教師のしおり - 北九州市立学校

教師のしおり
-再改訂試案版-
北九州市立教育センター
平成19年1月
教師のしおり
-再改訂試案版-
「教師のしおり-再改訂試案版-」は、北九州市教育委員会が昭和 53 年に発刊し、同
57 年に改訂した「教師のしおり-改訂-」を「プロジェクトG・T」において再改訂を試
みているものです。
昭和 53 年発刊の「教師のしおり」の冒頭には、
「(略)多くの職業の中から、教師の道
を選び、子供たちからの敬愛、父母や市民の信頼のもとに、この道に一生をかけていくこ
とはたいへん素晴らしいことだと思いますが、それだけに、使命の重大さや、指導力のた
しかさの重要性をひしひしと感じられると思います。とくに、
『21 世紀からの留学生』と
いわれる子供たちに『自ら考え正しく判断する力』を確実に身につけることが、緊急の課
題であるとされる今日、教師自身が『充実した指導力』を中核に、その資質能力を高める
ことは、極めてたいせつなことです。本書は、このような考え方に立って、ある時は問題
解決のために、ある時は指導の手びき、相談相手として、日々活用していただくことを期
待して作成しました。活用をお願いいたします。
(略)」と記されています。
「教師のしおり」発刊当時の考え方や願いは今も変わらず生き続けていると思います。
しかし、発刊から四半世紀を過ぎ、北九州市の学校教育にも様々な変化が生まれ、若い教
師も増えてきました。また、社会の学校教育に対する要求も厳しさを増しています。
このような状況を踏まえ、教育センターでは、一人一人の教師の資質能力の向上を願い、
本市学校教育の財産の一つでもある「教師のしおり」の再改訂に向けたプロジェクトづく
りを呼びかけました。
このたび、教育センターの呼びかけに応じた数十人の教師からなる「プロジェクトG・
T」の皆様方のご尽力で、再改訂試案版の一部ができあがりましたので教育センターホー
ムページに掲載することとしました。今後、漸次、再改訂試案版を掲載していきたいと考
えています。
今回の再改訂試案版では、学び続ける教師へのきっかけとなることを願い、参考文献や
引用文献等も掲載しています。どうぞ、この「教師のしおり-再改訂試案版-」を日々活
用し、自らの「教師力」の向上に役立てていただくことを期待しています。
また、この再改訂試案版へのご意見やご感想を「プロジェクトG・T」へお寄せいただく
とともに、
「プロジェクトG・T」への参画もお待ちしています。
終わりになりましたが、ご尽力いただいた皆様方に心からお礼申し上げます。
北九州市立教育センター
所長
近藤
憲一郎
北九州市の学校教育の願い
どの子にも
よい環境で
よい教師による
よい教育を
〇
すすんで学び
深く考える子供
〇
健康で
〇
〇
ゆたかな心と 強い意志をもつ子供
未来を開き あすに向かって生きる子供
はつらつとした子供
☆子育て・親育ちのための☆
北九州市子どもを育てる 10 か条
★
朝は明るく笑顔で「おはよう」
★
家族にも「ありがとう」と「ごめんなさい」
★
子育ては
★
聞くときは
★
食事が楽しみな家庭にしよう
★
大切にしたい
★
まず親が
きちんと実行
★
声かけて
地域の宝
★
教えよう
平和といのちと助け合い
★
子どもと夢を語り合おう
誉める・叱る・見守る・抱きしめる
子どもの目を見て
心を聴いて
物より体験
社会のルール
子どもたち
目
Ⅰ
次
学校教育と教師
…… 5
1
学校教育は、どのようにあればよいか
…… 6
2
子どもは、どのような教師を期待しているか
…… 10
3
保護者は、どのような教師を期待しているか
…… 12
Ⅱ
学級経営
…… 15
1
学級経営を、どのように進めればよいか
…… 16
2
学級経営案は、どのように作成すればよいか
…… 18
3
学年・学級の年間指導計画を、どのように立てればよいか
…… 20
4
時間割は、どのように作成すればよいか
…… 22
5
週案・日案は、どのように作成すればよいか
…… 24
6
教師の話し方は、どのようにあればよいか
…… 26
7
朝の会・帰りの会の指導は、どのようにすればよいか
…… 28
8
十分間読書や百ます計算などの指導は、どのようにすればよいか
…… 30
9
遊びの指導は、どのようにすればよいか
…… 32
10
清掃指導への取組は、どのようにすればよいか
…… 34
11
学級の集団づくりは、どのようにすればよいか
…… 36
12
学級活動は、どのように指導すればよいか〔小学校〕
…… 38
13
学級活動は、どのように指導すればよいか〔中学校〕
…… 40
14
生活習慣づくり(しつけ)とその指導は、どのようにすればよいか
…… 42
15
子どものほめ方、叱り方は、どのようにすればよいか
…… 44
16
教室環境は、どのように整えればよいか
…… 46
17
出席簿の取扱いと欠席の子どもへの配慮を、どのようにすればよいか
…… 48
18
子どもの転出入事務は、どのようにすればよいか
…… 50
19
学級会計事務を行うとき、どのような注意をすればよいか
…… 52
20
指導要録の記入や取扱いには、どのような注意がいるか
…… 54
Ⅲ
学習指導
…… 57
1
授業が成立するとは、どういうことか
…… 58
2
授業改善のために、どのような視点をもつことが必要か
…… 60
3
教材研究は、どのように進めればよいか
…… 62
4
学習指導過程は、どのように組み立てればよいか
…… 64
5
個に応じた指導を、どのように工夫すればよいか
…… 66
6
少人数指導を、どのように工夫すればよいか
…… 68
7
学習のルールを、どのように育てていけばよいか
…… 70
8
子どもの発表力や話し合う力を、どのように育てていけばよいか
…… 72
9
入門期の指導を、どのように進めればよいか
…… 74
10
学習習慣を育てるための予習・復習は、どのようにさせればよいか
…… 76
11
学習の「めあて」は、どのように設定すればよいか
…… 78
12
望ましい発問や助言は、どのようにあればよいか
…… 80
13
指名は、どのようにすればよいか
…… 82
14
机間指導は、どのようにすればよいか
…… 84
15
板書は、どのようにすればよいか
…… 86
16
ノート指導は、どのようにすればよいか
…… 88
17
学習形態は、どのように工夫すればよいか
…… 90
18
子どもの発言や誤答(考え)を、どのように生かしていけばよいか
…… 92
19
学習の遅れがちな子どもへの指導は、どのように進めればよいか
…… 94
20
授業中の学習状況を、どのように把握すればよいか
…… 96
21
子どもの作品の取扱いと評価は、どのようにすればよいか
…… 98
22
テストの作成とその活用は、どのようにすればよいか
……100
23
学力診断テストを、どのように活用すればよいか
……102
24
教材の選定や活用の際、どのようなことに留意すればよいか
……104
25
教科書は、どのように使えばよいか
……106
26
副読本は、どのように活用すればよいか
……108
27
情報教育を、どのように進めればよいか
……110
28
学校図書館を、どのように活用すればよいか
……115
Ⅳ
特別支援教育
……117
1
本市において、特別支援教育は、どのように進められているか
……118
2
通常の学級における特別支援教育は、どのように進めればよいか
……122
3
個別の教育支援計画は、どのように作成すればよいか
……125
教
師
親ハ
子ドモノ医者ヲ選ブヨウニ
子ドモノ教師ヲ選ブコトハデキナイ
親ニトッテモ
子ドモニトッテモ
教師ハ
ソノ子ニ与エラレタ
タダヒトリノ人デアル
年「教育創造」
コノ
ゲンシュクナ事実ノ前ニ
ワレワレハ
エリヲタダサナクテイイノカ
(昭和
40
学校教育と教師
Ⅰ
)
18
5
1
学校教育は、どのようにあればよいか
子どもたち一人一人の人格の完成を目指し、個人としての自立、それぞれの個性や能力
の伸長を図るために、その基盤となる資質や能力を育てていくことは、学校教育に課せら
れた重要な役割です。また、21世紀という時代を切り拓く心豊かでたくましい日本人を
育成することを目指し、
義務教育として教育水準を維持向上するという役割を果たすこと、
学校の創意工夫を生かした教育活動を展開することなどが求められています。
一方、現在の子どもをめぐる様々な教育課題も指摘されています。子どもを取り巻く社
会環境が大きく変化したこと、学力低下の問題、規範意識や体力にも低下傾向が見られる
こと、学習や職業に対して無気力な子どもが増えていることなどです。
このような社会の変化や様々な教育課題に対応しながら、これからの学校教育はどのよ
うにあればよいのか、最近の子ども・保護者の変化や求められる教師の資質にふれながら、
述べてみたいと思います。
ポイント
1
2
3
4
子どもの側に立って、学校に何が求められているのかを考えてみましょう。
子どもや保護者の意識は、様々に変化してきています。
様々な変化の中での学校教育推進を支えるのは、何といっても教師の力です。
また、これからの学校教育には、地域や家庭と連携しながら開かれた学校をつくる
ことなどが求められています。
(1) 学校というところ
子どもは学校に何を求めて来ているのでしょうか。嶋野道弘氏(元文部科学省視学官)は、
講演の中で次のように述べられています。
〇 基礎・基本の定着を求めて‥‥子どもは、計算や本読み、発表や話し合い、助け合い
や協力などができるようになりたいと願っているのです。
〇 自己実現を味わいたい‥‥学習の中で先生がしたのは、きっかけづくり。調べたり、
発表したり、本当にやったのは自分たちだということを味わいたいのです。
〇 自己存在感を味わいたい‥‥みんなと一生懸命にやった。できてほっとした。自分が
関係してうまくいった。自分は役に立ったと感じたいのです。
〇 「目からうろこ」を実感したい‥‥「そうだったのか」
「はじめて知ったよ」と物事の
仕組みやわけを納得したいのです。
子どもにとって、学校とは、自分のよさを発揮しながら知識・技能を身に付けていく場
であるとともに、学校生活を通して人として成長する場でもあります。また、私たち教師
や親にとっては、子どもたちに教育を施し、人として生きる資質や能力を最大限に引き出
し、よりよい社会の形成者として育てていく場でもあります。
(2) 最近の子どもや保護者の変化と特徴
最近の子どもたちの考え方や感じ方は、私たちが子どもだった頃とずいぶん違ってきて
います。最近の子どもたちに見られる特徴には、次のような傾向があります。
① 自分だけができるようになればよいと考えている子ども
6
友達といっしょに分かり合いたいとか、みんなでできるようになりたいとは思わない子
どもが増えています。これは、自己本位の考え方が強く、仲間意識や集団意識が育ってい
ないからだと考えられます。
② 自分から他とかかわろうとしない子ども
「できればそっとしておいてほしい」「友達とかかわることは面倒だ」など、自分一人の
世界に浸ろうとします。これは、他とかかわることに過重な気遣いをしたり、対立を恐れ
たりして、表面的な人間関係で終わらせようとするためだと考えられます。
③ 先生や親を友達感覚でとらえている子ども
先生の指示に従わない、親の言うことを受け入れないなど、自分本位に考え、行動して
しまう子どもが増えています。これは、指示や命令を嫌い、権威を嫌い、十分な説明と納
