田辺欧,『北欧文学に関するインターネット検索について』

IDUN
Vol. 20・2012
北欧文学に関するインターネット検索について 田辺 欧
はじめに
本研究の所期の目的は北欧のさまざまな情報の公開にあたって基盤的な役割
を担ってきた「図書館」を公共の場における文化的トポスとして捉え,図書館と
その図書館の利用者,すなわち読者との相互関係を歴史的な観点もふくめて考察
することであった.ところが,本研究の準備にまさにとりかかろうとした 2010
年の秋,北欧の図書館とりわけデンマークの公共図書館にスポットをあてた著作
『デンマークのにぎやかな公共図書館』1が出版された.この本には,筆者が調査
し考察したいと計画していた内容が,十二分に言い尽くされていて,筆者がそれ
以上に付け加えることは何もない.
著者である吉田は北欧(アイスランド,デンマーク,スウェーデン,ノルウェー,フィ
ンランド)ではいずれの国もおしなべて生涯学習という考え方を尊ぶ長い歴史を
もち,公共図書館が早くから発達しており,すべての住民が等しく情報にアクセ
スできると指摘している.なかでもデンマークは公共図書館が 100 年以上の歴史
を持ち,いち早く図書館間のネットワークを整備し,居住区がどこであろうと住
民が平等に図書館サービスを享受できるように整備されているという点において,
北欧でもっとも図書館制度の成熟した国だと述べている.2 この本が述べる図書
館のシステムやデンマークの読書事情の内容に目を通していると,図書館の役割
が北欧社会の基盤を成り立たせている理念,すなわち「平等」
「共有」
「セルフヘ
ルプ」を具現していることがよく理解できる.具体的に言うならば,近年の図書
館はサービスの電子化,新しいデジタル技術の進化にともない,一般書や稀覯本
また公的資料といった紙媒体ばかりではなく,音楽や映画といった視聴覚および
デジタル情報を提供する役割を大きくしつつあること,情報アクセスへの平等を
確保するために図書館に出向くことができない利用者(高齢者,病人,障碍者等)
のために図書館が本を届けるサービスを行っていること,人と人とが交流し地域
の文化センターとしての役割も担い,自己形成の場として機能していること,そ
して何よりも図書館で中心的役割を担う司書が,読者一人ひとりのニーズに向か
い合うという伝統を今なお大切に守っているということである.こうしたデンマークをは
じめ北欧の図書館が担っている文化的な役割については,是非上に挙げた本を読
1
2
吉田右子著.2010.264pp. 新評論.
吉田.pp.17-21.
71
田辺 欧:北欧文学に関するインターネット検索について んで頂きたい.
本稿では北欧の図書館に行くことは叶わないが,たとえ行くことができなくて
も,読者が書物に代わる媒体を通して北欧に関する情報を収集できること,その
ことを筆者の研究分野である文学に限定して簡単に紹介・報告するにとどめたい.
以下に挙げるオンラインでの検索サイトは北欧文学に関連したすべてのサイトを
網羅しているわけではない.デンマーク文学を中心とした北欧3国に限っている
こと,サイトが北欧語と英語(数件はドイツ語)といった複数言語で運営されて
いるものもあるが,大半は北欧語で書かれたものであることから,利用者は北欧
語をある程度習得した上で北欧文学についての見識を高めようとしている人,例
えば大学の教育課程において,レポートや卒論を書く学生,語学学校等でしかる
べき語学能力を身につけ,さらに専門的な知識を取得しようとしている人を対象
に紹介していることをまずは断っておきたい.8年前に生誕 200 年を迎えたアン
デルセン,本年生誕 200 年を迎えるキェルケゴールの検索サイトについては,記
念事業として非常に充実したサイトができている.この2件の個人に特化した検
索サイトに関しては他のサイトより少し詳しく紹介することにしたい.
