副収入が転職後の仕事満足度に 与える影響について

のかを検証する。
副収入が転職後の仕事満足度に
与える影響について
The Analysis of the Effect of Sub-earnings
on Job Satisfaction
05-09838
指導教員
田中隆一
後藤利寛 Toshihiro Goto
Adviser Ryuichi Tanaka
第一章 本研究の背景と目的
1.1 本研究の背景
1991 年のバブル崩壊以来、日本は長く深刻な不況が続い
た。それにより、2002 年に失業率は 5.4%と過去最高の数字
を記録した。こうした状況下で、日本の労働市場および、
日本型雇用慣行に関する議論が盛んに行われてきた。従来
の日本の労働市場では、終身雇用、年功制、企業内組合を
三本柱とする日本型雇用慣行のもと、欧米に比べれば、労
働移動、つまり転職は少ないとされてきた。しかし、厚生
労働省の雇用動向調査による、転職者数(就業者のうち前
職があり、過去 1 年間に離職を経験した者)をみると、近
年増加傾向にあり、2000 年から 2006 年の間だけでも、約
20%も増加している。
転職者数
人
4,500.0
4,000.0
3,500.0
3,000.0
2,500.0
2,000.0
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
また同省の調べによると、かつてのように会社の倒産や
リストラによる転職の割合は 7.5%と、数字の上では少数派
となっており、8 割近くの転職者は自己都合となっている。
しかし、このように雇用の流動化が進む中、転職者は満足
のいく職に就けているのであろうか。同調査によると、転
職者で現在の仕事に満足している者の割合は 59.2%となっ
ているのに対して、満足としていない者の割合は 40.2%とと
なっている。この結果から、必ずしも転職することによっ
て、満足のいく仕事に就けるとは限らないことが伺え、人
と仕事のマッチングの理解の重要性が高まってきていると
言える。
1.2 本研究の目的
そこで、本研究では転職後の仕事に満足するためには何
が必要であるのかを明らかにすることを目的とする。
標準的なジョブ・サーチ理論においては、単位期間あた
りの企業からオファーを受ける確率が高いほど、高賃金の
仕事を獲得できる可能性が高まるとしている。この高賃金
を「自分が満足のいく仕事」にまで拡張して解釈するなら
ば、単位期間あたりの企業からオファー受ける確率を高め
る行動をとることで、満足のいく仕事に就く確率が高まる
と考えられる。このことを踏まえると、仮に転職活動資金
があれば、資金や時間を割くことができ、積極的な求職活
動を行えることで、満足のいく仕事に就きやすくなると考
えることができる。
また、渡辺(2003)によれば、転職後の仕事満足度に影
響を与える要素として、転職前の情報収集度を上げている。
小原(2008)では、雇用保険受給者を対象にした研究で、求
職期間に関して 180 日以内であれば、求職期間が長い方が
転職後の離職率を下げる効果があるとしている。こういっ
た情報収集や長期の求職活動には、転職活動資金が豊富な
方が良い転職活動を行えると考えられる。
以上のことを踏まえ、本研究では、転職時点の家計の経
済状態が、転職後の仕事満足度にどのような影響を及ぼす
第二章 既存研究の整理と本研究の特徴
2.1 既存研究の整理
2.1.1 転職者の満足度に関する研究
守島(2001)は、(財)連合総合生活開発研究所の『勤労者
のキャリア形成の実態と意識に関する調査』のデータを用
いて、転職による仕事満足度を分析している。この研究で
は、転職回数・年齢と満足度の関係や転職理由・経路・採
用理由と満足度の関係を中心に見ている。その結果、若年
時の転職が満足度に大きな影響を与えている事や転職経路
によって満足度に違いが現れるということを述べている。
2.1.2 家計の経済状態を考慮した研究
石川(1992)では、労働者の仕事における満足度が学歴や
勤続年数、産業、職種、企業規模、資産保有といった変数
とどのように関わるかを三大都市圏における男子労働者
の意識調査データを用いて統計的に分析している。それに
より、企業規模や職種の違いより仕事への満足度が異なる
ことが見て取れる。また、家計状態を示す一つの指標であ
る純資産に関しては、統計的に有意ではあるが、その効果
は比較的緩やかであると述べられている。
原(2003)では、国際社会調査プログラムが 1997 年に「職
業意識」について実施した調査の個票データを用いて、仕
事満足度の規定要因を就業形態別に明らかにしている。そ
の規定要因の中で、家計状態を表す一つの指標である家庭
の収入に着目しているが、フルタイム労働者とパートタイ
ム労働者の両者で統計的に有意な結果は得られていない。
