トリプトファンの超高速時間分解分光と蛋白質構造のダイナミクス

蛋白質構造のダイナミクス田中文夫・又賀
最 近, 時 間
曻分 解 蛍 光 偏 光 異 方 性 の測 定 に よ り, 多 くの 蛋 白 質 で 内 部 に 埋 ま って い る トリ
I
プトファ
ン残 基 が ピ コ秒 領 域 で 分 子 内 回転 の 運 動 自由 度 を も っ てい る こ とが わ か って き
た。 ま た,
トリプ トフ ァ ン残 基 が1つ
しか な い に も か か わ らず,
その蛍光強度は非指数関
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数 的 に 減 衰 す る場 合 が 多い 。 これ ら の両 方 法 か ら トリプ トフ ァ ンの 分 子 内 運 動 に つ い て互
い に相 補 的 な 知 見 が 得 られ る。 本 稿 で ほ 単 一 の トリプ ト7ア ン 残 基 を もつ 蛋 白 質 を 中 心
に,
そ の超 高速 時 間分解分学 法 に よ って 得 られ た蛋白 質構造 の 動 的な側面に ついて解 説 す
る。
X線 解 析 に よ る 蛋 白質 の 立 体 構 造 の 解 明
そ れ 自身 で は蛋 白質 内部 で は ほ とん ど運 動 の 自由 度 を も
は, そ の機 能 を理 解 す る うえ で 非 常 に 重 要 な 役 割 を果 た
は じめに
た な い。 した が っ て イ ン ドール 環 は近 接 して い る他の ア
して きた 。1970年 代 ま では 蛋 白質 構 造 は 静 的 な もの と考
ミノ酸 残 基 の隙 間 で運 動 す る の で な く, これ らの 残 基 の
え られ,
動 きに 従 っ て運 動 す る の で あろ う。 超 高 速 時 間 分 解 分 光
リガ ン ドの 結 合 に 伴 うそ の 立 体 構 造 の 変 化 も,
あ る静 的 な 構 造 か ら別 の静 的 な構 造 に 突 然 に 変わ る もの
法 は, 直 接, ナ ブ ピコ秒 か ち ナ ノ秒 領 域 の この よ うな 蛋
と考 え られ てい た 。 しか しな が ら, さ ま ざ まな 実 験 的 ・
白質 の動 的 な 性 質 に つ い て の知 見 を 得 る も っ と も有 力 な
理 論 的 研 究 の結 果 か ら, 蛋 白質 構 造 は 本 質 的 に 動 的 な も
方 法 であ る^<3,4)>
(解 説1参 照)。こ こ で は単 一 の ト リプ ト
の で あ る こ とが わ か って きた^<1,2)>。
フ ァ ン残 基 を もつ 蛋 白 質 を中 心 に, そ め時 間 分 解 蛍 光 の
蛋 白質 の分 子 内 運 動 は 次 め よ うな 時 間 領 域 に 分 類 され
解 析 や 過 渡吸 収 スペ ク トル の測 定 に よ り得 られ た蛋 白質
る^<2)>。(1)
原 子 や分 子 の局 所 運 動 (サ ブ ピ コ秒), (2)小規 模
な集 団 運 動 (数10ピ
構 造 め ダイ ナ ミク ス につ 小 て解 説 す る。
コ秒 以下), (3) 大 規 模 な 集 団運 動
.
(ナ ノ秒 以 下), (4)サ ブユ ニ ッ ト間 運 動 (サ ブマ イ ク ロ秒
時間分解蛍光法
か ら ヤ イ クロ秒)。 この よ うな さ ま ざ まな分 子 内運 動 は,
蛋 白質 の 立 体 構 造 の 変 化 に た い へ ん 重 要 な 役 割 を果 た
測 定 方 法 に つ い て に 解 説2を 参 照 して いた だ く こ とに
す 。 た とえ ば, 蛋 白質 に リガ ン ドが結 合 す る際 に起 こる
して, こ こで は解 析 方 法 た ら い て 概 説 す る。
誘 起 適 合 効果 は, ピ コ秒 や オ ノ秒 領域 で起 こる集 団運 動
が 関 与 す る と考 え られ て い る^<2)>。
1.
蛍 光 強 度
一 般 に 溶液 中 に 単 一 の 蛍 光 成 分 しか な く
, しか も励起
トリプ トフ ァ ンの 蛍光 特 堆 は周 りの媒 体 に よ って微 細
に 変 化 す るの で, そ の蛍 光 か らい ろ い ろ な知 見 が 得 られ
状 態 で後 に 述 べ る よ うな 特 別 の 相 互 作 用 (II-4項 参 照)
る。蛋 白 質構 造 の分 子 模 型 か らみ る と, イ ン ドール 環 は
を しな い と き, 励 起 分 子 の 濃 度, す な わ ち 蛍 光 強 度 は指
Fumio
Tanaka,
Noboru
Science,
Protein
三 重 県 立 看 護 短 期 大 学
Mataga,
大 阪 大 学 基礎 工 学 部
(〒514津
(〒560豊
Osaka University, Toyonaka
Dynamics
Revealed
by an Ultrafast
市 鳥 居 町
100番
地)
中 市 待 兼 山 町 1番1号)
[Mie
Nursing
[Depaftment
College,
of
Toril-cho,
Chemistry,
Tsu
Faculty
514,
of
Japan]
Engineering
560, Japan]
Time-resolved
Spectroscopy
of Tryptophan
Key【トリブ
word
トフ ァン】 【時 間 分 解 分 光 】 【蛋 白 質 の ピコ 秒 ダ イ ナ ミク ス 】
2223
52
蛋 白 質
核 酸
酵 素
Vol. 35
No. 13
(1990)
数 関数 的 に減 少す る。
F(t)=exp(-t/τ)
(1)
こ こで τは 蛍 光 寿 命 であ る。 励 起 分 子 が 他 の 分 子 と相 互
作 用 す る と, 蛍 光 消 光 定 数 が 大 き くな り, 蛍 光 寿 命 が 短
くな る。 消 光 定 数 ほ, 蛍 光 分 子 と消 光 作 用 を もつ 分 子 と
の相 対 距 離 や 配 向 に 依 存 して 変 わ る。 溶 液 中 の 低 分 子 で
は, 分 子 運 動 が速 い た め にナ ノ秒 や サ ブナ ノ秒 領 域 で 消
光 定 数 が 平 均 化 され 定 数 とみ な せ るが, 分 子運 動 が 蛍 光
寿 命 に比 べ て と くに 速 くな け れ ば, 消 光 定 数 は 時 間 に 依
存 す る こ とに な る^<5)>。
蛋 白質 中 の トリプ トフ ァ ン残 基 は
溶 液 中 の 分 子 とは 異 な り, そ れ ほ ど速 く運 動 で きな い た
め, 蛍 光 強 度 は 周 りめ ア ミノ酸 残 基 の種 類 だ け で な く,
トリプ トフ ァ ン の分 子 内 運 動 と も密 接 に 関 係 す る 。 さ ま
ざ まな理 由 で 蛍 光 強 度 の減 衰 が 指 数 関 数 か らず れ て く る
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と, 便 宜 的 に 蛍 光 強 度 は 式 (2)
の よ うに 多指 数 関数 で
図1.
分 子 の 首 ふ り運 動
分 子 に 固 定 され た 遷 移 モ ー メ ン トが 半 頂 角 θ
の コ ー ン内 で 首 ふ り運 動 を す る。
表 わ され る。
F(t)=Σ^^n__<i=1>αiexp(-t/τi)
(2)
こ こで αiは 成 分比 で あ る。
2.
(解 説3参
照)
ter,Sを
定 義 した 。
蛍 光 偏光 異 方 性
蛍 光 偏 光 異 方性 は,
試 料 を 偏 光 フ ィル ター を 用 い て
縦 方 向 偏 光 で励起 し, 縦 方 向[I_<││>(t)]と横 方 向[I⊥(t)]
の偏 蛍 光 を 測 定 して 次 式 で得 られ る (解 説2参 照)。
r(t)=[I_<││>(t)-I⊥(t)]/[I_<││>(t)+2I⊥(t)]
(5)
に よ っ て order
parame
S^2=β_2/(β_1+β_2)
(5)
S =cosθ(1+cosθ)/2
(6)
ここで θは コーンの 半頂角で あ る
r(t)
(3)r
に 従 っ て,
(図1)。F(t)
と
は と も に ト リ プ トフ ァ ン 残 基 の 分 子 内 運 動 と 関 連
し て お り, 後 に 述 べ る よ うに こ れ ら か ら 蛋 白 質 構 造 の ダ
(t) は次 の よ うな 因 子 に よ って 影 響 を うけ る (解 説3
イ ナ ミ ク ス に つ い て 互 い に 相 補 的 な 知 見 が 得 ら れ る^<9)>。
参 照)。(1)蛍 光 分 子 の回 転 運 動^<6∼9,11)>,
励起
(2)エ ネル ギ ー
移 動^<8,10)>,二(3)
状 態 発光^<10)>,
な どで あ る。二 状 態 発 光 とは
II.
