HIDA/AOTS 同窓会レポート ©2014 HIDA Research Institute INOVAR

HIDA/AOTS 同窓会レポート
INOVAR-AUTO 施策下のブラジル自動車部品業界
-日本企業にとって、新たに訪れた極めて大きな好機-
Paulo Hirai
Ugo Ibusuki
AOTS サンパウロ同窓会
2014 年 1 月 16 日
©2014 HIDA Research Institute
HIDA/AOTS 同窓会レポート
要約
過去 20 年来、ブラジルは自動車部品産業の衰退を経験した。猛威を振るったハイパーインフレを終わら
せるための政策の一環として、レアルを実際の価値より高くするというマクロ経済的な決定がなされたこ
とが大きな理由としてあげられる。自動車部品産業の収入は 1990 年の 122 億ドルから、2002 年の 113 億ド
ル、2012 年の 418 億ドルへと推移している。それに対し、輸入額は 1990 年の 8 億ドルから、2002 年の 41
億ドル、2012 年の 163 億ドルと増加の一途をたどっている。総収入の増加がわずかに 3 倍を越えたのに対
し、輸入額は同時期にほぼ 20 倍となっている。輸入品との競争により、地元製造業の多くが利益を上げら
れない状態である。
レアルは、長きに渡って実際以上の価値を維持したあと、購買力平価を反映した水準を回復し、2012 年
の 1 ドル 1.70 レアルから現在は 2.30 レアルで取引されている。
ブラジル政府は INOVAR-AUTO(自動車産業に係るイノベーション・科学技術・裾野産業新興プログラ
ム)を打ち出した。これにより、ブラジルもしくはメルコスール加盟国で生産された自動車部品の活用を
促すほか、自動車の燃費向上、イノベーションの強化など様々な目的の達成を図っている。国際収支赤字
の現状を受けて、政府は国内企業を支援しており、この優遇措置プログラムはブラジル開発・商工貿易省
によって定められた。
完成車メーカーは、INOVAR-AUTO によってもたらされる大幅な税優遇措置(最大で車両販売価格の
30%)の基準を満たすべく、自動車の燃費を上げつつ、ブラジルもしくはメルコスール加盟国産の部品比
率を高める必要に迫られている。しかし、ほとんどのブラジル自動車部品製造業者は、新たな需要に対応
するだけの技術力・資金力を持ち合わせておらず、新たな環境で試練に立たされている。こうした状況は、
完成車メーカーから要求される技術を保持する日本の自動車部品製造業者にとって、ブラジル市場に参入
する大きな好機である。
キーワード: ブラジル、自動車、自動車部品、INOVAR-AUTO、優遇措置、好機
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INOVAR-AUTO 施策下のブラジル自動車部品業界
-日本企業にとって、新たに訪れた極めて大きな好機-
はじめに
ブラジル自動車産業はブームの最中にある。国内販売は 363 万台(2011 年)から 380 万台(2012 年)に
増え、ブラジル自動車年鑑(ANFAVEA)2012 年度版によると、ブラジル国内の販売台数は独、仏、韓を越え、
中、米、日を追う 4 番手に位置づけられている。ブラジル自動車業界は、国内販売が 2015 年には 450 万台、
2025 年には 600 万台に達すると見込んでおり、完成車メーカーは 2015 年までに総計 300 億ドル以上の巨額
投資を行うと発表している。2012 年、自動車産業は工業 GDP の 18.7%、GDP 全体の 4.2%を占めた。
ブラジルは車両生産国として大きな進歩を成し遂げたが、完成車および自動車部品メーカーは二面性の
ある局面に立っている。完成車需要の増加が自動車部品業界全体の成長をもたらす一方、通貨価値の過大
評価が輸入促進を招いている状況により、輸入自動車部品が急速に広まっている。多くの国内自動車部品
メーカーが輸入部品の攻勢にさらされ、需要増加への対応に滞りが生じている。
過去五年間で、自動車部品産業の貿易収支赤字は大幅に悪化する一方(図 1)、ブラジル国内産完成車にお
ける輸入部品の使用が増えてきている。(表 1)
図 1: ブラジル自動車部品産業の貿易収支
自動車部品産業
20
15
10
5
0
767
0,77
1.873
1.87
‐0.13
‐134
‐2.69
‐2.687
‐5
‐10
2005
‐2.384
‐2.38
‐3.547
‐3.55
‐4.64
‐4.644
‐5.787
‐5.79
2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 Figures in Billion
USD
単位:10 億米ドル
Exports 輸出
