9.性的虐待が気になるとき 性 的 虐 待 とは、児 童 虐 待 の中 でも子 どもの発 達 段 階 に不 適 切 に加 えられる性 的 被 害 であり、加 害 者 の性 的 満 足 あるいは支 配 欲 を満 たす卑 劣 な行 為 です。成 長 期 の子 どもにとって性 の安 全 が侵 害 さ れ、健 全 な性 の発 達 が権 力 や立 場 上 有 利 な人 物 に脅 かされ、計 り知 れない心 の傷 をもたらしうる出 来 事 です。傷 がないとか、性 器 の挿 入 がされていないということが被 害 がないことにはなりません。日 本 では事 例 として上 がっているのはまだ氷 山 の一 角 であると言 われています。女 児 のみならず男 児 も 被 害 児 になりうることも見 逃 してはなりません。また被 害 時 の年 齢 も様 々です。小 さいうちから徐 々に 慢 性 的 に被 害 を受 けているとなかなか気 づかれず、被 害 児 本 人 も価 値 観 が形 成 されないうちの被 害 のため、無 意 識 に加 害 者 をかばって事 実 を隠 すことも想 定 して対 応 す べきです。 性 的 虐 待 の開 示 : 親 からの被 害 では非 加 害 親 に打 ち明 けることがありますが、それが加 害 者 に知 られるとかえって被 害 を大 きくする場 合 があります。養 護 教 諭 や学 級 担 任 に相 談 や開 示 があった場 合 は、周 囲 に知 られ るなど事 を大 きくしないように配 慮 しながら、医 療 機 関 との連 携 を取 り、保 護 が必 要 なケースでは児 童 相 談 所 に通 告 します。学 校 、塾 等 での被 害 の場 合 は、医 療 機 関 に相 談 があれば、警 察 や児 童 相 談 所 と連 携 して対 処 します。 医 療 機 関 での診 察 のプロトコール: 1) 時 間 をかけて全 身 診 察 を行 う 性 的 な被 害 といっても性 器 だけに加 えられるとは限 りません。触 れられるだけでなく、性 的 な行 為 を要 求 される場 合 や、性 的 な行 為 やものを見 せられる場 合 には身 体 には何 の変 化 もありません。 しかし、全 身 診 察 をすることによって、何 かを咥 えさせられたことを開 示 したり、同 時 にその他 の身 体 的 虐 待 を伴 っていることを明 らかにすることができます。身 体 的 被 虐 待 児 と考 えられる場 合 でも 性 的 虐 待 が隠 れている場 合 があります。 性 器 診 察 だけをすべきではないのは、その他 の部 位 から診 察 することによって、見 たり写 真 を取 ることに慣 れてもらうことや、他 の部 位 の診 察 から被 害 につながる証 言 が得 られることがあるため です。緊 急 で診 察 をする必 要 があるケースは少 なく、本 人 に同 意 を得 て、落 ち着 いた環 境 で行 い ます。 性 器 の診 察 は同 意 を得 たうえで本 人 のペースに合 わせて行 います。診 察 の結 果 によって二 次 被 害 を起 こさない細 心 の配 慮 が必 要 です。 2) できれば同 性 診 察 が好 ましい 専 門 家 に身 体 を診 てもらうことで、被 害 児 が身 体 には問 題 がないという安 心 感 を持 つことが大 事 で、加 害 者 と同 性 の診 察 医 ではないほうが好 ましいが、本 人 の同 意 が得 られれば構 いません。 3) 原 則 として親 は同 席 しない 幼 少 のため、どうしても親 がいないと診 察 が出 来 ない場 合 を除 き、親 に言 えない重 要 な情 報 を引 き出すためにも親 は同 席 しないことが原 則 です。 4) 質 問 はオープン・エンディッド・クエスチョンで なるべく何 度 も同 じ事 を聞 かないように 1 回 の診 察 でなるべく多 くの情 報 が得られるようにします。 イエス・ノーではなく、オープン・エンディッド・クエスチョンで情 報 を引 き出 します。こちらからすでに 持 っている情 報 を提 示 したり、誘 導 するような質 問 は避 けて、誰 によって、身 体 のどこに何 があっ たのかを聞 き出 します。幼 少 児 では、うまく話 せないことがありますが、なるべく本 人 の言 葉 で語 っ てもらいます。黙 ったり下 を向 くなど、語 れないというのもひとつの情 報 です。 被 害 を警 察 に届 け て訴 える手 続 きには、全 身 診 察 、司 法 面 接 を経 て、意 見 書 を提 出 しますので、必 要 に応 じて検 査 を行 います。所 見 の記 録 は、診 療 録 だけでなく、全 身 の各 部 位 の写 真 、外 陰 部 については可 能 で あればコルポスコープで写 真 やビデオを撮 ります。また診 察 の様 子 はビデオには撮 りませんが、筆 記 記 録 を取 りながら診 察 することを避 けるために録 音 をしたメディアを保 存 します。これらは全 てそ の子 に判 るように説 明 します。問 題 がなければそのことをきちんと告 げて、あなたの身 体 は問 題 な いですよと安 心 させることも大 切 です。 17 検 査 と治 療 : 1) 性 感 染 症 クラミジア検 査 、淋 菌 検 査 ・HIV 検 査 等 帯 下 が多 いなど症 状 が疑 われる場 合 は、ジスロマック 1000mg/1回 を処 方 尿 の培 養 、および検 鏡 で淋 菌 や精 子 が見 つかることもある 2) 妊 娠 検 査 尿 の妊 娠 反 応 検 査 を行 う 精 液 に触 れる行 為 から 2 週 間 以 内 の場 合 は緊 急 避 妊 薬 (ノルレボ)の処 方 をして妊 娠 を回 避 す る 3) その他 後 からいつでも必 要 に応 じて検 査 や治 療 ができることを告 げる 性 感 染 症 や妊 娠 については被 害 から時 間 が経 っていない場 合 は、2~3週 間 後 に再 検 査 を行 う 診 察 所 見 とその対 応 : 1) 身 体 的 訴 えから 性 的 虐 待 だけでなく身 体 的 虐 待 を受 けていないか 2) 性 器 の診 察 から 小 さい子 では傷 がなくても性 被 害 がないことにはなりません 四 つん這 いの姿 勢 と仰 向 けの姿 勢 で処 女 膜 の欠 損 の有 無 を確 認 します 3)性 感 染 症 の症 状 HIV、梅 毒 、淋 菌 、クラミジア、ヘルペス、扁 形 コンジローマなどの性 感 染 症 は性 交 によって生 じるので、思 春 期 前 の性 感 染 症 では性 的 虐 待 の可 能 性 を考 えなければなりません 4)妊 娠 母 体 保 護 法 第 14 条 2項 によって妊 娠 11 週 6 日 までは妊 娠 初 期 中 絶 、妊 娠 21 週 6 日 までは中 期 中 絶 が可 能 です。それ以 降 では出 産 までのケア、新 生 児 の受 け入 れ先 の確 保 などが必 要 です 終 わりに 性 的 虐 待 を受 けた子 どもは、身 体 に傷 がなくても自 尊 感 情 の低 下 や性 嫌 悪 など生 涯 にわたる被 害 を受 けます。子 どものいうことだからと見 過 ごさないで性 被 害 を疑 った場 合 には関 係 機 関 が連 携 して 子 どもを守 ることが大 事 です。 日 本 小 児 科 学 会 子 ども虐 待 問 題 プロジェクト、2006.4 日 本 小 児 科 学 会 こど も の 生 活 環 境 改 善 委 員 会 、 2 0 1 4 . 3 修 正 18
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