J. Plasma Fusion Res. Vol.82, No.9 (2006)5 66‐574 小特集 Edge Localized Mode (ELM)研究の最近の成果 2.ELM の概要 鎌田 裕,大 山 直 幸,杉 原 正 芳 日本原子力研究開発機構 (原稿受付:2 0 0 6年5月2 5日) ELM は,H モードの周辺輸送障壁で発生する間欠的・周期的な熱や粒子の放出現象であり,核融合プラズマ の総合性能の要であるペデスタル構造の決定要因の一つである.最も一般的な ELM は Type I ELM と呼ばれ,ペ デスタル圧力が MHD 安定性のしきい値に達した場合に発生する.Type I ELMy H モードでは,良好な閉じ込め 状態を定常的に維持できるが,ELM に伴う大きなエネルギー流出は,ダイバータ板の損耗やプラズマ性能に大き な影響を与える恐れがあるため,流出エネルギーを制御し矮小化することが必要である.現在までに,ペレット 入射,共鳴摂動磁場印加,小振幅 ELM を伴う運転領域などが有力な方法として開発されてきている.ここではこ れらの研究の現状と,ITER へ適用する際の課題について概説する. Keywords: ELM, pedestal, H-mode, QH mode, EDA, HRS, grassy ELM, pellet, ergodization 2. 1 はじめに H モードは,最もポピュラーな改善閉じ込め状態であ り,世界のほぼ全てのトカマク装置で得られ十分な研究実 績があるため,ITER の標準運転モードとなっている.こ のモードは,L モードからの一種の相転移のような現象(L -H 遷移)で発生し,Fig. 1 のように,プラズマ周辺部で「周 辺輸送障壁」と呼ばれる熱や粒子の拡散を遮る層が形成さ れて顕著に閉じ込めが改善される.この周辺輸送障壁が形 成されている領域を「ペデスタル部」と呼ぶ.H モードで は,このペデスタル部に形成された圧力の空間勾配が急峻 Fig. 1 になるため周辺局在化モード(Edge Localized Mode: ELM) H モードの周辺ペデスタル構造. と呼ばれる不安定性が生じ,周期的(10∼100 Hz 程度)な 熱や粒子の放出現象が発生する.第1章にも記したよう に,このペデスタル部の構造と動特性の理解は,ITER に とって極めて重要であると同時に,科学的魅力に富んでい るため,これまで多くの研究が積み重ねられてきた [1, 2]. 周辺ペデスタル部の状態は,燃焼プラズマの性能にとっ て極めて重要である.周辺ペデスタル部のパラメータは, コアプラズマの境界条件を決定するとともに,スクレイプ オフ層およびダイバータ領域へ向かう熱・粒子流の源を決 定するからである.即ち,H モードのペデスタル部は,総 合性能を決定する要となる.トカマク型核融合炉で燃焼プ ラズマを維持するためには,高い閉じ込め改善度,高い規 格化ベータ値,高い自発電流割合と完全非誘導電流駆動, 高い密度,高い燃料純度,高い放射パワーの全てを同時に 満足する必要がある[3].そこでのペデスタルの役割は,以 下のとおりである.温度分布に硬直性がある場合,エネル Fig. 2 ギー閉じ込め時間や核融合利得は,ペデスタル温度に大き ITER における周辺イオン温度と核融合利得の予測値. 2. Various Types of ELMs KAMADA Yutaka, OYAMA Naoyuki and SUGIHARA Masayoshi corresponding author’s e-mail: [email protected] 566 !2006 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research Special Topic Article 2. Various Types of ELMs Y. Kamada et al. く左右される.Fig. 2 は,ITER における核融合利得の予測 値をペデスタル温度に対してプロットしたものである[4]. 輸送モデルによっての違いはあるが,いかに高いペデスタ ル温度が得られるかが ITER の性能を左右することがわか る.後述のように,ELM はペデスタル圧力をほぼ一定に規 定するため,周辺密度を上昇させようとすると,周辺温度 が低下してしまう.したがって,高い密度で高い温度を得 ようとすると,ペデスタル圧力を上昇させなければならな い.一方,高ベータでの MHD 安定性を確保するためには, ペデスタル部の圧力を上昇させ,プラズマ全体に亘り適度 に平坦な圧力分布とし,中心部での過度の圧力勾配の上昇 を避ける必要がある.また,閉じ込めや安定性の基本的な Fig. 3 決定要素である電流分布に関しても,ペデスタル部の圧力 Type I ELM の崩壊と回復のサイクル(JT-60U) [5] . 