今こそ揺らぎのない信念を

2009年に寄せて
ジャズのスタンダードナンバーに「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザストリート」
という曲があり
ます。いろいろな人が歌っていますが、洒脱な歌いっぷりのトニー・ベネットがお気に入りです。
「さあ、コートと帽子を手にとって、陽の当たる道へと飛び出そう、すべての悩みはドア口に置い
て」
と始まります。
北京オリンピッックによる好景気が期待された昨年は、米国金融破綻に端を発した世界
同時不況で半導体産業各社の多くが厳しいビジネス舵取りを余儀なくされ、それは今年も続
くと予想されています。
そのような市況の中で、SEMIはどのようなサービスを提供させていただくことが業界および
会員企業各社にお役に立てるのかということは、大変重要な課題であると認識しております。
SEMIジャパン 代表
中川 洋一
本年も皆様からのさまざまなご指導・ご鞭撻を賜りたく存じます。
しかし、この業界が提供している技術・製品はすでに現在のユビキタス社会になくてはなら
ないものであり、むしろ一層の成長を遂げるのは間違いないものと確信しております。
「たとえ1セントも持っていなくても、日陰でなく陽の当たる側ではロックフェラーのような気分
になれる」
と先の曲は続きます。現状に目を背けることはできませんが、陽だまりを求める明る
い気持ちを忘れずに今年を迎えたいと存じます。
SEMI News • 2009, No.1
Contribution Article
新しい年を迎えて−今こそ揺らぎのない信念を−
東京エレクトロン株式会社 代表取締役会長 東 哲郎
昨年12月初め、ある半導体メーカーのトップにお会いした時
一つ目は、厖大な開発投資と
のこと、私が
「大変な時代になりましたね」
と語りかけましたら、
設備投資とが必要なことから、
「いやー、実にやりがいのある時期になりましたね」
と明るく、
各領域において、Collaboration
力強く応えられていました。その後も何人かの業界リーダーの
とConsolidationとがより促進さ
方々にお会いしましたが、皆様、きわめて厳しい経済環境の真只
れ、いくつかの企業群からなる多
中にあって、この難局を克服する強い意志と覚悟、またさわやか
極化された構図へと収斂する。
しゅうれん
な明るさを持っておられました。
二つ目は、大量生産製品の製
造拠点は、コア技術を除き、アジ
一昨年末、サブプライムローン問題に端を発した米国の金融
アへのシフトが加速化される。
危機は、昨年9月のリーマンブラザーズの経営破綻により米国経
三つ目は、技術開発は、国境を超えた個の能力の結集とチ
済中枢の経済危機を印象付け、さらに10月中旬より、欧米を中心
ームワークによる技術の実現とを組み合わせたマネージメント組織
とする先進諸国だけでなく、
新興諸国をも含む全世界の経済が、
がより必要となってくる。
加速的に悪化してきました。このような時期に、先ほど触れた数
四つ目は、いわゆるクラウドコンピュータと呼ばれるネット
人の業界リーダーの方々にお会いし、いずれの方も、力強く前向
ワークによる分散処理が進み、従来の多機能の自立した処理能
きな姿勢でおられることに私も勇気付けられました。この時期
力を持つ、PC・携帯電話等の端末のかなりの部分がより軽い処
を克服するには、
もはや短期的対応だけでは困難であり、長期的
理能力を持つ携帯端末に替り、広範な地域で使用される。ハ
大局的観点での諸施策を打つことが必須であること、さらに焦
イ・スピード処理と低消費電力化の技術がカギとなる。
らず、一つひとつを着実に進めることが肝要であります。
五つ目は、グリーンITのコンセプトが広がり、ICTによる社会
インフラの低エネルギー消費、環境負荷逓減が進む。同時に、新
今、世界の何が崩壊しつつあり、どこへ向かっているのかに関
興諸国におけるICTをテコにした経済発展が進み、ICTそのもの
してさまざまな指摘がありますが、明らかになっていること、ま
の低消費電力化、環境負荷逓減が必須の技術課題と位置付
た世界から期待されていることを大まかに要約すると、以下の
ICTプロセス技術から生まれた新代替
けられる。太陽光発電等、
ようになると思います。
エネルギー、エネルギー消費の少ない有機EL等の新ディスプレイ
一つ目は、米国一国が金融技術により世界経済を索引する一
技術も、
このような観点から、
重要な技術領域と位置付けられる。
極構造から、アジアを含むより多極化された構造へ変化する。
二つ目は、世界のGDPの三倍にも膨張した金融資産が収縮
少々私の個人的な期待感が混入されましたが、ご容赦くださ
すると同時に、ゆがめられた実体経済の是正と新しい価値観に
い。我々が携わっている産業は、今後の世界経済の回復と健全
基づく回復が期待されている。
な成長の原動力の一つとして期待できると同時に大きな責務を担
三つ目は、環境に著しい負荷をかけ、地球規模での環境破壊
っています。
をもたらしたこれまでの経済成長のあり方は限界に達し、より長
てい げん
期的な観点で、環境負荷を逓減する形での技術革新と経済成
長が期待されている。
今回のきわめて大きな経済環境の変化は、これまであった企
業間の多少の差を帳消しにし、改めて同じスタートラインに立
四つ目は、全世界の人々の生活を豊かにする新技術・新製品
たせ、今後の舵取り次第で、新たな成長のチャンスを生むものと
に基づく新たな展開、より広範な経済成長と発展が希求されて
思います。昨年、米国は建国以来の大きな決断をし、初めて黒人
いる。
の大統領を選択しました。それほど、従来のあり方に失望し、大
きな変化を望んでいるものと思います。
(Information and Communication
ここで、我々が属しているICT
我々も、技術のイノベーション、ビジネスイノベーション、業
Technology)
産業、半導体・液晶関連産業に目を移し、今後の傾
界のイノベーションを胸に秘め、助け合えるところは助け合い、
向を見てみたいと思います。
共々頑張っていきましょう。
No.1, 2009 • SEMI News
1
SEMICON Japan 2008 Report
セミコン・ジャパン 2008 開催報告
−厳しい経済環境下での開催−
セミコン・ジャパン 2008が、去る12月3日(水)∼5日(金)の3日
本コーナーでは、今後の半導体に
間、
幕張メッセ全館を使用して開催されました。
世界8ヵ所で開催さ
更なる影響を与え、これからの市
れるSEMICONショーの2008、9年共通のテーマとして「Infinite
場性が期待できる技術として、ワイ
Possibilities(無限の可能性)」を掲げ、さらにセミコン・ジャパン
ドギャップ半導体を取り上げ、その
2008においては、
「世界を繋ぐ、地球を守る、未来を創る。
」
をサブ
アプリケーションとしてクルマとロボ
テーマとしました。昨年後半以降の世界的かつ急速な景気の悪
ットにフォーカスした企画が展開さ
化にもかかわらず、国内外から1,477社、4,450小間の出展を得て
れました。メインステージでは、
『車
。経費削減
開催することができました
(昨年:1,548社、4,602小間)
載に向くワイドギャップ半導体の現
多く
や出張制限などの厳しい状況の中、
実来場者数53,825名と、
の皆様にご来場いただきました。昨年の63,192名に比較すると減
少しましたが、実質的な話ができる来場者が多かったとの声も
状−車に於けるエネルギー
(動力)
会場を移動する
2輪倒立振子型ロボット
制御と情報通信に重要な半導体
エレクトロニクス』
と
『サービスロボッ
ご出展社からは聞かれました。ご出展社ならびに会場までお越
トの現状と課題』の2つのテーマでの特別講演が提供され、多
しくださったご来場者の皆様に深く御礼申し上げます。
くの聴講者で賑わいました。特に初日の車載に関する講演は、
立ち見が出るほどの盛況ぶりで、半導体の今後の応用分野へ
■ オープニングキーノートと数々のセミナー、会議
セミコン・ジャパン全体の基調講演として今年初めて企画さ
の期待と模索がうかがわれました。さらに、ホール中央では、2輪
でありながら自立・走行する
「2輪倒立振子型ロボット」のデモも
れた「オープニングキーノート」では、国内外の装置・材料メーカ
行われ、来場者の注目を集めていました。
ーとデバイスメーカーの経営者の方々と行政の幹部が一堂に会
と
「The高専@SEMICON」
初めての試み:
「Supplier Search」
をテーマに、世界に向けて
して、
「Sustainability−半導体の未来」
また、セミコン・ジャパン初のイベントとして出展社を対象と
のメッセージを発信しました。日本から経済産業省の星野岳穂氏、
を実施しました。今回は、日本サムスンが
した
「Supplier Search」
東芝の室町正志氏、東京エレクトロンの東哲郎氏、台湾から
未知なる製品・技術との出会いを求めて参加し、同社が提示した
Powerchip Semiconductor Corp.のFrank Huang氏により、現
テーマに対し出展社より多数の応募があり、会期の3日間を通じて
在のマーケットに対するそれぞれの見方と取組み、さらには環境に
日本サムスンと出展社との面談が行われました。
「とてもよい
対する取組みと提言が発表されました
(本誌P4・5の詳細報告をご
企画であり、新たな発見につながった」
とご好評をいただき、セ
覧ください)
。
ミコン・ジャパン 2009でも実施する予定です。
このオープニングキーノートを皮切りに、最新の半導体製造
さらに新しい試みとして、東京エレクトロンが中心となって
技術が発表されるSEMIテクノロジーシンポジウム(STS)、マ
「The 高専@SEMICON」
半導体製造装置メーカー4社が企画した
などのテクニカル/
ーケットセミナー、EHS(環境・健康・安全)
に
が注目されました。これは、各社が高等専門学校(高専4校)
ビジネスセミナー、教育セミナーをはじめとするスタンダード
それぞれ自社ブース内のスペースを提供して、将来を担う若者
セミナー、材料や製造技術の業界標準を決めるスタンダード会
が技術や研究成果を展示・発表する企画で、多くの来場者を
議など、多彩なセミナーや業界の方向性を左右する国際会議が
集めました。
開催されました。
■ 出展社の発表の場と来場者へのサービス
■ 展示会場での企画
出展社の発表の場としては、出展社セミナーに加えて「セミコ
展示場では、半導体製造装置・材料の展示とともに、イノベー
ン・ジャパン リリースプレゼンテーション∼出展社による新製
ションホールにおいて、MEMS、ナノテクノロジー、製造エンジ
品・新技術の発表会∼」
が、ご好評にお応えして今年も開催され
ニアリング、ベンチャー、有機半導体など、関連産業の製品・技
ました。展示会に来場しなければ見られない、来場して初めて知
術・サービスが展示され、
「移動体制御技術がもたらすサステイ
ることができる情報の発信の場です。前回は発表内容により聴
ナビリティ」
と題して、SEMI特別企画コーナーも設けられました。
講者に偏りが見られましたが、2度目となる今回は、各回とも満
2
SEMI News • 2009, No.1
SEMICON Japan 2008 Report
遍なく聴講者が得られ、当企画への認知度の高まりとともに、関
ルを作成し、学生が気軽に楽しみながら出展社を訪問できるよ
心のある新製品・新技術を予め調査して来場される方が増えた
うに工夫しました。展示会場では、67の出展社がこの企画に参
ことを示唆していました。
加して学生を親切丁寧に迎え、好評を得ました。さらに「セミコ
一方、来場者へのサービスとしては、効率よく会場を回ってい
ンへ行こう!」
では、学生に半導体製造業界が日常生活に占める
ただくために、実機・実物の展示を行う出展社を、ブースナビ
役割や、業界の魅力を感じてもらうための講演会が毎日行われま
ゲーター
(ブース検索システム)
とフロアガイドに表示しました。
した。特に今回は開発の現場から女性技術者を招いて、男女共
これらの表示により、
新製品・新技術の情報収集、
実機・実物のデ
同参画の観点からも講演いただき、学生にとって有益なインフォ
モ見学への関心が高まり、新製品の発表件数、デモンストレーシ
メーションとなりました。
ョンの件数とも一昨年に比べ増加しました。加えて、ブースナビ
ゲーターは、開催期間中でも出展社が自らの出品内容を更新で
きるようにシステムを改良し、最新情報をお届けできるように
(水)∼4日
(金)の3日間、
セミコン・ジャパン 2009は、12月2日
同じく幕張メッセにて開催されます。
「新製品・
しました。出展される新製品・新技術を、Webサイトの
新技術ギャラリー」から画像でご覧いただくこともできるよう
にするなど、情報提供機能を大幅にパワーアップして、来場者の
事前準備に便宜を図りました。
■ 将来を見据えた企画
また、将来の業界への人材確保のために、
「セミコンへ行こ
う!」
と題して学生の展示会来場を促し、学生にこの業界を知っ
てもらうための取組みもセミコン・ジャパンに定着してきまし
た。開催期間中の毎日、午前と午後に展示会の見どころガイダン
スを行うとともに、ガイドブックやスタンプラリーなどのツー
あ つ と し
あきら
第9回「井上 ÁEHS賞」−東芝 西田厚聰氏が受賞−
2008年の第9回「井上 ZEHS
賞」
は、
(株)
東芝 代表執行役社長
西田厚聰氏(写真左)
に授与され
ました。
(火)
、帝国ホテルで
昨年12月2日
セス」
、ステークホルダーとともに環境問題に取り組む「エコプ
ログラム」
という2つのアクションを展開しています。
受賞にあたっては、西田氏の強力なリーダーシップのもと、こ
の環境ビジョンが策定されたこと、ビジョンの実現に向けさま
ざまな活動が実施され成果を上げていることが評価され、選考
開催されたSEMIプレジデントレ
委員会は、受賞理由として次の功績を挙げています。
セプションにて、その授賞式が執
・環境調和型製品を開発・供給することによって、環境負荷の低
り行われました。授賞式には、西田
氏の代理として同社執行役上席常務 セミコンダクター社 社長
齋藤昇三氏が出席され、会場では西田氏の受賞のメッセージが
ビデオで放映されました。
東芝は、
「地球と調和した人類の豊かな生活」
を2050年までに
実現することを目指した環境に関するビジョンの策定に取り組
減に貢献したこと。
・地球温暖化防止を目標に、二酸化炭素およびその他の温暖化ガ
ス排出量削減をめざして事業プロセスの改善に取り組んだこと。
・資源の有効活用により、廃棄物排出量を削減したこと。
・化学物質の使用および排出を管理し、代替化や除害装置の設
置などにより削減したこと。
として発
み、2007年11月に「東芝グループ環境ビジョン2050」
表しました。このビジョンでは、エネルギーの安定供給と地球温
東芝は、エレクトロニクス業界のリーディングカンパニーとし
暖化防止を図る
「エネルギー」
アプローチと、豊かな価値の創造
て、業界全体のEHS活動の向上にも取り組んでこられましたが、
と地球との共生の両立を図る
「エコプロダクツ」アプローチを
西田氏のリーダーシップのもとで更なる業界貢献が期待されて
両輪に、事業プロセス全体で環境負荷低減に取り組む
「エコプロ
います。
No.1, 2009 • SEMI News
3
SEMICON Japan 2008 Report
セミコン・ジャパン 2008 オープニングキーノート 報告
「Sustainability - 半導体の未来」
をテーマに、
業界トップエグゼクティブ、政府関係者がメッセージを発信
セミコン・ジャパン 2008 初日に、オープニングキーノート
が開催されました。世界的にます
「Sustainability - 半導体の未来」
プトをまとめ、2007年12月産官学が一体となり、世界に働きかけ
という政策を発表した。
る
「グリーンITイニシアチブ」
ます重要な課題となる地球温暖化対策に半導体技術の貢献が
その中での政府の役割は、グリーンクラウドコンピューティ
期待される中、国内外半導体業界のトップエグゼクティブ、行政幹
ングをはじめとする、ネットワーク時代のITの省エネ技術開発
部がサステイナビリティ
(持続的発展)
を視座に据え、環境や企
支援である。これからの情報社会では、パフォーマンスの向上と
業の社会的責任などさまざまな角度から語り、世界にメッセー
低消費電力化を両立させなければならない。そのほかにも、半導
ジを発信しました。
体関連技術では、ナノテク、EUV、シリコンフォトニクス、マルチ
コア半導体、パワーエレクトロニクスや三次元実装、また太陽光
■ 開会の辞
発電等、さまざまな開発支援を行っている。
STSプログラム委員長 ソニー
(株)川平博一氏
半導体産業を資源の少ない日本の戦略産業と位置づけ、支援
業界トレンドや方向性を皆で共有し、セミコン・ジャパンとし
していきたい。グリーンITが、多くの産業の競争力の源泉となっ
てのメッセージを発信する場がほしいとの要望がかねてよりあ
ている。
り、7月の洞爺湖サミットも後押しとなって、32年目の開催とな
る今年、初めてオープニングキーノートは実現に至った。社会の
基盤を支え、人々の生活を快適にする半導体は、今後さらに、温
暖化対策、環境面での貢献、社会的な責任が期待されている。
をキーワードに、
共に考え、
また昨
「Sustainability - 半導体の未来」
今の厳しい経済状況に新たな方向性を見出す足がかりにしたい。
■「Revival Strategy for Continued Growth」
(株)
東芝 代表執行役副社長 室町正志氏
2020年までのマーケットト
レンドを各アプリケーション
ごとに見ると、
「ホーム」では、
電子機器のエコ化、省エネ化、
■「グリーンITイニシアチブ−環境調和型IT社会実現に向けて−」
ネットワーク化、外部との情報
経済産業省 商務情報政策局 参事官 星野岳穂氏
伝達が大変注目され、
「モバイ
7月の洞爺湖サミットでは、地
ル」ではより高速かつ安定した
球温暖化問題に対する各国の取
通信インフラが注目されてい
組みがクローズアップされ、日本
る。
「オートモーティブ(車載
