手動弁の電動弁化とアクチュエータ

−屋外貯蔵タンク付属設備の紹介−
手動弁の電動弁化とアクチュエータ
日本ギア工業株式会社 技術部 鈴木雄三
はじめに
電動弁について
電動弁はプラントの省力化、安全運転のため
電動弁とは弁とアクチュエータ(駆動装置)
石油精製、化学、発電所、上下水道等の各基幹
から構成され、アクチュエータに装備している
産業に広く使用されています。近年、石油プラ
モータにより駆動される自動操作弁の一種であ
(注)
ントでは緊急遮断弁
として使用されること
が多く、これは電動弁が遠方の操作室の指令に
る。
小口径から大口径(おおよそ
∼60インチ)
より自動的に弁を安全、確実に閉止操作するこ
まで幅広いサイズをカバーし、弁の開閉時間、
とができるからです。
弁の開閉トルクをニーズに合わせて任意に選定
手動弁の電動化にあたり適切な電動弁用アク
できることが特色である。
チュエータの選定が重要であるため、ここでは
これらの弁の開閉トルクは流体の圧力、配管
緊急遮断弁用アクチュエータの要件と手動弁の
サイズ、弁の種類などにより異なり、アクチュ
電動化について説明します。
エータはそれらの条件を考慮して選定されてい
注:
「平成10年 月25日付け消防危第16号 第
」と「平成17年 月14日付け消防危第14号
第
項 エ」に該当する既存の特定屋外タ
ンクの元弁を緊急遮断弁にすることが規定さ
れました。
(詳細は最終頁【※ 】を参照)
る。
電動弁アクチュエータの主な機能
緊急遮断弁用のアクチュエータとして必要な
機能を説明する。
⑴
遠隔の開・閉指令を受け、全開・全閉位
置まで自動運転できる。そのために位置リ
アクチュエータ
ミットスイッチ、トルクスイッチが装備さ
れている。
⑵
弁の負荷特性に合うモータであり、ス
タックした弁(喰い込み過ぎと長期間未使
用による)でも電動により確実に開閉がで
きる高始動トルク特性のモータが有効であ
弁(仕切り弁)
る。
(図
、 を参照)
そのため専用モータが使われている。
注:汎用モータは高速回転時に最大トルクが
発生し、故障時に衝撃的な力が発生し、弁
に悪影響を与える恐れがある。
写真
使用例
(タンク元弁)
図
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弁ネジ(バルブステム)
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クラッチ機構部
電磁開閉器
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図
弁の負荷特性
図
トルクスプリング
モータの特性
リミットスイッチ
⑶
手動操作(ハンドル操作)モードであっ
トルクスイッチ
写真
アクチュエータの構造
(SMB 型/インテグラル)
ても、遠隔の開閉指令を受け自動的に電動
モードに切替わる。これは緊急遮断弁用と
しては不可欠な機能である。また手動操作
中、モータが回転してもハンドルに動力が
アクチュエータの種類
伝わらず、回されない安全機構である。
⑴
そのためにモータの回転により自動で電
基本ユニットとインテグラルユニット
アクチュエータには基本型とインテグラル型
動モードに切替わるクラッチ機構が装備さ
がある。
れている。
⑷
①
全閉では流体の漏れが無いように適正な
基本型アクチュエータ
アクチュエータの基本制御機器(リミット
シート圧で弁を締込める。
スイッチとトルクスイッチ)のみ搭載し、シ
そのためにバルブの負荷を検出できるト
ンプルな構成で、厳しい環境での使用に適し
ルクスイッチが装備されている。
⑸
ている。
バルブの負荷から回されて開かないよう
②
に弁位置をロックするセルフロック機能が
インテグラル型アクチュエータ
【緊急遮断弁用として多くが採用している】
必要である。
電動操作に必要な制御機器(可逆開閉器、
そのためウォーム歯車が使われている。
トランス等)を搭載したアクチュエータであ
る。
電動弁アクチュエータの基本構造
写真
、
電源を接続するだけで電動運転ができ、さ
は代表的なアクチュエータの構造
らに制御線を接続すると遠隔運転が可能にな
である。
る。
一般的に開・閉・停の指令信号(
全開・全閉表示用信号(
モータ
本)の合計
本)と
本の制
御線により遠隔運転ができる。すなわち遠方
の開閉指令を受け弁を遮断することができ
デクラッチレバー
ウォーム
る。
⑵
トルクスイッチ
エアー駆動式アクチュエータ
電源がなくてもエアタンクのエアー源でエア
リミットスイッチ
モータを駆動できることが特徴である。
写真
アクチュエータの構造(L120型)
31
Safety & Tomorrow No.137 (2011.5)
①
エアー/電気式アクチュエータ
既存手動弁の電動化
動力源のみエアー(モータ)を使い、トル
クスイッチ、リミットスイッチなどの制御機