勾配が駆動する自発電流が大きな要素となる.ペデスタル 部の温度,密度および揺動や ELM は,粒子輸送および,中 性粒子や不純物の侵入を決定するため,粒子制御の中心的 要素である.このように,周辺ペデスタルは,プラズマの 総合的性能にとって極めて重要な位置を占める.その圧力 を制限するのが ELM であり,その理解と制御は炉心プラ ズマ研究の最も重要な課題の一つとなっている.本章は, このような ELM を扱う小特集の導入として,ELM 現象と ELM のタイプについて概観し,ITER における ELM 制御 と課題について述べる. 2. 2 ELM 現象と ELM のタイプ 2. 2. 1 Type I ELM Type I ELMy H モードは,多くのトカマク装置で最も通 常見られる状態であり,高い閉じ込め性能を支える良好な Fig. 4 ペデスタルを持っている[1].Fig. 3 は,JT-60U での ELM Type I ELMy H モードでのペデスタル電子密度(ne-ped) .JT-60U[7] . と電子温度(Te-ped) 崩壊とその後の回復の様子である [5].図からわかるよう に,ELM 崩壊の発生によってプラズマ蓄積エネルギーが 果は,三角度が高い場合にシャフラノフシフトによって周 低下し(!!!"#),放出されたエネルギーがダイバータに大 辺部の MHD 安定性が改善されることを示唆している. きな熱流束を与える(Fig. 3(a),(b)).ELM 崩壊時にペデスタ この ELM の安定性は,実際には圧力ではなく,圧力勾配 ル部の電子温度,イオン温度が瞬時に低下している(Fig. 3 とそれが駆動するブートストラップ電流で決まると考えら (c)-(e)).崩壊の後,トロイダル回転(Fig. 3(f))は早い段階 れている(第3章,第5章).一方,ペデスタル肩部での圧 で元のレベルに復帰し,周辺輸送障壁としての良好な閉じ 力は,圧力勾配(ELM で制限)とペデスタル幅で決定され 込めが回復し,周辺温度が上昇しはじめる.そして,再び る.このペデスタル部の小半径方向の幅は,基本的に輸送 周辺圧力がある critical な値に戻ると,次の ELM 崩壊が発 過程が決定要素となっていると考えられているが,未だ明 生するのである.この ELM 間の周辺部輸送は,新古典拡散 確ではない[2].実験的には,ポロイダルベータ値やポロイ から予測される値程度に低下している[6]. ダルラーマー半径に対する正の依存性が見られる場合や, Type I ELM の 出 現 領 域 を ペ デ ス タ ル 肩 部 で の 温 度 広いパラメータ領域であまり変化しないという報告もあ (Te-ped)と密度(ne-ped)で示したのが Fig. 4 である[7].Fig. る.H モードの周辺輸送障壁の形成が乱流の抑制であるこ 4 白丸は,プラズマ断面の三角度が高い状態(0.44−0.48)場 とはよく知られているが,その決定要因である回転シアと 合での ELMy H モードの例であるが,密度×温度(即ち圧 径電場形成,密度勾配,イオン温度勾配,電子温度勾配,磁 力)がほぼ一定の線上に乗ることがわかる.この圧力限界 気シア等が強く相関しつつ最終的なペデスタル構造を決め は,磁場配位に依存する.Fig. 4の黒丸は内部輸送障壁が形 ていると考えられるのであるが,定量的にペデスタル幅を 成されてコア部での閉じ込めが改善された結果,全 "$値が 予測するレベルには達していない.プラズマ周辺部での磁 上昇した放電のものである,この場合,ペデスタル部の 気シアとの関連を含めたモデルの提案もなされている.加 "$値は全 "$値にほぼ比例して上昇する.一方,低三角度で えて,周辺部特有の現象である中性粒子の侵入も考慮しな はこのような全 "$値に対する相関は弱い (この高三角度で くてはならない.ペデスタル部の温度分布は輸送過程がそ のペデスタル部とコア部の相関は,内部輸送障壁の有無に の決定要因と考えられる.一方密度分布のペデスタル幅 よらず,したがって分布の硬直性の反映ではない).この結 は,特に高密度において温度の幅よりも狭くなる傾向が多 567 Journal of Plasma and Fusion Research Vol.82, No.9 September 2006 くの装置で見られている.即ち,密度分布の決定要素とし ては,粒子源の分布も重要な決定要素である.これは,密 度分布のペデスタル巾が,温度の巾よりもせまい場合に は,圧力勾配が急峻な領域は,密度分布の幅で決まること を意味しており,高密度において観測された ELM の振幅 の減少と周波数の増加と関連していると考えられる.以上 のパラメータ相関を概念的に Fig. 5 に示す.基本は周辺部 安定性(ELM)と輸送であり,それらを支配する電流,圧 力,回転等の分布や中性粒子の侵入が相関し合う.