2つ の 電 子状 態 か ら 同 時 に 蛍 光 が で る 現 象 で あ る。r
(t) もF(t)
蛋 白質 トリプ トフ ァ ンの超 高 速 時 間 分
解 分光 と そ の励 起 状 態 の ダ イナ ミク ス
と同 様 い くつ か の指 数 関 数 の和 と して表 わ
され る。
1.
r(t)=Σ^^n__<i=1>βiexp(-t/φi)
遊 離 トリプ トフ ァ ンの 時 間 分 解 蛍 光
トリプ トフ ァ ンの芳 香 環 で あ る イ ン ドール の蛍 光 特 性
(4)
は, た い へ ん 複 雑 で あ る。近 紫 外 部 (250∼300nm)
には
こ こ で βiは 偏光 異方 性 の成 分比 で あ り, 偏 光 解 消 が(1)
L_aとL_bの
の 原 因 で 起 こ る と き, φi=ηVi/kTは
回転
お り^<13,18)>,
こ の波 長 領 域 で光 照 射 す る とこれ ら の両 方 が
回 転拡 散 係数 に逆 比例 す る。 η, k,
励 起 され る。1964年 又 賀 ら^<13)>は,
イ ン ドール の蛍 光 スペ
相 関 時 間 と よば れ,
Tは
それ ぞれ 媒 体 の 粘度, Boltzmann
る。 またViは
回転 体iの
記 号 で記 され る2つ の 電 子 状 態 が 重 な っ て
定 数, 温 度 であ
ク トル の極 大 波 長 が 溶 媒 の極 性 に依 存 して大 き く長 波 長
回 転 体iの 体 積 で あ る。 トリプ トフ ァ ン
側 に移 動 す る こ とを最 初 に見 い だ した (図2)。 彼 らは こ
や 共 有 結 合 性 の蛍 光 標 識 色 素 が あ る角 度 の コー ンの 内部
の現 象 を, L_a状 態 の双 極 子 モ ー メ ン トがL_b状
(図1)
も大 き いた め に, 溶 媒 と の相 互 作 用 に よ りL_aの ほ うが
で, 励 起 寿 命 の間 に速 く 分 子 内 回 転 運 動 を す る
と き [式 (4)]
は, 近 似 的 に二 指 数 関 数
(n=2)
で表 わ
よ り安 定 化 す るた め で あ る と結 論 した 。 非 極 性 溶 媒 中 で
され^<6,8)>,
φ1と φ2は それ ぞれ 蛍 光 分 子 の分 子 内 お よび,
は, 蛍 光 スペ ク トル は300nm付
球 状 蛋 白質 全 体 の 回 転 相 関 時 間 で あ る。Lipari
構 造 を示 す 。 これ はL_b状
Szabo
2224
と
は^<12)>蛍
光 分 子 の 運 動 に 関 す る 木 下 ら^<11)>の
モ デル
態より
近 に 極大 を もち, 振 動
態 か らの 発 光 で あ る。 また ア
セ トニ ト リル の よ うな極 性 溶 媒 中 で は330nm,
水中 で
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トリプ トファンの超 高速時 間分解分 光 と蛋白質構 造のダイナ ミクス
図2.
1:
は355nm付
イ ン ドー ル の 蛍 光
シ ク ロヘ キ サ ン,
53
・吸 収 ス ペ ク トル の 溶 媒 効 果^<13)>
2:
ア セ ト ニ ト リ ル.
近 に 極 大 を もち, 振 動 構 造 が な く な り,
表1.
L_a状 態 か ら発 光 す る。 中程 度 の極 性 溶 媒 中 や イ ン ドー
3: 水
。
遊 離 ト リプ トフ ァ ン と3-メ
の 蛍 光 寿 命^<16)>
チ ル イ ン ドール
ル の誘 導 体 で は両 方 の電 子 状 態 か ら蛍 光 をだ す, い わ ゆ
る二 重 発 光 の現 象 が み られ る。 しか しこ の場 合 で も両 状
態 問 の移 動 が 非 常 に速 いた め, 蛍 光 は 指 数 関 数 的 に 減 衰
す る。 イ ン ドール の蛍 光 スペ ク トル に 影 響 を 及 ぼ す も う
1つ の 因子 は, シ ク ロヘ キサ ンな どの 非 極 性 溶 媒 中 で の
NHと
プ ロ トン受 容 体 との 水 素 結 合 で あ る。 この と き
も, L_b状 態 か らの 振 動 構 造 を もつ 蛍 光 スペ ク トル が若
干 長 波 長 側 に シ フ トして幅 広 にな る^<13)>。
トリプ トフ ァ ンの 蛍 光 特 性 は イ ン ドール と よ く 似 て
極 短 時 間 内 では 数10ピ
コ秒 以 上 の時 間 領 域 とは 異 な る
い る。 ト リプ トフ ァ ンで は イ ン ドール 環 の3位 に 側 鎖-
現 象 が 観 測 され た 。 彼 ら は1.6psの
CH_2CH(NH_2)COOHを
L_b状 態 か らL_a状
もつ。 この側 鎖 は溶 液 のpHの
値 に よ りさ ま ざ まな 荷 電 状 態 を 示 し, これ が イ ン ドール
寿 命成 分 を 観 測 し,
態 お よび そ の逆 の 遷 移 の速 度 定 数 を
そ れ ぞ れ0.625と0.044
(ps^<-1>)と得 て い る。Valeur
環 の蛍 光 強 度 と 時 間 分 解 蛍 光 に 大 きな 影 響 を 及 ぼ す。
と Weber^<18)>によ り定 常 光 励起 で 測 定 され て い た イ ン ド
1978年
ー ル の 極 限 異方 性r_0=0 .33(λ_<ex><300nm)
Rayner
と Szabo^<14)>および Fleming
ら^<15)>は
水
溶 液 中 で トリプ トフ ァ ンが 二 指 数 関数 の 時 間分 解 蛍 光 を
法 で は理 論 値 と等 しい0.4で
は,
こ の方
あ った 。
示 す こ とを見 いだ した 。 そ れ ぞ れ の 寿 命 の値 は, 表1に
示 した よ うにpHに
よ り変 化 した^<16)>。
ト リプ トフ ァ ンが
イ ン ドール よ りも蛍 光 寿 命 が 短 くな る の は, 励 起 イ ン ド
ール 環 か ら-NH_3^+へ の 電 子 移 動 に よる と 考 え られ て い
2.
蛋 白 質 トリプ トフ ァ ン残 基 の 時 間 分 解 分 光 と そ の
分子内運動についての一般的な考察
蛋 白質 内 の ト リプ トフ ァ ン残 基 の 蛍光 強 度 は, ほ とん
る。3-メ チル トリプ トフ ァ ンで は単 指 数 関数 で減 衰 す る
ど非 指 数 関数 的 に 減 衰 す る^<19)>。
こ の場 合, 実 測 の蛍 光 減
の で, 彼 らは-NH_3^+グ ル ー プ とイ ン ドー ル環 の 相 対 的
衰 曲 線 は, 通 常, 式 (2)
な 位 置 に 関 して2種
の 減衰 関数 を用 い て 表 わ され る (表2)。
類 の コ ン フ ォ ーマ ーが あ り, それ
で 示 され た よ うな 多 指 数 関 数
ア ミ ノ酸 残 基
ぞ れ が 固 有 の 蛍 光 寿命 を もつ と 考 えた 。 最 近 Fleming
の な か で ト リプ トフ ァ ン蛍 光 に 対 し消 光 作 用 を もつ と考
ら^<17)>は,
サ ブ ピ コ秒 の 時 間 分解 能 で トリプ トフ ァ ンの蛍
え られ る のは, 正 電 荷 を もつ ア ミノ酸 側 鎖 やC=O基,
光 強 度 と偏 光 異 方 性 の減 衰 過 程 を測 定 した 。 こ の よ うな
あ る い はS-S結
合 な どで あ る。Szabo ら^<20)>は
遊 離 ト リプ
2225
54
蛋 白 質
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表2.