得を得られないまま、わがままを許されて育てられてきたためと考えられます。
④ 考えることを面倒だと感じている子ども
答えを早く教えてほしいという子どもがいます。また、トラブルがあっても、互いの考
えを述べ合ったり理解し合ったりしようとしない様子が見られます。これは、まちがうこ
とで自分が否定されたと受け止めたり、自信がないので他と違うことを恐れたりするから
だと考えられます。
⑤ 集中して話を聞くことができない子ども
授業中に勝手に私語をしたり、席を立ったり、手遊びをしたりする子どもが増えていま
す。これは、耐性が育っていないからであり、
「ながら族」といわれるように何かをしなが
ら別のことをすることに慣れてしまったからだと考えられます。
⑥ 読むことや書くことをいやがる子ども
一つの物語を最後まで読み通せなかったり、作文をいやがったりする子どもが増えてい
ます。読んだり書いたりする力が育っていないこともありますが、受身の生活に慣れて、
根気強く継続する力が身に付いていないからだと考えられます。
一方、学校教育や教師に対する保護者の意識も、次のように変化しています。
〇 保護者の教育観が多様化するとともに、学校教育への要求が強くなってきました。また、
自分の教育論を押し付けてきたり、あるべき姿を主張し要求したりする保護者が増えて
きました。
〇 子育てに手が回らなくなって親子の会話やしつけの機会が減少し、家庭の教育力が低
下してきています。
〇 地域意識や仲間意識が希薄で、個人主義的な考え方をする保護者が多くなり、自分の
子どものことしか考えないで行動することが増えてきています。
〇 権威あるものを否定し、みんな平等という意識から、友達のような親子関係が好まし
いと考える保護者が増えてきました。教師に対してもぶしつけな意見を述べたり、要求
をしたりすることが見られるようになりました。
それでは、子どもや保護者は、どうしてこのように変化してきたのでしょうか。それは、
大づかみにいえば、社会が変化してきたからです。情報化社会の進展、とりわけパソコン
や携帯電話の普及により、個対個のかかわりが中心となって、組織や集団としてのかかわ
7
りの大切さを感じさせなくなっています。また、親子関係や生活時間の変化により、家庭
から親子の対話やしつけの機会をうばっているともいえます。そのため、基本的な生活習
慣の確立や人としての倫理観、道徳性を育てる機会が減少してきていると思われます。
学校教育は、このような社会の変化や子ども、保護者の意識の変化を踏まえ、地域や保
護者と連携して子どもたちの教育に当たることが求められているのです。
(3) 教師に求められる資質
学校は、同じ年齢の子どもを集団として組織し、互いに支え合ったり学び合ったりする
ことを通して、人間としてよりよく「生きる力」をはぐくんでいくことを目指しています。
その学校教育推進の中核となるのは、何といっても、教師の力そのものです。子どもや保
護者の意識が大きく変化してきた今の学校教育において、次のような資質をもつ教師が求
められているといえます。
〇
子ども理解に優れ、子どものよさや可能性を見抜き、集団の中でその子のよさを発
揮させる場を提供できる教師
〇 集団で活動することの楽しさや意義を実感させる授業づくりができる教師
〇 子どもや保護者から尊敬され、信頼される専門性を身に付けた教師
〇 人間としての温かさと厳しさをもち、生き方のビジョンを示せる教師
一方、学校教育を担うという立場から教師をみた場合、次のような意識をもっているこ
とが大切になってきます。
① チーム意識をもつ
学校はサッカーや野球のチームと同様に、子どもを育てるという共通の目標を目指した
チームなのです。だから、他の教師と協力しながら、組織の一員として自分のよさや可能
性を発揮することが大切です。
② 変化に対応する意識をもつ
子どもや保護者の意識、社会の考え方などは、日々刻々と変化しています。そのため、
学校教育も、その教育内容や指導方法を、変化に合わせて変革する必要があるのです。こ
れからの時代に生きていく子どもを育てる教師は、変化を受け入れ、変化に対応しようと
する意識が不可欠です。
③ 共有化の意識をもつ
学級経営は一人の担任に任されているように見えますが、学校の共通目標である学校教
育目標の実現に向けて、組織的に経営されているものです。また、そうでなければなりま
せん。そのために、子どもへのかかわり方や指導方法などについての情報を、組織の一員
として共有し、みんなで取り組む姿勢が求められます。
④ プラス思考の意識をもつ
子どもはできるようになりたい、みんなから認められたいと願っている存在です。です
から、教師自身も、自分の学校や子どもたち、そして教師という仕事に対し自尊感情をも
つことが大切です。常にプラス評価をしながら、子どもや教師集団の意欲が高まるよう、
かかわっていくことが大切です。
8
(4) これからの学校教育の在り方
これまで学校は、知識や文化の発信基地としての役割を担ってきました。しかし、最近
のように情報メディアが発達してくると、様々な情報の提供力はテレビやインターネット
の方がはるかに優れています。また、社会教育機関や民間の教育機関も発達し、わざわざ
学校へ行かなくても学ぶ機会は用意されているのです。
では、なぜ子どもたちは学校に通い、学ぶのでしょうか。それは、学校は単なる知識伝
達の場ではないということです。たくさんの子どもがいて、互いに意見を交換し合い、高
め合い、学び合う場なのです。
「まなび」というのは、もともと「まねび」からきたといわ
れるように、
「まね」から始まります。それは、教えようとする先生と学ぼうとする子ども
との協同的な相互作用によって成立する知的な営みといえます。また、子ども同士が違う
意見を出し合って考え合い、互いの持ち味を出し合うことにより、オーケストラのように
響き合って学びが成立するのです。
これからの学校は、子どもとの協同的な相互作用を生み出す先生を、より広く地域や家
庭に求め、開かれた学校づくりに取り組むことが求められています。家庭との連携がうま
くとれると、教育効果は大きくなります。また、地域の人から直接指導をいただくことで、
心に響く学習が展開できるようになります。このような教育力を生かし、子どもたちの学
び合いを大切にして、互いに自己存在感を感じ取り自己実現の喜びを実感しながら、人間
らしい「生きる力」を身に付けていけるようにしなければなりません。
現在の学習指導要領の基盤となった第15期中央教育審議会第一次答申
(平成8年7月)
には、「これからの学校教育の目指す方向」として次のように示されています。
〔1〕これからの学校(学校の目指す教育)
(a)
「生きる力」の育成を基本とし、知識を一方的に教え込むのではなく、子どもたちが自ら学び、
自ら考える教育を目指す。
(b)
生涯学習社会を見据えつつ、自ら学び、自ら考える力など「生きる力」という生涯学習の基
礎的な資質の育成を重視する。
(c)
ゆとりある学びを展開する中で、子どもたちが自己存在感や自己実現の喜びを実感しつつ、
生きる力を身に付けていく。
(d)
基礎・基本の確実な定着を図るとともに、個性を生かした教育を重視する。
(e)
子どもたち一人一人のよさや可能性を見出し、伸ばす視点を重視する。
(f)
豊かな人間性と専門的な知識・技能を身に付けた教員によって、子どもの「生きる力」をは
ぐくんでいく。
(g)
子どもたちにとって共に学習する場、共に生活する場としての高い教育環境を整える。
(h)
地域や学校、子どもたちの実態に応じて、創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する。
(i)
家庭や地域社会とともに子どもたちを育成する開かれた学校となる。
このような方針のもとに、「少人数指導」や「補充・発展の学習」「学校評価システムの導入」
など、新しい取組が次々と導入されています。これらの教育改革は、すべて新しい変化に
学校教育が対応していくための脱皮なのです。
《参考文献》
・谷
友雄
編
『教師のための授業改善』
ぎょうせい
・
『初等教育資料 2005 年4月号・2006 年4月号』
2003 年
東洋館出版社
文責
安部
大眞
9
2
子どもは、どのような教師を期待しているか
子どもにとって、学校は学びの場であり、生活の場です。子どもは「学びたい、分かる
ようになりたい」「楽しい学校生活を送りたい」と望んでいます。
そのような中で、子どもは、どのような教師を期待しているのでしょうか。そして、私
たち教師は、子どもの期待に応えるために、どのようなことに心がけて指導に当たらなけ
ればならないのでしょうか。
北九州市立教育センターでは、北九州市立の小・中学校の児童生徒を対象にして、第2
回北九州市学校教育実態調査を実施しました。ここでは、その報告書(平成 17 年3月)を
もとに、北九州市の小・中学生がどんな教師を期待しているか、その主なものをまとめて
みました。
ポイント
北九州市の小・中学生の理想の教師像のベスト3は、次のとおりです。
1 優しく思いやりのある先生
2 授業がていねいで、分かりやすく教えてくれる先生
3 子どもの気持ちを理解し、親身になってくれる先生
※
特に「授業がていねいで、分かりやすく教えてくれる先生」を選んだ子どもは、平成 13 年度
に実施した北九州市学校教育実態調査と比較して、全ての学年(小学校1年生から中学校3年生)
で増加していました。
(1) 優しく思いやりのある先生
教師は、子どもにとって尊敬できる、そして信頼できる人でなければなりません。また、
豊富な知識があり、行動力に優れ、人間味のある人でなければなりません。
私たち教師は、自分のよさを認めてほしいと思っている子どもや、自分の悩みを他人に
相談することができない子どもに対して、優しく思いやりのある支援を行うことが大切で
す。
「先生はなんでも知っていて、すごいな。
」
「困っている時に、先生がそっと声をかけて
くれたよ。」など、子どもの声が教室から聞こえてくるような学級にしたいものです。子ど
もは、
「先生に認められたい」
「よいところをほめてもらいたい」
「困ったことや悩みを聞い
てほしい」などの願いを抱いています。教師として、そのような願いを素早く把握すると
ともに、子どもの目線に立ち、優しく思いやりをもって接することが大切です。
(2) 授業がていねいで、分かりやすく教えてくれる先生
本来、子どもは「学びたい」という気持ちをもっており、それに応えるために、教師が
授業力を磨いていかなければならないことはいうまでもありません。
子どもにとって楽しく分かりやすい授業を行うためには、教師のたゆまぬ努力が必要で
す。例えば、
「このような教具を準備し、このような発問をすると、子どもはどのような反
応を示すだろうか。
」「その反応に対して、どのような準備をするべきだろうか。
」「つまず
いている子どもには、どのような支援が効果的なのだろうか。
」など、教師は授業を実践す
る前に、いくつもの準備をしておかなければなりません。さらに、子どもの実態に合わせ、
子どもの「分かるようになりたい。できるようになりたい。」という気持ちを大切にした授
10
業を構想しなければなりません。
また、自分の授業の力量を向上させるためには、現在の自分の授業を改善しようとする
意志をもって研究授業を行い、それを他者の目で分析してもらい、改善についての指導を
