主要先進国首脳会議(G8サミット) - FASID 財団法人国際開発機構

2002 年 7 月 7 日
FASID 国際開発研究センター主任
大原 淳子
最新開発援助動向レポート No.4
主 要 先 進 国 首 脳 会 議 (G 8 サ ミ ッ ト ) の 成 果
カナダのカナナスキスにおいて、6 月 26 日、27 日の 2 日間、主要先進国首脳会議(G8
サミット)が開催された。今回のサミットでは、アフリカの開発のための新たなパートナ
ーシップの構築、世界経済の成長と持続可能な開発の促進、テロとの戦いを主要テーマと
し、首脳間で活発な議論が繰り広げられた。各テーマにおける主な成果は以下の通りであ
る。
アフリカの開発のための新たなパートナーシップの構築
G8 サミットの場にアフリカの 4 首脳(南アフリカのムベキ大統領、ナイジェリアのオ
バサンジョ大統領、セネガルのワッド大統領、アルジェリアのブーテフリカ大統領)およ
び国連のアナン事務総長を迎えて、アフリカ諸国が直面している課題や G8 の「アフリカ
開発のための新パートナーシップ(New Partnership for Africa’s Development: NEPAD)
1
」に対する対応につき議論が重ねられた。NEPAD を支援するための行動の枠組みとして
「G8 アフリカ行動計画」が採択された。具体的な内容は以下の通りである。
1.NEPAD のコミットメントを反映した実績を示しているアフリカ諸国と「強化された
パートナーシップ(enhanced partnerships)」を構築する。相手国はその実績に基づ
いて選択され、良い統治、法の支配、国民への投資、経済成長を促す政策の追及に対
して政治・財政的コミットメントを示している国に、援助を重点的に行う。
2.アフリカのピア・レビュー(相互審査)2・プロセスは、NEPAD の目的を達成するう
えで革新的であり、かつ潜在的に決定的な要素である。ピア・レビュー・プロセスは、
「強化されたパートナーシップ」を形成するうえで相手国の適性を検討する際の情報
を提供する。
3.モンテレー会議で決定した 120 億ドル3の援助増額のうち、少なくともその半分以上、
すなわち 60 億ドル以上を、公正な統治を実施し、自国民に投資を行い、経済的自由
1
NEPAD とは、民主主義と健全な経済管理を強化し、平和、安全、人間中心の開発を促進するという、
アフリカの指導者たちによるアフリカの人々への誓約である。アフリカの指導者たちは、自らその策定と
実施を行い、貧困削減のための原動力として投資主導の経済成長および経済ガバナンスに焦点を置いてい
る。また、アフリカ内の地域・準地域のパートナーシップを重視している。さらに、2015 年までに年平
均 7%の経済成長を達成するとの数値目標を設定している。詳細については、FASID「開発援助の新しい
潮流:文献紹介 No.11」参照。
2
統治能力の欠如から援助が有効に使われなかった過去の経験を反省し、NEPAD は民主的な統治を確立
するために「ピア・レビュー」の制度を導入し、アフリカ諸国が互いに監視し合う体制を敷いた。
3
モンテレー会議において、米国は 2006 年までに50 億ドル援助資金を増額すると表明し、また EU は 2006
年までに EU 全体で 70 億ドル増額することに合意した。この 2 つを合計すると、2006 年の時点で 120
億ドルの増額となる。
1
を促進しているアフリカ諸国に配分する。
4.最貧国への資金援助に対して、借款(ローン)よりも無償供与(グラント)の割合を
増加させる。G8 サミットの直前 6 月 12 日、13 日に開催された G8 外相会合では、国
際開発協会(IDA)の最貧国への援助資金に占める無償資金の割合を現行の 5%程度
から 18-21%に引き上げることで合意に達した4。
5.2010 年までにアフリカ諸国およびアフリカの地域・準地域機関が、アフリカ大陸にお
ける武力紛争の予防および解決に向けて効果的に対処できるように、また、国連憲章