1. 文学一般
【デンマーク】 タイトル デンマーク文学叢書
Arkiv for Dansk Litteratur URL http://adl.dk
概要 本サイトはデンマーク王立図書館が電子化上の管理を,そして内容に
関してはデンマーク語・文学協会が責任を担うかたちで運営されてい
る.現在は 2008 年時点で版権1 の切れたデンマーク作家 78 名の作品
原典および作家履歴が検索できる他,知名度の高い作家に関しては,
代表作品の簡単な概要,また作品背景,作品受容などについても記さ
れている.検索方法は,作家名・書名・時代区分,それらいずれかに
よって可能である.アンデルセンに関しては,後に紹介するアンデル
セン研究所が開設しているサイトとも連携しており,王立図書館独自
が立ち上げたアンデルセン関連のサイト「アンデルセンと音楽」
,
「ア
ンデルセンと芸術」などのトピックを設け充実したサイトを有する. 1
デンマーク,スウェーデンにおいては著者の死後 70 年以上で版権が無効とされている.
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タイトル デンマーク文学史上の参考文献目録 Dansk litteraturhistorisk Bibliografi
URL
http://www.dlb.dansklf.dk/
概要
本サイトは,Dansklærerforeningen(国語教員協会)1によって運営および
管理がなされている.古典から現代に至るまで,デンマーク主要作家
および文学作品に関する論文(1967 年以降に公刊されたものに限
る)
,テーマ分析,原典のテクストに関する資料などが検索できるサ
イト.とりわけ論文検索の項目が優れている.その意味において,本
サイトは研究者に活用されることが多い.検索方法には,作家名およ
び年代,様々なキーワードを用いることが可能である.例えば,本年
生誕 200 年を迎えるキェルケゴールに関する論文は約 2000 件,アンデ
ルセンは約 1050 件,ブリクセンは約 650 件にのぼる.キェルケゴール
に関する論文数が抜きん出ているというのは特筆に値する.
タイトル
文学の頁
Litteratursiden URL
http://www.litteratursiden.dk/
概要 本サイトは図書館協会が母体となって 2000 年にオーフースで設立さ
れた.実際の運営はサイトの会員である図書館司書たちによってなさ
れている.2009 年には図書館大賞を受賞し,一般読者層からの支持
が強く人気のあるサイトであり,年間約 120 万人の訪問記録がある.
内容はデンマーク語による現代のノンフィクション文学作品に関し
て,書評や作品分析および作家へのインタビューなど様々な角度から
の情報を提供している.月ごとのテーマも掲載され,文学関係の新刊
書紹介も充実している.デンマーク語のみのサイトだが,教育的な配
慮が行き届いており,デンマーク人の中学生,高校生,大学生などが
課題作成時に活用できるばかりでなく,外国人であっても北欧語の能
力が中程度あれば,十分に活用できる. 1
1885 年に国語教育者のための専門研究機関として設立された歴史ある協会.現在は国語教育
者だけではなく,国語教育に関心を抱くものすべてに開かれた協会であり,この協会独自の
出版部門も備えている.現在会員数は全国で 9000 人を越える.
73
田辺 欧:北欧文学に関するインターネット検索について タイトル
作家ウェブサイト
Forfatterweb
URL
http://www.forfatterweb.dk
概要 本サイトは,デンマークの DBC(デンマーク図書館センター:図書
館データベースセンター)と Ibreauet(デンマークの日刊紙 Information)
の傘下にある雑誌と教材開発所)によって共同運営がなされている.
