ちょっと詳しく

SINE挿入に基づく「歯鯨亜目の単系統性」の再検証
~やはりマッコウクジラは歯鯨であった~
ミリンコビッチ系統仮説
(ミトコンドリアDNA比較)
イルカ類
対立
歯鯨亜目
歯鯨亜目
伝統的系統仮説(形態的分類)
ヒゲクジラ類
マッコウクジラ類
ヒゲ鯨亜目
ヒゲ鯨亜目
マッコウクジラ類
イルカ類
ヒゲクジラ類
より近縁?
マッコウクジラ類
ヒゲクジラ類
ヒゲ鯨亜目
イルカ類
歯鯨亜目
我々にも親しみの深い「クジラ」や「イルカ」は鯨目として大きなグループにまとめられ、その鯨目
は、歯を持ち反響定位能力の優れた歯鯨亜目(マッコウクジラやイルカ)と、歯の代わりにヒゲ板を
持ちプランクトンを濾しとって食べるヒゲ鯨亜目(ザトウクジラやミンククジラ)に大別されていま
す。この2つのグループは形態学的に見ると亜目内にて特徴的な形質が数多く見受けられ、それぞれ
が単系統群を形成する(共通の祖先をもつ)とされてきました。ところが1993年、ミリンコビッチに
よってなされたミトコンドリアDNA解析に基づく系統樹では、それまで伝統的に歯鯨類として分類さ
れてきたマッコウクジラ上科のグループが、歯クジラではなく髭クジラにより近縁であるという驚く
べき結果が示され、鯨類の系統に関する大きな論戦が始まりました。そこで我々はSINEを用いてこの
問題の解決に乗り出し、マッコウクジラを含めた歯クジラ類にのみ共通に挿入したSINE を発見、つま
り伝統的な形態学研究が支持してきた歯鯨亜目単系統性を示すことで、ミリンコビッチらとは完全に
相対する立場をとりました(Nikaido et al. 2001 PNAS)。これに続いて多くの研究者がDNAを指標に
この問題を吟味してきましたが、十分な統計的証拠をもって「歯鯨類は単系統である」ことが我々以
外の研究から支持されることはありませんでした。また2001年の時点でなされた我々の解析だけでは、
厳密には対立するミリンコビッチらによる系統仮説を完全には棄却しきれていないこともわかり、こ
の問題に関する最終決着をつけるべく、広範な種を対象に大規模なSINE配列の単離をおこない、系統
推定をおこなうこととしました。その結果、マッコウクジラを含めた歯鯨亜目に属するグループが単
系統群を形成するという我々の以前の系統仮説を支持する遺伝子座が合計12座位見出され、この結
果はほぼ間違いないということがわかりました。この研究論文は、歯鯨類の単系統性に関わる研究の
最終結論を見出す意味でも非常に重要なものであったと考えています。
Ascertainment Biasの可能性を取り除いた解析によるクジラ類の系統樹
歯鯨亜目は単系統群を形成する:SINEが示した最終結論