屋外タンク貯蔵所の泡消火設備の一体的な点検に係る講習会

屋外タンク貯蔵所の泡消火設備の一体的な点検に係る講習会
***昨年度より再講習を実施しております***
事故防止調査研修センター
製造所等のうち一定の条件の屋外タンク貯蔵
最小限にとどめるためには重要事項の再確認や
種の固定式の泡消火設備を設置する
新たな知識の習得により技能の充実を行ってお
こととされています。屋外タンク貯蔵所に貯蔵
くことが大切です。そのため、過去に初回講習
される第
会を受講されてから
所には第
類の危険物の大半を占める石油系の
年以上経過された方を対
引火性液体に対しては、消火用泡による消火が
象として、昨年度より再講習を実施しておりま
最も有効であるとされていますが、固定泡消火
す。
設備が有効に活用されなかったケースが散見さ
れたことから、平成17年
月14日に「危険物の
規制に関する規則の一部を改正する省令」
(平成
17年総務省令第
次に一体的な点検において点検する事項と当
協会で行っている講習会の内容について紹介し
ます。
号)及び「危険物の規制に関
する技術上の基準の細目を定める告示の一部を
.一体的な点検において点検する事項
改正する件」
(平成17年総務省告示第30号)が公
泡消火設備の主な構成機器として加圧送水装
布され、平成18年 月 日から施行されました。
置、泡消火薬剤貯蔵槽、水源、泡消火薬剤混合
これにより、屋外タンク貯蔵所の泡消火設備
装置および泡放出口等があり、泡消火設備の消
の一体的な点検が行われるととなりましたが、
火ならびに維持管理上必要な性能等は、これら
この改正では、第
種の固定式の泡消火設備を
構成機器等の組み合わせにより成り立っていま
設ける屋外タンク貯蔵所に係る定期点検につい
す。そのためこれらの構成機器を一体的に点検
ては、従前の定期点検で実施していた点検内容
し、性能が維持されているかを確認することに
に加えて、泡消火設備の泡の適正な放出を確認
なります。
する一体的な点検により行うこと、一体的な点
「固定式泡消火設備を設ける屋外タンク貯蔵
検は泡の発泡機構、泡消火薬剤の性状及び性能
所の泡の適正な放出を確認する一体的な点検に
の確認等に関する知識及び技能を有する者が行
係る運用上の指針について」
(平成17年
うこととされています。
日消防危第14号、平成17年
月14
月30日消防危第63
これらのことから、当協会では屋外タンク貯
号)では屋外タンク貯蔵所の泡の適正な放出を
蔵所の泡消火設備の一体的な点検に携わる方等
確認する一体的な点検(以下「一体点検」とい
を対象として平成17年度より「屋外タンク貯蔵
う。
)は下記⑴又は⑵のいずれかにより行うこ
所の泡消火設備の一体的な点検に係る講習会」
ととされ、この際、
「複数の屋外タンク貯蔵所が
(以下、
「初回講習」といいます。
)を実施してお
同一の加圧送水装置、泡消火薬剤混合装置を用
り、これまでに多くの方に受講いただいており
いる場合にあっては、いずれか一の泡放出口を
ます。
代表として点検を行うことができる。なお、泡
近年、石油コンビナート等における事業所で
深刻な事故が発生しておりますが、災害が発生
した際に迅速、かつ、的確な対応により被害を
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放出口は毎年の点検ごとに変更することが望ま
しい」とされています。
⑴
泡放出口からの泡放出により、
発泡倍率、
放射圧力、混合率等が適正であることを確
し引いた値で確認すること。この場合、原則
認することによって行う一体点検(危険物
として予備動力源を用い、機能確認を併せて
告示第72条第
行うこと。
項第
号)
【確認事項】
加圧送水装置等を起動させ、放出した泡に
①
より、次の事項について確認すること。この
あること。
場合、原則として予備動力源を用い、機能確
② 放射量…設計値以上であること。なお、
認を併せて行うこと。
放射量は放射圧力により、性能曲線から求
【確認事項】
①
発泡倍率…
あっては、
②
めることとしてさしつかえないこと。
倍(水成膜泡消火薬剤に
③
倍)以上であること。
泡消火薬剤の性状及び性能が適正である
ことの確認
放射圧力…設置した泡放出口の使用範囲
○
内であること。
③
圧力…設置した泡放出口の使用範囲内で
泡消火薬剤に変色、腐食、沈殿物、汚
れがないことを目視で確認するととも
放射量…設計値以上であること。なお、
に、液面計により規定量以上の泡消火薬
めることとしてさしつかえないこと。
剤が貯蔵されているか否かを確認するこ
④
放射量は放射圧力により、性能曲線から求
と(
還元時間…発泡前の泡水溶液の容量の
○ 「泡消火薬剤の技術上の規格を定める
25%の泡水溶液が泡から還元するために要
する時間は
⑤
省令(昭和50年自治省令第26号)」第
分以上であること。