のリーダーシップで、2050年ま
関係)
」でも、エコがキーワードとなっており、これら市場の変化
でに地球温暖化ガスを半減する
を消費者の目線で着実に捉えていきたい。
目標が示された。
世界の発展に伴
東芝グループは、昨年「環境ビジョン2050」を公表し、2050
い、エネルギー消費が増える中、
年のCO2排出量半減に向け、エコプロダクト製品、エネルギー
この達成のため、改めてイノベー
産業の製造設備、半導体・液晶事業においてさまざまな取組みを
ションの代表であるIT、それを
展開し、CO2削減に貢献している。半導体プロセスでは、今年ピ
支える半導体の技術に注目している。
社会の各分野において、毎年劇的な省エネを実現しているの
ークアウトを宣言し、2012年にはグリーンハウスガスも含めて
ピークアウトする宣言をした。
『GREEN by IT』
、ITによる省
もIT技術によってであり、これを
現在、2001年のITのバブル崩壊以来の大変厳しい状況にあ
エネと呼んでいる。他方、インターネット時代を迎え、IT機器自
り、先日発表されたIMFのGDPトレンドでは、日本はマイナス成
身が消費する電力も自ずと増大し、ITの総消費電力量に占める
長、またWSTSの将来予測も大きく下方修正されている。東芝は、
割合は、2025年に2割近くになる試算で、これを回避するのがグ
半導体事業については、営業利益ベースで上期はマイナス595
である。
リーンITのもうひとつの柱『GREEN of IT』
億、赤字の60%はメモリ、45%はシステムLSIによるもので、下
ITをサステイナブルにするということは、社会をサステイナ
期も特にフラッシュメモリについては予想以上の価格下落が続
ブルにすることと同義で、グリーンITの政策的な主点である。
き、楽観は許されない状況にある。システムLSIおよびシェア世
「IT使用による電力消費を技術開発や制度的対応によって抑え、
というコンセ
またIT使用によって社会の省エネ効果を広める」
4
界一のディスクリートについても状況は厳しい。
2009年度の復活に向けて、次の改革を加速していく。5インチ、
SEMI News • 2009, No.1
SEMICON Japan 2008 Report
6インチのファブを縮小し、後工程の国内工場も見直す。メモリ
■「Moore’s Law, Green IT and the Future of Semiconductor」
については、先端プロセステクノロジーを維持し、コスト競争力
Powerchip Semiconductor Corp., Chairman, Frank Huang氏
を高める。システムLSI事業では、選択と集中により弱い分野の
まず、半導体産業の省エネ貢
見直しを図り、またディスクリート事業では、パワーデバイスを
献とグローバル環境保護活動
中心に積極的に拡大する。
と題し、World Semiconductor
Council(世界半導体会議)が
東芝の半導体事業は、設備メーカー、材料メーカーとの協調に
果たす役割について申し上げ
より、ひき続き軸足のブレない経営をしていきたい。
たい。
■「地球を守る・未来を創る半導体産業」
1997年に
世界半導体会議は、
東京エレクトロン
(株)代表取締役会長 東 哲郎氏
設立され、中国・日本・ヨーロッ
世界で120兆円の規模と言
パ・韓国・米国等、さまざまな国
われる電子システムを支える
の政府や業界が参加し、参加企業全体で世界の半導体生産の
半導体産業、さらにそれを支
95%をカバーしており、本年は偽造品対策や貿易ルール、気候変
える装置産業、材料産業の装
動・省エネへの貢献について議論された。
置メーカーという立場からお
話したい。
半導体業界は、業界として初めて温室効果ガスの削減に成功
し、その努力を続け、エネルギー消費についても減少させている
IMF 発表の GDP 成長率で
(グリーンファブ)。また、ローパワー・ハイパフォーマンスを加
は、第二次世界大戦以来初の
、多くの省エネ製品をICが実現している
(グ
速し
(グリーンIT)
マイナス成長で、50を割り込
リーンエンドプロダクト)
。さらに、ITを使用することによるエ
(Purchasing Managers Index)
むと景気後退と言われるPMI指数
ネルギー効率の向上により、省エネを社会システムの中で実現
は、直近値が米国で38.9。金融関係者からは2年は厳しい状況
(グリーンソサエティー)
し、革新的な寄与をしている。
が続くという声が聞かれる中、世界を代表するメモリメーカー経営
次に、現在いちばんの関心事である経済不況については、通常
者が2009年後半にも回復に向かうとしている点は心強く、半導体
景気後退は徐々に起こるため、ある程度準備ができるが、今回の
が回復の牽引力になるべく、頑張っていきたい。
事態は非常に急速に起きたため、バジェットコントロール、在庫
半導体産業は成熟し、キラーアプリケーションがないと言わ
調整などが追いつかず、厳しい状況にあると言える。台湾でも多
れるが、目に見える形から、技術・中身の革新への移行をしてい
くの企業努力がなされているが、打開の糸口のひとつとしてPC
る。景気減速の局面ではあるが、情報のフラット化により、世界
業界を挙げたい。PC業界は、2009年に一時的に下がることもあ
的な多極的共生を推し進め、経済発展を促し、同時に長期的な
るかもしれないが、全体としてローエンドのPCは伸びており、
視点で、環境、エネルギー、資源に関する問題を考え、健全な経
結果として、装置産業も含めて回復はPCベースでなされるの
済成長を推進することが重要である。半導体は、新興国まで包
が必要だろう。価格はかなり下がっているが需要は安定的で、
含した効率的な社会インフラの実現により、グローバルなネットワー
一方LCDテレビは、オーバーサプライの状況で2009年大きく
クを構築するキーテクノロジーとなり得るだろう。そのために
影響が出る恐れがある。
は、低消費電力かつハイパフォーマンス、ハイスピード、また安
全性・利便性を低コストで実現するコモディティなデバイスが
■ 閉会の辞
必要となる。TFT-LCD、有機ELなどのフラットパネルディス
セミコン・ジャパン諮問委員長 エス・イー・エス
(株)北島文雄氏
プレイや太陽電池などのクリーンエネルギーがキーとなる。
セミコン・ジャパンとしては初めての試みであるオープニン
環境破壊対策としては、デバイスの消費電力化と、製造工場に
をテーマ
グキーノート。今回は、
「Sustainability - 半導体の未来」
おける低消費エネルギー化(グリーンファブ)の実現の2つが
に、電力削減、パワーマネージメントによる半導体の環境への貢
主であるが、特にこのファブ運営は、エネルギーならびに資源効
献、グリーンファブ、クラウドコンピューティングなどの課題、
率を、デバイスメーカーと一体となって積極的に取り組んでい
家電のネットワーク化や自動車の進化に伴う半導体への更なる
く必要がある。
期待など、さまざまなお話とミッションをいただいた。こういっ
東京エレクトロンは、半導体製造装置メーカーとして、豊かな
たミッションを解決していくことで、2年かかると言われる景気
生活を築き、経済危機を打開していくことの一環として、イノベ
回復を、半導体産業が牽引していけるのではないか。半導体の明
ーションに努力し、また、エナジーコンサンプションを大きく低
るい未来が見えてきたようで、スピーカーの皆様にお礼を申し
下させる技術にも取り組んでいく。
上げます。
No.1, 2009 • SEMI News
5
SEMI Standards
セミコン・ジャパン 2008 スタンダード活動報告
−関連イベントハイライトならびにスタンダード各賞受賞者発表−
■ SEMIスタンダード関連イベント
(全体)
会的に行うというスタイルが採られた。全般的に受講者からは
セミコン・ジャパン 2008併催のSEMIスタンダードイベント
好評を得、特に第二部では非常に活発な質疑が展開された。過
として、去る12月1日
(月)
∼5日
(金)
の5日間にわたり、61のスタ
去4年間継続実施された本セミナーには、
計650名を超える受講者
ンダード関連会議と13の関連プログラムが開催された。参加延
が記録されている。3年に一度のS2改訂版出版の年に当たる2009
べ人数は1,684名
(内、関連プログラム参加数は765名)
を数えた。
年には、今回の構成をベースにして、一層充実したS2の普及が図
スタンダード関連参加者数が過去最高を記録した2006∼07年と
られることが期待される。
比較すると、昨今の情勢を反映してか、2008年は約2割減という
②
「シラン系ガス取扱い安全ガイドライン ワークショップ」
状況であった。
プログラムチェア:キヤノンアネルバ
(株)真白すぴか氏
また、恒例のスタンダードフレンドシップパーティーと2008
シラン系ガス供給から除外に至るまでの、総合的な取扱い安
年度SEMIスタンダード各賞の表彰式が、12月4日
(木)
夕刻、ホ
全性向上促進を意図して開発された安全ガイドライン「SEMI
テルニューオータニ幕張で開催され、SEMIスタンダード活動35
S18」
について、今後の改訂活動に活かすために本ワークショップ
周年の2008年を締めくくるにふさわしく、盛況裡に開催された。
が企画された。SEMI安全ガイドライン以外の関連規格のグロー
バル動向、近年のシランをめぐる事故事例、FPDやPV製造で要
■ SEMIスタンダード関連プログラムと会議
求される大流量プロセス対応供給設備の安全上の課題が検討
開催されたスタンダード関連プログラム
(セミナー)
と会議は以下
された。今回は、台湾液晶パネルメーカー
(AUO)
からの講演も交
の表の通りである(表では技術委員会のみ抜粋)
。このうち、今回
えたが、とりわけシラン使用量が非常に多い台湾では、シランの
参加者の反響が大きかった、技術委員会主催のいくつかの有料
安全な取扱いに関して非常に関心が高く、今回さまざまなイン
プログラムについて次に特記事項を示す。
プットが得られたので、S18の改訂に有意義に結びつけられるこ
実施日
日程表
(★スタンダード関連セミナー、●技術委員会会議)
★e-Manufacturing Workshop
(火)★STEP/S2-0706半導体製造装置の環境、健康、
12月2日
安全に関するガイドライン
★半導体製造設備におけるEMC対策
★シラン系ガス取り扱い安全ガイドラインワークショップ
12月3日
(水)★半導体製造設備における静電気問題と対策
★モジュール技術と標準化
¡リキッドケミカル委員会
★NGF(Next Generation Factory)
ワークショップ
★JEITA/Selete EESワークショップ
12月4日
(木)¡シリコンウェーハ委員会
★FAB生産性向上のための待ち時間分析
¡ガス及び設備委員会
¡トレーサビリティー委員会
¡PI&C委員会
¡マイクロパターニング委員会
¡化合物半導体材料委員会
¡メトリクス委員会
12月5日
(金)★量産立ち上げに寄与するトレーサビリティ
★次世代ウェーハワークショップ
¡EHS委員会
¡I&C委員会
★STEP/P44 OASIS.MASK/P45 MALY
★DFMプロダクトマネジメントワークショップ
とが期待される。
また、
予想通り、
半導体業界だけではなく、
FPD
業界やPV業界からも非常に多くの参加者があった。
③「FAB生産性向上のための待ち時間分析−サイクルタイム分解粒度−」
プログラムチェア:日本ヒューレット・パッカード
(株)迎 健一 氏
製品(ロット、ウェーハ)
が『流動している
(処理時間)/いない
(待ち時間)
』
という視点で、ウェーハファブの生産性を捉える
ために必要な情報基盤を、半導体業界共通のフレームワークと
して定義する活動の成果を示すために、メトリクス委員会傘下
のCTM
(Cycle Time Metrics)
タスクフォースにより企画された。
サイクルタイム改善余地や、ウェーハファブの生産性改善要素
を把握するための可能性が検討された。
④
「次世代ウェーハ ワークショップ−32nm以降を目指して−」
プログラムチェア:
(株)
ルネサステクノロジ 河合直行氏
シリコンウェーハ委員会の企画により、ウェーハ周辺部分にお
けるパターン形成、残膜除去等に大きな影響を及ぼすエッジお
①「STEP/S2-0706−半導体製造装置の環境、健康、安全に関するガイドライン−」
よびエッジ周辺に関するSEMI規格化の現状、ウェーハテスト法
プログラムチェア:パナソニックファクトリーソリューションズ(株)杉原健治氏
の検討状況、さらに、リソプロセスにおけるウェーハ変形の影響、
半導体製造装置の安全性能基準をまとめた安全ガイドライン
そして次世代大口径化ウェーハに関する技術的考察が、最前線
「SEMI S2-0706」
について、定期開催されている解説セミナーで
で活躍中の講師から報告された。中でも、450mmウェーハの議論
ある。これまでの受講者の声から、S2全体の概要を把握しておき
がシリコンの物性定数を基としたシミュレーション結果で行わ
たいという希望と、特定の分野についての詳説が聞きたいとい
れている現状において、シリコンウェーハメーカー
(SUMCO)
う両方のニーズが多かったため、今回は初の試みとして二部構
より実際の単結晶シリコンを用いた実験結果のデータを示した
成とし、第一部で基本的な安全設計の要求事項や考え方を概説
報告がなされたことが、従来の議論に対する評価基準を与え、ま
し、第二部で特定の分野ごとに具体例を示しながら詳説を分科
た今後の議論をバックアップする効果があり、特筆に値する。こ
6
SEMI News • 2009, No.1
SEMI Standards
れを証明するように、全般的に来場者が厳しかった2008年にお
またJRSC特別賞は、リソグラフィー技術の中核を担うフォト
いて、本ワークショップへは総勢100名近い参加者が得られた。
マスク分野における標準化活動の実績と、国内外での合意形成
■ 2008年度「SEMI・ジャパン・スタンダード賞」
贈られた。
において顕著な貢献のあった、大日本印刷
(株)
の鈴木俊夫氏に
東京エレクトロン株式会社 坂本見恒氏が受賞
今年度のSEMI・ジャパン・スタンダード賞は、東京エレクトロ
ン
(株)
の坂本見恒氏(写真左から二人目)
が受賞された。
さらに、各技術委員会において、スタンダード活動への特段の
貢献をされた諸氏33名が、下表のようにテクニカルコミッティ
ー賞を受賞された。
各位の受賞について心よりお慶び申し上げるとともに、その
貢献に感謝し、今後の一層のご活躍を祈念申し上げる。
セミコン・ジャパン 2008 SEMIスタンダード各賞受賞者リスト(敬称略)
・SEMI Japan Standards Award〈SEMI・ジャパン・スタンダード賞〉
東京エレクトロン
坂本 見恒
・SEMI International Collaboration Award〈国際協力賞〉
アシスト テクノロジーズ ジャパン
TDK
信越ポリマー
大谷 幹雄
岡部 勉
小田嶋 智
・JRSC Special Appreciation Award〈JRSC特別賞〉
大日本印刷
坂本氏は、10年以上もの間、日本地区スタンダード委員会
(JRSC:Japan Regional Standards Committee)
傘下のインフォメ
ーション・コントロール
(Information & Control)
委員長を務めら
れ、このスタンダードで最もクリティカルな分野の一つにおい
て、
公正・公平な議事進行を心がけ、
同委員会の地位を高めるこ
とに多大なる貢献をされた。さらに、インフォメーション・コン
トロールのスタンダード活動が、特許問題やその他の利害対立
により阻害された場面においては、SEMIスタンダード運営規約
などの理念を踏まえ、理性的な対応で混乱を収拾することに尽
力された。また、インフォメーション・コントロール関連の標準
化と隣接する諸委員会
(Physical Interfaces & Carriers委員会
やメ
トリクス委員会など)
との関係、北米地区やヨーロッパ地区のス
タンダード活動組織との関係においても、非常に効果的かつ理性
的な対応をされ、
相互調整と正常な活動の維持・促進に注力され
た。坂本氏は同時に、SEMIスタンダードの出版にあたり手続上
の審査を国際的に一元化して行うための組織である、Audit &
Review小委員会(国際スタンダード委員会傘下)の日本地区選
出メンバーとしても活躍されるなど、インフォメーション・コン
トロール分野以外においても、SEMIスタンダード活動に顕著な
貢献をされている。このようなSEMIスタンダード活動への多大
な貢献が、今回の授賞につながったものである。
SEMI国際協力賞は、欧米先行で動き出した450mm半導体シ
リコンウェーハ関連の標準化活動の動向を敏感に察知し、その初
期段階から日本地区のPhysical Interfaces & Carriers委員会にお
いて意見を取りまとめるとともに、積極的に日米間の調整を行う
ことで日米協力した標準化活動の実現に貢献した、アシスト テ
ク
ノロジーズ ジャパン
(株)大谷幹雄、TDK
(株)岡部勉、信越ポ
リマー
(株)小田嶋智の三氏のグループに贈られた。
No.1, 2009 • SEMI News
鈴木 俊夫
・Technical Committee Award〈テクニカルコミッティー賞〉
Physical Interfaces & Carriers(PI&C)委員会
平田機工
村田機械
ライト製作所
信越ポリマー
アシスト テクノロジーズ ジャパン
Information & Control(I&C)委員会
大日本スクリーン製造
アシスト テクノロジーズ ジャパン
村田機械
日立ハイテクノロジーズ
東京エレクトロンソフトウェアテクノロジーズ
トレーサビリティー委員会
NECエレクトロニクス
日本エム・ケー・エス
エイデム
テュフ ラインランド ジャパン
Intel Corporation
Semiconductor Industry Association
BayTech Group
Kinesys Software Inc.
