総説3回連載躁うつ病の生化学 (III)-治療薬の作用機序

総説3回連載躁うつ病の生化学 (III)-治療薬の作用機序-高橋 良・仙波鈍
躁 うつ 病 の 成 因 を 最 終 的 に 明 らか に す る に は 中 枢 神 経 系 の 伝 達機 能 の 障害 を直 接 研 究 す
る こ とが 必 要 で あ る が, この 研 究 は 現在,
動 物 モ デ ル や正 常 動物 を 用 い て治 療 薬 の作 用機
序 を 解 明 す る こ とを 介 して 行 な わ れ て い る 。 そ の 結 果, 抗 うつ 薬 の 作 用 と して は β 受 容体
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の 減 少, ノル ア ドレナ リ ン感 受 性 ア デ ニ ル シク ラ ー ゼ 活 性 の 減 少 とセ ロ トニ ン-2受 容 体 の
減 少 が,
リチ ウ ム の 作 用 と して は ホ ス フ ァチ ジル イ ノ シ トー ル 回 転 の 低 下 が 注 目さ れ て い
る 。 な お, 本 連 載 の 最 終 回 と して, 残 され た 問 題 と今 後 の 展 望 に も ふ れ た 。
は じめ に
病 者 の体 液 や 細 胞 成 分 を 用 い た研 究 か ら躁
の効 果 発 現 ま で に は2∼3週
間 ほ どを 要 す る, (2)
ノ
うつ病 の 神経 伝 達 機 能 の 障 害 を 推 測 す る と とも に, 直
ル エ ピネ フ リ ン (NE)
接, 中 枢 神経 系 につ い て そ の所 見 を検 討 す る た め に は正
ンや ア ンフ ェ タ ミンに は,
取込 み 阻 害 作 用 を 有 す る コ カ イ
常 な らび に うつ 病 モ デル 動 物 を 用 い た 研 究 が 有 用 であ
込 み 阻 害 作 用 を もた な い ミア ンセ リンや イ プ リン ドー ル
る。 と くに, 臨 床 効 果 が 認 め られ た 治 療 薬 の 中 枢 作 用 機
な ど の いわ ゆ る非 定 型 抗 うつ 薬 が 開 発 され て い る, な ど
序 を 明 らか にす る こ とに よ って, 躁 うつ 病 の 成 因 に 迫 る
の矛 盾 点 が 指 摘 され てい る。 した が って, 非 定 型 抗 うつ
こ とが 期 待 され る。 今 日, 治 療 薬 の作 用 機 序 は 数 多 くの
薬 も含 め た 抗 うつ 薬 の長 期 投 与 後 の脳 内 の生 化 学 的 変 化
研 究 に もか か わ らず, そ の一 端 が 明 らか に され た にす ぎ
の うち, いず れ の抗 うつ 薬 に もみ られ る共 通 の変 化 を 明
な い。 しか し, 研 究 の前 途 は け っ して暗 くな い。 こ こ に
らか にす る こ とが 求 め られ て い る^<1)>。
モ ノア ミンの 代謝
最 近 ま で の成 果 を粗 描す る こ とにす る。
回転 につ い て は, 長 期 投 与 後 の ア ミ ンの最 終 代 謝 産 物 の
抗 うつ 作 用 が な い,
(3)
取
変 化 な どを指 標 とす る実 験 が 数 多 く行 なわ れ て きた が,
I.
