は緊急テーマであり、また「自由時間活動」のあり
方も重要な課題として認識されるようになりました。21 世紀になり、ようやく自由時間(余暇時間)
の重要性を1人ひとりが感じ、その使い方に対して自分の意志が重要であることに気付き始めたよう
です。
◆自己実現を希求する自由時間活動は、豪華な施設が無くても、あるいはお金をふんだんにつぎ込ま
なくても実現できることが理解されつつあります。金銭あるいは物質消費型の余暇時代を終え、時間
消費型余暇の時代へと移り変わり、自分の身の丈に合わせた至福の時を過ごす時間、すなわち「余っ
た暇」の概念から、自分の意志で行動する「自由時間」の概念へと大きく変化した事実は、これから
のライフスタイル形成において、重要な意味をもつものです。
◆特に高齢社会にあっては、人生 80 年(以上)にわたる自分自身のライフスタイルを、如何に構築
するかが大きな課題となっています。中でも勉学や労働とともに充実した自由時間活動を生涯にわた
ってライフスタイルに取り組むことが重要視され、自己実現を図るとことの大切さが理論上でなく、
実生活の中で求められる時代となってきました。
○スポーツの社会的価値
◆ヨーロッパでは、現代社会にふさわしいスポーツの価値を社会的に認知し、個人のスポーツを守る
ために、
「ヨーロッパ スポーツ・フォア・オール憲章」を 1975 年に制定しました。その中で「個人
は誰でもスポーツを行う権利を持つ」ことが保障され、国や地方公共団体等がそれを支援することが
確認されました。スポーツの持つ社会的意義とその価値の高さが評価され、その普及が保障されたの
です。この流れはユネスコ「体育・スポーツに関する国際憲章」
(1978 年 11 月 21 日 パリ)に受
け継がれ、人間の高度な身体的、知的、道徳的な能力の保持発展が世界的に約束されたのです。
◆今日的にはこの「スポーツ」は、一人ひとりが希求する自己実現を満足しうる自由時間活動の一形
態であり、健康で潤いのある人生をより豊かなものとするために必要な要素の一つ(スポーツを中心
に考える者は、とかく最も重要あるいは唯一無二と表現しがちです)であります。本来の「あそび
(play)
」をその価値の真髄に置き、スポーツゲームそのものを楽しむことの価値は、人間が社会生
活の中で培う文化に影響を及ぼすことは既に明らかなことです。
◆また、スポーツは運動不足やストレスの解消、あるいは生活習慣病の予防にも効果があることが立
証され、今日的な社会的評価をより高めるに至っています。さらには、スポーツを通じた良好な人間
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関係の醸成は、とかく疎になりがちな現代社会において重要な役割となっており、家族の絆を強くし
たり、仲間づくりへと発展し、やがては地域の連帯や共生の概念にまで影響を及ぼすことが認められ
るに至っています。
◆文部科学省では、地域教育力の再生に総合型地域スポーツクラブが大きな役割を果たすと評価して
いる根拠のひとつに、このスポーツの「価値」があります。
2.生涯スポーツ社会の創出を目指して
○身近なスポーツの実際
◆メダルラッシュのアテネオリンピックの余韻も一部ではまだありますが、既に関心はトリノ冬季オ
リンピックやワールドカップサッカードイツ大会へと移っています。Jリーグに限らず、ヨーロッパ
のサッカー情報や日本やアメリカのプロ野球、あるいは(女子)プロゴルフ等の話題は、映像や文字
情報等を通じ、リアルタイムに伝わる時代となり、ある意味でスポーツはますます身近な存在になっ
てきました。
◆また、TVコマーシャルにスポーツシーンが登場したり、スポーツアニメのテレビ化やスポーツや
フィットネスシーンが組み込まれたドラマのオン・エアは、スポーツや健康づくりへの関心を呼び起
こし、ブーム到来への期待感を膨らませています。さらには、新聞折り込みチラシを各戸に配布し、
地域から会員募集を行う民間フィットネスクラブやテニススクール等の営業展開は、まさに時代の流