リキッドケミカル委員会
CKD
ガス及び設備委員会
フジキン
EHS委員会
テュフ ラインランド ジャパン
村田機械
シリコンウェーハ委員会
清水コンサルタント
ニューフレアテクノロジー
マイクロパターニング委員会
HOYA
大日本印刷
FPDカラーフィルタ・オプティカル委員会
東レ
日東電工
FPD基板・搬送・装置委員会
システム・ブイ
三菱電機
FPDマスク委員会
エスケーエレクトロニクス
HOYA
パッケージング委員会
大日本印刷
豊田 哲慶
伊藤 靖久
永田 龍彦
小田嶋 智
大谷 幹雄
高崎 義久
近藤 浩
野村 美砂樹
豊島 優子
松沢 貴仁
伊賀 洋一
荻原 秀昭
大和田 敦之
桑原 宏之
David Brown
Daryl Hatano
Winthrop Baylies
Dave Huntley
大杉 滋
町井 省文
杉田 吉広
中島 規雄
清水 保弘
渡辺 正晴
大久保 靖
鈴木 俊夫
吉岡 正裕
有吉 俊彦
新 佳久
大森 雅司
岡崎 厚士
二藤部 要
池永 知加雄
7
SEMICON Japan 2008 Report
セミコン・ジャパン 2008 セミナーとレセプション 開催報告
−SEMIテクノロジーシンポジウム(STS)では最先端技術発表に1,099名が参加−
セミコン・ジャパンでは、展示会はもとより多彩なセミナーが
下、現在最も注目を浴びている太陽電池、省エネルギー発光デバ
開催され、さまざまな技術交流が行われることも大きな特長で
イス、そしてSiCパワーデバイスにフォーカスし、それらの最新
す。セミコン・ジャパン 2008でも、幕張メッセ国際会議場を中心
開発動向が紹介された。
に、40を超えるセミナー、ワークショップ、講演会が開催され、数
■ マイクロシステム/MEMS
多くの技術者が集い、連日最先端の技術が披露され、技術課題
−MEMS事業とMEMS装置の新展開−
が議論されました。
MEMSは今や新しい産業として広く認知され、アプリケーシ
厳しい経済状況の影響を受け、有料セミナーの参加者数は、前
ョンも車載から民生・モバイル製品へと広がった。その結果、
年と比較して20%から30%の減少となりました。しかしながら、
MEMSはより便利な機能をもたらす技術として身近なものとな
技術情報に対する業界の皆様のニーズは高く、無料プログラム
ってきているが、反面、事業としてはセンサーに代表されるよう
は大変多くの参加者を得ました。また、全体として参加が減少す
に価格競争が激しくなり、市場規模は堅調に成長しているもの
る中、
「太陽光発電」
「次世代ウェーハ」
「リソグラフィ」
「三次元実
の、その勢いはやや鈍化してきている。このような局面を今後ど
装」などのトピックスを扱うセッションには多くの技術者が参
のように打開していくのか、デバイス、装置両面から各企業が紹
加し、活発なディスカッションが展開されました。
介した。
■ リソグラフィ
−液浸とそれ以降の展開を探る−
NA1.30以上の高NA液浸装置が稼動し始め、リソグラフィは
新たな節目を迎えた。従来の単純な延長線上での開発は一段落
し、ダブルパターニングに見られるように、プロセスとリソグラ
フィがより一体化した総合技術が有望視されている。その一方
で、EUVでチップの試作が成されるなど、従来のNGLの進展も
見逃すことができない。インテグレーションが進み、より複雑に
なってきたリソグラフィの現状を俯瞰しながら、今後の展開に
ついて議論された。
■ パッケージング
期間中開催されるセミナーでも最大のSEMIテクノロジーシ
−ウェーハレベル vs パッケージングレベル−多様化する実
ンポジウム
(STS)
は、今回で27年目を迎え、全10セッションに
装技術の主役は−
延べ1,099名が参加、質疑応答やオーサーズインタビューなどの
電子機器の高性能・小型軽量化等さまざまな要求が実装技術
機会を活用し、積極的に最先端技術を得ようとする姿が見受け
により実現され、その究極として、ウェーハレベルでの三次元実
られました。また初めての試みとして、セミコン・ジャパン オー
装による電子機器が製品化されている。
一方で、
既存の組立技術
プニングキーノートが開催され、注目を集めました
(本誌P4・5
を基本としたパッケージレベルでの三次元実装も、POP技術な
の詳細報告をご覧ください)
。
以下では、
STSで特に参加者の多か
どで更に進化したものが量産提案されている。ウェーハレベル
ったセッションの概要とSEMIプレジデントレセプションにつ
実装とパッケージレベル実装のどちらが今後の実装技術の主役
いて報告します。
か、徹底検証された。パネルディスカッションでは、2つの技術が
それぞれ討議され、技術課題を抽出し、今後の動向が示された。
■ 特別セッション:次世代エネルギーデバイス
■ SEMIプレジデントレセプション
−地球温暖化対策のキーテクノロジー:太陽電池/省エネ発
−約300名が集い、賑やかに開催−
光デバイス/SiCパワーデバイス−
セミコン・ジャパン前夜の12月2日
(火)夕刻、帝国ホテルにて、
一昨年来の世界規模での原油価格高騰や、
昨年7月に開催さ
SEMIプレジデントレセプションが、約300名の業界エグゼクテ
れた洞爺湖サミットでの地球温暖化問題に対する集中的議論な
ィブの参加を得て、賑やかに開催された。国内外の半導体メーカ
どを背景に、
現在産業界に対する省エネルギー・代替エネルギー
ー幹部と、半導体製造装置・材料メーカーの幹部が一堂に集い、
技術開発への期待が高まり、
特に半導体デバイス関連技術では、 「未曾有の不景気の中、先が見えにくいながら、将来に向けて夢
近年新材料の導入による性能ブレークスルーおよびデバイス普及
と強い意志をもって立ち向かって行こう」
との挨拶があるなど、
を加速させる取組みが精力的に行われている。このような状況
力強いメッセージも聞かれた。
8
SEMI News • 2009, No.1
Column
海外便り ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
シリコンバレーの休日
Hitachi Chemical Co. America, Ltd. シニアセールスエンジニア 今井 のり
シリコンバレーとは、サンフランシスコから南へ約50kmの地
Hotelのレストランの食事も美味しい、というおまけもある。夏
点に位置する、サンタクララバレーの北部とその周辺に位置す
はその混雑ぶりに少々辟易するかもしれないが、奥ヨセミテま
る都市郡を指す。そのうちの一つ、クパティーノ市に日立化成ア
で足を延ばせば、人も少なく、渓流や湖といった、少し趣の違う
メリカのオフィスがある。すぐ近くにはアップルの本社があり、
ヨセミテを楽しむこともできる。
シリコンバレーを代表する街の一つである。
冬の週末旅行には、レイクタホが最高だろう。北東に350km、4
青い空、緑の多いのんびりとした街並み、平日でもTシャツと
時間弱車を飛ばせば、白銀の世界が広がる。ゲレンデスキー、山
ジーンズが似合う街。大学の延長のような、自由な雰囲気の中で、
スキー、そり、スノーモービルと、冬のスポーツが楽しめる。スキ
次世代を担うユニークな技術やアイディアが次々と生み出され
ーヤーたちだけでなく、観光するだけでも十分だ。海のように広
ていく。サンノゼ/シリコンバレーは、全米でハイテクワーカーの
い湖の向こうに、白く連なる山並みは荘厳な眺めだ。湖の一部が
1)
比率がいちばん高い地域であり 、また全米の特許出願数の約
2)
10%を占める 、最もクリエイティブな地域の一つと言える。
成長を続けるシリコンバレーに暮らす人々は、よく働きよく
凍っているのか、湖面の色合いが場所によって異なる様も神秘
的で美しい。Heavenlyというスキー場にあるゴンドラに乗って、
山頂3,800mからの眺めを満喫してほしい。
遊ぶ。シリコンバレーのビジネス環境については皆さんよくご
存知だと思うので、ここではお勧めの行楽地を紹介したい。
シリコンバレーは、海に山にと、アウトドアに適した自然環境
ビーチがたくさんある。
に恵まれている。車で30∼40分も走ると、
私が好きなビーチは、シリコンバレーから北西へ90km、車で1時
間弱、ゴールデンゲートパークの隣に位置するOcean Beachであ
る。水が冷たくて泳ぐのには不向きだが、長く広いビーチが延々
と視界に広がる。サーフィン、ジョギング、サイクリング、犬の散
歩と、地元の人々に人気のビーチだが、広過ぎていつ行っても
「賑わっている」
という感じはしない。夕陽を浴びながら砂浜
を散歩すれば、日常から離れ、遠く知らない街まで来たような錯
透き通るように美しい冬のレイクタホ
山と海に囲まれ、活動的に休日を過ごすシリコンバレーの住
覚に陥る。
ハイキングが好き
人たちだが、最近、行楽地で感じるのは、アジア系の比率が増え
な人には、ヨセミテ国
たことだろうか。2008年12月に発行のCensusによると、クパテ
立 公 園がいちばん
ィーノ市のアジア人人口が初めて50%を超えて、マジョリティと
のお勧めだ。アメリカ
なった。中国人系、インド人系の人口比率が特に高いようだ。教
で一、二を争う人気
育熱心な中国人系家族のお陰か、クパティーノ学区は成績優秀
の国立公園なので、
なことでも知られている。
すでに訪れた方も多
シリコンバレーの成長の源は、優れた大学を中心に優秀な人
いに違いない。シリ
材が集まること、ベンチャーを育てる仕組みが整備されている
コンバレーから東に
こと、と言われている。優秀な人材が集まるだけでなく、ここを
約300km、車で3時間半程度と、日帰りも可能である。私は赴任
離れない隠れた理由の一つが、この豊かでadventurousな自然
してから2年になるが、すでに6回訪れている。ベストシーズン
環境にもあるのだと思う。世界中のadventureを惹きつけてやまな
は、
冬が終わり草花が芽吹き始め、
水量が増す5月から6月ごろか。
いシリコンバレーは、時には市況の荒波に晒されながらも、これ
瑞々しい緑が眩しく、目を上に向けると壮大なスケールの滝(い
からも成長を続けていくのだろう。
くつもある)
に圧倒される。ハイキングコースは、延べ1,200km
1)
Benjamin Pimentel, MarketWatch, June 24, 2008.
岩を割って落下するヨセミテの滝
を超えると言われており、いくつあるのか数えきれない。自然が
2)2004年実績ベース、Silicon Valley Economic Development Alliance.
素晴らしいのはもちろんだが、Curry Villageのピザ、Ahwahnee
2)
(http://www.siliconvalleyonline.org/index.html)
No.1, 2009 • SEMI News
9
ITPC 2008 Report
国際トレード・パートナーズ会議(ITPC2008)
報告
−
「技術イノベーションへのチャレンジは続く」
との共通認識で閉幕−
ITPC 2008 日本地区委員会委員長 / JSR株式会社 ファイン系事業 技術統括 稗田 克彦
「国際トレード・パートナーズ会議」
(ITPC:International Trade
5. 講演:
「Assessing the 450mm Wafer Opportunity and Challenge」
Partners Conference)
が、去る11月3日
(月)
∼11月6日
(木)
に、ハワ
Charles H. Fine, Professor of Management, MIT Sloan School of Management
イ島The Fairmont Orchid Kohala Coastにて開催され、貴重な
プレゼンテーション、熱心なパネルディスカッション、活気溢れる質
6. パネル:
「World Economic Outlooks」
モデレータ:Rick Wallace, CEO, KLA-Tencor
疑応答、そして参加者同士のネットワーク作りと、盛況のうちに
と思いました。ちょうどITPCの期間中に、米国大統選挙が行わ
閉幕しました。
れ、オバマ氏が勝利したのですが、その翌日に、大統領選挙の結
未曾有の不況の影響を受けて参加者は昨年から4割程減少
果も踏まえたパネルディスカッション
「World Economic Outlook」
したものの、業界のトップエグゼクテイブで構成されたITPCグロ
が行われました。以下に1、2、3、5の発表について、私の感想等を
ーバル諮問委員会のボランティアによる懸命な協調のもと、世
交えてご報告したいと思います。
(日本45名、米国72名、韓国15名、台湾3名、中国
界から147名
「The Trend and Challenge of Memory Technology in the Future」
■ 講演:
2名、欧州10名)
)
の業界エグゼクティブが参加しました。
■ Won-Seong Lee, Samsung Electronics
Lee氏は92年入社、06年Fellow、07年CTOという要職にあり
(06年)
、28%
(07年)
、18%
(08
ます。メモリでの利益率が60%
年見込み)
と急激に低下していること、DRAMの課題はキャパシ
タ構造、材料であると指摘。キャパシタ材料は、HfO2/ZrO2から
STO/BSTに変化していくと述べていました。DRAMキャパシタ
は新材料の導入が必須で、かなり困難な時期を迎えるというこ
とでした。DRAMの微細化は技術的な困難に直面しています。
NANDフラッシュに関しては、多層Si層を使ったBiCS構造が有
望で、メモリセルの多層化が課題と指摘していました。BiCS構造
は東芝が提案している構造です。プロセス的な課題として、リソ
今回、日本地区委員会は、技術パネル
「A Futuristic View of
グラフィコスト増大を挙げていました。全体のプロセス投資の
Moore’s Law
(モデレータはコバレントマテリアル社長 香山氏)
」
を
中でのリソグラフィコストの占める割合は、ArF時代で約50%、
企画したので、その概要についても報告いたします。
(Double Patterning)
時代で80%と見
液浸ArF時代で70%、DP
。SEMI
本年の注目のトピックスは「450mm化をどうするか?」
込んでいるとか。プロセス投資の約 80%がリソグラフィ装置にな
がMITに委託していた450mm調査結果を報告してもらう最初の
るとはすごい状況です。EUVに関しては、さらに費用がかかると
場となりました。また、半導体メーカの立場から450mmについて
指摘していました。
や、微細化の
の発表
(Jin Seog Choi氏 Hynix副社長・CTO)
を
チャレンジ項目として、
「non-Charged based memory Cell」
限界についての発表
(Won-Seong Lee氏 三星Fellow・研究所
挙げていました。今までのNANDフラッシュのような、電荷を貯
長)
がありました。私見ではありますが、インパクトのあった発表は、
めるタイプの不揮発性メモリでは限界が見えてきているからで
1. 講演:
「The Trend and Challenge of Memory Technology in the Future」
す。またPRAMに関しては、70nmでの64Mb試作/評価を終了し
Won-SeongLee,SamsungFellowExecutiveVP&GM,Semiconductor
て、512Mbから量産を開始すると宣言。今後のメモリ技術として
R&DCenter,SamsungElectronics
(BiCSなど)②Chip Stack
重要な技術は3D化で、①Cell Stack
2. パネル:
「A Futuristic View of Moore’s Law」
モデレータ:コバレントマテリアル 香山社長
3. 講演:
「Chipmaker’s Position on 450mm」
Jin-Seog Choi, CTO, Hynix
4. パネル:
「Growth:Pain or Pleasure」
モデレータ:Ron Leckie, president, INFRASTRUCTURE
10
(積層化)
の2つのトレンドがあると述べていました。
「非常
会場からの質問には、1)三星の450nm化について、
とのこと。
にハイリスクである。2015年以降になるのではないか」
2)磁気スピンメモリなどの新規モノもやっているのかとの質問
には、
「三星でも着手している。
(磁気スピンメモリとはパネル
と回答していました。
の直前にIBMから発表があったもの)」
SEMI News • 2009, No.1
ITPC 2008 Report
■ パネル:
「A Futuristic View of Moore’s Law」
450mm化、DRAMシステムの最適化が重要と指摘。その他に
■ モデレータ:コバレントマテリアル 香山社長
DRAM、NAND以外の新メモリの必要性、可能性も指摘してい
ました。
四番手の東芝の野口氏の講演のポイントは、
「45nm以降は微
と指
細化してもLogicの動作スピードが上がらないことがある」
摘したことです。特にシステムパワーの問題では、回路レベルで
のシステム全体の最適化が重要と指摘。また、リソグラフィコス
トの増大が厳しいとの指摘もありました。65nm世代に比べて
32nm/28nm世代では、チップコストの下がり方が大きくないと
もコメントしていました。
「Litho Challenges beyond
五番手のASMLのEric氏の発表は、
2010」
というタイトルでした。コストはアップしているがバリュ
今年は日本委員会が中心となって技術パネルを企画し、Moore
ーも上がっているとの主張です。最近のリソグラフィ手法(DFM
の法則の将来展開について、どのような技術Innovationが必要
など)
からDP、EUVまで紹介しました。特にEUVに関しては
か議論することを狙いました。
力が入っていて、08年Q4までにCymer社が光源100W、10時間
(Intel Fellow;director
パネリストとして、Paolo Gargini 氏
を達成するとか。これで60wafer/時間を目指すと紹介。今は5枚
Technology Strategy, Intel)
にデバイス技術の動向、Luc Van den
/時間ですが、
計画では2010年27nmhp
(NXE310)
、
11年22nmhp
hove氏
(COO, IMEC Global Collaboration)
にプロセス技術の動
(同3300)、12年16nmhp(同3350)、14年11nmhp(同3XX0)
(Samsung Fellow, Executive VP & GM,
向、Won-Seong Lee氏
と、機種名まで明らかにしていたのが印象的でした。
Semiconductor R&D Center, Semiconductor Business)
にメモリ技
六番手のAMAT社Hans氏は、発表で次の3つのポイントを主
にLogic技術動向、Eric
術動向、野口達夫氏
(東芝 SoC技師長)
張しました。①性能向上のためだけでなくパターニング性の向
Meurice氏
(President & CEO, ASML)
にプロセス技術、特にリソグ
(FinFET
上のためにも、
材料、
装置の改善が必要 ②3D化の進行
(CTO, Group VP, Silicon Systems
ラフィ技術動向、Hans Stork氏
とTSV)③ウェーハ、マスクレベルのdefect検査技術の向上です。
Group, Applied Materials)
に材料、装置動向について分担してもら
発表ではAMATで開発したDP技術を紹介していました。
い、技術トレンド、課題、チャレンジについて話していただきました。
一番手として登場したIntelのGargini氏の講演では、Toxは
以下、会場からの質問について報告します。
「ナノインプリントなどの安価なリソグラフィ技術の可能性」
に
1.2nmで止まり、歪Si技術、High-Kゲート絶縁膜、メタルゲート技
ついての質問に、
「 EUV の方が技術的には対応できている。
術などを使ってEquivalent Scalingを続けていると現状をまとめた
ナノインプリントはこれからの技術で、技術的な困難さが未知
上で、次はTri-Gate、そしてGeへと向かうと予測していました。
である」
との回答がありました。また、
「システム的なアプロー
二番手のIMECのLuc氏の講演の中では、リソグラフィのDP
チの必要性が重要では」
との質問には、
「必要であるが、今回の
(Double Patterning:二重露光)
をコンタクトにも応用した話が
技術パネルではプロセス的なアプローチに絞って議論してい
新鮮で、実際のSRAMコンタクトパターンに適用した例を示し
る」
との回答がありました。
「2社しか買わないのに450mmはや
ていました。22nm-16nmのトランジスタ構造として、SOI-FinFET、
るのか」
との質問には、
「450mmの話は技術パネルのカバー範囲
Bulk-FinFETを候補として挙げ、また16nm以降としては、GaAS
とモデレータから
ではないので、3日目の450mmで議論したい」
をnチャンネルに、Geをpチャンネルに使う案を示していました。
回答がありました。
プロセス技術としては、CNTをInterconnectに、素子の3D化も
今回、技術パネルを企画して、モデレータの香山氏と一緒に、
必須との見通しを紹介し、また開発コスト増大に関しては、IMEC
シナリオ作りから講演依頼など通しでやりましたが、なかなか
のような共同研究を進めることを解決策として挙げていました。
想定どおりに進まないと痛感しました。パネルは生き物で、一つ
三番手の三星Lee氏は、次世代のDRAMキャパシタ構造は
の質問に大きく振られることが反省点です。また、良い質問をす
CylinderからPillarに変わると宣言。Cylinder構造は、微細化が進
るのは難しいと感じました。
むと中心の穴が確保できなくなるからです。30nm世代ではToxeff
■ 講演:
「Chipmaker’s Position on 450mm」
(酸化膜換算膜厚)
を50%下げないといけないと紹介し、Bit Cost
Reductionとして3D化を挙げていました。
生産性の向上、
微細化、
No.1, 2009 • SEMI News
■ Jin-Seog Choi, CTO, Hynix
昨年同様の力強いChoi氏の発表でした。
200mmから300mm、
11
ITPC 2008 Report
そして450mmへの移行とそのコストクロスオーバーの時期につ
「450mmはボーイング747(コストダウン志向)か、それとも
(先頭グループ
いて述べていました。結論は、Hynixは450mmを
コンコルド(ハイエンド志向)か?」
「200mm時にファブは76
としては)やらないというメッセージでした。実際のデータを
あったが、300mmはファブは25に統合化が進んだ。前工程の会
ベースにしての議論は迫力がありました。Choi氏が三星から
社は96年に127社あったのが06年には84社に統合化が進んだ」
Hynixに移った時から300mm化の指揮を取ったということで、
との指摘がありました。
話にも力がこもっていました。要約すると、450mm化したらチッ
との会場か
「08年から09年にかけては統合化が進むのか?」
プコストが5年ぐらい高い状況となること、450mmの装置群が
らの質問に対して、
「特に景気低迷の時に統合化は進む」
「自動
MTBF>150hでない段階でやっても歩留りが上がらないこと、
車産業と異なり、半導体産業は集まって話し合う体質があるの
300mm化は10社で8つのファブで検証を進めたが、今回の
との回答でした。
「ただし、
で、450mm化も調整されるであろう」
450mm化は2社、数ファブでやるので効率が落ちると見ているこ
コストを分析してGO/NO-GOの判断をするのではなく、いつ
とです。難しい経営判断になると述べていました。450mmに関
の時代もビジョンを持つ人々が業界を引っ張るものである」
と
しては、MITから最終日に報告がありました。このままでは2015
の指摘もありました。また、GMはハイブリッド化の開発時期を
年以降が450mm化の立上り時期になるかもしれません。そうす
10年前に議論した時、採算が取れず株主が不満を言うから開発
るとEUV導入の時期と重なり、最悪のシナリオとなるとの指摘
を中止した例を紹介していました。
でした。
会場から、
「
(DRAMでは)今後微細化してチップコストが下
Fine教授の話は大学の講義のようであり、結論はなく、自分で
考えろと言う内容でした。講演を要約すると、
がるのか」
との質問があり、
「50nmDRAMでは歩留り向上は非
①半導体業界の統合が進むこと。
常に困難になっていること、40nmではNANDは1年ではできず
(これは重
②微細化のシナリオも考えて450mm化アセスが必要
1.6年必要となっていること、30nmNANDでは毎年世代交代は難
要で、300mm化の時は微細化の限界は見えていなかったとの
と回答していました。
「10
しく、1.6年から2年になるであろう」
指摘あり)
。
年前は2世代先が見えたが、
今は困難です。
30nm世代はあるが、
2世代先は見えません。20nmまでは微細化が続くが開発サイク
ルは長くなるでしょう」
とのメッセージが強烈でした。
③ウォールストリートが収益重視に力を入れすぎていた。
450mm化は長期的な視野で考えるべき。
④450mm化はコラボレーションが重要であること。
また、DRAMの価格低下について質問がありました。Choi氏
となります。明確な結論はなく、結局自分たちで考えるようにと
は、
「DRAMは技術の問題ではなく経済の問題である。現在ノ
のメッセージでした。会場から質問もいくつか出ましたが、結論
ートPCで$2,000以上のものは売れない。<$1,000のものが売れ
を導くようなものではありませんでした。誰が450mm化のリー
る。DRAMのビット数は上がるが価格は同じである。256Mbか
ダーとなるのか、450mm化にはビジョンとお金が必要との意見
しかし、
ら1Gbまでほぼ$3程度でチップ価格は変化していない。
が出ていました。
。
メモリメーカーは投資しなければ価格競争で遅れる。約$600億
■ 会議のまとめ
(Closing)
のマーケットシェアを失うことになる。メモリメーカーは投資
今回の報告では、GrowthとEconomyのパネル内容について
を続けるしか手はない」
と回答していました。
“技術
割愛しました。今回のITPCでも結論は出ませんでしたが、
■ 講演:
「Assessing the 450mm Wafer Opportunity and
Innovationへのチャレンジが続くこと”
“特に、リソグラフィの低
■ Challenge」Charles H. Fine, Professor, MIT
コスト化へのチャレンジと、450mm化へのシナリオ化が課題で
SEMIがMITのFine教授に450mmのアセスを依頼していまし
あること”が確認されました。
たが、その最初の報告会となりました。“Legacy of Andy Grove,
半導体産業に450mm化が必要かどうか、今後いろいろな所
Paranoia Overdone”の話で始まり、半導体産業のSupply Chain
で議論されると思いますが、300mm化の時よりもコスト競争力が
Dynamics、そして他産業、特に自動車産業と航空機産業に起こ
ようだと、450mm化はかなり遅れる
ない時期が長く続く
(5年?)
