インダストリー4.0 ~第 4 次産業革命

今月の特集記事
~毎月の特集記事です。~
インダストリー4.0 ~第 4 次産業革命~
こんにちは。MPC の外山です。
今月の月次レポートですが、先月少しお話しした『インダストリー4.0』の話です。まだ私も勉強中なのですが、
私が現時点で把握している情報をもとに、独断と偏見で『インダストリー4.0』について今月と来月の2回に渡っ
て話をしていこうと思います。今月は『インダストリー4.0』というものが何なのか?ということを中心にお伝え
します。
●『インダストリー4.0』って何ですか?
さて、冒頭でいきなり「インダストリー4.0 の話します」と言いましたが、この言葉ご存じでしょうか?日本語に
訳すと『第4次産業革命』です。多分まだあまり一般的には認知されてないかと思います。と、いうことでまずは、
『インダストリー4.0』がいつ、どこで生まれ、どんな内容なのかを説明していきます。
◆いつ、どこで生まれたのか?
『インダストリー4.0』が生まれたのは、2010 年のドイツです。もともとはドイツ政府の産業政策の一つとされ、
2011 年頃からこの言葉が使われ始めました。
◆どんな動きなのか?
簡単に説明すると、インターネットなどの IT 技術(IoT 技術)を使って生産性の高い工場(スマート工場)を作ろ
うという動きです。イメージとしては、コンピューター制御で自動化された工場を作るといった感じです。
でも、これだけ聞くと今までとそんなに変わりませんよね?今でも、コンピュータ制御で自動化してる工場は
たくさんあるわけで…。何が違うのか?
◆今までとの違い
今までとの大きな違いですが、『インダストリー4.0』ではこれまで人間が行っていた「考える」という行為を
コンピュータに委託します。今までの「コンピュータ制御の自動化」では人間で例えるなら「手足」を機械に任せ
ていました。(後で説明しますが、この段階を「インダストリー3.0」と言います)
一方、『インダストリー4.0』では「手足」に加えて「頭」も機械に任せます。これが大きな違いで「産業革命」と
言われる理由です。コンピューターが必要なデータを収集し、考え、判断を行い、実行に移すということです。
と、いうことは何が起こるのか?人間の数が減ります。人間の数が減れば、生産性(労働生産性)が劇的に上
がります。生産性が上がれば、競争力が付きます。と、言う感じで、人件費を抑制して大幅に生産性を改善しよう
という取り組みが、『インダストリー4.0』です。
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●『インダストリー4.0』が生まれた背景
では、なぜ『インダストリー4.0』が生まれたのか?その背景を考えてみたいと思います。
◆経済の変化
2000年代に入ってから、各国の経済構造は大きく変化をしています。まず、前回のレポートでもお話ししまし
たが、90年代後半から2000年代にかけて新興工業国が台頭してきました。これまで、先進国間での競争(米国
vs 日本 vs ドイツ(EU))の中に台湾、中国、韓国等の新たなプレイヤーが参入してきました。これが、競争環境(特
にコスト面)の激化を招きます。
そして、FTA・EPA などの経済的な各国間での取り決め、インターネットの普及により、経済がグローバル化しま
す。自由経済が拡大されるので、これも競争を促進する要因です。
競争が厳しくなったので、各国企業はそれに対応するためにグローバルな生産体制を構築します。(←この
辺りの話は前回しました)
ところが、グローバル産業が進むと困るのはその会社の「本国」です。本国の立場からすれば、あまり他国に
出て行かれると「産業の空洞化」が進むのであまり望ましくない状態になります。「じゃあ、本国で生産してもら
えば?」という話になりますが、ここで問題があります。先進国は人件費が高いです。しかも、先進国は次のよ
うな社会構造の変化を迎えているので、人件費が下がる見込みはないです。
◆社会構造の変化
日本に代表されるように、先進国は高齢化が進んでいます(アメリカはちょっと別ですが…)高齢化が進むと
社会保障費が増えます。で、これが人件費の上昇を招きます。
これに困ったドイツは90年代後半のシュレーダー政権の時に社会保障費の改革に手を付けました。これであ
る程度人件費の抑制効果はあったらしいですが、多分、これだけでは足りないのでしょう。「これだけでは製造
業の競争力維持出来ないから抜本的な産業政策を打とう」ということにドイツではなって、『インダストリー4.0』
の政策が開始されたと考えられます。
また、別の観点から考えると、「消費者ニーズの多様化」ということも背景の一つです。世界中の消費者が今
までのような画一的な商品は欲しがらなくなって、「個別」の商品へのニーズが高まっています。これに対応す
るには今までの生産方式では不可能なので(物理的には可能ですが、経済的には×です)、今までとは抜本的
に違う生産を行わないといけません。
◆IT 技術の発展
そして、経済と社会の変化を生んだ IT の技術がさらに進んでいきます。「通信技術」「処理速度の増加」「スマ
ホやタブレット、ウェアブル端末などの端末」「ビックデータ」「クラウドシステム」「人工知能(AI)」の技術開発と
普及が進み、これまで夢物語に近かったスマート工場を現実のものとしていきました。
このようなことが『インダストリー4.0』が生まれた背景にはあると考えています。
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●なぜ、「産業革命」なのか?
