EPLBD 診療ガイドライン 糸井 隆夫、 良沢 昭銘、 潟沼 朗生、 岡部 義信、 洞口 淳、 加藤 博也、 土屋 貴愛、 藤田 直孝、 安田 健治朗、 五十嵐 良典、 後藤田 卓志、 藤本 一眞 日本消化器内視鏡学会 要旨 日本消化器内視鏡学会は,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,「EPLBD診療ガイド ライン」を作成した.EPLBDは近年普及している総胆管結石に対する治療法の一つである.この分野 においてはエビデンスレベルが低いものが多く,専門家のコンセンサスに基づき推奨の強さを決 定しなければならないものが多かった.本診療ガイドラインは「EST診療ガイドライン」に準じて, 定義と適応,手技,特殊な症例への対処,偶発症,治療成績,術後経過観察の6つの項目に分け,現時 点での指針とした. Key Word: [ 1 ] はじめに 近年普及している総胆管結石に対する内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術 (endoscopic papillary balloon dilation: EPLBD)を安全かつ確実に実施するためには,基本的な指針が必要である.これま で,本法においてEPLBDに関してのガイドラインはなかった.そこで,同学会ガイドライン委員会は, EPLBD診療ガイドラインを,科学的な手法に基づいた基本的な指針となるものとして新たに作成す ることを決定した.作成方法は,近年行われている国際的に標準とされているevidence based medicine(EBM)の手順に則って行った.具体的には「Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014」 1) に 従い,EBMに基づいたガイドライン作成を心がけた(Table 1 ).執筆の形式は「EST診療ガイド 2) ライン」 に準じ,CQ(Clinical question)形式とした.なお,この領域におけるレベルの高いエビ デンスは少なく,専門家のコンセンサスを重視せざるを得なかった.本ガイドラインがEPLBD診療 での有用な指針となることを期待する. Table 1 推奨の強さとエビデンスレベル. 1 推奨の強さ 1 :強く推奨する 2 :弱く推奨する(提案する) なし:明確な推奨ができないもしくは推奨の強さを決められない エビデンスレベル A:強い根拠に基づく B:中程度の根拠に基づく C:弱い根拠に基づく D:とても弱い根拠に基づく [ 2 ] 本ガイドラインの作成手順 1 . 委員 日本消化器内視鏡学会ガイドライン作成委員として胆膵消化器内視鏡医 7 名が作成を委嘱された. また評価委員として, 胆膵消化器内視鏡医 4 名が評価を担当した(Table 2 ). Table2 EPLBD 診療ガイドライン作成委員会構成メンバー. _______________________________________________________________________________________ 日本消化器内視鏡学会 ガイドライン委員会 担当理事 藤本 一眞 (佐賀大学内科) 委員長 藤本 一眞 (佐賀大学内科) EPLBD 診療ガイドラインワーキング委員会 委員長 糸井 隆夫 東京医科大学 臨床医学系消化器内科学分野 作成委員長 糸井 隆夫 東京医科大学 臨床医学系消化器内科学分野 良沢 昭銘 埼玉医科大学国際医療センター 消化器内科 潟沼 朗生 手稲渓仁会病院 消化器病センター 岡部 義信 久留米大学医学部 内科学講座 消化器内科部門 洞口 淳 医療法人社団洞口会 名取中央クリニック 消化器内科 加藤 博也 岡山大学医学部附属病院 消化器内科 作成委員 2 土屋 貴愛 東京医科大学 臨床医学系消化器内科学分野 評価委員長 藤田 直孝 みやぎ健診プラザ 副所長 評価委員 安田 健治朗 京都第二赤十字病院 消化器内科 五十嵐 良典 東邦大学医療センター大森病院 消化器内科 後藤田 卓志 日本大学病院 医学部内科学系消化器肝臓内科学分野 作成協力委員 金 俊文 手稲渓仁会病院 消化器病センター ______________________________________________________________________________________ 2 . 推奨の強さとエビデンスレベル,ショートステートメント 作成委員により,定義と適応,手技,特殊な症例への対処,偶発症,治療成績,術後経過観察の 6 つ の項目が設定された.それぞれの項目について,CQを作成し,評価委員会の評価を参考に修正を加 え最終的に 21 個となった.そして,各CQ に対して,PubMed および医学中央雑誌にて初めてEPLBD が報告された 2002 年から 2015 年までの期間で,系統的に文献検索を行った.不足の文献に対し てはハンドサーチも採用した.検索した文献を評価し必要な文献を採用し, 各 CQ に対するステー トメントと解説文を作成した.そして,作成委員は各担当分野の各文献のエビデンスレベルおよびス テートメントに対する推奨の強さとエビデンスレベルを Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014 に従って設定した. 作成されたステートメントと解説文を用いて CQ 形式のガイドラインを 作成し,ステートメント案に対して,作成委員と評価委員の合計 9 名によりDelphi法による投票を 行った.Delphi法は, 1-3:非合意,4-6:不満,7-9:合意,として 7 以上のもとをステートメントとして 採用した.完成したガイドライン案は,評価委員の評価を受けたうえで修正を加えた後、今回学会 会員に公開した. 3 . 対象 本ガイドラインの取り扱う対象患者は,EPLBDによる治療,検査を受ける患者とする.また,利用者 は EPLBD を施行する臨床医およびその指導医とする.ガイドラインはあくまでも標準的な指針で あり,個々の患者の意志,年齢,合併症,社会的状況,施設の事情などにより柔軟に対応する必要 がある. 3 [ 4 ] 本論文内容に関連する著者の利益相反: 本ガイドライン作成委員,評価委員の利益相反に関して各委員には下記の内容で申告を求めた. 1 . 本ガイドラインに関係し,委員または委員と生計を一にする扶養家族が個人として何らかの 報酬を得た企業・団体について: 役員・顧問職(100 万円以上),株(100 万円以 上),特許等使用料(100 万円以上),講演料等(50 万円以上),原稿料等(50 万円以上),研究 費(個人名義 100 万円以上),その 他の報酬(100 万円以上) なし 2 . 本ガイドラインに関係し,委員の所属部門と 産業連携活動(治験は除く)を行っている企業・団 体について: 寄附講座(100 万円以上),共同研究・委託料(100 万円以上),実施許諾・権利譲渡(100 万 円 以上),奨学寄附金(100 万円以上) なし [ 5 ] 資金 本ガイドライン作成に関係した費用は,日本消化器内視鏡学会によるものである. 文献 1. Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014.福井次 矢,山口直人監修,医学書院,東京,2014.消 化器内視鏡ガイドライン 第 3 版.日本消化器内視 鏡学会監修,医学書院,東京,2006. 2. 良沢昭銘 糸井隆夫 潟沼朗生 ほか.EST 診療ガイドライン. Gastroenterol Endosc 2015;57: 2722-59. 4 [ 6 ] EPLBD 診療ガイドライン 1. 定義と適応 ステートメント 1-1: EPLBD の適応は、胆管拡張を有し、EST や EPBD 単独で結石除去困難な大結石や多数結石などであ る。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9 推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C 解説: 内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy; EST)は、胆管結石に対する経乳頭的 治療法として 1974 年に報告され 1)~3)、現在では最も標準的な手技のひとつとなっている。同じく 経乳頭的治療である内視鏡的乳頭バルーン拡張術 (endoscopic papillary balloon dilation; EPBD) 4)~6)は、乳頭機能の温存 7)を重視する場合や、出血傾向を有する症例に対する選択として行 われている。10mm 以下の小口径バルーンを用いて胆管口を拡張させる手技であり、通常 EST を付 加せずに行う。一方、内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術 (endoscopic papillary large balloon dilation; EPLBD)は、12mm 以上の大口径バルーンを用いて胆管口を拡張させる手技である。EPLBD は、2003 年に Ersoz ら 8)により初めて報告された手技であり、EPLBD 後に大きな開口部が得られる ため、胆管拡張を有し、EST や EPBD 単独では治療困難な症例(大結石、多数結石、樽型結石など) に対する結石除去が比較的容易に行える 9)~12)。 Ersoz ら 8)は、EST 大切開後に通常のバスケットカテーテルやバルーンカテーテルでは結石除去 困難であった 58 例に EPLBD を行った。遠位胆管の先細りを有する 18 例のうち 16 例(89%)で機械的 砕石具 (mechanical lithotripter; ML)を用いずに結石除去に成功している。また、15mm 以上の 大結石や積上げ結石、樽型結石を有する 40 例のうち 38 例(95%)で ML を用いずに結石除去に成功し ている。Maydeo ら 9)は、12mm 以上の巨大結石に対して ML を用いずに 95%の結石除去率が得られた と報告している。本邦からは Minami ら 10)が、12mm 以上の大結石を対象として、亜硝酸剤併用下に 最大径 20mm のバルーンを用いて、手押しでインフレート、デフレートを繰り返すという方法で 99% の完全結石除去率が得られたと述べている。Itoi ら 12)は、EPLBD を施行することにより、手技の時 間短縮が得られ、被曝時間の短縮につながったと報告している。 結石径については、これまでの報告では 10mm 以上 11)、12mm 以上 9, 10, 13)、15mm 以上 12, 14)などが 適応とされている。個数については 3 個以上という報告が多い 12), 15)。遠位胆管の先細りや屈曲を 有する症例も結石除去処置が困難であり、EPLBD の良い適応とされている 8), 12), 15)。 5 EST 後の再発結石も EPLBD の良い適応である 16), 17)。EST 後の再発結石症例では、追加切開を要す ることも少なくないが、出血や穿孔のリスクがある。Harada ら 17)は EST 後再発結石に対し、EPLBD を施行した群と施行しなかった群で比較し、ML の使用率は EPLBD 群で有意に低く、少なくとも 2 年以内の結石再々発率は EPLBD 群の方が低かったと報告している。 文献: 1. Kawai K, Akasaka Y, Murakami K et al. Endoscopic sphincterotomy of the ampulla of Vater. Gastrointest Endosc 1974;20:148-51.(ハンドサーチ) (ケースシリーズ) 2. Classen M, Demling L. Endoskopische sphinkterotomie der papilla Vateri und steinextraktion aus dem ductus choledochus. Dtsch med Wschr 1974;99:496-7.(ハンドサーチ) (ケースシリーズ) 3. 相馬 智,立川 勲,岡本安弘 ほか.内視鏡的乳頭切開術および遺残胆道結石摘出の試み. Gastroenterol Endosc 1974;16:446-53.(ハンドサーチ) (ケースシリーズ) 4. Staritz M, Ewe K, Meyer zum Buschenfelde KH. Endoscopic papillary dilation (EPD) for the treatment of common bile duct stones and papillary stenosis. Endoscopy 1983;15:197-8.(ハ ンドサーチ) (ケースシリーズ) 5. Bergman JJGHM, Rauws EAJ, Fockens P et al. Randomized trial of endoscopic balloon dilation versus endoscopic sphincterotomy for removal of bile duct stones. Lancet 1997;349:1124-9. (ハンドサーチ) (ランダム化比較試験) 6. Fujita N, Maguchi H, Komatsu Y et al: Endoscopic sphincterotomy and endoscopic papillary balloon dilation for bile duct stones: A prospective randomized controlled multicenter trial. Gastrointest Endosc 2003;57;151-5.(ハンドサーチ) (ランダム化比較試験) 7. Yasuda I, Tomita E, Enya M et al. Can endoscopic papillary balloon dilation really preserve sphincter of Oddi function? Gut 2001;49:686-91. (ハンドサーチ) (ケースシリーズ) 8. Ersoz G, Tekesin O, Ozutemiz AO et al. Biliary sphincterotomy plus dilation with a large balloon for bile duct stones that are difficult to extract. Gastrointest Endosc 2003;57:156-9. (ケースシリーズ) 9. Maydeo A, Bhandari S. Balloon sphincteroplasty for removing difficult bile duct stones. Endoscopy 2007;39:958-61. (ケースシリーズ) 10. Minami A, Hirose S, Nomoto T et al. Small sphincterotomy combined with papillary dilation with large balloon permits retrieval of large stones without mechanical lithotripsy. World J Gastroenterol 2007;13:2179-82. (ケースシリーズ) 11. Attasaranya S, Cheon YK, Vittal H et al. Large-diameter biliary orifice balloon dilation to aid in endoscopic bile duct stone removal: a multicenter series. Gastrointest Endosc 6 2008;67;1046-52. (ケースシリーズ) 12. Itoi T, Itokawa F, Sofuni A et al. Endoscopic sphincterotomy combined with large balloon dilation can reduce the procedure time and fluoroscopy time for removal of large bile duct stones. Am J Gastroenterol 2009;104:560-5. (ケースシリーズ) 13. Stefanidis G, Viazis N, Pleskow D et al. Large Balloon Dilation vs. Mechanical Lithotripsy for the Management of Large Bile Duct Stones: A Prospective Randomized Study. Am J Gastroenterol 2011;106:278-85. (ランダム化比較試験) 14. Kim HJ, Choi HS, Park JH et al. Factors influencing the technical difficulty of endoscopic clearance of bile duct stones. Gastrointest Endosc 2007;66:1154-60. (ケースシリーズ) 15. Kim TH, Kim JH, Seo DW et al. International consensus guidelines for endoscopic papillary large-balloon dilation. Gastrointest Endosc 2016;83:37-47. (ガイドライン) 16. Kim KO, Kim TN, Lee SH. Endoscopic papillary large balloon dilation for the treatment of recurrent bile duct stones in patients with prior sphincterotomy. J Gastroenterol 2010;45:1283-8. (ケースシリーズ) 17. Harada R, MaguchiH, Takahashi K et al. Large balloon dilation for the treatment of recurrent bile duct stones prevents short-term recurrence in patients with previous endoscopic sphincterotomy. J Hepatobiliary Pancreat Sci 2013;20:498-503.