れを反映しています。
◆しかしながら、例えば学校生徒数の減少や生徒の意識変化(運動嫌いなど)あるいは指導者不足の
問題等により、学校の部活動が十分行えなくなったところも生まれています。また、学校における部
活動をやめるとスポーツを行う場(機会)が無かったり、卒業後の受け皿がなかなか見つからない環
境は、スポーツ振興の観点からすると大きな課題となっています。
◆一般社会人が行うスポーツ環境についても、欧米諸国に比べて整っているとは云えず、また若年時
代に修得したスポーツスキル(技・技術)を活かし、自分自身のライフスタイルに合わせて継続して
いこうとしても、なかなか難しい環境下に置かれています。さらには、中高年になって新たにスポー
ツを始めるには、大変な努力と勇気を必要とする状況にあります。
(スポーツを継続できない環境)
◆「するスポーツ」だけでなく「みるスポーツ」
「支えるスポーツ」が社会的な価値を持つようになっ
てきた今日、本来の価値を担保する「するスポーツ」に対する新しい方向性やその発展支援を積極的
に行うことが目下の急務ではないでしょうか。21 世紀におけるスポーツの新しい価値を創出するた
めに、
「知る」スポーツにとどまらず、一人でも多くの人が「するスポーツ」に参画できるような環境
づくりは、私達の願いでもあるし、
「生涯スポーツ」振興の大きな課題でもあります。
○生涯スポーツの認識
◆自分自身の自由時間を活用してスポーツに参加し、健康で潤いのある人生をデザインすることは、
多くの人が願うところです。スポーツに限らず音楽や芸術活動などを総合的にデザインし、いかに充
実した人生を送るかは、一人ひとりの重大な関心事です。
◆文化領域にまで高められたスポーツと、
誕生から人生を終える瞬間まで常にかかわりを持つことは、
健全な肉体(からだ)や精神(こころ)を養い、社会的なかかわりも充実した文化的で健康的なライ
フスタイルを創造するために有効です。したがって、
「いつでも」
「どこでも」
「だれでも」
「いつまで
も」
「自分の好むスタイル」でスポーツが実践できる環境を創出する事は、個人の「健康」を確保する
だけでなく、広く社会の健康的な発展に大きく寄与するものと云えます。
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◆そこには競技スポーツに対する生涯スポーツといった狭義の「生涯スポーツ」が存在するのではな
く、広義の「生涯スポーツ」あるいは本来の「スポーツ」が存在し、その関わり方は 100 人いれば
100 通りの「スタイル」が存在します。
◆これまでどちらかと言うと「競技スポーツ」と言えば、国民体育大会やオリンピック種目のスポー
ツを指し、一部の限られた人が行うものとされてきました。時には勝敗にこだわり過ぎ、悪い面での
「勝利至上主義」と呼ばれ、生涯スポーツの分野では、それらを排除するために「ニュースポーツ」
などの分野の種目を取り上げる傾向にありました。しかしながら、種目を前に、これは「競技」だ、
あれは「生涯」だという論争に大きな矛盾があることを多くの人が感じているはずです。
◆そもそもどの「スポーツ」にも、
「遊び」や「競う」
「自己の目標を極める」要素、あるいは今日的
には「健康づくり」の要素が含まれています。自分自身のライフスタイルの中で、スポーツとどのよ
うに向かい合うかで、
「競技」指向が強かったり、
「遊び」や「お楽しみ」指向でやるか、あるいは「健
康づくり」指向として取り組むかに分かれるだけで
す。そのバランスのとり方と関わり方がポイントで
す。
競技指向
能力指向
◆自分自身のライフスタイルやライフステージ、も
ちろんその時の社会的立場や居住地、所属、あるい
は本人の体力や健康度、運動等に対する興味や自由
時間の量、自由裁量のお金の量などによって「スポ
ーツ」とのかかわりが大きく異なるということを誰
もが認識することが大切です。
健康指向
遊び指向
◆これまであまりにもスポーツに対する向きあい方
が一方的、あるいは強制的であったり、個人の志向