核 酸
酵 素
Vol. 35
No. 13
(1990)
単 一 の トリプ トフ ァ ソ残 基 を もつ 蛋 白 質 の 蛍 光 強 度 と偏 光 異 方 性 の 減 衰 パ ラ メ ー タ
τ_i,
やβ_iは
φ_i (2) と(4) で定義 され てい る。また τ_iとφ_iはナノ秒 の単位 で表わ した。
a) φ_2は算 出され なか った。b) 蛍光 強度は3寿 命を もつ減衰関数 よ りも4寿 命を もつ減衰 関数 のほ うが よく実 測データ と適合 し
たが, ここでは3指 数関数のデ ータを載せた。偏光異方性 も3指 数関数 で記述 されたが, 短い2つ の φの平均値を φ_1としてあげた。
トフ ァ ンで の コ ン フ ォーマ ーの 考 え 方 を 適 用 して, これ
[事 例1]
ら の消 光 作 用 基 とイ ン ドール環 と ゐ相 対 距 離 が蛋 白 質分
に減 衰す る。
子 に よ って 異 な る も の と解 釈 した 。 も し蛍 光 減 衰 関 数 が
[事 例2]
二 指 数 関 数 で あ れ ば,
2種 類 の分 布 を 示 し, 三 指 数 関 数
で記 述 で きれ ば3種 類 の分 布 が あ る と考 え る の であ る。
Gratton
ら^<21)>や
そ の 他 多 くの 可 変 周 波 数 位 相 差 蛍 光 法
(解説4参 照) に よ っ て蛍 光 寿 命 を 測 定 す る 研 究 者 た ち
は^<22,23)>,
Szabo
らの よ うな寿 命 の整 数 個 の蛋 白質 内分 布
を考 え る の で は な く, た とえば 式 (7)
の よ うに寿 命 の
連 続 的 な分 布 関 数 を導 入 して い る。
f(τ)=A/[1+{(τ-C)/(W/2)}^2]
こ こでf(τ)
は Lorentz
(2)
(7)
C,
蛍 光 強 度 は 非 指 数 関 数 的 に 減 衰 す る [式
でn≧2]
が, 偏 光 異 方 性 は 指 数 関 数 的 に減 衰す る
[式 (4)でn=1]。
[事 例3]
蛍 光 強 度 と偏 光 異 方 性 が 同 時 に 非 指数 関数
的 に減 衰 す る。
[事 例4]
蛍 光 強 度 は 指 数 関 数 的 に 減 衰 す る が, 偏 光
異 方 性 は非 指 数 関 数 的 に減 衰 す る。
表2,
型 の 分 布 関 数 で あ る。A,
蛍 光 強 度 と偏 光 異 方 性 が 同 時 に 指数 関数 的
表4の 結 果 か ら事 例1,
2, 3に 相 当 す る蛋 白 質
は存 在 す るが, 事 例4に 相 当 す る も のは1例
もな い。
蛋 白質 内 の トリプ トフ ァ ン残 基 の蛍 光 強 度 と偏 光 異 方
Wはそ れ ぞ れ 分 布 関 数 の 最 大 値, 寿 命 分 布 の中 心, 分 布
性 の減 衰 の挙 動 を説 明す るた め に, 次 の よ うな モデ ル が
の半 値 幅 で, 実 測 デ ータ と も っ と も よ く合 う よ うに き め
考 え られ た^<9)>。
球 状 の蛋 白質 に結 合 した イ ン ドール環 が
る。
励 起 寿 命 の間 に分 子 内回 転 運 動 を し, そ の蛍 光 消 光 定 数
これ ら の考 え方 は, 蛍 光 強度 の減 衰 関数 や可 変 周 波 数
が 回転 角 に依 存 して変 化 す る。 イ ン ドール 環 は Favro の
位 相 差 蛍 光 法 の測 定 結 果 を よ く説 明 で き るが, 蛍 光 偏 光
回 転 拡 散 方 程 式^<24)>に
従 っ て分 子 内運 動 を す る も の と仮 定
異 方 性 の結 果 を解 釈 す る の に何 の指 針 も与 え な い。
す る (図3)。 得 られ た 蛍 光 強 度 と偏 光 異 方 性 の 時 間 依 存
蛍 光 減 衰 関 数 と時 間 分 解 偏 光 異 方 性 のふ る ま い につ い
て, 次 の4つ の場 合 が 考 え られ る。
2226
性 を表 わ す 理 論 式 を数 但 計 算 して, 次 の よ うな 定 性 的 な
結 論 が 得 られ た^<9)>。(1)
蛍 光 強 度 と 偏 光 異 方 性 は互 い に 相
トリプ トファンの超高速時間身解分光 と蛋白質構造 のダイナ ミクス
関 して減 衰 し, と もに 分 子 内 画 転 の拡 散 係数 に大 き く依
あ るい は な にか 他 の 原 因 で イ ン ドール が 完全 に と ま っ て
存 す る, (2)拡 散 係 数 が 小 さ くな る, す な わ ち回 転 が 遅 く
い る とき, 全 蛋 白質 分 子 の ト リプ ドフ ァ ン残 基 が ま った
な る ほ ど蛍 光 強 度 は 指 数 関 数 か ら のず れ が 大 き くな る,
く同 じ環境 にお か れ るた め, 蛍 光 は 当然 指 数 関 数 的 に 減
(3)こ の とき偏 光 異 方 性 は分 子 内運 動 に よ る効 果 が な くな
衰 す る で あ ろ う。 こ の場 合 偏 光 解 消 も蛋 白質 の 回 転運 動
り, 蛋 白質 の回 転 運 動 だ け で偏 光 解 消 が 起 こ り指 数 関 数
で のみ 起 こ る の で, も し蛋 白質 が 球 状 とす る と指 数 関数
的 に減 衰 す る, (4)偏 光 異 方 性 か ら イ ン ドール 環 の分 子 内
的 に 減 衰 す る こ とに な る。 これ は事 例1に 相 当 す る。
回 転 が 観 測 され れ ば, 蛍 光 強 度 は 必 ず 非 指 数 関 数 的 に 減
エ ラ ブ トキ シ ンbは 分 子 量 が7,000程
度 で単 一 の ト リ
衰 す る, (5)分 子 内回 転 が 平 均 の消 光 定 数 に 比 べ て 非 常 に
プ トラ ァ ン残 基Trp-29を
速 けれ ば, 蛍 光 強 度 は 指 数 関 数 的 に 減 衰 す る, (6)両 方 の
活 性 が 失 わ れ る の で, Trp-29は
減 衰 関 数 は分 子 内回 転 の ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ーに も依
タ ー と結 合 す る と き重 要 な役 割 を果 た して い る と考 え ら
存 す る。
れ て い る^<25)>。
エ ラ プ トキ シ ンbの 立 体 構 造 はX線 解 析 に
こ の結 果 を も とに して事 例1∼4に
よ う。 事 例3は,
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55
つ い て考 察 してみ
拡 散 係 数 が 回 転 角 に つ い ての 平 均 の消
もつ。 これ を化 学 修 飾 す る と
よ り解 明 され て い る^<26)>
(図4)。
ア セ チル コ リ ン レセ プ
これ に よ る と, Trp-29
イ ン ドール 環 は 蛋 白質 の窪 み に あ っ て水 と接 してお り,
光 定 数 に比 べ て極 端 に は違 わ な い 場 合 に 相 当 して い る。
Thr-35と
した が っ て, 強 度 も偏 光 異 方 性 も と もに非 指 数 関数 的 に
ル で 得 られ た 蛍 光 減 衰 関 数 の理 論 式 を用 い て, 海 ヘ ビの
減 衰 す る こ と にな る。 事 例2で は 分 子 内 回 転 の拡 散 係 数
ヘ ビ毒 であ る エ ラ ブ トキ シ ンbの 蛍 光 解 析 が 行 な わ れ
が 平 均 の消 光 定 数 に 比 べ て 小 さい た め に, 蛍 光 強 度 は 指
た^<27)>
(図5)。
数 関 数 か ら大 き くず れ るが, 偏 光 異 方 性 は 分 子 内 回 転 が
に 減 衰 した 。Trp-29の
遅 くて観 測 で きず, 蛋 白質 自身 の回 転 に よ って指 数 関 数
作用 を もつ と思 わ れ るの はLys-27で
的 に減 衰 す る こ とを 示 して い る^<6,8)>。
また, イ ン ドー ル の
構 造 で のTrp-29の
分 子 内 回 転 が 偏 光 異 方 性 の 減 衰 と して観 測 され れ ば, 蛍
し, X線 回折 で 得 られ た これ ら の座 標 を用 い て, 蛍 光 消
光 強 度 は必 ず 非 指 数 関数 的 に減 衰 す るの で, 事 例4に
光 定 数 や ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー の回 転 角 依 存 性 が 決 め
該
ペ プチ ド鎖 に 挟 まれ て い る。 こ の よ うな モ デ
エ ラ ブ トキ シ ンbの 蛍 光 も 非 指 数 関 数 的
イ ン ドール 環 の近 傍 で蛍 光 消 光
あ る。 また, 結 晶
位置が もらとも 安定 で ある と 仮定
当 す る系 は 存 在 しな い こ とに な る。一 方, イ ン ドー ル環
られ た 。分 子 内 の 回 転 拡 散 係 数, 平 均 の 消 光 定 数 (k_q^0),
のNHと
ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー の高 さ (p)
他 の ア ミノ酸 残 基 が 水 素結 合 して い るた め か,
な どを 可 変 パ ラ メ
ー タ と して 実 測 した 蛍 光 減 衰 曲線 とも っ と も よ く合 う よ
うに 決 め られ た (表3)。 表3の 結 果 か ら, (1)回 転 拡 散 係
数 が 温 度 に 比 例 す る, (2) z軸が 関 与 す る拡 散 係 数 が も っ
図3.
