第 1 章 「がん」とはどんな病気?? 「がん」とはどんな病気??

第 1 章 「がん」とはどんな病気??
しんちんたいしゃ
人間の細胞は常に生まれかわっています(新陳代謝)
。生まれかわるときに遺
伝子に傷がつくと、
「悪性細胞」ができます。傷の原因はタバコ、酒、塩分、紫
外線、熱い飲み物などです。
「悪性細胞」の集団が「がん」です。
「がん」は勝
手に増えて、栄養を盗み、最後は体がもたなくなって死んでしまいます。
ですから「がん」は自分の体から出た病気、自分の分身なのです。分身にし
ては、さっぱりかわいくないんですけどね!?
新陳代謝が最も早い胃や腸の粘膜は5 日程度で生え替わります。大まかに言
うと、1ヶ月で6 回、1 年で72 回、10 年で720 回、50 年で
3600回も生え替わるのです。生え替わる回数が多いほど、
「悪性細胞=がん」
が出来る可能性が高くなります。
医療の進歩により日本人は世界一の長寿国になりました。その分、細胞が生
まれかわる回数も増えました。その結果、「がん」もできやすくなったのです。
よく「がん」は遺伝ですか?と聞かれます。これは半分正しく、半分間違い
です。正確には、親や兄弟に「がん」患者がいる場合、いない場合に比べて 2 倍
かか
程度「がん」に罹りやすくなると言われています。特に遺伝的要因が強い「が
ん」として、大腸がん、乳がん、前立腺がんが挙げられています。
遺伝の要因のほかに、生活習慣が大きく発がんに影響します。差し当たり、
禁煙、塩分控えめ、運動などが予防策として重要です。これらは他の生活習慣
病である、
「高血圧」
「糖尿病」
「高コレステロール血症」などの予防と同じです
ね!!
ただ、これらの予防策をすれば絶対「がん」にならないわけではありません
から、要注意ですよ。
第 2 章 日本人の「がん」
日本では毎年約110万人の人が亡くなっています。死亡原因の第1位は「が
ん」で、約33万人(30%)です。
死亡原因になる「がん」は性別でその部位に多少違いがあります(下表 。
死亡原因になる「がん」は性別でその部位に多少違いがあります(下表)
つな
かんぞう
すいぞう
たんのう
一般的に「口」から「おしり」までの消化管とそれ
一般的に「口」から「おしり」までの消化管とそれに繋がる肝臓
肝臓、膵臓、胆嚢
にゅうせん
ぜんりつせん
などの消化器がんで全体の6割弱、それに肺と 乳 腺 、前立腺を加えると実にが
ん死亡の8割以上を占めるのです。
順位
男性
女性
1
肺
4.6万人
大腸
1.9万人
2
胃
3.3万人
胃
1.8万人
3
大腸
2.2万人
肺
1.7万人
4
肝臓
2.2万人
乳房
1.1万人
5
すい
すい臓
1.2万人
肝臓
1.1万人
6
食道
1.0万人
すい臓
1.1万人
7
前立腺
1.0万人
胆道
0.9万人
合計
19.8万人
13.1万人
(厚生統計協会 平成 18 年)
ところで「がん」になった人はみんな亡くなってしまうのでしょうか?いい
え、そんなことはありません。
りかんしゃ
かか
推計値ですが、死亡数対
推計値ですが、死亡数対罹患者の比で考えると、2人ががんに罹
の比で考えると、2人ががんに ると1人は
治り、1人は残念ながら亡くなる
治り、1人は残念ながら亡くなるということです。
そして、「がん」には治りやすい「がん」と治りにくい「がん」があります。
肺がん・肝がんでは、
肺がん・肝がんでは、10人中約8人が亡くなるのです。
一方、胃がんは死亡率が
一方、胃がんは死亡率が10人に約4人、大腸がんは10人に約3人
10人に約3人、さら
に乳がんは10人に約2人と
10人に約2人となります。
この違いはどこから来るのでしょう?理由は色々あるのですが、一番は診断
時点での「がん」の進み具合です。早く見つかれば治る可能性は高くなります。
検診が進んでいる胃・大腸・乳房などは早期がんでの発見ができるので 生存
率が高いわけです。
がん治療の大原則は、やはり 「早期発見・早期治療」なのです
なのです。
第 3 章 「ガン」の予防
今まで、
「がん」の病気の基礎知識や日本の実態を 、このコーナーで述べて
きました
が、ここで大切な「がん」の予防についてお話します。
「がん」に罹らないことに越したことはありません。現在推奨されている予防
法をお教えします。
1、禁煙。受動禁煙も極力避ける
2、適度な飲酒。日本酒換算で1日1合(ビール大瓶1本)以内
3、定期的運動。毎日合計60分程度の歩行、週1回は汗をかく
4、成人期での体重維持。BMI[体重(kg)÷身長(m)の2乗]が
中年男性 21-27、中年女性 19-25
5、バランスの良い食事。
・塩分摂取制限。1日 10g以内、高塩分食品は週1回以内
・野菜・果物を1日 400g。野菜は毎食、果物は毎日
・熱い飲食物は最小限。飲料は冷ましてから
・ハム、ソーセージなどの保存食は最小限に
6、肝炎ウイルス感染の有無を知り、治療・予防の措置を取る。
以上です。ただ、これらを守れば「がん」にならないのではなく、
「がん」に
かかりにくくなるとお考えください。
日本全体でみると禁煙により、男性9万人、女性1万人の「がん」患者が予
防可能と言われています。
やはり禁煙治療からでしょうか!