った事例を基に、450mm化に向けた時代に同じことが起こると主
かもしれません。
張していました。結論はなく、破壊的な技術、航空機産業ではボ
来年のITPCは25周年の記念大会になります。25年の歴史で
ーイング747の登場した時に航空機産業の再編、エアライン会社
初めてホノルルのあるオアフ島で開催します。また、会議日程の組
の再編が起きたこと、自動車産業でも先行したGMとトヨタの関
「参加しやすいITPC」
立てなども2日間の集中議論に変更して、
係を例示しながら、業界のライフサイクルがどこにあるのかに
(月)
∼4日
(水)
、JW Marriott Ihilani
を目指します。2009年11月2日
応じて対応すべきとまとめていました。
ResortでのITPC 2009へ、ぜひ皆様方の参加をお待ちしています。
12
SEMI News • 2009, No.1
GFPC
世界のディスプレイ関連産業のエグゼクティブが集うGFPCへようこそ
SEMIジャパン アドバイザー 加藤 英彦
GFPC、すなわちGlobal FPD Partners Conference
(国際
パネルディスカッション ③3件の小パネルディスカッション ④ラ
FPD経営者会議)
は、ディスプレイ産業ならびにそれをとりまく業界
ウンドテーブル)
と交流行事の部(①1回のレセプション ②2回
のエグゼクティブが、グローバルに一堂に会して、相互の懇親を深
のディナー ③ゴルフオプションなど)から成ります。会議の
め、自由な雰囲気の中でビジネス・産業・技術に関する質の高い
部では、
ディスプレイ産業ならびにその応用産業の技術・市場、
世界規模の会議を行い、ディスプレイ関連産業の将来発展を期
背景としての経済動向も含めた幅広いテーマについて発表討議
するものです。単なる会議だけではなく、お互いのネットワーキング
されます。GFPC 2008での例を表2に示します。ラウンドテ
を深める交流の場の提供も重要に考える、ユニークな会議イベ
ーブルは10数人ずつの小グループに分かれた自由討議ですが、
ントです。
多彩な業種の参加者間の討議ができ、毎回人気が高くなってい
ディスプレイ産業は日・韓・台・中を主体にアジア地区で盛ん
ます。
になっており、2005年、アジア地区の中心的位置の沖縄において
表2 GFPC 2008 講演・ディスカッションテーマ
第1回となるGFPCを開催しました。その後アジアからの参加
基調講演テーマ
が容易な場所として、沖縄
(2006年)
、長崎
(2007)
、宮崎
(2008
年)
で行われてきました
(表1)。参加者も順調に増え、一定の
評価を得つつあると考えています。当初は、液晶関連のテーマ、
参加者がほとんどでしたが、徐々にPDPや有機ELの関係者も増
えてきました。過去日本以外からの参加者は26∼45%ですが、さ
・ディスプレイ産業の将来の方向性と発展シナリオ
・中国液晶産業の将来
・メディアとディスプレイ
・デジタルシネマ
・EHS/イノベーション
・車とディスプレイ
・グローバルビジネス環境
らにグローバルな会議にする必要があります。
パネルディスカッションテーマ
GFPCでしか得られない非常にユニークな特徴をまとめて言
えば、①参加者、内容とも非常にグローバルであること ②質の
高いプレゼンテーションと議論 ③リラックスできる開催地の
提供、を挙げることができます。具体的に言えば、業界のリーダ
ーで構成された国際的な委員会の協力で、将来ビジョンや関連
産業に関するぜひ聴きたいテーマおよびトピックスを選定し、
・次世代携帯情報端末“スマートフォン”
・紙が消える日"電子ペーパーの将来"
・グランドフィナーレ:ディスプレイ産業の新たな成長機会を探る
小パネルディスカッションテーマ
・BRICs/VISTAと電子ディスプレイ
・離陸した有機ELディスプレイ
(OLED)
の現状と将来動向
・太陽光発電 -ビジネスと技術-
権威と影響力のある講演者やパネリストを招聘します。したが
半導体分野における類似の SEMI イベントとして、ITPC
って、業界の将来を把握するのに非常に有益な知識・情報や議
(International Trade Partners Conference)が行われています
論を権威者と直接交換できます。なにより、グローバルなディスプ
が、これは日米の貿易上の問題点緩和に役立つように開始され
レイメーカー、エンドユーザーおよび関連する装置・部材メーカ
ました。GFPCは、日本が中心になって、ディスプレイ関連産業のグ
ーのトップエグゼクティブが数日間一緒に議論するわけですから、
ローバルなサプライチェーン全体の大きな発展を推進することを目
日ごろ交流が困難な方々とも、お互いにオープンな対話とネッ
指しています。特にディスプレイメーカーとして、日本はもちろ
トワーキングを自由に促進することができます。そのために、ア
ん、メジャーとして成長している韓国・台湾・中国などからの参
クセスがよく、しかも日々のビジネスから離れられるリラック
加を促進しています。セットメーカー、応用市場ユーザーとして、
スした開催地を用意し、SEMIのグローバル組織を挙げて積極
欧米からのスピーカーやパネリスト、参加者もお願いしていま
的な参加募集を行い、会議を盛り上げます。
す。ディスプレイ関連産業が相互に技術革新を誘発し、新しい応
GFPCの内容は、会議の部(①6、7件の基調講演 ②3件の
用市場を創造し、業界が持続的な発展を続けられる夢を語り合
う絶好の機会です。グローバル組織であるSEMI
表1 GFPC会期・会場・参加者
年
会期
2005年
2006年
2/27(日)
∼3/2(水)
2/28(火)
∼3/3(金)
2007年
2008年
会場
沖縄県名護市万国津梁館
沖縄県名護市万国津梁館
長崎県佐世保市ハウステ
4/11(水)
∼4/14(土)
ンボス
宮崎県宮崎市フェニック
4/9(水)
∼4/12(土)
ス・シーガイア・リゾート
No.1, 2009 • SEMI News
の主催とSEMI業界の推進によって、国や地域の
159名
177名
日本以外
参加比率
40%
45%
161名
26%
201名
35%
参加者数
利益、つながりを超越して、自由に参加ができるグ
ローバルな舞台を提供することができます。ディス
プレイとそれを取り巻く産業のグローバルプレー
ヤー皆様のご参加によって、お互いがメリットを
享受していただき、将来発展につなげていただく
機会になると信じています。
13
FPD Industry
中国液晶産業の動向「苦悩する経営」
LCDForum Corporation 代表取締役 郡山 淑人
中国液晶産業各社、深刻な世界的景気後退の中で生残りの
応していくため、中国液晶各社は2008年に「家電TVビジネスプ
IVO、SVA各社とも、これ
道を模索している。
液晶メーカーのBOE、
ラン」
を立てた。このTV産業は、中国政府主導による需要先導
まで生産していたNBおよびモニターパネルの需要が突然なく
型産業となっており、中国政府が農村部の格差解消を図る
「家電
なり、既存G5ラインは休止状態、生産ラインは遊休化している。
下郷」政策を梃子とするもの。家電製品購入につき13%の補助金
その中で各社とも、2008年に試作していたTV用パネルを、当初
を与えるもので、2008年1月より3つの省で試験的に導入、7月に
計画していた新規大型ラインの建設を後回しにして、既存の遊
は10省に拡大し、2008年末には全農村地域に拡大している。併
休化しているG5ラインを活用して生産していこうと計画して
せて、TV供給については、国内ブランド各社が一斉にLCD-TV
いるのである。深刻な世界経済不況の中で過剰に落ち込んでい
のモジュールラインの拡充・新設に取り組んでいる。そして液晶
る中国のTFT液晶生産能力は、Centuryを含めて2008年時点
メーカーはTVブランドにTV用液晶パネルを供給するというモ
で世界の大型パネル生産能力の5%あり、2009年上半期には
デルとなっており、液晶各社は2008年に揃って一連のG6以上の
IVOの110Kへの拡張を含めると6.5%となる。これをG5ラインのみ
(表2)
。NBおよびモニ
大型基板Fab建設計画を立てたのである
で見た場合、全世界の18%を占める。
と、TVを生産する「家電モデル」
ターを生産する「ITモデル」
■ IVO「話題のパネル」
の2本立て経営である。このビジネスモデルの転換は、中国特有
て こ
昆 山の液 晶メーカーInfovision Optoelectronics Kunshan
のGovernment Fundが支配的なガバナンス構造が威力を発揮し
(IVO)
は、昨年10月に蘇州で開催された電子産業展EMEXに
ている。昆山経済開発委員会はIVO株式の51%を保有、短期
(写真
湾曲型パネル47インチBendingTVを発表し、話題をまいた
的な利益確保は求めておらず、地域経済の発展と雇用の拡大を
1)
。パネルデザインはMVA方式であり、周辺ドライバーは自社設
目指している。彼らは大株主として、積極的に中国政府の構造転
計、60ヘルツの本格HDTV仕様、120ヘルツ仕様も設計中であ
換政策に沿うビジネスモデル構築に向け、中核となる液晶メーカー
る。このパネル、計画中のG7.5基板からは6面、既存のG5基板か
を誘導しているのである。
ら2面取りが可能である。
表1 異なるビジネスモデルとサプライチェーン
ITモデル
写真1 IVOが発表した47インチBent TV
また、北京のBOEは、2008年5月にLEDバックライトを装備し
た32インチTVパネルを試作、さらに10月には深£電子産業展に
て47インチTVを発表、SVAも32インチパネルを試作している。
NB、モニター
LCD-TV
市場
米国、欧州、日本
中国、周辺国
価格
(NB)
3000人民元
1000人民元以下
政府刺激政策 IT産業クラスター
家電下郷
(13%補助)
モーメンタム
低価格PC
ディジタル放送
ブランド
HP、Dell、Lenovo等
TCL、Konka、Haiar、Hisense等
セット
OEM
ブランド
モジュール
台湾
ブランド
アレイ・セル
日本、韓国、台湾、中国 中国、韓国、台湾
決済
米ドル
人民元
ライン世代
G5
G6、G7.6、G8 プラス G5
表2 TV向け大型Fab計画
2008年、中国液晶各社は北京オリンピック後の5億台とも言われ
るディジタル放送機器市場を目指して、TV向け液晶パネルを一
斉に開発しているのである。そして、これは既存のG5をベースと
するIT向けビジネスモデルとは別に、大型ラインを建設しての
TV向け製品開発であった。
家電TVモデル
製品
昆山・江蘇省
昆山経済技術開発委員会 IVO
G7.5
合肥・安徽省
合肥市人民政府
BOE
G6
上海市
上海市政府
SVA
G6
成都・四川省
成都市人民政府
BOE、Tianma G4.5
張家港・江蘇省 張家港人民政府
IRICO
G6
「ビジネスモデル」
(表1)
■ 2つの
この中国LCD-TV需要は、2015年までに8億人の人口を抱え
る農村部の需要だけでも3億台と見られている。この需要に対
14
■ G5でテレビ
しかし、この2本立て経営モデル、欧米輸出型の「ITモデル」
SEMI News • 2009, No.1
FPD Industry
が崩壊している現在、G5ラインの操業停止状態の中で見直しを
。この分野では、2008年12
政策の中に盛り込みつつある
(表4)
替わって遊
迫られている。
液晶各社は、
大型Fab建設を一時延期、
月の中国と台湾の間の「3通開放」
をきっかけとするハイテク産
休化しているG5ラインで中国農村部向けの20インチおよび30
業の中台間統合が大きな意味を持ってくると見られる。
インチ台向けのTVパネル生産に取り組むしかない。各社は中国
政府の経済刺激政策の後押しを受け、TVパネル生産に不況打
「設備
開の活路を見出そうとしているのである。IVO橋本社長は、
を遊ばせておくことはない。最低、固定費が回収できれば経営は
存続可能」
と腹をくくって、経営モデルの再構築に取り組み始め
「ITモデ
ている。また、G5の「国内家電モデル」転用と併せて、
ル」を輸出型から国内型に転換する政策誘導もとられている。
NBおよびモニターパネルの供給先を、Lenovo等の中国ITブラン
ド、セットメーカーにシフトするインダストリー・チェーンのリス
表4 有利な環境
価格・コストインパクト
中国ブランド 市場支配70%以上
(価格差)
政府価格補填 13%
5分の1、パネルコストの1.5%(8%と比較し6%削減)
労賃コスト
ローカル部材 15%から20%コスト削減、目標は半減
(減価償却の一部)
インフラ支援 パネルコストの1%以下
R&D支援
ロイヤルティ不要:最大5%
税制優遇
(検討中)
(検討中)
輸入関税
製品、設備および部材につき17%?
