第三章 持続可能な開発指標の取り組み 二章で紹介したとおり、アジェンダ 21 をうけて各国や地方自治体で指標作成の試みが 行なわれている。今研究では指標を次の六つを取り上げ、順に紹介し、それぞれ SD 指標 の特徴を分析していくことにする。 表 2.調査指標の一覧 開発単位 国際 国連 SD委員会 指標名 CSDリスト 国 持続可能な開発指標/1996 PCSD指標セット 21 10 118 52 持続可能性指標 持続可能性指標 持続可能性指標 6 11 8 40 28 23 イギリス アメリカ 地方 シアトル ハミルトンウエハース ストラスクライド 大分類数 総指標数 4 132 まずはじめに、持続可能な発展の指標作業リスト」(CSD リスト)から紹介することにす る。 3.1.CSD リスト CSD リストの作成経緯は、第二章で紹介したとおりであるが、CSD リストの特徴は、 アジェンダ 21 の章ごとに指標を設定し、持続可能な発展を、社会、経済、環境、制度の 4 つの側面からとらえていること、また、DSR(Driving Force/State/Response)の枠組み を適用していることである。 DSR の枠組みとは、OECD の環境指標開発で採用された PSR(Pressure/State/Response) の枠組みを改変したものである。 PSR の枠組みの、P は環境変化の直接の原因となる環境負荷やその背後にある人間活 動、S は環境の状態やその変化、これによる人間や生態系などへの影響、R は環境変化を 修復したり、未然に防止するために人間が行う対応策を意味する。こうした対応策は人間 活動やこれによる環境への負荷、すなわちここでいう P にフィードバックされるので、 図 2.1.に示すように PSR は因果関係(Causality)の環を構成する。 DSR の枠組みの D は Driving Force の略で、持続可能な発展の状態(S)に影響を与える 原動力となる人間の営みを意味する。 PSR の 枠 組 み で は 、 人 間 の 営 み を 環 境 の 状 態 (S)に 悪 い 影 響 を 及 ぼ す と い う 意 味 で Pressure という用語でとらえていたが、この DSR の枠組みでは、人間の営みはよい影響、 悪い影響の両方を与えうることから、Pressure という用語を Driving Force に置き換え たものである。PSR の枠組みでは、S は環境の状態を意味したが、CSD リストでは、さ まざまな側面からみた持続可能な発展の状況を意味するものとして置き換えており、元の 6 枠組みを大幅に拡大して適用している。また、D→S→R→D というサイクルが必ずしも 因果関係をなすようには構成されていない。 図 1.PSR の枠組み 環境 Pressure 人間 環境へ負荷を 環境への負荷 Pressure 与える活動 Driving Force 環境の状態と 人間の営み その変化 環境変化に 対する対応 人間とその生活 State 環境への影響 Response 主要な事象ごとにこれら各段階に応じた指標の値を監視することで、環境問題の趨勢を これに対する社会の応答と対置しながら評価するのがこの方法のねらいである。 CSD リストには合計 132 の指標が含まれ、社会、経済、環境、制度について組織の区 分ごとにおのおの 39 個、23 個、55 個、15 個の指標が 30 の分野について提示されてい る(表 3)。 この CSD リストについては、アジェンダ 21 の章立てに対応して指標が選ばれた結果、 持続可能な発展の概念に含まれる世代間の平等、世代内の公平性、有害廃棄物による汚染 や天然資源の枯渇、生態系の破壊、気候変動などの多種多様な問題を包含している反面、 この指標群は、各分野の指標を数多く並列に並べることから異分野の指標の寄せ集めの感 を免れない。