地域消防と排水ポンプ車の連携について

地域消防と排水ポンプ車の連携について
以倉
直隆1・横田
浩昭2
1高田河川国道事務所
防災課
(〒943-0847 新潟県上越市南新町3番56号)
2高田河川国道事務所
防災課
(〒943-0847 新潟県上越市南新町3番56号).
阪神淡路大震災発生から20年がたとうとしている。当時の消火活動は、消防用用水の断水により、困
難な作業となった。
その後、北陸地方でも大規模な地震が頻発しており、次に起こる大震災では、阪神淡路大震災と同様の
消火困難な事態が起こる可能性は高い。
上記を危惧して、上越地域消防本部から、河川水を消火活動に使用したいというニーズがでてきたため、
高田河川国道事務所では、洪水対策用として保有している排水ポンプ車から消防ポンプ車への河川水給水
方法を考案した。その、実用に向けた訓練、新たな改良等、消防本部との連携を実施しているので、内容
を報告する。
キーワード
排水ポンプ車、消防ポンプ車、
1. 阪神大震災の教訓
阪神大震災は、平成7年午前5時46分淡路島北部を
震源として発生した地震で、マグニチュード7.2、最
大の震度は神戸市内で7の大規模地震災害である。
地震発生直後から市街地で火災が同時多発したが、
消火活動は、消防用水の断水、消防機材の不足、人員の
不足等の原因により、困難なものとなった。
2. 上越地域消防本部のニーズと課題
このような背景から、上越地域消防本部では、大規模
災害時において市街地の消防用水が断水することを危惧
しており、その際は、河川水を利用したいというニーズ
を持っていた。
河川水利用の必要性を裏付ける一例として、上越市内
のある町内での消火栓の位置を図-1に示す。
●は、消火栓の位置である。大規模な災害で断水した
場合は、これらの消火栓が使えなくなり、大規模な火災
に発展するおそれがある。その際は、図の左側を流れる
関川の河川水が重要な役割を果たす。また図中の高水敷
では排水ポンプ車の訓練を行った実績もある。
河川水の利用は消防活動に有効と考えられるが、下記
の課題を残している。
(1) 河川水利用の問題点
上越地域消防本部で保有するポンプ車が直接河川水を
汲み上げようとする場合、下記の問題がある。
(a)水際への車両設置
消防ポンプ車では車体に積載の真空ポンプへの給水
は10mの吸い込みホースにより行われる。水際から10
mの箇所には、地盤が不陸な箇所や、雑草が生い茂っ
図-1 上越市のある町内の消火栓の箇所
ている箇所があり、消防ポンプ車を駐車することは困
難である。消防ポンプ車の機器構成を図-2に示す。
図-2 消防ポンプ車の機器構成と水際の状況
(b)人員の不足
大規模災害時は、消防隊員本人、家族の被災や、火
災以外の人命救助等、他にもすべき活動があることか
ら、消防隊員が不足する。これに、消火栓が使えない
という問題が重なると、給水水源確保に人員が割かれ
ることから、普段より深刻な人員不足が発生する。
給水の操作は極力簡便にし、できるだけ多くの消防
隊員に消火放水活動に専念してもらうことが望ましい。
3. 排水ポンプ車の活用
高田河川国道事務所では、保有している排水ポンプ車
による給水と、上越地域消防本部の消防車による放水の
連携作業により、前述のような問題を解決することが出
来ると考えた。
そして、連携作業のために、排水ポンプ車のホースと
消防ポンプ車の給水ホースをつなぐ継ぎ手を試作した。
(1) 排水ポンプ車の特徴と性能
排水ポンプ車が、河川水を給水するために有利である
点は次の2点である。
(a)水中モーターポンプ
排水ポンプ車は、重量35kgの水中モーターポ
ンプを、車載の発電機で駆動させる構造である。