~これまで起こった「産業革命」~
さて、なんとなく『インダストリー4.0』のイメージ出来ましたか?でも、なぜ「産業革命」なんて大げさなこと
いうのか?「改革」とか「変更」じゃいけないのか?ここでは、その辺りを考えていきます。
◆「産業革命」の定義
「改革」とか「変更」との違いを説明するために、まずは、勝手に私なりに「産業革命」を定義します。
「産業革命=産業の技術(方式)の変化により、企業の変化だけでなく、経済、社会、ライフスタイル等を大きく
変化させる、又は変化を大きく促進し、世界経済(産業)の主導権(覇権)を持つ国や企業を変更させる現象」
いかがでしょう?(私が私なりの解釈で勝手に定義しているので、本来の意味とは違うかもしれませんよ。正
しい定義は辞書を引いて下さい(笑))
◆産業革命の歴史
上記の定義のように、過去の産業革命ではその後企業の経営だけではなく、経済や社会にも大きな変化が
生じています。ちょっとその辺りを確認するために、これまで発生した産業革命を振り返ります。(ちなみに「産
業革命」というのは過去3回起こっています。歴史の授業で習った18世紀イギリスだけではないですよ)
図1 これまで発生した産業革命
第1次産業革命
第2次産業革命
第3次産業革命
第4次産業革命
インダストリー1.0
インダストリー2.0
インダストリー3.0
インダストリー4.0
発生時期
18世紀
20世紀前半
20世紀後半
2011年~
発生国(リーダー)
イギリス
米国
日本
ドイツ?
特徴
機械化
大量生産
少量多品種生産
スマート工場
ライン生産
ジャストインタイム生産
個別最適生産
(キーワード)
自動化
変化を起こした
蒸気機関
電気エネルギー
コンピュータ
IoT
ロボット
3D プリンタ
改善活動
IT スキル/知識
技術
必要とされる資源
資本
資本
や能力
など
労働力
社会/経済の変化
ビックデータ
資本主義の誕生
大量消費の到来
ニーズの多様化
ニーズの個別化?
労働者階級の誕生
大衆文化の登場
製品の多様化
オープン化?
中産階級の発展
性能の向上
中小規模の企業や
個人の台頭?
フォロワー国
代表的な企業
米国
-
日本
フォード
中国、韓国
新興国?(インド?)
アジア諸国
米国?
トヨタ
シーメンス?
ボッシュ?