にあわなかった場合に、
(スポーツをやめる)
悲劇が
スポーツ参加動機・実践動機の要素
多く生まれてきたのではないでしょうか。目前で悲
劇を見た人は、遠ざかってしまうのは無理もありません。
◆すべての「スポーツ」は生涯スポーツとして、生涯にわたって正しく向き合っていくことができる
ことをみんなで再確認する必要があり、そのスポーツを続けていく素晴らしさを誰もが体験できるよ
うにしたいものです。問題はどのように関わるかだけです。
◆自由時間活動のひとつとして、ライフスタイルの一部に組みこまれる「生涯スポーツ」の振興は、
個人の充実した人生を演出するとともに、地域振興や地域文化の創出に何らかの影響を与えることで
しょう。生涯スポーツが育まれる社会を「生涯スポーツ社会」と表現し、スポーツを機軸とした新し
い社会の構築が希求される時代となっています。
(スポーツとして、より社会的な価値を構築し、社会
の発展に寄与することが求められています。
)
3.生涯スポーツの実践
○生涯スポーツとの関わり方
◆生涯スポーツとして、誰もがスポーツと実際にかかわりを持つためには、スポーツをまず[見て]
次に[試して]そして本格的に[実践]するような仕組みが必要です。
◆幼い時にスポーツと触れ合う機会が持てる場合は、
「あそび」として自然に導かれますが、大人にな
ってから、あるいは高齢者になってから「試してみる」には勇気や努力を必要とする場合あります。
関わり合いを持つ時期や、チャンスあるいは様々な要因がその人のスポーツライフに大きな影響を及
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ぼしますが、スポーツを広く見渡し、自分の価値観や指向にあった種目を選んだり、関わり方を優先
したスポーツとのお付き合いの方法を見つけることが大切です。
(親は、子供に対してチャンスを提供
し、やさしく見守ることが必要です)
◆「生涯スポーツ」を培うには、子供のころや学校体育、部活動、あるいはジュニア対象のスポーツ
スクールなどで体験したスポーツを、各ライフステージにあったスタイルで実践し続け、人生の楽し
みとして[末永く楽しむ]ような係り方が育まれる環境が、わが国にももっとほしいものです。
◆また、生涯スポーツをライフスタイルの中に位置付けられるようにするためには、各々のライフス
テージに最適なスポーツと
の関わり方、楽しみ方を心
ライフステージに合ったスポーツライフスタイルの構築
得て、生活の質を高めてい
いつでも、どこでも、誰でも、いつまでも自分の好む方式で
スポーツを続けるためのイメージスケール
くことが大切であり、時間
をかけたアプローチが必要
です。いわゆる三日坊主で
終わるのではなく、あせら
ず徐々に自分のものとして
0
年齢
10
20
0
30
40
4
体力
50
60
70
61
図はイメージ
自由時間
いく事が必要です。
◆このように生涯スポーツ
との係り方を考えると、幼
児あるいは青少年期におけ
競技指向
遊び指向
るスポーツとの関わり方が、 健康指向
いかに大切かが理解できま
連続したライフステージの中で、いかにスポーツとかかわるか
す。1 つのスポーツを一生
続ける「道一筋」も大切なことですし、好みや年齢、体力に合わせて種目を変えていくことも良いで
しょう。それまで続けてきたスポーツで培われた全てが新しいスポーツに生かされるはずです。重要
なことは継続することです。
◆また、スポーツとの関わり方もバリエーションを広げることが、ライフスタイルをより楽しくする
ためには有効です。
例えば、
「家族で楽しむスポーツ」
「仲間と楽しむスポーツ」
「ひとりで楽しむスポ
ーツ」をバランスよくライフスタイルに取り込み、気長にゆっくりと「楽しく充実した時間を過ごす」
ことにより、
オリジナリティ溢れる生涯スポーツを手にすることができます。
「日々の生活の中で取り
組むスポーツや運動」
「クラブで試合や練習を楽しむスポーツ」
「シーズンにあわせて行うスポーツや