(コホート) ステートメント 1-2: EPLBD の禁忌は、遠位胆管狭窄症例、胆管非拡張症例、急性膵炎症例(推奨の強さ:1) 、出血傾 向を有する症例、抗血栓薬内服中の症例(推奨の強さ:2)などである。 Delphi 法による評価 中央値:8 最低値: 7 最高値:9 推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C 解説: EPLBD は遠位胆管に明らかな狭窄を有する症例や胆管が拡張していない症例では推奨されない 1), 2) 。このような症例では、EPLBD による拡張処置により穿孔を惹起するリスクが高くなると考えら れている。 その他、 「EST 診療ガイドライン」3)で EST の禁忌とされている症例、すなわち出血傾向を有する症 例、抗血栓薬内服中の症例、急性膵炎症例(胆石性膵炎は除く)なども EPLBD の禁忌である。 抗血栓薬内服中の症例については、EST を付加する場合、 「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡 7 診療ガイドライン」4)において EST は出血高危険度の手技とされているため、EPLBD においても原 。 則的に EST 診療ガイドライン 3)に基づいた対処が望ましい(CQ2-5 を参照) 急性膵炎のうち胆石性膵炎については、 「急性膵炎診療ガイドライン 2015 第 4 版」5)では急性胆 石性膵炎のうち、胆管炎合併例、黄疸の出現または増悪がみられる症例には、早期の ERCP/EST を 施行すべきであると強く推奨している。ただし、EPLBD については現時点までに明らかなエビデン スはなく、今後の症例蓄積が必要である。乳頭陥頓結石については、結石が乳頭近傍からはずれな い場合にはバルーン拡張により胆管穿孔の危険があるため適応はなく、プレカットや EST を試みる べきである。 文献: 1. Park SJ, Kim JH, Hwang JC et al. Factors predictive to adverse events following endoscopic papillary large balloon dilation: results from a multicenter series. Dig Dis Sci 58:1100-9. (ケースシリーズ) 2. Kim TH, Kim JH, Seo DW et al. International consensus guidelines for endoscopic papillary large-balloon dilation. Gastrointest Endosc 2016;83:37-47. (ガイドライン) 3. 良沢昭銘、糸井隆夫、潟沼朗生 ほか. EST 診療ガイドライン.Gastroenterol Endosc 2015;57:2721-2758. (ハンドサーチ) (ガイドライン) 4. 藤本一眞,藤城光弘,加藤元嗣 ほか.抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン. Gastroenterol Endosc 2012;54:2075-102. (ハンドサーチ) (ガイドライン) 5. 急性膵炎診療ガイドライン 2015 改訂出版委員会編. 急性膵炎診療ガイドライン 2015 第 4 版 金 原出版株式会社,東京 2015;146-50. (ハンドサーチ) (ガイドライン) ステートメント 1-3: EPLBD の術者の条件として、熟練した ERCP 医のもとで EST をはじめとする基本手技を学びトレ ーニングを受けることを推奨する。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値: 8 最高値:9 推奨の強さ:1 エビデンスレベル:D 解説: ERCP は診断よりもむしろ治療手技として用いられることが増加しているので、EPLBD は EST と同 様、ERCP のトレーニングにおける必修項目であり、初学者がひとりで ERCP を行うようになるまで にマスターすべき手技である。EPLBD は EST の代替手技ではなく、EST を補完する手技であるので、 8 EPLBD に先立って EST の手技を習得すべきである。 (掲載時1行空ける) 参考として、ASGE(米国消化器内視鏡学会)では初学者は EST を施行するまでに、A)十二指腸ス コープの挿入法、B)乳頭正面視、C)選択的カニュレーション、D)胆管膵管造影所見の読影、など ERCP の基本的手技とカニュレーションについて十分に身につけておく必要があるとしており 1)、こ れらについて十分に学んでから EST のトレーニングを開始すべきである。また、高周波発生装置の 原理と各モードの違い、各種スフィンクテロトームやガイドワイヤの違いについても十分な知識を 持っておく必要がある。EST の適応や手技の基本、さらに偶発症やそれに関するリスクファクター についても理解しておくべきである。ASGE では初学者がひとりで ERCP を行うようになるまでに、 40 件の EST、10 件のステント留置を含む 200 件の ERCP のトレーニングを受ける必要があるとの目 安を示している 2)。近年では指導医によるハンズオントレーニングのほかに、EST のトレーニング に有用な各種モデルも開発されている 3)~5)。 文献: 1. American Society for Gastrointestinal Endoscopy. ERCP core curriculum. Gastrointest Endosc 2006;63:361-76.(ハンドサーチ) (ガイドライン) 2. American Society for Gastrointestinal Endoscopy. Methods of granting hospital privileges to perform gastrointestinal endoscopy. Gastrointest Endosc 2002;55:780-3.(ハンドサーチ) (ガイドライン) 3. Itoi T, Gotoda T, Baron TH et al. Creation ofsimulated papillae for endoscopic sphincterotomy and papillectomy training by using in vivo and ex vivo pig model (with videos). Gastrointest Endosc 2013;77:793-800.(ケースシリーズ) 4. Velázquez-Aviña J, Sobrino-Cossío S, Chávez-Vargas C et al. Development of a novel and simple ex vivo biologic ERCP training model. Gastrointest Endosc. 2014;80:1161-7.(ケー スシリーズ) 5. Katanuma A, Itoi T, Umeda J et al. A novel dry model for practicable sphincterotomy and precut needle knife sphincterotomy. Gastroenterol Res Pract. 2014;2014:908693. Epub 2014 Sep 10.(ケースシリーズ) 9 2. 手技 ステートメント 2-1: EST 付加後の EPLBD は、初回結石除去率を向上させ、機械式砕石具使用頻度を減少させる可能性 がある。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値: 8 最高値:9 推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C 解説: EPLBD は EST を施行後に大口径バルーンを用いて大きな胆管開口部を得る手技として 2003 年に 報告された 1)。その後、EST を付加せず手技を単純化する大口径バルーンのみで乳頭を拡張させる 方法が 2009 年に報告されている 2)。従来の 6-8mm バルーンを用いる内視鏡的乳頭バルーン拡張術 (Endoscopic papillary balloon dilatation: EPBD)は EST と比較し、膵炎の合併症率が高いこと が報告されており 3-5)、より大口径のバルーンを用い、EST を付加せずに拡張する手技は膵炎発症も 危惧された。しかしながら Jeong ら2)の EST を付加しない EPLBD(EPLBD without EST)38例の preliminary の検討によると中等症の膵炎が1例(2.6%)のみであり、EPLBD without EST は安全 かつ有用な手技であると報告している。Hwang ら 6)の 131 例(without EST 62 例、with EST 69 例) の RCT の結果によると、膵炎(without EST 6.5% vs. with EST 4.3%, p = 0.593), バスケット嵌 頓 (without EST 0% vs. with EST 1.4%, p = 0.341), 穿孔( without EST 0% vs. with EST 1.4%, p = 0.341)といずれも EST 付加の有無では合併症率には差は認めていない。本邦からの retrospective の解析でも EST の付加の有無では偶発症の頻度には差は認めていない 7,8)。Park ら 9) は日本、韓国の12施設で施行した 946 例の EPLBD 症例の偶発症の危険因子を検討しているが、 without EST は偶発症の危険因子にはならないとしている。さらに Kim ら 10)の EPLBD with EST 30 編の論文、 EPLBD without EST3 編の論文による meta-analysis の結果によると EPLBD with large EST 756 例、EPLBD with limited EST 946 例、EPLBD without EST 416 例における、全体の偶発症(8.6%, 7.5%, 7.0%, p=0.568)、膵炎発症(2.1%, 3.1%, 3.9%,p=0.349)と差は認めていない。他にも同様の 報告がなされている 11,12)。このように EPLBD に先立ち EST を施行することは偶発症の観点からは有 用性は乏しいと考えられる。しかしながら、これらの報告は胆管拡張例や大結石例を適応としてい る点に注意が必要である。 EPLBD with EST と EPLBD without EST の結石除去の成績の比較については、本邦からの後ろ向 きの成績が報告されており、結石除去率、機械式砕石具(Mechanical lithotripter: ML)使用頻 度には差は認めていない 7,8)。また、with EST と without EST の 2 つの RCT では、いずれの報告も 結石除去率、ML 使用率には差は認めず、EPLBD 施行前の EST は必ずしも必要ではないと結論づけて 10 いる 6, 11)。しかしながら、Kim ら 10)の meta-analysis によると、初回の結石除去率は EST を付加し た方が高く(with EST 84.0% vs without 76.2% P < 0.001) 、ML 使用頻度は EST を付加した方が 低い(with EST 14.1% vs without 21.6%, P < 0.001)結果であり、EST の付加が初回結石除去率 の向上、ML 使用頻度の減少に有用な可能性がある。しかしながら、この meta-analysis は、前向 きに比較検討した研究は少なく、 また EPLBD with EST の論文は 30 編(2511 例)であるのに対し EPLBD without EST は 3 編(414 例)と少なくバイアスが生じている可能性もあり、今後さらなる大規模な 比較研究が必要である。 文献: 1. Ersoz G, Tekesin O, Ozutemiz AO et al. Biliary sphincterotomy plus dilation with a large balloon for bile duct stones that are difficult to extract. Gastrointest Endosc 2003;57:156-9. (コーホート、ケースシリーズ) 2. Jeong S, Ki SH, Lee DH et al. Endoscopic large-balloon sphincteroplasty without preceding sphincterotomy for the removal of large bile duct stones: a preliminary study. Gastrointest Endosc 2009;70: 915-22.(コーホート、ケースシリーズ) 3. Disario JA, Freeman ML, Bjorkman DJ et al. Endoscopic balloon dilation compared with sphincterotomy for extraction of bile duct stones. Gastroenterology. 2004;127:1291-9. (ラ ンダム化比較試験) 4. Bergman JJGHM, Rauws EAJ, Fockens P et al. Randomized trial of endoscopic balloon dilation versus endoscopic sphincterotomy for removal of bile duct stones. Lancet 1997;349:1124-9. (ランダム化比較試験) 5. Fujita N, Maguchi H, Komatsu Y et al. Endoscopic sphincterotomy and endoscopic papillary balloon dilation for bile duct stones: A prospective randomized controlled multicenter trial. Gastrointest Endosc 2003;57;151-5.(ランダム化比較試験) 6. Hwang JC, Kim JH, Lim SG et al. Endoscopic large-balloon dilation alone versus endoscopic sphincterotomy plus large-balloon dilation for the treatment of large bile duct stones. BMC Gastroenterol 2013;13:15.(ランダム化比較試験) 7. Okuno M, Iwashita T, Yoshida K et al. Significance of Endoscopic Sphincterotomy Preceding Endoscopic Papillary Large Balloon Dilation in the Management of Bile Duct Stones. Dig Dis Sci 2016;61:597-602. (コーホート,retrospective) 8. Kogure H, Tsujino T, Isayama H et al. Short- and long-term outcomes of endoscopic papillary large balloon dilation with or without sphincterotomy for removal of large bile duct stones. Scand J Gastroenterol 2014;49:121-8. (コーホート,retrospective) 9. Park SJ, Kim JH, Hwang JC, et al. Factors predictive of adverse events following endoscopic 11 papillary large balloon dilation: results from a multicenter series. Dig Dis Sci 2013; 58: 1100-9. (コーホート,retrospective) 10. Kim JH, Yang MJ, Hwang JC et al. Endoscopic papillary large balloon dilation for the removal of bile duct stones. World J Gastroenterol. 2013 Dec 14;19:8580-94.(システマティ ックレビュー) 11. Omuta S, Maetani I, Saito M et al. Is endoscopic papillary large balloon dilatation without endoscopic sphincterotomy effective? World J Gastroenterol 2015;21:7289-96.(コー ホート、prospective) 12. Chan HH, Lai KH, Lin CK et al. Endoscopic papillary large balloon dilation alone without sphincterotomy for the treatment of large common bile duct stones. BMC Gastroenterol 2011 ;11:69.(コーホート, retrospective) ステートメント 2-2: EST の切開方向は、11時から12時(方向)を推奨する。 切開範囲は中切開までとする。