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とりあえず私なりにまとめてみました。大体こんな感じです。1つだけよく分からない項目があるので説明し
ておきます。「フォロワー国」という項目です。これは、リーダー国に追従して産業革命を取り入れた国代表的な
国です。言い換えれば、リーダーに対抗する国、次の革命を起こすかもしれない国です。
注目して頂きたいのは、これまでの産業革命の際には、技術変化に伴い、社会/経済の変化やリーダーシップ
を取る国が変化しているということです。このようなことを今後も起こす可能性があるため、今回の動きも
「産業革命」と呼ばれています。(ただ、産業革命と社会構造の変化は「卵が先か鶏が先か」という面もあります
が…)
●これからの姿
~『インダストリー4.0』の事例~
では、これからこの『インダストリー4.0』が進行した場合、製造業はどのような姿になるのでしょうか?現在
進行中の事例をこれからの姿のモデルケースとしていくつか紹介します。
◆事例① ドイツ「シーメンス社
アンベルク工場」の事例
“ロボットのそばでパソコンをいじっていた若い男性がおもむろにライン上の製品をつかんで見せてくれた。
通常、綿密にプログラムした自動ラインでそんなことをしたら、モノの流れが狂い、生産計画に影響してしまう
はず。「大丈夫なのか」と問う記者に、彼は IC タグを見せながら笑って答えた。「この製品が今、製造ラインを離
れたことも、ラインは分かっているから問題ない」。
アンベルク工場ではセンサーを備えた設備同士を同じ通信規格で接続。どの顧客向けのどんな種類の製品
がどこにあるかを、リアルタイムで管理し、制御できるようにしている。いわゆる「考える工場」だ。それゆえに、
化学プラント用の製品でも、顧客からの注文が入ると即座に生産ラインへ反映し、組み立てる順序や部品を変
えて対応できる。
だからこそ、99.7%もの製品で、注文を受けてから24時間以内の出荷を実現した。急な設計変更もデータの
入れ替え一つで可能だ。この迅速さと生産できる種類の多さが顧客をつかみ、シーメンスの競争力を引き上げ
た。
(まるわかりインダストリー4.0 第4次産業革命、日経 BP ムック、2015、p21-p22)
この事例は生産管理の事例です。これまで、人が行ってきた生産の段取変更をコンピュータがやるようにな
るという事例です。次の事例は現場管理の事例です。
◆事例② ドイツ「ボッシュ社
ホンブルク工場」の事例
“このラインの構想を練ったチームの一人、ボッシュ子会社のファビアン・ボロウスキ氏が試しに、ラインの前に
立ってくれた。すると、彼の前にあるモニターの表示が切り替わり、ドイツ語の説明とともに、油圧機器を組み立
てる動画が流れ始めた。「僕の経験と好みを生産ラインにおくっているんだ」と、腰にぶら下げた Bluetooth(ブ
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ルートゥース)端末を見せるボロウスキ氏。
ベテラン職人の場合は動画ではなく文字だけになり、英語の方が得意な従業員には言語も変える。組立て中
の製品が IC タグを通じてラインに情報を伝えるため、モニターに映る動画や手順書は200種類ある油圧機器
のそれぞれに応じて変化する“
(まるわかりインダストリー4.0 第4次産業革命、日経 BP ムック、2015、p23-p24)
いかがでしょう?これは今まで人がやっていた従業員への作業指示をコンピューターが行う。しかも、個別の
製品や作業者に合わせて行う事例です。最後は、ちょっと切り口を変えて需要者(消費者)側の視点です。
◆事例③ ベルギー「マテリアライズ社」の事例
“「i.materialise」。同サービスのウェブサイトでは世界中のデザイナーたちが、思い思いに設計した装飾品や
小物などの3D データを公開している。
利用者が好みのデザインの商品を見つけて注文すると、マテリアライズが3D プリンターで造形して届けてく
れる仕組みだ。デザイナーは、販売数に応じて収益を受け取る。
このサイトで現在、活発に売買されている商品の一つが、米ゴープロが提供するビデオカメラ向けのアクセ
サリーだ。…中略…。愛好家たちは、潜水マスクにカメラを取り付けるための接続部品など、自分の趣味や利用
目的に合うパーツを探して購入することで、自らの手で製品の付加価値を高めている。
ゴープロの販売台数は2013年に約380万台と、ソニーなど既存のビデオカメラ大手をはるかにしのぐ。メー
カーが好むと好まざるとにかかわらず、3D プリンターの台頭は、製品の付加価値に占める消費者の「嗜好」や
「共感」の重要性を決定的なものにした。そればかりか、付加価値を生み出す源泉自体が、企業から個人の側へ
と移りつつかる。自動車やデジタル家電といった量産品のメーカーも、もはやその潮流と無縁ではいられない“
(まるわかりインダストリー4.0 第4次産業革命、日経 BP ムック、2015、p76-p77)
これが、先ほど図1に記載した「個別最適生産」と「中小規模の企業や個人の台頭」の事例です。3D プリンタに
よりこのようなことが可能になります。
他にも「設計開発」では、ダイハツが「コペン」のデザインをオープン化した。とか、日本の金型メーカーが 3D