また、本人の労働による収入と分離していない点などに課
題を残している。
2.2 本研究の特徴
石川(1992)や原(2003)のように、転職者に限らず、労働
者全体を対象して、家計状態が仕事満足度へ与える影響を
考察した研究は存在する。しかし、転職者に対象を絞った
際に、家計の状態が仕事満足度に与える影響を考察した研
究は著者が調べた限りにおいては見つかっていない。
しかし、先に述べたように、転職する際には資金の余裕
がある方が比較的有利な求職活動をすることができ、結果
的にマッチングの良い仕事に巡り合える可能性が高いと
考えられる。
以上のことを踏まえて、本研究では家計状態を表す指標
の一つと考えられる、家族一人当たりの副収入額(世帯収
入から本人の収入を除いたものを世帯人数で割る)に着目
し、転職時点の家計状態の余裕が転職後の仕事満足に関し
てどのような影響を及ぼすのか検証していく。その際にま
ず、転職の有無に関わらず、家族一人当たり副収入が仕事
満足に影響を与えるか否かを検証する。その上で、転職者
に対象を絞り、さらにできる限り転職時点の家族一人当た
り副収入額に近い対象に絞って推計を行っていくことと
する。
第三章 分析方法
3.1 分析手法
本研究では、分析手法として、オーダード・プロビット
モデルを用いる。本研究で用いる仕事満足度は、「現在の
仕事に満足しているか」という質問項目に対して、
「満足」
「どちらかといえば満足」という回答を3、「どちらとも
言えない」という回答を2、
「不満」
「どちらかといえば不
満」という回答を1とする3段階の尺度とする。そのため、
潜在変数モデルという選択の行動モデルを利用する。ここ
で用いる潜在変数 Y*は X についての線形関数と撹乱要因
ui の和と仮定する。順序選択モデルでは被説明変数は序数
で表わされる。
yi = 1,2,3
順序選択モデルでは、被説明変数 yi が次のような連続
潜在変数 y*i に対応していると考える
yi ∗ = α + 𝐱′𝐢 𝛃 + ui
被説明変数と観測できない潜在変数の関係は
yi = j ⇔ κj−1 < y ∗i < κj κ0 = −∞, κ = ∞
誤差項 ui の密度関数を f(yi=j|xi)とすると yi がある値
をとる確率は
πij = P yi = j xi = F κj − x′i β − F κj−1 − x′i β
確率分布関数として正規分布Φ(u)を選択すると順序プ
ロビットモデルは誤差項 u の標準誤差をσとすると、
πij = Φ
κj − 𝐱′𝐢 𝛃
κj − 𝐱′𝐢 𝛃
−Φ
σ
σ
パラメータとβを識別するためにσ=1 という標準化の
仮定を置く。以上で定義した確率を掛け合わせた順序選択
確率関数は
J
f yi xi ; β, κ1 , κ2 =
(πi1 )d i1 (πi2 )d i2 (πi3 )d i3
(πij )d ij
=
j=1
ここで、dij は選択肢 j が選ばれた場合(yi=j)に1、
それ以外の場合はゼロとなる変数である。n人の個人に対
する対数尤度関数は次のように定義できる
第四章 推定結果・考察
4.1 転職経験の有無で分けた推計
最初に、家族一人当たり副収入額が仕事満足度に影響を
与えるか否かを検証するために、対象を転職の有無により
分けたサンプルを用いた推計を行う。
なお、家族一人当たり副収入額が仕事満足度に与える影
響を見るに当たり、内生性の疑いがまったくないわけでは
ない、つまり、観測できない個人の特性といったものが、
副収入と仕事満足度に同時に影響を与えている可能性が
残る。そのため、操作変数法を用いることで、内生性を考
慮した分析を行ったが、操作変数法後の事後検定により、
当該変数は外生であるという帰無仮説は棄却されなかっ
たため、以下では操作変数法を用いないオーダード・プロ
ビット分析の結果を示す。
表 4-1(***1%有意、**5%有意、*10%有意)
転職経験あり
説明変数
係数
0.016
0.14
***
限界効果
y=3
0.0056
0.051
***
y=2
-0.0031
-0.023
***
y=1
-0.0025
-0.028
***
サンプルサイズ
1242
1460
擬似決定係数
0.028
0.036
転職後 1~3 年
0.42
**
0.24
**
0.18
**
限界効果
i=1 j=1
転職経験なし
転職後 1~2 年
係数
dij logπij
この式を最尤法推定を行うことで、不偏推定量を得る。
本研究では、守島(2001)のモデルを参考にし、被説明変
数を個人の仕事満足度、説明変数を個人の属性変数と、所
属する企業や仕事に関する変数とした、オーダード・プロ
ビット分析を行い、個人の属性変数のうち家族一人当たり
副収入額に着目し、その効果を測定する。
𝐱′𝐢 𝛃 = α + β1 Si + 𝐙′𝐢 𝛄
Si:家族一人当たり副収入