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9 推奨の強さ:1 エビデンスレベル:B 解説: 切開方向による出血・穿孔のリスクを比較したエビデンスは存在しないが、11 時から 12 時方向 に切開するのが安全であると考えられており、多くの専門家が推奨している 1-4)。出血に関しては、 Mirjalili ら 5)は剖検 19 例における乳頭部近傍の 98 の動脈を同定し、内視鏡画面における血管分 布を報告している。この報告によると、10 時から 11 時方向の血管分布が 10-11%と少なく、この方 向への切開が出血のリスクは低いと述べている。しかしながら、胆管走行を考慮すると11時から 12時方向の切開が妥当と考えられる。 肝硬変 (OR 8.03, p = 0.003), 切開範囲については、 Park ら 6)による多施設共同の946 例の解析では、 EST 長(full-EST: OR 6.22, p < 0.001)、結石径(≥16 mm: OR 4.00, p < 0.001) が出血の危険因 子である。また Kim ら 7)の meta-analysis によると large EST は limited EST (OR 3.33, P < .001)、 without EST(OR 2.17, P = 0.049)と比べ出血率が高いことが報告されている。このように大切開 は避けるべきであるとの意見が多い 8)。小切開と中切開のどちらを選択すべきかについては明確な エビデンスはない。15mm 以上の結石を対象とした small EST + EPLBD (n = 27) と conventional EST (n = 28)の 55 例との比較では、1st session での完全除石率 (85% vs 86%,P = 0.473)、ML 使用率 (33% vs 32%, P = 0.527)とも差はないため Small EST は EST と比べても治療効果に与える影響は 12 少ないとの報告はあるが、少数例の報告である。傍乳頭憩室例に対しては小切開とバルーン拡張で 安全に手技施行可能であったとの報告がなされている 10)。 文献: 1. 猪股正秋,照井虎彦,遠藤昌樹 ほか. 出血させない内視鏡的十二指腸乳頭括約筋切開術のコツ. Gastroenterol Endosc 2005; 47: 1556-67.(専門家の意見) 2. 良沢昭銘、岩野博俊、田場久美子 ほか. ERCP,EST の基本.胆道 2013; 27: 29-38. (専門家の 意見) 3. 安田一朗. 総胆管結石治療における EST と EPBD. 胆道 2012;26:162-8. (専門家の意見) 4. 向井秀一、中島正継、藤田直孝. EST と EPBD. 消化器内視鏡ハンドブック.日本消化器内視鏡学 会卒後教育委員会編, 日本メディカルセンター、東京,2012;419-26.(ガイドライン) 5. Mirjalili SA, Stringer MD. The arterial supply of the major duodenal papilla and its relevance to endoscopic sphincterotomy. Endoscopy 2011;43:307-11.(コホート) 6. Park SJ, Kim JH, Hwang JC, et al. Factors predictive of adverse events following endoscopic papillary large balloon dilation: results from a multicenter series. Dig Dis Sci 2013;58:1100-9. (コーホート, retrospective) 7. Kim JH, Yang MJ, Hwang JC et al. Endoscopic papillary large balloon dilation for the removal of bile duct stones. World J Gastroenterol 2013;19:8580-94.(システマティックレビュー) 8. Lee DK, Han JW. Endoscopic papillary large balloon dilation: guidelines for pursuing zero mortality. Clin Endosc 2012;45:299-304.(専門家の意見) 9. Kim HG, Cheon YK, Cho YD et al. Small sphincterotomy combined with endoscopic papillary large balloon dilation versus sphincterotomy. World J Gastroenterol 2009;15:4298-304.(RCT) 10. Kim HW, Kang DH, Choi CW et al. Limited endoscopic sphincterotomy plus large balloon dilation for choledocholithiasis with periampullary diverticula. World J Gastroenterol. 2010;16:4335-40.(コーホート, retrospective) ステートメント 2-3: バルーン径は、遠位胆管径と結石短径を考慮して選択する。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9 推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C 13 解説: 本邦で使用可能な EPLBD 用のラージバルーンカテーテルは、CRE Wireguided Biliary Dilatation Balloon Catheter(Boston Scientific)、カネカ EPBD カテーテル DI-Wl Giga(Kaneka Medix)、カ ネカ胆管拡張バルーン REN(Kaneka Medix)と、Sphicterotome と一体型となっているディスポーザ ブルバルーンダイレータ V-System(ナイフ付)「StoneMaster V」(Olympus)の 4 種類がある。処置 具別の比較に関する報告はない。 バルーン径に関して、Hisatomi ら 1)の豚生体モデルを用いた研究では 12mm 以上の拡張で胆管壁損 傷、15mm 以上で胆管穿孔の発症が報告されている。但し、豚の胆管壁そのものが薄く、下部胆管 周囲が膵に取り囲まれていないなど解剖学的構造が人体と異なっているため、この結果が必ずしも 人体に適応されるわけではない。バルーン径に関する比較研究の報告はないが、EPLBD の偶発症に 穿孔のリスク因子にバルーン径は含まれなかった。 関する Park ら 2)の多施設共同研究の報告では、 また、 15mm 以上のバルーン拡張にて EPLBD を施行した 101 例の retrospective study に関する Youn ら 3)の報告では、膵炎 5%、穿孔 1%の偶発症を認めるのみであった。以上より、バルーン径と偶発 症頻度に関する明確なエビデンスはない。専門家の意見としては、動物実験により穿孔のリスクが 高まるを受けて 15mm 以上のバルーンはなるべく使用しないよう提案する 4)ものもあるが、多くの 専門家は 5-7) 、バルーン径は胆管径や結石短径を超えない範囲で選択することを提唱している。な お、胆管径の測定に関しては、遠位胆管が細い症例も存在する 5)ことから遠位胆管径で行う。 文献: 1. Hisatomi K, Ohno A, Tabei K et al. Effects of large-balloon dilation on the major duodenal papilla and the lower bile duct: histological evaluation by using an ex vivo adult porcine model. Gastrointest Endosc 2010;72:366-72.(基礎研究) 2. Park SJ, Kim JH, Hwang JC et al. Factors predictive of adverse events following endoscopic papillary large balloon dilation: results from a multicenter series. Dig Dis Sci 2013;58:1100-9.(コホート、retrospective) 3. Youn YH, Lim HC, Jahng JH et al. The increase in balloon size to over 15 mm does not affect the development of pancreatitis after endoscopic papillary large balloon dilatation for bile duct stone removal. Dig Dis Sci 2011;56:1572-7.(コホート、retrospective) 4. Teoh AY, Lau JY. Tips in biliary stone removal using endoscopic papillary large balloon dilation. J Hepatobiliary Pancreat Sci 2015;22:E8-11.(専門家の意見) 5. 糸井 隆夫, 祖父尼 淳, 糸川 文英 ほか. 手技の解説 大結石に対する EST+ラージバルーン 法. Gastroenterol Endosc 2012;54: 1492-7.(専門家の意見) 6. Lai KH, Chan HH, Tsai TJ et al. Reappraisal of endoscopic papillary balloon dilation for the management of common bile duct stones. World J Gastrointest Endosc 2015;7:77-86.(シ 14 ステマティックレビュー) 7. 川畑 修平, 木暮 宏史, 辻野 武 ほか. 内視鏡的乳頭大径バルーン拡張術(EPLBD)の基本手 技. 胆と膵 2014;35:521-5.(専門家の意見) ステートメント 2-4-1: 拡張径の目安は、遠位胆管径を超えないようにする。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9 推奨の強さ:2 エビデンスレベル:D 解説: EPLBD の偶発症に関する Park ら 1)の多施設共同研究の報告では、EPLBD 施行 946 例のうち 9 例に 穿孔の合併を認めているが、うち 3 例は致命的であり、その原因としてバルーンの過拡張にあると 分析している。また、多変量解析にて遠位胆管狭窄が穿孔のリスク因子として抽出されている(OR 17.083, 95%CI 3.963-74.132; p<0.001)。また、Billroth-II 法に対する胆管結石治療として Double balloon enteroscopy 下に EPLBD を施行した Cheng ら 2)の retrospective study の報告では、48 例 のうち 2 例に穿孔を認めており、いずれも遠位胆管径と同程度のバルーンを用いて拡張した例であ った(case1、使用バルーン 12mm/遠位胆管径 12mm;case 2、使用バルーン 18mm/遠位胆管径 18mm)。 EPLBD に関する国際ガイドライン 3)においても、胆管径を超えない拡張が推奨されている。以上よ り、バルーンの拡張は遠位胆管径を超えないようにすることが重要と考える。 拡張の際には乳頭括約筋に相当する部位に notch(バルーンのくびれ)が生じるが、EPBD の際には notch の消失を確認するまで拡張を行うことが一般的である 4)。EPLBD においても notch の消失を 確認することが多いが、最大拡張圧の 75%以上の加圧でも notch が消失しない場合には遠位胆管狭 窄が潜んでいる可能性があり 5)、それ以上の加圧を控えるのが安全である。 文献: 1. Park SJ, Kim JH, Hwang JC et al. Factors predictive of adverse events following endoscopic papillary large balloon dilation: results from a multicenter series. Dig Dis Sci 2013;58:1100-9.(コホート、retrospective) 2. Cheng CL, Liu NJ, Tang JH et al. Double-balloon enteroscopy for ERCP in patients with Billroth II anatomy: results of a large series of papillary large-balloon dilation for biliary stone removal. Endosc Int Open 2015;3:E216-22.(コホート、retrospective) 3. Kim TH, Kim JH, Seo DW et al. International consensus guidelines for endoscopic papillary 15 large-balloon dilation. Gastrointest Endosc 2016;83:37-47.(ガイドライン) 4. Lai KH, Chan HH, Tsai TJ et al. Reappraisal of endoscopic papillary balloon dilation for the management of common bile duct stones. World J Gastrointest Endosc 2015;7:77-86. (シ ステマティックレビュー). 5. Lee DK, Han JW. Endoscopic papillary large balloon dilation: guidelines for pursuing zero mortality. Clin Endosc 2012;45:299-304.(専門家の意見) ステートメント 2-4-2: バルーン拡張は緩徐に行うが、適切な拡張時間については明確なエビデンスがない。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9 推奨の強さ:2 エビデンスレベル:D 解説: バルーンの拡張速度に関する研究報告はないものの、過拡張に伴う穿孔を防止する観点からバル ーンの拡張は緩徐に行うことが提唱されている 1-3)。 バルーンの拡張時間に関しては、短いもので 5-15 秒の拡張 4)、あるいは notch の消失直後に拡張 を止めている報告 5)から、長いもので 2-6 分の拡張を行った報告 6)まであるが、明確なエビデンス は存在しない。拡張時間に関する比較試験は、拡張時間 30 秒と 60 秒で比較した Paspatis ら 7)の Randomized control study のみであり、拡張時間 30 秒の 64 例と 60 秒の 60 例では結石除去率(86% vs 85%, p=0.5)及び合併症率(出血: 3.1% vs 6.7%, p=0.2; 穿孔: 1.6% vs 1.7%, p=0.9; 膵炎: 3.1% vs 3.3%, p=0.9)に差を認めなかった。また、Feng ら 8) の EPLBD と EST との比較に関する meta-analysis では、拡張時間 60 秒以上の EPLBD、60 秒以下の EPLBD と EST との結石除去率を比 較し、いずれも有意差を認めなかったことを報告している(拡張時間 60 秒以下の EPLBD vs EST, OR=2.77, 90% CI 0.80-9.61, p=0.11; 拡張時間 60 秒以上の EPLBD vs EST, OR=0.56, 90% CI 0.18-1.78, p=0.33)。国際ガイドラインでは notch 消失後 30-60 秒の拡張を推奨しており 9)、必ず しも長時間の拡張を要さない可能性が示唆されるが、この点に関しては更なるエビデンスの集積が 必要と考える。 文献: 1. 糸井 隆夫, 祖父尼 淳, 糸川 文英 ほか. 手技の解説 大結石に対する EST+ラージバルーン 法. Gastroenterol Endosc 2012;54: 1492-7.(専門家の意見) 2. Ersoz G, Tekesin O, Ozutemiz AO et al. Biliary sphincterotomy plus dilation with a large 16 balloon for bile duct stones that are difficult to extract. Gastrointest Endosc 2003 ;57:156-9.(コホート、retrospective) 3. Meine GC, Baron TH. Endoscopic papillary large-balloon dilation combined with endoscopic biliary sphincterotomy for the removal of bile duct stones (with video). Gastrointest Endosc 2011;74:1119-26.(システマティックレビュー) 4. Okuno M, Iwashita T, Yoshida K et al. Significance of Endoscopic Sphincterotomy Preceding Endoscopic Papillary Large Balloon Dilation in the Management of Bile Duct Stones. Dig Dis Sci 2016;61:597-602.