第2章 持続可能な開発指標作成の背景

第二章 持続可能な開発指標作成の背景
持続可能な開発指標作成の背景を理解するにあたって、持続可能な開発指標作成の必要
性を示したアジェンダ 21 とアジェンダ 21 の行動計画を管理する CSD の理解は欠かせな
い。以下順に、アジェンダ 21 とその内容、CSD について紹介する。
2.1.アジェンダ 21
アジェンダ 21(Agenda21)は、1992 年ブラジルのリオデジャネイロで開かれた国連
環 境 と 開 発 会 議 (United Nations Conference On Environment and Development ;
UNCED,通称 地球サミット(Earth Summit)とも呼ばれる)で環境と開発に関するリオ宣
言(Rio Declaration on Environment and Development)とともに採択された、21 世紀に
向けて持続可能な発展(Sustainable Development)を実現するための世界行動計画である。
Sustainable Development の語は 1987 年に出された Bruntland 委員会の報告書"our
Common Future"の中で"development that meets the needs of the present without
compromising the ability of future generations to meet their own needs"と定義された
が、この"持続可能な開発"の語と概念が使われてきている。
アジェンダ 21 は全部で 40 章にも及ぶ膨大な文章で、そのカバーする範囲も貧困の撲
滅、消費と生産の形態の変更から大気、海洋、淡水資源の保全・管理、森林減少対策など
の個別の分野、さらには各行動を担う主体の役割や技術移転の促進、対処能力の強化、教
育・意識の啓発・訓練、研究協力などの推進、国際的な機構の整備に至るまで、きわめて
広範多岐にわたっている。
前文をなす第1章を除いた 39 章が大きく 4 部に分けられ、第Ⅰ部が「社会・経済的側
面」
、第Ⅱ部が「開発のための資源の保全と管理」
、第Ⅲ部が「主たるグループの役割の強
化」、そして第Ⅳ部が資金源および資金調達メカニズムのあり方を含む「実施手段」とな
っている(アジェンダ 21 の概要については表 1.1 を参照)。
各章はさらにプログラム(活動)分野別に A,B,C などの節あるいは項に細分化され、
各節または項ごとに「行動の基礎」
、
「目的」、
「行動」および「実施手段」が詳細に記述さ
れている。
行動計画の進捗・達成状況を客観的に把握・評価できるよう、
「目的」あるいは「行動」
に関する記述はできるだけ数値的に表すような努力がなされるとともに、「実施手段」の
項目ではアジェンダ 21 の各章に規定された活動の実施のために必要とされるおおよその
資金の規模が試算値として示されている。
この活動計画の管理は、次に紹介する国連内の CSD によって行われている。
表 1.アジェンダ 21 の概要
1.アジェンダ 21 前文
第Ⅰ部 社会・経済的側面
第Ⅰ部 社会・経済的側面
2.発展途上国の持続可能な発展を促進するための国際協力と国内政策
2
3.貧困の撲滅
4.消費形態の変更
5.人口動態と持続可能性
6.人の健康の保護と増進
7.持続可能な人間居住の開発の促進
8.意思決定における環境と開発の統合
第Ⅱ部
開発のため
開発のための資源
のための資源の保全と管理
の資源の保全と管理
9.大気保全
10.陸上資源の計画および管理への総合的アプローチ
11.森林減少対策
12.脆弱な生態系の管理:砂漠化と旱ばつの防止
13.脆弱な生態系の管理:持続可能な山岳開発
14.持続可能な農業と農村開発の促進
15.生物多様性の保全
16.バイオテクノロジーの環境上適正な管理
17.海洋、閉鎖性・準閉鎖性を含むすべての海域および沿岸域の保護
ならびにこれらの生物資源の保護、合理的利用および開発
18.淡水資源の質と供給の保護
19.有害化学物質の環境上適正な管理
20.有害廃棄物の違法な国際的移動の防止を含む、有害廃棄物の環境上適正な管理
21.廃棄物の環境上適正な管理
22.放射性廃棄物の安全かつ環境上適正な管理
第Ⅲ部
主たるグループの役割の強化
23.第Ⅲ部の前文
24.持続可能かつ公平な発展に向けた女性のための地球規模の行動
25.持続可能な発展における子供および青年
26.先住民およびその社会の役割の認識および強化
27.非政府組織(NGO)の役割の強化
28.アジェンダ 21 の支持における地方自治体のイニシアティブ
29.労働者および労働組合の役割の強化
30.産業界の役割の強化
31.科学的、技術的団体
32.農民の役割の強化
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第Ⅳ部
実施手段
33.資金源およびメカニズム
34.環境上適正な技術の移転、協力および対処能力の強化
35.持続可能な発展のための科学
36.教育、意識啓発、訓練の推進
37.途上国における能力開発のための国のメカニズムおよび国際協力
38.国際的な機構の整備
39.国際的法制度およびメカニズム
40.意思決定のための情報