抗 うつ 薬 の モ ノア ミ ン受 容 体 に 対 す る
共 通 の変 化 を認 め るこ とに は成 功 して い な い^<2)>。
近 年, い くつ か の グル ー プが, 抗 うつ 薬 の長 期 投 与 後
影響
に, ラ ッ ト大 脳 皮 質 のNE感
従 来 か ら抗 うつ薬 の作 用 機 序 は, 三 環 系 抗 うつ 薬 に つ
ゼ (AC)
受 性 ア デ ニ ル酸 シ ク ラー
の活 性 低 下^<3)>と,
これ に共 役 して い る β受 容 体
い て は モ ノア ミンの取 込 み 阻 害, ま た モ ノア ミン酸 化酵
数 の減 少^<4)>を
報 告 した 。 以 後, この β受 容 体 数 の減 少 は,
素 (MAO)
阻 害 薬 に つ い て は モ ノア ミンの 分 解 阻 害 な
ほ とん どの 抗 うつ 薬 に認 め られ るだ け で な く, 電 気 シ ョ
どに よ り, い ず れ も シナ プ ス 間 隙 の モ ノア ミンを増 加 さ
ッ クや レム睡 眠 遮 断 な ど の身 体 的 な 治 療 後 に も認 め られ
せ, 後 シナ プ ス受 容 体 に お け る利 用 率 を増 加 す る こ とに
る こ とがわ か っ た (表1)。
よ る と説 明 され て いた 。 しか し (1)
down
取込みや分解阻害
な ど の薬 理 作 用 は急 性 の効 果 で あ るが, 一 般 に 抗 うつ 薬
Ryo
Takahashi,
Jun'ichi
Semba,
こ の β受 容 体 の 低 下
が 増 加 した 結 果, 適 応 的 に 生 じた (“adaptive change”)
東 京 医 科 歯 科 大 学 医 学 部 精 神 神 経 医学 教 室 (〒113
東 京 都 文 京 区湯 島 1-5-45)
[Department
of Neuropsychiatry, Faculty of Medicine, Tokyo Medical and Dental University, Yushima, Bunkyo-ku,
113, Japan]
Biochemistry of Manic-depressive Disorders (III)-Action
Mechanisms of Therapeutic Drugs
トニン受容体】【リチウム】【動物モデル】
1702
(“β
regulation” と呼 ぼ れ る) は, シ ナ プ ス間 隙 のNE
Tokyo
躁
表1.
う つ 病 の 生 化 学 (III)
47
ドの選 択 や, α受 容 体 の シナ プ ス上 の存 在 様 式 な どが い
抗 うつ 薬 の β受 容 体 とセ ロ トニ ン_2受容 体 へ の 影 響
まだ 明確 で な い こ と も理 由 と して あげ られ よ う。
5-HT受
容体 につ い て は, 抗 うつ 薬 長 期 投 与 後 の変 化
は よ り複 雑 で あ る。5-HT受
^3H-5-HTで
容 体 は現 在 ま で の とこ ろ,
標 識 され るS_1 (こ の 中 で さ らにA
, B,
C
の サ ブ タ イ プに分 か れ る) と, ^3H-ス ピペ ロン やケ タン
セ リンで 標 識 され るS_2に 分 類 され て い る。 多 くの 抗 う
つ 薬 の 長 期投 与 に よ りS_2受 容 体 の減 少 が認 め られ て い
る^<13)>
(表1)
が, S_1受 容 体 の変 化 につ い て は一 定 の 結
論 は 得 られ て い な い^<2)>。
また, S_2受 容 体 の減 少 に つ い て
もい くつ か の例 外 が あ り, 抗 うつ 作 用 を もた な い ク ロル
プ ロ マ ジ ンな どの 抗 分 裂 病 薬 に も認 め られ, 電 気 シ ョッ
クで は逆 に増 加 す る こ とが知 られ て い る。
ま た, 抗 うつ 薬 の ア セ チ ル コ リンや ヒ ス タ ミ ン受 容 体
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に対 す る作 用 も知 られ て い るが, も っぱ ら 口渇, 便 泌,
眠 気 な ど の副 作 用 を ひ き起 こす と考 え られ て お り, 抗 う
つ 作 用 と直 接 に は 関 係 づ け られ な い。
モ ノ ア ミン受 容 体 に対 す る抗 うつ 薬 の 影響 を 概観 して
→ : 不 変,
↓ : 低 下,