受けることが大切です。また、子どもからの授業評価である感想などを集約し、考察する
ことも有効です。
(3)
子どもの気持ちを理解し、親身になってくれる先生
子どもは、ありのままの自分をかけがえのない存在として認めてくれる人が好きで、そ
ういう人に近づいていこうとするものです。例えば、子どもが「先生は、自分の気持ちを
よく理解してくれている」
「先生は、自分の話をいつでも真剣に聞いてくれる」などと感じ
取ることができるような、教師の受容的、共感的な態度が大切です。また、カウンセリン
グマインドを授業場面においても大切にし、きめ細かな指導を行い、子どものやる気を育
てることも必要です。
さらに、
「親身になってくれる先生」という理想の教師像の中には、単に優しいというだ
けでなく、
「事に当たっては毅然とした態度で厳しく指導してほしい」という願いも読み取
ることができます。例えば、みんなで決めた学級のきまりはみんなで守るということや、
仲間はずれやいじめは決して許さないということなど、学級全体、また、子ども一人一人
に配慮した学級づくりを心がけなければなりません。
<その他の調査結果の例>
「子どもが期待する先生像」のベスト5
1 気軽に相談でき、親身になって相談にのってくれる話しやすい先生
2 ユーモアがあり、子どもの笑いにもいっしょになって加われる先生
3 できない子どもの気持ちをよく知っていて、できるできないで分けへだてしない
先生
4 心から子どものためを思い、話し、行動してくれる先生
5 子どもの意見をちゃんと聞いてよく理解してくれる先生
(「続々・子どもたちと心豊かに」新川昭一著より)
いくつかの調査結果をみても、子どもが期待する教師像には、同様の傾向がうかがえま
す。それは、子ども理解ができる教師、つまり「人間性をもつ教師」、子どもに力を付ける
ことができる教師、つまり「専門性をもつ教師」です。教師にとって大切なことは、この
両面をバランスよく身に付けていくことだといえるでしょう。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
『教師のしおり(改訂)』
1978 年
・北九州市立教育センター
『北九州市学校教育実態調査報告書』
・北九州市立教育センター
『第2回北九州市学校教育実態調査報告書』
・遠山啓著
『教師とは、学校とは』
太郎次郎社
2002 年
2005 年
1983 年
《引用文献》
・新川昭一著
『続々・子どもたちと心豊かに』
三晃書房
1983 年
文責
則松
敬二
11
3
保護者は、どのような教師を期待しているか
保護者は、どのような教師を求めているのでしょうか。ここでは、具体的な事例を挙げ
ながら、保護者が望む教師像について述べてみたいと思います。
ポイント
保護者が期待している教師とは、次のような教師だといえます。
1 授業力のある教師‥‥授業は教師の仕事の中核です。自分の授業を日々問い直し、
不断の努力を行いましょう。
2 保護者と連携する教師‥‥情報の公開と共有が、信頼への第一歩です。
3 トラブルに迅速に対応できる教師‥‥児童生徒理解と、組織的な対応が基本です。
(1) 授業力のある教師
保護者が求めている第一番目の教師像とは、
「いつも授業を工夫し、子どもが納得できる
指導をしてくれる先生」
「子どもの学力を伸ばしてくれる先生」など、子どもの確かな学力
をはぐくんでくれる授業力をもっている教師です。
いうまでもなく、教師の仕事の中核をなしているのは、授業を行うということです。子
どもにとって楽しく分かりやすい授業を構想し、実施し、評価し、充実・改善できる力を
もっている教師を、保護者は期待しているのです。では、楽しく分かりやすい授業とはど
のような授業なのでしょうか。小学校第3学年理科「豆電球にあかりをつけよう」の授業
の事例をもとに述べてみましょう。
1円玉やクリップ、はさみや板切れなど、様々なものに通電させ、電気を通すかどうか
確かめる活動を行います。その中で、子どもたちは、アルミや鉄などの金属類は電気を通
すということを発見していきます。
しかし、はさみについては、
「電気を通す」という子どもと「通さない」という子どもと
がいて、意見が分かれます。教師は、
「あれれ、不思議だね。どちらが正しいのかな?」と
問題の在りかを明確にします。「もう一度実験で確かめてごらん。
」「先生も分からないよ。
不思議だね。
」とゆさぶります。子どもは、どちらが正しいのか、その答えを見付けようと
熱中して取り組みます。そして「刃のところは、あかりがつくけれど、持ち手のところは
つかないよ。
」という新しい発見をするのです。
正答は教師が教えるのではなく、子どもが発見するものです。その過程で、子どもは、
わくわくしながら試行錯誤して問題解決に取り組み、考え、自分の能力を高めていくので
す。正しい答えを教師が教えてしまえば、内容は分かるかもしれません。しかし、考える
楽しさを味わわせ、能力を育てる授業にはならないのです。
このような、子どもにとって楽しく分かりやすい授業、子どもの確かな学力をはぐくむ
授業ができるようになるためには、自分自身の授業を改善していこうという意志をもち、
日々自分の授業を問い直していくことが必要です。自分の授業は、今のままでうまくいっ
ている、という思い込みの中からは、教師としての課題も授業の改善点も見出せません。
謙虚に日々の授業を振り返り、不断の努力を積み重ねることが大切です。
12
(2) 保護者と連携する教師
次に保護者が望む教師像として挙げられるのは、
「教育方針をきちんと保護者に伝えてく
れる先生」「子どもの学校での様子を保護者に伝えてくれる先生」「保護者が気軽に質問し
たり相談したりできる先生」など、情報公開や相談対応等に関する力量をもつ教師です。
ここでは、学級での様子を伝える方法としてよく用いられる「学級通信」等の発行と、
連絡帳の活用について、事例をもとに述べてみましょう。
① 「学級通信」等の発行
「学級通信」等によって保護者に知らせたい情報としては、まず、学校生活の様々な場
面での子どものよさやがんばりなど、学校生活の様子が挙げられます。また、言葉遣いや
基本的な生活習慣など、家庭と連携して改善を図らなければならない情報もあります。特
に、
「忘れ物が多い」というような課題を示すときには、保護者に改善を要求するという口
調ではなく、
「明日の準備チェックシートを活用して忘れ物撃退!」
「生活習慣を整え、忘
れ物0へ!」などの特集記事を掲載し、具体的にどのようにするとよいかという方法を示
すことが大切です。加えて、
「忘れ物が多い」という状況を説明する際には、個人が特定さ
れないような配慮も必要です。
保護者に情報を提供することによって、目指す子ども像とその現状とを共通理解し、学
校、家庭それぞれが分担・協力して取り組むべきことを明確にすることが、子どものより
よい成長には不可欠だといえます。
② 連絡帳の活用
連絡帳を活用するという方法は、担任と保護者とが子どもに関する情報を共有し、連携
して子どもの成長の様子を見守っていくために有効な方法です。保護者が知りたいことや
訴えたいことは、まず連絡帳を通して伝えられます。その際の返事の書き方次第で、保護
者との信頼関係が増すこともあり、また逆に信頼関係を損なうこともあります。
例えば、「最近子どもの元気がなく心配しています。」という便りが来たとします。この
訴えに対し、
「学校では、いつもと変わりありません。ご心配なく。
」では、保護者の心情
を汲み取った返信とはいえません。まず、「お知らせありがとうございます。」の一言で始
め、
「授業中は、いつもと変わった様子はありませんが、他の場面で、気が付かない点があ
るかもしれません。休み時間や放課後の様子、また友人関係の変化など、気を付けて見て
いきます。また、ご連絡いたします。‥‥」など、相手の身になって誠意ある返信を心が
けたいものです。
内容の緊急性や深刻さによっては、校長・教頭や、同学年の教師に報告・連絡・相談を
行って、複数の視点で判断することが必要な場合もあることでしょう。子どもの成長を保
護者と「共有する」という意識と、その前提となる人間関係調整力の高い教師が望まれて
いるのです。教師一人で子どもを育てているのではありません。教師自身が、組織の中の
一人として、多くの人(家庭、地域、同僚)と力を合わせて子どもを育てるという意識を
もつことが大切です。
(3) トラブル等に対し迅速に対応できる教師
保護者にとって、「わが子は、友達と仲良くできているだろうか。」という心配は、教師
が思う以上に大きなものがあります。子どもは、学校という場において、友達とのトラブ
13
ルを重ねながら成長しているともいえます。このようなトラブルに対して、教師が親身に
なって対応し、指導してほしいというのは、すべての保護者がもつ願いだといえるでしょ
う。それでは、このようなトラブルに、どのように対応すればよいのでしょうか。
例えば、子ども同士のけんかで一方がけがをした場合、けがをした方、けがをさせた方、
双方の子どもからしっかり話を聞くことが大切です。そして、できるだけ多くの情報を収
集し、一連の状況を様々な角度から把握して、トラブルの要因を整理することが求められ
ます。このように、問題事象にかかわる事実を、正確にかつ多面的に把握しようとするこ
とが、トラブルへの対処には欠かせない要件となります。
その上で、当事者双方の保護者に事情を説明する際には、電話で済ませるのではなく、
できるだけ家庭訪問を行うことが望まれます。家庭訪問により、直接保護者と向き合い、
状況説明をきちんと行うとともに、どのように指導したか(するか)などについても話す
ようにします。トラブルのてん末について、誠意をもって保護者に説明をする姿勢や、今
後の指導について共に前向きに取り組んでいく姿勢を見せることにより、保護者との信頼
関係は築かれていくのです。
また、家庭訪問をした結果は、必ず校長・教頭に報告し、対応の指示を仰ぐようにしま
しょう。後になって、関係の保護者が校長に直接訴えてくることがあります。そのような
場合に、校長・教頭が状況を知らないとなると、学校全体への不信につながっていくこと
も、よくあることです。また、管理職に報告することで、一学級の問題ではなく、学校の
問題として組織をあげた対応もできるのです。
このように、教師が、子ども同士のトラブルに迅速に対応する姿を見せることにより、
保護者は、我が子がかけがえのない一人の人間として大切にされているということを実感
するものです。保護者の気持ちになって対応できる教師でありたいと思います。
右に示したのは、想定される危機に対応する際の、「危機管理の『さしすせそ』
」といわ
れている五つの心構えです。子どもにかかわる様々なトラブルに対応する際に、ぜひ念頭
においておきましょう。
危機管理の「さしすせそ」
近年、これまでの学校では予想もできないよう
さ 最悪を想定して対応する。
な事件、事故が相次いで起きています。保護者も、
し 慎重に対応する
このような状況に、かなり過敏になっているとい
す 素早く対応する
えるでしょう。ですから、学級の中で何らかのト
せ 誠意をもって対応する
ラブルが起きた場合に、忘れてならないのは、自
そ 組織で対応する
分一人で解決しようと考えないことです。悩みや
問題があれば、まず、校長・教頭、学年主任などに相談をしましょう。そして、校長、教
頭、教務主任、学年主任、生徒指導主任、同学年の教師、養護教諭など、子どもを取り巻