中・台間のロジスティックスコスト大幅削減
「3通開放」
トラクチャリングである。
とセル売り
■ 液晶各社の課題「1000元テレビ」
既存G5ラインをTV向けに転用することは、日本、韓国、台湾
G5ラインでのTV生産、パネルメーカーに突きつけられてい
ではすでにG6以上のラインを持つため到底考えられない。ここ
る課題は大きい。TVモジュールメーカーからセル供給を要求さ
での問題は投資生産性ではない。製造コスト競争である。中国
れてくると見られるからである。中国ブランド各社は、モジュー
ではラインワーカーの月次給与が800元以下と格段に安い。しか
ル工程の取込みを戦略課題として、2008年に相次いでLCD-TV
し、核心部分は部材コストの50%削減である。中国ではフルモデ
用モジュールラインを建設した。モジュール利益の取込みであ
ルを生産はしない。単一モデルの徹底量産、部材のローカル化、
る。セット価格の70%がモジュールコストであるため、農村部の
独自設計を図り、徹底的なコスト削減を追求する。液晶各社間で
購買力から見たボリュームゾーンと見られるLCD-TVセット価
フルモデルの開発および生産競争などの消耗戦を展開する経営
格を1000元とした場合、モジュール700元、おそらく偏光板を貼
者はいない。
り合わせたセルは350元以下となると見られる。サイズはおそら
また、中国政府は独自技術開発を推進しており、国外企業に対
く23インチもしくは26インチだろう。23インチで見た場合、G5
するロイヤリティー支払いをなくして、液晶メーカーの利益確
基板1枚当りの売上金額は8面取りで2800元(日本円約4万2
保を図ろうとしている。IVOはG5ビジネスでロイヤリティー支
千円)
となる。さらに偏光板貼合せをモジュール工程に取り込
そして2008年夏には、
払いがない分、
他2社に比較し利益が高い。
んだ場合には、TFTメーカーの売上げはさらに28%前後下がって
江蘇省政府から日本円で5億円の補助を得て、独自TVパネル開
しまう。TFTメーカーには厳しいビジネスが迫られているので
発向けの研究開発施設をアレイラインの前に建設中である。
ある
(表3)。
■ 日本の課題
しかし、液晶メーカーの直面する課題ははっきりしている。
中国政府のハイテク産業育成および経済刺激政策の中で、台
「国内家電ビジネスモデル」への転換が唯一のサバイバルオプ
湾統合が動き始めた。去る12月20日・21日に上海で開催された
ションであるとすれば、現在のセル部材、モジュール部材のコス
中台経済フォーラムの裏側で、中国の銀行による長江デルタの台
ト削減しか道はない。それも現在のコストの50%削減である。液
湾企業への融資およびUS$20millionのTV用液晶パネル購入
晶各社は、日本、台湾の部材各社にクラスター化による中国内製
を決定した。この動きの中で、日本の液晶産業各社に提起される
化を交渉しており、中国地方政府は各種の優遇措置を経済刺激
課題は大きい。中国国内市場向けに構築されるLCD-TV機器
産業に活路を見出すこと、そ
表3 現在のTFT-TV価格比較
(安価品)
の中で人民元決済と中国内
G5
G6
G7.5
TFT-TV
(Konka)
画素
G5基板当たり売上
モジュールとして
(70%)
19W
9面
16面
30面
0,899元
1,280×1,024
05,664元
22/23W
8面
15面
24面
1,099元
1,366×768
06,155元
26W
6面
12面
18面
1,999元
1,366×768
08,396元
32W
3面
08面
12面
2,999元
1,366×768
06,298元
市場の存在とその行方は、日
47W
2面
03面
06面
5,999元
1,366×768
08,399元
本各社にとって決して無視で
8,650元
1,920×1,080
12,110元
きないのである。
47W(full HD)
No.1, 2009 • SEMI News
製化要求に基づく大幅コスト
削減に対応していくことである
と見られる。米国に次ぐ巨大
15
Intellectual Property Right
中小企業のための特許支援
(独)
科学技術振興機構 JSTイノベーションサテライト茨城 技術参事 金子 紀夫
1. はじめに
中小企業白書(平成17年)によれば、我が国の中小企業数は
これら要素の継続的回転が、企業の大きな活力になる。このサ
イクルの他に、次の要素も重要である。
約470万で、
企業全体の99%以上を占め、
雇用の67%を担ってい
d)新製品開発・新事業進出のために、外部から技術を導入する
る。
半導体製造装置業界においては約60%が中小企業であるが、
e)会社員の特許意識を向上し、事業発展に寄与する
大企業から下請企業への発注率が約80%もある状態である。
一
方、
ものつくり一辺倒の時代は終わり、知の世紀に入っている。知
4. 具体的な支援と制度
の創造は企業規模に関係なく、それを権利化することにより
「も
4.1 前提
の」
と同等またはそれ以上の利益が得られる可能性を持ってい
以下に示す支援策を享受する場合、自ら行動実施することが
る。しかし、全般的に中小企業は特許活動に対して消極的であ
望ましいが、ベテランの指導を受けるのが現実的である。支援策
る。金・人・時間などのリソース不足のほかに、特許行政施策の完
そのものが複雑で法律的な手続を必要とし、それらが絶えず変
成度もその原因のひとつである。
化しているからである。下記のようなベテランが全国に配置さ
本稿では、
平成15年施行の知的財産基本法の一環として整備
されてきた中小企業向けの特許支援策について概説する。これ
を活用するか否かは、中小企業の経営者の判断で決まることを
認識していただきたい。
れている。これも支援策のひとつだと言えよう。
1)特許庁産業財産権専門官の派遣
http://www.jpo.go.jp/torikumi/chushou/chitekizaisan.htm
2)各経済産業局特許室からの派遣
(全国9ヵ所)
http://www.jpo.go.jp/shoukai/soshiki/tokusitu.htm
2. 中小企業と要件
ここで中小企業の定義は次の通りである。
A)資金に乏しい法人
B)研究開発型中小企業
A)
の要件として資本金が3億円以下であること、B)
では試験研
3)特許情報活用支援アドバイザーの派遣
(各都道府県)
http://www.ryutu.inpit.go.jp/ptpadv/index.html
4)特許流通アドバイザー
(各都道府県)
http://www.ryutu.inpit.go.jp/advisor/index.html
5)出願アドバイザー
(各都道府県)
究費、開発費
(人件費を含む)
などの合計が全事業所得の3%以
http://www.hirameki.jiii.or.jp/02/02-4.htm
上であること、または事業開始後26月を経過せず研究費等が算
6)知財駆込み寺
(各商工会・商工会議所)
出できない場合は、常勤研究者が2名以上で常勤の役員・従業
員が総人数の10%以上であることが求められる。
つまり、
B)は開業
間もないベンチャーで、法人のほかに個人事業も含まれる。
以上は事業の規模に関する要件であるが、A、B)
共通して法人
の場合、以下の要件が加わる。
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chizai/060628kakekomi.htm
7)中小企業支援センター
(各都道府県)
http://www.chusho.meti.go.jp/soudan/todou_sien.html
これらの最大のメリットは、企業が交通費や報酬を負担する
必要がないことである。またいずれも全国ネットを持っており、
C)対象とする発明が職務発明であること
地域をまたぐ共同出願やライセンス契約などに対応できる。こ
D)職務発明を継承した使用者であること
れらは、使い方次第で費用対効果が大きく変わる。
E)法人税が課せられていないこと
F)他の法人に支配されていないこと
このうちC)
、
D)は発明者と会社間の契約事が基本となる。発明
内容が会社の事業に関わり、発明者が特許を受ける権利と特許
このほかに日本弁理士会
(全国9ヶ所)
による無料相談会がある。
http://www.jpaa.or.jp/consultation/commission/free_advisement/
また、筆者の勤めるJSTでも、産学連携の一貫として特許化支
援を実施している。http://www.jst.go.jp/tt/pat/index.html
権を会社に譲る代わりに、それに要する費用を会社が負担し、
し
かるべき対価を発明者に払うというものである。
4.2 各段階での具体策
1)
アイデアから発明の段階
3. 知的創造サイクル
特許を目指す発明には
「新しい効果・作用」が必要である。こ
支援策は、知的創造サイクルの各局面に配置されている。
こがアイデアと異なるところであり、1つの発明をいろいろな角
a)アイデアを創出し、それを発明に仕立てる
度
(性能・機能、材料、大きさ、信頼性、製作性、セールスポイント、
b)発明を特許出願し、権利を取得する
意匠性など)
から見直して、別の発明を発掘することが重要で
c)権利を活用して利益を得て、次の発明の糧にする
ある。この段階では、4.1に示す機関と普段から懇意にして相談人
16
SEMI News • 2009, No.1
Intellectual Property Right
材を確保しておくことが肝要である。属人的な要素が強い。
は94,300円をセーブすることができる。
2)発明から特許出願の段階
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/tetuzuki/ryoukin/genmensochi.htm
特許性を高めるために公知例調査は不可欠である。特許庁
4)審査のタイミングとその判断
には特許電子図書館
(IPDL)
があり、WEB上で利用できる。明
現在、制度変更などの理由で約90万件の審査待ち案件があ
治時代からの約6,500万件の公報と検索エンジンが完備され、世
り、審査請求後実体審査に入るには平均約27月と長期化してい
界一の知財データベースとなっている。ここで「特許情報活用支
る。このような中で、審査着手の見通し時期はビジネス上重要であ
援アドバイザー」
の応援を頼むのがよい。その場合、具体的な発
るために、WEB上でこれを照会できる仕組みがある。
明(またはアイデア)
を持っていることである。取りこぼしの多い
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/t_torikumi/search_top.htm
「キーワード検索」から精度の高い
「分類番号検索」
を実例で学
これにより、次に述べる
「早期審査制度」
「面接審査制度」
「実
習できる。検索の一般論を学んでもあまり役に立たない。
類似技術は必ずあり、
類似度が高いほど喜ぶべきである。
完璧
な公知例はなく、どこか抜け穴があるはずである。公知例をアド
用新案登録出願への変更」
「審査請求料の返還制度」
などの戦
略を立てることができる。
2.に示す中小企業向けの制度として「早期審査制度」がある。
バイザーを入れて読み込むことによって、回避策として思いがけな
この制度を使うと平均2.4月で審査に入る。製品への早期実施、
い新しい発明が生まれることが多い。
外国権利化、ライセンスビジネスをする場合に有効である。無料
明細書など書類が揃い出願の段階で経費のセーブができる。
電子出願の利用である。書面による出願をすると、電子化のため
の制度で年間8,000件以上の活用がある。
http://www.jpo.go.jp/sesaku/pdf/menu/18-shinsa0.pdf
に基本料金1,200円と1枚当たり700円の費用と郵送料がかかる。
基本発明など重要出願の場合、
「面接審査制度」
を利用し、審
10枚あれば少なくとも8,200円のセーブとなる。
「出願アドバイ
査官と面談してより適切な範囲を権利化することが可能である。
ザー」の指導を受けて、各自のインターネットまたは各地の発明
これにより意志の疎通や印象が良くなる。電話やFAXでも対応
協会支部から無料で出願ができる。特に支部端末を利用した場
可能で、下記のサイトを参照して準備をするのがよい。
合は、書式チェックなどのソフトが利用できる。平成22年からイ
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/kijun/kijun2/mensetu_guide_index.htm
ンターネット出願に一本化されるが、現時点ではこの端末の方
また、地方の中小企業向けに
「巡回審査」
という、審査官が出
がトラブルが少ない。出願料は1件当たり15,000円である。これ
張して面接審査する制度がある。経費負担は特許庁であり無料
には中小企業に対して減免制度はない。
である。http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/junkai.htm
3)特許審査請求までの間
出願して1年半後に公開公報が発行され、
出願後3年以内に特
審査請求はしたけれど、事業性や権利化の必要性が乏しいと
判断した場合は、審査請求料の半額を返還してもらえる。ただし、
許審査請求をしないと権利化はできない。この3年技術は進歩
審査請求後6月以内の手続が必要である。
し、企業の経営や戦略も変わる。審査請求の費用は、たとえば請
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/tetuzuki/ryoukin/henkan.htm
求項が5個あった場合、
基本料金168,600円+5×4,000円で合計
5)特許査定のあと
188,600円となり、慎重な判断に迫られる。
特許査定が下りても登録料を払わないと権利とはならず、最
まず、審査請求すべきか否かを判断しなければならない。次に
初の3年分を一括して払う必要がある。年間で基本料金2,300円
審査請求時の補正を検討しなければならない。ここで有用なの
と請求項×200 円の合計で、前述の例の場合、一括合計額は
が中小企業向けの「先行技術調査の支援」である。
9,900円となる。2.に掲げるA)資金に乏しい法人では、この登録料
http://www.jpo.go.jp/torikumi/chushou/senkou_chousa.htm
支払いを3年間猶予され、
B)研究開発型中小企業の場合は半額
いわば出願前の公知例調査をリニューアルすることができる
仕組みであるが、特許性の判断や補正書等の作成は対象としな
減額となり、
4,950円のセーブとなる。
6)
ライセンス
い。
出願番号が付与され、
審査請求期限前、
2月以上の猶予が条
特許権を他社にライセンスする場合は、
「特許流通アドバイザ
件となる。
国際出願や過去に同一案件調査の経緯がないことも必
ー」
に相談することが得策である。他社から技術導入する場合
要である。調査は特許庁が指定した事業者(現在18社)
の1つ
も対応してもらえる。契約書、社内規則の作り方も指導を受ける
を選択する。事業者には詳しい専門分野が示されている。調査
のがよい。利益最大、損失最少のライセンス契約ために良い特許
費用は無料である。平成 19 年度の利用件数は5,000 件
(累計
を所有することは基本である。
11,000件)
を突破し、中小企業・個人の利用が急増中である。この
制度の利用により、審査請求の特許率が通常の約50%から65%
に向上する見込みである。なお、この制度は年度毎に更新される。
話は前後するが、特許審査請求に係わる費用は、前述2.に示
す中小企業に対して半額減額となるメリットがある。上記の例で
No.1, 2009 • SEMI News
5. おわりに
特許庁が中小企業向けに整備している制度のほか、支援の概
要を、発明の各段階を追って述べた。中小企業の皆さん、特に経
営者にとって参考になれば幸いである。
17
Photovoltaic
色材系太陽電池の研究・開発・今後の展開
大阪大学先端科学イノベーションセンター 柳田 祥三
色材系太陽電池は、有機薄膜太陽電池
(Organic Photo-
色材系太陽電池の変換効率、
とりわけ、OPVの変換効率のここ
voltaic:OPV)
と色素増感型太陽電池( Dye-sensitized Solar
)
数年の向上は注目に値する。OPVの変換効率の変遷を図2 に示
Cell:DSC)
に大きく分類できる。
(C60)
誘導
した。2000年以降の変換効率の更新は、フラーレン
2
色材系太陽電池の基本構造である電極/電子輸送層/
図1には、
体であるPCBMの発見が契機になり、さらに、ポリマー色素であ
色材/ホール輸送層/電極の構成と、各層に用いられる代表的分子
の発見に由来する。現在、色素の高
るポリチオフェン
(P3HT)
構造を例示した。両者の大きな違いは、OPVが電子輸送層として
純度化と近赤外領域に吸収特性を有する色素の開発が進められ
C60分子誘導体のPCBMを用い、DSCでは電子輸送層としてナ
ENRELでの公認変換効率は、Plextronics社の5.42%(セ
ており、
を用いることにある。nc-TiO2
ノサイズ酸化チタン結晶(nc-TiO2)
である。
ル面積0.096cm )
2
が構成する電子輸送層とは、3次元に広がりを有するナノポーラ
スな無機系酸化物である。また、表1には、アモルファスシリコ
との比較を兼ねて、色材系太陽電池モジュー
ン太陽電池(a-Si)
ルの変換効率(括弧内はミニセル効率)
と、光で生じた電子の拡
とともに、
散長(diffusion length:DL, 光ダイオード特性を示す膜厚)
実際のセルの心臓部の厚みを示した。OPVとDSCの膜厚は、DL
に依存し、OPVは0.1µm以下にしなければ電子やホールを外部
回路に取り出すことができないが、DSCは膜厚を20µmにまで厚
1)
くしても可能となる。
図2 有機薄膜太陽電池
(OPV)
の太陽光変換効率の変遷
最近の注目研究は、米国カルフォルニア サンジエゴ大グルー
プの PCPDTBTと命名した高分子色素(吸収極大 (λ max):
∼
800nm)
の開発である。PCPDTBTとPCBMの自己組織に由
来する分子接合系とPC70BM(C60の代わりにC70を用いた)
とP3HTのそれを、タンデム構造として組み立て、変換効率6.5%
3)
を達成した
(図3) 。現在、印刷技術で作製することを念頭に、
図1 色材系太陽電池の構成と化学物質構造
表1 色素増感型太陽電池
(DSC)
と有機薄膜太陽電池
(OPV)
、ならびに
の特性・比較・問題点
アモルファスシリコン太陽電池
(a-Si)
変換効率10%のOPVを実現させる研究が世界各国で進められ
ている。
2
一方、DSCの注目すべき変換効率は、1cm 角のDSCで
10.4%である。この値はAISTによる公認変換効率であり、近赤外領
(図4)
を用いてシャープ
(株)
グル
域にまで光吸収する通称Black dye
ープによって達成された。昨年末、中国の大連で開催されたDSC
のワークショップで、Grätzelグループから、新規な色素C101を
DINHOPというリン酸系物質と共吸着させることで、変換効率
11.9%達成の報告があった(図4)4)。また、韓国高麗大学の
J. Koグループは、有機色素JK-2が10.2%の変換効率を与えると
。
報告した
(図4)
18
SEMI News • 2009, No.1
Photovoltaic
昨年のDSCに関する変換効率としては、これまでのタンデム
異なる有機色素分子、または、高分子色素をナノメートルの膜厚
型DSCの変換効率11.0%に注目したい。そのセル構造とスペク
で多接合することで、
近い将来15%の変換効率も可能と思われる。
トルを図5に示した。トップセルにN719色素を、またボトムセ
色材系太陽電池のもう一つの課題は、モジュールの寿命と長
5)
ルにBlack dyeを用いたと聞く 。
期信頼性の保証である。OPVとDSCの受光透明基板には、導
電性ガラス、あるいは導電性プラステックフィルムであるITO-PEN
を用いる。受光面をFTOガラス基板に用いたDSCの信頼性に関
しては、フジクラ
(株)
グループが、温度85℃、湿度85%の条件下で
1,000時間の耐久性を確認している1)。なお、ITO-PENを用いた
場合は、耐湿性、耐酸素に優れた透明バリアー膜で完全に覆う
ことで、耐久性は実現できる。特に、OPVの寿命を5年以上維持
-3
-2 -1
(water vapor transmission rate)
が10 gm d
するには、WVTR
-3
3
-2 -1
-1
以下に、OTR
(oxygen transmission rate)
を10 cm m d atm
以下にする必要がある。
色材系太陽電池は、印刷技術で製作可能な電子デバイスとし
て、ハイスループット化が可能である。事実、米国の起業家によ
(OPV)
図3 タンデム構造を有する有機薄膜太陽電池
って創設されたG24i社は、2006年、英国に30MW発電容量をも
つ工場を建設、開発途上国向けの携帯用充電器として、チタン箔
と導電性プラステック薄膜で構成した軽量DSCのroll-to-rollプ
ロセスによる5MWラインで操業を開始している。G24i社は、
将来、
住宅屋内用、
さらには住宅屋外用太陽光電源としての商品
6
)
化を目指している 。
米国経済が発端の世界的金融危機は、
石油資源依存時代から
クリーンエネルギー時代への転換を促すマイルストーンと表現
できよう。米国のオバマ大統領は、環境・エネルギー対策に積極
的な姿勢を示し、太陽光や風力など「グリーンエネルギー」の開
発投資の加速に言及し、太陽光発電によるエネルギーソリュー
ション関連技術が新たな雇用を生み出す産業と位置づけ、いわ
ゆる
「グリーン・ニューディール」政策を掲げている。色材系太
陽電池は、オバマ大統領のキャッチフレーズ“Change”にふさ
(DSC)
のための革新的な増感色素と
図4 色素増感型太陽電池
共吸着分子の構造
わしい、光合成に学ぶシリコンを用いない
「近未来太陽電池」
で
ある。
<参考資料>
1)柳田祥三、萬関一広、
「最新太陽電池技術の徹底検証・今後
p127, 2008, 情報機構
の展開」
2)Sang-Jin Moon博士(韓国KRICT)
のRenewable Energy 2008,
International Conference and Exhibition(2008, 0cr. 17)
にお
。
ける講演より
(O-PV-X-1 Polymer O-PV-048)
図5 タンデム構造を有するDSCとその入射光電流効率
(IPCE)
3)A. J. Heeger, et al., Science 317, 222(2007)
4)M. Grätzelの講演、International Symposium on Solar Cells and
OPVとDSCのタンデム構造による変換効率の更新を考える
Solar Fuels, December 10-12. 2008, Dalian, China.