(コホート、retrospective) 5. Sakai Y, Tsuyuguchi T, Sugiyama H et al. Endoscopic papillary large balloon dilation for bile duct stones in elderly patients. World J Clin Cases 2015;3:353-9.(コホート、prospective) 6. Chan HH1, Lai KH, Lin CK et al. Endoscopic papillary large balloon dilation alone without sphincterotomy for the treatment of large common bile duct stones. BMC Gastroenterol 2011 ;11:69.(コホート、retrospective) 7. Paspatis GA, Konstantinidis K, Tribonias G et al. Sixty- versus thirty-seconds papillary balloon dilation after sphincterotomy for the treatment of large bile duct stones: a randomized controlled trial. Dig Liver Dis 2013;45:301-4.(RCT) 8. Feng Y, Zhu H, Chen X et al. Comparison of endoscopic papillary large balloon dilation and endoscopic sphincterotomy for retrieval of choledocholithiasis: a meta-analysis of randomized controlled trials. J Gastroenterol 2012;47:655-63.(メタアナリシス) 9. Kim TH, Kim JH, Seo DW et al. International consensus guidelines for endoscopic papillary large-balloon dilation. Gastrointest Endosc 2016;83:37-47.(ガイドライン) ステートメント 2-5: 抗血栓薬の休薬は、抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインにおける出血高危険 度の内視鏡処置に準拠した対処が望ましい。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9 推奨の強さ:2 エビデンスレベル:D 解説: Kim ら 1)のメタアナリシスの報告では、EST を付加する EPLBD と EST を付加しない EPLBD の出血 リスクが同等であることを報告している(limited EST+EPLBD 1.3% vs EPLBD without EST 1.9%, p=0.35)。その他、重症の出血を合併した症例報告 2-3)もあり、少なくとも EPLBD は EST 付加に関わ 17 らず出血のリスクを伴う内視鏡処置であると考える。 EST を付加する EPLBD に関しては、EST が消化器内視鏡診療ガイドライン 4)における出血高危険度 の内視鏡処置に相当するため、ガイドラインに準拠した対処が必要であると考える。特に、EPLBD の偶発症に関する Park ら 1)の多施設共同研究の報告にて、大切開は出血のリスク因子である事が 報告されており(OR 6.2, 95%CI 2.374-16.307; p<0.001)、避けるべきである。 一方、EST を付加しない EPLBD についてであるが、凝固障害例あるいは抗血栓薬服用例を対象とし た EPLBD に関する報告はない。凝固障害あるいは肝硬変を伴う例における乳頭処置法として EST と EPBD を比較した Park ら 5)の restorspective cohort study の報告では、出血は EPBD 施行 21 例か ら認めず、EST 施行 20 例のうち 6 例(30%)で認め、凝固障害例では EST より EPBD が望ましいとし ている。EPLBD に関する国際ガイドライン 6)では、抗凝固療法の中断が困難な場合の EPLBD 施行に 関しては、EST を付加しない EPLBD を推奨している。しかしながら EST を付加しない EPLBD 施行時 の抗血栓薬の対処に関する明らかなエビデンスは存在せず、安全性に関してはさらなる検討が必要 である。 文献: 1. Kim JH, Yang MJ, Hwang JC et al. Endoscopic papillary large balloon dilation for the removal of bile duct stones. World J Gastroenterol 2013;19:8580-94.(メタアナリシス) 2. Shimizu S, Naitoh I, Nakazawa T et al. Case of arterial hemorrhage after endoscopic papillary large balloon dilation for choledocholithiases using a covered self-expandable metallic stent. World J Gastroenterol 2015;21:5090-5.(症例報告) 3. Maroy B. Life-threatening hemorrhage caused by balloon dilation after sphincterotomy for extraction of a large stone. Endoscopy 2011;43:E94-5.(症例報告) 4. 藤本 一眞,藤城 光弘,加藤 元嗣 ほか. 抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラ イン. Gastroenterol Endosc 2012;54:2075-102.(ガイドライン) 5. Park DH, Kim MH, Lee SK et al. Endoscopic sphincterotomy vs. endoscopic papillary balloon dilation for choledocholithiasis in patients with liver cirrhosis and coagulopathy. Gastrointest Endosc 2004;60:180-5.(コホート、retrospective) 6. Kim TH, Kim JH, Seo DW et al. International consensus guidelines for endoscopic papillary large-balloon dilation. Gastrointest Endosc 2016;83:37-47.(ガイドライン) 18 ステートメント 2-6: ペースメーカーあるいは埋め込み型除細動器患者に EST を付加する場合は、高周波手術装置によ る影響が考えられるため循環器専門医へのコンサルトが望ましい。また手技施行中には、通常の患 者同様、心電図、血圧、酸素飽和度のモニタリングを行う。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9 推奨の強さ:2 エビデンスレベル:D 解説: バルーン拡張自体は電気的な機序によらないため、心臓ペースメーカーや埋込型除細動器に与える 影響はないと考えられる。しかし EST 付加後にバルーン拡張を行う場合には、高周波発生装置によ る干渉が危惧されており、安全性は十分に確立しているとは言い難い。高周波電流はペースメーカ ーに対して外部より影響を与え、ペースメーカー本体内部の破壊と demand 機構を障害するなどの 理由で危険と考えられている。これまでにも、術中の高周波発生装置の使用により、ペースメーカ ーが不調をきたして死亡した症例の報告もみられる 1)が、大腸ポリペクトミーでは高周波発生装置 を用いても安全に施行できたとの報告もなされている 2,3)。また、EST に関しても循環器専門医との 連携により安全に施行可能であったとの報告もなされている 4)。 ASGE のガイドラインを含め、専門家の意見では、完全房室ブロックの場合にはペースメーカー を非同期設定(VOO あるいは DOO モード)に変更するように推奨されている 5,6)。しかしながらペー スメーカーの種類によっては状況が異なり、患者の状態とペースメーカーの種類や対処法を含め、 循環器専門医に十分にコンサルトすることが望ましい。 ICD 患者に対する高周波装置使用の報告はなく、循環器専門医にコンサルトを行い、手技施行の 決定をすべきである。 文献: 1. 西野晶孝,伊藤田雄三,今野完治 ほか.ペースメーカー使用患者の麻酔経験について. 麻酔 1976; 25: 1306-11.(コホート、症例報告) 2. Ito S, Shibata H, Okahisa T et al. Endoscopic therapy using monopolar and bipolar snare with a high frequency current in patients with a pacemaker. Endoscopy 1994;26:270. (コ ホート) 3. Tanigawa K, Yamashita S, Maeda Y et al. Endoscopic polypectomy for pacemaker patients. Chin Med J 1995;108:579-81. (症例報告) 4. 隈井知之,山本俊幸,新美達司 ほか. ペースメーカー装着高齢患者に対する 内視鏡的乳頭切開 術の経験. Gastroenterol Endosc 1993; 35: 608-14(症例報告) 19 5. Petersen BT, Hussain N, Marine JE et al. Technology Assessment Committee. Endoscopy in patients with implanted electronic devices. Gastrointest Endosc 2007; 65: 561-8.(ガイド ライン) 6. Petersen BT. Implanted electronic devices at endoscopy: advice in a gray area. Gastrointest Endosc 2007 ;65:569-70.(専門家の意見) 3. 特殊な症例への対応 ステートメント 3-1: 傍乳頭憩室や憩室内乳頭症例においても、EPLBD は施行可能である。(推奨度:2)EST を付加する 場合には、切開長や切開方向を決めることが時に困難であるため、より慎重な操作を要する。(推 奨度:1) Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9 推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C 解説: 傍乳頭憩室の頻度は加齢とともに増加し,高齢者において多いものでは 65%に存在すると報告さ れている 1),2) .傍乳頭憩室は時に乳頭括約筋切開術(EST)を困難にすることがあり,偶発症のリ スクを増加させる 3) ともいわれている.これまでの傍乳頭憩室の有無で EPLBD の有用性を比較し た後ろ向き研究では,いずれも結石除去成功率や穿孔や出血を含めた偶発症率に有意差は認めてい ない 4-6) .また,946 症例の EPLBD を集積した多施設研究でも傍乳頭憩室症例において,膵炎,出 血,穿孔などの偶発症は増加しないと報告されている 7).しかし,傍乳頭憩室を有する EPLBD にお いては,解剖学的に乳頭括約筋の脆弱性から穿孔の可能性があり,ゆっくりと拡張するなどの慎重 な操作が求められる.乳頭の位置が憩室の中または辺縁にある場合は,憩室の近くにある場合より ERCP 後膵炎の頻度が高い(14.3% vs 3.0%, p=0.047)という報告があり注意を要する 5).EST を付 加する場合は,安全な切開を行うためにガイドワイヤ誘導式のスフィンクテロトームを使用し,憩 室内乳頭症例では口側の十二指腸粘膜に刃が接触し,不要な切開をきたすことがあるため,刃の手 前に絶縁コーティングの被覆を有するスフィンクテロトームが有用である 8).また,傍乳頭憩室や 憩室内乳頭症例では口側隆起が不明瞭な場合や乳頭の傾きによって,切開方向がわかりにくいこと があるため,結石除去用バルーンカテーテルを乳頭部で膨らませる 9),刃を張った状態スフィンク 20 テロトームを出し入れするなどの工夫で口側隆起と切開方向を確認することも有用である. 文献: 1. Shemesh E, Klein E, Czerniak A et al. Endoscopic sphincterotomy in patients with gallbladder in situ: the influence of periampullary duodenal diverticula. Surgery 1990;107:163-6. (コホート) 2. Zoepf T, Zoepf DS, Arnold JC et al. The relationship between juxtapapillary duodenal diverticula and disorders of the biliopancreatic system: analysis of 350 patients. Gastrointest Endosc 2001;54:56-61. (コホート) 3. Leung JW, Chan FK, Sung JJ et al. Endoscopic sphincterotomy-induced hemorrhage: a study of risk factors and the role of epinephrine injec- tion. Gastrointest Endosc 1995;42:550-4. (コホート) 4. Kim KH, Kim TN. Endoscopic papillary large balloon dilation in patients with periampullary diverticula. World J Gastroenterol 2013;19:7168-76. (コホート) 5. Kim HW, Kang DH, Choi CW et al. Limited endoscopic sphincterotomy plus large balloon dilation for choledocholithiasis with periampullary diverticula. World J Gastroenterol 2010;16:4335-40. (コホート) 6. Lee JW, Kim JH, Kim YS et al. The effect of periampullary diverticulum on the outcome of bile duct stone treatment with endoscopic papillary large balloon dilation. Korean J Gastroenterol 2011;58:201-7. (コホート) (韓国語) 7. Park SJ, Kim JH, Hwang JC et al. Factors predictive of adverse events following endoscopic papillary large balloon dilation: results from a multicenter series. Dig Dis Sci 2012;58:1100-9. (コホート) 8. 小林剛,藤田直孝,伊藤啓 ほか.安全に EST を行うために.胆膵内視鏡の実際 - より安全な 処置法を目指して.改訂新版, 田尻久雄,藤田直孝編集. 日本メディカルセンター、 東京,2002;41-50. (ハンドサーチ,専門家の意見) 9. Park do H, Park SH, Kim HJ et al. A novel method for estimating the safe margin and adequate direction of endoscopic biliary sphincterotomy in choledocholithiasis with complications (with videos). Gastrointest Endosc 2006;64:979-83. (コホート) 21 ステートメント 3-2: 術後再建腸管例においても EPLBD は可能である。ただし再建術式によって手技の難易度が異なる。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9 推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C 解説: 術後再建腸管例に対する EPLBD は可能であり,結石除去に有用である.術後再建腸管例に対する EST は通常困難なことが多く,特殊なスフィンクテロトームが必要である.これに対し EPBD また は EPLBD は正常解剖例と同様なデバイスを使用し,比較的簡便に行うことができるため,EST が困 難な場合は EPLBD のみでの結石除去も可能である.Jang ら 1)は Billroth II 再建の巨大結石など総 胆管結石困難症例 40 例に対し,EST なしでの EPLBD でも重大な偶発症は認めず完全結石除去が可 能であったと報告している.術後再建腸管例における EPLBD の適応は正常解剖例と同様である.手 技に関しては, Billroth I 再建例, 噴門側胃切除後空腸間置や胃全摘後空腸間置例では通常の EPLBD 手技と同様であるが,Billroth II 再建例や胃(亜)全摘後 Roux-en-Y 法では乳頭まで到達するに は大腸内視鏡やバルーン小腸内視鏡が必要である.