み る と, 多 くの抗 うつ 薬 の長 期投 与 に よ り, β受 容 体 の
↑ : 増 加 。
減 少, NE受
容 性AC活
性 の 低下, S_2受 容 体 の 減 少 な ど
と も単 純 に考 え られ るが, これ に は い くつ か の 疑 問 点 が
が み られ る も の の, い くつ か の 例 外 が 存 在 し, す べ て の
あ る。す な わ ちNE取
込 み 阻 害 作 用 を もつ コ カ イ ンや ア
抗 うつ 薬 に共 通 で しか も特 異 的 な 変 化 は い まだ に見 つ か
ンフ ェ タ ミンな ど, また 前 シナ プス α_2受容 体 に 拮 抗 し
っ て い な い。 しか し, 躁 うつ 病 そ の も の の病 因 も単 一 と
NEの
は思 わ れ ず,
遊 離 を促 進 す る ヨ ヒンビ ンな どは, β 受 容 体 を 減
躁 うつ 病 の 生 化 学 的 異 種 性 の 研 究 と とも
少 させ ず, 一 方, 抗 うつ 薬 の長 期 投 与 後 も前 述 の よ うに
に, 抗 うつ 薬 の作 用 機 序 も解 明 され ねば な らな い で あ ろ
シ ナ プ ス間 隙 でNEが
う。
増 加 して い る と い う 確 証 が な
い こ とな ど であ る。 こ の β受 容 体 の 減 少 は,
例外的 に
こ の他 に も, 躁 うつ 病 の アセ チ ル コ リ ン仮 説^<14)>や
ドー
ミア ン セ リンや チ メ リジン な ど の非 定 型 抗 うつ 薬 には み
パ ミ ン仮 説^<15)>な
どが あ るが, そ れ ぞ れ の総 説 を 参 照 され
ら れ な いが, AC活
性 の低 下 は 認 め られ る。 この 所 見 は,
β 受 容 体 とAC系
は 生 化 学 的 には 共 役 して い て も, 抗
た い。
うつ 薬 は, 両 者 の間 の “脱 共 役” を ひ き起 こ して い る こ
と を示 唆 し, AC系
ヌ ク レオチ ド調 節 蛋 白質 (G蛋
白質) へ の影 響 な どが 注
目され る こ とに な った^<5)>。
ま た, これ ら β 受 容 体 減 少 や
AC活
II.
躁 う つ 病 のGABA仮
性 低 下 な ど に は, 健 常 な セ ロ トニ ン (5-HT)
が 必 須 で あ る とい う研 究 もあ り^<6)>,
5-HTとNEと
系
の相
Bartholini
と Lloyd
らは 躁 うつ 病 のGABA仮
提 唱 し, そ の 根 拠 と して, (1)
よれ ば, む しろ β受 容 体 の減 少 を 維 持 す る の が5-HT
系 の役 割 で あ る と い う。
の ほ か の 受 容 体, す なわ ち α_1,α_2に対 して, 抗
うつ 薬 が in vitro で 阻 害 作 用 を もち, そ の鎮 静 作 用 や 血
説^<16)>を
学 習 性 無 力 ラ ッ トや 嗅 球
除 去 ラ ッ トな どの うつ 病 モ デ ル動 物 で, GABA作
動性
機 構 が 低 下 して い る とい う報 告 が あ る こ と, (2)
躁 う
互 作 用 とい う点 で興 味 深 い が, 反 論 もあ る^<7)>。
朝 倉 ら^<8)>に つ 病 者 の脳 脊 髄 液 や血 漿 中 のGABAが
NE系
説
と β受 容 体 の間 に介 在 す る グ ア ニ ン
い う報 告 の あ る こ と, (3)
GABA作
低 下 して い る と
動 薬 であ る プ ロガ
ビ ドや フ ェン ガ ビ ンが, 学 習 性 無 力 ラ ッ トや 嗅 球 除 去 ラ
ッ トで抗 うつ 薬 と して の プ ロ フ ィー ル を もち, 臨 床 的 に
も抗 うつ 効 果 を有 して い る こ と^<17,18)>,
(4)
動 物 実 験 で,
圧 降 下 作 用 に 関 連 して い る こ とが 推測 され て い る^<9∼11)>。 非 定 型 抗 うつ 薬 を含 む 多 く の 抗 う つ 薬 の長 期 投 与 後,
しか し, 長 期 投 与 後 の変 化 につ い て は一 定 の 結論 は 得 ら
GABA_B受
れ て い な い^<2,12)>。
お そ ら く受 容 体 結 合 法 に お け る リガ ン
た 。GABA受
容 体 が 共 通 して 増 加 した こ と^<19)>な
どをあげ
容 体 は薬 理 学 的 にA,
Bの2種
類 に分 類 さ
1703
48
蛋 白 質
れ, Aは
核 酸
酵 素
Vol. 33
No.