また、各国は、おのおのの経済発展レベル、地理的・自然的条件による問題 の重要性の違いを考慮して、この指標リストから自国に関係の深いもののみを抽出すれば 7 よいことになっているとはいえ、130 余りという指標の数は、意思決定の支援という役割 からみると多すぎる感がある。などの指摘がある。APPENDIX 1.に CSD リストの全指 標を示した。 表 3.CSD の指標リストがカバーする分野(持続可能な発展の指標が包含する問題領域の構成 例) 分類 社会 経済 水 土地 環境 その他資源 大気 廃棄物 制度・組織 分野 アジェンダ 21の章 3 5 36 6 7 2 4 33 34 18 17 10 12 13 14 11 15 16 9 21 19 20 22 8 35 37 38 39 40 23−32 選ばれた指標数 D 1 3 4 貧困の撲滅 人口動態と持続可能性 教育、意識啓発および訓練 人の健康の保護 3 持続可能な人間居住 3 開発途上国の持続可能な開発 2 消費形態の変更 2 資金源およびメカニズム 2 環境上適正な技術移転 2 淡水資源の質と供給の保護 3 海洋、海域、沿岸域の保護 1 陸上資源の計画と管理 1 砂漠化と旱魃の防止 1 持続的な山岳開発 4 持続的な農業と農村開発 1 森林減少対策 生物多様性の保護 バイオテクノロジーの管理 4 大気保全 2 固形廃棄物と下水関連問題 有害化学物質の管理 2 有害廃棄物の管理 1 放射性廃棄物の管理 意思決定における環境と開発の統合 持続可能な発展のための科学 発展途上国における能力開発 国際的な機構の整備 国際的法制度およびメカニズム 意思決定のための情報 主たるグループの役割の強化 S 5 1 4 7 4 2 6 2 1 3 2 1 3 2 2 1 1 R 1 5 1 2 1 2 1 1 1 1 2 1 2 1 3 1 1 1 4 2 1 2 2 1 3 D:Driving force S:State R:Response これについては、個々の指標をもとに、持続可能な発展の達成状況の「全体像」をどの ようにとらえることができるのかが課題であり、そのために数多くの指標をより少数の指 標に集約する方法の検討が必要であるともいわれている。 8 3.2.イギリス 次に、各国レベルの指標としてイギリスの試みを紹介する。イギリスの SD 指標は、 1996 年に「イギリスの持続可能な開発の指標」(Indicators of Sustainable Development for United Kingdom)として、開発された。 こ の 指 標 は 、 政 府 が 1994 年 に 刊 行 し た 「 持 続 可 能 な 開 発 戦 略 」 (Sustainable Development:The UK Strategy,1994)を元に、この中で政府が設定した目標の達成度合い を評価するために、政府の環境・運輸・地域省が中心となり、作成された。 この指標群と指標を示したのが下図である。 表 4.イギリスの持続可能な開発指標 指標群 指標 a.経済 a1:国内総生産(GDP) a2:経済構造 a3:GDPの支出成分と個人貯蓄 a4:消費者支出 a5:インフレーション a6:雇用 a7:政府の借入金と負債 a8:汚染対策支出 a9:乳児死亡率 a10:平均寿命 b.輸送利用 b1:自動車利用と旅行者の全自動車利用距離 b2:小旅行 b3:輸送コストの実質変化 b4:貨物輸送 c.レジャーとツーリズム c1:レジャー旅行 c2:航空旅行 d.海外貿易 d1:イギリスの輸入と輸出 e.エネルギー e1:化石燃料の消耗 e2:核燃料及び再生可能燃料の容量 e3:一次と最終のエネルギー消費 e4:エネルギー消費と産出 e5:工業及び商業セクターの消費量 e6:道路輸送におけるエネルギー使用 e7:住宅におけるエネルギー使用 e8:実質タームでの燃料価格 f.