第 4 章 胃がん検診について
当院では胃がんの1次検診は行っておりません。
これは盛岡市の検診がバリウムを飲む検査(透視)と決まっているからで、
透視の装置を置かない当院では検査できません。
胃透視による検診のお陰で、日本では 早期胃がんが発見され、治療成績も素
晴らしいのです。
しかし、医療技術の進歩から、透視は徐々に時代遅れになってきました。
現在非常に早期のがんの場合、お腹を切らずに内視鏡(胃カメラ)だけで治
療が出来るようになりました。
そのような病変を見つけるには、透視では難しい場合が多く、胃カメラがど
うしても必要になります。
また、透視でひっかかった場合は、いずれ胃カメラで調べないといけません。
このような状況を受けて、もしかしたら来年からは内視鏡(胃カメラ)検診
がスタートするかもしれません。
胃がん検診をこれから受けようと思っている方は一度ご相談下さい。
少し自己負担は発生しますが、 結局胃カメラのほうが良いかもしれません。
第 5 章 胃がんとピロリ菌について
「 ピ ロ リ 菌 」と い う 細 菌 を ご 存 じ で す か ? 今 か ら 約 3 0 年 前 に 見
つかった比較的新しい細菌です。 この菌は胃の粘膜に住み着くこと
が知られています。
ピロリ菌の感染は主に口からで、 離乳食の口移しや衛生状態の悪
い環境での水や食品を介しての感染も原因と考えられています。 そ
して、 日本人の約半数が感染していると言われています。 特に中
高年の感染率が高いと言われています。
いしゅくせい い え ん
じゅうにしちょうかいよう
ピロリ菌の持続感染は、 萎縮性胃炎、 胃 ・ 十二指腸潰瘍、 胃
か けいせい せい
がん、 胃リンパ腫、 過形成性ポリープなどを引き起こすと考えら
れています。 特に萎縮性胃炎は胃がんの元になると言われていて注
意しなければいけない病気です。 萎縮性胃炎の診断は胃カメラが必
要です。
ピロリ菌に感染しているかどうかは、 胃カメラと血液検査等で簡
単に分かります。
当院では、 苦痛の少ない胃カメラなど検査方法が選べますので、
気になる方は一度院長やスタッフにご相談下さい。
第6章 食道がんについて
食道がんについて(1)
んについて(1)
前号まで胃がんを中心に書いてきましたが、今回はその手前の食道の話をし
ます。
私は大学病院時代、胃がんと食道がんの両方のチーフをやりましたが、長く
お ざ わ せい じ
かかわったのは食道がんの方面です。最近は指揮者の小沢征爾さんやサザンの
く わ た け い すけ
桑田佳祐さんが手術したことでも有名ですよね。
食道がん手術は消化器外科の中で最も難しい手術といわれています。年間 30
名くらいの手術にかかわっていましたが、年間手術例 30 例だと全国で 20 位く
らいです(
「全国なんとかランキング」には私の名前も出たりもしました)
。
食道がんの症状は、
「食物が喉につかえる」が圧倒的に多く、お酒好きの人に
多いのも特徴です。
また、診断がついたときは既にかなり進んでいる場合が多いです。
早期がんで見つかれば楽な治療ですみますが、進行がんだと、手術を含めて
治療はなかなか大変です。
早期がんは症状がないため、見つけるにはいまのところ内視鏡以外ありませ
ん。胃がん検診も兼ねて内視鏡検査をお勧めします。
次回以降、もう少し詳しくお話します。
第 7 章 食道がんについて(2)
前号からの食道がんの話の続きです。
食道がんは圧倒的に男性に多く、またお酒好きに多いのが特徴です。特に「酒
を飲むときはつまみはいらない」系の人は要注意です。
それと、食道がんはその他のがんと同時に、あるいは時間をおいて起こるこ
とが多いのも特徴です。これを重複がんと言います。重複するがんとして多い
いんとう
こうとう
のは口の中のがん、舌がん、咽頭がん、喉頭がん、肺がん、胃がんなどです。
これらのがんの種類をみると、胃までの食べ物の通り道と肺までの空気の通
り道です。つまり、食べ物や空気に含まれている発がん物質に“より多くさら
されている部位”ががんになりやすいのです。
たち
もう1つ厄介なことがあります。それはこれらの部位のがんは、往々にして質
が悪いことが多いのです。
「なかなか症状が出にくい」
「早期に転移を起こしや
すい」
「大きくなるスピードが早い」などです。
一般的に胃がん検診は年1回で大丈夫と言われていますが、食道がんでは「こ