その結 果である周辺温度や密度がコアプラズマの性能を左右し, それで決まる全ベータ値・シャフラノフシフトが再び周辺 Fig. 5 周辺ペデスタル部におけるパラメータ相関の概念図. 部安定性に影響するという考え方である.今後は,これら の相関を定量的に評価して行く必要があるが,ELM の理 解は,その現象のみの理解ではなく,このような周辺構造 の決定機構の一つとして捉える必要がある. 2. 2. 2 小振幅 ELM/ELM 無し H モード Type I ELM によって放出される蓄積エネルギーはプラ ズ マ の 蓄 積 エ ネ ル ギ ー の1 0%近 く に 及 ぶ 場 合 が あ り, ITERでは,ELMごとに現在のJT-60Uの最大の蓄積エネル ギーである 10 MJ の熱が瞬間的にダイバータ板に達する可 能性もある.このため,高いペデスタル圧力を保ちつつ, いかに ELM の振幅を小さくできるかが研究開発の大きな 目標となっている [2, 8].そこでは,Type I ELMy H モード と同等の閉じ込め性能で,不純物蓄積や密度制御性に優 れ,かつ ELM による過大な熱パルスが無い状態が求めら Fig. 6 周辺電子温度と周辺圧力勾配図上での Type III ELMの発生 領域(ASDEX-U) [9] . れ る.各 国 の 装 置(Alcator C-Mod,ASDEX-U,DIII-D, JET,JT-60U,JFT‐2M,NSTX 等) で,このような小振幅 ELM/ELM 無し H モードの研究が盛んに行われてきた.特 に,近年,国際トカマク物理活動(ITPA) の下で様々な「国 際装置間比較実験」が行われ,現象の理解の一般化が大き く進んでいる.以下にこのような H モードのタイプを述べ る. ! Type III ELM Type I ELM と同様に,H モードが発生する全てのトカマ ク装置で見られる現象である[9‐11].Type I ELM に比べ て#"%&' は小さいが,エネルギー閉じ込めは10−30%低い 状態である.L-H 遷移パワーに近い低加熱パワーで発生し, 加熱パワーを上昇すると周波数が減少し,やがて Type I ELM が発生する.ペデスタル電子温度がしきい値 !(*)+より 低い場合に発生する(Fig. 6) [9].!(*)+は低密度(低衝突度) では密度に反比例し,高密度(高衝突度)ではほぼ一定で ある.抵抗性交換型モード[12]や抵抗性バルーニングモー ド[13]による説明が試みられ,実験を再現する結果が得ら れている. Fig. 7 " EDA(Enhanced D$)H-mode Alcator C-Mod で発見され た H モ ー ド で あ る [14, 15]. EDA H モードでの quiescent coherent mode の発生とそ [1 6] . れに伴う D$線強度の上昇(Alcator C-mod) Type I ELMy H モードと同等の閉じ込め性能を有し,ELM での $$ 線の発光が増大することからこの名前がつけられ が存在しないにもかかわらず,密度や不純物の蓄積が無 ている.高安全係数(##">3.5)と高三角度(>0.35)で出現 い.プラズマ周辺部に局在した短波長の連続モード(quasi しやすい.また,高衝突度 (&!"! ! ")で発生する.ASDEX -coherent mode,QC モード,50−120 kHz)によって粒子 -UとDIII-Dで%,&!,'!等の無次元量を一致させることで, 輸送が増大したことによって ELM が無くても定常状態が EDA モードにまでは至らないものの,この quasi-coherent 維持されている(Fig. 7) [16, 17].このとき,ダイバータ部 mode が再現することが確かめられた.JFT‐2M から報告 568 Special Topic Article 2. Various Types of ELMs Y. Kamada et al. された HRS(High Recycling Steady) ‐H-mode[18]は,揺 動,電子温度・密度揺動で観測される.EDA の QC モード 動の詳細に若干の違いがあるが,上記と同様の特徴を持っ に比べて長波長であり,基本波長(6−10 kHz)と多くの ている[8, 19]. ハーモニック振動を伴う("#1,2,3,4).第一壁と最外殻 ! Quiescent H-mode(QH-mode) 磁気面との距離がある程度以上広いことが必要で,出現の しきい値がある.DIII-D では,counter NB 入射時にのみ出 DIII-D で見いだされ [20],その後 ASDEX-U [21] ,JT-60 U [2 2] ,JET [23]で再現されている.