平成 25 年4月 23 日 Weekly Report 1 中東・北アフリカの政治・治安情勢 (4/15-22, 2013) イラク 4 月 20 日、イラクの地方選挙の投票が 12 州で行われた。政府は、治安情 勢の悪化を理由に、西部のアンバル州、北部のニネヴェア州での選挙を無期 限延期した。また、クルド自治区を構成する3州及びキルクークが所在する アル・タアム州でも投票は行われなかったが、これらの州では中央政府とク ルド自治区の間に深刻な対立があるためといわれる。選挙には、50 の政党か ら 8136 人の候補者が立候補し、378 の議席を争った。しかし、議席を巡る最 も激しい争いは、マリキ首相率いる法治国家連合とアラウィー率いる最大野 党アラキーヤの闘いである。 今次選挙は、テロリストの格好の標的となった。4 月 15 日、国内各都市で テロが連続して発生し、55 人が死亡したが、投票日を迎える前の週には死者 が倍増し、約 100 人がテロの犠牲になった。選挙期間中の犠牲者には、スン ニ派アラブ人の候補者 14 人も含まれていた。政府は、投票日当日、有権者の 安全確保のために一定の手段を講じたために、4 月 20 日に限っては、いくつ かの投票所でのテロ攻撃を除き、比較的平穏に推移した。 こうした事情から、投票率は 50 パーセントに達しなかった。結果は 2-3 日後に公表される予定であるが、この地方選挙の結果は、来年予定されてい る国会議員選挙を占う上で貴重な指標となることから、かねてより注目を集 めていた。 2 シリア 先週、シリア中央部のホモス及び北西部のイディブ、ダマスカス州のアレ ッポで大規模な戦闘が行われた。アサド大統領は 4 月 17 日、イスラエルと関 係している組織を除く全ての反政府組織と対話する用意があると述べたが、 国境地域での銃撃は止めないと警告した。すなわち、国境を接するヨルダン では、数千の武装勢力とテロリストが同国で武器・弾薬を受け取っているこ とから、シリアの内戦は、ヨルダンにまで拡大する可能性を秘めている。 アサド大統領は、「シリア国内のクルド人は紛れもないシリア国民であり、 そのほとんどは国に忠誠を誓っている。ただし、わずかながら、国家の問題 を自分たちの目的達成のためにすり替えようとしているクルド人も存在す -1- る」、「トルコ政府は、自国での新憲法草案を問う国民投票でトルコ・クルド 人から支持を受けようとして、クルド・カードを利用しようとしている」な どと述べた。 なお、アサド大統領は 4 月 16 日、特赦命令に署名し、同日以前に行われた すべての犯罪を特赦にした。 イスラエルのネタニヤフ首相は、シリアの反政府武装組織への武器援助を 制限するよう国際社会に訴え、シリアの内戦について、 「邪悪な者同士が戦っ ているのだ」との表現を用いた。さらに同首相は、 「シリアへの武器密輸の可 能性を論じるよりも、シリア政府側の武器・弾薬備蓄量が心配である。アサ ド政権への過激派勢力の攻撃により、政府側もかなり弱体化しているのでは ないか。イスラエルはかくなる事態を阻む権利を有している」と強調した。 4 月 20 日、トルコ政府は、シリア革命・反体制派諸勢力国民連合(別称シ リア国民連合:NCSROF)ほか 11 のアラブ諸国と西側諸国の代表が参加し た「シリアの友人」と称する会議を開催し、反アサド勢力に対する支援の問 題について話し合った。同勢力の代表は、会議参加者に対し、アサドに化学 兵器や弾道ミサイルを使用させないための具体的かつ緊急の作戦として、無 人飛行機を使って危険サイトをピンポイント爆撃し、北部及び南部国境地帯 にノー・フライ・ゾーンを設定する必要があると訴えた。さらに NCSROF の代表は、あらゆるテロリスト組織とは協力しないし、たとえ自らが政権を 握ったとしても、シリアのこれまでの政府関係者に報復を行うようなことは しないと約束した 米国のケリー国務長官は、米国政府はシリアの反政府組織に対して 1 億 2300 万ドルの支援を用意していると述べた。これでシリアの反政府勢力に対 する米国の支援は、これまでの倍の 2 億 5000 万ドルとなる。これら支援は、 強力火器を除く軍事支援に限られている。 3 ヨルダン 長期化するシリア内戦に関し、米国はヨルダン軍兵士の訓練を行うため、 米軍人 200 人を同国に派遣した。派遣米軍人の多くは、兵站、情報、作戦計 画の専門家であるとされる。マスコミ報道によれば、米国政府は、シリア国 境付近ヨルダン領内にパトリオット・ミサイル 2 基を配備することを認可し た。一方、ロシア外務省は、 「米軍がヨルダンに派遣されるとなると、シリア 情勢はさらに悪化する可能性がある」と警告した。ヨルダン国内の主要野党 組織「イスラム行動戦線」 (ムスリム同胞団系)も、米国による防空システム のヨルダン展開を糾弾する声明を発している -2- 4 エジプト 4 月 19 日、ロシアのソチでプーチン大統領とエジプトのモルシュ大統領が 会談し、各方面での相互協力について話し合った。