トリプ トフ ァ ン残 基 の 分 子 内 回転 モ デ ル^<9)>
イ ン ドール 環 は 蛋 白質 の 座 標 系 (x'y'z') か ら イ ン ドー ル 分
子 の 座 標 系 (xyz) ま で オ イ ラ ー 角, α, β,γ だ け 回転 す る 。 ま
た, イ ン ドール の 蛍 光 は あ る消 光 作 用 を もつ グ ル ー プ に よ り消
光 され る と 仮 定 。 消 光 作 用基 の 位 置 は (x'y'z') 系 の 極 座 標
(β_qα_q)
で 表 わ さ れ て い る。
図4.
エ ラ ブト キ シ ンbの 立 体 構造^<26)>
単 一 めTrp-29の
イ ン ドー ル環 に も っ と も近 い ア ミノ酸 残 基
ほThr-35で
あ る。 傍 ら に あ って イ ン ドー ル の 蛍 光 を 消 光 す る
と考 え られ る ア ミノ酸 はLys-27で
ある。
2227
56
蛋 白 質
核 酸
酵 素
Vol. 35
No. 13
ドの1つ
(1990)
で あ る-S^-か
に よ る。4種
(Pae),
らCu
(II)
類 の ア ズ リ ン,
Pseudomonas
へ の 電 荷 移動 相 互 作 用
Pseudomonas aeruginosa
fluorescens
(Pfl),
Alcaligenesfaecalis
(Afe), Alcaligenes denitrificans (Ade)
PaeとPflは
の う ち,
ト リ プ トフ ァ ン残 基 を1つ
(Trp-48)
も
つ 。 こ れ ら の ア ミ ノ酸 配 列 は ほ と ん ど 同 じ で あ る 。 ま た
AfeはTrp-118を1つ
Trp-118の2つ
だ け も つ 。AfeはTrp-48と
の
トリプ トフ ァ ン残 基 を も って い る 。
こ れ ら の う ちPae^<42)>とAde^<43)>の
立 体 構 造 がX線
回折で
決 定 さ れ て お り, 構 造 が た い へ ん よ く 似 て い る
こ れ に よ る と,
Trp-48は
(図6)。
板 状 の β 構 造 部 分 に あ り,
疎 水 性 の ア ミノ酸 残 基 に囲 まれ て い る。 この 蛍 光 スペ ク
トル の 極 大 は307nmで
あ り, シ ク ロ ヘ キ サ ン 中 の イ ン
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ド ー ル の ス ペ ク トル と よ く似 て い る
(図2)。
ま たTrp-
118は
蛋 白 質 表 面 の 近 く に あ り, 蛍 光 ス ペ ク トル は335
nmに
極 大 を もつ 。 これ らア ズ リンの 時 間 分解 蛍 光 が い
ろ い ろ な 研 究 者 に よ っ て 研 究 さ れ た^<20,28,34,44)>。
図5.
蛍 光 強 度 と 偏 光 異 方 性 の 減 衰 パ ラ メ ー タ を 表2に
エ ラ ブ トキ シ ンbの 蛍 光 減 衰 曲線^<27)>
あげ
観 測 され た 蛍 光 強 度 はCの 点 で表 わ され て い る 。aは 分 子 内
回 転 モデ ル に よ る理 論 式 の蛍 光 減 衰 関 数, bは 二 指 数 関 数 で 表
わ され た 蛍 光 減 衰 関 数 [(2)でn=2]。cは
励 起 パ ル ス 。A
た 。PaeとPflの
とBは そ れ ぞ れ 観 測 され た 蛍 光強 度 と理 論 曲 線aお
の 偏 光 異 方 性 も指 数 関 数 的 に 減 衰 し, φ=4.9nsで
これ
は 蛋 白質 の回 転相 関 時 間 に相 当す る。
Pae
衰 関 数bと
の重 み 付 き差 異 (deviation)
実 測 値 と よ く合 った 。 時 間 軸 は100チ
で あ る。
よび 蛍 光 減
を 表 わす 。aの
ほ うが
ア ポ蛋 白 質 で は 蛍光 強度 は指 数 関数 的
に 減 衰 す る 。 蛍 光 寿 命 は ほ ぼ 同 じ τ=5nsで
やPflのTrp-48の
とも大 き く回 転 が 速 い, (3)平 均 の 蛍光 消光 定数 は 温 度 と
時 間 分 解 蛍 光 は, 事 例1の
な どいず れ も 合 理 的 な 結 論 が 得 られ
ら れ て い る た め に 動 け な い の で あ ろ う。
Afe
やAdeのTrp-118は
ぞれ
こ こで は 前 節 で述 べ た 一 般 的 な 考 察 に 基 づ い て, い く
事 例3の
φ_1=160psと690psの
る^<31)>。Trp-118は
い くつ か の 例
場合 に該
(コ ー ン の 半 頂 角
θ≦
20°)。 こ の 理 由 は イ ン ド ー ル 環 が β構 造 部 分 に 押 し 付 け
た。
3.
した が っ て,
ャ ン ネル あた り5,12ns
当 し, ほ と ん ど分 子 内 運 動 が な い
とも に増 加 す る,
あ る 。Pae
回 転 が 可 能 で,
こ れ に 対 し,
場 合 に 相 当 し, そ れ
分 子 内運 動 が 観 測 され て い
蛋 白 質 表 面 近 く に あ り, か な り分 子 内
コ ーン の 半 頂 角 θ はAfeで38°, Ade
つ か の蛋 白質 の トリプ トフ ァ ン残 基 の時 間 分 解 蛍 光 とそ
で26°
の構 造 の ダ イナ ミ クスに つ い て 議 論 す る。
が 結 合 す る と 事 情 が 一 変 す る 。 ま ず 非 常 に 短 い 蛍 光 寿命
ア ズ リン は典 型 的 な青 色 銅 蛋 白質 で"土 壌 中 の脱 窒 素
バ ク テ リアな ど に存 在 し, 電 子 伝 達 系 に 関 与 して い る と
考 え られ て い る。 そ の 性 質 は 山 中 ら^<41)>に
よ り最 初 に 詳 し
く調 べ られ た 。 蛋 白質 が 青 色 を して い る原 因 は,
表3.
エ ラ ブ トキ シ ンb
リガ ン
Trp-29の
と 得 ら れ て い る^<34)>。Paeの ア ポ 蛋 白 質 にCu
成 分 が 現 わ れ,
(II)
長 寿 命 成 分 も ア ポ 蛋 白 質 よ り も 短 くな
る^<25)>。
Fleming
か らCu(II)
ら^<34)>は
こ の 原 因 と し て, 励 起 ト リ プ トフ ァ ン
へ の 電 子 移 動 を 考 え て い る 。Trp-48と
分 子 内 回転 モ デ ル で 得 られ た 減 衰 パ ラ メ ー タ^<27)>
k_q^0
とpは それぞれ分子内の回転角 (図2参 照) に依存す る蛍光消光定数の回転角についての平均値 と, 回転 の際 のポテンシャル
エネルギーの高さであ る。
2228
トリプ トフ ァン の超 高 速 時間 分 解 分 光 と蛋 白質 構 造 の ダ イ ナ ミクス
ァン残 基 を1つ
(Trp-59)
57
もつ 。Trp-59は
芳香環を も
つ疎 水性 の ア ミノ酸 残基 に 囲 まれ て い る。 蛍 光 スペ ク ト
ル は,
ア ズ リンのTrp-48と
り, 320nmに
NHの
似て 振動構造を もって お
極 大 を もつ^<35)>。
結 晶 構 造 で はTrp-59の
そ ば に構 造 水 分 子 が あ り, これ と水 素 結 合 して い
る た め に アズ リン よ りも10nmほ
ど長 波 長 側 に シ フ ト
した もの と思わ れ る。
RNase
T1の
タを表2に
蛍 光 弾 度 と偏 光 異 方 性 の減 衰 パ ラ メー
あ げ た^<35)>。
蛍 光 強 度 はpHが6以
下 で指 数 関
数 的 に 減 衰 す る。 しか し6.5以 上 で は 非指 数 関 数 的 であ
った 。 偏 光 異 方 性 は どのpHや
温 度 (5∼45℃)
数 関 数 的 に減 衰 した 。 これ らの結 果 か らpH6以
事 例1に 該 当す る が, pH6.5以
Cuは
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-46お
子 系 とTrp-48,
7.3Å で あ る 。
ル 環 は止 ま って お り, 偏 光 解 消 も蛋 白質 の回 転 だ け で起
配 位 結 合 してい る。 これ らの π電
Trp-118の
下 では
上 で は 事 例2の 場 合 に
相 当す る こ とが わ か る。 す な わ ち, 酸 性 側 では イ ン ドー
図6.