デンマークを初めとして北欧の作家はもちろんのこと,海外の著名な
作家に至るまで,およそ 700 人(このうち 175 人は児童文学)の作家
について,作家紹介,作品に関する詳細な解説,研究書,また作家や
作品を扱った映画の検索に至るまでかなりの領域を網羅し,内容の質
が高いのが評判である.短編の映画による作家紹介もサイトに組み入
れられている.またリンクから作品や,論文の類のデータを最寄りの
図書館で受け取れるように,予約することも可能である.デンマーク
語のみで閲覧可能. タイトル
北欧作家アトラス
Nordisk forfatteratlas
URL
http://www.dr.dk/Kulturguiden/Forfatteratlas/Forside.htm
概要 本サイトはデンマーク,スウェーデン,ノルウェー,フィンランドの
公共放送局メディア (DR,SVT,NRK, YLE) が共同で北欧作家を紹介
している.サイトの企画責任はデンマーク放送局にある.現在このサ
イトにアクセスできるのは,デンマークとノルウェーのウェブアドレ
スからのみになっているが,大元である上記のデンマークの URL から
アクセスすると,ノルウェー,スウェーデン,フィンランドの作家に
ついても各国の言語で情報を収集することが可能である.扱っている
作家は 17 世紀半ばのバロック時代の作家から現代作家に至るまでか
なり広範囲に及ぶ.サイトのフロントページにアトラス(世界地図帳)
を見るように作家の名前が時代順に配置されているので,同時代上に
おける北欧作家の相関関係を視覚的に即座に捉えることができる.ま
た各作家に関するメディア放送(例えば,作家や作品に関して各国の
放送局が放映記録したものの一部)がネット上で見たり聞いたりする
ことができるという点で,視聴覚素材に重点が置かれている. 74
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タイトル
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ジェンダー研究所 Kvinfo
Køn Viden Information Forskning
URL
http://forside.kvinfo.dk
概要 ウェブタイトル Kvinfo は Køn(性)Viden(知識)Information(情報)
Forskning(研究)の略であるが,Kvindeforskning(女性に関する研究)
がベースとなっており,ウェブのタイトルも Kvinde(女性)とかけ
ている.研究所自体は 1964 年にまさしく女性研究所として創設され
た.1997 年よりオンラインでの「ジェンダー」に関する一般情報公
開が始まった.
「ジェンダー」について領域を越えた相互研究,フォ
ーラム,研究論文など,幅広い知識が獲得でき,英語版のサイトも併
設している.1998 年に本媒体として発行された5巻本の『北欧女性
文学史』(Nordisk kvindelitteraturhistorie) を,翌年からオンラインで公
開する企画が進められ,2011 年に完成した.このサイトでは純文学・
大衆文学での女性作家の紹介に限らず,芸術,社会学,自然科学の分
野で著作を刊行した女性作家すべての情報を網羅しており,世界的に
もユニークな研究サイトとして注目を浴びている.現在デンマーク
語,スウェーデン語,英語での閲覧が可能である. 【スウェーデン】 タイトル 文学銀行
Litteraturbanken
URL
http://litteraturbanken.se/
概要 本サイトは王立図書館とスウェーデンアカデミーが中心となって運
営される公共のサイトである.形式は「デンマーク文学叢書」と似て
いる.スウェーデン語による文学作品がネット上で閲覧できるように
なっており,現在は版権の切れた古典作家を中心に,作家紹介と作品
のデジタル化を行っているが,現代作家であっても,版権がクリアで
きている領域は掲載している.現代作家も掲載可能な範囲で紹介して
いる分,かなりのデータベースを有している.またフィンランドのス
ウェーデン文学協会もこのサイトの運営に参画し,スウェーデン語系
フィンランド人作家の情報も提供している.スウェーデン文学につい
て調査をするならば本サイトが最大級かつもっとも信頼性を有して
いる. 75
田辺 欧:北欧文学に関するインターネット検索について タイトル
Runeberg プロジェクト
Projekt Runeberg
URL
http://runeberg.org/
概要 北欧の文学作品がデジタル化され,ネット上で閲覧できるようになっ
ているサイト.大半はスウェーデン・デンマーク文学であるが,ノル
ウェー語そして英語によるテクストも含まれる.運営母体はスウェー
デン・リンシューピング大学の学術データ組織にあり,ボランティア
によって 1992 年から運営され,サイト訪問者数は年々増加している.