と、
色材系太陽電池の変換効率は、
宇宙発電用に採用された3接
5)http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol08_06/p24.html
η=40.7%)
と同じように、
波長の
合太陽電池
(GaInP/GaInAs/Ge、
6)http://www.g24i.com/
No.1, 2009 • SEMI News
19
STS Award
「第15回STS Award」
受賞論文紹介 5
受賞者:株式会社東芝セミコンダクター社 井上 壮一
Double Patterning技術開発戦略と課題
受賞論文の紹介にあたり
ミコンダクター社の井上壮一さんの論文を紹介します。リソは、
STSプログラム委員会 前委員長(2006∼7年)
:株式会社荏原製作所
ご存知のように光の短波長化と高NA化で解像力を推進してき
常務執行役員 精密・電子事業カンパニー 装置事業部長 辻村 学
Scaling則がGeometrical
(幾何学的)
ましたが、
いよいよ限界です。
2008年は大変な年でした。周期的に訪れるITバブルは想定内
に移り変わるとともに、リソも新しい方
からEquivalent(等価的)
でしたが、それに追い討ちをかけたのが金融バブルのダブルショ
法を模索してきました。その中で最も有望な施策が、本論文の首
ックです。
景気は一気に後退し、経営数字は軒並み悪化、
それ固
(DP)
です。本論文で井上氏は、
「DP
題であるDouble Patterning
定費の削減の掛け声とともに、開発陣の顔は一気に暗くなりまし
技術の利害得失、要求仕様を明確化するとともに、各世代のデバ
た。それでも金融経済の反省を糧に実体経済への期待感も高ま
イス開発・適用の基本戦略と課題」
について明らかにしてくれま
IC/FPD/PVの半導体3兄弟R&D投資には、
世の中も好意
る中、
「技術的
した。2005年に私が提唱したパラダイムシフト45でも、
的です。
市場は確かに蒸発状態ですが、
技術への期待は沸騰状
にはまだまだ解はありますが、コストとの戦い」
と述べました。
態です。2009年は明るく行きましょう。さて、今回は半導体デバイス
DPはリソの救世主になるのか?さあ、井上さんの論文に期待
(株)東芝 セ
革新の最先端を行く、リソ&マスクセッション2から
しましょう。
■ 概要
Field Mask使用と、3:1のDark Field Mask使用の2種類があ
光リソグラフィは、短波長化、高NA化を推進することによっ
る。またエッジパターニング法は、第1パターンのエッジ部にさらに
て、その限界解像力を延ばし続けてきた。しかしながら、昨今実
パターン形成することによって、第1パターンの半分のピッチのパタ
用化されたArF液浸露光技術では、NA=1.3∼1.35が限界であ
ーンを形成する手法であり、Spacer Process法、Double Devel-
り、その次に期待されるEUVは、現時点では実用化に時間がか
opment法がある。
かると見られている。ここで注目されているのが、Double Patterning
(DP)
である。各世代の最小パターンのハーフピッチと、それを
解像するためのArF露光におけるNAとの関係をプロットしてみ
ると、ライン系においてはk1=0.35∼0.4が、ホール系ではk1=0.4
∼0.45がそれぞれ実用的であることがわかる。さらに、ライン系で
ホール系では32nm世代で、
それぞれ高NA化の壁
は22nm世代、
DP技術が必要となることが分かる。
による限界が訪れ、
■ Spacer Process法
Spacer Process法の基本プロセスは、1)所望パターンの倍ピ
レジストスリミングして
ッチ、倍サイズのレジストパターンを形成 2)
スペーサー材をデポしてエッ
芯材となるハードマスクへ転写 3)
チバック 4)芯材を剥離して、スペーサー材をマスクに下地をエ
ッチングする。線幅がスペーサー寸法で決定されるため、OPCで
の寸法制御ができない反面、誤差要因が少なく高い寸法精度を
DPはこれまでにさまざまな手法が提案されている。ピッチ分
には、ラインとスペース比が 1:3のBright
割法( Pitch Splitting)
20
得やすい。しかしながら、工程数・コストが増大する傾向がある
のが課題である。
SEMI News • 2009, No.1
STS Award
を許容するなど使い方の工夫によって、3nm以下の重ね合せ精度
が得られることが報告されている。DP用の高精度量産装置が市
場に投入される前に、既存装置を用いてデバイス開発が進むも
のと思われる。
ピッチ分割法においては、オリジナルレイアウトからDP用レ
イアウトパターンを自動生成する技術も開発要素である。第1
露光と第2露光とにパターンを分割する際にそのままでは解像
しない箇所ができてしまう問題や、連続したパターンが分割さ
れる場合、2回の露光によって接続部分に寸法誤差が生じてしま
DFM
う問題
(スティッチング)
がある。
これらに対処する設計基準や、
(Design for Manufacturability)
ツールを用意する必要がある。
■ まとめ
■ Double Development法
さまざまなDPの現状、課題について述べたが、すでに実用化
さらに低コストが狙えるプロセスとして開発中のDouble
段階の技術から中長期的アプローチが必要な技術まで、千差万
Development法は、1)
所望サイズの倍ピッチ、倍サイズのパターン
別であった。前述のように、NA1.3∼1.35の壁に最初に突き当た
アルカリ現像と有機現像をシーケンシャルに行い、露
を露光 2)
るのはホール層ゆえ、ホール系のDPをまずは実用化する必要が
光部と未露光部を現像し、中間的な感光部のみを残すことによ
あろう。32nm世代でホール層の一部はDP化されると思われる。
って、所望サイズのパターニングを行う手法である。NA0.6、露光
一般的に言って、実用化が見えているものは高コスト・工程数増
(KrF)
を用いて実験した例を示す。通常の限界解像
波長248nm
大傾向であり、逆に、低コスト・工程数削減を狙った材料開発ま
ピッチ207nmを超えるピッチ200nmを解像することができた。
で立ち返るような技術は、開発要素が多く足が長い傾向がある。
Spacer Process法の課題であるコストを大幅に低減できる可能性
したがって、まずコストはある程度目をつぶって開発用プロセ
を秘めており、大いに期待される。
スを立上げ、低コストプロセスが完成した段階で置き換え、量産
プロセスを完成させる方針が現実的であると考える。もちろん
微細化は目的ではなく、低コスト化、高性能化、低消費電力化の
ための手段であり、微細化によってこれらの恩恵に預かれなけ
れば、微細化する意味がない。適用層数にもよるが、DPによるペ
レットコスト全体へのコストインパクトからすると、微細化の
恩恵は十分に得られるものと考えている。
「第15回 STS Award」受賞者
セミコン・ジャパン 2008
の会場にて、
「第15回 STS
Award」授与式・受賞記念
講演が執り行われ、
次の7名
■ ピッチ分割法
代表的なBright Field
(1:3)
方式のプロセスとしては、第1露光、
現像後のレジストパターンを一旦Hard Maskに転写し、さらにレジ
ストを塗布して第2露光、現像を行うHard Mask法が基本である。
ピッチ分割法の最大の課題は、第1露光と第2露光の間の重ね
合せ精度として所望線幅の7%程度以下の高精度が要求される
ことである。
この要求精度を実現するためには、
露光装置だけでな
く、マスクのパターン配列精度に対しても、従来トレンドより数
の方が受賞されました。
本誌 SEMI Newsでは、
受賞者の論文を順次ご紹
介しています。
写真左より、株式会社日立製作所 田中潤一氏
日本電気株式会社 石綿延行氏 株式会社東芝 井上壮一氏
TSMC, Wen-Chin Lee氏 株式会社ザイキューブ 元吉 真 氏(代理)
NECエレクトロニクス株式会社 津本卓也氏 旭硝子株式会社 高木 悟 氏
倍高い精度が必要となる。既存の装置でも、スループットの低下
No.1, 2009 • SEMI News
21
Semiconductor Design
SiP技術が拓く世界(その3 車載ナビゲーション用SiP化技術)
株式会社ルネサステクノロジ システムソリューション統括本部 SIP開発センタ センタ長 赤沢 隆
1. はじめに
日本では、
複雑な道路事情、
日常茶飯事の渋滞、
目的地まで行く
半導体の用途として忘れてはならないほど、今日では自動車
のに幾つかのルートがあり、最短のルート探し、途中の買物のた
用途として多くの半導体が採用されています。1970年代は、カー
めのお店情報、ゴルフ場案内などなど、ユーザーのニーズも非常
ラジオ、カーステレオといったアクセサリ程度にしか半導体は
に多く、車のナビゲーションとはいえ、立体的な表示のバードビ
使われていませんでしたが、1980年代にマイクロコンピュータを
ューといった鳥瞰図表示など、よりユーザーが見やすい工夫も
使った電子式エンジン制御方式の開発を皮切りに、パワーステ
求められてます。
アリング、電子式エアコン、ブレーキシステムなど、今や多くの
こういった背景の中、いろいろなニーズに応えるために、セッ
マイクロコンピュータが使われています。少ない車でも数個、多
トメーカーは最適なシステム構成と価格を両立させながら、ナ
いものでは100個以上も使われており、今や自動車は半導体部品
ビゲーション製品の開発してきました。図1にあるように、2005年
のかたまりと言ってもいいくらいにまでなって来ています。
あたりから、それまで主流であった組込タイプ(自動車メーカー
これらのうち、特に半導体技術の進歩に貢献したものにナビ
純正)
および市販タイプ
(自動車ディーラオプション)
のナビゲーシ
ゲーションシステムがあります。1990年代に開発された軍事用
と呼ばれる
ョンに加えて、PND(Personal Navigation Device)
GPS
(Global Positioning System)
技術を車に応用して、
現在走っ
簡易型ナビが製品化されて、急激な伸びを示してきました。また
ている車の位置を正確に表示するシステムです。第三回目は車載
2006年あたりからは、携帯電話の普及とともに、付加機能として
ナビゲーションの話をします。
携帯電話にGPS機能を付けてナビゲーションとしても登場し、今
後急速な伸びが予想されています。
2. W/Wナビゲーションの需要予測
図1にW/Wナビゲーションシステムの市場動向を示します。
3. ナビゲーションシステム
日本の道路事情は複雑で狭い道が多いため、目的地を探すため
図2にナビゲーションシステムブロック図を示します。大きく
に非常に有効なシステムとして受け入れられ、1990年代後半から
は、液晶表示部と画像処理部、表示用バッファメモリ部および各
徐々に浸透し、2000年代に入り欧米でも大きな伸びを示していま
やDVD(Digital
種インタフェース部、HDD(Hard Disk Drive)
す。しかしながら携帯電話と同じく地域ごとにニーズが違って
Versatile Disk)
などの記録メディアなどに分けられます。画像処理
おり、ヨーロッパ圏では高速移動が多いこと、渋滞がそれほど多
(Central Processing Unit)
と3D
(3-Dimensional)
部には高速CPU
くないことなどから、目的地までの地図の表示より音声での案
アクセラレータ、画像データ格納および読出し用バッファメモ
内および認識が主流となってます。一方米国では、道路も広く分
リなどの機能があり、比較的大きな消費電力で高速CPUを動作
かりやすいことから細かな地図表示は不要であり、簡単な地図
させています。そのために、画像処理用LSIとメモリインタフェー
案内用や広い土地での万が一のときの通信手段に使われてます。
スでの高速設計容易化、
電磁特性のEMI向上が求められている
図1 W/Wナビゲーションシステムの市場動向
図2 ナビゲーションのシステムブロック図
22
SEMI News • 2009, No.1
Semiconductor Design
とともに、
高温度
(–40℃∼+85℃)
動作保証と高放熱設計手法が
本のナビメーカーも市場参入を開始していますが、台湾メーカ
求められています。
(Original Equipment Manufacturer)
がほとんど
ーからのOEM
特に最近は、従来のSDRAMからより高速動作可能なDDR
のようです。また、欧米ではディーラでも販売を始めており、今後の
(Double Data Rate)
SDRAMが使われ始めており、高速設計す
市場に関しては、さらに伸びていくかエントリモデルとしての
るための基板設計がますます難しくなってきています。そこで、画
市場を築くなどと予想されています。
像処理用LSI+バッファ用メモリのSiP化の要求が高まってきてい
ます。DDR SDRAMはSDRAMと違い、システムクロックの両方
のエッジでデータを取り込むため2倍の高速動作が可能ですが、
4. ナビゲーションSiP構造
図4にナビゲーション用SiP製品のロードマップを示します。最
入出力のレベル制御も必要になり、メモリインタフェース設計
初のナビゲーション用SiPとして、2003年にSHマイコン+
が複雑で終端抵抗やプルアップ抵抗などが必要になります。そ
SDRAM
(×32Bit)
仕様で27mmサイズに収めました。実装方法
のため、せっかく高速動作ができたものの、部品点数も増大し、
セット基板が大きくセットの基板層数も増えてしまい、コスト
SHマイコンをWPP
(Wafer Prosess Pakage)
加工し、
SDRAMは
は、
...
CSP
(Chip Scale Pakage)
を使用して、ガラエポ基板にはんだバン
アップにつながることが多くあります。そこで、システムユーザ
プ実装しています。また、動作周波数は133MHzでの動作で比較
ーの設計負担を減らし、かつ終端抵抗などの部品点数を減らす
的遅いものでしたが、単品に比べてSDRAMを内蔵したことで従
ことができるSiP化が登場してくるというわけです。図3にSiP化
来とは比べものにならないほど使いやすいという評価をいただ
によるDDRシステムの容易化設計の例を示します。
きましたが、量産までは至りませんでした。
その後、2004年に量産モデルとしてDDR1インタフェースの
SDRAM内蔵SiPを開発し、2006年から現在まで量産しています。
.
実装方法は前述と同様で、SDRAMはCSPパッケージを使用しは
..
んだバンプ実装しています。基板サイズは23mm角、ボールピッ
チは初めて0.8mmピッチを採用しました。また、動作周波数
333MHzのDDR1インタフェースのSDRAMをSiP化するために、
基板設計でのバス等長配線の工夫やシミュレーションの精度向
上など、新たな技術開発を行いながら試行錯誤して、業界で初め
てナビゲーション用SiPの開発と量産化ができました。某自動車
の全車種のナビゲーションに採用されて、今日まで至っていま
(動作周波数667MHz)
す。2006年にはDDR2インタフェース仕様
図3 SiP によるDDR-Systemの容易化設計
の開発も行い、2008年から量産開始しています。このようにSiPの
特長として、小型、薄型だけではなく、高速インタフェースの設
しかし一方では、画像処理LSIの消費電力が非常に大きいの
で、いかにナビゲーションのセット全体で放熱するかが課題となっ
計容易化を目的としたSiP製品も注目を浴びるようになってきま
した。今後はさらにニーズが増えてくると思われます。
ています。現在この辺の放熱に関してはいろいろ方法で対策し
ており、半導体レベルでの対策、セットレベルでの対策が行われ
ています。
欧米から普及し始め、
低
一方2005年から登場してきたPNDは、
価格と取付けやすさが受け入れられて、一気に販売台数を伸ば
すようになってきました。販売価格帯は従来の製品より半分か
10万∼5万円程度となっています。主要な
ら4分の1程度の安さで、
メーカーも従来の日本中心ではなく、設計製造は中国・台湾中心
で、販売会社が欧州という構図となっています。主な特長は、非
車載信頼性仕様で民生用途の半導体を使っており、HDDや
DVDは搭載せず、フラシュメモリ内蔵による低価格システム
(必
要な地図のみインタネットから購入)
を採用しています。最近は日
No.1, 2009 • SEMI News
図4 ナビゲーション用SiP製品ロードマップ
23
EHS
サステイナビリティに対するSEMIの取組み
SEMI EHS部門 シニアディレクター Aaron Zude
私Aaron Zudeは、2008年6月からSEMIのEHS部門のシニア
って)継続的に使用していけるよう主張していく必要がありま
ディレクターを務めています。これまで27年以上にわたって
す。もちろん、このような物質や原材料は、適切な代替物がない
EHS業務に従事し、そのうちこの18年間は半導体とハイテク業
ものに限られ、可能な限り、より環境に優しい代替物の開発を続
界に身を置いています。SEMIにおける私の役割は、EHSシニア
けていかなければならないことは、言うまでもありません。
マネージャーであるSanjay Baligaとともに、SEMIのグローバル
5. 半導体サプライチェーン全体での化学情報管理や伝達
EHS活動を調整し、各地区にあるオフィスと連携して、会員企業の
皆様に活動の成果をお知らせし、効果的な支援を行うことです。
ここ6ヵ月の間、サンノゼや各地区のSEMIスタッフや関係者、
化学物質の毒性と環境に対する悪影響に関して、
「知る権利」
があるという考え方があります。それに加えて、明確で包括的な
情報を一般市民やサプライチェーン全体に伝える義務がメーカ
さらには半導体業界以外のESH諸団体と、SEMIの会員企業が
ーにあるという考え方が世界中に広がっています。半導体業界
直面しているEHSの問題点について数多くの話合いを行ってきま
は、現在、化学物質情報を上流と下流のサプライチェーンに伝え
した。これらの結果と半導体業界での私の経験から、特に次の7
るため、統一された仕組みの開発に取り組んでおり、今後も力を
項目がSEMIが対応すべき課題であると考えています。
注いでいく必要があるでしょう。
1. 企業の社会的責任(CSR)
またはサステイナビリティに対する期待
6. 業務上の安全性・健康
一般市民、
規制団体、
および投資家は、
企業が自分たちの経済
私たちの懸命の努力にもかかわらず、作業事故や作業による
的成功だけでなく、次世代のために地球の資源と生命を守るこ
死亡が絶えません。製造装置や設備の電気保安、アークフラッシ
とができるやり方で経営することを期待しています。そのため
ュ保護、シランの安全性、ナノ材料、検出システム、新規加工助剤
には、企業は企業ビジョンの作成、持続的なEHSリーダーシップ、
の納品管理や排出量削減は、さまざまな課題を生み出してい
EHS管理システムの導入と統合などを通して、一定レベルの
ます。サプライチェーン全体でハザードコントロール技術に関
EHS達成度を示す必要があります。
する知識やこれまでの教訓を共有することにより、業界として
2.「グリーン」
プロダクトの生産に対する期待
これらEHSの課題解決に取り組み、またそれを成し遂げてい
消費者
(一般市民だけでなく企業を含む)
も、環境に優しいプ
くことができるでしょう。このような情報交換は、SEMIやその
ロダクトやサービスを選ぶ傾向が高まっています。私たちの身
他のEHS委員会、作業グループへの参加を通して行われま
の回りに、グリーンレボリューション
(環境保護への取組み)が
す。ほかに、各種会議やワークショップへの出席も考えられま
起こっているのです。半導体業界も、従来に増して慎重に、かつ
す。これらのイベントは、SEMI、半導体ESH協会
(SESHA)
、SIA
踏み込んだ姿勢で、環境理念と実践に対応した設計を、ビジネス
International Semiconductor Environmental, Safety & Health
プロセスと意思決定に織り込む必要があります。
3. 気候変動(地球温暖化)
気候変動の原因と、その変動によって引き起こされている諸
(ISESH)
会議、International SEMATECH
(ISMI)
、その他の
団体・組織によって後援されています。
7. 太陽電池(PV)製造業界の成長
課題に対して、一般市民と規制団体の意識レベルがかつてない
PV製造業界が成長し、新しいプロセスと生産技術・製造装置
ほど高まっています。一般の人々の念頭に浮かぶ解決策として
が導入されるにつれて、関連するEHSの課題も加速度的に増加し
は、私たちの日々の生活から排出される二酸化炭素量を共同し
ています。機器設計、取付け、試運転のための危険分析手法か
て削減することが挙げられます。このことは、CO2およびその他
ら、シランや有害なプロセスガスを安全に取り扱ったり使用量を減
の地球温暖化ガスの利用量と排出量の削減、設備と機器におけ
らしたりする基準まで、半導体業界はこれまでに解決してきて
るエネルギー利用量の削減、代替物や再生可能なエネルギー資
います。このようなさまざまなEHSの課題が、PVメーカーによ
源の開発などによって、ほとんどが達成されることでしょう。
っても解決が求められています。EHSのハザードコントロールに
4. 化学物質を規制、抑制する動きの世界的高まり
関する知識とベストプラクティスを業界全体で共有する
「プラット
原材料や製剤、そして最終製品に含まれる化学物質に対して、
フォーム」
を、PV業界内で確立することが急務になっているので
世界的に厳しい規制と抑制が及ぶ傾向にあります。このような
す。SEMI EHS部門は、2009年には一連のPV EHSワークシ
規制例としては、
輸入、
利用、
および廃棄
(REACHやRoHS規制
ョップをグローバルに実施し、この情報ギャップを埋めるお手伝
などを通して)
の登録と制限、あるいは禁止措置(PFOS規制な
いをすることを予定しています。
ど)
による化学物質の排除などがあります。半導体製造を継続
していくために、半導体業界は、半導体製造プロセスに不可欠で
あるこれらの物質や原材料を
(適切なEHS管理をすることによ
24
前述した7つのEHS課題の最初の項目について、さらに考察し
てみましょう。
SEMI News • 2009, No.1
EHS
一般的には、サステイナビリティ、持続的発展、企業の社会的
・成功事例を公開する。
責任
(CSR)
、社会的責任
(SR)
、事業継続計画
(BCP)
、その他
・大企業を指導者や模範として活用する。
さまざまな表現があります。しかし、肝心なことは、仕組み
(プ
・既存のCSR組織の現在の活動を活用してGlobal Careプログラ
ログラム)
を適切に導入することをみんなで話し合うことです。
ムを強化する。
その仕組みとは、ビジネス上の意思決定の場で、環境と経済をう
まく融合できるような企業風土を育成するプログラムです。
「環境」
という言葉は、
職務上の安全性・健康、
環境保護、
企業
Global Careプログラムが優れている点は、参加企業が次の行
動を通して、EHS管理、実例、およびシステムの向上に努力するた
倫理、
労働
(労働者の人権)
規範などの意味を含んでいます。
SEMI
めのフレームワークを幅広く提供することです。
の活動目的からは、
「環境」
は安全性・健康および環境保護を意
・Global Careの5つの理念
(職場の健康・安全、資源保護、化
味し、私たちは現在このような取組みを
「サステイナビリティ」
と
学物質の総合安全管理、コミュニティサービス、卓越性)
を実行
呼んでいます。
することを公約する。
私が好ましいと思うサステイナビリティの定義は、International
Institute for Sustainable Development
(www.iisd.org)
によって策
定された次の定義です。
「持続的発展とは、将来必要とされる人的資源と天然資源を、
保護、維持、増進しながら、企業とその利害関係者のニーズを
満たすビジネス戦略と活動を導入することを意味する」
・これらの理念(実行プラン)
を実現するために、企業としての
ハイレベルな公約と系統的な取組みを実際に示す。
・各理念に基づく実践と進展の具体的な成果について報告する
(年次サーベイ)
。
・公約をサポートし、他のGlobal Care参加企業と連携して活動を
強化するために、Global Careの連絡窓口を任命する。
実際のところ、持続可能な開発はさまざまに定義されていま
すが、最も頻繁に引用される定義は、別名ブルントラント報告書
一方、Global Careプログラムに欠けている点は、企業が成
と呼ばれる
「Our Common Future
(邦題:
「我ら共有の未来」
)
」
果の基準の指定、目標・測定基準の設定、あるいは系統的な監
からの次の抜粋です。
査実行に使用できる自己査定や定量的測定のための
「ツール類」
「持続的発展とは、将来世代のニーズを損うことなく、現在の世
を用意していないことです。このギャップを埋めるため、SEMI EHS
代のニーズを満たす開発のことを意味します。この定義には、2
部門は、今後想定されるサステイナビリティのパートナーとし
つの重要な考え方が含まれています。ひとつはニーズという概
て、エレクトロニクス業界と化学薬品業界の複数のCSR組織と、
念です。とりわけ最優先されるべきは、世界中の貧者にとって
現在話合いを行っています。目標としているのは、SEMI Global
必要不可欠なニーズです。もうひとつは、現在および未来のニ
Careの参加企業が、これらの組織から入手できるリソースを活
ーズを満たすことができる環境の力に、テクノロジーの状況とさ
用して、自分たちのサステイナビリティのためのプログラムを強化
まざまな社会組織が制約を加えているという見方です」
。
[環境
できる仕組みを整えることです。
と開発に関する世界委員会(WCED)
“Our common future”
オックスフォード:オックスフォード大学プレス 1987 p. 43.]