アズ リン (Ade)
の立 体 構 造^<43)>
銅 イ オ ンの結 合 部 位 を 表 わ す 。Cu(II)
は His
よびHis-117と
で も指
最 短 距 離 はそ れ ぞ れ9.6と
こる。 一 方, アル カ リ側 で は, イ ン ドール 環 が 運 動 す る
よ うに な るが,
蛋 白質 の 回転 運 動 よ りも 遅 い た め に 偏
光 異 方 性 の 減 衰 に は 観 測 され な い の で あ ろ う。Rigler
Trp-118か
9.6Å
らCu(II)
と7.3Å
へ の それ ぞれ の 最 短 距 離 は,
ら^<48)>や
Prendergastら^<49)>はRNase
T1の
ダ イ ナ ミ クス
で あ る。 これ く らい の距 離 で は, 他 の例
に つ い て分 子 動 力 学 の理 論 計 算 を 行 な い, 時 間 分 解 蛍 光
か ら考 え て充 分, 光 誘 起 電子 移動 が可 能 で あ る。 しか し
の観 測 結 果 に つ い て考 察 して い る。 結 晶 構 造 か ら算 出す
還 元 電位 の異 な る い ろ い ろ な金 属 イ オ ンでCu(II)
る とイ ン ドール環 が 動 け る 角 度 は ±5° で あ るが,
を置
計算
換 して も蛍 光 寿 命 は ほ とん ど変 わ らな い の で^<44)>,
電子移
結 果 で は コ ー ンの 半 頂 角 θ=17° で あ る。 これ で は 偏光
動 が 原 因 か ど うか は っき り しな い。 ホ ロ蛋 白質 に な る
解 消 は 観 測 され な い の で, 実 験 結 果 とよ く合 っ て い る と
と, 止 ま って い たTrp-48が
い え る。 蛍 光 減 衰 関 数 が アル カ リ側 で非 指 数 関 数 的 で あ
510ps,
動 く よ うに な る^<28)>。
φ1=
コー ンの半 頂 角 θ=34° で あ る^<25)>。
る原 因 に つ い て は, Trp-59とHis-40の
最 近, ア ズ リン構 造 の ダイ ナ ミクス に つ い て分 子 動 力
相互作用 に よ
り蛍 光 寿 命 にあ る分 布 を もつ 可 能 性 を示 唆 して い る^<49)>。
学 の方 法 で 理 論 的 に 研 究 され た^<45)>。
この方 法 は蛋 白質 の
Photobacterium leiognathi
の ル マ ジ ン蛋 白質 は, 天
結 晶構 造 を ベ ー スに して, 各 原 子 間 のい ろ い ろ な 種類 の
然 の補 欠 因 子 であ る6,7-ジ
相 互 作 用 を考 慮 した 全 原 子 の運 動 方 程 式 を た て て, そ れ
(ル マ ジ ン) や, そ の反 応 生成 物 で あ る6-メ チ ル-7-オ キ
らの位 置 の時 間 依 存 性 を 計 算 す る の で あ る^<2)>。
この 方 法
ソ-8-リ ビチル ル マ ジ ン (オ キ ソル マ ジ ン) お よ び リボ
に よ っ て もTrp-48が
フ ラ ビ ン と結 合 す る。 これ ら芳 香 族 化 合 物 の 時 間 分 解 蛍
や, Trp-118が
ほ とん ど動 け な い こ と (θ=9°)
よ り 大 きな 運 動 の 自 由度 が あ る こ と
メ チル-8-リ ビチル ル マ ジ ン
光 は事 例1の 場 合 に相 当 し, これ らが蛋 白 質 内 で固 定 さ
(θ=20°) な ど の結 論 が 得 られ てい る。 しか し 分 子 内回
れ て い る こ とを示 して い る^<39)>。
また,
転 の相 関 時 間 につ い て は, 実 測 値 よ りも は るか に速 い計
の トリプ トフ ァ ン残 基 の 時間 分 解 蛍 光 は, ル マ ジ ンや そ
算 値 を与 え る。
の ア ナ ロ グが結 合 して い て もい な くて も, 事 例3に 相 当
リボ ヌ ク レア ー ゼT1
(RNase
に よっ て 発 見 され た 酵 素 で,
T1)
は佐 藤 と江 上^<46)>
104個 の ア ミノ酸 か らな
る。 この酵 素 は, 中性pHでRNAを2段
階 で3'-リ ン
酸 モ ノ, お よび オ リ ゴ ヌ ク レオ チ ドに分 解 す る。 こ の酵
素 と阻 害 剤 で あ る2'-GMPと
Heinemann
と Saenger
の結 合 に は, Glu-58,
関 与 す る。RNase
して減 衰 した。 この こ とは ト リプ トフ ァ ン残 基 が か な り
速 く分 子 内運 動 を して い る こ とを 示 して い る (表4)。
θは5,
20, 35℃
で それ ぞれ38,
45, 52° と, 温 度 と
とも に広 が った^<38)>。
の 複合体 の 結晶構造が
に よ り決 定 され て い る^<47)>。
基質
His-92,
T1は,
この 蛋 白質 の唯 一
His-40,
Arg-77な
どが
基 質 の結 合 部 位 に トリプ トフ
4.
蛍 光 消 光 機 構 の過 渡 吸 収 ス ペ ク トル の 測 定 に よ る
研究
これ まで い ろ い ろ な 場 合 に つ い て,
トリプ トフ ァ ンの
2229
58
蛋 白 質
表4. 蛋
核 酸
酵 素
Vol. 35
No. 13
(1990)
白 質 に 結 合 した い ろ い ろ な 単 一 分 子 の 蛍 光 減 衰 パ ラ メ ー タ
τ_i,φ_iや β_iは式 (2) と式 (4) で 定 義 され て い る。 ま た τ_iと φ_iはナ ノ秒 の 単 位 で 表 わ した 。
a) ル マ ジ ンール マ ジ ン蛋 白質 複 合 体, b) オ キ ソル マ ジ ンール マ ジ ン蛋 白質 複 合 体, c) リボ フ ラ ピ ン-ル マ ジ ン蛋 白 質複 合 体 。d)
蛍 光 減 衰 関 数 は4指
数 関 数 で 記 述 され た が 最 短 寿 命 は省 略 した 。
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時 間 分 解 蛍 光 につ い て述 べ て きた 。 蛍 光 強 度 と偏 光 異 方
性 の い ず れ の時 間 変 化 にお い て も, 蛍 光 の消 光 定 数 が た
い へ ん 重 要 な 役 割 を果 た す 。 一 般 に蛍 光 の消 光 は, (1)励
起エ ネ ル ギ ー移 動, (2)無 蛍 光 性 励 起 二 量 体 また は励 起 錯
体 の 生 成, (3) 重 原 子 との 接触 に よる 三 重 項 状 態 へ の 移
行, (4) 光誘 起 電 子 移 動 とそ れ につ づ く反 応, な ど の原 因
に よる。 これ らの うち, (1)か ら (3)
ま で につ い て は詳 しい
反 応 機 構 が 早 くか ら解 明 され てい た^<50)>。
最 近, 超 高 速 時
間 分 解 過 渡 吸 収 ス ペ ク トル (解 説1参 照) の 測 定 に よ
り, これ ま で原 因 の よ くわ か らな か った 蛍 光 の消 光 が ほ
と ん ど (4)
の機 構 で起 こ る こ とが わ か って きた^<51,52)>。
また
い ろ い ろ な系 で, 光 誘 起 電 子 移 動 の詳 細 な 機 構 が 解 明 さ
れ て き た^<53)>。
溶 液 中 で は 励 起 分 子 と消 光 分 子 は 出 会 い,
しか し, 溶 液 中 の フ ラ ビ ン の蛍 光 が ト リプ トフ ァ ンに よ
錯体 に お け る 電 子 移 動 で,
り消 光 さ れ る場 合 で は, ラ ジカ ル イ オ ン対 の 生成 が過 渡
ラ ジ カル イ オ ン対 を 生成 す
る。
吸 収 ス ペ ク トル の測 定 に よ り観 測 され て い る^<54)>ここで
は電 子 受 容 体 で あ る フ ラ ビ ンが 励 起 され る。 この ラジ カ
ル イ オ ン対 は, D-ア ミノ酸 酸 化 酵 素^<54)>や
フ ラ ボ ドキ シ
ン^<55)>に
お い て も 観 測 され た (図7)。
ラ2カ ル イ オ ン対
こ こ で*印 に励 起 分 子 を表 わ す。DとAは
畳 容 体 で あ る。DとIAが
は, 励 起 後33ps以
電子供与体 と
励 起状 態 の寿 命 の間 に電 子 移 動
が可 能 な 距 離 に固 定 され て い る場 合 に も, 同 様 の現 象 が
起 こ る。 ラ ジ カル イ オ セ対 は, こ の あ とア モ オン とカチ
オン に分 離 す るか, Dの
いは
も とりDとAに
内 に ラ ジ カル イ オ ン対 が 生 成 した 。
フ ラ ビ ンは蛋 白質 の ア ミ ノ酸 残 基 と水 素 結 合 して い る と
考 え られ る の で,
あ ま り 動 け な い で あ ろ う。 した が っ
て, フ ラ ビ ンの近 傍 に あ る トリプ トフ ァ ン残 基 が, こ の
時 間 領 域 で 運 動 して相 互 作 用 した も の と思 わ れ る。
三 重 項 とAに 分 離 す るか, あ る
も ど る。
III.ア ミノ酸 残 基 置 換 と蛋 白質 構 造 の
蛋 白質 内 の トリプ トフ ァ ン蛍 光 が, 正 の電 荷 を もつ ア
ミノ酸 残 基 や=CO,
フ ラ ボ ドキ シ ンで
S-Sな
どに よ り消光 され る場 合,
リプトファン
は電 子 供 与 体 と して働 ぐ と思 わ れ るが, ま
だ ラジ カル イ オ ン対 の 生 成 を 確 認 した 報 告 は な レこ
。
ダ イナ ミク ス
ト
カル モ ジ ュ リンは 分子 量17,000酸
性 蛋 白質 で, 広 く
真 核 細 胞 に 分 布 す る。 こ の蛋 白質 は 多 くの代 謝経 路 にお
い て カル シ ウ 染 の調 節 に関 与 して いる。 また カルシ ウ ム
2230
59
トリプ トフ ァンの超 高速時間分解 分光 と蛋 白質構 造のダイナ ミクス
図8.