水中モーターポンプと発電機は40mのケーブル
でつながれている。水中モーターポンプに排水ホース
を接続し、浮き輪を着けて、河川に投入し、車両にあ
る発電機を起動すると、φ200mmのホース開口端から
排水される。
この構造であれば、水際から40m離れた箇所に
平坦な箇所を探して、車両を設置することができる。
また、堤防上に配置できる場合も多い。
排水ポンプ車の機器構成を図-3に、水中ポンプ
の写真を写真-1に示す。
(b)高揚程、大排水量
排水ポンプ車は10mの高揚程かつ大排水量のポ
ンプを持ち、堤防天端を超えて、大量の排水が可能で
ある。また、高揚程であるため、排水ホースの曲がり
や、つぶれ、水流の乱れに伴う配管抵抗に負けず、長
距離の排水が可能である。
同時に、水中ポンプ1基あたり、7.5t/分の大
きな排水能力を持ち、それは消防ポンプ車の2倍以上
となる。
排水ポンプ車1台あたり4基の水中ポンプをもっ
ているので、大規模火災時には、排水ポンプ車1台で、
8台以上の消防ポンプ車へ給水する能力がある。
よって、大規模火災において、多数の消防ポンプ
車の給水口を1箇所に集中させ、給水消防隊員の作業
を軽減できる。
(c)排水ポンプ車と消防ポンプ車の連携
これらの利点を活かした、排水ポンプ車と消防
ポンプ車の連携概要を図-4に示す。
取水された河川水の流れは、水中ポンプからφ
200排水ホース、連結継ぎ手、φ75吸い込み
ホース、消防ポンプ車、φ65mm送水ホース、は
しご車や放水銃の順で圧送されてゆく。
図-3 排水ポンプ車の機器構成
図-4 排水ポンプ車と消防ポンプ車の連携
吐出
吸込
写真―1 排水ポンプ車の水中ポンプ
(2)試作継ぎ手の概要
連携作業を行うために必要な部品として、排
水ポンプ車のホースの吐き出し口と消防ポンプ
車の吸い込みホースをつなぐ継ぎ手を試作した。
試作した継ぎ手を写真-2に示す。
写真-2の①の接続口は排水ポンプ車のホー
スに接続される。口径は200mmである。②の接続
口は消防ポンプ車の吸い込み口に接続される。
口径は75mmである。消防ポンプ車は1台あたり
2つの吸い込み口をもっているので、接続口は
2台分の4口である。
排水ポンプ車の水中モータポンプは理論値で
は1基あたり、2.6台の消防ポンプ車に給水す
る能力があるため、送水ロス等を考慮し、消防
ポンプ車2台を接続する構造とした。
放水ホース
(放水機器へ)
給水ホース
(排水ポンプ車から)
水流
①
②
写真-4 消防ポンプ車
②
表-1 消防ポンプ車の性能
②
②
写真-2 連結継ぎ手
消防ポンプ車の標準性能
規格放水量
2.8t/分
規格放水圧力
0.85MPa
高圧放水量
2.0t/分
1.4MPa
高圧放水圧力
放水口
放水ホース
放水ホース口径
4. 地域消防との連携
(1) 地域消防との合同訓練
高田河川国道事務所と上越地域消防本部では、年に1
回の合同訓練を実施している。
過去2回の訓練で、それぞれの機械に不具合は発生せ
ず、良好に河川水の給水が実施されている。
写真-3に排水ポンプ車と消防ポンプ車を連携させて
行う合同訓練の状況を示す。
(水頭 87m)
(水頭 143m)
4箇所/台
吸水量
吸込真空圧
放水量に同じ
0.085MPa
(水頭 8.7m)
吸込口
2箇所/台
吸込ホース
10m×2本
吸込ホース口径
75mm
20m×10本以上
65mm
排水ポンプ車から送水された河川水は、消防ポンプ車
を中継し、写真-3のに示す消防はしご車や、写真-5
に示す放水銃に送水され、消火用水として放水される。
消防はしご車
消防ポンプ車
排水ポンプ車
写真-5 放水銃
消防はしご車