く多様な人の目で対応策を考え、よりよい解決に向けて組織として事に当たることを大切
にしたいものです。
文責
14
井上
勝美
先
生
授業ニハ ピシピシト
キビシイ火花 ガチルサ
デモ
休ミ時間ニナルト
先生ハ
トテツモナイ大キナ口ヲアケテ
オレタチトイッショニ笑ッテクレルンダ
年「教育創造」2)
放課後 職員室ニイッタラ
先生ハ
スゴクムズカシソウナ本ヲ読ンデイタ
デモ
オ レ ノ 顔 ヲ 見タラ
「おかあさんの病気は どうや?」
トタズネテクレタ
(昭和
38
学級経営
Ⅱ
15
1
学級経営を、どのように進めればよいか
学級経営とは、学校・学年教育目標を踏まえ、担任が学級に即した教育目標を設定し、
その実現を目指して必要な諸条件を整備し運営することです。ここでは、学級経営の内容
や、学級経営を進めるに当たって特に留意したい点について述べていきます。
ポイント
1
2
3
4
5
学校・学年の教育目標とむすんで、学級の実態に即した教育目標を設定します。
共感的な子ども理解を経営の基盤におき、居場所のある学級集団をつくります。
基本的な生活習慣を大切にし、確かな学力を育てる授業づくりに努めます。
学級生活を楽しく豊かにするよう、教室環境を整備します。
保護者との信頼関係をつくり、協力を得るようにします。
(1) 学級経営の内容
学級経営とは、一般に「学校経営・学年経営の基本方針をもとに、学級を単位として展
開される子どもたちの学習活動や集団活動が有効に成立するよう、人的・物的・運営的諸
条件を総合的に整備し運営すること」だといわれます。そして、その内容は、大きく次の
四つに整理されます。学級担任として、その内容をよく理解しておくことが大切です。
①
基盤的内容
学級の教育目標の設定、子どもの実態把握、学級経営案の作成、係の活動など学級
の諸活動の組織、学級経営の評価・改善、など
② 領域的内容(教育課程の編成・実施に関すること)
学級における各教科・道徳・特別活動・総合的な学習の時間の適切かつ効果的な指
導と運営(指導計画の作成、教材研究、授業の準備、具体的な学習指導、など)
③ 機能的内容(子どもにかかわる生徒指導・教育相談に関すること)
日常の子ども理解、集団内における個への指導、学級集団づくり、日常の生活指導、
子どもと教師との人間関係づくり、など
④ 経営的内容
校務分掌上の役割遂行、教師間の相互連携、保護者(地域)との信頼関係づくり・
諸対応、教室環境づくり、学級事務、など
(2) 学級経営を進める上で、特に留意したい点
① 学校・学年の教育目標とむすんで、学級の教育目標を設定する
学校の諸教育活動は、学校教育目標の実現に向けて行われるものです。したがって、学
級の教育目標を設定する際には、学校そして学年の教育目標と連動させることが必要です。
学級の教育目標は、次に示すような手順で設定するとよいでしょう。
〇
〇
学級の子どもの実態、保護者の願いなどをつかむ。
学校・学年の教育目標(経営方針)や、指導の重点を踏まえ、一年間を通してどの
ような子ども、学級を育てていきたいのか、担任の願いを明らかにしておく。
〇 担任の願いを子どもに語りかけ、子どもたちはどんな学級にしたいのかをつかむ。
〇 子ども・保護者・担任の願いを分類・整理して、箇条書きの文章にまとめる。
〇 学校・学年の教育目標との整合性を検討し、学級の教育目標として設定する。
16
② 共感的な子ども理解を経営の基盤におき、居場所のある学級集団をつくる
学級経営を進めていくためには、まず子どもをよく理解することが大切です。その学年
の子どもの一般的な発達特性を知るとともに、一人一人の子どもの心の動き‥‥今何を考
え、何に悩み、何を求めているかなど‥‥を共感的に受け止めるという姿勢を大切にした
いものです。子どもを温かく受け止め、子どもの姿に謙虚に学ぼうとする「教師としての
姿勢」そのものが、学級をまとまりのあるものにしていきます。
子どもにとって、学級での生活は、大勢の友達との共同生活です。そこは、一つの社会
であり、集団のなかの一員として生活をつくり出していくところでもあります。そこで、
学級に所属する子ども一人一人が、
「この学級に居ることがうれしい。みんなと学び、活動
することが楽しい。
」と感じられるような学級をつくるために、学級の諸問題を自分たちで
解決する活動や、係の活動など、自発的、自治的な活動を工夫することが大切です。
③ 基本的な生活習慣を大切にし、確かな学力を育てる授業をつくる
望ましい学習習慣や学習意欲が育つためには、その基盤として、身の回りの整理整頓、
気持ちのよいあいさつ、時間を守る、などの基本的な生活習慣がきちんと身に付くことが
必要です。このような生活習慣の定着は、集団づくりとも大きなかかわりをもちますので、
根気よく繰り返して指導に当たるようにします。
また、子どもが学校生活に充実感を味わうとき、それは、自分自身の成長が自覚できる
ときであり、学習の中で「できた。分かった。
」と実感できたときだといえるでしょう。一
人一人に確かな学力を身に付けさせ、学ぶ喜びを味わわせていくために、一人一人の実態
を的確に把握した上で、自ら学び自ら考える授業づくりを意図して、教材・教具、学習活
動、学習形態、評価方法等を工夫し、個に応じた指導を充実させることが大切です。
④ 学級生活を心豊かに、楽しく安全に過ごせるよう、教室環境を整備する
「環境は、人をつくる」と言われるとおり、子どもの望ましい人間形成のために、教室
環境を整えることが大切です。教室環境は、子どもの学習意欲を高め、学習を助け、学級
生活を心豊かに、楽しく安全に過ごせるようなものでなければなりません。例えば、子ど
もの学習の成果を学級の掲示に生かしたり、掲示作品に教師の指導・助言を書き添えたり、
子どもの自発的な活動のために学級活動コーナーや委員会活動の掲示板を設けたりするな
ど、教師と子どもが協力して環境をつくるという考え方で、工夫していきましょう。
⑤ 保護者との信頼関係をつくり、協力を得る
学校で行う指導の効果を高めていくためには、保護者との信頼関係をつくり、学級経営
への協力を得ることが大切です。年度の初めには、学級の教育目標や経営方針などをよく
伝えるとともに、年間を通して教育活動の実施状況や子どもの様子を学級通信等で知らせ、
学級の情報がよく行き届くようにします。また、保護者からの相談や苦情に対しては、迅
速にそして誠実に対応し、信頼というパイプを太くしていきたいものです。
(3) 学級経営の評価
学級経営の節々で、自己評価とともに、子どもや保護者からの評価や、同学年教師や校
長・教頭からの指導助言をもらい、自分の学級経営を改善していくよう努めましょう。
《参考文献》
・有村久春編集
『[学級経営]実践チェックリスト』
教育開発研究所
・北九州市教育委員会 『教師のしおり(改訂)』 1978 年
2004 年
文責
松永
佳子
17
2
学級経営案は、どのように作成すればよいか
学級経営案は、学校の教育目標を学級において効果的に達成するための道筋を示すもの
です。学校の教育目標、学年の教育目標を基に、各学級での教育目標をつくります。
一年後に目指す学級像を明らかにし、目指す学級像に向かうための様々な手だてや取組
を考えます。その教育目標や手だて、取組を明らかにしたものが学級経営案です。
ポイント
学級経営案(学級経営の目標)は、次のような手順で作成します。
1 学校教育目標や重点目標、学年教育目標や努力点を理解することが大切です。
2 学級の子どもにかかわる実態把握を行います。
3 どんな学級をつくるのか、一年後の学級像をイメージ化します。
4 本年度の指導の重点や努力点を決め、具体的な学級経営の目標を作成します。
(1) 学級経営案の働き
年度の初めにつくった学級経営案は、一年間を通して活用するものであり、次のような
働きがあります。
○ 年間を見通した学級経営の方針が明確になる。
○ 学級経営全体について総合的な見通しを立てることができる。
○ 子どもの実態と変容がとらえやすくなる。
○ 学級経営の課題が明らかとなり、改善の手だてが得やすくなる。
○ 担任教師の反省と自覚を深めていきやすくなる。
○ 学校の教育目標の具現化と学級の個性化を図ることができる。
○ 学級経営を次年度に生かし、継続発展させることができる。
(2) 学級経営案作成の手順
① 学校教育目標や学年教育目標の理解
学級経営は、担任教師一人の考えで行うものではありません。学校教育目標、学年教育
目標に基づいたものでなければなりません。そこで、まず、自分の学校はどんな子どもを
育てたいと考えているのか(学校教育目標)、それを学年の発達段階に沿ってとらえるとど
んな目標になるのか(学年教育目標)、などを十分に理解することが大切です。
② 学級の実態把握
ア 子どもの実態把握‥‥学習状況や学習上の問題点、身体状況や行動特性、交友関係、
その他配慮を要する子ども等の状況を把握します。
イ 家庭の状況及び保護者の意識の把握‥‥家庭の状況、生活状況、保護者の教育に関す
る思い、地域の特性などを把握します。
③ 学級の教育目標の設定‥‥一年後の学級の子ども像のイメージ化
学校教育目標、学年教育目標を受け、さらに学級の実態把握を踏まえて、学級の教育目
標を設定します。学級の教育目標とは、学級担任の立場から、自分の学級で一年後にどの
ような子どもに育てたいのかをイメージし、端的な言葉で表した「学級の目指す子ども像」
です。設定の手順については、16 ページを参照してください。
18
④ 学級経営方針の策定
ア 学級の教育目標の実現に向けて、どのようなことを重視して指導に取り組むのか、本
年度の学級経営の重点や努力点を決めて、学級経営方針を策定します。
イ 学級経営の重点や努力点の中で、具体的に数値目標を掲げることができるものは、そ
れを示すようにします。数値目標により、目標達成度が明確になってきます。
(3) 学級経営案の内容
学級の教育目標、学級経営方針をもとに、さらに具体的な経営の重点を示したものが、
学級経営案です。その内容や形式は、各学校で決めていることが多いようです。一般的な
項目例を、下に示しておきますので、参考にしてください。
なお、学級経営案を作成する際には、各項目ごとに余白を残しておき、実践した結果や
改善すべきことを記録できるようにしておくとよいでしょう。
〔学級経営案の項目例〕
1 学級の実態
2 学校教育目標
3 学年教育目標
4 学級の教育目標
5 学級経営方針、及び具体的な取組の重点
・各教科の指導
・道徳
・特別活動(学級活動)
・総合的な学習の時間
・人権教育
・生徒指導
・健康教育(保健・安全・給食・食に関する指導)
・特別支援教育(配慮を要する子どもの指導) など
6 教室環境づくり
7 保護者や地域との連携
8 実践と反省
(4) 学級経営案の活用
学級経営案は、学級の教育目標を実現するための道筋を示すものです。教育目標の具現
化へのプロセスに、効果的に活用していきたいものです。以下の図のように、
「計画→実践
→評価→計画の修正→」というサイクルで活用するとよいでしょう。
学級経営案の計画にそって実践
必要に応じた記録
評価をもとに計画の変更
評価
計画の修正
修正された計画にそって実践
月ごと、学期ごとの見直し等
このように、学級経営案は、ただ作成するだけでなく、記録し、修正し、さらに学級経
営の改善の手がかりとなるよう生かしていきたいものです。
《参考文献》
・福岡県教育委員会
・文部省