2.2.CSD
アジェンダ 21 の実施状況を監視し、その円滑、着実な実施を促すために、国連の経済
社会理事会の下に設けられたのが、53 カ国の政府代表からなる「持続可能な開発委員会
(Commission on Sustainable Development ; CSD)」である。
CSD は 、 地 球 サ ミ ッ ト に 先 立 つ こ と 20 年 前 の 国 連 人 間 環 境 会 議 (United Nations
Conference on the Human Environment ; UNCHE,スウェーデンのストックホルムで開
催された)の反省から、設置された。
UNCHE では、ストックホルム人間環境宣言とともに行動計画が採択されたのである
が、宣言の中でうたわれ、その後の国際環境法の発展に大きな影響を及ぼしたいくつかの
原則(たとえば環境権の確立に関する原則の規定、越境汚染についての国家責任に関する
原則 21 など)を除いて、「行動計画」の方はほとんど実行に移されなかった。
その要因のひとつは、行動計画の実施状況を恒常的に追跡把握し、必要に応じて各国政
府、国際機関などに対し勧告を行うなど、協力に行動計画を推進していくための制度、メ
カニズムが設けられなかったこともその一因であったと言われている。
この反省に立ち、1992 年の UNCED では、アジェンダ 21 の実施状況を監視し、推進
する機関を新たに設置することとなった。
こうして誕生したのが CSD である。
CSD は、アジェンダ 21−特にその第Ⅳ部「実施手段」の中の第 38 章「国際的な機構
の整備」に関する規定−に従って、国連総会の決議により、経済社会理事会の下に新たに
設けられた機能委員会のひとつであり、その事務局は、国連本部の機構改革によって新た
に設けられた「政策調整・持続可能な開発局(Department for Policy Coordination and
Sustainable Development ; DPCSD)」が担当する。
CSD は、毎年 1 回、2 週間程度の会合を開き、そのうち 2 日間は閣僚級の参加を得て
討議が行なわれるハイレベル・セグメントに当てることになっている。
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1993 年 4 月に開かれた第 1 回の CSD 会合では、アジェンダ 21 の全 40 章を課題分野
ごとにいくつかのクラスターに分け、以後毎年各クラスター別の行動計画の進捗状況の審
査を行なっている。
2.3. CSD の SD 作成作業
アジェンダ 21 の第 40 章(意思決定のための情報)の冒頭では、「持続可能な発展にお
いては、誰もが広い意味での情報の受け手であり、送り手である」、と記されている(国
連事務局、1993)。
これは、持続可能な発展に向けて行動するためには、高度な政策決定から、個人の日常
生活に至るまで、あらゆる場面で信頼できる情報に基づく決定が必要であることを述べた
ものである。
また、この第 40 章は、意思決定に信頼できる根拠を提供するために、持続可能な発展
の指標(Sustainable Development Indicators ; SDI)の開発と利用が必要であることを謳
っている。
国連内にアジェンダ 21 の実行機関として設けられた CSD は、アジェンダ 21 の第 40 章
に述べられた指標開発の必要性が確認されたことを受け、指標の検討を進めた。
その実務は、CSD の事務局である政策調整・持続可能な開発局(DPCSD)が担当してい
る。
1993 年の CSD 第1回会合において、アジェンダ 21 第 40 章に述べられた指標開発の
必要性が確認されたことを受け、DPCSD は(DESIPA(Department for Economic and
Social Policy Analysis)と協力して、指標の検討作業に着手した。
1994 年の CSDⅡでは、持続可能な発展の指標開発を性急に進めることに、途上国など
から慎重論が出され、指標開発が政治的に敏感な問題であることが再認識された。
指標開発作業が、欧米の専門家を中心に進められることにより、持続可能な発展が「北」
の価値観で規定されることを懸念したためであろう。
こうした状況の中、DPCSD は指標開発の 5 年間の作業計画と、すべての国で比較的容
易に算定、利用が可能な指標リストの作成に着手した。
1995 年 4 月の CSDⅢで、指標開発の作業計画が承認され、ほかの専門機関の協力を得
て「持続可能な発展の指標作業リスト」(以下 CSD リストと呼ぶ)を作成し、指標群を精
査した後にいくつかの国で試用する方針が定められた。
CSD リストの指標群については、個々の指標の概念、重要性、計測手法、基礎となるデ
ータの所在等を記したメソドロジーシートと呼ばれる手引きが作成されることとなり、
1996 年 4 月の CSDⅣ(の作業)を経て、1996 年秋に取りまとめて公表された。
その後、自発的に参加を申し出たカナダ、イギリス、アメリカなど 15 カ国において、
この指標群の試用が開始された。
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