フ ェン に感 受 性 が あ り, NE感
受 性AC系
(1988)
表2.
ビ ク ク リ ンに感 受 性 が あ り, Cl^-チ ャ ンネ ルや
ベン ゾジ ア ゼ ピ ン受 容体 と関係 して お り, Bは
10
抗躁薬の神経伝達物質系に対 す る影響
バ ク ロ
と関 係 して い
る^<20)>。
プ ロガ ビ ドに つ い て み る と, 急 性投 与 で はNE系
の促 進, 5-HT系
の低 下 とい う所 見 が 得 られ てい るが,
慢 性 投 与 ではNE系
に は耐 性 が 生 じ て β受 容 体 数 の減
少 は み られ ず, 従 来 の抗 うつ 薬 とは 生 化 学 的 に異 な る点
が あ る^<21)>。
ま たGABA作
動 系 は5-HTやNEな
どの
モ ノ ア ミ ン系 と 互 い に 影 響 を 及 ぼ しあ っ て い る の で,
GABA系
と モ ノア ミン系 の ど ち らが 最 初 に 変 化 して い
るか は, む ず か しい 問題 で あ る。 しか し, 今 ま で の抗 う
つ 薬 とは薬 理 作 用 機 序 の ま っ た く異 な る薬 物 の開 発 とい
う点 で は, 非 常 に 興 味深 い もの が あ る。
CBZ
: カ ル バ マ ゼ ピ ン,
DA
: ドー パ ミン,
ン,
NE
: バ ル プ ロ 酸,
: 確 実 な 上 昇,
低 下,
Li
: リチ ウ ム
: セ ロ トニ
安 定 化 。
△, ▽, ○ : 推 論 あ る い は 類 推 に よ る 上 昇,
低 下,
不 変 。
: 情 報 が 決定 的 で な い か あ る い は 存 在 しな い 。
(Waldmeier^<27)>に
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VPA
: ア セ チ ル コ リ ン, 5-HT
: ノル エ ピ ネ フ リン。
▲, ▼, ※
?
III.
Ach
よ る)
抗 躁 薬 (リ チ ウ ム, カ ル バ マ ゼ ピ ン,
バ ル プ ロ酸) の 薬 理 作 用
イ ノ シ トール (PI) 回転 に及 ぼす 影 響 が 注 目 され る よ う
にな った 。 と くにS_2受 容 体 はPI系
と関 連 して い る の
リチ ウム は, 躁 うつ 病 の予 防 と躁 病 の治 療 に有 効 であ
で, 現 在 最 も注 目 され る 分 野 と な っ て い る。 リチ ウ ム
る特 異 な 薬物 で あ る。 最 近, 大 熊 ら^<22)>に
よ りカル バ マ ゼ
は, 治 療 域 内 の濃 度 で イ ノ シ トー ルー リ ン酸 の水 解 を阻
ピ ン も リチ ウ ム と同 様 の効 果 の あ る こ とが 証 明 され, ま
害 してPI回
転 を低 下 させ る こ とが 知 られ て い る^<26)>
(図
たバ ル プ ロ酸 も一 部 で試 み られ て い る^<23)>。
これ らの 併 用
1)。 これ は, 数 少 な い リチ ウ ムの直 接 的 な薬 理 作 用 で あ
療 法 も また 有 効 で あ る とされ る。 これ ら抗 躁 薬 の作 用 機
る。 一 方,
序 は不 明 な 点 が 多 く, 中 で も代 表 的 な リチ ウ ム を取 り上
の抗 躁 薬 の共 通 の 薬 理 作 用 か ら, 躁 うつ 病,
げ る と, リチ ウ ム の長 期 投 与 で モ ノ ア ミン の代 謝 や 受 容
相 と うつ 病 相 とを く り返 す 双 極型 の躁 うつ 病 を生 化 学 的
体 が 変 化 す る こ とは 知 られ て い て も^<24)>,
そ の変 化 は大 き
に 解 明 す る試 み も行 な わ れ て い る^<27)>。
現在 までの とこ
リチ ウ ム, カル バ マ ゼ ピ ン, バ ル プ ロ酸 な ど
と くに躁 病
くな く, 脳 の部 位 ご とに変 化 の方 向 が 異 な った り, ま た
ろ, 表2に 示 した よ うに共 通 の薬 理 作 用 は 示 され て い な
各 研 究 者 間 で 意 見 が 一 致 せ ず, 実 験 結 果 の 解 釈 が 困難 で
い。 こ の 他,
あ った。 最 近 に な っ て, 細 胞 内 情 報伝 達 機 構 の研 究 が進
る^<28)>。
ク ロ ナ ゼ パ ムの抗 躁効 果 も注 目され て い
歩 し, 環 状 ヌ ク レオ チ ド系 とイ ノ シ トー ル リン脂 質 系 の
構 造 が解 明 され て くる と^<25)>,
リチ ウ ム の ホ ス フ ァチ ジル
IV.