本サイトも Litteraturbanken と同様,版権の切れた作家の作品を順次
掲載している.多言語からアクセスできるという点で北欧文学に関心
を持つ一般人,北欧に関しての初学者にとっては大変使いやすいサイ
トである.また内容についてのコメント,質問も歓迎すると記されて
いる. タイトル
ドラマ・ダイレクト
DramaDirekt
URL
http://www.dramadirekt.com/
概要 スウェーデン語による演劇・戯曲などの台本がデジタル化され,PDF
ファイルでダウンロードできるようになっている.検索はスウェーデ
ン語,英語,ドイツ語,他の北欧言語すべてにおいて可能である.運
営は非営利団体であるスウェーデン戯曲作家協会によって行われて
おり,文化庁,文化審議会などから資金援助を受けている. タイトル
季刊誌購入サイト
Tidskriftsbutiken
URL
http://www.tidskriftsbutiken.nu/
概要 スウェーデンで発行されている人文系の季刊誌を紹介し,購入できる
サイト.分野は一般文化に始まり,デザイン,写真,建築,文学・哲
学,子ども・青少年文化,歴史,音楽,芸術など人文学系ほぼすべて
を網羅している.季刊誌の内容が詳しく説明されているものと,季刊
誌のタイトルだけが表示されているものとに二分化されているが,い
ずれも本サイトからの購入が可能である. 76
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タイトル
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フィンランド・スウェーデン季刊誌
Tidskrift.fi
URL
http://www.tidskrift.fi/aktuellt/
概要 フィンランドで発行されているスウェーデン語の季刊誌がすべて掲
載されている.網羅している分野は人文科学系から自然科学系,また
一般社会,一般文化と幅広い.総数 100 件の季刊誌が概観できるサイ
トである.検索機能はついていない.スウェーデン語でのみ閲覧可能.
2. 北欧児童文学研究所のサイト
【デンマーク】 機関名
デンマーク児童文学研究所
Center for Børnelitteratur
URL
http://www.dpu.dk/cfb/
概要 本サイトはデンマーク内外を問わず児童・青少年文学研究のために
1998 年に設立され,当時よりオンラインで情報を発信してきた.現
在の運営母体はオーフース大学であるが,もともとこの研究所はデ
ンマーク教育大学内に設立された.サイトの内容は一般人向けでは
なく,児童文学の専門研究者向けと言った方がよい.オーフース大
学とデンマーク教育大学が 2007 年に統合して以来,研究自体はユラ
ン半島にあるオーフース大学で行われ,教育はコペンハーゲン郊外
のエムドロプ (Emdrup) で行われている.それゆえ,このサイトで検
索した児童文学書,参考文献等の書物媒体は元デンマーク教育大学
内にある教育学図書館の方で所蔵されている.この教育学図書館は
ヨーロッパ最大級の児童文学書(80,000 冊以上)を有している.本
の貸し出しは一般人にはなされていない.サイトは児童文学の研究
理論やテーマ,教育現場における児童文学に関する議論などについ
ても詳しく取り扱っている.一般人が児童文学について検索するた
めのサイトはリンクに数多く記載されている.本サイトは 2007 年ま
ではデンマーク児童文学研究所として独立運営がなされていたた
め,デンマーク語および英語でのアクセスが可能であったが,現在
はデンマーク語のみのサイトとなった. 77
田辺 欧:北欧文学に関するインターネット検索について 【スウェーデン】 機関名
スウェーデン児童文学研究所
Svenska barnboksinstitutetb
URL
http://www.sbi.kb.se
概要 本サイトは公共の図書館としてスウェーデンの児童・青少年文学に
関心を抱く一般人,またスウェーデンの児童文学を専門にしている
研究者,双方に向けて運営がなされている.財政上は教育庁の管轄
にあるが,設立にはストックホルム大学,スウェーデン挿絵家協会,
スウェーデン出版協会,スウェーデン作家連盟などが関わっている.
スウェーデン児童文学を主に扱っているが,スウェーデン語に訳さ
れた世界の児童文学も可能な限り収集している.一般人向けに児童
書の貸し出しもなされるほか,児童文学に関連したさまざまな
イベントも企画し,サイト上で情報を発信している.例えば,児童
文学に関する一般向けのフォーラムや児童・青少年文学作家の朗読
会,絵本の挿絵家を招いたプログラムなどが用意されている.研究
者にとっては作家,作品名,テーマなどから各国語の研究論文や
エッセイなどを検索できる環境も整備されており,児童・青少年文
学に関連したスウェーデン語の学位論文なども貸し出しが可能であ
る.スウェーデン語および英語の双方からアクセスが可能で,外国
人にも非常に使いやすく親切である. 【ノルウェー】 機関名
ノルウェー児童文学研究所
Norsk Barnebokinstitutt
URL
http://barnebokinstituttet.no
概要 本サイトの実質上の運営は民間によってなされているが,財政上は
国家の援助によりまかなわれている.サイトの形式はほぼスウェー
デン児童文学研究所と同じである.また児童・青少年文学を研究す
るための教育コース(2年間)も備えており,それらに関する教育・
研究の情報も本サイトからアクセスすることができる.蔵書数は
(1800 年以降現在に至るまで,ノルウェー児童文学以外,北欧の児
童文学も含め約 75,000 冊)にのぼり,デンマークに次いで多い.こ
れらの本はノルウェー国立図書館の最上階に保管されている.サイ
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ト自体には誰でもアクセスできるが,児童文学研究所管轄の本の閲
覧および貸し出しは 18 才以上の成人に限られている.サイトは北欧
3国のなかにおいてはもっとも見やすく,使いやすい.研究者にも詳
しい情報が分かりやすく解説されている上に,一般人向け,また児
童でも関心が持てるように,視聴覚素材も数多く取り揃えている.