写真-3 合同訓練の写真
また、高田河川国道事務所と上越地域消防本部とは覚
え書きにより、有事の際は、消防単独で車庫から排水ポ
ンプ車を搬出し、使用することを可能としている。
(2) 消防用車両の概要
消防ポンプ車を写真-4に、表-1に性能を示す。
上越地域消防本部には排水ポンプ車と連結できる消防
ポンプ車を10台保有しているため、5個の継ぎ手を保
有しておけば全台数に河川水を供給可能である。
5. 今後の課題への対応
前項までは、消防活動の課題に対する、排水ポンプ車
の支援について述べた。今後の課題として、排水ポンプ
車の、内水排除活動の問題点を消防ポンプ車からの支援
を受け、改善できないか検討する。
(1) 排水ポンプ車の問題点
排水ポンプ車の水中ポンプは、深さ1m程度の水深が
なければ、空気の吸い込みによる機器故障の危険があり、
使用できない。具体的には写真-6の様に広く浅く湛水
している場合である。このような箇所では、雨がやめば
自然に排水されると考えられるが、津波によるがれきや
土砂で排水路が閉塞してしまうと、排水が必要となる。
写真-6 水深の浅い湛水状況
排水する。
上越防災支援センター配備の排水ポンプ車は、軸
流式水中ポンプを装備しており、吸い込み口と吐
出口の両側に排水ホースをつなぎ、地上にポンプ
をおいたまま排水が可能である。
この構想については、6月に計画している上越地
域消防本部と高田河川国道事務所の合同訓練で、
試験を行う予定である。
写真―8に高揚程排水ポンプを写真-9に製作し
た継ぎ手アダプタの写真を示す。
(2) 消防ポンプ車の利点と問題点
これに対し、消防ポンプ車の真空ポンプは、アタッチ
メントの装着により、水深10cmの浅さでも、排水が
可能である。給水ホースに取り付ける低水深箇所用のア
タッチメントを写真-7に示す
水流
水流
吸込口
吐出口
(継手側より)
(排水先へ)
写真-8 高揚程排水ポンプ
写真-7 消防ポンプ車吸い込みアタッチメント
消防放水
消防ポンプ車は2本の吸い込みホースから内水を吸い
込み、4本の放水口から放水できる。ただし、1本の放
水口に対し、最低1名の消防隊員を配置する必要がある
ため、人員の確保が難しい際は対応が困難であった。
(3) 課題解決方法の検討
これらの課題を解決するために2台の連結について検
討した。構想図を図-7に、構想の概要を①~③に示す。
ホース
水流
65mm
(消防ポンプ車
より)
水流
(排水ポンプへ)
アダプタ
75mm
写真-9 継ぎ手とアダプタ
6. まとめ
図-7 消防ポンプ車の支援による排水構想
①3.で記した連結継ぎ手を流向を逆にして使用でき
るように新しい継ぎ手のアダプターを製作する。
②消防ポンプ車により、浅い水深の内水を吸い込む
③上越防災支援センター配備の高揚程型排水ポンプ車
を中継し、消防ポンプ車が吸い上げた水を河川へ
大規模災害の消火活動を、排水ポンプ車により、河川
水を給水するという形で支援する試みについて報告した。
また、消防ポンプ車による、内水排除活動への支援に
ついての検討結果を紹介した。
今回の取り組みによって、消防ポンプ車の構造を概略
理解でき、運用の方法を確立することができた。これに
より、細かな違いはあるかも知れないが、他の地域での
消防本部と連携を検討する際の、参考にできるのではな
いかと考えている。
揚程がある際の排水ポンプ車の送水延長の確認につい
ては、まだ詳細には実施していないが、揚程0mで10
0m先の消防ポンプ車への給水を行った際には充分な水
量を確保している。
今後ホース延長と流量の関係について調査し、揚程と
送水距離の把握をしておくことが、必要である。