う つ 病 モ デ ル
向 精 神 薬 の 開発 に と って, 動物 モ デ ル の存 在 は大 き な
助 け とな る^<29∼33)>。
ま た, 疾 患 の 成 因 の 研 究 に お い て も動
物 モデ ル の役 割 は 大 きい 。 精 神 分 裂病 に お け る, ア ン フ
ェ タ ミン モ デル は, そ の よい 例 で あ る。実 際, 抗 うつ 薬
を正 常 者 に投 与 して も, 眠 気 な どの 副 作用 の み 出 現 し気
分 の高 揚 な どは み られ ず, 抗 うつ薬 は うつ病 患者 を対 象
と して は じめ てそ の薬 理 効 果 が 出 現 す る。
抗 うつ 薬 の ス ク リー ニ ン グ テ ス トと して, レセ ル ピ ン
図1.
PI
イ ノ シ トール リン脂 質 の 代 謝 回 転
: ホ ス フ ァ チ ジ ル イ ノ シ トー ル,
イ ノ シ ト ー ル4-リ
ル4,
5-二
ン 酸,
リ ン 酸, I
ー ル 一 リ ン 酸,
〃
PIP
(テ トラベ ナ ジ ン) 拮 抗 作 用, ア ンフ ェ タ ミン増 強 作 用,
: ホ ス フ ァチ ジ ル
ヨ ヒ ン ビン増 強 作 用,
クロ ニ ジン拮 抗 作 用 な どが 用 い ら
PIP_2 : ホ ス フ ァ チ ジ ル イ ノ シ ト ー
: イ ノ シ ト ー ル,
ニ リ ン 酸,
〃
IP, IP_2, IP_3 : イ ノ シ ト
三 リ ン 酸,
PA
: ホ ス
れ るが^<29,30)>,
これ らの テ ス トで は い くつ か の非 定 型 抗 う
つ 薬 で は陰 性 に な る も のが あ り, 抗 うつ 薬 の共 通 の作 用
フ ァチ ジ ン酸 。
Li
1704
は││部
を 阻 害 す る。
機 序 や うつ 病 の病 因 を探 る うえ で は制 約 が 多 い。 した が
躁
う つ 病 の 生 化 学 (III)
49
って こ こで は, 狭 義 の うつ 病 モ デ ル につ い て述 べ る こ と
を 見 い だ し, 抗 うつ 薬 の 連 続 投 与 で 回復 す る こ とを確 認
とす る。
した 。 この モ デ ル で は, 初 期 に は 適 応 的 にNE代
進 し, さ らに長 期 にわ た る と逆 にNE合
1.
学 習性 無 力 モ デ ル
Seligman
謝 が亢
成 代 謝 の低 下 が
長 く続 く と考 え られ て い る。
ら^<35)>に
よ って 作 成 され た モデ ル で, 動 物 が逃
げ られ な い ス トレス を反 復 して受 け る と, 後 に逃 避 可 能
5.