上記の EDA H モード 現 す る が,JT-60U で は Co-NB 入 射 で も 出 現 す る [22]. と同様に,Type I ELM と同程度の閉じ込め性能が得られ EDA 等とは異なり,むしろ低周辺密度・高周辺温度 (低衝 る.やはり,周辺揺動の発生によって粒子輸送が増加する. 突度)が必要で,%"$! ! "で得られている. この揺動は Edge Harmonic Oscillation(EHO)と呼ばれ " Type II ELM DIII-D から1 990年に報告された[26].高楕円度(>1.8)で (Fig. 8) [2 4, 25],ペデスタルの foot 近傍に局在し,磁気揺 三角度を増す(>0.5)と,Type I ELM が小型化した.最近 では,ASDEX-U [27],JET [28]で研究が進められ,特に, "() $! ! ! &%!! '%で,高 い 閉 じ 込 め 性 能 高 い 密 度 "" 0%減)と不純物蓄積の無い (!'&$! ! '%,Type I ELM の約1 定常状態を維持している.ここで,nGW はグリンワルド密 度である.ペデスタル部で広帯域低周波数の磁気揺動(30 −50 kHz)が発生する.このとき,密度揺動の増加も観測 されている.ただし,EDA とは異なり,粒子リサイクリン グの顕著な増加は見られない.Type I と共存する場合もあ "() る.ASDEX-U では,ダブルヌル配位に近く,密度 "" ! ! #!$ %で発生する(Fig. 9) が 0.85 以上,安全係数が #'%#$ [29].現在,%"#$"で得られている. # Grassy ELM JT-60U から報告された [30].高三角度,高安全係数,高 ポロイダルベータ値で発生する.三角度が高いと,より低 い安全係数で出現する(Fig. 10) [31].EDA や Type II のよ うな周辺のコヒーレントな揺動は発生しない.ペデスタル 圧力は,Type I と同等かあるいは高い場合もあり,閉じ込 め性能は良好で不純物蓄積も問題ない.最近,プラズマ周 辺部でのトロイダル回転をゼロから Counter 方向に変化さ せた場合に Grassy ELM となりやすいこともわかってきた Fig. 9 Fig. 8 QH モードの波形(a)と周辺磁気揺動(b)(DIII-D) [2 4, 2 5] . 569 Type II ELM の発生.$Xp はダブルヌル配位への近接さを 表す量.(ASDEX-U) [2 9] . Journal of Plasma and Fusion Research Vol.82, No.9 September 2006 Fig. 10 (a) Grassy ELM の波形:三角度の減少につれて Grassy → Mixture → Type I ELM に変化する.(b)三角度と安全係数 q95平面での Grassy ELM (○)と Type I ELM の出現領域 (c)高三角度配位.(JT-60U) [3 1] . Fig. 11 小振幅 ELM/ELM 無し H モードの特徴[8] . [32].低衝突度(!!∼0.2)で達成されており,内部輸送障 !小振幅 ELM/ELM 無し H モードのまとめ 壁との両立性も良い.Type I ELM との混合状態を経て純 Fig. 11 は,ここまで述べてきた小振幅 ELM あるいは 粋な Grassy 状態となる.このことは,異なる ELM が同居 ELMの無いHモードの特徴をまとめたものである.この中 する状態が存在することを意味し,Type I ELM からの で特に衝突度(collisionality)と ELM による蓄積エネルギー モード 数 や 固 有関 数 の 連 続 的 変 化 で は 説 明 で き な い. の放出割合(ELM size)の関係について Fig. 12 に示す. Grassy ELM は,JET [33],ASDEX-U [34]でも再現されて ITER の運転領域である低い衝突度で実現されているのは いる. Grassy ELM とQHモードであり,それ以外はいずれも衝突 度が高い. 570 Special Topic Article 2. Various Types of ELMs Fig. 13 Fig. 12 小振幅 ELM/ELM 無し H モードにおける ELM による蓄積 エネルギーの放出割合と衝突度[8] . Y. Kamada et al. ELM による蓄積エネルギーと D#信号の時間変化.(a) ガスパフによる自然状態の場合,(b) 83 Hz でペレットを 入射した場合.(ASDEX-U) [4 7] . 2. 3 ITER における ELM 制御と課題 2. 3. 1 ITER の設計および運転に対する ELM の影響 上述のように,ITER が目標とする高い閉じ込め性能を 実現するためには,高いペデスタル部の性能(温度または 圧力)が要求される[4, 35].