本サイトはスウェーデン児童文学研究所と同様,ノルウェー語およ
び英語の双方からアクセスが可能で,外国人にも非常に使いやすく
親切である. 3. 個別作家別研究サイト
機関名
アンデルセン研究所
H.C. Andersen-Centret
URL
http://www.andersen.sdu.dk/
概要 アンデルセンに関する研究所.組織としては南デンマーク大学に属し
ているが,デンマーク児童文学研究所のサイトとは情報発信方針がか
なり違う.アンデルセンに関心をもつすべての人(子供から大人,デ
ンマーク人から外国人,一般読者から研究者)に開かれた非常にオー
プンなサイトとして機能している.センター自体は 1988 年に設立さ
れ,徐々にオンラインでの情報公開は進められて来たが,2005 年のア
ンデルセン生誕 200 年を記念して,国から 400 万クローネ(約 6000
万円)の援助を受け,ホームページのリニューアルを始めとし,さま
ざまなジャンルと提携してセンターの内容を拡大した.本サイトのタ
イトルは「H.C.Andersen: forskning, eventyr, liv & forfatterskab」
(アンデ
ルセン:研究,童話,人生&作品)とされており,アンデルセンにつ
いて,あらゆる側面から検索することが可能である.フロントページ
の左側に検索のサブ検索項目,Liv(人生)
,Værk(作品)
,Breve(書
簡)
,Rundt om Andersen(アンデルセンあれこれ)
,Forskning(研究)
,
Studier(授業)
,Titler oversat(翻訳された本のタイトルリスト)
,Links
(リンク)
,Om centret(センターについて)Søge & sitemap(検索&サ
イトマップ)が順に並ぶ.サブ検索項目の下にはアンデルセンに関す
る新着情報が更新される.目下の最新情報は,公刊されていない書簡
が連日更新されていることである.また世界的に話題を呼んだ最近の
情報は,昨年暮れ(2012 年 12 月 13 日)にこれまで未発掘であった童
79
田辺 欧:北欧文学に関するインターネット検索について 話「ランタン」(“Tællelyset”) が発見された経緯についての記事が掲載
されたことである.アンデルセンをめぐる新刊書,最新の研究情報,
博士論文などの情報もこの欄に掲載される.「人生」,「作品」などは
他の書物媒体でも入手できる情報だが,「アンデルセンあれこれ」の
項目などは本検索サイトでしか公開されないような小さな情報(よく
使われるアンデルセン語録や格言のようなフレーズの紹介,生誕 100
年を記念して贈られたスウェーデン作家ストリンドバリからの手紙
等)が満載である.またアンデルセンに関連した現代絵画のギャラリー
や映画の紹介,中学2年生がアンデルセンについて調べたレポートな
ども公開されている.上記のように,一般読者を対象とした検索項目
も充実している一方,
「研究」項目をクリックすると,
「アンデルセン
童話におけるモチーフ」
,
「参考文献データベース」
,
「同時代における
アンデルセン文学評」,「アンデルセン国際会議録」,「研究論文 1875
〜2005 のデータベース」
,
「他のアンデルセン研究関連リンク」等,研
究者にも大変有効なデータがすべて揃っている.また複数言語に翻訳
された作品のタイトル一覧,アンデルセン関連の他のサイトが 150 件
以上,本サイトのリンクに貼られている. 機関名
キェルケゴール研究所
Søren Kierkegaard Forskningscentret
URL
http://www.skc.ku.dk
概要 キェルケゴールに関する研究所.組織としては 2010 年まではコペン
ハーゲン大学・神学部内にあるキェルケゴール研究所が独自に運営し
てきたが,2010 年よりコペンハーゲン大学の総合検索サイトの一つと
して組み入れられている.ホームページのタイトルも「SK2013」とし,
キェルケゴールの生誕 200 年をアピールし,この検索サイトが幅広く
活用されることを期待していることがうかがえる.本サイトの最大の
利点は,キェルケゴール研究所が 1997 年以来,国家的事業として編
集・刊行に取り組んできた Søren Kierkegaards Skrifter(新版全集:28
巻のテクストと 27 巻の注釈,全 55 巻からなる)をすべて電子媒体で