な 状態 に な って も情 動 障 害, 行 動 量 や 欲 動 の低 下 な どの
Porsolt ら^<41)>に
よ り考 案 され た モ デ ル で あ る。 ラ ッ ト
うつ病 類 似 の 症状 を示 す とい う, いわ ば実 験 心 理 学 的 理
強 制 水 泳 モ デ ル (絶望 モデ ル)
を 水 を 入れ た シ リ ン ダー に 入 れ る と, は じめ は逃 げ 出そ
論 を 基 礎 に して い る。 一般 に, 逃 避 不 可 能 な電 撃 ス トレ
う と して も が くが,
スを ラ ッ トに 与 え て作 成 す る。 こ の動 物 に対 しイ ミプ ラ
い た ま ま動 か な くな る。一 定 時 間 内 の無 動 時 間 (immobi
ミンな どの 抗 うつ 薬 は連 続 投 与 で は じめ て有 効 で あ る こ
lity)は 抗 うつ薬 の前 処 理 で 短 縮 す る とい うこ とを 原 理
とが知 られ て い る^<36)>。
しば ら くす る と “諦 め た” よ うに浮
とす る。 彼 らは こ の無 動 状 態 を ラ ッ トが 逃 げ 出 す こ とを
諦 め絶 望 した 状態 と考 え, うつ 病 モ デル で あ り うる と提
2.
分 離 飼 育 モ デ ル^<37)>
唱 して い た が, 後 に は む しろ 抗 うつ 薬 の ス ク リー ニ ング
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幼 若 ザ ル を母 ザ ルや 仲 間 か ら分 離 して飼 育 す る と, 抑
テ ス トと して の役 割 を 強 調 して い る。 非 定 型 抗 うつ 薬,
うつ 状 態 に 陥 る こ とを基 本 に して い る。 いわ ゆ る小 児 の
電 気 シ ョ ッ ク, レム 睡 眠 遮 断 な ど も有 効 で あ るが, 抗 ヒ
分 離 抑 うつ (anaclitic depression)
の モ デ ル と して の妥
ス タ ミン薬 や 抗 コ リン薬 も 偽 陽 性 とな る。 原 法 を 改 変
当 性が 高 い よ うで あ る。 分 離 飼 育 した サ ル に, 抗 うつ 薬
して, 積 極 的 に 逃 避 し よ う と して い る 時 間 を 指 標 にす
が 有効 で あ る。 サ ル を用 い る こ とか ら実 験 上 の制 約 も あ
れば,
り, 研 究 は あ ま り多 くな い。
る^<42,43)>。
3.
ム リサ イ ドモデ ル^<38)>
6.
これ らの 偽 陽 性 を 除 外 で き る と い う 報 告 も あ
条 件 反 射 学 的 方 法 に よ るモ デ ル
ラ ッ トの 嗅球, 中脳 縫 線 核 な どを破 壊 した り長 期 に単
モ ノア ミ ンの枯 渇作 用 を もつ レセ ル ピ ンや テ トラ ベ ナ
独 飼 育 す る と攻 撃 性 が 高 ま り, マ ウ ス を ケ ー ジ に入 れ る
ジン の行 動 抑 制 作 用 に抗 うつ 薬 が 拮 抗 す る こ とは, 前 述
とこれ をか み 殺 す 行 動 (ム リサ イ ド) が み られ る よ うに
の よ うに よ く用 い られ る ス ク リー ニ ン グ テ ス トで あ る。
な る。 抗 うつ 薬 は こ の ム リサ イ ドに拮 抗 す る。 こ の とき
これ を利 用 しなが らも, そ の直 接 の 薬 理 作 用 を 除 い て作
の ラ ッ トの脳 内 の生 化 学 的 変 化 な ど につ い ては, 植 木 ら
成 され た モ デ ルが, 永 山 ら^<44)>に
よ っ て作 成 され た 。 す な
の研 究^<38)>に
詳 しい。 一 見, 攻 撃 性 と うつ 病 とは 現 象 的 に
わ ち, ラ ッ トに ブ ザ ー音 を条 件 刺 激,
は類 似 す る こ とが な い よ うに 見 え, 狭 義 の うつ 病 モ デ ル
無 条 件 刺 激 と して条 件 反 射 を作 成 させ る と, ブザ ー音 だ
と して の妥 当 性 に は 疑 問 を もつ 意 見 もあ る。 しか し, 生
け で テ トラ ベ ナ ジ ンな しに 行 動 抑 制 が 生 じる よ うに な
化 学 的 な研 究 対 象 と して は 作成 しや す く, 脳 内 の 研 究 も
る。 こ の行 動 抑 制 に イ ミプ ラ ミンな どが 有 効 で あ る。
テ トラベ ナ ジ ンを
行 な いや す い 利 点 が あ る。 こ の モ デ ル を 用 い て, 植 木
ら^<39)>は
抗 うつ 薬 の作 用 機 序 は5-HT系
NE系
を抑 制 し, 同 時 に
を促 進 させ る こ とに あ るの で は な い か とい う仮 説
を提 示 して い る。 この モ デ ル の 生化 学 的所 見 か らみ て,
うつ 病 の成 因 も, 5-HT系
の亢 進 とNE系
の低 下 とい う
見 地 か ら検 討 され るべ きか も しれ な い。
7.