『若い教師のための教育実践のてびき』
『生徒指導をめぐる学級経営上の諸問題』
1978 年
1962 年
文責
江口
徹
19
3
学年・学級の年間指導計画を、どのように立てればよいか
年間指導計画は、各教科、道徳、特別活動及び総合的な学習の時間について、それぞれ
の目標の実現に向けて、学年ごとあるいは学級ごとに、指導目標、指導内容、指導の順序、
指導方法、指導の配当時間を定めたものです。計画的・系統的・効率的な教育活動を行う
ために、年間指導計画を作成することは重要なことです。
ポイント
年間指導計画は、次のような手順で作成します。
1 学習指導要領、教科書、教育課程編成資料等で教科等の目標や内容を把握する。
2 指導の重点、学校経営案、学年・学級経営案等で、市・地域・学校・学年・学級の
実態を確認する。
3 年間指導計画一覧表に、学校・学年・学級の行事等を書き入れる。
4 学年・学級の各教科等の年間指導計画を書き入れる。
(1) 学習指導要領、教科書、教育課程編成資料等で教科等の目標や内容を把握する
年間指導計画の一番のもとになるのは、学習指導要領です。学習指導要領に示されてい
る各教科の目標・内容・指導時数等を踏まえて作成します。学習指導要領に基づいて作成
された、教科書や本市の教育課程編成資料を参考にすることも大切です。ここで気を付け
ることは、各教科の目標や内容と、
教科書に示された教材等の意図とをよく照らし合わせ,
ねらいを外さないようにするということです。
(2) 指導の重点、学校経営案、学年・学級経営案等で、市・地域・学校・学年・学級の
実態をチェックする
次に考えることは、年間指導計画にオリジナリティをもたせることです。指導の重点に
は、本市における重点目標が記載されています。同様に、学校経営方針、学年経営案・学
級経営案を再確認することにより、地域や子どもの実態を明確にし、それに応じた課題や
目標を指導計画の中でどう生かしていくか考えます。それが、学校の特色のある年間指導
計画になるのです。
(3) 年間指導計画一覧表に、学校・学年・学級行事等を書き入れる
年間指導計画を考えるときに大切にしなければならないことは、各教科等をばらばらに
考えるのではなく、行事等との関連を考えたり各教科等間の関連を考えたりすることによ
って、指導の効果をより高めていくことです。
(4) 学年・学級の各教科等の年間指導計画を書き入れる
以上のことをもとに、一覧表に各教科等の単元配置時期・単元名・指導時数を記入し、
年間指導計画を作成します。さらに詳しい表をつくる場合には、単元のねらいや1時間1
時間の指導計画を書き入れていきます。
以下、小学校と中学校における、年間指導計画作成上の留意点を示しておきます。参考
20
にしてください。
<小学校>
〇 年間指導計画は協力して作成します。
学年相互で調整を行ったり、各教科等の主任、学年主任等に相談したりして、全職
員のものにしていくことが大切です。
〇 教科等相互の内容や時期の関連を考えます。
例えば、運動会に合わせて体育の指導計画をどう組んでいくか、学習発表会に合わ
せて効果的な指導計画を組むにはどうするか、校外学習をいつ行うか、などを全体的
に把握するために、一覧表に書き入れていきます。時期や内容の関連を考え、より効
果的な教育活動が行えるようにします。
〇 全学年の年間指導計画を把握します。
とりわけ、校務分掌等で自分が担当している教科等については、全学年の年間指導
計画を一まとまりの表にして把握しておくことが大切です。
<中学校>
〇 年間指導計画は協力して作成します。
年間指導計画は、一人で作成するのではなく、全職員で作成し、年数をかけながら
改良し続けていくものです。学校における今までの積み重ねを参考にして、教科部会
で検討したり、学年の職員や校務分掌担当者に相談したり、アドバイスをもらったり
することが大切です。
〇 教科等間や学年間の関連を考えます。
各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間、それぞれの目標や指導内容を確認
し、各教科等間の関連や学年間の関連を十分図るようにします。また、指導の時期、
配当時間、指導方法などに関しても、相互の関連を考慮した上で計画を立てます。
〇 全学年の年間指導計画を把握します。
自分が担当している教科等の指導計画については、系統的、発展的な指導が進めら
れるよう3学年分の計画を把握した上で、それぞれの学年の計画を立てます。その際
に、地域や学校の実態及び子どもの発達段階や特性等を考慮して、指導内容を具体的
に組織、配列することが必要です。
なお、年間指導計画は作成したらそれで終わりではなく、むしろ作成してからがスター
トだと考えた方がよいでしょう。単元ごと、または学期ごとに、指導上の成果や課題等に
ついての記録を残すようにし、次の年度に同じ学年を担当する教師に申し送りをするよう
にします。その積み重ねが、よりよい特色のある年間指導計画を作成することにつながっ
ていくのです。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
・福岡県教育委員会
『教師のしおり(改訂)』
1978 年
『若い教師のための教育実践の手引き』
・文部省
『小学校学習指導要領解説総則編』
1999 年
・文部省
『中学校学習指導要領解説総則編』
1998 年
2004 年
文責
奥田
淳一、田内
直彦
21
4
時間割は、どのように作成すればよいか
小学校においては、年度始めの担任の大事な仕事の一つに、学級の時間割の作成があり
ます。時間割は、その学級の日々の教育活動を組み立てているものであり、子どもの年間
にわたる学校生活、特に学習に大きな影響を及ぼすことになります。それだけに、慎重に
作成する必要があります。
ポイント
1
2
学校としての時間割編成の基本方針を共通理解しましょう。
年間の授業時数の確保を見渡し、子どもの実態や教科等の学習活動の特質等に配慮
しながら、時間割表に教科等を位置付けていきましょう。
3 作成した時間割は、家庭にも配布し、次日の準備や予習に役立たせましょう。
(1) 時間割の弾力的な編成と、いくつかの時間割タイプ
従前の学習指導要領では、授業の1単位時間は、小学校で 45 分、中学校で 50 分を常例
とし、学校や子どもの実態に即して適切に定めるものとされてきました。平成 10 年の改訂
では、この規定をさらに進め、
「授業の1単位時間」は、年間の授業時数を確保しつつ、児
童生徒の発達段階及び各教科等や学習活動の特質を考慮して、
「各学校において適切に定め
るものとする」と示されています。
また、時間割についても、学校や子どもの実態、各教科等や学習活動の特質等に応じて
「創意工夫を生かし、弾力的に編成することに配慮するものとする」と示されています。
特に、教科によっては、年間の総授業時数が 35(週)で割り切れない教科がありますので、
従前のような年間一枚の時間割では対応できません。特色ある教育活動の展開や指導方法
の工夫等を視野に入れて、各学校で時間割編成を工夫することが求められています。
時間割の工夫については、例えば次のようなタイプのものがあります。
・組み合わせタイプ‥‥何枚かの時間割を作り、それを組み合わせて時数を調整する
・固定・調整タイプ‥‥固定時間割とし、1コマに複数教科を位置付けて時数を調整する
・モジュールタイプ‥‥10 分、15 分、20 分などの小単位を組み合わせて時数を調整する
これらは主な例ですが、これらをさらに組み合わせることもできます。どのようなタイ
プの時間割にするのかは、学校ごとに共通した考え方をもっておくことが必要です。
(2) 時間割作成の手順(小学校、固定・調整タイプの時間割の場合)
① 時間割編成の基本方針、年間・週当たりの授業時数を確認する
担当学年の、各教科等の年間の総授業時数を確認します。そして、学校として、どのよ
うな方針で時間割を編成するのか、教務主任の提示した時間割編成資料で確認します。
ここでは、固定・調整タイプの場合の手順を説明します。まず、週当たりの授業時数を
確認し、
「35週(34週)のうち、第何週までは〇〇科、それ以降は△△科」というよう
に割り振る必要があるため、どの教科同士を組み合わせるのかも確認しておきます。
次に、曜日別の授業時数を確認し、時間割表の各曜日のうち、授業のない校時に斜線を
入れます。
22
② 固定時間を位置付けていく
理科室、家庭科室などの特別教室、運動場等の使用割や、クラブ活動の時間など、あら
かじめ割り振られている固定時間を、先に時間割表に位置付けるようにします。
総合的な学習の時間などのように、学年の中で学級の枠を取り払って、課題別などのグ
ループ編成をして指導を行う可能性のある場合は、同学年で曜日と校時を打ち合わせ、固
定時間と同じように優先的に位置付けます。また、少人数指導担当者が入る授業等につい
ては、同学年で授業時間が重ならないよう組んでいきます。
③ 年間の調和に配慮して時間割を組む
時間割表の空いているところへ、各教科、道徳、特別活動の時間を、②と重複しないよ
うに位置付けます。
その際、留意しておくことは、次のとおりです。
ア 月曜日は休日になる場合が多く、授業時数が減る可能性が高いので、週に1時間しか
ない道徳や特別活動などは、なるべく配置しないようにします。
イ 一週間を見渡して、同一教科が片寄らないようにします。
ウ 子どもが疲れやすい曜日や時間帯、学習に集中しやすい時間帯など、疲労度や集中度
に配慮して教科等を位置付けることも大切です。また、例えば、じっくり思考する活動
の多い教科等は午前中に位置付ける、身体活動をともなう教科等は午後に位置付けるな
ど、学習活動の特質に応じた時間帯を考えることも必要です。
エ 一日の生活に変化とリズムをもたらすようにします。例えば、音楽教室が午前中に割
り当てられた場合、その前後に算数科と社会科を位置付けるなど、同じような学習活動
が続かないようにする配慮も必要でしょう。逆に、2時間続きで学習する方がよい教科
等もあります。小学校高学年における理科の観察・実験、家庭科の実習、図画工作科の
造形活動など、一単位時間で終わらない場合などです。
オ このほか、第1校時に同じ教科等が偏らないようにすることも大切です。また、研修
行事の多い水曜日への配慮など、学校行事との関係も考える必要があります。
④ 子どもや家庭へ時間割表を配布する
作成した時間割表は家庭にも配布して、次日の準備、予習などに役立たせるようにしま
す。その際、各校時の時刻や必要な用具がある教科は、それらを記入するなどの配慮をし
たいものです。
(3) 時間割の変更
時間割は教育課程の重要な実施計画の一部ですから、むやみに変更すべきではありませ
ん。しかし、学校行事や研修会、教育課程実施上の理由などで、やむなく変更をしなけれ
ばならない場合がでてきます。その場合には、事前に子どもや保護者に確実に連絡をする
ことが必要です。運動会の練習や水泳の学習等で教科等が入れ替わる場合には、短期的に
その期間中の時間割を作成して子どもや保護者に知らせ、学校生活や学習に見通しをもて
るような配慮をするとよいでしょう。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
『教師のしおり(改訂)』
1978 年
・加藤幸次編著
『新教育課程
弾力的な時間割の工夫』
・吉崎静夫編集
『つくろうアイデアいっぱいの時間割』