特に話題の中心となった のは、エジプトにおける原子力発電所建設へのロシアの参加に関する要請と、 ウラニウムの貯蔵に関する共同開発の申し入れであった。エジプトとロシア は、既に数々の共同事業において、個々の近代化と開発で協力している。た とえば、ロシアのガスプロムやルクオイル、ノヴァテクなどのロシア企業が エジプトの海底油田、沿岸油田の開発に参画している。 同会談では、モルシュ大統領は、ロシアに対し資金援助を求めたが、ロシ ア財務省は、20 億ドル程度のローンをエジプトに貸し付ける予定でいるとし ている。 シリア問題及びアラブとイスラエルの問題解決の方途については、両大統 領の見解はほぼ同じあった。 エジプトの主要野党勢力「国民救済戦線」(NSF)は 4 月 18 日、もし次回 国会議員選挙が公正に行われるなら、同選挙に参加する用意があると表明し た。 4 月 19 日、エジプト最高裁ビル近くで、ムスリム同胞団を支援するイス ラム主義勢力とこれに反対する勢力との間で衝突が起きた。参加者の何人か は暴徒化し、石や空ビン等を投げつけ、警官も発砲に及んだ。数十人が負傷 したと伝えられる。イスラム主義者と反体制グループの衝突は、アレクサン ドリアでも発生している。 5 バーレーン 先週、バーレーンでは、同国で開催予定の「F1 カーレース」をめぐり、数 千人がレース反対を叫んでデモを行った。反対する集団は政府批判を行い、 「政府はカーレースを開催することでバーレーンの国内情勢が正常に戻った と宣伝するつもりだが、実際は政治危機も常態化している上、人権侵害の事 案も頻発している」と主張した。このように、レースの反対運動は発生した ものの、政府は、21 日には予定通り F1 カーレースを開催した。 6 イラン イラン核エネルギー機構の責任者アッバシ・ダヴァニは 4 月 17 日、「イラ ンは必要であればウラニウム濃縮を 50 パーセントまで行う」と発言し、さら -3- に、「現在のところ、20 パーセント以上にまで濃縮する計画はないが、専門 家の弁によれば、潜水艦や艦船の特殊エンジンを製造するためには、そのた めに必要となる核燃料は 45-56 パーセントまで濃縮する必要がある。我々が ウラニウムの高濃度化を考えるのは、この目的のためだけである」と強調し た。 アフマデネジャド大統領は、先週、ニジェール、ベニン、ガーナを訪問し た。ニジェールは世界第 4 位のウラニウム産出国である。同国のイスフ大統 領は、 「アフマデネジャド大統領とはイランの核エネルギーに関する話もウラ ニウム供給に関する話もしなかった。イランは自国でウラニウムを生産でき る」と述べた。 他方、この時期、米国防総省ヘーゲル長官が中東を歴訪したが、これは同 地域の友好国であるイスラエル、アラブ首長国連邦、サウジアラビアに対し 大量の武器支援を行うための訪問であり、イランの核開発の脅威を除くため には軍事力の行使もあり得るとの姿勢を明確に示したものとみられる。 7 スーダン スーダンの反政府組織「スーダン人民解放運動」 (SPLM-N:国境地帯の南 コルドファン州及び青ナイル州で活動)は 4 月 17 日、アフリカ連合の仲介に より、スーダン政府と交渉に入ることで合意した。スーダン政府も長期にわ たって SPLM-N との交渉を拒否してきたが、本年 4 月 1 日にスーダンのバシ ール大統領が、武装組織を含むあらゆる反政府勢力と政治対話の機会を持つ と宣言したことをきっかけに、急きょ交渉開始が決まったものである。同交 渉は、4 月 23 日からエチオピアのアジス・アベバで開始される。 8 カタール カタール政府は、ドイツの企業クラウス・マフェイ・ワグマン社と武器購 入の契約を結び、 「PzH2000」155mm自走榴弾砲 24 門と「レパード 2」主戦 戦車 62 両を購入することとなった(総額 18 億 9000 万ユーロ)。また、同契 約には、関係装備及びカタール軍への訓練も含まれている。上記ドイツ製の 武器は、フランス製、南アフリカ製の旧式戦車及び榴弾砲に取って代わるも のである。 カタール軍は、現在、装備の近代化を目指しており、ドイツからの大規模 な武器購入計画は、総計で 200 億ドル相当に上るといわれる。 -4- 9 イスラエル 米国防総省は、イスラエルのミサイル防衛システム「アイアン・ドーム」 に対して、向こう 2 年間で約 4 億ドル以上を拠出する計画でいるといわれる。 ジョン・ケリー米国務長官は、4 月 17 日、「イスラエルとパレスチナの紛 争は、今後の 2 年以内に二つの独立国を創設させることで解決していくべき である。それ以外の方法では、せっかくの機会を逃してしまうだろう」との 見解を述べた。 以 -5- 上
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