土地利用 f1:都市開発でカバーされた土地 f2:世帯数 f3:市街地の再開発利用 f4:放棄荒廃地の量と再利用 f5:道路建設 f6:市外小売店の床面積 f7:通勤方法 f8:通勤のための支出 f9:都市地域のグリーンスペース 9 g.水資源 g1:取水権による取水と有効降雨量 g2:低河川流の緩和 g3:使用別取水 g4:公共水道のための取水 g5:公共水道の需要と供給 g6:灌漑のための取水 h.森林 h1:森林面積 h2:木材生産 h3:古くからの半自然林 h4:樹木の健康 h5:森林管理 j.漁業資源 j1:漁業資源 j2:生物学的許容最少レベル(MBAL) j3:漁獲量 k.気候変動 k1:温室効果ガスの放射強制力比 k2:グローバルな温度変化 k3:温室効果ガスの排出量 k4:発電所からの二酸化炭素の排出量 l.オゾン層破壊l1:塩素負荷の計算値 l2:観測されたオゾン層破壊 l3:オゾン層破壊物質の排出量 l4:CFCsの使用量 m.酸性降下物 m1:酸性に関する暫定臨界負荷の超過 m2:発電所からの二酸化硫黄と窒素酸化物の排出量 m3:道路輸送による窒素酸化物の排出量 n.大気 n1:オゾン濃度 n2:二酸化窒素濃度 n3:粒状物質濃度 n4:揮発性有機化合物の排出量 n5:一酸化炭素の排出量 n6:黒鉛の排出量 n7:鉛の排出量 n8:大気汚染対策に対する支出 p.淡水の質 p1:河川の質-化学的及び生物学的 p2:河川及び地下水中の硝酸塩 p3:河川のリン p4:河川及び地下水中の農薬 p5:汚染事故 p6:汚染防止とコントロール p7:水の取水、処理、給水のための支出 p8:下水処理のための支出 q.海洋 q1:河口の水質 q2:キーとなる汚染物の濃度 q3:魚類中の汚染物質 q4:水浴用水の水質 q5:汚染物質の流入 q6:石油流出と誤操作による放出 10 r.野生生物と生息地 s.土地の被覆(Land cover)と景観 t.土壌 u.鉱物の採掘 v.廃棄物 w.放射能 r1:危機に瀕している土着種 r2:繁殖性鳥類 r3:半改良草地の植物多様性 r4:チョーク性草地の面積 r5:生け垣の植物多様性 r6:生息地の分断 r7:湖沼 r8:渓流域の植物多様性 r9:哺乳動物個体群 r10:トンボの分布 r11:チョウチョウの分布 s1:農村部における土地の被覆 s2:指定及び保護地域 s3:指定及び保護地域に対するダメージ s4:農業の生産性 s5:窒素の使用量 s6:農薬の使用量 s7:景観の直線的属性物の長さ s8:環境管理された土地 t1:土壌の質 t2:表土の重金属 u1:骨材(aggregates:砂利等)産出量 u2:廃棄物由来の骨材 u3:鉱物採掘・埋立面積 u4:復元/アフターケアー状態の土地面積 u5:鉱物採掘現場の再利用 u6:海洋から浚渫した骨材 v1:家庭廃棄物 v2:工業及び商業廃棄物 v3:特殊廃棄物 v4:リサイクル及び堆肥化した家庭廃棄物 v5:物質循環 v6:廃棄物からのエネルギー生産 v7:廃棄物の埋立量 w1:放射線暴露 w2:核施設及び原子力発電所からの放出 指標の内容 イギリスの SD 指標の報告書(Department of the Environment HMSO,1996)では、指 標の選定にとどまらず、実際に過去 20 年余りの指標値を豊富なグラフで提示している。 この SD 指標の特徴は、環境・資源面の指標が広い観点をカバーし、指標の大半がこれ に充てられている。経済面の指標は含まれているが、社会面の指標はほとんどなく、生活 の質や公平性などの観点は含まれていない。 11 さらに上に示した数多くの指標のうちから、簡略化した指標セットとして主要な指標 13 を抜き出した Headline Indicator(表-5)によって SD の状況を評価している。 表 5.提案された持続可能な開発の headline indicators 経済成長と雇用の高い且つ安定した水準の維持管理 その結果、人々は高い生活水準とより良い仕事の機会を分かつことが可能になり、そして必要 不可欠なインフラストラクチャーと将来の投資のために支払うことが必要とされる収入と富を産 むことができる。 