ぎょうせい
2000 年
教育開発研究所
2001 年
文責
小笠原
有子
23
5
週案・日案は、どのように作成すればよいか
一年間の子どもの生活や学習を見通して作成する長期の指導計画を年間指導計画といい
ます。それに対して、短期の学習指導計画を週案や日案といいます。
週案とは、週を単位とした総合的な指導計画のことで、各教科、道徳、特別活動、総合
的な学習の時間の年間指導計画や、他の教育諸活動の計画に基づいて作成します。日案と
は、週案に基づいて、日を単位として 1 時間ごとの学習指導計画を具体化したものです。
週案、日案を立て、授業を進めることで、意図的・計画的・効果的な教育活動の実施を
図ることができます。
ポイント
1
2
3
年間指導計画を基にしながら、長期的な展望をもって作成します。
同学年会での相談を大切にしながら、作成します。
実践の振り返りを重視し、内容を修正しながら次の予定を立てるようにします。
(1) 週案・日案の重要性
○ 週案・日案は、学校の教育目標を具体的な計画の中に位置付け、年間指導計画と他の
教育計画との調和のとれた実施を図るために必要なものです。
○ 今週や今日の計画、実践を反省、評価しながら、次週や翌日の各教科等の進度を調整
したり、指導内容に検討を加えたりするなど、教育活動を効果的に実施するために欠か
せないものです。
○ 週案・日案は、学校の教育課程改善のために、貴重な資料となります。目標や内容、
時間配当などが適切であったか、子どもの反応はどうであったか、などを学年会で集約
し、次年度の教育課程の編成に生かしたいものです。
(2)
週案・日案の作成手順例
学年会で反省し、次週の行事
予定や進度を確認し、週案を
立てる
前時間や前日の反省をもと
に、日案を 修 正す る
授業の反省を記録する
授業を実施する
学年会で立てた週案をもと
に、日案をた てる
学年会で月行事予定や進度
を確認し、週案を立てる
※ 実践を反省、評価しながら、次週の各教科等の進度を調整した
り、指導内容に検討を加えたりしていく。
24
(3) 週案・日案作成上の留意点
① 長期的な展望に立って予定を立てる
予定を立てる時は、学期内に行う行事、学習内容などを考え、月から週へ、週から日へ
と、常に長期的な展望に立った計画の中で予定を立てることが大切です。
② 実践を反省し、内容を修正しながら次の予定を立てる
実際の指導では、予定通り進まないことがあります。また、基礎的な知識・技能を全員
に定着させるため、練習する時間を増やさなければならないこともあるでしょう。このよ
うな場合、単元の指導計画を修正し、週の予定を組むようにします。
③ 学年会で協力して立てる
週案の作成は学年会で行います。どんな学習指導を計画し、実践するのかだけでなく、
指導法や留意点、教材・教具の活用の仕方などについて話し合いながら予定を立てるよう
にすると、指導を充実したものにすることができます。
(4) 学習指導計画書の記入例
本市では、小・中・養護学校の各担任に「学習指導計画書」と呼ばれる週案と日案をか
ねた記録簿が配布されています。この「学習指導計画書」に週案・日案を記入し、週案・
日案に基づいた実践を行った後、反省し評価したことも記録として残すようにします。
「学習指導計画書」は指導の計画案であるだけでなく、同時に実践記録でもあり、子ど
もの生活記録でもあります。この「学習指導計画書」に記入した内容は、自分自身の学習
指導を振り返る材料でもありますが、校長・教頭に目を通してもらって学習指導の状況や
子どもの学級生活の状況などついて指導助言を受け、確かな学級経営を進めるために役立
てていきましょう。
【学習指導計画書(小学校)の記入例】
校
教科等
時
本時のねらいと主な内容
行事及び連絡事項・諸記録・反省
1
「しょうたいじょうをつくろう」
しょうたいじょうを書くために必要な
ことを見付ける。
・ふれあい集会(5校時)
・Aさんがけがをした2年生の子どもを保健室に
連れて行ってあげた。
・BくんとCさんが給食時間に口げんかをした。
理由は、Cさんが「〇〇〇〇」と言ったため。
事情をよく聞き、相手の気持ちを考えたことば
づかいや受け止め方の違いについて指導をし
学習の進度、子どもの様子、その日の行事、
た。
諸会議の記録・メモ等に使うようにします。
5
月 2
9
日 3
国語
算数
単元名、題材名、ねらいや内容
を具体的かつ簡潔に書くように
します。
重要な内容や変更の場合は、朱書しておくとよいでしょう。
上記の記入例を参考に各自で創意工夫して「学習指導計画書」を作成しましょう。また、
授業時数の累計も確実に行い、授業進度の調整を図っていきましょう。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
『教師のしおり(改訂)』
1978
・吉本二郎、熱海則夫編著
『小学校学級担任のチェックポイント』
第一法規
1980 年
・吉本二郎、熱海則夫編著
『中学校学級担任のチェックポイント』
第一法規
1980 年
文責
筒井
智己
25
6
教師の話し方は、どのようにあればよいか
教師が子どもに話をすることは、教育を行う上で非常に重要な意味をもちます。ですか
ら、その話し方に対して無関心であってはなりません。教師には教師として身に付けなけ
ればならない技術がたくさんありますが、話し方の技術もその一つです。また、教師の話
し方が子どもの言語活動に与える影響は大きく、正しく、適切な言葉で話すことが求めら
れます。
ポイント
教師が子どもに話すときには、次の4点に気を付けることが大切です。
1 分かるように話すこと
2 聞き手本位になって話すこと
3 明るく、機嫌よく話すこと
4 時、場面、状況、個に応じて話すこと
(1) 分かる話をするために
① はっきり聞こえるように話す
まずは、その場にいる子ども全員に言葉が明瞭に届くように話すことが基本です。日頃
から明瞭な声をつくっていくように心がけましょう。そのためには、できるだけ口を大き
く開けるように気を付けながら「あ・い・う・え・お」の口形をはっきりさせ、安定した
発音・発声をするようにします。また、一音一音を口の中に残さないように、一番後ろの
子どもに飛ばすような気持ちで声を出すようにしましょう。
② 簡潔に話す
分かるように話すための最も重要な心得の一つです。まずは、必要なことをできるだけ
短く話すことを心がけたいものです。事前に、話したいことを短く言えるように整理して
おき、
「要するに、どういうことなのか」を分かりやすく話しましょう。話の中ではできる
だけ読点の少ない話し方を心がけ、一文を短くすることが効果的です。
「一息、一文、一情
報」を努力目標にしましょう。
③ 具体的に話す
抽象的、観念的な事柄は、くだいて具体的に話すことが必要です。具体例を挙げて、姿
や形、情景が目に浮かぶような話し方が、子どもにはよく分かります。子どもにとって身
近な「もの・こと」を取り上げ、事実や体験を入れて話すようにするとよいでしょう。ま
た、絵や図を描きながら話したり、具体物を示しながら話したりするのも効果的です。
④ 適切な間をとる
子どもが話の内容を理解するためには、頭を働かせながら聞くゆとり、つまり頭の中で
考えるその短い時間に見合う「間」が必要です。
「間」は、子どもが教師の話に反応し参加
するのに必要な時間と考えましょう。子どもの理解の速度や呼吸に合わせるような話し方
を目指したいものです。
⑤ 表情や動作‥‥からだを使って話す
教師の表情や動作も、話を聞かせるための大切な要素です。また、教師の立ち位置も子
どもの心理に影響します。子どもは教師の位置や距離から意思を察するものです。話の内
容に応じた豊かな表情や動作等、からだ全部を使って効果的に話すことを身に付けたいも
のです。
26
(2) 聞き手本位の話し手になるために
① 聞き手に理解されて初めて役に立つと考える
話は、聞き手に理解されて初めて役に立つという考えに立つことが大切です。さらに、
話し言葉は言った順(聞こえた順)にしか分からず、瞬時に消えるもので、聞き手の記憶
が頼りです。子どもに話がどのように届けば理解できるのかを考え、工夫しなければなり
ません。
② 聞き手に合わせる
子どもの発達段階や興味・関心等の実態に応じて、内容や言葉を選んで話すことが大切
です。目の前の子どもを深く理解し、子どもに通じる言葉を探り出す努力をしなければな
りません。聞くことは、子どもたちにとってそう簡単なことではありません。子どもたち
に通じる話でなければ聞いてもらえないと心得ることです。
③ 聞き手の反応をとらえる
全体を見渡しながらも、一人一人の子どもの表情をとらえます。子どもの表情その他の
変化を見ながら、その変化が伝えるメッセージを読み取り、変化に対応した話をしなくて
はなりません。子どもの目や表情、態度等の反応は、教師の話し方に対する注文であり発
言でもあると考えて、謙虚に子どもの心の声に耳を傾けましょう。
(3) 明るさは、子どもを前向きにする
教師の話は、明るく子どものやる気を引き出すものでなくてはなりません。教師の声を
聞くと明るい気持ちになる、話を聞いているとやる気がわいてくる、‥‥そのような話し
方をしたいものです。日頃から健康に気を付け、姿勢よく、子どもの顔を見て、安定した
視線で、明るい表情としっかりした口調で、自信をもって話しましょう。
(4) 時、場面、状況と個に応じるセンスを磨く
季節や時間帯、そうした「時」にふさわしい、機知に富んだ愉快な話ができる教師を目
指したいものです。そして、文字通りの「時」
、時間を意識しましょう。限られた時間の中
で要領よく話すことができることです。時間を延ばさないことは、話を聞かせるためにと
ても大切なことです。
また、場所や場面、状況に応じて話すことが大切です。今、何がふさわしいか、何が大
事か、ということを的確に判断し、場、あるいは個人に合わせて臨機応変に対応できなけ
ればなりません。例えば、絶妙のタイミングで子どもに適切な言葉かけができる教師は、
子どもを鋭く見取り、深く理解しています。子どもや教育内容に関する理解を深め、その
時々の状況を的確に判断するセンスを磨いていきたいものです。
《参考文献》
・野口芳宏著
『授業の話術を鍛える』
・家本芳郎著
『教師のための『話術』入門』
・戸田唯巳、授業技術研究所編
1989 年
高文研
『教師の話し方』
・新川昭一著
『美術の授業の楽しみ』
・秋山和平著
『あなたが生きる話し方』
1991 年
明治図書
1983 年
三晃書房
NHK出版
2000 年
文責
野々平
美幸
27
7
朝の会・帰りの会の指導は、どのようにすればよいか
朝の会は、子どもたちの一日の見通しと意欲付けを行い、帰りの会は、一日の生活を振
り返り明日への目標と期待をもたせます。また、朝の会や帰りの会は、授業の中だけでは
語り尽くせない教師の生き方や見方・考え方などを、子どもたちに伝えるよい機会でもあ
ります。この時間における指導が子どもたちの人間形成に及ぼす影響は、非常に大きいも
のがあるといえます。
しかし、朝の会や帰りの会が毎日行われることであるだけに、漫然と形式的に行われて
しまう恐れもあります。どのような内容の会にしたら、日々の学級生活を価値あるものに
する、効果的な会になるのでしょうか。ここでは、ある学級の朝の会・帰りの会を例にし
て、述べていきます。
ポイント
1
朝の会では、一人一人のめあてを明らかにし、子どもが一日の学校生活を楽しく目