一方,Type I ELM に伴うエネ ルギー流出量 "!!"# は,ペデスタル部の蓄積エネルギー 36],このために ITER のよう !&%$とともに大きくなり[8, に !&%$が 大 き な 装 置 で は "!!"# が 必 然 的 に 大 き く な る.このような ELM が制御されない状態で頻繁に発生す ると装置の健全性や運転上,種々の問題が生じる.まずダ イバータ板の損耗が問題となる.これを簡単に評価してみ よう.ITER の !&%$がどの程度となるかについては多くの 予測があり[37‐43],その幅もかなり広いが,全蓄積熱エネ ルギー(320−360 MJ)の 1/3 程度であろうと予想される. したがって !&%$に対する ELM 時の流出エネルギーの比 ("!!"#! !&%$)に $!スケーリング[44]を適用すると,20 Fig. 14 ペレット入射周波数の増加に伴う ELM 周波数の増加. (ASDEX-U) [4 7] . MJ 程度が流出することになる.ELM 熱負荷データベース によると[44],"!!"# のうち60−70%がダイバータ部に流 入し,その受熱面積は定常受熱面積の 1.5 倍程度となる(" かの方法で大きな ELM を制御し矮小化することが必須の 5 m2).したがって受熱エネルギー密度は 2.6 MJ/m2程度と こととなる.ただしいずれの制御法においても高いペデス 評価される.一方このような受熱に対する炭素繊維強化炭 タル性能を保つものでなくてはならない.以下に現在 素複合材料(Carbon Fiber Reinforced Carbon Material, ITER で検討されている各種 ELM 制御法について述べる. CFC 材)の熱拡散の計算によると,受熱エネルギー密度が 2. 3. 2 各種 ELM 制御法の ITER への適用例と課題 1 MJ/m2を超えると,表面温度は CFC 材の昇華温度を超 !ペレット入射 え,損耗により寿命が短くなってしまう [45].2.6 MJ/m2 この制御法はペレット入射により ELM を誘起し,その の受熱では,2 cm 厚のダイバータ板は約 1,000 回程度の 頻度を大きくすることで1回あたりの "!!"# を小さくし ELM で寿命となると予想される.後述するようにこのよ ようとするものである[46, 47].Fig. 13にASDEX-Uの実験 うな ELM の周波数は 1−2 Hz であるので,数ショットの 400秒放電でダイバータ板の寿命を迎えることになってし 結果を示す.Fig. 13(a)はガスパフ状態での自然発生 ELM を示す.ELM 周波数 " !"# は 51 Hz であり,この時の平均的 まう.このような現象は 1 MJ/m2という閾値を超えるか否 な "!!"# の全蓄積エネルギーに対する割合は 3.7% 程度で かが重要であり,現在の装置では問題とならないが,ITER ある.これに対し て,83 Hz でペレ ッ ト を 入 射 す る と, では大きな問題となるのである.このような大きな ELM ELM 誘起はこの入射によって完全に支配され,周波数は はダイバータ板の寿命だけでなく,運転上も大きな支障と ペレット入射周波数と同一になる.そしてこれに応じて なる可能性がある.上記の損耗量は1回の ELM あたり約 "!!"# の全蓄積エネルギーに対する割合は 2.6% にまで低 25 10 個の炭素不純物が放出されることに相当し,プラズマ 下する.このようにペレット入射周波数を大きくしていく 性能にも大きな影響を与える恐れがある.またこれに付随 と,ELM 誘起がペレット入射周波数により支配されてい して炭素ダストによるトリチウムの共堆積が増大すること く様子を Fig. 14 に示す.またこの時,ペデスタル性能は も懸念される.このようなことから ITER においては何ら Fig. 15に示すようにガスパフによる燃料供給時の自然発生 571 Journal of Plasma and Fusion Research Vol.82, No.9 September 2006 Fig. 15 ペレット入射した場合(白丸)としない場合(黒丸)のプラズマ分布の相違.(a)電子密度,(b)電子温度[4 8] . ELM の場合とほぼ同じであり,顕著な閉じ込め性能の低 下は観測されていない [48].ELM を誘起するためにはペ レットが径方向に,ある深さにまで到達する必要があり, その深さは高磁場側から入射した場合には,ペデスタル幅 "-,+に対して(0.5−1.0)"-,+程度であることが確かめられ ている[47]. この方法を ITER に適用する場合に必要となるペレット の仕様を求めてみよう [49].まず ELM により流出する平 均パワー !