このように小腸用内視鏡を用いた際は,有効長 の問題から使用されるデバイスが制限されるため注意が必要である 2),3) .乳頭到達後の乳頭拡張に おいては,通常の ERCP と異なり乳頭を足側から捉えるため,通常のスフィンクテロトームでは胆 管方向に切開することが困難であることが少なくない.このような場合にはニードルナイフや回転 式のスフィンクテロトームが有用である.症例報告や case series ではあるが,術後再建腸管例に 対し EPLBD を用いた完全結石除去率は 96.7%-100%と良好な成績が報告されている な術後再建腸管例に対し EST を用いての結石除去の成功率(81.3%-100%) 2)-7) .これは同様 8)-10) より良好な結果で ある.これら術後再建腸管例における EPLBD の報告では偶発症は軽症膵炎と軽症から中等症の出血 を認めているが,穿孔などの重篤な偶発症は認めていない.一方で口側隆起の瘻孔部を EPLBD し重 症急性膵炎を発症した症例報告 11)もあり注意を要する.術後再建腸管例に対し EPLBD は有用である が,EST と EPLBD を比較した randomized controlled trial はなく,安全性は確立されているとは いえない. 文献: 1. Jang HW, Lee KJ, Jung MJ, et al. Endoscopic papillary large balloon dilatation alone is safe and effective for the treatment of difficult choledocholithiasis in cases of Billroth II gastrectomy: a single center experience. Dig Dis Sci. 2013;58:1737-43. 2. Itoi T, Ishii K, Itokawa F, et al. Large balloon papillary dilation for removal of bile duct stones in patients who have undergone a Billroth II gastrectomy. Dig Endosc 22 2010;22(Suppl 1):S98-102. (コホート) 3. Itoi T, Ishii K, Sofuni A et al. Large balloon dilatation following endoscopic sphincterotomy using a balloon enteroscope for the bile duct stone extractions in patients with Roux-en-Y anastomosis. Dig Liver Dis 2011;43:237-41. (コホート) 4. Kim GH, Kang DH, Song GA et al. Endoscopic removal of bile-duct stones by using a rotatable papillotome and a large-balloon dilator in patients with a Billroth II gastrectomy (with video). Gastrointest Endosc 2008;67:1134-8. (コホート) 5. Kim TN, Lee SH. Endoscopic papillary large balloon dilation combined with guidewire-assisted precut papillotomy for the treatment of chol- edocholithiasis in patients with Billroth II gastrectomy. Gut Liver 2011;5:200-3. (コホート) 6. Choi CW, Choi JS, Kang DH et al. Endoscopic papillary large balloon dilation in Billroth II gastrectomy patients with bile duct stones. J Gastroenterol Hepatol 2011;27:256-60. (コホート) 7. Kim KH, Kim TN. Endoscopic papillary large balloon dilation for the retrieval of bile duct stones after prior Billroth II gastrectomy. Saudi J Gastroenterol 2014;20:128-33. (コホート) 8. van Buuren HR, Boender J, Nix GA et al. Needle-knife sphincterotomy guided by a biliary endoprosthesis in Billroth II gastrectomy patients. Endoscopy 1995;27:229-32. (コホート) 9. Bergman JJ, van Berkel AM, Bruno MJ et al. A randomized trial of endoscopic balloon dilation and endoscopic sphincterotomy for removal of bile duct stones in patients with a prior Billroth II gastrectomy. Gastrointest Endosc 2001;53:19-26. 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(コホート) 23 4. 偶発症 ステートメント 4-1: EPLBD による早期偶発症の発生頻度は 0%〜22.5%であり、出血、穿孔、膵炎、胆道炎、などがあ る。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9 推奨の強さ:なし エビデンスレベル:B 解説: EPLBD による早期偶発症の発生頻度は、0%〜22.5% と報告されている。主な内訳と発生頻度は、 急性膵炎 0%〜13.2%、出血 0%〜10.0%、穿孔 0%〜2.5%、胆道炎 0%〜5.0%、と報告されている 1)-41) 。 その頻度を抜粋して、Table3.に示す。また、頻度は低いものの死亡例の報告もある。 Kim JH ら 43)の 32 論文を対象としたシステマィックレビューでは、EPLBD with EST の方が EST 単独 に比し有意に偶発症発生頻度は低いと報告している(8.3% vs. 12.7%, OR 1.60, p<0.001)。また、 他のメタアナリシス論文でも、 EPLBD with EST の方が EST 単独に比し偶発症発生頻度は同等 31, 35, 41) あるいは低い 42, 43)との報告が多い。 傍憩室乳頭例に対する EPLBD with EST の検討では、Kim HW 44) らは、傍憩室乳頭の有無間に有意差 45) はなかったと報告している。また、Kim KH らは、傍憩室乳頭の有無別に EPLBD with EST vs. EPLBD without EST の偶発症発生頻度に差はなかったと報告している。 近年 EST を付加せずにラージバルーンで乳頭を拡張する方法 (EPLBD without EST) の報告が散見 されている。Hwang らは 29)は、EPLBD with EST と EPLBD without EST では偶発症発生頻度およびそ の内訳には有意差はなかったと報告している(7.2% vs. 6.5%, p=0.858)。また Kogure ら 34)も両者 の偶発症発生頻度(7% vs. 8%)と PEP の発生頻度 (7% vs. 4%, p=0.9999)に有意差はなかったと報 告しているが、EPLBD without EST 群に 1 例の重症膵炎が発生している。Guo ら 41)も、EPLBD with EST, EPLBD without EST, EST 単独の 3 群における prospective randomized study を行ない、偶発症発 生頻度(5.9% vs. 4.7%, 4.7%, p=1.000)とその内訳に有意差はなかったと報告している。EPLBD without EST の安全性についての報告が散見されるが、現段階ではコンセンサスが得られておらず 今後の検討が待たれる。 一方、再発性胆管結石例など EST 後乳頭に対する EPLBD の偶発症発生頻度は非常に少ないと報告さ れており 23, 33)、初回乳頭例に対する EPLBD に比し偶発症の発生頻度は少ない可能性がある。 術者は EPLBD の適応を厳選したうえ偶発症の頻度や発生時の対策について十分に理解し、術前に患 者から十分な Informed consent を得ておく必要がある。 24 Table3 EPLBD 偶発症一覧 文献: 1. Ersoz G, Tekesin O, Ozutemiz AO et al. Biliary sphincteroromy plus dilatation with a large balloon for bile duct stones that are difficult to extract. Gastrointest Endosc 2003:57: 156-9. (ケースシリーズ) 2. Bang S, Kim MH, Park JY et al. Endoscopic papillary balloon dilation with large balloon after limited sphincterotomy for retrieval of choledocholithiasis. Yonsei Med J. 2006 Dec 31; 47: 805-10. (ケースシリーズ) 3. Minami A, Hirose S, Nomoto T et al. Small shpincterotomy combined with papillary dilatation with large balloon permits retrieval of large stones without mechanical lithotripsy. World J Gastroenterol 2007: 13: 2179–82. (ケースシリーズ) 4. Maydeo A, Bhandari S. Balloon sphincteroplasty for removing difficult bile duct stones. Endoscopy 2007: 39: 958–61. (コホート、prospective study) 5. Heo JH, Kang DH, Jung HL et al. Endoscopic sphincterotomy plus laarge-balloon dilatation 25 versus endoscopic sphincterotomy for removal of bile duct stones. Gastrointest Endosc. 2007:66:720-6. (ランダム化) 6. 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Endoscopic Papillary Large Balloon Dilation Combined with Guidewire-Assisted Precut Papillotomy for the Treatment of Choledocholithiasis in Patients with Billroth II Gastrectomy. Gut Liver 2011;5:200-3. (ケースシリーズ) 20. Itoi T, Ishii K, Sofuni A et al. Large balloon dilatation following endoscopic sphincterotomy using a balloon enteroscope for the bile duct stone extractions in patients with Roux-en-Y anastomosis. Dig Liver Dis 2011;43:237-41. (ケースシリーズ) 21. Oh MJ, Kim TN. Prospective comparative study of endoscopic papillary large balloon dilation and endoscopic sphincterotomy for removal of large bile duct stones in patients above 45 years of age. Scand J Gastroenterol. 2012;47:1071-7.(ランダム化) 22. Teoh AY, Cheung FK, Hu B et al. Randomized Trial of Endoscopic Sphincterotomy with balloon dilatation versus Endoscopic sphincterotomy alone for removal of bile duct stones, Gastroenterology 2013: 144: 341-5.(ランダム化) 23. Harada R, Maguchi H, Takahashi K et al. 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Endoscopic sphincterotomy combined with large balloon dilation for removal of large bile duct stones. Hepatogastroenterology 2013 ;60:58-64. (ケースシリーズ) 27 28. Yang XM, Hu B, Pan YM et al. Endoscopic papillary large-balloon dilation following limited sphincterotomy for the removal of refractory bile duct stones: experience of 169 cases in a single Chinese center. J Dig Dis 2013;14:125-31. (ケースシリーズ) 29. Hwang JC, Kim JH, Lim SG et al. Endoscopic large-balloon dilation alone versus endoscopic sphincterotomy plus large-balloon dilation for the treatment of large bile duct stones. BMC Gastroenterol 2013;13:15. (ランダム化) 30. Paspatis GA, Konstantinidis K, Tribonias G et al. Sixty- versus thirty-seconds papillary balloon dilation after sphincterotomy for the treatment of large bile duct stones: a randomized controlled trial. Dig Liver Dis 2013;45:301-4.(ランダム化) 31. Jin PP, Cheng JF, Liu D et al. Endoscopic papillary large balloon dilatation vs endoscopic sphincterotomy for retrieval of common bile duct stones: a meta-analysis. World J Gastroenterol 2014; 20: 5548–56.(メタアナリシス) 32. Li G, Pang Q, Zhang X et al. Dilatation-assisted stone extraction: an alternative method for removal of common bile duct stones. Dig Dis Sci 2014; 59:857–64.(ランダム化) 33. Yoon HG, Moon JH, Choi HJ et al. Endoscopic papillary large balloon dilation for the management of recurrent difficult bile duct stones after previous endoscopic sphincterotomy. Dig Endosc 2014;26:259-63. (ケースシリーズ) 34. Kogure H, Tsujino T, Isayama H et al. Short- and long-term outcomes of endoscopic papillary large balloon dilation with or without sphincterotomy for removal of large bile duct stones. Scand J Gastroenterol 2014;49:121-8. (ケースシリーズ) 35. Guo SB, Meng H, Duan ZJ et al. Small sphincterotomy combined with endoscopic papillary large balloon dilation vs sphincterotomy alone for removal of common bile duct stones. World J Gastroenterol 2014;20:17962-9. (コホート、retrospective study) 36. Sakai Y, Tsuyuguchi T, Kawaguchi Y et al. Endoscopic papillary large balloon dilation for removal of bile duct stones. World J Gastroenterol 2014;20:17148-54. (コホート、 prospective study) 37. Park JS, Kim TN, Kim KH. Endoscopic papillary large balloon dilation for treatment of large bile duct stones does not increase the risk of post-procedure pancreatitis.Dig Dis Sci 2014;59:3092-8. (コホート、retrospective study) 38. Li QL, Gao WD, Zhang C et al. Is endoscopic sphincterotomy plus large-balloon dilation a better option than endoscopic large-balloon dilation alone in removal of large bile duct stones? A retrospective comparison study. Indian J Cancer. 