5-ヒ ドロキ シ トリプ トファ ンモ デ ル
永 山 ら^<45)>は,
さ らに5-HTの
キ シ ト リプ トフ ァ ン (5-HTP)
慢 性 ス トレス モ デ ル
慢 性 的 な ス ト レスを 負 荷 した と きの行 動 量 の減 少 を指
標 とす る もの で あ る。 鳩谷 ら^<40)>の
強 制走 行 ス トレス ラ ッ
ドロ
た 。 ミル クを 強 化 因 子 と した ラ ッ トの ペ ダル押 し条 件 行
動 を指 標 と し, 少 量 の5-HTPに
と して い る。5-HTPの
4.
前 駆 体 で あ る5-ヒ
を用 い た モ デ ル を作 成 し
よ る行 動 抑 制 を モ デ ル
前 に投 与 した 定型 ・非 定型 抗 う
つ 薬 の 多 くは 慢 性 投 与 で, ヒ トの臨 床 量 に相 当 す る範 囲
内 で有 効 で あ る。 これ ら の モ デ ルか ら彼 らは, 従 来 の ア
ミン欠 乏 説 と は 逆 に,
うつ 病 は シ ナ プ ス間 隙 の5-HT
トも こ の中 に 含 ま れ よ う。 彼 らは, ラ ッ トを 回転 す る ケ
の過 剰 に よ り生 じ, 抗 うつ 薬 は 後 シ ナ プ ス に働 い て これ
ー ジの な か で 長期 間 強制 走 行 させ る と, 通 常 の飼 育 条 件
を正 常化 す る とい う5-HT過
剰 説 を^<45)>支
持 して い る。
に戻 して も 自発 運 動 量 が低 下 し, 性 周 期 も消 失 す る こ と
1705
50
蛋 白 質
核 酸
酵 素
Vol.