Ca結
合 ア ミノ酸 置 換 カル モ ジ ュ リ ンの
時 間 分 解 蛍 光 スペ ク トル^<60)>
カ ル モ ジ ュ リ ンは, チ ロ シ ン を2個
(Tyr-99,
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図7.
フ ラボ ドキ シ ン内 で の フ ラ ビ ン と ト リプ トフ ァ
ン間 の ラ ジ カル イ オ ン対 の 過 渡 吸 収ス ペ ク トル^<55)>
Desulfovibrio vulgaris Miyazaki
フ ラ ボ ドキ シ ンのFMN
を 励 起す る と, こ の近 傍 に あ る トリプ トフ ァン残 基 か ら光 誘 起
電 子移 動 が起 こ り, ラ ジ カル イ オ ン対 (Trp^+…Flavin^-)
成 す る 。 図 中 に光 励起 後 の時 間 が 記 され て い る。
光 ス ペ ク トル は 励 起 後 の 時 間 と と も に 長 波 長 側 に シ フ トす
る 。 励 起 後 の時 間 は, 短 長 側 の ス ペ ク トル か ら そ れ ぞれ,
0.1, 2.2, 6.5, 16.2nsで
あ る。
が生
の構 造 が 伸 び る こ とが 示 唆 され た 。 こ の こ とは Babu
の指 摘 と一 致 す る^<56)>。Small
と Anderson
と 結 合 して サ イ ク リ ッ ク ヌ ク レオ チ ドホ ス ホ ジ エ ス テ ラ
ーゼ ,
ア デ ニ ル シ ク ラ ー ゼ,
ミオ シ ン軽 鎖 ギ ナ ー ゼ な ど
カ ル モ ジ ュ リ ンの 結 晶 構 造 は Babu
れ た 。 こ れ に よ る と, 半 径10Å
ュ
リ ン は2個
ほ ど の2つ
の球 状部 分
例2に
相 当 して ゆ っ く り運 動 してい る可 能 性 も あ る。
Kilhoffer らは^<59,60)>,
遺 伝 子 工 学 に よ りTyr-99を
Trp-99に
置 換 して,
こ の トリプ トフ ァ ン残基 の 時 間 分
の チ ロ シ ン, Tyr-99とTyr-138を
つ い て 研 究 して い る。 こ の置 換 カル モ ジ ュ リ ンは, 機 能
水 と 接 触 で き るが,
互 いセ
こ隣 殆
近 接 レ て い る。Tyr-99は
Tyr-138は
ら に よれ ば^<57)>, 280nmの
れ らの2個
の チ ロ シ ン残 基 が 結 合 して320nmに
を も つ ジ チ ロ シ ン を 生 成 し,
も って
っ て お り,
部分的 に
内 部 に 埋 もれ て い る 。
Anderson
光 を 照 射 す る と,
こ
吸収 帯
こ の ジ チ ロ シ ン が400nm
と Anderson
か ら カ ル テ ジュリ
(表4)。
的 に は も と の カル モジ ュ リン とほ とん ど変 わ らな い。 蛍
光 ス ペ ク トル は348nmに
極 大 を もち, カル シ ウム が結
合 して い て もい な くて も変 わ らな い 。 しか し時 間 分 解 蛍
光 ス ペ ク トル (図8)
い と5ns以
内 に2nmほ
では, カル シ ウ ムが 結 合 して い な
ど シ フ トす るだ け で あ る が,
やル シ ウ ムが 結 合 す る と20ns以
内 に9nmほ
ど長 波 長
側 に シ フ トす る。 ず な わ ち カル シ ウ ムが 結 合 す る と, 結
に 蛍 光 を発 す る。
でいる
相 当 す る と解 釈 して い る。 蛍 光 強 度 は ど の よ うな条 件 で
所 の カ ル シ ウ ム結 合 部 位 を も つ 。 カ ル モ ジ
合 部 位IIIとIVに
Small
は^<56)>,
カル シ
ウム の解 離 に よ り現 わ れ た φ_1成分 は セ グ メ ン ト運 動 に
解 蛍 光 か ら, カル モ ジ ュ リン構 造 とそ の ダ イ ナ ミクス に
い
る。 こ れ ら の チロシン
ca結
ら^<56)>に
よ り決 定 さ
の αヘ リ ッ ク ス で つ な が って い る 。 各 球 状 部 に は
そ れ ぞ れ2ヵ
ら
もす べ て 非 指 数 関 数 的 に減 衰 した の で, ジ チ ロ シ ンは事
を 活 性 化 す る。
が1本
Tyr-138)
も つ が トリプ トフ ァ ンを もた な い 。 ア ミノ酸 置 換 カ ル モ ジ ュ
リ ンで は, Tyr-99が
トリプ トフ ァ ンで 置 換 され て い る。 蛍
は^<58)>,
ジ チ ロ シ ン の 時間 分 解 蛍 光
ン構 造 のダ イ ナ ミク ス に つ い て 研 究 し
カ ル シ ウ ム を 結 合 した カ ル モ ジ ュ リ ン
では,蛍 光偏光の減衰は指数関数的 で φ_1=9.9nsを 得
合 しそ い な い 場 合に 比 べ て,
トリプ トフ ァ ン蛍 光 の溶 媒
効 果 が は や か に大 き くゆ っ く りと起 こ る こ とを 示 して い
る。 この こ とは光 励 起 ど と もにTrp-99が
蛋 白質 構 造 の
変 化 を伴 りて 表 面 に 出 て くる こ とを 示 して い る。
た。 ジチ ロシンでは トリプ トフ ァン残基 の よラな分子 内
回転運 動は不 可能 である。 カル シ ウムを結合 していない
と
き蛍光 偏光 は 非指数関数的 に 減衰 し, φ_1=2.1nsと
φ_2=6.8nsを 得た。φ_2は蛋白質全体の回転相関時間に
相 当 し, カル シ ウ ムが 結 合 す る と カル モ ジュ リン の全 体
おわ りに
ピコ秒か らナ ノ秒領域 の蛋 白質構造 の ダイナミクスは,
アロステリック蛋白質な どの大きな構造変
化にた いへん重要な役割 を果たし てい る と思わ れ る。本
2231
60
蛋 白 質
核 酸
酵 素
稿 の例 か ら明 らか な よ うに, 1つ の蛋 白質 分 子でも
Vol. 35
「か
た い」 部 分 と 「や わ らか い」 部 分 が存 在 す る。 した が っ
て, 蛋 白質 構 造 の ダイナ ミクス と構 造 転 位 との 関連 に つ
19)
20)
い て 明 らか にす る た め に は, 時 間 領域 と空 間領 域 の両 面
か ら検 討 す る必 要 が あ る。 遺 伝 子工 学 的手 法 に よる トリ
プ トフ ァ ンの ア ミノ酸 置換 は,
1つ の蛋 白質 の い ろ い ろ
21)
22)
な部 分 で の動 的 な 性 質 を 知 る の に た い へ ん 有 用 で あ ろ
う。 また 今 後 の課 題 と して,
ト リプ トフ ァ ンの蛍 光 消 光
23)
機 構 を解 明 し, 実 験 結 果 を定 量 的 に解 釈 で き る よ り正 確
な モ デル を確 立 す る こ とも大 切 で あ る。
文
1)
木原
24)
献
25)
裕 ・小 林 孝 嘉 ・木 下 一 彦 ・永 山 国昭 ・広 海
26)
Database Center for Life Science Online Service
啓 太 郎:時 間領 域 か ら見 た 生命 現 象, 分 子 過 程 か
ら機 能 ま で, 本 誌 別 冊 No. 28 (1985)
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28)
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4) “c’†•¶•v: ƒŒ•[ƒU•[Œ¤‹†,
15,
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29)
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(1989)
「超 高 速 」 時 間 分 解 分 光 法
超 高 速 時 間 分 解 分 光法 は, 極 短 時 間 パル ス レーザ ー の
開 発 と高速 時 間分 解 測 光 技 術 の進 歩 が あ い ま っ て, こ の
20年 間 に飛 躍 的 に進 歩 した。 「
超 高 速 」 とい う言 葉 は現
ま で蛍 光 を発 しな い と考 え られ て い た 生体 成 分 が フ ェ ム