器は電気式のアクチュエータである。
小容量の UPS(無停電電源装置)により制
御電源をバックアップすることにより、停電
時でも運転できる。
制御が電気なので制御機器が簡素化でき
る。
②
オールエア式アクチュエータ
図
エアモータの他にトルクスイッチ、リミッ
仕切弁の電動化
トスイッチもエアー制御式にしたアクチュ
エータのことで防爆地域に容易に設置するこ
とができます。
(該当品
⑷
SMBA 型
L270型)
防爆構造
一般的には耐圧防爆(d2)が使用されるが、
爆発等級により水素防爆(d3a)も必要になる。
アクチュエータの型式例
写真
SMB 型
・長 年 の 実 績 を 誇
る
・サイズ: 種
・出力トルク:
170∼27500N・m
・耐圧防爆:d2G4
(Exd Ⅱ B +
H2T4/水素)
図
既存の手動弁を電動化し、遠隔操作できる電
動弁へ改造することができます。予め準備する
ことにより、短期間での電動化工事も可能とな
ります。一般的な手順は次の通りです。
⑴
・軽量/小型
・サイズ: 種
・出力トルク:
140∼540N・m
・耐圧防爆:Exd
Ⅱ BT4
バタフライ弁の電動化
アクチュエータのサイジング
①
既存弁の下記⑵項の情報から最適なアク
チュエータの種類を選定する。
②
流体の種類・圧力、弁の種類、開閉時間
などから要求事項を満足するアクチュエー
タのサイズ、モータサイズ、減速比などの
仕様が決定される。また制御・操作方法か
写真
L120型
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らアクチュエータの結線図を決定する。
図
代表的な結線図
33
Safety & Tomorrow No.137 (2011.5)
⑵
ある。予め、アクチュエータの仕様と外部引込
必要な情報
①
み導線の仕様を確認しておく。なお具体的な接
既存弁の情報
・弁の種類、サイズ、ストローク、開閉ト
続は⑸項を参照する。
⑷
ルク、スラスト
既存の手動弁の電動化工事
弁の種類、アクチュエータの型式により工事
・弁メーカ、弁カタログ、製造番号
・弁ネジの径・ピッチ・リード
(注
内容は異なるが、代表的な仕切り弁の例を写真
)
∼11に示す。
②
要求開閉時間
③
流体の種類・圧力
④
防爆構造の要否
手順、注意事項、予期しない事への対処などあ
⑤
設置環境:温度、振動など
り専門技術員に依頼することを推奨します。
⑥
改造に必要な寸法(図
(専門技術員の事前調査とその後の打合せが重
⑦
制御・操作方法
要です)
注
:開閉時間を長くすることでモータを小型
化できる。
⑸
実際の工事は運用中の弁を扱うため、工事の
、 を参照)
また補助減速機(ベベルギア)と組み合わせ
結線図と配線
図 は代表的なアクチュエータの結線図であ
る。
外部からの電線の接続は以下の通りである。
ると電動アクチュエータ本体が小型にできる。
⑶
外部導線引込み方式の確認(防爆機器)
⑴
動力線は端子の「U」
「V」「W」に接続す
る。
アクチュエータを弁に取付けた後、外部導線
のアクチュエータへの引き込みは「工場電気設
備防爆指針」に基づき行う。
アクチュエータの外部導線引込み方法は耐圧
パッキン式が一般的だが、電線菅ねじ結合式も
⑵
遠隔制御の開閉指令の制御線を端子「
「
⑶
」
「
」
」
「10」へ接続する。
また全開・全開表示用として制御線を端子
「
」
「
」
「
」へ接続する。
既存の手動弁の電動化工事例(L120型アクチュエータの場合)
写真
改造前
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写真
ヨーク、手動ハンドル、ヨークスリー
ブを外す。
写真
写真
ヨークフランジの取付
(アクチュエータと弁のインターフェース)
外した部品
写真11 電動アクチュエータの取付
(L120型アクチュエータの例)
写真10 スラストアダプター取付
アクチュエータの一部で、内部のステムナッ
トは弁ネジと嵌合する
【※
】
「平成10年
月25日付け消防危第16号
策として、容量
第
により、阪神・淡路大震災の危険物施設の被害状況から耐震対
万 KL 以上の特定屋外タンクと配管との結合部分の直近には遠隔操作により閉鎖する機能
を有する緊急遮断弁(予備動力源が確保されていること。)、 及び
第
項
エ
により、十勝沖地震の被害状況から、容量
平成17年
月14日付け消防危第14号
万 KL 以上又は空間高さ(Hc)が
m 以上と
なるシングルデッキ型浮屋根の特定屋外タンクは、液面揺動が生じて浮き屋根上に貯蔵危険物が滞油した
場合、排水設備を介して外部に漏えいすることを防止するため緊急遮断弁とすることに規定され、期限が決
められました。
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