33 No. 10
(1988)
ど の よ うな条 件 が うつ 病 モ デ ル に必 要 か とい う問 題 に
成 して は じめ て躁 うつ 病 の本 態 の全 貌 が 科学 的 に解 明 さ
は, い ろ い ろ な立 場 か らの意 見 が あ る で あ ろ う。 永 山 ら
れ た こ とに な る とい え る。 そ の た め に は 大脳 機能 の生 理
は, ヒ トの うつ 病 の 症状 との類 似 性, 共 通 性 の存 在 と う
学, 遺 伝 子 工 学, 分 子 生物 学 な どの知 識 と技 術 が さ らに
つ 病 治 療 法 の有 効 な こ とを あ げ て い る。 この 条件 を す べ
進 歩 し, そ れ を この 領 域 に 大 幅 に 取 り入 れ る こ とに よ っ
て か つ 客 観 的 ・定量 的 に 満 た す モ デ ル は い まだ 存 在 しな
て, 突 破 口が 開 か れ る で あ ろ う。 そ して, す で にそ の方
いが, い くつ か の うつ 病 モ デ ル を組 み 合 わ せ, そ の 限 界
向へ の研 究 は 進 め られ つ つ あ り, 今後 の 成 果 が 期 待 され
な どを 慎重 に 判 別 して ゆ く こ とで, うつ 病 の生 化 学 的 機
る。
序 の解 明 に役 立 つ もの と考 え られ る 。
文
お わ りに
本 稿 で は, 躁 うつ 病 の を成 因 をめ ぐる生 化
学 的 研 究 の近 年 の動 向 を展 望 した が, 病 者 につ い て は 中
枢 伝 達 機 能 を反 映 す る髄 液 内伝 達 物 質 や血 小 板 ・白血 球
1)
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だ され て い る。 こ れ らの知 見 を通 して認 め られ る 特 徴 は,
し て い て, 抗 うつ 薬 もこ の受 容 体 とそ の後 の情 報 伝 達 に
み が 問 題 とな
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朝 倉 幹 雄 ・塚 本
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る の で な く, 他 の 神経 伝 達物 質 も 関 係 して い る所 見 が 少
な か らず示 され て い る。 問 題 は うつ 病 の発 症 に と って ど
Biochem.
3)
働 い て効 果 を発 揮 す るの か も しれ な い, とい う こ とな ど
で あ る。 しか しこ の場 合, NEや5-HTの
F.:
(1983)
2)
た とえ ば うつ 病 は 当初 想 定 され た よ う なNEや5-HT
の 欠 乏 に よる も の で な く, 中 枢受 容 体 活 性 の 変 化 に 関 係
M.
1811-1817
の 受 容 体, 負 荷 テ ス ト反 応, 自殺 者 脳 の受 容 体 な どに焦
点 を お い た 研 究 が 主 流 とな り, さ ま ざ ま な新 知 見 が 見 い
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の 神 経 伝 達 物 質 系 が一 次 的 に 関 与す るの か, あ るい は う
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系 がす べ て重 要 な の か とい っ た 点が い ま だ 明 らか で な い
10)
こ とで あ る。 この こ とは, 双極 型 感情 病 に お い て しば し
ば み られ る うつ 病 相 か ら急 に 躁 病 相 に 変 化 す る躁 転 現 象
は 中 枢 神経 系 の ど の よ うな 生化 学 的 機 構 に よ るの か, 内
Ther.,
11)
の な の か な どの 疑 問 と と もに, 今後 新 た な方 法論 で 解 決
13)
14)
15)
本 連 載 の は じめ の 概説 で述 べ た よ うに, 双 極 型 感 情病
ー カ ーが 発 見 され るか も しれ な い。 しか し, 単
機 序 の 研 究, 換 言 す れば 心 身 相 関 の 中 枢 機 序 の砥 究 が 完
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とい って よい ほ ど心 理・社 会 的 な 誘 発 因 子 が 認 め られ る。
こ の よ うな 心 理 的 次 元 の ス トレスが うつ 病 を発 症 させ る
J.,
Peroutka,
Bull.,
17)
で 単 極 型 うつ病 の 多 発 家 系 に つ い て も 新 た な 罹 病 性 の
極 型 うつ 病 も双 極 型 うつ 病 も と もに 初 回 の発 症 には 必 ず
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力 な示 唆 を与 え て くれ るで あ ろ う。
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つ 病 者 に応 用 され つ つ あ るが, これ も こ の課 題 解 決 に有
の 素 因 と して の 遺 伝 子 が 同 定 され るな らば,
Nelson,
94
Wander,
-319
さ れ な け れば な ら な い課 題 であ る。 受 容 体 を 画 像 化 す る
ポ ジ トロ ン・エ ミ ッシ ョ ン・トモ グ ラ フ ィ ーが す で に躁 う
230,
12) ’©‘qŠ²•v•E’Ë–{ “O : –ò•¨•E•¸•_•E•s“®,
因 性 うつ病 像 と して うつ病 に 特 徴 的 な 精 神 身 体 面 の日 内
変 動 や 睡 眠 リズ ム の異 常 の 生化 学 的 背 景 は どの よ うな も
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