𝐙𝐢 :年齢・性別・学歴ダミー・子供の数・結婚ダミー・転職
回数・本人の収入額・職種ダミー・企業規模ダミー・
残業時間
サンプルはデータの都合上、これまでに正規の社員・職
員として働いた経験のあるものに限られている。
3.2 分析データ
分析データは全国規模の社会調査である日本版 General
Social Surveys(プールド・クロスセクションデータ)の
2000,2001,2002,2003 年調査のデータを利用。
家族一人当たり副収入
転職後 1 年
説明変数
家族一人当たり副収入
J
n
logL β, κ1 , κ2 ; y, x =
転職時の副収入額が必要となるが、データの都合上、転職
時の副収入額を手に入れることができない。そのため、転
職時から現在までの期間が乖離していると、正確に副収入
額の影響を評価することができない。
そこで、転職後の仕事の勤続年数ごとにサンプルを分け
ることで推計を行い、できる限り転職時の副収入額に近い
値での、副収入の効果を検証する。具体的には、転職後の
仕事の勤続年数を1年、1年~2 年、1 年~3 年として、そ
れぞれ推計を行うこととする。
表 4-2(***1%有意、**5%有意、*10%有意)
表 4-1 より、転職経験の有無で分けると、家族一人当た
り副収入は転職経験者に関しては正に有意な結果を得た
が、未経験者に関しては有意な結果を得ることができなか
った。また、年収、年齢、性別、会社規模などは守島(2001)
の推計結果と整合的な結果が得られた。
4.2 勤続年数に着目した推計
次に転職経験者に対象を絞り、勤続年数に着目した推計
を行う。本研究では、家計状態の指標の一つである家族一
人当たり副収入の転職時点の効果を測定する。そのため、
y=3
0.14
**
0.086
**
0.071
**
y=2
-0.08
**
-0.043
**
-0.031
**
y=1
-0.061
**
-0.043
**
-0.04
**
サンプルサイズ
121
227
342
擬似決定係数
0.14
0.081
0.043
表の 4-2 より、転職後の勤続年数が 1 年という転職時点に
近い時点においても、家族一人当たり副収入額は正に有意
な結果を得ている。また、サンプルサイズを大きくするた
めに、転職後 3 年間まで、副収入額に変化がないと仮定し
て推計を行った結果でも、正に有意な結果が得られた。し
かし、限界効果は、サンプルを大きくするに従い、次第に
小さくなる結果となった。
第五章 結論と今後の課題
5.1 結論
本研究では、転職後の満足度を取り上げ、転職において
家計の経済的余裕が転職後の仕事満足度に影響を与えて
いるかを検証した。対象ごとの基本分析では、転職未経験
の対象に対して有意な結果が得られないのに対して、転職
経験のある対象に関しては係数は正に有意な結果が得ら
れた。
さらに、転職時点での副収入額をできる限り正確に捉え
るために、転職後の勤続年数を考慮した分析を行った。そ
の結果、転職後 1 年という転職時点に比較的近い時点であ
っても、係数は正に有意な結果を得た。
以上より、転職後の家計状態に大きな変化がなかったと
仮定すると、転職時の家計の経済状態に余裕があるほど、
正規の社員・職員に関しては、転職後の仕事に満足する確
率を高める統計的に有意な結果が検出された。
この結果はの一つの解釈としては、転職時点に家計の経
済的余裕があると、転職活動にお金や時間を割くことで、
求人情報や賃金オファーが来る確率が高まり、ジョブサー
チ理論でいうところの高い賃金、もしくは満足のいく仕事
の獲得を実現することを可能にしているのではないかと
いうことが挙げられる。
5.2 今後の課題
先行研究では転職経路や転職理由、採用理由などの情報
を用いた分析を行っていた。しかし、本研究ではデータの
都合上、転職に関する質問項目が限られており、先行研究
で取り上げられている情報を利用することができなかっ
た。転職時の家計状態だけでなく、転職経路や転職理由、
採用理由なども考慮することができれば、より正確な分析
が可能になると思われる。
主要参考文献
守島基博(2001)「転職経験と満足度」『「転職」の経済学』
(連合総合生活開発研究所)
)p.141-p.165
石川経夫(1992)「仕事の満足度の分配をめぐる統計的分析」
『日本労働研究雑誌』No.391/july1992/p.2-p.14
原ひろみ(2001)「パートタイム労働者の仕事の満足度をめ
ぐ る 統 計 的 分 析 」“ 職 業 意 識 と 労 働 者 行 動 比 較 分
析”p.52-p.78
樋口美雄(2001)『雇用と失業の経済学』
小原美紀(2008)「雇用保険のマイクロデータを用いた再就
職行動に関する実証分析」
渡 辺 深 (2 00 3)「 就 職 と 転 職 に お け る ネ ッ ト ワ ー ク の 効 果 」