に沿った平和支援活動を実施できるように、技術的・財政的援助を供与する。さらに、
平和支援活動の実施に向けてアフリカ諸国の能力を向上させるための共同計画を 2003
年までにアフリカ諸国と協力して策定することに合意した。
6.行政・官僚機構の改善、議会による監視の強化、参加型意思決定の推進、司法改革な
どの NEPAD の優先分野に焦点を当てながら、アフリカにおける政治ガバナンスに関
する能力構築プログラムを拡充する。また、健全なマクロ経済戦略の実施、財政管理
と説明責任の強化、通貨・金融システムの一貫性の維持、会計・監査システムの強化、
効果的なコーポレート・ガバナンスの枠組み策定などの NEPAD の優先分野に焦点を
当てながら、アフリカにおける経済およびコーポレート・ガバナンスに関する能力構
築プログラムを強化する。
7.後発開発国(The Least Developed Countries: LLDCs)からのすべての産品に対して
関税や輸入割当枠を設けない市場アクセスを供与する。
8.ODA の有効性を高め、「強化されたパートナーシップ」の相手国に対する ODA のコ
ミットメントを強化する。
9.HIPC イニシアティブにおいて予想される資金不足を補充するため、10 億ドルを上限
として資金供与を行う。
10.マラリア、結核、HIV/AIDS の蔓延に対処するためのグローバル・ファンドへの支援
を継続し、この基金の活動の有効性を高めるとともに、アフリカがこの基金に参加し
て利益を得るための能力を強化することを支援する。米国はアフリカやカリブ海諸国
におけるエイズ対策に、今後 3 年間で 5 億ドル拠出することを表明した。
11.2005 年までのポリオ撲滅のため十分な資金を供与する。
その他、アフリカにおける農業生産性向上および水資源管理の改善に対する支援が表明
された。
今回の G8 サミットでは、英国とカナダの強い説得により、モンテレーで表明された合
計 120 億ドルの援助増額のうち、60 億ドルの援助資金を NEPAD への支援としてアフリ
カ諸国に配分することが決定したが、アフリカの主導者たちが要求していた援助の大幅な
増額は認められず、アフリカを貧困から脱出させるためには依然として資金不足に陥って
いる状態である。NEPAD は、2015 年に向けたミレニアム開発目標を達成するためには、
年 640 億ドルの追加資金が必要であると打ち出している。こうした状況を受けて、フラン
4
まもなく FASID より The World Bank, IDA Loans or IDA Grants? (May 2002)の文献紹介が出される
予定である。
2
スのシラク大統領は、サミット開催中の 6 月 27 日、アフリカに向けての援助を増額する
意向を表明し、ODA の GNP 比 0.7%達成という目標も 5 年以内に実現したいと語った。
また、米国は、アフリカの主導者たちが提唱したアフリカ諸国が互いに監視し合い民主
的な統治を確立するという「ピア・レビュー」の制度に対して、すでに「ピア・レビュー」
の原則に同意していたジンバブエにおいて不正な選挙が実施された過去の例などから、か
なり懐疑的であり、アフリカ諸国が政府の統治能力を向上させているかどうか、また腐敗
撲滅のための対策をとっているかどうかを審査するための米国独自のメカニズムを開発し
た。米国は「ミレニアム・チャレンジ・アカウント(Millennium Challenge Account: MCA)」
を創設し、モンテレーで表明された 50 億ドルの追加援助はこの MCA に拠出するとし、
良い統治、自国民の健康と教育、企業と企業家を育成する健全な経済政策に対して強いコ
ミットメントを示している国に限定して、直接資金供与を行う方針を明らかにした。
世界経済の成長と持続可能な開発の促進
1.保護主義的圧力に抵抗することにつき合意。また、2005 年 1 月 1 日までにドーハ開
発アジェンダの交渉を妥結するため、開発途上国と協力していくことを強調。