Imports
輸入
Balance
差引額
出所: Sindipecas (2013)
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表 1: 自動車部品輸入の影響 (単位:10 億米ドル)
自動車部品総売上額
完成車メーカーへの売上額
輸入額
輸 入 額 の 対 完 成 車 メ ー カ ー へ の 売 上 比 (%)
1 99 0
20 05
2 00 6
200 7
20 08
2 00 9
20 10
2 011
2 01 2
12.2
25.3
28.5
35.1
41.0
37.9
49.8
54.5
41.8
7.1
15.6
17.6
23.1
27.2
26.1
35.1
38.6
29.0
0.8
6.8
7.0
9.4
12.9
9.1
13.1
15.8
16.3
11.8% 43.3% 39.7% 40.9% 47.5% 33.0% 37.4% 40.9% 56.1%
出所: Sindipecas (2013)
完成車においても輸入が急増し、2011 年には国内販売台数のほぼ 25%に相当する 85 万台に達した。完
成車の貿易収支も図 2 の示すとおり赤字である。
図 2: ブラジル自動車産業の貿易収支
自動車産業
単位:10 億米ドル
輸出
輸入
差引額
出所: ANFAVEA (2012)
ブラジル国内のサプライチェーン競争力は弱体化している。新自動車産業政策(INOVAR-AUTO)はブラジル
自動車産業に対してこのような不利な状況を変える助けとして企画されたものである。
1. 自動車(完成車)産業
ブラジル自動車(完成車)産業は 13 の乗用車メーカーを含む全 18 社で構成されている。表 2 のとおり、
サンパウロ近郊の 15 工場を含む総計 37 工場の生産能力は 340 万台、輸入車を含む国内販売台数は 360 万
台である(いずれも 2011 年)。また、15 万人の労働者が直接雇用されている。
2011 年において、VW,フィアット、GM およびフォードが国内市場のおよそ 4 分の 3 を占めた。これら
は全て「第一世代参入者」と呼ばれ、ほかは「新規参入者」と称される。主に国内市場に注力するも、輸出市
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場が重要性を帯びてきている。新興市場ならびに、ブラジルも加盟する自由貿易協定であるメルコスール
締結国(アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイおよび最近加入したベネズエラ)からの需要を反映し、
輸出市場への参入機会が大きくなっている。
表 2: ブラジル自動車メーカーの生産および販売台数(2011 年)
乗用車*
商用車
総生産数
シェア
輸出
シェア
国内販売
(輸入も含
む)
シェア
市場での
順位
フォルクスワーゲン
828,444
83,106
911,550
26.7%
187,750
33.5%
765,823
22.3%
1
フィアット
762,181
0
762,181
22.3%
87,178
15.5%
754,275
22.0%
2
GM
643,369
0
643,369
18.8%
97,473
17.4%
632,255
18.4%
3
フォード
286,357
40,422
326,779
9.6%
67,295
12.0%
344,382
10.0%
4
ルノー
220,625
0
220,625
6.5%
60,064
10.7%
194,294
5.7%
5
プジョー・シトロエン
146,299
0
146,299
4.3%
24,702
4.4%
175,862
5.1%
6
現代
38,635
0
38,635
1.1%
0
0.0%
114,931
3.3%
7
トヨタ自動車
60,456
0
60,456
1.8%
12,652
2.3%
99,236
2.9%
8
ホンダ
85,545
0
85,545
2.5%
13,098
2.3%
92,901
2.7%
9
9,347
63,706
73,053
2.1%
0
0.0%
73,052
2.1%
10
日産
32,640
0
32,640
1.0%
0
0.0%
67,268
2.0%
11
三菱自動車
39,441
0
39,441
1.2%
713
0.1%
55,533
1.6%
12
イヴェコ
0
20,585
20,585
0.6%
0
0.0%
20,585
0.6%
13
ボルボ
0
27,866
27,866
0.8%
3,638
0.6%
20,419
0.6%
14
スカニア
0
22,496
22,496
0.7%
5,355
1.0%
14,878
0.4%
15