Global Careプログラムを拡大するという目標のほかに、2009年
のサステイナビリティに関するSEMI EHS部門のロードマップ
には、次の活動が含まれています。
重要なことは、SEMIのサステイナビリティのための活動は、
半導体業界のサプライチェーンから独立した単独の企業によっ
て実行されるプログラム活動とみなすことはできないというこ
とです。言い換えれば、私たちは同じ船に乗っているのです。
SEMI会員企業間にこのような活動を促進していくためのフレ
ームワークとして、既存のGlobal Careプログラムを拡大すること
を計画しています。この取組みのキーポイントは次のとおりです。
・WSC、ISMI、JEITA、その他の組織によってすでに進行中の
サステイナビリティ活動とは重複しないようにする。
・中小規模のSEMI会員企業の皆様にもサステイナビリティ活
動に参画していただけるような「ツールボックス」を開発す
る。このツールボックスは、主として次の4つの要素で構成さ
・SEMI各オフィスのサステイナビリティの目標と活動をサポー
トする
(各地区のサステイナビリティ委員会を通して)。
・SEMICON Korea、ChinaおよびTaiwanにおける省エネワー
クショップをサポートする。
・SEMICON Chinaにおいてシリコン製造EHSベストプラクテ
ィスワークショップを開催する。
・再生可能なエネルギーの利用拡大、およびカーボンフットプリ
ントをなくす仕組みを導入して、SEMICONショーの「緑化」
を促進する。
・Global Careサステナビリティ
“how to”
ワークショップを開催する。
・SEMICON Westとセミコン・ジャパンにおいて、エグゼクティ
ブレベルの「サステイナビリティサミット」
を企画する。
れます。①サプライチェーン全体を含める ②サステイナビリ
ティのビジネス事例(期待効果)
を明確に示す ③省エネ、節
水、化学管理、固体廃棄物の削減・リサイクルにフォーカスす
る ④会員企業に算出、モニター、削減の方法を教示する。
No.1, 2009 • SEMI News
私は、SEMIのEHS活動について、皆様のご意見をうかがいた
いと思っています。ご意見があればぜひお寄せください。
Email:azude@semi.org
25
MEMS
100万個のマイクロミラーを持つ
空間光変調器を用いたフォトマスク描画装置
マイクロニックジャパン株式会社 代表取締役 河田 卓
1. はじめに
に併せて一定速度で移
シリコン基板への電子回路を形成するには、最初に回路設計
動していく。そこではパ
したCADデータをフォトマスクへ転写する必要がある。レーザ
ターンイメージがそれ
ーフォトマスク描画装置では、パターンは形状データとして入
ぞれ隣合せに精度よく
力され、それから装置内でビットマップデータへ変換される。ビ
配列されて、パターンが
ットマップの利点は、マスクの描画時間が設計データにある形
形成されていく。フラッ
状の数量に左右されず、描画エリアのみに依存する。レーザー描
シュから次のフラッシ
画には2種類あり、ひとつは円形のレーザースポットをラスター
ュの間にデータパスコ
スキャンし、パターンイメージを形成するために変調させるもの。
ンピュータは、SLMに次
を使って
またもう一方の新しいタイプは、空間光変調器(SLM)
の長方形を成す「スタン
描画するものであり、本稿ではこれについて述べる。ここで述べ
プ」
を表す新しいパター
るSLMは、百万個のミラーに毎秒2,000回の再プログラミングが
ンを投入していく。
行われ、結果毎秒20億ピクセルの速度でマスク上にイメージが
照射される。これがSigma7500の心臓部である。
先端フォトマスクへの
図1
精度要求は、
非常にチャ
レンジングに満ちている。6インチという範囲に何億個というパ
2. Sigma7500について
ターン形状が、緊密にサイズと位置精度に関して制御されなけ
フォトマスク用レーザー描画装置Sigma7500は、スウェーデン
ればならない。Sigma7500では、寸法均一性5.5nm(3σ)を達成
にあるMicronic Laser Systems AB社にて開発されたものである。
(3σ)
より優れている。
精度が求めら
し、
位置精度に関しては12nm
90nmデザインルールのICで必要とされるすべてのフォトマス
れる形状で220nmの、そうでなければ150nmの形状を描画する。
クと、45nmや60nmルール用マスクのほとんどはこの装置で描
いわゆるアドレスグリッドと呼ばれる1.25nmの精度で、形状の
画できる。また、位相シフトマスク用の2層目のパターニングに
端の寸法は決められる。マスク描画時間は約3時間で、他の選択
もよく適している。
(位相シフトマスクとは、透過光の位相と強
肢である電子ビームに対して、競争力が強いのが長所である。こ
度をウェーハーステッパー内で制御してイメージをより高く解
れらの要求事項を満たすために、特別に設計されたSLMデバイ
像するものである。
)先端の位相シフトマスクでは、第2層目が
スが必要となる。
石英基板までエッチされる微細なエリアを定める。Sigma7500は
描画に必要とされるレーザーと光学系の同じものを使って、1層
目のアライメントマークを検知する。
3. 空間光変調器(SLM=Spatial Light Modulator)
電気的また機械的な機
各SLMミラーの寸法は16µm×16µmで、
本装置は、シリコン用ステッパーと同じ技術がふんだんに使
能として統合していくに十分な大きさであり、なおかつチップ
用され、
「小型のプログラミングができるマスク」
を使用したス
単体上に製作する大きなミラー配列にするには十分小さい。ミ
テッパーと考えられる。装置の簡略図を図1に表す。光源は波
ラーは、248nmの波長に対して反射率がおよそ90%を持つアル
(KrF)
エキシマレーザーを使用する。
長248nmフッ化クリプトン
ミ合金でできている。アルミはまた各ミラーの両端側について
エキシマレーザーはパルスモードで駆動され、フラッシュが連
いるトーションヒンジに適した材料で、中心軸に対して斜めに
続して
(各フラッシュは約20n sec)照射される。光学系でSLM
傾けることができる。512×2048個のミラー配列でチップ面積
表面で均一に照射がされるようになり、反射した光のパターン
8.2mm×33mmをカバーしている。図2にて顕微鏡写真を示す。
は、SLMミラーのプログラムによって決定される。また、SLMは
DUV照射のもとでの劣化を防ぐために、チップは窒素でパージ
200分の1縮小されてフォトマスク上に転写され、約40µm×160µm
されたパッケージ内に納められる。
のエリアを百万ピクセルで「スタンプ」のごとくパターン形成
をする。
フォトマスクを載せたXYステージは、レーザーのフラッシュ
26
Sigma7500のSLMとは異なり、Texas Instruments
(TI)
社の
DMDはデジタルなデバイスで、ミラーは2ヵ所の停止位置の間で傾
き動くことになる。それゆえ、この手法ではパターンを含むパルス
SEMI News • 2009, No.1
MEMS
この回折光のフィルターである。ミラーの傾きが増すにつれ、よ
り多くの光が遮られ、これにより輝く状態から暗い状態へイメ
ージを変えていく滑らかな移行を作り出している。あるミラー
の偏光時に、ミラー上の付随光のすべてが回折されアパーチャ
により遮断されて、結果として黒いピクセルになる。この点が、
単純に反射を利用して輝く状態と暗い状態のピクセルを使い、
ミラーの位置を素早く時間変調して諧調を仮想的に作り出して
図2
いるTI社のDMDとは異なる。
ピクセルドメイン内にあるイメージプロセス技術を使えば、
照射が使えない。つまり、Sigma7500のSLMはアナログデバイス
パターンデータは簡単に強化改善する。その一例がコーナーエ
を必要とする。ミラーは、白を表現する輝くイメージのニュート
ンハンスメントで、隣接するピクセルに輝度を加えることによ
ラルの位置から黒を表すダークなイメージに相当する傾きまで、
り、パターンのコーナーが鮮明になる。パターンドメインに適用
角度を微小に増減して傾かせる。この白と黒のレベルの間64の
される他の機能としては、グローバルバイアス
(マスク上にある
諧調レベルを持ち、基板上でパターン
(つまり80nmピクセル)
すべての形状の寸法に対してわずかな調整を施す)
と、異方性バ
の端をシフトさせていく。
イアス
(異なる角度方向にある形状の間で生じる寸法の違いを
各ミラーの下には電極につながるキャパシターが存在する。
低減する)
がある。
下にある回路は、30Vの高さまでの電圧を保持するCMOSプロ
精度の良い描画を達成するために、各ミラーが命じた通りの
セスで製造されている。行と列のインデックスを使用してデー
諧調の数値に同じく応答する必要がある。個別ミラーが異なる
タローディングされている間に、各キャパシターはアクセスや
応答性を持ってしまう要因はいくつかあり、それゆえSLMキャ
チャージングがなされる。ミラーの傾きは、引っ張られた静電力
リブレーションが必要になる。それら要因とは、ニュートラルな
とヒンジからの逆行する機械的な力のバランスの上に決定され
ミラー位置でのばらつき、ヒンジスプリングの安定性にわずか
る。TI社のDMDと異なり、SLMミラーは、非線形の静電力が直
に違いがあること、ミラー反射や照射での違いである。キャリブ
線性の機械的な力を圧倒するような不安定なポイント近くで傾
レーションプロセスの出力は、各ミラーに対応した百万の移行
くことはない。
機能テーブルの形をとり、パターンが描画される時にリアルタ
黒レベルにおいて、ミラーの端がアドレス電極に向かって下
方向に傾く距離はわずかに62nm、つまり露光の波長の4分の1
イムで適用される。
Sigma7500フォトマスク用描画装置は、百万個のミラーを持つ
である
(λ/4)
。対応する傾斜角は極めて小さく0.5°以下であり、
空間光変調器を利用して、高速で精細に回路パターンを生成す
エッジが動くのに必要とされる諧調を全配列に提供しながら、
る。これは、フォトマスクのコストやTATが重要な競争要因で
ヒンジ部にかかる機械的ストレスを最小化している。
ある半導体産業にとって有用である。
4. SLMによるイメージング
Sigma7500では光学縮小率は1/200で、16µmのミラーグリッド
は描画時の80nmピクセルグリッドになる。この縮小率では、配
SEMIが開催するMEMS関連セミナー
MEMSは今や新しい産業として広く認知され、アプリケーション
も車載から民生・モバイル製品へと広がりました。
その結果、
MEMS
列されているミラーグリッドの構造そのものは像として表され
はより便利な機能をもたらす技術として、身近なものとなって来てい
ない。これは検討の上でのことで、描画イメージにはグリッド誤
ます。SEMIでは、MEMS産業に携わる方々を対象に、今年も次の
差が表れないようにしている。
ようにMEMS関連セミナーを開催します。
XYステージは連続して動いており、20nsのレーザーパルスの
長さは描画時にわずか約1.5nmほどイメージが動くが、これは
イメージの質に影響を及ぼすものではない。またグレイレベル
は、1.25nmごとに形状エッジの増減するために使用される。
マイクロミラーが平坦なニュートラルな位置から離れて傾く
につれ、反射光のいくつかは回折され、投影光学系にあるアパー
チャにて遮られる。イメージのコントラストを作るのが、まさに
No.1, 2009 • SEMI News
・SEMI Forum Japan MEMSセミナー
2009年5月27日(水)グランキューブ大阪
・STS SEMIテクノロジーシンポジウム
セッション2:マイクロシステム/MEMSセッション
2009年12月2日(水)幕張メッセ 国際会議場
お問合せ先:SEMIジャパン イベント受付
Tel:03-3222-5993 Email:jeventinfo@semi.org
27
Innovation Stories
開発秘話:高エネルギーイオン注入
株式会社ルネサステクノロジ 代表取締役社長 塚本 克博
■ はじめに
半導体素子が世の中に普及し始めてからほぼ40年経ち、最先
晶損傷の影響が完全には拭えなかったイオン注入の量産導入に
は慎重論も強かった。筆者らは膨大なロット実証試験を繰り返し、
端のLSIでは数億個のトランジスタがシリコンチップに集積さ
リフレッシュ特性への悪影響がないということを証明して、よ
れるまでになった。この発展のまっ只中で我が半導体人生を送
うやく64K DRAMから採用に漕ぎ着けることができた。しかし、
ってきたが、これほどまでの微細化と高集積化、高機能化が進展
会社の主要などジネスであったDRAMへの世界で初めての量
するとは、今さらながら驚くばかりである。
産適応であったため、本当にリフレッシュ特性に影響が出ない
私は1973年に電機メーカーに入社し、イオン注入の開発に取
かどうか、かなり心配したものである。
り組むこととなった。それ以来、私の半導体人生の約半分はイオ
ン注入とそれに関連するプロセス・デバイス技術の開発に従事
■ 高エネルギーイオン注入の実用化
したことになる。当時の開発を振り返りながら、イオン注入の多
大電流イオンビームによる高濃度イオン注入が量産レベルで
様な発展、特に高エネルギーイオン注入の開発と、それによって
定着した後、さらにエネルギーの高い、いわゆるMeV
(10 eV)
領
実現された多様なデバイス構造の発展を述べる。
域のエネルギーでイオン注入する技術が出始めていた。
6
MeV領域のイオン加速器として、原子核研究用にタンデム型
■ イオン注入の多様な発展
70年代初頭にMOS ICが登場し、その閾値電圧制御に最初の
イオン注入技術の応用が開けた。
の静電加速器が開発されていたので、最初にこの方式での高エ
ネルギーイオン注入装置が登場した。500K∼1,000KV程度の高
電圧を取り扱うため、高電圧発生部や加速系全体はSF6ガスで満
MOS ICの閾値電圧制御に定着したイオン注入技術ではあ
たした高圧タンク内に収納される。また、発生するX線の遮蔽に
るが、ひとつ厄介な基本的課題を抱えていた。イオン注入による結
大量の鉛板を張り付けているため、重量が20トンを超える大型
晶構造の損傷、特に高濃度に注入すると完全に非晶質化してし
装置であった。導入当事、開発ラインの2階に設置するには重過
まう問題への対処である。多くの研究の結果、高濃度注入された
ぎたため、柱を補強して装置を設置した。余談になるが、1995年
非晶質化層でさえも適切な熱処理を行えば、固層エピ成長の原
の阪神大震災では、私たちの開発ラインも大被害を蒙った。この
理で格子欠陥のない元通りの結晶に復元されて、注入原子も
(固
時、幸いにも床が抜けることはなかったが、装置全体が数本のア
溶度を超えない限り)全数がドーパントとして作用することが
ンカーボルトを引きちぎって約50cmも移動していた。地震エネ
見出された。
ルギーの凄さを改めて実感させられたものである。
筆者らはこの時期、
トランジスタのベース形成にボロン注入
最初に高エネルギーイオン注入の応用として取り組んだのは、
を採用し、電流増幅率hFEの制御性・均一性が極めて優れてい
CMOSのウェル形成であった。高エネルギーイオン注入でウェ
るとともに、結晶欠陥に敏感なノイズ特性にも遜色がないことを実
ルを形成すると、表面よりも内部の方が濃度の高い、いわゆるレ
証して、バイポーラ素子のベース形成は急速にイオン注入法に
トログレード
(Retro-Grade)型ウェルとなる。この内部の高濃
置き換わっていった。
度層は、ラッチアップに強いデバイス構造を提供し、さらに、パ
さらに濃度の高いエミッタ層やソース・ドレイン層の形成が
ッケージなど鉛含有物質から放出されるアルファ線や宇宙線な
次のテーマであった。当時はN型層形成としてリンの熱拡散法
どによって誘発されるソフトエラーを抑制する効果も発揮する。
が一般的であったが、ヒ素が固容度も高く、かつ急峻な深さ方向
高エネルギーイオン注入を実用化する上で大きな課題は、注
濃度分布が得られるため、エミッタやソース・ドレインに最適な
入マスク材料に何を使うかということであった。通常のイオン
不純物と言われていた。毒性の強いヒ素化合物は熱拡散法
(開
注入では、フォトレジストがマスク材料として広範に使用され
管式)
では取扱いが困難なため、イオン注入によるヒ素ドーピン
ている。ところが、高エネルギーイオン注入のマスク材には、膜
グを開発した。こうしてボロン注入ベースとヒ素注入エミッタ
厚が数µm以上のフォトレジスト必要になる。このような厚い
で形成した高周波高出力トランジスタは、急峻なエミッタ濃度
フォトレジストでパターンを形成するのは困難であった。この