標をもって送ることができるよう、きっかけをつくります。
2
3
朝の会を通して、子どもの健康状態や生活状況を把握します。
帰りの会では、一日の学校生活を振り返り、その成果と課題を共有し合うようにし
ます。
4 帰りの会を通して、楽しかったことを共に喜び合い、問題点を共に反省し、学級集
団としての意識をもたせ、達成感をもって一日が終わるようにします。
(1) 朝の会の内容例と留意事項
<朝の会の内容例>
① 「あいさつ」は、教師対子どもだけでなく、子
① あいさつ
‥‥日 直
ども対子どものあいさつも工夫し、気持ちよく一
日を出発できるようにします。
② 歌いましょう‥‥歌の係
② 「歌いましょう」は、学級の歌や今月の歌、係
③ 元気かな
‥‥担 任
が用意した歌などを歌い、学級全体を和やかな雰
囲気にします。歌の外に、詩の音読や文章の暗唱
④ めあての確認‥‥全 員
など、各学級の工夫が生かせます。
⑤ 係からの連絡‥‥各 係
③ 「元気かな」は、出欠の確認や健康観察です。
子どもの返事の様子や顔色、態度等をきめ細かく
⑥ 先生の話
‥‥担 任
見取り、健康状態だけでなく子どもの内面的な心
⑦ スピーチ
‥‥全 員
理状態をも把握して、共感したり励ましたり指導
したりします。
④ 「めあての確認」は、一人一人が今日のめあてを明確にする時間です。全員に一日の
生活や学習のめあてを考えさせた後、数名の子どもに発表させるようにします。
⑤ 「係からの連絡」は、学級の各係が、お知らせやお願いなどの連絡をします。
⑥ 「先生の話」は、今日の日程や諸連絡を行うとともに、一日の生活の心構えをつくり
心地よいスタートを切らせるために、短い話をする時間です。季節に関する話題、新聞
やニュースからの話題、担任自身の体験、学校の行事にかかわる話題など、子どもの心
に届くような話を用意しておきます。子どもの発達段階に応じて、内容や時間、話し方
28
なども工夫します。
⑦ 「スピーチ」は、最近うれしかったこと、考えたこと、みんなに知らせたいことなど
について、短時間で(1分間~3分間位)スピーチをする時間です。少人数ずつ交代で
話をすることになるので、あらかじめローテーションを知らせておくとよいでしょう。
こうすると、話題選び、スピーチメモの準備、スピーチのための具体物の準備などが事
前にでき、安心して話をすることができます。スピーチの後には、よいところを見付け
合うようにし、継続性のある「話すこと・聞くこと」の指導を行うようにします。この
取組は、各教科等の学習における発言力や聞く力につながってきます。
(2) 帰りの会の内容例と留意事項
<帰りの会の内容例>
① 帰りの会は、反省会といった考え方や内容では
① 始めます
‥‥日 直
なく、一日の成果や努力をお互いに認め合い、明
日への期待をもつことができる会になるよう配慮
② 聞いてください‥全 員
します。
③ めあての反省‥‥全 員
② 「聞いてください」では、うれしかったことや
友達のよかったことが話題の中心となるよう指導
④ 係からの連絡‥‥各 係
します。
「いいこと見付け」のように内容を限定す
⑤ 先生の話
‥‥担 任
る方法も考えられますが、いずれにしろ学校での
出来事を子ども自身が肯定的に振り返ることので
⑥ 終わります ‥‥日 直
きる時間にします。
③ 「めあての反省」は、朝の会でのめあての確認と対応させるようにし、一人一人が自
分のめあてを達成することができたか、振り返ることができるようにします。
④ 「係からの連絡」では、各係から明日の活動につながるお知らせやお願いなどの連絡
をさせます。
⑤ 「先生の話」は、一日の中で楽しかったことや子どもが頑張ったこと、明日の予定な
どにふれ、一人一人の子どもがその日の達成感や充実感をもって、明るく楽しい気持ち
で帰ることができるよう配慮します。
朝の会も帰りの会も、毎日継続して行い習慣化することが大切です。しかも、短時間に
実施しなければなりません。上記の例を参考に、学期や曜日によって取り上げる内容を変
えるなど、変化と効率を考えた工夫を学級の実態に合わせて行うことが大切です。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
・松藤司著
『教師のしおり(改訂)』
『朝の会・帰りの会の持ち方』
・香川英雄、石塚清司編著
1989 年
『アイデア満載朝の会・帰りの会
・香川英雄、阿久津州美男編著
・香川英雄、辰野弘宣編著
1978 年
明治図書
低学年』
『アイデア満載朝の会・帰りの会
『アイデア満載朝の会・帰りの会
東洋館
中学年』
高学年』
1998 年
東洋館
東洋館
1998 年
1998 年
文責
太田
敦生
29
8
十分間読書や百ます計算などの指導は、どのようにすればよいか
基本的学習能力の習熟・維持を図ったり、教科等の学習を充実させたりするための方策
として、十分間読書や百ます計算などがあります。ここでは、その取組の例について、述
べていきます。
ポイント
1
2
3
短時間の機会(朝の自習時間など)を有効に活用し、計画的に実施します。
十分間読書では、読書環境を整えるとともに、様々な読書活動を取り入れます。
百ます計算では、子どもが計算力の伸びを確かめられるように工夫します。
(1) 短時間の機会の有効活用と、計画的な実施
確かな学力とは、知識や技能はもちろんのこと、これに加えて、学ぶ意欲や自分で課題
を見付け、自ら学び自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題解決する資質や能
力等まで含めたものです。その学力の構造は、
「教科等の基礎・基本」と「生きる力」、そ
れを支えるいわゆる「読み書き計算」と呼ばれる基本的学習能力の三層でとらえることが
できます。十分間読書や百ます計算などに取り組むことは、基本的学習能力を育て、教科
等の学習を充実させることにつながります。
例えば、九九の計算力を定着させたい、読書の習慣を身に付けさせたい、自分の思いを
表現する力を付けたい、個別に定着を図ったり質問を受けたりしたい、このようなとき、
朝自習や放課後の時間に下表のような計画を作成し実践します。また、定着状況に応じて
計画を柔軟に変更することも必要です。
曜日
朝自習
放課後
月
百ます計算
火
十分間読書
(学級)
計算ドリル
水
漢字ドリル
木
百ます計算
金
十分間読書
(全校)
質問コーナー
一週間の振り
返り日記
なお、これらの活動の実施に際しては、機械的な練習の場に陥ることなく、できる喜び
や読書の楽しさ、表現するおもしろさなど、それぞれの活動の意義をとらえ、子どもの関
心・意欲・態度の向上を図ることが大切です。
(2) 十分間読書をはじめ読書活動への取組
子ども読書の日や朝の十分間読書などを通して、子どもの読書意欲を高め読書習慣を身
に付けさせていくことは大切です。
① 読書環境をつくりましょう
教室に学級文庫を整備したり、図書係が本を紹介するコーナーを設けたりするなど、読
書に興味・関心が生まれるような教室環境づくりをします。
また、一人一人の読書習慣を形成するため、個別の「読書カード」を作るのもよいでし
ょう。個別の読書歴を残すことで、子どもに自分の読書傾向に気付かせ、読書意欲を高め
ることにつながります。自分の好きな本の「紹介カード」を書かせることも考えられます。
その際、子どもの実態に応じて、イラストも加えて紹介するなど、表現の多様性を認める
30
ことも大切です。
さらに、「本を読んでいるときは、人に話しかけない。」など、読書の時間における学級
のルールづくりをします。このように、約束事を決め、読書の場を確保することで、読書
時の雰囲気づくりを行い、読書に集中できるようにします。
② 集団読書に取り組み、読書後の活動を取り入れてみましよう
モンセラット・サルト(注1)が、遊びを通して読む楽しさを体験する「読書のアニマシ
オン」という手法を開発しています。
例えば、
「これ、だれのもの?」と持ち物の絵を見せて登場人物を当てさせたり、
「いつ?
どこで?」と時間や場所についての質問に答えさせたり、
「この人いたかな?いなかったか
な?」と物語に出てきた人物と登場場面を見付けさせたりして、遊びを通して子どもに読
書の楽しさを体験させる手法です。
(3) 百ます計算への取組
通常の授業で、計算力の定着を図るための十分な時間を確保することは難しい状況があ
ります。そこで、授業時間以外の時間や家庭学習の取組を考えることも大切です。
百ます計算は、子どもの意欲を高めながら、整数の加法、減法、乗法の計算力を身に付
けさせることができる教材・教具の一つです。短時間で取り組むことができます。
① 百ます計算は、継続することが大切です
百ます計算は、たて横、10 行×10 列に並ぶ整数の和、差、積などを求めるものです。学
年や実態に応じて、5行×5列など少ない場合から取り組むことも考えられます。所要時
間を計り記録を残すことで、子ども自身が計算力の伸びを確かめ、意欲を高めることがで
きます。百ます計算の指導をする際には、次の点に留意します。
〇 毎日少しずつ継続すること
〇 記録カードを作り、所要時間を計り、子どもに自分で記録させること
〇 子どもへの声かけや励ましなどを行い、子どもの成長や課題を共有し、意欲化を図る
こと
※【ヒント】体育用デジタル時計などをビデオに録画して、計算の際にビデオを再生して
おくと、子どもが自分で所用時間を計測することができます。
② コンピュータが活用できます
百ます計算は、通常紙面上で行いますが、コンピュータ教材もあります。採点や時間計
測を自動で行えるとともに、子どもの関心意欲を高めることができます。紙面での百ます
計算で意欲が高まらなかった子どもが、コンピュータを活用することで意欲的に取り組み、
計算力を向上させた事例もあります。
北九州市立教育センターホームページには、コンピュータ教材のソフトを掲載していま
す。コンピュータの活用の成果については、ヘルプファイルに掲載しています。参考にし
てください。
ダウンロードサイト
ソフト名
http://www.himawari.ed.jp/eductr/kyouzai/softmenu.htm
小学校算数科 2 年「かけ算」-かけ算九九 まん点-
フリーソフト
《参考文献》
・モンセラット・サルト著
『読書で遊ぼうアニマシオン ー本が大好きになる25のゲームー』
柏書房(注1)
文責
丸山
秀雄
31
9
遊びの指導は、どのようにすればよいか
子どもの成長にとって、遊びは大きな意味をもちます。ここでは、校内だけではなく校
外での遊びの指導も含めて、それらの特性や活用について、述べていきます。
ポイント
1
2
3
遊びは、子どもの天分、子どもの心の発達や体づくりに不可欠の栄養源です。
子どもの遊びを見守り、必要に応じて指導することも大切です。
様々な場面での遊びの活用、また、遊びに関する情報発信も求められます。
遊びは、その特質である楽しさ、自発性、自由性、創造性などが、子どもがもつ欲求を
十分満足させてくれるものです。子どもは遊びを通じて、ルールを学び、仲間をつくり、
人や場とのかかわり方の原点を学びます。約束事をみんなで決めたり、それに従ったり、
相手を許容したりしながら、人間関係の基礎を培い、社会生活における組織体の一員とし
ての心構えを培います。親子関係でも、幼少時に保護者と同じ趣味に興じたり体をぶつけ
合ったりして遊んだ経験は、子どもの心の安定感を増す重要な要素の一つとなります。
