ECMOの機械的合併症 ECMOmechanicalcomplications 慈恵ICU勉強会 臨床工学部 渡邊拓也 2016年10月11日 Introduction • 近年ECMOは「CESARtrial」「H1N1」におい て治療としての有用性が示されている。 • 治療法の発展と共に、装置や回路の進歩し ているが、機械的な故障や回路の破損など の合併症は0にはならない。 • 今回、機械的合併症の頻度と、合併症の原 因について説明をする。 目次 p ECMOの機械的合併症の頻度 p JASECTのアンケート結果 p 特性を理解して、トラブルに備える p まとめ ECMOの機械的な合併症の頻度 BroganTV,Thiagarajan RR,Rycus PT,BartlettRH,BrattonSL. IntensiveCareMed.2009Dec;35(12):2105-14.[PMID:19768656] Design: Retrospectivecasereview Setting : UnitedStates116施設 Internationalcenter14施設 Patients : ELSOregistryfrom1986–2006 age≧16の呼吸不全患者を抽出 患者数1473名(ECMO施行件数1519件) 初回のECMO施行について解析を行った。 1989年に設立 1984年よりECMO症例を登録開始 レジストリーレポートによる報告やガイ ドラインの作成、教育的シミュレーショ ンの作成など 目的:ECMO施行中の臨床および治療に関連する因子を調査する 生存者と非生存者との比較 近年のデータとして 2002年〜2006年を分けて解析 生存者と非生存者は50% 年齢、体重に有意差あり 白人、ARDS・肺炎患者が多い ECMO施行中の合併症 年代ごとの合併症の発生頻度 機械的な合併症は約30%の割合で発生している 非生存ECMO患者の予測因子 多変回帰解析 回路の破損はECMO患者の死亡の要因 →回路破損は致命的なトラブルとなる しかしながら、近年のデータでは有意差はない 遠心ポンプなどの使用によるデバイスの発展が影響 0-30日まで 30日以上 18歳未満 18歳以上 日本は8施設が登録(都立小児総合医療センサー、千葉大、大阪大など) 呼吸補助ECMO 機械的合併症の頻度 n=2941 人工肺不良504件、人工肺血栓384件 カニューレトラブルは237件で多い ポンプ機能不全は68件 ローラーポンプチューブの破損は生存率が悪い 合併症としての登録は回路交換や治療の変更を必要としたもの、臓器不全を伴ったものを登録している 循環補助ECMO 機械的合併症の頻度 n=2104 人工肺不良363件、人工肺血栓239件で多い ポンプ機能不全は17件で、呼吸補助に比べ少ない ローラーポンプチューブの破損は生存率が悪い 合併症としての登録は回路交換や治療の変更を必要としたもの、臓器不全を伴ったものを登録している 人工心肺ならびに補助循環に関する インシデント・ アクシデントおよび安全に関する アンケート 2015 JaSECT会員が所属する471施設が回答 日本体外循環技術医学会 安全対策委員会 http://jasect.umin.ac.jp/safety/pdf/2015anzenanke-tokekka.pdf 患者影響レベル レベル0 間違ったことが発生したが、患者さんには実施されなかった場合 レベル1 事故による患者さんへの実害はなかったが、何らかの影響を与えた可能性があり、観察 を強化し、心身への配慮が生じた場合 レベル2 事故により、バイタルサインに変化が生じ、患者さんへの観察・強化または検査の必要性 が生じた場合 レベル3a 事故のための治療の必要が生じた場合 (酸素濃度や吹送ガスの変更、使用中の薬剤の増量、減量など) レベル3b 事故のための治療が生じた場合 (本来必要でなかった治療・術式の追加・変更、体外循環法の変更、事故のための低体 温処置、事故のため薬剤追加、など) レベル4 事故による永続的な障害や後遺症が残った場合 レベル5 事故が死因となった場合 全体で5.17%の頻度で機械的な合併症が発生している 主な機械的合併症 p 突然の血液ポンプの停止もしくは流量低下 p 流量センサー p 回路内への空気の引き込み p 意図しない回路からの出血 p カニューレ p 移動中や移動先(CT室やアンギオ室) p 電気の供給停止 p 医療ガスの供給停止 ELSO registry や Jasectアンケートより 機械的な合併症は5〜30%の頻度で発生する ECMOの 特性を理解して、トラブルに備える ECMOの回路構成 閉鎖回路であるため、途中で空気が抜ける部分がない 遠心ポンプの特性 脱血側 陰圧 送血側 陽圧 写真 • • • • • • • テルモ株式会社提供 インペラの高速回転により遠心力を作り、血液を送るポンプ 血液成分や凝固線溶系への影響が少ない。 