分布の効果で極めて高性能のトランジスタとなり、当時需要が
ころ、KrFエキシマ露光用として化学増幅型のフォトレジストが
伸びていた自動車無線用の出力トランジスタとして、ビジネス
開発され始めていた。波長の短いエキシマレーザー光は吸収が
的にも大きな成功をもたらした。
強く表面層しか露光されないが、このタイプのフォトレジスト
当時はDRAM隆盛の時代で、各社とも大容量化を目指して微
では露光後化学反応が深さ方向に進行して、最終的に膜厚全体
細化・大容量化競争を繰り広げていた。
DRAMでは、微小なリー
が現像液に可溶状態となる。フォトレジストメーカーに依頼し
ク電流に左右されるリフレッシュ特性への影響が懸念され、結
て、5-7µmの膜厚でもパターン形成が可能なi線用ネガ型化学増
28
SEMI News • 2009, No.1
Innovation Stories
ネルギーイオン注入により、基板内部の任意の深さ/位置に不純
物層を形成できるようになり、熱拡散法ではまったく実現でき
なかった新しいデバイス構造、さらには回路方式が生み出され
た。基板内部の不純物層を自由に構造設計できるという意味で、
基板エンジニアリングと名付けた。
前述したように、最初の応用は16M DRAMのTwin Well形成
であったが、さらに進化させてTriple Wellが考案された。P型基板
に深いN型層を形成し、この領域内にP型ウェルを形成すると、
P型基板から電気的に分離されたウェルとなる。電気的に完全に
分離されたP型およびN型ウェルを手に入れることで、さまざま
な回路を構成することが可能になった。LSI回路に必要な正負の
電圧をチップ内で自在に発生させる、回路ブロックごとにある
いは任意のタイミングで基板電位を与える、フラッシュメモリ
ではウェルに正または負の高電位を印加してメモリの書込/消去
動作を行わせる、等々多様なデバイス構造と回路構成をもたら
図1 高エネルギー注入のシリコンデバイスへの応用
した。
マスクROMでは記憶トランジスタの閾値電圧を制御して
幅型フォトレジストを開発してもらい、マスク材の課題は解決
ROMデータを書き込むが、高エネルギーイオン注入では配線層
した。
などを通してイオン注入できるので、最終の製造工程でROM
私たちが高エネルギーイオン注入を採用した最初の製品は、
16M DRAMのウェル形成であり、世界で最初の適応であった。
の書込みが可能になる。
CCD/CMOS撮像素子では、暗電流の抑制や受光感度の向
イオン注入されたウェル領域にメモリ素子を作り込むので、リ
上が大きな技術課題であった。高エネルギーイオン注入によって、基
ーク電流とリフレッシュ特性に悪影響を与えないか、多くの実
板内部に複雑な構造の不純物層を形成できるようになって、大量
験を繰り返した。幸いにもリフレッシュ特性への影響はまった
生産に向いた撮像素子が開発され、
今日の隆盛がもたらされた。
くないことが実証され、高エネルギーイオン注入を採用した
BiCMOSデバイスでは埋込みコレクターや素子分離領域を形
DRAMを世に送り出すことになった。ところが量産に移行して
成した後ウェル形成を行う必要があるが、高エネルギーイオン
間もなく、イオン注入装置で大きな問題を引き起こしてしまった。
注入ではウェル形成に高温の熱処理を必要としないため、埋込
量産工場に導入したイオン注入装置は、開発ラインに設置し
た装置と同型の装置であったが、ディスク型のウェーハ注入処
みコレクターや素子分離領域の再拡散を抑制することができ、
素子の微細化や高性能化をもたらしている.
理機構が未熟でトラブルが続出し、量産機としては使用に耐え
一方、高エネルギーイオン注入で基板内部に発生する結晶損
なかった。高電圧発生部の安定性やイオンビームの安定性には
傷が、その近傍に存在する結晶欠陥のアニール過程に大きな影
何とか合格点が付けられたが、ウェーハ処理機構のトラブルは
響を及ぼすことが見出された。結晶欠陥のアニーリング機構の
致命的であった。責任を感じた私は、他のメーカーの装置を急速
解明とともに、今後高エネルギーイオン注入が結晶欠陥制御に
導入することに意を決し、その装置メーカーが日本に持ち込ん
も道を開くことが期待される。
で間もないデモ装置を、大至急量産工場に移設してもらうこと
をお願いした。この装置は、RF高電界を使用する四重極型加速
方式で、最初に導入した装置とはまったく加速方式が異なるが、
■ おわりに
イオン注入の開発ならびに高エネルギーイオン注入の開発を
ウェーハ処理機構はこのメーカーの大電流装置で実績があっ
スタートしてから、各々約35年と20年が経過した。当時からす
た。幸いにもそのメーカーからは快諾をいただき、デモ機移設に
れば考えられないほど、今日では普遍的な製造技術として広く
すぐさま取りかかってくれた。お陰で約2ヵ月後には、移設した
定着し、LSIの高性能化・高機能化に貢献している。これらの技術
装置が順調に稼働を始めた。社運のかかっていた16M DRAM
で先駆的な研究・開発に携われたことは、私の技術者人生にとっ
の量産初期に、イオン注入装置で大きな機会損失を出す寸前の
て望外の幸せである。師事した先輩、苦労を共にした同僚・後輩
ところで、何とか挽回することができて本当に有り難かったこ
に多謝あるのみである。
とを鮮明に記憶している。
<参考文献>
■ 高エネルギーイオン注入が拓いたデバイス構造
従来、半導体基板といえば一様な濃度と決まっていたが、高エ
No.1, 2009 • SEMI News
塚本克博、小森重樹、黒井随、赤坂洋一:
「高エネルギーイオン
注入技術の半導体デバイスへの応用」応用物理60,1087,1991
29
Market Report
不透明な経済状況だが2009年後半から回復を期待
−SEMIマーケットセミナー Dan Tracy講演要旨−
2008年の第4四半期の金融危機に端を発する未曾有の不況の
中で、半導体装置・材料産業も厳しい状況に置かれています。そ
(火)
にSEMIマーケットセミナーが開催されま
の中で、去る12月2日
した。本稿では、SEMIの市場調査統計部門シニアディレクタで
あるDan Tracyが発表した資料の抜粋を、SEMI News読者の
皆様に提供いたします。
産業の全体の状況
半導体市場に対する見通しは2008年の年初から大幅に変化し
年末にかけて
た。
平均8.2%の成長を見込んでいた各調査会社は、
平均すると1.1%成長まで下方修正している。
SEMIのファブ装置投資額の予測も、10月、11月と2度にわたっ
図1 半導体製造装置市場予測の変化
。状況しだいで、更なる修正もありうる。
て下げられた
(図1)
ファブの動向
全世界のファブ建設計画に延期や中止が発生しており、2008年
7月には36あった計画が12月には29に減少している。生産能力の
動向では、300mmへの投資が2008年までは順調で、200mmの生
産能力を追い越した。
300mmの生産能力を保有地域別に見ると、
韓国が1位、
台湾が
2位、日本はその次の3位である(図2)
。
日本の生産能力はトータル
では世界最大であり、2000年の世界の1/3から減少はしているが、
(図3)
。
依然全体の1/4を保持している
装置市場の見通し
2000年以降の半導体製造装置市場は、
正確に2年に1度、
受注
図2 地域別300mm生産能力の推移
のピークがあったが、2008年にピークは訪れず、2003年レベルまで
。SEMIの2008年末予測では、昨年1位の座を台湾
後退した
(図4)
に譲った日本が、今年再び首位に戻るものの、金額では93億ドル
から74億ドルと縮小する。世界全体では、2008年27%減、2009年
22%減との厳しい予測となった。2010年は大きく回復に転じるこ
。
とが期待される
(図5)
材料市場の見通し
材料市場は半導体デバイスの生産数量と相関するため、2009
年はフラットだが2010年にかけて緩やかな成長が見込まれてい
。2007年のファブ材料市場は日本が世界の24%を占め
る
(図6)
ているが、2008年も引き続きトップとなる見込みだ。パッケージ
材料では、多層基板の金額が60億ドル以上にまで増えており、今
30
図3 地域別トータル生産能力の推移
SEMI News • 2009, No.1
Market Report
後も成長が継続するだろう。地域的には東南アジア、台湾の次に
日本が位置している。
まとめ
2009
現在の世界的な金融危機の中で、
市場予測は困難である。
年の後半に経済の回復と投資の増加を期待したい。
ファブ生産能
力は4年連続して二桁成長を続けてきたが、2008年と2009年は一
桁台の前半まで成長が鈍るだろう。そのため、装置市場は縮小す
2010年に二桁の回復を予測する。
材料市場は、
2008年が6%
るが、
成長、2009年がマイナス0.8%成長、2010年が8%成長と予測され
るが、金額は地金価格に大きく左右されるだろう。
図5 半導体製造装置市場予測
図4 半導体製造装置の受注出荷額推移
図6 地域別パッケージ材料市場
世界半導体製造装置市場統計 2008年
9-10月販売高データ
SEMI Book-to-Billレシオ
装置カテゴリー別月間販売高
(単位 1,000米ドル)
マスク、レチクル製造用装置
ウェーハ製造用装置
ウェーハプロセス用装置
組立・パッケージング用装置
テスト用装置
半導体製造装置用関連装置
合 計
2008年9月
2008年10月
0,065,579
0,022,681
1,619,169
0,195,667
0,309,780
0,130,334
2,343,210
0,019,747
0,016,629
1,351,719
0,090,395
0,176,390
0,085,442
1,740,322
1,600
1.1
受注額
BBレシオ
1,400
1.0
1,200
1.00
0.96
1,000
0.9
0.92
0.89
800
0.85
0.87
0.82
600
装置市場別月間販売高
(単位 1,000米ドル)
販売額
0.81
0.8
0.83
0.81
0.78
400
0.7
日 本
北 米
欧 州
韓 国
台 湾
中 国
その他
合 計
2008年9月
0,673,269
0,505,738
0,198,317
0,411,878
0,224,507
0,126,894
0,202,607
2,343,210
2008年10月
0,435,265
0,456,184
0,236,675
0,252,303
0,143,822
0,084,725
0,131,348
1,740,322
出典:Worldwide Semiconductor Equipment Statistics(SEMI, SEAJ)
No.1, 2009 • SEMI News
0.70
200
0
12月 08年1月 2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
0.6
SEMI BBレシオの12ヵ月間推移(単位:百万米ドル、3ヵ月移動平均)
SEMI BBレシオの1991年からの推移は、SEMIのwebサイトでご
。
覧いただけます(www.semi.org/marketinfo)
31
Column
SEMI Newsコラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「文明の時間」と「自然の時間」
志村 史夫
新しい年が明けた。
間とを掛け合わせたようなものである。つまり、
「自然の時間」
言い古されたことではあるが、
トシをとるに従って、年々、時
はネジが進むように進む。だから、私は、
「自然の時間」を「螺
が経つのが速くなる。小学校時代の6年間の、あの時間のとてつ
旋時間」
と呼んでいる。地球上のすべての生物は、このような
「自
もない長さが懐かしい。物理的には確かに同じ1年間という長
然の時間」
に従って活動し、休息するのが自然であるし、そもそ
さなのに、どうしてこのように時間が過ぎる速さが異なるのか。
も、生物の器官は、そのように作られているのである。
不思議なことではあるが、ちょっと考えれば、簡単な話なのであ
しかし、
「文明人」
を支配する
「文明の時間」は、過去から現
る。たとえば、5歳の子どもの1年間の長さは、それまでの人生
在、
未来へと直線的に単調に、
極めて正確な、
一定の速さで無表
の5分の1の長さであるが、私のような60歳の人間の場合は60
情に進む。そして、現代「文明人」
は、各自の“個性”
に関係なく、
分の1である。人間は何ごとも
「人生経験」に基づいて考える
そのような「文明の時間」に従わなければ生活できなくなって
から、アインシュタインの「相対性理論」
を持ち出すまでもなく、
いる。
個人的な時間の長さは相対的なものなのである。
このような
「文明の時間」が、地球上の生物にとって自然であ
しかし、
「文明人」
を支配する
「文明の時間」は、過去から現
るはずがない。また、人類が、
「文明の時間」で生活している期
在、未来へと直線的に一定の速さで無表情に流れる時間であり、
間は
「自然の時間」
で生活していた期間と比べれば、まだほんの
それは極めて正確な、一定の“単位時間”
によって区切られてい
一瞬に過ぎないから、
「文明人」がさまざまな“病気”
に襲われる
る。
特に近代社会においては、
時間の合理性、
つまり、
時間の客観
のは、当然ともいえるだろう。数千年前に、医聖・ヒポクラテスは
性、
等速性、
不可逆性が確立されているのである。
近代資本主義
、、、、、、
経済は、結局、この合理化された
「文明の時間」
を売り買いする
「自然から遠ざかるほど人は病気に近づく」
と言っているが、
ことによって成り立っているともいえる。だから「時は金なり」
なのである。
したがって、人間が長い時間起きていてくれればくれるほど、
生産量も消費量も増大し、金が儲かり、経済が「活性化」
される
ヒポクラテスの時代からみれば、現代人は例外なく瀕死の重病
人ばかりであろう。
エンデの『モモ』
(大島かおり訳、岩波書店)
という小説に「時
間どろぼう」の話が出て来るが、これは明らかに「文明の時間」
に対する諷刺である。
ことになる。かくして、電灯という
“文明の利器”によって、明る
「時間節約こそ幸福への道! 時間を節約してこそ未来があ
い“昼”が長くなり、暗い“夜”が短くされ、果ては
“不夜城”
なる場
る! きみの生活をゆたかにするために時間を節約しよう!」
と
所も生まれるのである。いま、
“24時間オープン”の店はどこも
、、
繁昌している。
いうようなスローガンを抱えて、
「時間貯蓄銀行」の“灰色の紳
われわれ人類を含む、地球上のすべての生物の生活基盤はい
ぼう」なのである。
「時間をケチケチすることで、ほんとうはぜ
うまでもなく地球である。地球は太陽の周囲を約365日の周
んぜんべつのなにかをケチケチしているということには、だれ
期で公転し、同時に、約24時間の周期で自転している。この自転
ひとり気がついていないようでした。じぶんたちの生活が日ご
によって、地球に“昼”
と
“夜”が生じることになる。また、地球の
とにまずしくなり、日ごとに画一的になり、日ごとに冷たくなっ
自転軸が公転軌道面に対して垂直ではなく、ちょっと傾いてい
ていることを、だれひとり認めようとはしませんでした。」
とい
るために、地球の各地には“四季”が生まれるのである。
うわけで、時間を節約した人間は、だんだん怒りっぽく、落ちつ
わかりきったことを述べたが、私が強調したいのは、地球上の
士”が人々の前に現れる。しかし、彼らは実のところ
「時間どろ
きのない人間になって行くのである。
すべての生物は、
その発生以来、
自分たちの活動・休息の周期を、
この『モモ』
は、もともと
“児童文学”の範疇に入る作品である
いま述べた地球の周期(これを「自然の時間」
と呼ぶ)
に同調
が、作者の国ドイツのみならず、他の「文明国」でも
“児童文学”
させて生きて来たのである。同調できなかったものは自然淘汰
の枠を超えて高い人気を持ち続けている。世界中に、
「文明の時
された。
間」に身につまされている“おとな”が少なくないということで
この
「自然の時間」
の特徴は、それが、時計が機械的に刻む時
あろう。
間のように単調でもなければ、
“一定”でもないことである。また、
いまさら、われわれ「文明人」が「文明の時間」
を無視するこ
すべての個々の生物に一様に当てはめられるものでもない。
とは不可能であるが、一年の初めに、ちょっとだけにせよ病気か
「自然の時間」
は、過去・現在・未来という縦軸を一方向に流れる
直線的な時間と
「昼と夜」
「四季」
を周期的に繰り返す回転の時
32
ら遠ざかるためにも、
「自然の時間」
「文明の時間」がいかなる
ものであるかを考えてみるのは無駄ではないだろう。
SEMI News • 2009, No.1
No.1, 2009 • SEMI News