経済成長 社会的投資 雇用 経済の総アウトプット(GDP) 公共の資産への投資(移動,病院,学校など) 現在働いている労働人口 全ての人々のニーズを認める社会発展 全ての人々のニーズを認める社会発展 私たちの社会の全ての人々がに、どこに住んでいようと、誰であろうか関係なく より良い健康, よい教育、ちゃんとした住居, を保証されることが可能であること。 健康 健康的な生活の期待される年 教育とトレーニング 19歳時の資格、能力 住居の質 住むのに適さないと判断された住居 効率的な環境の保護 効率的な環境の保護 気候変動を起こす温室効果ガスの排出の制限 、質の悪い空気や他の汚染により被害を受けない 人々の健康を保証する、野生生物とカントリーサイドを保護する。 気候変動 大気の汚染 移動 水質 野生生物 土地利用 温室効果ガスの排出 大気汚染の日数 道路の交通 よいまたは妥当な質の河川 野鳥の個体数 既に開発した土地への新しい住宅の建設 倹約的な自然資源の使用 効率的に資源を使い、廃棄物を最少化することを保証する。 廃棄物 廃棄物と廃棄物処理 12 この Headline Indicator によって各個別指標間の関連がある程度明確になっている。 図-4 にこれを示す。 図 2.英国の Headlie Inicator の体系図 住宅の質 教育と トレーニン グ 社会的投資 健康 雇用 経済的発展 土地利用 空気汚染 廃棄物 移動 水質 気候変動 野生生物 (と資源) 13 3.3 アメリカ アメリカの SD 指標は、1996 年に暫定版の「PCSD」リストとして発表された。 この指標は、1994 年に、PCSD(政府内に設けられた、持続可能な開発に関する大統領 諮問委員会)の省際作業部会により、開発が始められた。 PCSD リストは、1996 年に刊行された「持続可能なアメリカ」で報告された、国家の SD への 10 のゴールを元に構成されている。 国家の SD へのゴールは、①健康と環境、②経済の繁栄、③公平性、④自然保護、⑤ス チュワードシップ、⑥持続可能なコミュニティ、⑦市民の関わり、⑧人口、⑨国際的な責 任、⑩教育である。 この指標リストが下図である。 表 6.アメリカの持続可能な開発指標 ゴール 健康と環境 進展の指標 きれいな空気 飲料水 有害な曝露 病気と死亡率 経済的繁栄 経済パフォーマンス 雇用 貧困 貯蓄と投資率 自然資源と環境勘定 生産性 公平性 収入の傾向 環境の公平性(公正) 社会公正 自然保護 エコシステム 生息地の消失 絶滅寸前の種 栄養と毒 外来種 地球規模の環境変化 スチュワードシップ 物質消費 廃棄物の減少 エネルギー効率性 回復可能な資源利用 ゴール 進展の指標 サステイナブル 経済的に存続できるコミュニ コミュニティ 安全な隣人 公園 将来世代への投資 交通様式 情報公開 避難所 主要都市の収入パターン 幼児の死亡率 市民の約束 大衆(社会全体)の参加 社会資本 市民参加 コラボレーション 人口 人口増加率 女性の地位 未婚者の妊娠 十代の妊娠 移民 国際責任 海外援助 環境援助 アセスメントの進歩 環境技術の輸出 研究のリーダーシップ 教育 情報アクセス カリキュラムの発展 国家的基準 コミュニティの参加 その後 PCSD は恣意表の検討を続行し、数多くの指標候補の中から 40 の指標を選んで 実験指標群(Experimental Set of Indicators)として評価を行っている。この 40 の指標を Appendix-2 に示した。 14 また、アメリカの世代間を考慮にいれた SDI の枠組みと情報の流れを、図 2 で示す。 図 2. 米国 SDI の枠組みと情報の流れ ロングタームの遺産と負債 ロングタームの ロングターム 経済、環境、社会 遺産と負債 の プロセス 経済、環境、社会 プロセス 意 志 決 全体の Drivin 定 過程 g Force 現在の結果 現在の結果 プロセス 現在の結果 経済、環境、社会 現在の世代 次の世代 未来の世 代 情報の流れ 15 3.4.