()* ## ()* """()* は,大きな ELM に対してセ パラトリックスを横切り流出するパワー !.,-の40%程度と なることが知られている.ITER での予想値 "-,+#20 MJ, !.,-$80 MW を 用 い る と # ()* $1.6 Hz が 自 然 発 生 ELM の周波数であると期待される.この時のダイバータ板への Fig. 16 (a) DIII-D のポロイダル断面と共鳴摂動磁場印加用コイル (I‐コイル)位置.(b) I‐コイルのポロイダルおよびトロイ ダル配置と通電パターン[2 0] . Fig. 17 (a) I‐コイルによる長時間の ELM 制御の実施例とその時 の下部ダイバータにおける D#信号.(b) I‐コイルの通電 による ELM 振幅の変化[5 3] . 受熱エネルギー密度は前述したように 2.6 MJ/m2程度とな り,これを許容値 1 MJ/m2以内に下げるには,周波数を 2.6 倍以上にすればよいことになる.したがってペレットを 4−5 Hz 以上で入射することになる.一方ペレットサイズ は ELM 誘起に必要な到達深さとペレット入射速度の条件 から決まり,例えば 400 m/s のペレットでは溶融計算から 直径約 3.2 mm 程度で ! ! "-,+程度まで到達できるという結 % 果が得られている[50]. このようにペレットによる方法は確実に ELM を制御し 矮小化できるものとして,ITER では第一候補として設計 が行われているが,物理的にさらに確認する必要がある点 として,エネルギー閉じ込めの劣化が小さいことを,自然 発生 ELM の周波数が小さい領域で確認することがあげら れる.ASDEX-U では2 0−80 Hz 程度の範囲で,蓄積エネル "& !!! ギーが # という非常に弱い依存性でしか劣化しないこ ()* とを示しているが[46],このような依存性がさらに低い自 然発生 ELM の周波数領域でどのようになるかを確認する 必要がある. ! 共鳴摂動磁場印加法 この方法はペデスタル領 域 に 外 部 か ら 共 鳴 摂 動磁場 いられた RMP 生成コイル(I‐コイル)である.トロイダル (Resonant Magnetic Perturbation,RMP)を印加してエル 方向に6個のサドルコイルをそれぞれ上下に設置し,トロ ゴディック層を作り,輸送を増大させて圧力勾配をピーリ イダルモード%##,ポロイダルモード$#'!"$の摂動磁 ング・バルーニング(Peeling Ballooning,PB)不安定の臨 場によりペデスタル近傍に RMP を生成する.Fig. 17 は 界値以下にとどめることにより,バースト的な ELM を起 RMP による ELM の変化を示す.時刻3秒あたりで I‐コイ こさせないようにするものである.DIII-D で実験が行われ ルをオンし 4.4 kA の電流を流すことにより,それまでの典 良好な結果が得られている[51‐54].Fig. 16 は DIII-D で用 型的な Type I ELM は不規則な小振幅の磁場および密度揺 572 Special Topic Article 2. Various Types of ELMs 動に変わる.このような状態は I‐コイルに通電している間 Y. Kamada et al. への適用について概説する. 中続き,エネルギー閉じ込め時間より十分長い時間持続で 多くの小振幅 ELM 運転領域を特徴づけるのはプラズマ きることが示されている.4.4 kA の I‐コイル電流により生 形状(特に三角度 $")と安全係数 !'%である.典型的な運転 成される摂動磁場はトロイダル磁場の 1/5,000 程度であり, ! %)であるが,Type I ELM との 領域は($"#! ! %,!'%## ITER などへの外挿もこの程度が目安となる.このような 混在でなく小振幅 ELM を安定的に得るためにはさらに高 摂動磁場が印加された時,ペデスタル部は複雑な応答をす い !'%値(>4)が必要な場合が多い.ITER では $"$! ! % る.顕著な応答は密度の減少であり,電子およびイオン温 であり,プラズマ形状の点からは条件を満たしているが, 度はあまり変わらない.したがってペデスタルの圧力は若 標準運転シナリオでは !'%"#であるから !'%値の条件を満 干低下(したがって蓄積エネルギーも低下)するものの,閉 たすことが難しい.プラズマ電流を下げたハイブリッドシ じ込めスケーリング則の密度依存性により,閉じ込め改善 ! &)では限定的ながら !'%の条件が満たされ ナリオ(!'%"# 度(HH ファクター)はあまり変わらない結果となってい る.さらに定常運転シナリオ(!'%"%)では十分にこれら る.このような密度やその揺動の振る舞いは,次節で述べ の条件が満たされるため,小振幅 ELM での運転が可能と る小振幅 ELM と類似しており,その背景物理の共通性を 考えられている. 