2015;51:Suppl 2: e13-7. (コホ ート、retrospective study) 39. Itokawa F, Itoi T, Sofuni A et al. Mid-term outcome of endoscopic sphincterotomy combined 28 with large balloon dilation. J Gastroenterol Hepatol 2015;30: 223-9. (コホート、prospective study) 40. Okuno M, Iwashita T, Yoshida K et al. Significance of Endoscopic Sphincterotomy Preceding Endoscopic Papillary Large Balloon Dilation in the Management of Bile Duct Stones. Dig Dis Sci 2016;61:597-602. (コホート、retrospective study) 41. Guo Y, Lei S, Gong W et al. A Preliminary Comparison of Endoscopic Sphincterotomy, Endoscopic Papillary Large Balloon Dilation, and Combination of the Two in Endoscopic Choledocholithiasis Treatment. Med Sci Monit 2015;21: 2607-12. (ランダム化) 42. Kim JH, Yang MJ, Park JH et al. Endoscopic papillary large balloon dilatation for removal of bile duct stones. World J Gastroenterol 2013:19:8580–94. (システマティックレビュ) 43. Feng Y, Zhou H, Chen X et al. Comparsion of endoscopic papillary large balloon dilatation and endoscopic sphincterotomy for retrieval of chokedocholithiasis: a meta-analysis of randomized controlled trials. J Gastroenterol 2012; 47: 655-63. (メタアナリシス) 44. Kim HW, Kang DH, Choi CW et al. Limited endoscopic sphincterotomy plus large balloon dilation for choledocholithiasis with periampullary diverticula. World J Gastroenterol 2010;16:4335-40. (ケースシリーズ) 45. Kim KH, Kim TN. Endoscopic papillary large balloon dilation in patients with periampullary diverticula. World J Gastroenterol 2013 ;19:7168-76. (コホート、retrospective study) ステートメント 4-2: EPLBD 後の出血に対する対処法は、内視鏡的止血術が第一選択である。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9 推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C 解説: 現段階では、EPLBD 後に発生した出血の機序は明らかとはなっていない。 Feng ら 1)のメタアナリシス解析でも、EPLBD with EST は EST 単独に比し出血率は低かったと報告 しているが(OR, 0.15; p=0.002)、同等であったとの報告 2, 3)もある。しかし、EPLBD 後出血に起因 した死亡例の報告 3)もあり、十分注意しておく必要がある。 Park ら 4)のサブ解析では、EST の大切開が偶発症のリスクを増加させると述べている。Kim ら 5)は、 EPLBD 時の大切開EST は、 EPLBD 時のlimited-EST (p<0.001, OR=3.33)やEPLBD without EST (p=0.049, 29 OR=2.17) に比し出血の頻度が高かったと報告している。また、本論文中では limited EST と EPLBD without EST の両者間に出血頻度の差はなかったとも報告している。 以上のように、現時点では EPLBD 後の出血は、EST に起因したとする報告が多い。 EPLBD 後の出血への対応は EST 診療ガイドライン 6)に準じて行う。EPLBD 直後の術中出血の場合、 EST 切開部であれば氷水散布やエピネフリン加整生理食塩水散布などの散布法を用いる 7)。一方、 術後出血の場合は、術後数日後に下血・貧血、あるいは出血性ショックで発症することがあり、通 常の消化管出血の場合と同様に全身管理を行ない状況に応じて緊急内視鏡を行う。 止血術には、内視鏡的止血術、血管造影下塞栓術、外科的止血術などがあり、EST 同様に内視鏡的 止血術を第一選択として試みる。EPLBD 後出血に対する止血術に関する既報告はないが、EST 後出 血に準じてエピネフリン局注法、バルーン圧迫法、止血鉗子、APC、などが挙げられるが個々の状 況による術者の判断で選択する。EST 時同様に、ラージバルーンカテーテルや EPBD 用のバルーンカ テーテル、あるいは採石用バルーンカテーテルを用いた圧迫法は比較的簡便で有用であろう 9,10) 。最近、EPLBD 後の出血に対してカバードメタリックステントの一時留置による止血法の症例報 告 11, 12) もあるが、本邦では保険収載されていない。内視鏡的止血術が困難な場合には、状況に応じ て血管造影下塞栓術や外科的止血術を考慮する。 文献: 1. Feng Y, Zhou H, Chen X et al. Comparsion of endoscopic papillary large balloon dilatation and endoscopic sphincterotomy for retrieval of chokedocholithiasis: a meta-analysus of randomized controlled trials. J Gastroenterol 2012; 47: 655–63. (メタアナリシス) 2. Jin PP, Cheng JF, Liu D et al. Endoscopic papillary large balloon dilatation vs endoscopic sphincterotomy for retrieval of common bile duct stones: a meta-analysis. World J Gastroenterol 2014; 20: 5548–56 (メタアナリシス) 3. Guo SB, Meng H, Duan ZJ et al. Small sphincterotomy combined with endoscopic papillary large balloon dilation vs sphincterotomy alone for removal of common bile duct stones. World J Gastroenterol 2014;20:17962-9. (コホート, retrospective study) 4. Park SJ, Kim JH, Hwang JC et al. Factors predictive of adverse events following endoscopic papillary large balloon dilation: results from a multicenter series. Dig Dis Sci 2013 ;58:1100-9. (ケースシリーズ) 5. Kim JH, Yang MJ, Park JH et al. Endoscopic papillary large balloon dilatation for removal of bile duct stones. World J Gastroenterol 2013:19: 8580–94. (システマティックレビュ) 6. 良沢 昭銘, 糸井 隆夫, 潟沼 朗生 ほか. EST 診療ガイドライン. Gastroenterol Endosc 2015; 57: 2721-59. (ガイドライン) 7. 長谷部修,越智泰英,立岩伸之 ほか. EST および内視 鏡的乳頭切除術後出血に対する対処法- 30 理論に基づいた出血予防と止血処置- 胆と膵 2008; 29: 581-7. (専門家の意見) 8. Ferreira LE, Baron TH. Post-sphincterotomy bleeding : who, what, when, and how. Am J Gastroenterol 2007; 102: 2850-8. (システマティックレビュ) 9. 花田敬士、飯星知博、平野巨通. EST 後出血に対する対策. 胆と膵 2012; 33: 1093-9. (専 門家の意見) 10. 有坂好文. EST-安全・確実な切開と実際のリスクマネージメント. 消化器内視鏡 2011; 23: 491-5. (専門家の意見) 11. Shimizu S, Naitoh I, Nakazawa K et al. Case of arterial hemorrhage after endoscopic papillary large balloon dilatation for choledocholithiases using covered self-expandable metallic stent. World J Gastroenterol 2015; 21(16): 5090-5. (症例報告) 12. Kurita A, Ito T, Kudo Y et al. Rupture of a pseudoaneurysm caused by endoscopic papillary large-balloon dilation. Endoscopy 2015; 47: E532-E533. (症例報告) ステートメント 4-3: EPLBD に関連する穿孔が疑われた場合には単純 CT を行う。穿孔と診断された場合には、外科医 と密に連携し時期を逃さずに適切な治療を行う。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9 推奨の強さ:1 エビデンスレベル:C 解説: EPLBD with EPLBD による穿孔は、 Kim JH ら 1)のシステマィックレビューでは0.6 % (0-2.8%)であり、 large EST, EPLBD with limited EST, EPLBD without EST の 3 群間における穿孔の頻度に有意差 はみられなかった (3% vs. 5% vs. 2%: p=1.000) と報告している 1)。 日韓 12 施設による 946 例の偶発症検討のサブ解析報告では 2)、多変量解析で穿孔のリスク因子と して下部胆管狭窄を指摘している (OR 17.08, p<0.001)。本論文中では EPLBD による 4 例の死亡例 が報告されており、そのうち 3 例が穿孔に起因していた。Hisatomi ら 3)は、porcine model を使っ た in vivo の基礎的実験を行い、胆管径に比しバルーン径が大きくなるにつれて、胆管粘膜損傷と 穿孔の発生率が高くなったと報告している。また、Park ら 2)は、胆管結石が長い期間存在している と、胆管径も次第に大きくなってくるため、段階的なバルーン拡張を行うことを推奨している。し たがって、EPLBD の適応を厳選し、下部胆管径を超えないバルーン拡張を行なうことが穿孔の発生 予防策のひとつとなり得る。 穿孔の診断および対応については、現時点では EST 診療ガイドライン 4)に準ずる。穿孔の診断は、 31 術中の内視鏡画面あるいは X 線透視画面で肝腎周囲の異常ガス像(free air)、あるいは造影剤の漏 出や処置具の位置の異常などを契機とする。しかし、free air は手技中に確認困難なこともある ため、術後の身体所見や血液生化学検査などで穿孔が疑われた場合には積極的に CT を実施する。 後腹膜気腫は、時に気胸や皮下気腫へ発展することがあり、注意深い全身管理が必要である 5)。穿 孔の診断(疑い含む)後は、絶食および輸液管理とし、抗菌剤投与、胃管留置などによる全身管理 を行い、速やかに外科医へコンサルトを行う。 EPLBD による穿孔部位の多くは乳頭部近傍や胆管穿孔と考えられるが、EST 後の穿孔時と同様に胆 道ドレナージや胃管留置が施行しておくことは、その後の後腹膜への感染助長や膵液活性化が最小 限に抑えられる可能性があると考えられる 5-7)。また、EPLBD 後には胆管内気腫が発生しやすく、空 気塞栓などの偶発症対策として CO2 送気下で手技を施行することが望ましい 8, 9)。 保存的治療で改善のみられない場合や、消化管穿孔の場合には外科的治療の適応であり、診断の遅 れや治療の遅れは予後不良因子と報告されている 10-14)。 なお、EPLBD 後の穿孔の成り立ちや対応については、まだ少数例での報告のみであり、今後の症例 蓄積が必要である。 文献: 1. Kim JH, Yang MJ, Park JH et al. Endoscopic papillary large balloon dilatation for removal of bile duct stones. World J Gastroenterol 2013:19:8580–94.(システマティックレビュ) 2. Park SJ, Kim JH, Hwang JC et al. Factors predictive of adverse events following endoscopic papillary large balloon dilation: results from a multicenter series. Dig Dis Sci 2013 ; 58: 1100-9. (ケースシリーズ) 3. Hisatomi K, Ohno A, Tabei K et al. Effects of large-balloon dilatation on the major duodenal papilla and the lower bile duct: histological evaluateon by using an ex vivo adult porcine model. Gastrointest Endosc 2010;72: 366-72. (基礎研究) 4. 良沢 昭銘, 糸井 隆夫, 潟沼 朗生 ほか. EST 診療ガイドライン. Gastroenterol Endosc 2015; 57: 2721-59. (ガイドライン) 5. 林 香月,大原弘隆,中沢貴宏ほか.ERCP 関連手技 における後腹膜穿孔の原因・早期診断・対処 法. 胆と膵 2008;29:595-602. (専門家の意見) 6. Fatima J, Baron TH, Topazian MD et al. Pancreaticobiliary and duodenal perforations after periampullary endoscopic procedures: diagnosis and management. Arch Surg 2007; 142:448-54; discussion 454-5. (ケースシリーズ) 7. Cotton PB, Lehmen G, Vennes J et al. Endoscopic sphincterotomy complications and their management: an attempt at consensus. Gastrointest Endosc 1991;3:383-93. (システマティ ックレビュ) 32 8. Doi S, Yasuda I, Nakashima M et al. Carbon dioxide insufflation vs. conventional saline irrigation for peroral video cholangioscopy. Endoscopy 2011; 43: 1070-5. (コホート, retrospective study) 9. Chavalitdhamrong D, Donepudi S, Pu L, Draganov PV. Uncommon and rarely reported adverse events of endoscopic retrograde cholangiopancreatography. Dig Endosc 2014;26:15-22. (シ ステマティックレビユー) 10. Knudson K, Raeburn CD, McIntyre RC et al. Management of duodenal and pancreaticobiliary perforations associated with periampullary endoscopic procedures. Am J Surg 2008;196: 975-81. (システマティックレビュ) 11. Sarli L, Porrini C, Costi R et al. Operative treatment of periampullary retroperitoneal perforation complicating endoscopic sphincterotomy. Surgery 2007; 142: 26-32. (ケースシ リーズ) 12. Morgan KA, Fontenot BB, Ruddy JM. 