(比重)
、第
混合率
⑥
ヶ月以内ごとに確認すること)
。
%型…
%以上
%以下であること。
%型…
%以上
%以下であること。
条(粘度)
、第
オン濃度)
、第
条
条(水素イ
条(沈殿量)及び第12条
(発泡性能)の規定に従い、次の事項につ
いて確認すること(
泡消火薬剤に変色、腐食、沈殿物、汚れ
年以内ごとに確認
がないことを目視で確認するとともに、液
すること)
。ただし、第
面計により規定量以上の泡消火薬剤が貯蔵
び第12条(発泡性能)に規定される事項
されているか否かを確認すること(
の確認については、変質試験後の測定を
ヶ月
省略することができること。
以内ごとに確認すること)
。
泡放出口又は直近に設けた試験口等から
・比重
の泡水溶液又は水の放出により送液機能が
・粘度
適正であること並びに試験により泡消火薬
・水素イオン濃度
剤の性状及び性能が適正であることを確認
・沈殿量
することによって行う一体点検(危険物告
・発泡性能
⑵
示第72条第
項第
条(沈殿量)及
⑶
号)
その他の事項
加圧送水装置等を起動させ、泡放出口、試
通常の泡消火設備点検記録表に固定式の
験口又はフランジ箇所等まで送液し、次の事
泡消火設備一体点検点検表(規則第62条の
の
項について確認すること。なお、試験口、フ
関係)を追加すること。
ランジ箇所等を用いて点検を行う場合には、
圧力の確認について、試験口等付近で測定さ
.講習の内容
れる圧力から落差及び摩擦損失の水頭圧を差
一体点検は、泡の発泡機能、泡消火薬剤の性
57 Safety & Tomorrow No.170 (2016.11)
状及び性能の確認等に関する知識及び技能を有
た泡が適正であるかを確認するために必要
する者が行うこと。
(危険物規則第62条の
な事項を実習により体験していただきま
)
とされていることから、初回講習会ではここで
す。内容としては、標準資料の作成、標準
いう知識及び技能を身に付けていただきます。
混合率グラフの作成、たん白泡消火薬剤用
内容は次のとおりです。
発泡倍率測定器具を使用した泡の発泡倍
⑴
製造所等に対する定期点検について
率、25%還元時間、混合率の測定を行いま
⑵
屋外タンク貯蔵所の構造及び火災の形態
す。実習の詳細につきましては、
「3.実習
⑶
泡消火薬剤と泡消火設備
の内容」に示します。
⑷
泡消火設備の機能の維持管理
⑸
固定式の泡消火設備の一体的な点検の方
⑷
泡消火設備の一体的な点検時における不
具合事例や維持管理の要点
第
法
種の固定式泡消火設備の一体点検を
⑹
泡消火設備の不具合事例
行うこととされてから10年以上が経過しま
⑺
固定式泡消火設備から放出された泡が適
したが、
この間に一体的な点検時に泡倍率、
正であるかを実習により測定
還元時間、混合率とも適正な値を示さな
また、再講習では、屋外タンク貯蔵所にお
かった、エアフォームチャンバーからの放
いて火災が発生した場合に適正な泡を放出す
出圧力が規定値に達しなかった等の不具合
るための設備の維持管理の要点、設備の維持
事例が発生しております。この原因として
管理上特に留意が必要となる不具合事例、泡
は、泡消火設備は錆や消火薬剤の沈殿物が
放出試験時における適正な泡の確認方法を中
発生する、一部が異物が詰まりやすい構造
心とした講習を行います。個別講習の内容に
であったこと等により、維持管理が適切に
簡単な説明を付加したものを次に示します。
行われなかった等があります。そのため、
⑴
最近の行政動向
当協会が収集した不具合事例の中から重要
近年続発している石油コンビナートにお
なものを抽出し、それら事例の概要、発生
原因、
再発防止対策等について解説します。
ける大規模な爆発や死亡者が生じる様な重
大事故の発生を受けて実施された関係省庁
⑸
金属の腐食のメカニズム
による再発防止のための取組等、危険物施
消火設備に限らず、幅広く構造物の材料
設関連の最近の保安行政動向を中心に情報
に使用されている金属材料の多くは、内容
提供を行います。
物又は外部環境の影響により腐食・劣化す
⑵
第
種の固定式泡消火設備の一体的な点
検の方法
第
種の固定式泡消火設備の一体的な点
るおそれがあり、これによる不具合等も多
く報告されています。そのため、金属材料
の腐食の発生原因や腐食防止対策について
理解することは泡消火設備の維持管理にお
第
種の固定式泡消火設備を適切に維持管
いて大切なことです。ここでは腐食のメカ
理するために必要となる事項について解説
ニズムと代表的な腐食の発生原因やその対
します。
策について解説します。
⑶
検時の点検内容や点検結果の確認方法等、
標準混合率グラフの作成、
泡の発泡倍率、
25%還元時間、混合率の測定
第
種の固定式泡消火設備から放出され
Safety & Tomorrow No.170 (2016.11)58
.実習の内容