大量の空気混入で空回りをして、送血ができなくなる。 送血流量が送血側の抵抗によって影響を受ける。 送血側が閉塞した場合、回路破裂を起こさない。 回転数を送血流量は比例しないため、流量センサーが必要 回転がなくなると、回路を閉鎖している部分がない。 遠心ポンプの異音 耳鳴りのような高音 キーーーン →軸劣化の可能性 引っかかるような音 ジャリ ジャリ ジャリ →軸に血栓の可能性 対応:回転数の上下で改善しない場合は回路交換を検討する 異音状態の使用により軸が破綻する可能性がある 人工肺の機能 吹送ガス 換気 CO2 O2 血流 ファイバーの中を吹送ガス、外を血液が流れて 酸素の取り入れ、二酸化炭素の排出が行われる。 人工肺ガス出口から水分 ガス側に結露が発生 Wet Lung 対応:定期的なガスフラッシュにより結露を吹き飛ばす 人工肺ガス出口から泡(血漿) 疎水性の膜が劣化 親水性となり血漿がガス側に漏れ出す Plasma Leak 対応:回路交換を検討する 人工肺性能:酸素添加能 テルモPCPSエマセブ添付文書より 送血側と脱血側の色の差異 回路内血栓 ECMO回路圧 250mmHg 陰圧 CVP 5mmHg ABP 60mmHg 陽圧 -100mmHg 揚程 圧力損失 圧力損失 2000rpm 遠心ポンプによる揚程で動脈圧に負けない圧力を作る 回路空気が混入 陰圧 CVP 5mmHg 陽圧 -100mmHg エア抜き 三方活栓 カニューレ 先端 250mmHg プライミング 三方活栓 ABP 60mmHg その他の原因 • 回路のキンクやクランプによるキャビテー ションにより空気が発生 • 脱血側の回路の破損により空気が混入 カニューレ 接続部 2000rpm 脱血側の回路内圧は強い陰圧となるため、空気を引き込む 回路からの出血 CVP 5mmHg 陰圧 250mmHg ABP 60mmHg 陽圧 -100mmHg その他の原因 • 送血側の回路の破損により出血する サンプリング 三方活栓 エア抜き 三方活栓 カニューレ 接続部 2000rpm 送血側の回路内圧は強い陽圧となるため、血液が噴き出す カニューレ 先端 ECMOのWeaning CVP 5mmHg 120mmHg 陰圧 回転数を下げる場合は動脈圧に 負けないだけの揚程が 必要であることを意識する ABP 100mmHg 陽圧 -50mmHg 揚程 圧力損失 血流量を下げたい場合は 1000回転を最低限の回転数とし 鉗子またはオクルーダーで血流量を コントロールする 圧力損失 1000rpm 遠心ポンプの揚程が動脈圧に負けないようにしないといけない 遠心ポンプが止まった場合 ABP 60mmHg CVP 5mmHg 動脈圧から静脈圧との圧勾配で回路に逆流が起こる 圧力損失 圧力損失 0rpm 回路内に逆流を防止する弁などはないため、シャントとなる まずは鉗子 ①遠心ポンプの故障や装置が停止した場合は まずは回路を鉗子で遮断し、血液の逆流を防ぐ ②代替えの手段へ ハンドクランクの使用 →その間に予備の装置を準備 写真 テルモ株式会社提供 ※必要があればCPRの開始、人工呼吸器の設定変更 まとめ p ECMO施行中の機械的な合併症の頻度は 5〜30%の頻度で発生する可能性がある。 p 生命維持の要となる装置であるため、回 路の破損や機械の故障は患者生命に直 結する。 p ECMO装置の特性を理解し、適切な対応 を速やかに取る必要がある。 p 今後は医師・看護師・臨床工学技士を含 めた合同のシュミレーショントレーニングを 企画したい。 その他のアンケート結果
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