レクリエーション」などの組み合わせも有効ですし、まさに自分自身の「スポーツライフスタイル」
を構築し、結果的に定期的なスポーツ活動を継続していくことが重要です。
◆時には本格的に一生懸命取り組み、自由時間領域を越えた範疇で競技に没頭することもすばらしい
ことです。特に心身の発達が著しい青少年期に、
「競技」あるいは「自己の目標達成」のために強度を
高めることは、より高度の自己実現をもたらし、新たな価値観を創出します。もちろんその場合にお
いても、一人ひとりが自分の行動に責任を持ち、自立したスポーツとの関わり方を持つことが求めら
れており、トップレベルでの「スポーツの楽しさ」を希求し、充実した時間を過ごすことが求められ
ます。近年参加者が増加し、話題も多いマスターズ選手権なども、充実した生涯スポーツの展開に欠
かせません。
◆生涯スポーツの立場から見た場合、問題は「競技主体の関わり方」にあります。身体を痛めたりバ
ーンアウト(燃え尽き症候群)しては困ります。トップになるには覚悟も必要ですが、長期的な視野
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に立った関わり方が必要です。すなわちトップアスリートとしての関わりを終えてからのスポーツあ
るいは社会生活にあります。とかくアスリートは、現役引退後はスポーツとほとんど無縁になってし
まうか、自分の獲得してきたスポーツの足跡を元手に、
「指導」に生きがいを見出そうとする傾向にあ
ります。重要なことは、個人の自由時間活動としてスポーツを実践し、生涯にわたって楽しむスタイ
ルを確立させることにあります。
◆トップアスリートやスポーツの指導、普及に関わる人は、スポーツのよき理解者、実践者として、
生涯スポーツを正しく理解し、生涯にわたって実践する(あそぶ)姿をプレゼンテーションしてもら
いたいものです。また、生涯スポーツの現場では、教える側と教わる側で完全に対峙するのではなく、
スポーツを楽しむ仲間として一緒に遊ぶ(play)スタンスが必要です。きっと「生涯スポーツ」のよ
き指導者として、光り輝くことでしょう。
○生涯スポーツへの誘い
<理解と支援そして地域スポーツクラブの存在>
◆一般的に「スポーツ好き」の人はカラダでスポーツの素晴らしさを覚え、自分自身の自由時間活動
として自発的、継続的に実践しており、参加動機や理由は後付けであることが多いようです。しかし
ながら誰もが感覚的にスポーツと結ばれることは非常に難しく、多くの人は何らかの支援の手を待ち
望んでいるが現状です。その様な状況の中で、スポーツ参加に対する「本人の自覚」や「意志」を促
すための環境づくりが求められていま
す。
◆新たにスポーツを始めようとする人、
身近な関わ
あるいは継続しようとしている人にと
り
って、先ず第1に必要なものは家族や
周囲の理解です。あらゆる年齢層に対
して必要であり、中高齢者の新たな参
加や継続には特に不可欠です。かつて
主婦らがスポーツに参加する場合、家
族の理解(特にお姑さん)をとりつけ
るのに苦労した時代がありましたが、
すでに家族が参加を認め、応援するよ
うな時代になりつつあります。これか
らのライフスタイルでは、家族全員が各々の指向に応じたスポーツに参加し、お互いが理解しあい、
応援するような情況が望まれます。
◆第2に必要なものは仲間の応援や協力です。同じスポーツ指向を目指すもの同士、あるいは指向は
異なってもスポーツで結ばれたよき仲間は、互いに励まし合い、自覚を高め、意志を強める役割を担
うものです。チームスポーツで活動する仲間に限らず、ウォーキングやジョギングなどの個人プレー
の種目でも「仲間」はスポーツや運動の幅を広げ、参加やリピーティングへの期待を膨らませてくれ
ます。いつもの時間に、いつもの場所ですれ違うウォーカーとは、いつのまにか仲間意識が芽生えま
す。
◆第3に必要な支援は、
「スポーツ振興施策」等に基づくの具体的な支援です。すなわち、具体的な参
加プログラムや魅力あるイベント、教室の開催などに関するソフトウェア、資質の高い指導者、リー