無料公開していることであろう.この電子版 (elektronisk- version:
sks.dk) をクリックすると,まず画面の一番上に「刊行された著作」
(Trykte skrifter),
「刊行されなかった著作」(Utrykte skrifter),
「日誌と
遺稿」(Journalen og Papirer),
「書簡と献辞」(Breve og Dedikationer) の
80
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タグが並んでいる.例えば「刊行された著作」をクリックし,アルファ
ベット順に配列されているなかで,G 項目の Gjentagelse(
『反復』
)を
クリックすると,新たに開いた画面にさまざまなタグが上部に配置さ
れており,
「テクスト概要」(Tekstredegørelse) というタグをクリックす
れば,
『反復』の書誌情報や成立背景などを見ることができ,
「注釈」
(kommentar) のタグをクリックすれば,注釈の内容がすべて閲覧でき
る.またそれらの注釈がテクストのどこにあるのかも,アスタリスク
マークで表示されるなど,検索テクスト内容の全貌が把握できる.さ
らに左側にはサブ検索項目が配置されている.
「SKS について」(Om
SKS),
「内容」(Indhold),
「資料ファイル」(Resursefiler),
「検索」(Søg)
などを使うと,著作物に関連したことも検索できる.例えば,「資料
ファイル」などには伝記文書,コペンハーゲン・ベルリン等の地図,
1834−55 年のカレンダーなどが閲覧できる.また電子版最大の強みは
キェルケゴールの著作に出てくるほとんどの用語をコンコーダンス
の機能を用いて検索できることである.以上,ここでは電子版につい
て中心に記述したが,本サイトにはキェルケゴール研究所から生誕
200 年に因んで夥しい情報,英語での資料案内検索サイトや,コペン
ハーゲン市内で開催される記念講演会および講義の案内サイト,また
キェルケゴールの時代(デンマーク黄金時代)についての検索サイト
などがリンクとして貼られている.しかしながら本サイトはキェルケ
ゴール研究者向けに用意されたものであり,教養知識としてキェルケ
ゴールのことを検索するためのサイトではない.電子版もデンマーク
語“Vejledning”(検索手引き)という語の意味が理解できていなけれ
ば,まったく使いこなすことができない.本サイト以外に,「Søren
Kierkegaard Kulturproduktion」(http:// www. kierkegaard-kultur.dk) はデン
マーク語・英語で閲覧できる一般人向けのサイトとして使い勝手がよ
い.またコペンハーゲン市立博物館のホームページには「キェルケゴ
ールの部屋」をネットで検索でき,キェルケゴールの所蔵物の展示お
よびキェルケゴールに関する情報が見られるようになっている
(http://www.copenhagen.dk). 81
田辺 欧:北欧文学に関するインターネット検索について 機関名
イプセン研究所
Senter for Ibsen-studier
URL
http://www.hf.uio.no/is/
概要 オスロ大学人文学科に属するイプセン研究所が発信している研究者
用サイト.世界中に拡散しているイプセン研究者にとって非常に有効
な研究サイトであるばかりでなく,実際にこの研究所で行われている
国際的な研究の一端が随時更新,紹介されている.またこの研究所は
マスタープログラム(2年間の修士課程)を開設しており,それに関
連する情報も同時に発信している.このマスタープログラムには世界
各国からの留学生を受け入れている.イプセンの原典資料,参考文
献・資料のデータベースはもちろんのこと,あまり知られていないイ
プセンの研究側面などについても掲載している.また現在この研究所
において,12 の戯曲を8言語によって同時に翻訳出版するプロジェク
トが立ち上げられており,その8言語のなかに日本語も入っている. 一般人向けの情報は国立図書館が運営している「イプセンのすべて」
(All about Ibsen: http://ibsen.nb.no)のサイトがビジュアル面にも力を
入れて魅力的である.こちらでは普通知られていないイプセンの側
面,詩人としてのイプセン,画家としてのイプセンも紹介されている.