泡放出試験時に適切に放出された泡が適正で
表
あることの確認を行うことができる様、次の実
習を行っています。
⑴
標準試料の糖度計指示値の例
泡水溶液の混合率
糖度計指示値
標準混合率グラフの作成
1.5%
1.0
泡水溶液の混合率を直接測定する装置は
3.0%
2.0
4.5%
3.0
ありません。そのため、泡水溶液の混合率
*ここで示す糖度計指示値は例であり、同じ泡原液を使って
も使用する糖度計、気温等により指示値は変わります。
を知るためには糖度計を使用しますが、糖
度計の指示値から泡水溶液の混合率を求め
るには事前に泡の混合率と糖度計の指示値
⑵
の相関関係を求め、標準混合率グラフを作
発泡倍率、25% 還元時間、標準混合率の
測定
成しておく必要があります。この作業を確
%から3.5%の泡水溶液を発泡させ、
実に行えないと、放出した泡の混合率を正
その泡をコンテナにて採取していただき、
確に知ることはできませんので、この作業
各々の項目を測定していただきます。
は極めて重要なものといえます。これは次
初回講習会の実習においては、実習用に
の手順で行います。
水成膜泡消火薬剤相当の訓練用薬剤を使い
標準試料として濃度1.5%、3.0%、4.5%
の
ますので、泡の採取と25% 還元時間(採取
種類の泡水溶液を作成します(写真
した泡の25% が還元する時間)の観察は図
)。各混合率の標準試料(泡水溶液)を、
ゼロ調整済みの糖度計を使用して計測を行
い、各混合率と糖度計指示値をグラフにプ
ロットします。
と図
に示す様な水成膜泡消火薬剤用の
コレクタとコンテナを使用しています。
再講習においても実習用に水成膜泡消火
薬剤相当の訓練用薬剤を使いますが、泡の
プロットされた点を基にして直線を引
採取はたん白泡消火薬剤用の機器の取り扱
き、標準混合率グラフを作成します。計測
いに慣れていただくため、図 と図 に示
値の例を表
す様なたん白泡消火薬剤用のコレクタとコ
に、それに基づいて作成した
標準混合率グラフの例を図
に示します。
写真
ンテナを使用しています。
標準資料の作成例
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図
*表
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標準混合率グラフの作成例
の糖度計指示値に基づいて作成した標準混合率グラフの作成例
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水成膜泡消火薬剤用泡資料コレクタ
Safety & Tomorrow No.170 (2016.11)60
泡資料コンテナ(内容量1,000mℓの目盛り
付きシリンダ)
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図
たん白泡消火薬剤用泡資料コレクタ
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ᰴߩ߽ߩࠍ᧦ઙߣߔࠆ‫ޕ‬
㧔㧝㧕‫ޓ‬ኈ㊂߇ᱜ⏕ߢ޽ࠆߎߣ
㧔㧞㧕‫ޓ‬ᐩㇱߦಳಲ߇ߥ޿ߎߣ
図
内容量
ኸᴺߪౝߩࠅࠍ␜ߔ‫ޕ‬
1,400mℓの泡試料コンテナ
この場合、25% 還元時間の観察は、図
のコンテナで泡を採取後、100mℓのメス
シリンダーを使って行います(写真
)
。
また、観察時は専用の台の上にコンテナー
を置き、ピンチコックを外し、還元液を
100mℓのメスシリンダーに流しながら行
います(写真 )。
その後、採取した泡の還元液を糖度計で
測定し、標準混合率グラフより採取した泡
の混合率を求めていただき、予め作成して
写真
25% 還元時間観察用メスシリンダー
おいた泡水溶液の混合率と比較します。
また、発泡倍率はコンテナの容量÷泡の
正味重量で求めます。
なお、再講習においては発泡倍率、25%
61 Safety & Tomorrow No.170 (2016.11)
ために
回行います。
.おわりに
屋外タンク貯蔵所には大量の危険物が貯蔵さ
れていますので、火災が拡大してしまうと著し
く消火が困難となります。そのため、火災発生
時には初期段階で泡消火設備を起動して消火の
ために有効な泡を放出させ、火災が拡大する前
に消火することが必要です。火災発生時に泡消
火設備の機能を遺憾なく発揮させるためには、
泡消火設備の維持管理と、操作する者の操作の
写真
25% 還元時間観察時のコンテナーとメス
シリンダーの設置状況
習熟が大切なものとなってきます。そのため、
泡消火設備の維持管理や一体的な点検をされる
方々は継続的に技能の維持に努められ、防災能
還元時間、標準混合率の測定は、機器の取
力の向上を図っていただきたいと思っておりま
り扱いに慣れ、測定精度を上げていただく
す。
Safety & Tomorrow No.170 (2016.11)62