ダーの育成配置等に関するヒューマンウェアなどが必要となります。
◆そして第4にスポーツ施設や場の提供あるいは用品用具等に関するハードウェアが基本的な支援
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として必要となります。施設が無いからスポーツや健康づくりのための運動ができないと言うのは、
単なる言い訳の場合が多いものです。でも、より快適で安全な環境が整えば、誰でもスポーツの虜に
なります。
◆一般的にスポーツ支援とは、行政がこれまで「スポーツ振興施策」として取り組んできた事業を指
すもので、この第3、第4の「3つの支援」を指すことが多いですが、その前提に家族や仲間との相
互理解が大切である事を先ず理解しなくてはなりません。
◆これらの諸条件を満たすような総合的な環境を整えることを、本来の「スポーツ(生涯スポーツ)
環境づくり」と考えるべきで、家族(周囲)の理解以外の 3 つの要素がそろった最も身近な環境を、
地域の「スポーツクラブ」と考えることができます。身近な場所で仲間とのコラボレーション(協働
作業)によるスポーツ環境づくりは、自分の求めるスポーツライフを実現してくれる最高の出会いの
場(すなわちクラブ)となるはずです。
○生涯スポーツを育む、愛すべきスポーツクラブ
◆生涯スポーツの真髄は、自らが主体者となってスポーツを「する」ことです。自らが楽しむことに
価値があり、人のために「する」ことはありません。一生懸命「遊ぶ(play)
」ことを高く評価する
ことが社会的に認知されなくては、生涯スポーツは発展しません。
◆楽しく遊ぶ(生涯スポーツを実践する)人が多く住む地域は、活力のある健康的な地域となるはず
です。また、自分が「充実したひととき」を過ごすことができるようになれば、スポーツを家族に勧
めたり、仲間を増やして有意義な時間を共有したくなるのものです。中には世話役を申し出たり、ボ
ランティアとして、何らかの役割を自ら進んで積極的に行うようになるはずです。
◆実はこの気持ちが生涯スポーツの実践に必要ですし、
「クラブ」づくりの原点となります。共通の指
向を持つスポーツ愛好者(予備軍を含む)が集まり、より充実した楽しい時間を過すために、自ら「知
恵」を出したり、
「金」
(会費)
、
「汗」
(ボランティア)
、
「口」
(意見)を出すようになり、クラブの組
織化が始まり継続化することになります。逆につまらなければ大変です。輪も広がらないし、結果的
には本人もやめてしまうことになります。
◆生涯スポーツを育むクラブは、ルール(クラブの会則や社会人の常識的な行動規範)の下に誰もが
平等であることが原則です。一人ひとりの居場所がクラブにはあり、集まった人たちの考えに基づき
創造する「おしゃれで格好良く、快適で楽しい場所」でなくてはなりません。普段の肩書きはなにも
効力を発揮しない場です。
◆クラブ内でのいろいろな人との交わりを大切にし、子供も大人もひとりの社会人として互いに尊重
しながらクラブライフを楽しむ事により、自然に帰属意識が芽生えます。あまりにも濃密な人間関係
を一部の人と結ぶのでなく、大勢の人(クラブ員)と末長くスポーツを通じて仲良くすること(スポ
ーティなお付き合い)が重要です。多人数になればなるほど、スポーティなお付き合いは広がり、多
くの人との交流が可能となります。
◆こんな素晴らしいクラブになれば、難しい人間関係の煩わしさに悩まされず(特に、よくありがち
なグチャグチャした人間関係は別れを告げたいものです)
、新しい人間関係が芽生えます。その結果、
世代間交流などに留まらず、いつしかクラブの中で素敵な愛が芽生えても、決しておかしくありませ
ん。ヨーロッパのクラブハウスで結婚式が催され、クラブ員に祝福されるような光景が見られるよう
になるのも時間の問題でしょう。
(そんなクラブづくりが求められるのではないでしょうか)
◆結ばれたカップルは、親子三代クラブに所属するのも自然な成り行きでしょう。生涯スポーツ家族
の誕生です。