シアトル シアトルは、アメリカの市である。シアトルの SD 指標は、150 人の市民パネルにより 99 の指標リストが勧告された中から選ばれたもので報告書とともに 1995 年に「サステ イナブルシアトル」として発表された。 この指標作成の目的は、市の行政の中に、社会の公平性、エコロジカル、経済的活発さ のバランスを取り込むことにある。 表 7.シアトルの持続可能な開発指標 A.環境 B.人口・資源 C.経済 D.文化・社会 D.青少年・教育 E.健康・コミュニティ A.1サケ遡上数 A.2湿地(湿地の電気伝導度、水位差、両生類の種類) A.3生物多様性(撹乱されない植物群落数、両生類の種類) A.4土壌侵食量(河川・湖沼の濁り度) A.5空気のよい日数(PSI) A.6歩行者街路整備率 A.7市街地のオープンスペース A.8不透水域面積 B.1人口増加率 B.2人口あたり水消費量 B.3人口あたり固形廃棄物・リサイクル量 B.4有害物質放出量・再生資源利用量 B.5農地面積 B.6人口あたり交通量・ガソリン消費量 B.7再生可能・非再生可能エネルギー消費量 C.1大企業への雇用の集中率 C.2現実の失業率 C.3個人所得の分布 C.4生計を営む収入を得るための労働時間 C.5貧困幼児率 C.6中所得者・低所得者層の住宅の余裕 C.7健康維持への支出 C.8救急目的でない救急室(Emergency Room)の利用 C.9コミュニティの貯蓄額 D.1未熟児出生率 D.2少年犯罪発生率 D.3コミュニティサービスへの青少年参加率 D.4予備選挙の投票率 D.5大人の識語率 D.6図書館・コミュニティセンター利用率 D.7芸術活動への公衆の参加数 D.26高校卒業率 D.27教師の民族多様性 D.28芸術教育 D.29学校におけるボランティア活動 E.32裁判の公平性(民族別裁判結果別人口) E.34子供のぜんそく入院患者率 E.38園芸活動者数 E 39近所付き合い比率 16 選択された各指標項目は、以下のとおりである。 A.環境 A.1 サケ遡上数 天然サケが、もとの河川へ回帰した数を表わしている。水質や河川環境、沿岸の植生や 動物も含むトータルな環境状況を反映した指標とみなせる。Cedar 川と Bear クリークが 代表として選ばれ、1978 年を 100 とした 3 年間の移動平均を用いて指標値が算出されて いる。 A.2 空気のよい日数(PSI) PSI(汚染標準指標)の値によって、良好、普通、不健康、非常に不健康、危険の 5 段 階に分け、良好な日数の年間割合を指標としている。PSIはEPAが 1960 年代に提案 し、米国で最も一般的に用いられている大気汚染総合指標で、通常 6 つのサブ指標の最 大濃度を用いるが、ここではCO、SPM、SO2、O3 の 4 物質を用いて 1980 年以降 の値を指標化している。 A.3 歩行者街路整備率 自動車の使用を減らすことが、持続可能な社会へ導く一条件であることから、歩行者に やさしい街路の整備がそのような方向への刺激を与えるものとして取り上げられた。歩行 者にやさしい街路の定義は技術部の定義にしたがったが、過渡的なものであるとしている。 1985 年のみが算定されているが、整備率はわずか 3%である。 B. 人口・資源 B.1 人口増加率 人口増加は、都市のスプロールを助長し、持続可能な社会とは逆行するものとして捉え ている。1970 年からの増加率が示されている。 B.2 人口あたり水消費量 キングカウンティにおける1人 1 日あたり家庭用水消費量が示されている。消費量の 増大は新たなる水源の開発が必要となり、持続可能な社会に逆行するものとして捉えられ ている。ここには地下水を水源とする水道や家庭用井戸からの使用量は含まれていない。 