ト秒 領 域 で蛍 光 を 出 して い る可 能性 も あ る 。
(2) 過 渡 吸収 ス ペ ク トル 法: 励起 分 子 お よび 励 起 分 子
在 では ピコ秒 (ps; 10^<-12>秒) か ら フ ェ ム ト秒 (fs;
10^<-15>秒) の時 間領 域 の分 光 法 に対 して用 い られ る。 こ
が ひ き起 こす, さ ま ざま な 反 応 の 中 間体 が 時 間 と と も に
の よ うな 分 光 法 に は, 以下 に示 した2つ の方 法 が あ る。
時 間 分 解 吸 収 ス ペ ク トル を 測 定 す る こ とに よ っ て調 べ
(1) 時 間 分 解 蛍 光 法: 蛍 光 強度 や 蛍 光 ス ペ ク トル, 蛍
光 偏 光 異 方 性 な どの 時 間依 存性 を測 定 す る。
変 化 して い くあ りさ ま を, そ れ ら の ピ コ秒 ・フ ェム ト秒
る。
過 渡 吸 収 ス ペ ク トル 法 は, 主 と して 励 起 分 子 が 他 の分
蛍 光 はそ の蛍 光 分 子 の まわ りの環 境 に 敏 感 な の で, 本
子 と相 互 作 用 した 結 果, 新 しい 分 子 種 を 生 成 して い く過
文 で述 べ た よ うに生 体 分 子 の コ ンボ メ ー シ ョン変 化 や構
程 を観 る の であ る。 蛍 光 をだ さな い分 子 の場 合 に は時 間
造 の ダ イ ナ ミク ス につ い て研 究 す る の に適 して い る。 現
分 解 蛍 光 法 は 適 用 で きず, 過 渡 吸収 スペ ク トル 法 に よ っ
在 ピ コ秒 領 域 の パル ス レーザ ーを 用 い て,蛋
白質 中 の ト
て い ろ い ろ な 知 見 が 得 られ る。 現 在 ピコ秒, フ ェム ト秒
リプ トフ ァ ンや チ ロシ ン残 基 の蛍 光, フ ラ ビン蛋 白質 の
領 域 の過 渡 吸 収 スペ ク トル 法 に よ り, 光 合 成 系 や そ の ほ
蛍 光, そ の ほか 生 体 高 分 子 の構 造 と ダ イ ナ ミク ス につ い
か の光 受 容 体, 種 々 の モ デル 系 な ど にお け る光 誘 起 電 子
て研 究 され て い る。 これ ま で ナ ノ秒 パ ル ス で測 定 され て
移 動 の研 究 や, COヘ
い た蛍 光 寿 命 も, ピコ秒 パ ル ス レーザ ー で測 定 す る と,
に伴 うヘ モ グ ロ ビ ンの構 造 変 化 な どに つ い て 研 究 され て
ず っ と短 い寿 命 成 分 が 現 わ れ る こ とが 多 い。 また, これ
い る。
【解 説2】
ー
ー ザ ー に よ っ て 同期 励 起 され た 色 素 レー
ー を発 振 させ る
。 色 素 レー ザ ー で は用 い る 色 素 に よ って
波 長 範 囲 が異 な る が, 約660∼800nmの
ザ ーで あ り, そ の標 準 的 な 性 能 は 以下 の よ うで あ る。
り, パル ス幅 も約300fsと
CWモ
ス圧 縮 器 を用 い る と, パ ル ス 幅 は約60fsま
ー ド同 期YAGレ
幅 約100ps;
ーザ ー, 波 長1.06μm;
く り返 し82MHz)
光解離
「超 高 速 」 時 間 分 解 蛍 光 の 測 定 法
現 在 も っ と も一 般 的 に用 い られ て い る の は, CWモ
ド同期YAGレ
モ グ ロ ビン に お け るCOの
パル ス
か らの 光 パ ル ス は光 フ
ァ イバ ー と グ レーテ ィ ン グの ペ ア に よる パ ル ス圧 縮 器 で
パ ル ス幅 が4psに
な り, 波 長 変 換 器 に よる第 二 高 調 波
発 生 で1.06μmか
ら半 分 の532nmに
変 換 され る。 こ
の レーザ ー光 を励 起 光 と して 同期 励 起 方 式 で色 素 レーザ
間で可変 であ
短 くな る。 これ に さ らに パ ル
で圧縮 でき
る。パ ル ス光 を増 幅 して 出力 を上 げた 場 合, 最 終 的 に は
パル ス幅 は約500fsに
広が る
。 ま た実 際 の 測 定 の 場 合
は, 第 二 高 調 波 を 発 生 させ, 半 分 の波 長 に した パル ス で
励 起 す る場 合 が 多 い 。
蛍 光 測 定 の時 間 分 解 能 は, 測 光 の時 間 分 解 能 に よっ て
2233
62
蛋 白 質
核 酸
酵 素
も左 右 され る。 光 検 出器 に は ス トリー ク カ メ ラ (分 解
能>5ps),
時 間 相 関 単 光 子 計 数 法 (分解 能>30ps)
る。 また 最 近,
があ
ピ コ秒 以下 の 時間 領 域 で の測 定 に は, 蛍
Vol. 35
(1990)
とに交 互 に積 算 して 測 定 す る。 偏 光 子 の 回転 は コ ン ピ ュ
ー タで 制 御 す るか
, あ る い は一 定 時 間 積 算 す る と測 定 が
自動的 に とま る よ うに してお い て, 偏 光 子 を 手 で回 転 さ
光 と超 短 レー ザ ー パル ス の光 混 合 を種 々 の遅 延 時 間 で行
せ て も よい。I_<││>(t)とI⊥(t)
な っ て蛍 光 の生 成 ・減 衰 曲線 を測 定 す る, ア ップ コ ンバ
ー ジ ョン法 (分 解 能>280fs)
が 開発 され て い る
。単 光 子
っ て偏 光 異 方 性r(t)
計 数 法 の時 間 分 解 能 は, コ ン ピュ ー タに よ るデ コ ンボ リ
て か ら強 度 を 測 定 す る こ とが大 切 で あ る。 ピ コ秒 ・フ ェ
ュ ー シ ョンに よ って 約10ps以
ム ト秒 時 間 分解 分 光法 のす ぐれ た解 説 書 が Fleming
下 に 向上 さ せ る こ とが で
き る。
か ら本 文 の式 (3)
によ
が 得 られ る。 偏 光 異 方 性 の 測 定 に
は分 光 器 の前 に散 乱 板 を 置 い て, 偏 光 を 完 全 に解 消 さ せ
に
よ って 著わ され て い る^<1)>。
時 間 分解 蛍 光 偏 光 異 方 性 の 測 定 は, 発 光 側 に偏 光 子 を
1)
設 置 して測 定 す る。 励 起 パ ル ス レーザ ー はす で に偏 光 し
て い るの で, 偏 光 子 を 回 転 させ て, この 偏 光 面 に平 行 な
蛍 光 強 度 I_<││>(t)
と垂 直 な 蛍 光 強 度I⊥(t)
Fleming, G.: Chemical Applications of Ultra
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New York (1985)
を一 定 時 間 ご
【解 説3】
Database Center for Life Science Online Service
No. 13
時 間分解蛍光偏光異方性
蛍 光 偏 光 異 方 性 の 理 論 や 測 定 法 お よび 生体 系 へ の応 用
依 存性 を表 わ す 理 論 式 を得 るた め に は, 分 子 の拡 散 方 程
に つ い て は, 主 と して Weber^<1)>によ り開 発 され て きた 。
式 を解 か な くて は な らな い。 また, 蛋 白質 の よ うな球 状
蛍 光 偏 光 異 方 性 の 測 定 法 や解 析法 に つ い て は, 本 誌 の別
分 子 に トリプ トフ ァ ン残 基 や 蛍 光 標 識 色 素 が 結 合 してい
冊 号^<2)>や
木 下 ・御 橋 の 著 書^<3)>に
詳 し く 述 べ られ て い る の
る場 合 に は, 偏 光 異 方 性 は 近 似 的 に 二 指 数 関 数 的 に 減 衰
で, こ こ で は原 理 的 な解 説 に止 め てお く。
分 子 の電 子状 態 問 で遷 移 が起 こるた め に は, 分 子 は有
限 の遷 移 モ ー メ ン トを も っ て い な くて はな らな い。 遷 移
し, 小 分 子 の分 子 内運 動 の回 転 拡 散 係 数 と蛋 白 質 全 体 の
拡 散 係 数 が 求 め られ る。