強く示唆するものである.実際 DIII-D グループは,小振幅 ペデスタル部の衝突度 %!は,自発電流への影響を通して ELMの一種であるQHモードとの類似性の観点から精力的 ピーリングバルーニング安定性にとって重要なパラメータ に研究を進めている.大部分の小振幅 ELM が磁場配位や である(第5章).そこで %!を用いてこれらの小振幅 ELM プラズマ電流などの運転領域の調整で実現されるのに対し ! (< の運転領域を分類してみると,ITER のように小さい % て,この方法は外部からの能動的手段により実現できる可 0.1)で実現される小振幅 ELM は QH モードと Grassy ELM 能性を持つ興味深い制御法である. のみであり,EDA,HRS,Type II ELM は %!#"が運転領 一方この制御法を ITER に適用しようとすると,多くの 域となっている.一方現在の装置で %!を小さくしようとす 工学的困難に突き当たる.最も容易に RMP コイルを配置 ると,必然的にプラズマ密度が低くなり,実際 QH モード できる場所は真空容器およびトロイダルコイルの外側であ や %!の小さい Grassy ELM は低密度で得られている.した るが,ここはプラズマ表面から 3 m 近く離れており,10 ガ がって %!が小さい QH モードや Grassy ELM が低密度の運 ウス程度の RMP を生成するには 400 kA 程度の電流が必要 転領域に限定されるかどうかが,ITER への適用の可否を である[55].しかも生成された RMP は減衰長が長ため,主 決める大きなポイントとなる. プラズマ内部に大きな磁気島が生成されてしまう.例えば !"$ " #の位置における磁気島幅は 8 cm 程度と評価される 参考文献 [55].このような大きな磁気島はそれ自体で閉じ込めに影 [1]ITER Physics Basis, Nucl. Fusion 39, 2137 (1999). [2]Progress on ITER Physics Basis, to appear in Nucl. Fusion. [3]Y. Kamada et al., Nucl. Fusion 41, 1311 (2001). [4]V. Mukhovatov et al., Nucl. Fusion 43, 942 (2003). [5]M. Yoshida et al., Plasma Phys. Control. Fusion 48, A209 (2006). [6]H. Urano et al., Phys. Rev. Lett. 95, 035003 (2005). [7]Y. Kamada et al., Plasma Phys. Control. 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Fusion 46, 1745 (2004). 響を与えると考えられるが,この磁気島が種となって新古 典ティアリングモード(Neo-classical Tearing Mode,NTM) が成長し,閉じ込めがさらに大きく劣化することが懸念さ れる.これを避けるためには,RMP コイルを真空容器の中 に設置する必要があり,ブランケットモジュール(Blanket Module)に巻き付ける案などが検討されている.この場合 には20 kA程度の電流で必要なRMPを生成でき,しかも減 衰が速いので主プラズマ内の磁気島幅も 4 cm 以下にでき る[55].しかし真空容器内へのコイルの設置は BM の電磁 力支持構造への影響,放射損傷,遠隔補修など工学的困難 が非常に大きい.したがってこの制御法を実際に ITER に 組み込むためには,これが物理的に真に優れた制御法であ ることを確認することが必要である.確認すべき物理課題 としては,! ITER の標準運転シナリオの放電条件下(例 えば安全係数 !"#)での制御性能,"主プラズマ内部に生 成される磁気島の NTM やモードロッキングに対する影 響,#粒子補給用ペレットにより大きな ELM が誘起され ないこと,等があげられる.これらの課題は将来 DIII-D や JET,MAST などで実験研究が計画されており,その結 果が待たれるところである. !小振幅 ELM を伴う運転領域 第2. 2. 2節で述べたように,これまでに多くの装置で,振 幅が非常に小さい ELM や,あるいは非バースト的な揺動 状態が実現されている.