アグラレ
0
6,725
6,725
0.2%
243
0.0%
5,253
0.2%
16
インターナショナル
0
2,189
2,189
0.1%
890
0.2%
391
0.0%
17
その他
0
0
0
0.0%
0
0.0%
199,721
-
-
3,153,339
267,095
3,420,434
100%
561,051
100%
3,631,059
ダイムラー
合計
100%
*乗用車には軽商用車も含まれる。
太字:第一世代、イタリック体:新規参入者
出所: ANFAVEA, 2012
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a) 第一世代
最初にブラジルに生産拠点を持った完成車メーカーの VW、フィアット、GM およびフォードは、新規参
入者と比べ、親会社への集約度合いが低い戦略を採用している。1970 年代から操業を開始したフィアット
を除き、いずれも 1950 年代からブラジル国内で製造・組立を行い、国内自動車市場において比較的安定か
つ強固な地位を維持してきた。
輸入代替および国内市場保護による産業化フェーズは 1990 年代まで続いたが、これらの完成車メーカー
は国内に親会社から独立した製品エンジニアリング地区を設けてきた。そこで、しばしば旧式の欧州・北
米仕様にもとづき、国内市場に特化した製品を設計・開発した。欧州同業者と比べると技術レベルは相当
落ちたものの、国内販売の規模はブラジルにおける彼らの活動維持には十分であった。
しかしながら、貿易自由化と、親会社が進めるグローバル戦略に組込まれる度合いが大きくなったこと
から、第一世代企業はブラジルにおける製品および R&D 戦略を大きく変更することとなった。技術関連施
設およびエンジニアリングスタッフなどの資産・タスクの重複を排除することでコスト低減を図ることと
し、製品のコンセプト化、設計およびエンジニアリング手法を見直した。
b) 新規参入者
彼らは 1990 年代の貿易自由化を受けて、最近ブラジルに進出してきた完成車メーカーである。PSA・プ
ジョーシトロエン、ルノー・日産は、市場シェア拡大を目的として現地ニーズを反映した製品を創出する
には、ブラジル国内での開発に投資することが不可欠であるとの認識を有している。
乗用車分野のトヨタ、ホンダ、現代、ダイムラーと軽商用車分野の三菱は、それぞれが欧米、日本、韓
国における成熟市場向けのコンセプト化・設計に加えて、ブラジル現地の技術レベル・嗜好を考慮したリ
エンジニアリングを施した製品をブラジル市場に投入している。
トヨタはソロカバ市の新工場で、グローバル市場に投入する小型車(エティオス)の製造を新たに開始
したが、開発は全て日本の本社で集約的に行われ、ブラジル国内では、子会社の製品開発技術者が小規模
な変更を施すのみである。
ホンダは小型車のラインアップを拡大すべく、フィットとシティを投入している。製品検証および現地
に適応した設計と仕様変更(フレクス車・エタノール車、オフロード・デザイン化)に焦点を置いたブラ
ジル国内での R&D 投資を行っている。
2. ブラジル自動車部品産業
近年、ブラジル自動車産業において、幾つかの新たな組織的動向が見られる。それらのうち、モジュラ
ー・コンソーシアムもしくは、インダストリアル・コンソーシアムはいずれも、完成車メーカーとサプラ
イヤーが投資、立地、サービスの共有において、緊密に協業がなされた組織である。前者の場合は、人員
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も共有される。これらのコンソーシアムにより、ブラジル国内のサプライヤーに、M&A、連携、廃業とい
った度重なる変容と国際化がもたらされた。この新たな動向は、高度なアウトソーシング、長期契約、共
同設計、特定の資産・情報の交換、さらには広範囲な相互依存という特徴を有する。表 3 は、上述の変化
の前後における資本の源泉(ブラジルもしくは国外)を示す。
表 3: 総売上と投資の構成 – 1994 年、2002 年、2012 年
1994
2002
2012
国内資本
外国資本
合計
国内資本
外国資本
合計
国内資本
外国資本
合計
総売上
52.4%
47.6%
100.0%
24.4%
75.6%
100.0%
28.2%
71.8%
100.0%
投資
52.0%
48.0%
100.0%
14.1%
85.9%
100.0%
33.7%
66.3%
100.0%
出所: Brazilian Auto-parts Industry Performance - SINDIPECAS 2013
ブラジル自動車部品産業は大規模な外国資本の参入を経験した。1994 年には、国内資本の市場占有率は