2.ドーハ・アジェンダとモンテレー合意を再確認する重要性につき合意。また、8 月末
のヨハネスブルグ・サミットにおいて持続可能な開発のための有意義なパートナーシ
ップと目に見える結果を創出するよう働きかける。
3.HIPC(重債務貧困国)イニシアティブ5で、最大 10 億ドルの資金不足が発生するこ
とを認識し、そのうちの G8 負担分を拠出する。HIPC イニシアティブによって債務
救済の利益を受ける国において、良い統治(グッド・ガバナンス)を確立することの
重要性を強調。
4.初等教育の普遍化、女子の男子と平等な教育機会へのアクセスの達成に向けた開発途
上国の取り組みを支援するための一連の提言を採用する。G8 教育タスクフォースは、
「万人のための教育(Education for All: EFA)」 6のよりいっそうの推進に向けて、開
発途上国のコミットメントの必要性、先進国に求められる対応、評価の改善の必要性
の 3 つの観点から、報告書をまとめ発表した。その主な内容は以下の通りである。
(1) 国レベルでの政治的コミットメント、十分な国内資金の供給、健全な教育戦略
の策定は EFA を達成するための基礎である。初等教育の普遍化を達成するた
めには、開発途上国は国内資金の相当な割合を教育予算に充てなければならな
い。世界銀行の研究によると、5 年間の初等教育の普遍化の達成に向けて軌道
に乗っている国は、通常予算の約 20%を教育予算に費やし、そのうちの半分
を初等教育に回している。開発途上国は、これらの国と同レベルの資金配分を
5
重債務貧困国を対象とした債務救済計画。1996 年に世界銀行・IMF が提唱し、各国政府によって合意
された。
6
1990 年、世界銀行、UNDP、UNESCO、UNICEF の4機関が共催で「万人のための教育世界会議」を
開催し、その場において、すべての子供が無償初等教育を受けられるようにすることを謳った「万人のた
めの教育世界宣言」が採択された。今年 4 月、世界銀行は「万人のための教育(EFA)」の達成に向けて
の行動計画を策定したが、その詳細については FASID「開発援助の新しい潮流:文献紹介 No.10」参照。
3
初等教育に対して行うべきである。また、予算の透明性確保は不可欠である。
(2) 健全な教育計画の策定と実施の責任は、開発途上国政府に委ねられなければな
らない。こうした計画の持続可能性は、その国のより広範な貧困撲滅戦略にそ
の計画が統合されることによって高められる。地域コミュニティ、民間教育機
関、NGO は教育計画の策定と実施に真剣に取り組むべきである。
(3) 健全な政策と教育分野への資金的コミットメントを有している国に対して、二
国間援助による基礎教育への支援を大幅に増加させる。各 G8 ドナーはこのコ
ミットメントを履行するための方策を公表する。
(4) 世界銀行と地域開発銀行に対して、教育と男女平等にコミットしており、高度
な管理能力を既に示しているか、あるいは管理能力の向上が著しい国へ追加的
支援を行うよう求める。
(5) 支援の拡大を受ける資格が未だ与えられていない開発途上国の能力を向上させ
るための現行の努力を強化する。特に未就学の人口が多い国に焦点を当てる。
(6) 紛争から脱しつつある国における教育システムの再建を加速する。
(7) 信頼度の高い評価・分析システムは「万人のための教育」の新の進展にとって
必要不可欠である。ドナーは開発途上国が必要な制度的能力を構築することを
支援すべきである。
米国は、昨年 7 月にアフリカの教育支援に 1 億ドル拠出することを表明したが、それに
加えて、今後 5 年間でさらに約 1 億ドル拠出する意向を今回の G8 サミットの直前に表明
した。これによって総額約 2 億ドルがアフリカの基礎教育拡充のために回されることとな
る。また、日本は今後 5 年間で総額約 20 億ドル(約 2500 億円)の ODA 予算を開発途上
国の教育支援に充てる方針を表明した。これまで日本は、年間約 400 億円の ODA 予算を