ここでは主としてこれらの ITER 573 Journal of Plasma and Fusion Research Vol.82, No.9 September 2006 [2 0]K. H. Burrell et al., Plasma Phys. Control. Fusion 44, A253 (2002). [2 1]W. Suttrop et al., Plasma Phys. Control. Fusion 45, 1399 (2003). [2 2]Y. Sakamoto et al., Plasma Phys. Control. Fusion 46, A299 (2004). [2 3]W. Suttrop et al., Nucl. Fusion 45, 721 (2005). [2 4]K.H. Burrell et al., Plasma Phys. Control. Fusion 46, A165 (2004). [2 5]P. Gohil et al., Plasma Phys. Control. Fusion 45, 1399 (2003). [2 6]T. Ozeki et al., Nucl. Fusion 30, 1425 (1990). [2 7]J. Stober et al., Nucl. Fusion 41, 1123 (2001). [2 8]G. Saibene et al., Nucl. Fusion 42, 1769 (2002). [2 9]J. Stober et al., Proc 20th IAEA Fusion Energy Conf. EXP1 -4. [3 0]Y. Kamada et al., Plasma Phys. Control. Fusion 42, A247 (2000). [3 1]Y. Kamada et al., Plasma Phys. Control. Fusion 44, A279 (2002). [3 2]N. Oyama et al., Nucl. Fusion 45, 871 (2005). [3 3]G. Saibene et al., Nucl. Fusion 45, 297 (2005). [3 4]J. Stober et al., Nucl. Fusion 45, 1213 (2005). [3 5]M. Shimada et al., Nucl. Fusion 44, 350 (2004). [3 6]A.W. Leonard et al., J. Nucl. Mater. 266-269, 109 (1999). [3 7]T. Takizuka, Plasma Phys. Control. Fusion 40, 851 (1998). [3 8]J.G. Cordey et al., Nucl. Fusion 43, 670 (2003). [3 9]K. Thomsen et al., Plasma Phys. Control. Fusion 44, A429 (2002). [4 0]M. Sugihara et al., Nucl. Fusion 40, 1743 (2000). [4 1]T. Onjun et al., Phys. Plasmas 9, 5018 (2002). [4 2]P.B. Snyder et al., Nucl. Fusion 44, 320 (2004). [4 3]M. Sugihara et al., Plasma Phys. Control. Fusion 45, L55 (2003). [4 4]A. Loarte et al., Plasma Phys. Control. Fusion 45, 1549 (2003). [4 5]G. Federici et al., Plasma Phys. Control. Fusion 45, 1523 (2003). [4 6]P. Lang et al., Nucl. Fusion 44, 665 (2004). [4 7]P. Lang et al., Nucl. Fusion 45, 502 (2005). [4 8]H. Urano et al., Plasma Phys. Control. Fusion 46, A175 (2004). [4 9]A.R. Polevoi et al., Nucl. Fusion 43, 1072 (2003). [5 0]A. Polevoi et al., Plasma Phys. Control. Fusion 43, 1525 (2001). [5 1]T.E. Evans et al., Phys. Rev. Lett. 92, 235003-1 (2004). [5 2]K. Burrell et al., Plasma Phys. Control. Fusion 47, B37 (2005). [5 3]T.E. Evans et al., Nucl. Fusion 45, 595 (2005). [5 4]R.A. Moyer et al., Phys. Plasmas 12, 056119-1 (2005). [5 5]M. 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