B.3 人口あたり固形廃棄物・リサイクル量 キングカウンティにおける人口あたり固形廃棄物・リサイクル量が示されている。リサ イクルできない資源の使用を最小化することが持続可能な社会づくりにつながるとしてい る。ここでは家庭から出る廃棄物のみが対象となっている。 B.4 人口あたり交通量・ガソリン消費量 人口あたり交通量・ガソリン消費量は、大気汚染など人間の健康面への圧力指標として だけではなく、移動に要する時間が増えれば、余暇や仕事の時間が減るといった社会的影 響、道路建設による生物生息環境の悪化なども視野に入れたものとして採用している。 17 1970 年からの交通量(走行キロ)と燃料消費量を指標化されている。 B.5 再生可能・非再生可能エネルギー消費量 再生可能なエネルギーと再生できないエネルギーの消費量の人口あたりの値を 1980 年 から指標化しれている。太陽エネルギーや水力といった再生可能なエネルギーの割合を増 やすことが持続可能な社会に導くが、水力発電は前述のサケの生息環境に影響を与えるこ とも指摘している。 C. 経済 C.1 大企業への雇用の集中率 この指標は経済活動の多様性を表わしており、多数の小企業で雇用されている方が、不 況や需要変化に耐えることができるとしている。そこで全労働人口に占める 10 大企業の 雇用者割合を 1981 年から指標化している。 C.2 生計を営む収入を得るための労働時間 この指標はキングカウンティの平均賃金と衣食住など基礎的生活のための物価を結合し、 何時間働けば必要な収入が得られるかを表わしたものである。労働時間が増えれば、他の 経済活動や教育活動、コミュニティ活動が行えなくなるから持続可能な社会に逆行すると している。1980 年からの 1 月あたりの労働時間が指標化されている。 C.3 貧困幼児率 持続可能な社会は次世代の生活も保証することであり、子供の健康・栄養・教育や権利を 保証されているかどうかが指標となるとしている。そこで 18 歳未満の人口のうち、連邦 政府の貧困の基準である4人家族の年間収入 14,350 ドル未満の家庭に属する人口率を、 1979 年と 1989 年について算出している。 C.4 中所得者・低所得者層の住宅の余裕 住宅の余裕がないと、ホームレスの増加など社会不安を招き、持続可能なコミュニティ は作れないとしている。持ち家の場合住宅費が月収の 25%未満、借家の場合は 30%未満 の場合を余裕があると定義し、これを上回る(余裕がない)場合は指標値は負の値となる。 これを 1982 年から収入の中央値と、中央値の 50%値(低所得者の場合を表わす)について 算出している。 C.5 健康維持への支出 医者にかからないことも健康の指標であることも指摘しつつ、ここではそれよりも病気 の防止に当てられた支出が持続可能なコミュニティを表わすものとして採用している。 1980 年と 1990 年の健康維持のための支出と、それに占める個人収入に占める割合、政 府支出に占める割合を示している。 D.文化・社会 D.1 未熟児出生率 18 持続可能な社会は次世代を適度に養成するものであり、未熟児の発生は乳児死亡との関 係が深いことから、採用している。2,500g 未満の体重で生まれた新生児を未熟児とし、1980 年から 3 年ごとの移動平均値を人種別に算出している。 D.2 少年犯罪発生率 犯罪発生率は現在の健全性を表わしているが、少年犯罪発生率は次世代も犯罪型社会と なり、長期にわたり安全が脅かされるので持続可能性の指標として採用している。17 歳 以下の犯罪発生件数を 1980 年から示している。 D.3 コ-ュニティサービスへの青少年参加率 若い頃からコミュニティ活動に携わることは、社会への積極的参加や個人の資質向上の 一助となることから、指標として採用している。しかしよいデータがないことから、1993 年レポートでは指標値は示されていない。 D.4 予備選挙の投票率 市民が主要な決定に参加し、投票によって変革を促すことが持続可能な社会では重要で あるとの認識から採用された。