売上ベースで 50%強だったが、2012 年には 28.2%に低下している。表 4 はブラジルにおける輸入自動車部
品原産国を示している。注目すべきは、日本の自動車部品メーカーの参入比率が完成車のそれ(11%近く)
と比べると小さいことである。
表 4: 輸入自動車部品の原産国
国名
米国
ドイツ
フランス
イタリア
スペイン
日本
英国
その他
合計
2002
31.1%
24.8%
6.3%
5.9%
5.2%
4.6%
2.8%
19.3%
100.0%
国名
ドイツ
米国
フランス
イタリア
スペイン
日本
英国
その他
合計
2012
25.2%
23.0%
8.6%
8.1%
8.1%
5.4%
3.2%
18.4%
100.0%
出所: Brazilian Auto-parts Industry Performance - SINDIPECAS 2013
上述の動向は通常、設計および製造を担うサプライヤーへの権限委譲を意味し、サプライチェーンにお
ける彼らの発言権を大きくするものである。従来の競合的かつ短期的な発注者・サプライヤー関係から長
期的連携にもとづく戦略的パートナーシップへのシフトと指摘することができる。言い換えると、企業は
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伝統的な買い手・売り手関係から離れ、サプライヤーとより安定的かつ協業的な関係を選択するように促
されている状況がある。
最近の数十年間において、ブラジルにおける自動車部品取引は右肩上がりであり、1990 年から 2011 年ま
での 20 年あまりの間に販売額は 3 倍以上に膨らんだ(表 1)。これは、同セクターにおける投資が継続的
に、とりわけ 1990 年代半ばになされたことで説明される。さらに、1994 年のレアル・プランの実施も重要
であった。ブラジル通貨レアルとドルを指数化し、ブラジルを苛んできたハイパーインフレを制御するこ
とで、自動車取引が推し進められた。この政策により、レアル高と経済が成長したことで、安価な輸入車
が手に届くようになり、多くの顧客が新車を購入できることとなった。それとともに、経済計画の効果が
見られるようになるにつれ、自動車部品の輸入が増えた。長きに渡り、部品輸出の伸びを部品輸入が超過
したため、自動車部品の貿易赤字に陥った。2006 年は 190 万ドルの黒字であったが、2008 年から 2012 年
は赤字が続いた(2012 年は 58 億ドルの赤字)。国内の低い生産性とレアル高があいまって、自動車部品産
業は衰退していった。
3. INOVAR-AUTO プログラム
INOVAR-AUTO 政策は幾つかの政策目標を掲げている。主要な目標は、ブラジルおよびメルコスール加
盟国で製造された自動車部品利用の促進、燃費の向上、およびイノベーションの推進である。ブラジル開
発・商工貿易省により 2011 年 8 月に打ち出された本政策は、2013 年から 2017 年までの長期展望を有して
いる。
INOVAR-AUTO は IPI(工業製品税)の増税、つまり車両販売価格に 30%の税金を上乗せする施策をベース
としている。そして、政府が定めた目標を達成した場合に、増税分が減じられるというものである。重要
な点の一つは、ブラジル国内もしくはメルコスール加盟国で製造された自動車部品(金型も含む)を当該
地域で購入した額に応じて減税割合が決められるということである。IPI の減税額は、2013 年においては当
該地域での購入額に係数 1.3 を乗じた額であり、2017 年までに係数が 1.0 へ段階的に引き下げられる。国内
およびメルスコール加盟国で製造された自動車部品の使用比率を高めない限り、完成車メーカーにとって
課税額が増えるのは明白である。
完成車メーカーに対する他の要求事項として、R&D とエンジニアリング(基礎産業技術)関連への投資
割合、ブラジル国内における製造工程(プレス、溶接、塗装、射出成型、エンジン・トランスミッション
組立、ステアリング・サスペンション部品組立、電装品組立、ブレーキ・アクセル組立、ボディ組立、最
終組立および試験)の最小工程数、INMETRO(国家度量衡・品質・科学技術院)が認証する低燃費車ラベ
ルの割合、ならびに 2012 年を基準として 2017 年に 12%の燃費向上を達成すること、などがある。
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表 5: INOVAR-AUTO の資格要件 (乗用車)
IPIを減じ
国内での最小製造工程数
るための条
(必須項目)
件
2013
2014
2015
2016
2017
売上高に対する 売上高に対する 燃費ラベリング
域内での調達率に応じた
研究開発投資の 生産技術投資の 車種の割合(選