教育分野に配分してきたが、教育関連施設の建設・整備などのハード面への支援が 8 割以
上を占めており、今後は初等教育の普及、識字率の向上、教員の養成などのソフト面への
支援を重点的に行っていく意向である。
しかしながら、世界銀行の調査によると、世界中のすべての子供を就学させるためには、
さらに 40 億ドルの追加資金が必要であり、今回の米国と日本の教育支援への援助増額を
足してみても、依然として資金不足であるのが現状である。
テロとの戦い
1.テロリストや彼らをかくまう者が、核・科学・放射性・生物兵器やミサイルおよび関
連物質、機材、技術の取得や開発を防止するため、以下の「6 つの不拡散の原則」に
つき合意。
(1)大量破壊兵器や関連物質の拡散および不正な取得を防止するための多国間条約
やその他の国際的手段の採用・普及・完全実施を推進する。また、これらの国
際的手段を実施する機関の強化を図る。
(2)大量破壊兵器および関連物質の生産、利用、保管、国内および海外輸送に対し
て責任を持ち、安全を確保するための効果的な手段を開発し維持する。また、
4
大量破壊兵器や関連物質を管理するための十分な資金を持たない国に対して援
助を行う。
(3)大量破壊兵器や関連物質を保管する施設を守るための効果的な手段を開発し維
持する。そのための十分な資金を持たない国に対して援助を行う。
(4)大量破壊兵器や関連物質の不正取引を発見・防止・制止するための効果的な国
境管理、法の施行、国際協力のあり方を開発し維持する。そのための能力を強
化するのに十分な専門知識や資金を持たない国に対して援助を行う。
(5)多国間輸出管理リストにあるアイテムおよびその他の核・化学・生物兵器やミ
サイルの開発・生産・利用に貢献する可能性のあるアイテムを管理するため、
各国は輸出・積み替え管理システムを再調査し、効果的な管理方法を開発し維
持する。また、輸出・積み替え管理システムを開発するにあたり、法的・規則
的インフラ、実施経験、資金に不足している国に対して援助を行う。
(6)かつて防衛の目的で製造され、現在では不必要となった分裂性物質の在庫の管
理と処分に対する取り組みを強化する。また、すべての化学兵器を削減し、危
険な生物病原菌や毒素の所有を最小限にして、これらの危険物質の全体量を減
らすことにより、テロリストがこれらを取得する機会を減少させる。
2.大量破壊兵器や物質の拡散に対処するための「G8 グローバル・パートナーシップ」を
策定。そのもとで、合意されたガイドラインに基づき、協力プロジェクトを実施する。
また、その実施を支援するため、今後 10 年間で 200 億ドルを上限として資金を拠出
することに合意。具体的には、これらの資金はロシアおよびその他の旧ソ連諸国に残
留する大量破壊兵器の解体に使用される。米国は年 10 億ドル拠出することにより 200
億ドルのうち 100 億ドルを負担する意向を表明し、他の G8 メンバーに残りの 100 億
ドルの拠出を求めた。それに対して日本は、年 2 億ドルの拠出を表明した。日本が拠
出する 2 億ドルのうち 1 億ドルは、新設される余剰プルトニウム処理のための国際機
関に回される。日本は、1993 年よりロシアなど旧ソ連諸国との共同で「核兵器廃棄協
力委員会」を設立し、約 250 億円拠出してきたが、ロシア側の非協力的な態度から核
兵器の処理作業は滞り、約 165 億ドル以上が活用されなかった経緯を考慮して、ロシ
アの支援金受け入れ体制の改善を強く要求している。
3. 世界交通システムの安全性と効率性を強化するため、「交通保安に関する G8 協調行
動」につき合意。乗客の事前情報(Advance Passenger Information: API)に関する
世界共通標準の策定、改善された国際的コンテナ安全体制の構築や実施、国際民間航
空機関(ICAO)における航空保安メカニズムへの十分な財政支援の継続、関係国際
機関である ICAO、IMO(国際海事機関)、WCO(世界税関機構)、ILO(国際労働機
関)における政策の一貫性や協調の推進などを宣言。
5