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(システマティックレビュ) ステートメント 4-4: EPLBD 後膵炎の発症機序は解明されていないが、急性膵炎診療ガイドラインに準じた予防と治療 を行う。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9 推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C 解説: Kim JH ら 1)のシステマティックレビューでは、EPLBD (バルーン径: 12-20mm) with EST 後の膵 炎発症は 2.4% (0% - 13.2%)であり、その内訳は、98.4%が軽症あるいは中等症であり、重症膵炎 の既往のある 1 例が死亡していた。また、6 つの RCT 2-7) と 5 つのメタアナリシス解析 8-12) におい て、膵炎発症頻度は EPLBD with EST は EST 単独の両者間で有意差はなかったと報告している。 33 一方、EPLBD without EST (retrospective studies: 413 例)13)の検討で、PEP 発症は 3.9% (2.6% - 6.4%)で、いずも軽症と中等症であったと報告している。また、EPLBD with EST 後の PEP の発症 頻度は EST 後膵炎あるいは EPBD 後膵炎に比し有意に低い(2.4% vs. 4.3% vs. 8.6%, p=0.006) と も報告している。さらに、EPLBD with large EST vs. EPLBD with limited EST vs. EPLBD without EST の 3 群間における PEP の発症率 (2.4% vs. 3.1 % vs. 3.9 %: p=0.349) には差はみられなか ったとも報告している。 そのほかに、Park ら 14)の多施設検討における膵炎の発症リスクは 14mm 以上のバルーンカテーテル の使用で PEP の発症が低率だった(OR 0.272, 95% CI 0.095 – 0.778, p=0.015)と解析した報告も ある。 現時点では、EPLBD 後膵炎の発症機序については解明されていないが、乳頭が大きく開口し、処置 具による乳頭への負担が減ることが、PEP の発症減に関わっていることが推測されている 14)。 EPLBD 後膵炎の予防策は確立されていないが、ERCP に起因する膵炎発症の要素が関与しているもの と考えられるため、ERCP 後膵炎に準じた対処法あるいは予防策を行う 15)。 文献: 1. Kim JH, Yang MJ, Park JH et al. Endoscopic papillary large balloon dilatation for removal of bile duct stones. World J Gastroenterol 2013:19:8580–94. (システマティックレビュー) 2. Heo JH, Kang DH, Jung HL et al. Endoscopic sphincterotomy plus large-balloon dilatation versus endoscopic sphincterotomy for removal of bile duct stones. Gastrointest Endosc. 2007:66:720-6. (ランダム化) 3. Kim HG. Small sphincterotomy combined with endoscopic papillary large balloon dilation versus sphincterotomy. World J Gastroenterology 2009:15:4298–304. (ランダム化) 4. Stefanidid G, Viazis N, Pleskow D et al. Large Balloon dilatation vs. Mechanical lithotripsy for the management of large bile duct stones: A prospective randomaized study. Am J Gastroenterology 2011:106:278–85. (ランダム化) 5. Teoh AY, Cheung FK, Hu B et al. Randomized Trial of Endoscopic Sphincterotomy with balloon dilatation versus Endoscopic sphincterotomy alone for removal of bile duct stones, Gastroenterology 2013: 144: 341-5. (ランダム化) 6. Li G, Pang Q, Zhang X et al. Dilatation-assisted stone extraction: an alternative method for removal of common bile duct stones. Dig Dis Sci 2014;59:857–64. (ランダム化) 7. Jun Bo Q, Ki Hua X, Tian Min C et al. Small endoscopic sphincterotomy plus large-balloon dilatation for removal of large common bile duct stones during ERCP. Pak J Med Sci 2013; 29:907–12. (ランダム化) 8. Yang XM, Hu B, Pan YM et al. Endoscopic papillary large-balloon dilation following limited 34 sphincterotomy for the removal of refractory bile duct stones: experience of 169 cases in a single Chinese center. J Dig Dis 2013;14:125-31. (メタアナリシス) 9. Feng Y, Zhou H, Chen X et al. Comparsion of endoscopic papillary large balloon dilatation and endoscopic sphincterotomy for retrieval of chokedocholithiasis: a meta-analysus of randomized controlled trials. J Gastroenterol 2012; 47: 655–63. (メタアナリシス) 10. Jin PP, Cheng JF, Liu D et al. Endoscopic papillary large balloon dilatation vs endoscopic sphincterotomy for retrieval of common bile duct stones: a meta-analysis. World J Gastroenterol 2014;20:5548–56. (メタアナリシス) 11. Madhoun MF, Wani S, Hong S et al. Endoscopic papillary large balloon dilatation reduces the need for mechanical lithotripsy in patients with large bile duct stones: a systematic review and meta-analysis. Diagn Ther Endosc 2014 (in press).(メタアナリシス) 12. Liu Y, Su P, Lin Y et al. Endoscopic sphincterotomy plus balloon dilatation versus endoscopic sphincterotomy for choledocholithiasis: a meta-analysis. J Gastroenterol Hepatol 2013; 28: 937–45. (メタアナリシス) 13. Park SJ, Kim JH, Hwang JC et al. Factors predictive of adverse events following endoscopic papillary large balloon dilation: results from a multicenter series. Dig Dis Sci 2013 ;58:1100-9. (ケースシリーズ) 14. Kim TH, Kim JH, Seo DW et al. International consensuss guideline for endoscopic papillary large-balloon dilatation. Gastrointest Endosc. 2016; 83(1): 37-47. (ガイドラ イン) 15. 急性膵炎診療ガイドライン 2015 改訂出版委員会: 急性膵炎診療ガイドライン 2015. 第 4 版, 金原出版,東京, 2015. (ガイドライン) 35 5. 治療成績 ステートメント 5-1: 総胆管結石症に対する EPLBD での結石除去率は、初回治療で 80.9%-89%、最終的な完全結石除去 率は 95.2%-100%である。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9 推奨の強さ:なし エビデンスレベル:A 解説: 胆管結石に対する EPLBD+EST と EST 単独治療を比較した RCT において、EPLBD の完全結石除去 率は初回治療時で 80.9%-89%、最終的には 95.2%-100%と報告されている (Table4)1-6)。胆管結石 除去率に関しては、EPLBD 群で初回治療時の完全結石除去率が EST 群に比べ有意に高いとの報告も 初回治療および最終的な結石除去率もEST 群と比べ差が無いとする報告が多い 1-4)。 みられるが 5),6)、 胆管径または結石径が 12mm 以上を対象とした RCT のメタ解析でも同様に、初回治療時における結 石除去率は EPLBD 群、EST 群でそれぞれ 85.5%, 86.9% (RR 0.98; 95%CI: 0.91-1.06)、最終的な結 石除去率は 97.5%, 99.0% (RR 0.98; 95%CI: 0.96-1.01) と両治療間で差はみられなかったと述べ られている 7)。一方、大結石例で用いられる機械的砕石器 (mechanical lithotripter; ML) の使 用については、3 つの RCT において EPLBD 群での有意な使用率の低下が認められている 4-6)。さらに メタ解析では、 結石径が15mm を超える大結石例で特にML 使用率の有意な低下が示されている 7),8)。 EPLBD によって胆管口が大きく開大することで、比較的大きな結石でも破砕せず截石可能となるた め、結果として処置時間や透視時間の短縮に繋がる可能性も示唆されている 6)。 EST 付加の有無による EPLBD の結石除去率に関しては報告が少ないものの、EPLBD with EST と EPLBD without EST を比較したシステマティックレビューが報告されている 9)。それによると EPLBD with EST、EPLBD without EST で最終的な完全結石除去率に差はみられないものの (96.5% vs 97.2%, P = 0.432)、初回治療時の結石除去率に関しては EPLBD with EST に比べ EPLBD without EST で有 意に低率であったと報告されている (84.0% vs 76.2%, P<0.001)。 36 Table 4. EPLBD の結石除去率 ___________________________________________ 報告年 報告者 研究デザイン 症例数 初回結石除去率 (%) 最終結石除去率 (%) ___________________________________________ 2007 Heo RCT 100 83.0 97.0 2009 Kim RCT 27 85.5 100 2011 Stefanidis RCT 45 不明 97.7 2013 Teoh RCT 73 89.0 97.2 2013 Jun Bo RCT 63 80.9 95.2 2014 Li RCT 232 87.7 97.4 ___________________________________________ 文献: 1. Heo JH, Kang DH, Jung HJ et al. Endoscopic sphincterotomy plus large-balloon dilation versus endoscopic sphincterotomy for removal of bile-duct stones. Gastrointest Endosc. 2007;66:720-6. (ランダム化) 2. Kim HG, Cheon YK, Cho YD et al. Small sphincterotomy combined with endoscopic papillary large balloon dilation versus sphincterotomy. World J Gastroenterol. 2009;15:4298-304. (ラ ンダム化) 3. Stefanidis G, Viazis N, Pleskow D et al. Large balloon dilation vs. mechanical lithotripsy for the management of large bile duct stones: a prospective randomized study. Am J Gastroenterol. 2011;106:278-85. (ランダム化) 4. Teoh AY, Cheung FK, Hu B et al. Randomized trial of endoscopic sphincterotomy with balloon dilation versus endoscopic sphincterotomy alone for removal of bile duct stones. Gastroenterology. 2013;144:341-5. (ランダム化) 5. Jun Bo Q, Li Hua X, Tian Min C et al. Small Endoscopic Sphincterotomy plus Large-Balloon Dilation for Removal of Large Common Bile Duct Stones during ERCP. Pak J Med Sci. 2013;29:907-12. (ランダム化) 6. Li G, Pang Q, Zhang X et al. Dilation-assisted stone extraction: an alternative method for removal of common bile duct stones. Dig Dis Sci. 2014;59:857-64. (ランダム化) 7. Xu L, Kyaw MH, Tse YK, Lau JY. Endoscopic sphincterotomy with large balloon dilation versus endoscopic sphincterotomy for bile duct stones: a systematic review and meta-analysis. 37 Biomed Res Int 2015. (メタアナリシス、システマティックレビュー) 8. Yang XM, Hu B. Endoscopic sphincterotomy plus large-balloon dilation vs endoscopic sphincterotomy for choledocholithiasis: a meta-analysis. World J Gastroenterol. 2013;19:9453-60. (メタアナリシス) 9. Kim JH, Yang MJ, Hwang JC, Yoo BM. Endoscopic papillary large balloon dilation for the removal of bile duct stones. World J Gastroenterol 2013;19:8580-94. (システマティックレ ビュー) ステートメント 5-2: EPLBD 後の胆管結石再発率は 4.4%-14.5%である。