プリンタで試作型の開発納期を短縮し、従来の技術(切削とか鋳造とか)では生産不可能な金型を生産した。と
かいろいろ事例はあります。
◆こんなことも起こるかも
これまで紹介した事例は実在する事例ですが、他にもこんな姿も想像が出来ます。
例えば、工場で設備トラブルが起きたときにウェアブル端末を付けた保全員が現場に急行。設備は稼働状況
のデータを逐一モニタリングしているので、そのデータとデータベースにある過去のトラブルと処置方法を照
合し、AI が最適な処置を判断。保全員は AI からの指示をウェアブル端末で受け取り、設備の修理を行う。といっ
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たことや…。
医師と薬剤師、製薬メーカー、患者をオンラインでつなぎ、医師・薬剤師が処方した薬のデータを製薬メーカ
ーが受け取り、必要とされている薬の需要予測を行って、薬をタイムリーに生産する。また、医師は患者のバイ
タルをウェアブル端末でモニタリングし、臨床データとして製薬メーカーに提供。製薬メーカーは臨床データを
もとにして新薬を開発。なんてこともあり得るかもです。(ただ、この場合は医療関係なのでクリアしないといけ
ない問題はたくさんありますけど…)
●今後の進み方
~産業革命の進み方とその怖さ~
以上が、『インダストリー4.0』がどういうものか?という説明です。最後に産業革命の進み方についてお話し
して今月は終わりたいと思います。
これまで、産業革命と言われるものは3回起こっていますが、その進行には特徴があります。いずれも「知ら
ないうちに始まって、気が付いたら終わっている」ということです。
一般的に「革命」と言われるものは、ある日突然始まって、みんなで大騒ぎして終わる。といったイメージが
あります。「フランス革命」とか「ロシア革命」みたいな政治的革命はこんな感じです。
でも、産業革命は違います。歴史でならった18世紀の産業革命もある日突然イギリス人が「うぉー、革命だ
ー!!これからは蒸気機関の時代だー!!!」って言って始めたわけではありません。何かしらないうちに機
関車とかが普及してきて、気が付いたら世の中が変わってしまった。というのが実態です。
第2次も第3次も同じです。別に米国人も日本人も大騒ぎはしてないです。知らないうちに世の中が変わって
「何十年前とは変わったよね~」という感じになるのが産業革命の特徴です。産業革命が進行中は世の中の多
くの人が「革命だ」なんて認識していないんですよ。言い換えれば、産業革命というのは終わった後に、後付け
で、「考えてみれば、あれは革命だった」って言い出すものです。
これが非常に厄介です。まだ、政治的革命と同じように大騒ぎしてくれれば、みんな大変な思いをしながら
もなんとか対応が出来るのですが、産業革命は知らないうちに進行するので、気が付いたときにはもう遅い。
ということになるかもしれないのです。多分今回も同じ進み方をするでしょう。
先ほど産業革命の定義のところで、「主導権を持つ国や企業を変更させる」と書きましたが、これもこの進み
方ゆえだと考えています。恐らく、ある日突然革命が起きてくれればその時代の主導権を持つ国や企業であ
れば、十分対応出来るはずです。でも、漸進的に進行されたら?
「あれ?」と気が付いたときには、新しい枠組みに対応出来る力を付けて自分と同等になった相手が主導権
を握り始めており、自分が対応しようとしてももう遅い。(←この辺りは前々回にやった「挽回関数」の話です)
そんな状況になって主導権が完全に移行してしまうのではないでしょうか。『インダストリー4.0』が進行するの
であれば、国としても企業としても早めに対応を準備することが必要です。
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と、いうことで今回は『インダストリー4.0』がどういうものかお話ししました。次回は、「これにどうやって対応
するの?」という話を中心にお伝えしたいと思います。
では・・・
今月のひと言
私もまだ不勉強なので、今回のテーマは時期尚早かな…。とも思いましたが、色々と思うところがあり、今出
来る範囲で熱く語ってみようと思いました。実際今後どうなるかはよく分からないですが、もし本当にこの動き
が進行するとしたら、最前線に立たないといけないのは私の世代(1980 年以降に生まれた世代)なんですよね。
と、いうことで自分の意識を高めるためにも(ここで書いたら勉強しないわけにはいかないですから(笑))見切
り発車でレポート書いてみました。
お知らせ
~今後予定されているイベントやセミナー等についての告知です。~
【当事務所のイベント情報】
◆会社の業績を上げるための経営指標の作り方
~経営に役立つ数字の取り方活かし方~
開催日時:2015年 6 月 30 日(火)18:30~20:30
場所:岡崎市図書館交流プラザ りぶら 201 会議室
適切な経営管理を行って、業績を上げるための経営指標の作り方について解説します。
【その他お知らせ】
●生産管理コンサルティング承ります
「見える化」「生産性向上」「人材育成」など、生産機能を強化させるための
コンサルティングを承ります。
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