またスウェーデン・ストリンドバリと同様に,イプセンの醍醐味は
演劇鑑賞することでもあるため,演劇情報などもたえず更新されて
いる. 4. 博物館・協会系サイト 【デンマーク】 機関名
H.C.Andersens Hus
アンデルセン資料館
URL
http://museum.odense.dk/museer/hc-andersens-hus.aspx
オーゼンセにあるアンデルセン資料館.アンデルセンに関連する
概要 様々なイベントも行なっている.英語での表示可. 82
IDUN
機関名
Vol. 20・2012
Karen Blixen Museet
カーアン・ブリクスン博物館
URL
http://museum.odense.dk/museer/hc-andersens-hus.aspx
概要 コペンハーゲンの北,ウーアソン海峡に面した Rungsted(ロングス
テズ)にあるカーアン・ブリクスンの生家であり,また彼女の最期
を過ごすこととなった家に作られている.作家の自筆の作品や文
献,また所蔵品などが展示されている.英語で閲覧可. 【スウェーデン】 機関名
Strindbergssällskapet
ストリンドバリ協会
URL
http://www.auguststrindberg.se
概要 本サイトは日本で言うならば,ストリンドバリについての研究者団
体,学会に相当する機関が作成したサイトである.協会自体が設立さ
れたのは,1945 年と,スウェーデン文学系の個人の研究団体として
は最も古いものの一つと言われている.昨年 2012 年はストリンドバ
リ没後 100 年の記念の年であったので,それを機会にかなり詳しいサ
イトに刷新された.本サイトの紹介は本来ならば,スウェーデンのい
ずれかの大学または国立の付属機関にもとに置かれても不思議では
ない.形式はデンマークのアンデルセン研究所が提供している研究サ
イトに似ている.ストリンドバリが戯曲作家という枠のみにとどまる
ことなく,物語作家,思想家,写真家といったマルチ芸術家の側面を
有しているからである.昨年は「ストリンドバリ 2012」と銘打った
特別のサイトを公開していた(現在もまだ閲覧可能 → http://www.
strindberg2012.se/index.php/sv/)が,いつまで公開されているかは不明.
協会が公開しているサイトでは著作の原典資料,論文などの研究関連
についての検索はもとより,一般人にむけた講演会,講義の情報から,
視聴覚での資料,またストリンドバリの演劇にかんする情報などもす
べて網羅している.英語で閲覧可. 83
田辺 欧:北欧文学に関するインターネット検索について 機関名 Strindbergsmuseet
ストリンドバリ博物館
URL
http://www.strindbergsmuseet.se/index.html
概要 Stockholm にある同作家が暮らしたアパートに作られた博物館.英語
で閲覧可.
機関名
Selma Lageröf sällskapet
セルマ・ラーゲルルーヴ協会
URL
http://www.selmalagerlof.org/index.html
概要 協会自体の設立は 1958 年である.作家の伝記資料そして著作に関す
る情報が詳細に掲載され,ラーゲルルーヴに関する参考文献・資料(論
文)の出典が更新されている. 機関名
Mårbacka Selma Lagerlöfs hem
セルマ・ラーゲルルーヴの故郷
URL
http://www.marbacka.com/index.php
概要
作家の故郷である,Östra Ämtervik の Mårbacka にある博物館のサイ
ト.英語で閲覧可.
機関名
astridlindgren.se
アストリッド・リンドグレーン公式ホームページ
URL
http://www.astridlindgren.se/
概要
同作家の公式ホームページ.同作家による絵本や童話などの著作の
紹介や作家の人生などについて取り上げられている.英語閲覧可.
機関名
Astrid Lindgrens Näs
アストリッド・リンドグレーン博物館
URL
http://www.astridlindgrensnas.se/sv/hem
概要
Vimmerby にある同作家の生家に作られた博物館.英語閲覧可.
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