IPIの削減係数
割合(選択項目) 割合(選択項目) 択項目)
8
9
9
10
10
0.15%
0.30%
0.50%
0.50%
0.50%
0.50%
0.75%
1.00%
1.00%
1.00%
36%
49%
64%
81%
100%
1.30
1.25
1.15
1.10
1.00
出所: Federal Government (2012)
INOVAR-AUTO は自動車部品産業に対し、極めて困難な適応を求めることとなる。自動車部品産業が必要
とするのは
・迅速な投資
・管理の向上
・品質の向上
・生産効率の向上
・顧客サービスの改善
・熟練工の養成
・自動車バリューチェーンの再配置
上記は全て時間がかかるものである。さらに、自動車部品セクターに属するブラジル企業の能力を超え
た投資が必要とされる。海外から新たに会社を招く、もしくは合弁によりブラジルの有力企業の成長を促
す、のいずれかが選択肢としてあげられる。
ブラジル進出を希望する日本の自動車部品メーカーにとって、部品需要が高い状況は好機である。輸入
部品需要も旺盛であるが、政府は国際収支改善のために輸入を減らしたいと考えている。世界的に見ても、
このような好条件が重なることは稀であり、少なくとも日本からの進出の検討もしくは考慮がなされるべ
きである。
日本の 2 次、3 次サプライヤーは、日系の完成車メーカーおよび 1 次サプライヤーから、ブラジルに進出
の要請を受けている。日本企業の品質は現地企業の品質を明らかに凌ぎ、優位な生産性と比類なきサービ
スレベルは論を待たない。これらの競争優位性はブラジル市場にも引き継がれうる。さらに、日系完成車
メーカーは努力の末、現在 11%の市場占有率を得ているが、将来 2 倍になる可能性がある。
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ブラジル自動車部品市場への参入方法は数多くあるが、そのなかで合弁は最速で、かつ低リスクの方法
であろう。
4. ブラジル市場への参入に際し、考慮すべき点
多くの日本企業にとって、ブラジルでの操業は非常に課題が多いかもしれない。日本もしくは米国とは
ビジネス環境が大きく異なっている。労働法、税法、ビジネス倫理、他多くの事柄でリスクが増大する。
合弁でさえ、十分な地元に関する知識がない場合、相互の不信を招きうる。
過去において、多くの日本企業がブラジル市場およびビジネス環境の他に類を見ない特徴を無視し、失
敗した。AOTS サンパウロ同窓会が最近分析したケースを紹介する。とある日本人事業家が、環境法につい
て調査せずに、小都市にて廃棄物処理用の焼却炉製造をブラジル側と進めていた。しかしながら、結局、
相当数の焼却炉を製造した後、一台も売ることができないことが判明した。ブラジル側パートナーが環境
保護関連法をさっぱり理解していなかった。日本人事業家は、日本の環境法に則していればブラジルで問
題が起きるはずはない、と思っていた。これにより、高い代償を払うこととなった。
成功例としては、静電法を用いて、油脂などの不純物がパイプを詰まらせるのを防止する技術を有する
日本の小企業が、知識、ネットワーク、日本的思考法への理解をもつブラジルの地元企業家と手を組んだ
ケースがある。これはうまく行っている。今日、主要電気部品は依然として日本からの輸入に頼っている
が、プラスチックケース、配線やスイッチなどは現地生産によりコスト低下に成功している。相互を理解
する能力は、製品品質を落とすことなく輸入税の支払いを減じる上で重要である。
HIDA 総合研究所が提供するサービス(http://hri.hidajapan.or.jp/special/service)は、日本企業のブラジル進
出における初期段階において、信頼でき、かつ市場調査、パートナー研究と支援の面で知見が深い現地人
材を確保できるものである。合弁事業において、永続的で活力ある関係を維持するには、当地独特のガバ
ナンスを満たす仕組みが必要である。
HIDA は様々なビジネス分野において広大な海外ネットワークを有する。日本とブラジルの双方を理解し、
日本語を話す人材が、市場参入の準備活動を行い、さらに初期段階での支援を供することが可能である。
分析と結論
ブラジル自動車産業は国家経済にとって重要である。しかしながら、輸入完成車および自動車部品があ
まりに多すぎ、貿易収支の悪化をもたらしている。INOVAR-AUTO は、税優遇措置(および懲罰)により
国内での完成車および自動車部品製造の発展を促し、サプライチェーンと関連する分野(例:金型)を改
善 し て い くこ と を 意 図 し た も ので あ る 。 生 産 効 率 、 品質 改 善 、 な らび に イ ノ ベ ー シ ョ ンは す べ て