1983 年から有権者比率と予備選挙の投票率を指標化して いる。 D.5 大人の識語率 持続可能な社会では市民のコミュニケーション、情報のやりとりができることが必要な ことから採用された。1990 年の識語率調査に基づき(1992 年公表)指標化している。 D.6 図書館・コミュニティーセンター利用率 情報への要求が高まり、学習活動や健康増進活動が活発化することは、持続可能な社会 の条件であり、図書館・公民館がよく利用されることはその証しであることから採用され た。図書館については 1970 年からのキングカウンティとシアトル図書館の貸し出し図書 数を指標とし、コミュニティーセンターは 1983 年からの 25 のコミュニティーセンター の来訪者数を指標としている。 D.7 芸術活動への公衆の参加数 芸術文化活動が盛んなことは生活レベルを向上させ、持続可能な社会に導くとの考えか ら採用している。1992 年に一度だけ調査されている結果に基づき、ラジオやテレビ、映 画、書籍といったメディアごとに音楽、ダンスなどの参加率を指標化している。 シアトルの SD 指標の特徴として、指標体系の特徴をみると、環境と人口・資源に属す る指標項目については、環境指標の扱う内容とほぼ対応するが、経済や文化・社会に属す る指標項目は社会指標で扱ってきたものである。しかし市民サービスの充足を目的として 指標を採用したのではなく、社会や経済が将来世代にわたって持続的・安定的に推移する 必要条件を考慮して、指標を選定しているところが従来と異なる。 シアトルの指標は随時に改訂されているようで、1998 年に公表された報告書"Indicators of Sustainable Community,1998"では 40 の指標が用いられている。 19 3.5.ハミルトン=ウエントワース カナダのオンタリオ州ハミルトン=ウエントワースでは、地域カウンシルが、1990 年 から持続可能な開発の概念の調査を、市民グループと協力して行い、400 を超える個人お よび 50 のコミュニティとの相談の後、1992 年に報告書として"ビジョン 2020"と名づけ た、持続可能な開発の理念に沿った 2020 年におけるハミルトン=ウエントワースのコミ ュニティのタイプを描いた文書を公表した。この文書のフォローアップとして、カウンシ ルは 1994 年に、ビジョン 2020 に向けての地域の進捗状況を測るために持続可能性指標 を開発することを目標として、持続可能なコミュニティ指標プロジェクトを開始し、1996 年に指標を年次報告書とともに公開した。それが、下記の指標である。 表 8.ハミルトン=ウエントワースの持続可能な開発指標 指標項目名 目標値 A.自然地・コリドー A.1ハイキング道総延長 A.2貴重な自然の保護率 B.水資源 B.3ハミルトン湾への浮遊固形廃棄物排出量 B.4水総消費量 B.5海水浴可能日数 B.6農村地域の道路の塩の散布量 C.大気質 C.7空気の良好/非常に良好な日数 C.8大気汚染苦情件数 D.廃棄物 D.9ごみ排出量 D.10有害廃棄物貯蔵箱の利用者数 E.エネルギー E.11住宅用電力消費量 F.都市形態 F.12ハミルトン中心街におけるオフィス空室率 F.13指定された文化遺産の保護率 G.交通 G.14一人あたり公共輸送機関乗車回数 G.15自転車専用道総延長 H.健康と福祉 H.16生活保受容人口率 H.17未熟児出生率 H.18空室住宅への申込者数 H.19高齢者の転倒による受診率 H.20青少年人口あたり図書館貸出数 H.21犯罪発生率 I.コミュニティ I.22市長村選挙の投票率 I.23ボランティアセンター問い合わせ数 J.生活 J.24中等教育以上を受けた従業員の割合 J.25純雇用率 K.