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9 推奨の強さ:なし エビデンスレベル:C 解説: EPLBD 後の結石再発率は、症例数や観察期間などが異なるため報告により様々であるが 1-7)、追跡 率が高く、観察期間が比較的長い論文に限定すると、EPLBD 後の結石再発率は 4.4%-14.5%と報告 されている (Table5)。EPLBD の長期予後に関する報告のほとんどは後ろ向き研究であるが、本邦 より 2 編の前向きコホート研究が報告されている。EPLBD 後の 42 例全例を前向きに追跡調査した 研究報告では、観察期間 22 ヵ月 (中央値) で結石再発率は 14%にみられ、累積再発率は 1 年で 6%, 2 年で 15%と述べられている 5)。一方、症例数の最も多い EPLBD 後 183 症例の前向きコホート研究 では、平均観察期間 43 ヶ月で結石再発率は 4.4%と、他の報告に比べ低率であったとの研究報告も みられる 7)。EPLBD の長期予後に関する報告は、ほとんどが EPLBD +EST の治療成績であるが、EST を付加しない EPLBD の長期治療成績も報告されている。Chan らは EPLBD 単独治療を行った胆管結 石連続 172 例の長期予後を検証した結果、結石再発は 14.5%にみられ、再発までの期間は平均 27 ヵ月であったと述べている 2)。また EPLBD 後の結石再発を EST 単独治療と比較した報告もみられ、 両治療群間で再発率に差は無いと述べられているが 3),4)、いずれも後ろ向きの研究で対象の背景も 異なっており、RCT 後の長期治療成績の報告が待たれるところである。結石の再々発に関しては 1 論文のみであるが、EPLBD 施行例全体の 2.7%、再発例に限ると 62.5%にみられたとの報告もある 7)。 EPLBD 後の胆管結石再発に係わる危険因子に関しては、EST 後の結石再発同様、大きな胆管径が挙 げられている 2),3),5)。EPLBD 後の治療経過に関する報告は 5 年未満の症例がほとんどであるため、 EPLBD が乳頭機能に及ぼす影響や、結石再発を含めた晩期偶発症についてはさらなる検証が必要で ある。 38 Table5 . EPLBD 後の結石再発率 文献: 1. Kim JH, Kim YS, Kim DK et al. Short-term Clinical Outcomes Based on Risk Factors of Recurrence after Removing Common Bile Duct Stones with Endoscopic Papillary Large Balloon Dilatation. Clin Endosc. 2011;44:123-8. (コホート) 2. Chan HH, Lai KH, Lin CK et al. Endoscopic papillary large balloon dilation alone without sphincterotomy for the treatment of large common bile duct stones. BMC Gastroenterol. 2011;11:69. (コホート) 3. Kim KH, Rhu JH, Kim TN. Recurrence of bile duct stones after endoscopic papillary large balloon dilation combined with limited sphincterotomy: long-term follow-up study. Gut Liver. 2012;6:107-12. (コホート) 4. Kim KY, Han J, Kim HG et al. Late Complications and Stone Recurrence Rates after Bile Duct Stone Removal by Endoscopic Sphincterotomy and Large Balloon Dilation are Similar to Those after Endoscopic Sphincterotomy Alone.Clin Endosc. 2013;46:637-42. (コホート) 5. Kogure H, Tsujino T, Isayama H et al. Short- and long-term outcomes of endoscopic papillary large balloon dilation with or without sphincterotomy for removal of large bile duct stones. Scand J Gastroenterol. 2014;49:121-8. (コホート) 6. Paik WH, Ryu JK, Park JM et al. Which is the better treatment for the removal of large biliary stones? Endoscopic papillary large balloon dilation versus endoscopic sphincterotomy. Gut Liver. 2014;8:438-44. (コホート) 7. Itokawa F, Itoi T, Sofuni A et al. Mid-term outcome of endoscopic sphincterotomy combined with large balloon dilation. J Gastroenterol Hepatol. 2015;30:223-9. (コホート) 39 ステートメント 5-3: EPLBD 後の胆管結石再発に対し、経乳頭的内視鏡治療を行うことを提案する。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9 推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C 解説: EPLBD 後の胆管結石再発に対する治療法につき言及した報告はないが、結石再発時には多くの症 例で再度の内視鏡治療が行われている 1-3)。EPLBD 後の胆管挿管は比較的容易であるが、再発時には 多結石または大結石例も多く 3)、結石へのアクセスや結石除去に難渋する症例では必要に応じ追加 結石再発例の多くは内視鏡治療により完全結石除去が得られるが、 の EPLBD が施行されている 1-3)。 内視鏡治療抵抗例や頻回再発例においては EST 後の結石再発同様、胆管-空腸吻合術などの外科的 治療も選択肢の一つと考えられる 4)。 文献: 1. Chan HH, Lai KH, Lin CK et al. Endoscopic papillary large balloon dilation alone without sphincterotomy for the treatment of large common bile duct stones. BMC Gastroenterol. 2011;13;11:69. (コホート) 2. Kogure H, Tsujino T, Isayama H et al. Short- and long-term outcomes of endoscopic papillary large balloon dilation with or without sphincterotomy for removal of large bile duct stones. Scand J Gastroenterol. 2014;49:121-8. (コホート) 3. Itokawa F, Itoi T, Sofuni A et al. Mid-term outcome of endoscopic sphincterotomy combined with large balloon dilation. J Gastroenterol Hepatol. 2015;30:223-9. (コホート) 4. 笠普一朗、眞栄城兼清, 濱田義浩 ほか. 総胆管結石に対する治療方針の現況と開腹手術の適応。 胆と膵 2003;24:583-7 (専門家の意見) 40 6. 術後経過観察 ステートメント 6-1: 総胆管結石再発を除く、EPLBD による晩期偶発症の発生頻度は 0%-10%であり、胆嚢炎、胆管炎 などがある。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9 推奨の強さ:なし エビデンスレベル:C 解説: 胆管結石再発を除く EPLBD の晩期合併症として報告があるのは、胆嚢炎、胆管炎である 1-3)。 EPLBD 後の長期観察症例について、観察期間の記載がある文献での中央値は短いもので 12 か月、 長いもので 45 か月である 1-9)。これらの多くの文献は胆管結石再発については記載があるものの、 その他の合併症については明記されていないものが多い。胆嚢炎を合併した報告 1-3) において、そ の頻度は 5-10%であり、また、胆管炎を合併した報告 2)において、その頻度は 4%である 2)。胆嚢炎 や胆管炎を合併した報告において胆嚢結石の有無、胆管結石の再発の有無については言及されてい るものはわずかであり 3)、無石性の胆嚢炎、胆管炎の発生頻度については不明である。晩期合併症 として胆管狭窄、膵炎、胆道癌を認めなかったとする報告が 4)あるが、観察期間が中央値 12 か月 程度のものであり、今後、より観察期間の長い検討が必要である。 一方、EST については、胆管結石再発を除く晩期合併症として胆嚢炎や胆管炎がある。胆嚢炎は有 石胆嚢で 3.6-22%、無石胆嚢で 0-11.9% 10) 、胆管炎は多くのものが胆管結石の再発に伴うものであ るが、胆管結石の再発を伴わない胆管炎の頻度については 2.8%との報告がある 11) 。また、報告が 少なく頻度は不明であるが乳頭狭窄や胆管狭窄、膵炎などの報告もある。 これらの結果から、観察期間や症例数が十分とは言えないものの、EPLBD を追加することで EST 単 独の場合と比較して明らかに晩期合併症のリスクが上がることはないものと推察されるが、前述の ごとく、より観察期間の長い検討が待たれる。 文献: 1. Chan HH, Lai KH, Lin CK et al. Endoscopic papillary large balloon dilation alone without sphincterotomy for the treatment of large common bile duct stones. BMC Gastroenterol 2011; 11: 69.(コホート) 2. Kim KY, Han J, Kim HG et al. Late Complications and Stone Recurrence Rates after Bile Duct Stone Removal by Endoscopic Sphincterotomy and Large Balloon Dilation are Similar to 41 Those after Endoscopic Sphincterotomy Alone. Clin Endosc 2013; 46: 637-42.(コホート) 3. Kogure H, Tsujino T, Isayama H et al. Short- and long-term outcomes of endoscopic papillary large balloon dilation with or without sphincterotomy for removal of large bile duct stones. Scand J Gastroenterol 2014; 49: 121-8.(コホート) 4. Li G, Pang Q, Zhang X et al. Dilation-assisted stone extraction: an alternative method for removal of common bile duct stones. Dig Dis Sci 2014; 59: 857-64.(コホート) 5. Kim KH, Rhu JH, Kim TN. Recurrence of bile duct stones after endoscopic papillary large balloon dilation combined with limited sphincterotomy: long-term follow-up study. Gut Liver. 2012; 6: 107-12.(コホート) 6. Yoon HG, Moon JH, Choi HJ et al. Endoscopic papillary large balloon dilation for the management of recurrent difficult bile duct stones after previous endoscopic sphincterotomy. Dig Endosc. 2014; 26: 259-63.(コホート) 7. Tonozuka R, Itoi T, Sofuni A et al. Efficacy and safety of endoscopic papillary large balloon dilation for large bile duct stones in elderly patients. Dig Dis Sci 2014; 59: 2299-307.(コホート) 8. Paik WH, Ryu JK, Park JM et al. Which is the better treatment for the removal of large biliary stones? Endoscopic papillary large balloon dilation versus endoscopic sphincterotomy. Gut Liver 2014; 8: 438-44.(コホート) 9. Itokawa F, Itoi T, Sofuni A et al. Mid-term outcome of endoscopic sphincterotomy combined with large balloon dilation. J Gastroenterol Hepatol 2015; 30: 223-9. (コホート) 10. 良沢昭銘,糸井隆夫,潟沼朗生 ほか.EST 診療ガイドライン.Gastroenterol Endosc 2015: 57; 2721-59.(ガイドライン) 11. Yasuda I, Fujita N, Maguchi H et al. Long-term outcomes after endoscopic sphincterotomy versus endoscopic papillary balloon dilation for bile duct stones. Gastrointest Endosc 2010; 72:1185-91.(RCT) ステートメント 6-2: EPLBD と胆道癌発生の関与は不明である。 Delphi 法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9 推奨の強さ:なし エビデンスレベル:D 42 解説: EPLBD 後の晩期合併症として胆道癌を合併するか否かについては、十分な観察期間が得られてい ないこともあり、現時点では不明である。既存の内視鏡的な乳頭処置として EST、EPBD があるが、 これらの処置の晩期合併症として胆道癌の頻度が高いというエビデンスはない 1),2)。一方で、外科 的乳頭形成術を行った症例では、5.8-7.4%に胆道癌を認めたという報告 3),4) があり、EPLBD が EST や EPBD に準じた経過をたどるのか、あるいは、外科的乳頭形成術に準じた経過をたどるのかによ って、胆道癌の合併頻度も大きく異なる可能性があり、今後さらなる長期経過観察症例の蓄積が必 要である。 文献: 1. Yasuda I, Fujita N, Maguchi H et al. Long-term outcomes after endoscopic sphincterotomy versus endoscopic papillary balloon dilation for bile duct stones. Gastrointest Endosc 2010; 72:1185-91.(RCT) 2. Natsui M, Saito Y, Abe S et al. Long-term outcomes of endoscopic papillary balloon dilation and endoscopic sphincterotomy for bile duct stones. Dig Endosc 2013 ;25:313-21. (コホート) 3. Hakamada K, Sasaki M, Endoh M et al. Late development of bile duct cancer after sphincteroplasty: a ten- to twenty-two-year follow-up study. Surgery 1997;121:488-92.(コ ホート) 4. Tocchi A, Mazzoni G, Liotta G et al. Late development of bile duct cancer in patients who had biliary-enteric drainage for benign disease: a follow-up study of more than 1,000 patients. Ann Surg 2001;234: 210–4. (コホート) 別刷請求先: 〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台 3 丁目 2 番 1 号 新御茶ノ水アーバントリニティビル 4 階 一般社団法人日本消化器内視鏡学会 43
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