INOVAR-AUTO で取り上げられている。重要な課題は、ブラジル国内の中小企業に技術開発、経営管理改
善、イノベーションを達成させるにはどうすべきか、という点とともに、それらを全て数年以内に終えな
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ければいけないことである。優れた技術と管理プロセス、および投資余力を有する日本の 2 次、3 次サプラ
イヤーにとって、これは好機といえる。日米もしくはアジアでトヨタ、ホンダ、日産、三菱に納入してき
た企業ならば、ブラジルでも同様なことが可能であろう。ブラジルにおいて、日本の完成車メーカーのシ
ェアは未だ 11%程度である(2013 年 1 月~10 月)。これが示唆するところは、日本企業はブラジル地元企
業とのパートナーシップにより、地元企業が INOVAR-AUTO 関連ルールに準拠することを助けるのみなら
ず、進出第 1 世代(VW、フィアット、GM、フォード)に納入することも可能となることである。
多くのブラジル地元企業は対話に前向きであるが、日本にあるもので、自分たちが利用し、強みとして
いくことができるものは何かがさっぱりつかめていない。HIDA 総合研究所が提供するサービスは、ブラジ
ルに存在する好機について理解を深める良いツールの1つである。世界第四位の自動車市場に開かれた絶
好の機会をものにすることは何よりも重要なことである。
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参考文献
ANFAVEA, Annual Report of the Brazilian Automobile Industry, Sao Paulo, 2002, 2011, 2012.
Ibusuki U., Kobayashi H., Yingsham J., Asian Automobile Manufacturers Strategies in Brazil: Impact
of the New Automotive Policy (INOVAR-AUTO), GERPISA Colloquium 2013, Paris.
Sindipecas, Brazilian Autoparts Industry Performance, 2013.
Federal Government (2012) ‘Plano Brasil Maior: New Requirement’, Brasilia.
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HIDA/AOTS 同窓会レポート
執筆者紹介
Paulo Hirai
ブラジルに大きなビジネスネットワークを有する AOTS サンパウロ同窓会(Instituto AOTS Sao Paulo)会
長。ブラジル進出に関心を持つ日本企業への支援、ならびに参入と操業を成功させるための方策について
指揮。大学で機械工学と経営学を修める。マサチューセッツ工科大学(MIT)と日本に留学経験あり。ブラジ
ルのほか、アルゼンチン、米国、日本にて勤務経験を有する。ブラジルの大企業および中堅企業にてシニ
アエグゼクティブ、役員として従事。
Ugo Ibusuki
早稲田大学大学院アジア・太平洋研究科にて博士号を取得。同大学付属日本自動車部品産業研究所の招聘
研究員。研究の主たるテーマは、INOVAR-AUTO がブラジルおよび日本の自動車産業に与えた影響。現在、
ブラジル FEI 大学大学院にてプロジェクトおよび技術マネジメントの教鞭をとるほか、バス・トラックメ
ーカーにて両国における製品開発に 15 年以上にわたりシニアマネージャーとして従事。
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HIDA/AOTS 同窓会レポート
同窓会紹介
AOTS サンパウロ同窓会
AOTS サンパウロ同窓会(Instituto AOTS Sao Paulo)は品質マネジメント関連に定評があり、日本企業との
協業に関心を持つブラジル企業、ならびにブラジル市場に関する知識、操業、合弁先、技術契約に興味を
抱く日本企業との橋渡しを多数行ってきた。50 年以上にわたり中核人材開発にあたるほか、現地技術者お
よび経営者を対象とした日本的経営システムに関する研修を実施し、産業界・政府に大きなネットワーク
を拡げている。様々な産業分野に 2000 余りの協力者を配し、産業ごとの市場参入調査を詳細に行うことが
可能。ブラジル市場に関心を持つ日本企業に対し、ローカルなリスクを最小化し、成功の可能性を最大化
するために必要な支援を提供する。
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