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4.おわりに
○もっと生涯スポーツ社会を充実させるために
◆2000 年(平成 12 年)に文部省(当時)が策定した「スポーツ振興基本計画」では、成人の 50%
が定期的に(週1回)スポーツを実践する生涯スポーツ社会の創出を柱の一つに掲げ、そのための具
体的な方策として「総合型地域スポーツクラブ」の育成と「広域スポーツセンター」の設置が明記さ
れました。2010 年(平成 22 年)までの 10 年間に、各市町村に必ず 1 つの「総合型地域スポーツ
クラブ」を育成し、将来的には各中学校区にひとつ育成配置することを目標としています。
◆これは、生涯スポーツ社会の創出を目指すために、新しいスポーツと地域との関わり方を提案する
次世代型スポーツクラブの提案であると私は考えます。営利を目的とせず、会長も理事、マネジャー、
指導者、スタッフ等もみんな同じ会員としてスポーツを楽しむ(実践する)クラブが身近に存在する
ことは、生涯にわたってスポーツやクラブそして地域社会との関わり持ち続けるために大きく貢献す
るし、結果的に地域社会の活性化や地域教育力の再生に寄与することが期待されます。
◆わが国は景気低迷により実業団によるスポーツ活動の勢いは衰退しましたが、アテネオリンピック
などの活躍に見るように、今やオリンピックではメダル大国の一角を占めるに至っています。しかし
ながら、地域では財政基盤の脆弱化により、スポーツ施設整備の予算は大幅に削られ、事業も先行き
不安な状況にあり、スポーツ支援を行政がこれまで通りに推進することが難しくなってきているのも
事実です。必ずしもスポーツを取り巻く環境は良いとは言えないのが現状です。
◆このような状況下において、誰もが自分の好むスポーツを、自分の好むスタイルで、いつまでも続
けていけるように、先ず「自分自身」で考えることがますます必要となってきました。とかく「お世
話する側(したがり屋さん)
」と「お世話されたい側(されたがり屋さん)
」に分かれる傾向が強いわ
が国の生涯スポーツの現場ですが、一人ひとりが「自立」し、自分の求めるスポーツを自分の手で獲
得していく「意識」を高めることが必要ではないでしょうか。自分とスポーツとの関わり方を決める
のは自分自身です。自分の望むスポーツクラブを選ぶ権利を持つと同時に、自分たちでクラブを創る
権利も持ち合わせていることを忘れてはいないでしょうか。
◆重要なことは、生涯スポーツに対する意識と行動の変容です。時代の変遷や多様化した価値観、ニ
ーズに対応した新しいスポーツとの関わり方の実現を求める行動意識を高めることです。一人ひとり
が理解し自覚を持てば生涯スポーツの社会の創出は実現可能です。
(個人の意識の変容)
◆生涯スポーツは、個人そして家族で理解し、実践することが先ず大切です。そして、クラブに入っ
て実践するも良し。そのためには、これまで生涯スポーツを支えてきた指導者やボランティアそして
各種団体関係者の意識の変容が最も求められるのではないかと思います。民間の事業者や既存の地域
スポーツクラブやサークル、そして学校体育や部活動にも変容が期待されます。総合型地域スポーツ
クラブが、地域におけるスポーツのあり方について改革の旗を掲げたように、わが国のスポーツ関係
者の意識改革を行い、真の「生涯スポーツ社会の創出」を目指すことが必要です。
◆生涯スポーツへの誘いは、全ての人の「意識の変容」からはじまります。
生涯スポーツ社会の創出に向けて
ホームページ公開
日本自由時間スポーツ研究所 佐藤由夫
2005.12.26
*本資料は日本自由時間スポーツ研究所ホームページで一般公開した資料です。
*文責、著作権および画像・図表等の版権は研究所および執筆者個人が所有しています。
*引用、参考ならびに資料配布する場合等は、研究所宛メールにてご連絡願えれば幸いです。
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