木 下 ら は生 体 膜 の脂 質 層 に 棒 状 の 蛍 光 色 素1,6-ジ
フ
モ ー メ ン トは ベ ク トル な の で 固 有 の 方 向性 を も って い
ェニル ヘ キ サ トリエ ン (DPH)
る。 した が っ て, 試 料 に あ る特 定 の偏 光 面 を もつ 光 を 照
度 の 円錐 内 で首 ふ り運 動 を す る場 合 (本 文 図1)
射 す る と, 遷 移 モ ー メ ン トが こ の偏 光 面 と同 じ方 向 に あ
異 方 性 の理 論 式 を 導 き, 生 体膜 の 流 動 性 に つ い て 解 析 し
を標 識 し, これ が あ る角
の偏 光
る分 子 だ け が 励 起 され る。 また 蛍 光 も個 々 の分 子 は そ の
て い る (本 文 の文 献11)。
遷 移 モ ー メ ン トの方 向 の偏 光 を発 す る。 偏 光 異 方 性 は こ
子 軸 と遷 移 モ ー メ ン トの 方 向 が一 致 して い るの で, 得 ら
の両 方 向 の 差 に依 存 す る。 も しラ ン ダ ムに 配 向 して い る
れ た 式 は 比 較 的 簡 単 で あ った。 蛋 白 質 中 の トリプ トフ ァ
ン残 基 は 分 子 が 完 全 に 非 対 称 で あ るの と, 共 有結 合 に よ
全 分 子 が, 吸 収 時 点 と発 光 時 点 でそ れ らの 遷 移 モ ー メ ン
トを 変 え な けれ ば, 偏 光 異方 性 は0.4で
あ る。遷 移 モ ー
メ ン トの方 向 を変 え る 原 因 に は つ ぎの よ うな もの が あ
る。
木 下 らの用 い たDPHは,
分
り束 縛 され て い る ので, 問題 が も っ と複 雑 で あ る。
これ ら の理 論 式 は, い ず れ も蛍 光 強度 が指 数 関数 的 に
減 衰 す る こ とが 前 提 に な って い る。 す な わ ち, 蛍 光 消 光
(1) 励 起 状 態 で の 電 子状 態 の 変化: 各 電 子 状 態 に は 固
定数 が 分 子 の回 転 運 動 に よ って変 化 しな い と仮 定 して い
有 の遷 移 モ ー メ ン トが あ る の で, 励 起 の瞬 間 か ら発 光 の
る の で あ る。 しか し 蛋 白質 中 の ト リプ トフ ァ ン 残 基 で
瞬 間 ま で の あ いだ に電 子 状 態 が 変 化 す る と, 時 間 に依 存
は, 蛍 光 が あ る 特定 の他 の ア ミノ酸 残 基 に よっ て消 光 さ
して偏 光 異 方 性 が 減 少 す る。 こ の場 合 は, 全 分 子 が 蛍 光
れ る の で, 蛍 光 消光 定 数 は回 転 角 に よ っ て変 化 す る はず
寿 命 のあ いだ に固 定 され て い て も偏 光 解 消 が 起 こ る。 た
で あ る。 この よ うに消 光 定 数 の分 子 内回 転 角 依 存 性 を 考
とえ ば, 励 起 エ ネル ギ ー移 動 や 電 子 エネ ル ギ ー緩 和 な ど
慮 す る と, これ ま で得 られ て いた 偏 光 異 方 性 の理 論 式 と
で あ る。
事情 が か な り異 な っ て くる。 蛍 光 強 度 の減 衰 と, 偏 光 異
(2) 分 子 の運 動: 吸収 と発 光 の遷 移 モ ー メ ン トが 同 じ
で も, そ れ を 担 っ て い る分 子 が 回 転 や 横 揺 れ運 動 を す る
方 性 の減 衰 が 互 い に相 関 して く る よ うに な る。
1) Weber, G.: Polarization of the Fluorescence
と遷 移 モ ー メ ン トの方 向が 変 わ り, 時 間 に 依 存 しで偏 光
Solution,
異 方 性 が 減 少 す う。 回 転 運 動 の場 合, 偏 光 異方 性 が 減 少
cenceAnalysis
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す る速 さ は 分 子 の 回 転 運 動 の拡 散 定 数 に よ って きま る。
も し分 子 が球 状 で あ れ ば, 拡 散 定数 は1種 類 で あ り, 偏
2)
数関
数の 和 で表 わ きれ る。 ま た 完全 に非対 称 な分 子 で は
3種 類 の拡 散 定 数が あ り, 5つ の指 数 関数 の和 で減 衰 す
る。
偏光解消が (2)
の原 因で起 こる とき, 偏光異方性 の時間
Fluorescence
and
of
Phosphores
pp. 217-
金 岡 祐 一 ・柴 田和 雄 ・関 根 隆 光 ・高 木 俊 夫 編:
「蛍 光 測 定 の 原 理 と 生体 系 へ の 応用 」, 本誌 別 冊
光 異方 性 は 指 数 関 数 的 に 減 衰 す る。 回転 楕 円体 で あれ
ば, 拡 散定 数 は2種 類 で, 偏 光 異方 性 の減 衰 は3つの 指
in
3)木
(1974)
下 一 彦 ・御 橋 廣 眞 編: 蛍 光測 定 一
の応 用, 学 会 出 版 セ ンタ ー (1983)
生 物-学 へ
ト リプ トフ ァ ン の超 高 速 時 間 分 解 分 光 と蛋 白質 構 造 の ダ イ ナ ミ クス
63
【解説4】 可変周波数位相差蛍光法
蛍 光 寿 命 を 測 定 す る方 法 に は2通 りあ る。1つ は短 い
パ ル ス 光 源 で 励 起 して 蛍光 強度 の 時 間変 化 か ら寿 命 を測
あ られ る。 一 般 に, 変 え る周波 数 の種 類 が 多 け れば 多い
定 す るの に 対 し, 位 相 差 蛍 光法 は 強度 が周 波 数fで 変 化
す る連 続 光 を 用 い て試 料 を励 起 す る。 励起 光 をI(t)と
光 法 は, レーザ ー光 の強 度 を レーザ ー の偏 光 面 を 変 え る
ポ ッケル ズ セ ル に よ り 任 意 に 変 化 させ て 試 料 を 励 起 す
す る と,
る。蛍 光 の 位相 差 と キ ジ ュ レー シ ョンを 周 波 数 の関 数 と
I(t)=a+bsin2πft
して プ ロ ッ トして, い ろ い ろ な モ デ ル の 蛍 光 減 衰 関 数 に
蛍 光 は 同 じ周 波 数 で 変 化 す る連 続 光 と して 得 られ るが,
あ うか ど うか を 最 小 自乗 法 で 検 定 す る の であ る。 位 相 差
励 起 光 とは 位 相 が 異 な る。
F(t)=A+BcOsφsin(2πft+φ)
蛍 光法 は 主 と して イ リノ イ大 学 の Weber
が 理 論 を,
Spencer (Weber
研 の卒 業 生 で現 在SLM-AMINCO社
こ こで, 位 相 φは
Database Center for Life Science Online Service
ほ ど多 くの 寿命 成 分 が 分 離 で き る。 可 変 周 波 数 位 相 差 蛍
の 社長) が 装置 を 開 発 して発 展 さ せ て きた 。 可 変 周 波 数
tanφ=2πfτ
位 相 差 蛍光 法 は 同 大 学 物 理 学 科 の Gratton に よ り開 発 さ
で あ る。 した が って, φ を 測 定 す る と蛍 光 寿命 τが 求 め
られ る。 こ の式 か らのfの 逆 数 は 寿 命 と向 程度 で な けれ
れ, 原 理 的 に は ピ コ秒 領 域 のパ ル ス法 と ま った く同等 な
寿 命 測 定法 とな つた 。 イ リノイ 大 学 に は 蛍 光 解 析 の研 究
ぼ な ら な い。 ほ か に 測 定 で き る量 は モ ジ ュ レー シ ョ ン,
所 が あ り, 位相 差 蛍 光 法 の 世 界 的 な メ ジカ と な っ て い
cosφ で あ る。 も し試 料 が2種 類 の 寿 命 を も って い る と
るご ア メ リカ め 生 化 学 分 野 では Weber
き は, 周 波 数fを3種
相 差 蛍 光 法 が隆 盛 を 誇 って い る。
類 に 変 え て そ れ ぞれ の位 相 とモ ジ
学 派 を 中心 に 位
ュ レー シ ョ ンを測 定 す れ ば, そ れ らの 寿命 と成 分 比 が求
2235