の前の検診では何でもなかったのに、1年でこんなに進んで・・」ということ
も中にはあります。
早期発見には、胃がん以上に内視鏡が有力で、特に特殊な光をあてて観察す
る方法(NBI)が有用です。胃がんの章でも書きましたが、少なくとも年1
回の内視鏡は必要と思っていた方がいいと思います。
第 8 章 逆流性食道炎について
ぎゃくりゅうせいしょくどうえん
皆さんは「 逆 流 性 食 道 炎 」という病気を
ご存じですか?テレビで時々、鉄腕アトム
で宣伝しているやつです。
逆流性食道炎 と食道がんは全く別な
病気ですし、逆流性食道炎の
院内に
パンフレットが
方が患者さんの数は多いと
ありますよ
思います。
症状は「胸やけ」
、
「げっぷ」
、 「みぞおちのもたれ感」などです。
食道がんや胃がんもこれらと同様の症状を訴えることがあります。
ひどくなると飲み込むときにつかえるなどの症状を訴えます(食道がんと同
じなので要注意)
。
これらの症状を感じる程度は個人差が大きいです。また、太り気味の人にも
多く見られます。
た
なぜかというと、お腹に脂肪がついてお腹の中に食べ物が溜まるスペースが
狭くなります。そのため、食べるとすぐにお腹が一杯になり、胃から胃酸など
あふ
が溢れて食道に逆流するためです。最終診断はカメラで行います。いずれ良い
お薬がありますので、気になる方はご相談ください。
第 9 章 大腸がんについて
今 回 か ら 大 腸 が ん の 話 を し ま す 。 大 腸 が ん は 、今 一 番 増 え て い る
りかんすう
がんで、男性で3位、女性では1位の死亡数、罹患数は男女とも2
位で胃がんと並ぶ頻度の高いがんです。そして実は岩手県は全国で
も有数の大腸がんの多い県なのです。
しょくどう
い
じゅうにしちょう
しょうちょう く う ちょう
かいちょう
口 か ら 入 っ た 食 べ 物 は 、食 道 ・ 胃 ・ 十 二 指 腸 ・ 小 腸 (空 腸 ・ 回 腸 )
だいちょう けっちょう
を経 て 大 腸 (結 腸 )に はい り 、肛 門 から 便 にな って 出 てい き ます 。
大 腸 は 1.5~ 2m 程 度 の 長 い 管 で 、 盲 腸 か ら S 状 結 腸 ま で の 結 腸 と
それより肛門側の直腸に分かれます。長い大腸のどこに「がん」が
多いかというと、だいたい直腸に4割、S状結腸に3割、残りの結
腸に3割くらいです。つまりお尻に近い部分にがんが多いのです。
大腸がんは部位別に症状が違います。S状結腸がんや直腸がんで
は、血便、便が細くなる、残便感、腹痛、下痢と便秘のくり返しな
ひ ん ど
ど排便に関する症状が多くなります。特に血便の頻度は高く、痔と
の鑑別が重要です。
じょうこうけっちょう
一方、盲腸や 上 行 結 腸 がんでは血便を自覚することは少なく、貧
血で気付くこともあります。腸が狭くなりおこる腹痛や腹鳴(ごろ
..
...
ご ろ す る )、 腹 部 膨 満 感 ( お な か の 張 り ) や 痛 み を 伴 う し こ り が 初 発
ふ く ぶ ぼ う まんかん
症状のこともあります。
いずれ早期発見、早期治療が大切ですし、他のがんと同じく早期
がんでは症状はほとんどありません。
やはり、検診が非常に大切です。
第10章
第10章 大腸がんについて(2)
前号でお話したとおり、大腸がんは最近急増しているがんです。
大腸がんの特徴は、多くの場合、ポリープが“がん化”して発生します。
(そ
うでない場合もあります)
。
ポリープの大きさが 1cmまでであれば、がんはほとんどないと言われていま
す。そして、大きくなるにつれてがんの可能性も高くなり、1.5cm以上だとポ
リープの一部にがんが紛れ込んできます。
この場合、ポリープの先端にがんが出来ます。胃がんではポリープのがん化
は余り多くないので、大腸がんと胃がんの大きな違いになります。
小さなポリープは大腸カメラでないと見つからない場合が多いです。そして
小さいポリープのうちにポリープ切除(ポリペクトミー)してしまえば問題あ
りません。
ただし、大きくなれば手術になります。
ポリープ切除は入院で行う病院も沢山ありますが、当院では大腸カメラをや
って、その際にポリープが見つかればそのままポリープ切除をやってしまいま
す。つまり、外来で可能です
(すべてが外来で出来るわけではありません)
。