農業 K.26穀類の作付面積 K.27農村地域から都市地域への指定替え件数 K.28環境保全型農業プログラムへの参加者数 アクセス機会を増加させる 100%にする 15mg/l 1993年レベルから50%減 92日=6/1から9/1まで 10%減少させる 365日 増加傾向に歯止めをかける 1993年レベルから50%減 利用の増加及び廃棄物の減少 減少させる 7%にする 増加させる 年100回 増加させる 2%にする 4%にする 減少させる 減少させる 増加させる 減少させる 100%にする 増加させる 増加させる 増加させる 1993年維持かそれ以上 0にする 増加させる この指標プロジェクトでは、個人・機関・企業・地方政府およびこれら全体としてのコミ 20 ュニティの意見を反映するとともに、成果物として指標の状況を記述した年次報告書を作 成している。 このプロジェクトでは、持続的社会は行政だけでは達成できず、市民が自分たちの将来 を決めるべきということから、市民が持続可能性に関する学習と意志決定へ参加すべきで あるとの考え方に立ち、地域計画・健康・環境サービス局、マクマスター大学、ICLEI などからなるプロジェクトチームを作った。グループは当初80の指標をワークブック(ア ンケート)を作り、指標セットについて意見交換した。このアンケートではコミュニティ の戦略ビジョンにのっとり、31の目標と11のテーマ領域が設定され、テーマごとに数 個の指標とターゲットを提示し、どの指標がよいか評価A−Eの評価してもらい、他に良 い指標があればそれも示してもらっている。100 人を超えるさまざまなグループのメンバ ーや行政職員・政治家が指標のファイナルセットを設定した。このときすでに収集されて いるデータを用いることに留意している。しかしいくつかの指標は市民組織や個人の調査 から得るのが理想としている。 ハミルトン=ウエントワースの SD 指標プロジェクトにおいては、意思決定プロセスへ の参加と行動を期待しており、プロジェクトへの参加を通して持続可能な社会づくりに向 けての行動を促すことが目的のひとつになっている。今後も指標結果を公表する計画を持 ち、年次報告書は一般の人の認知を一層促進するだろうと期待されている。 指標の特徴としては、環境指標は、自然地・コリドー、水資源、大気質の項目をしめて いるが、その他はほぼ全て社会指標である。経済指標はほとんどない。 21 3.6.ストラスクライド ストラスクライドは、イギリスの地方自治体であり、ストラスクライドの SD 指標は、 1995 年に「SD 指標レポート」として報告された。 この指標は、イギリス政府の LGMB(Local Government Management Bord)の、ロ ーカル SD 指標開発プロジェクトの一貫として、ストラスクライドのカウンシルと政府が 協力して、コミュニティの参加のもと、開発が行われた。指標作成は、LGMB が提案し た 13 の参照テーマと約 100 の指標の中から、選択することを中心に行われた。選定され たのが以下の指標である。 表 9.ストラスクライドの持続可能な開発指標 物的環境 飲料水 淡水の水質 海水浴場のEU水質基準達成度 大気質 土地利用 放棄地面積 裸地 緑地面積 樹林緑被面積 生物多様性 自然保護地域面積 絶滅危惧鳥類種数 エネルギー エネルギー消費量 エネルギー生産構成 廃棄物 家庭ごみ排出量 リサイクル率 工業 商業系廃棄物排出量 交通 自動車保有台数 速度規制地域、サイクリングロード延長 公共輸送機関利用者数 経済 人口 失業率 生活保護世帯数 人口、世帯数 住宅における燃料費割合 健康 死亡率 子供のぜんそく有症率 ストラスクライドの持続可能な開発指標の特徴は、指標項目として物的環境、土地利用、 生物多様性などの環境指標が比較的多く選定されていながらも、エネルギーや廃棄物とい た特徴的な項目を設定しているところである。社会指標の占める割合は少ない。 22
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