また、集団生活の中でやむを得ず発生する束縛と競争等の緊張状態に対して、
「好きで楽
しいだけ興じる」という遊びは、子どもの心身をリラックスさせる方法としても大変有効
です。適度な緊張とリラックスというリズムを身に付けさせるためにも、子どもの遊びが
充実するよう配慮したいものです。
(1) 子どもの遊びの特性
○ 遊びは、身体的発達や運動の発達、情緒・欲求の発達、認知的発達、社会的発達と相
互にかかわり合っていて、それぞれの発達を促す原動力の一つです。
○ 子どもの遊びは、乳幼児期の一人遊び→傍観者的行動→平行的な遊び→連合的な遊び
→組織的な遊びへと発達します。この過程で、心や体の成長、発達が促されます。
○ 子どもにとって、遊びは生活そのものであり生きがいです。遊びと学習とをきちんと
分けて考えるより、ある程度の秩序が保たれ指導の効果が上がるのであれば、遊びも学
習の一部として活用するべきです。
○ 遊びは、強制からの自由であり、奔放な世界です。心と体をリラックスさせた状態の
中で、自分の好奇心や冒険心等を満足させるために、のびのびと創造力を働かせます。
(2) 校内での遊びのために
子どもたちが明日目覚めるのを楽しみにし、学校に行くことに心を躍らせる、そんな楽
しい遊びがある学校にしたいと思います。地域で遊びにくい状況があるなかで、せめて学
校で友達と戯れ遊ぶ時間がもてることは、とても有意義なことです。
そこで、校内では、集団生活の規律が保たれる範囲で、遊びに興じることができるよう
配慮しましょう。必要に応じて、教師も遊びのなかに入ったり、遊びを教えたりすること
もあるでしょう。昔から伝わる伝承遊びを参考に挙げてみます。
○ 色つき鬼‥‥鬼が言う色を探しそれにさわっている間は、タッチされず、鬼は色を捜
している途中の子にタッチし、鬼を交代する。(色を場所や高さに変えてよい。)
32
○
ひょうたん鬼‥‥ひょうたんのような形を地面にかき、鬼はその周りから中の人をタ
ッチし、タッチされた人は全員鬼になり残った人をタッチする。全員終わったら、一番
初めにタッチされた人が、次の鬼になる。(広さや形は人数により変える。)
(3) 学習や学級づくりにおける遊びの活用
遊びによって、子どもの自発性や創造性が育ち、仲間づくりができます。それを学習や
集団生活の中に積極的に生かす工夫をしましょう。低学年で「ごっこ遊び」を取り入れた
学習を行ったり、高学年で学級づくりのために、コミュニケーションを中心とした遊びを
行ったりすることなどがその例です。
① 暗唱による言葉遊び
・せり/なずな/ごぎょう/はこべら/ほとけのざ/すずな/すずしろ/これぞ七草
・雨ニモマケズ/風ニモマケズ/雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ/丈夫ナカラダヲモチ/欲ハ
ナク/決シテイカラズ/イツモシズカニワラッテイル/ …(宮沢賢治の詩の一部)
② 言葉集めゲーム
例えば、
「魚の仲間」といったジャンルを指定し、制限時間内にグループごとに名前を書
き、順に発表して、発表と同じ名前を消していく。1~2巡して残った名前が多いグルー
プを勝ちとする。次に「野菜の仲間」の名前探しというように続ける。(小集団の仲間づく
りなどに生かす。)
(4) 遊びを、安全で豊かなものにするために
必要に応じて、安全な遊び方や遊ぶ場所などについて指導しましょう。子どもたちが遊
ぶ場所に危険物はないか、遊び道具や設置されている遊具などが安全なものであるか、と
いったことにも気を配りましょう。
また、遊びにおいても、友達を尊重し大切にしようという気持ちがベースになっている
ことが大切です。子どもたちの遊びの様相をよく見るように心がけ、指導を要する場合も
あることを念頭においておきましょう。
(5) 子どもの遊びを、校外(地域)に広げるために
親子で、自然たっぷりの公園や野山を散策する。博物館や美術館、図書館で趣味の世界
を広げたり情操を高めたりする。自然物や身近な素材を使って手作りのおもちゃを作る。
地域で行われるスポーツ活動や清掃活動やもちつき大会等の行事に参加する。
このような遊びや体験活動やフィールドワークに適した図鑑等の書籍やホームページが
多数出版・発信されています。教師自らが率先してそのような文献等を研究し、様々な活
動に参画し、学年・学級通信や懇談会で、保護者や子どもたちに紹介してあげましょう。
大切なことは、子どもたちの世界を、温かい人々の心の輪で包んであげることです。
《参考文献》
・高野清純、林邦雄編著
・坪田耕三編著
・奥田靖二編著
・松岡達英著
『図説
『1・2・3年
児童心理学事典』
『学級担任のための遊びの便利帳』
『森のずかん』
学苑社
こころとからだを豊かに育てる』
福音館書店
国土社
いかだ社
文責
野口
茂
33
10
清掃指導への取組は、どのようにすればよいか
教師は、清掃活動の教育的意義を正しくとらえ、指導法を工夫し、意欲的、協力的に取
り組むことができるように指導したいものです。
ポイント
1
2
3
清掃の目的について、適宜子どもに指導しておくことが大切です。
清掃活動の組織・分担に配慮することが大切です。
「清掃の時間」における具体的な指導を、適切に行うことが必要です。
(1) 清掃の目的
清掃には、次の4点の目的があります。適宜、子どもに指導をしておきましょう。
・住まいの環境美化を保つ
・カビの発生を防止する
・塵埃の除去により健康を保持する
・腐朽菌の繁殖を抑え、建物や家具の腐食を防止する
(2) 清掃指導の実際
① 清掃活動の組織・分担についての配慮
ア 分担は、班ごとの場所の割当てだけでなく、活動内容も明確にしておくことが重要で
す。また、一人一人の責任分担を明確にするとともに、協力してする仕事についても共
通理解しておくことが必要です。
イ 分担は、あまり長くない期間で公平に巡回させる方が効果的です。
ウ 清掃活動によって人間関係が深まるような組織作りをする配慮も必要です。
エ 曜日や週によって、重点箇所を決めて清掃に取り組むことも、分担区域を落ちなく清
掃するための工夫の一つです。
② 「清掃の時間」における具体的指導
ア 清掃の仕方の基本を確実に教えるようにします。
清掃の仕方を子どもに任せ、工夫させることは望ましいことです。しかし、その基本は
しっかりと教えられていなければなりません。以下に、清掃の基本的な手順と方法(清掃
用具の取扱い方も含めて)を示しておきますので、参考にしてください。
また、子どもが清掃活動に意欲的でないという問題点の背景に、清掃用具が十分に準備
されていないことがよくあります。これは、子どもではなく、指導する側の問題です。清
掃する目的に適した清掃用具が準備されているのか、分担範囲や人数に応じた数の用具が
配置されているのかについても、配慮しなければなりません。
手
1
2
順
ごみを拾う
方
法
・机の上のごみを片付けたり、床にある大きなごみを拾ったりする。
机・椅子を移 ・机の上の物を中に入れて運びやすくした後、机・椅子を教室の前
動させる
方か後方に寄せる。
3
34
はたく
・はたきを用いて、上の物から下の物へという順に埃をはたく。
・はたきの根元を当てないように、房で払うようにしてはたく。
4
掃く
・隅の方は、壁面に
平行に掃いて隅々
までほうきの穂先
が入るようにす
る。
5
6
拭く
・畳や木目の床は、
目に沿って掃く
ようにする。
・ごみが舞い上が
らないように止
め掃きをする。
・雑巾を洗っても水があふれないように、バケツの水は7分目くら
い入れ、水替えがしやすい位置に置く。
・バケツの中で雑巾の汚れをよく落とし、固く絞ってから広げ、二
つ折りにして拭き始める。雑巾は、最初の面が汚れたら、そのま
まひっくり返して拭き、その面も汚れたら内側の面を表にして二
つ折りにし、同様に行う。
・床を単に濡らすのではなく、汚れを拭き取るようにする。なお、
畳や木目の床は、掃くときと同様で目に沿って拭く。
・水替えは、使用しているバケツを一度に全部替えるのではなく、
半数ずつ行い、清掃の進行に空白ができないようにする。
・雑巾は、よく洗って広げ、乾燥しやすい場所に干す。
後片付けを
・バケツは水気をよく拭き取り、重ねてしまう。
する
・ほうきは、穂先が床に着かないよう、吊すか逆さまにしてしまう。
イ
教師もいっしょに働き、示範することが大切です。
環境美化という観点から、決められた時間内に能率よく掃除をするための方法を教師自
らが示範することによって、掃除の仕方を具体的に教えるようにします。子どもとともに
活動することで人間関係を深め、より一層の子ども理解も得られます。また、清掃後の心
地よさを共有することも大切です。
ウ がんばりをほめ、清掃後の心地よさを感じ取らせるようにします。
清掃中の一人一人のよさやがんばりをほめるとともに、みんなで一つのことを仕上げる
楽しさやすばらしさにも気付かせることが大切です。清掃が終了した状態を子どもととも
に確認し、そのような状態にすることを日々の清掃の目標ととらえさせることで、それ以
後の清掃活動への意欲の喚起を図ることができます。
《参考文献》
・櫻井純子監修・執筆
『わたしたちの家庭科
・城丸章夫監修、家元芳郎・佐藤功編著
学習指導書
研究編5』
『学級づくりハンドブック 13
開隆堂出版
掃除当番』
㈱あゆみ出版
文責
上杉
良子
35
11
学級の集団づくりは、どのようにすればよいか
よりよい集団づくりには、教師の意図的・計画的な働きかけが重要です。望ましい人間
関係を築き、創造的な集団活動ができるためのアプローチの仕方を考えてみましよう。
ポイント
1
2
一人一人の子どもにとって「心の居場所」のある集団づくりが基本となります。
教師と子どもがいっしょになって学級目標をつくり、学級集団が一つにまとまるよ
う組織づくりや活動づくりを進めます。
3 多様なコミュニケーション活動の設定を工夫することが必要です。
人は、集団の中で生活することで、社会での生き方を学び成長していきます。
子どもたちもまた、学校や学級において様々な集団に所属して生活し活動しています。
それぞれの集団に独自のねらいがあり、その実現に向けて、子どもたちは、主体的に活動
し、友達と協力しながら社会性を培っています。
よりよい集団づくりには、教師の意図的・計画的な働きかけが重要です。集団の成員同
士の人間関係が築かれ、創造的な集団活動ができるようになって、はじめて望ましい集団
といえます。
(1) 学級内の望ましい人間関係づくり
望ましい学級集団とは、一人一人の子どもが互いによさを認め合い、自ら学ぶ意欲と社
会の変化に主体的に対応する資質や能力を身に付けることのできる集団です。
具体的には、
「お互いの個性を認め合い、伸ばしていける集団」「温かく、好ましい人間
関係が育つ集団」
「様々な活動を通して、所属感・連帯感を高めることのできる集団」など
です。
子どもたちは、一日の大部分を学級集団の中で過ごします。その学級集団が、子ども一
人一人にとって、いわゆる「心の居場所」であることが重要です。
しかし、初めから、学級が子どもたちにとって「心の居場所」のある集団となっている
わけではありません。教師は、子どもにとって「心の居場所」のある学級をどうつくるか
という視点から、常に働きかけを行うことが大切です。係活動や当番活動、学習グループ
の指導も含めて、多様な集団活動を工夫するようにします。また、様々な場面で、子ども
同士が積極的にかかわりをもつよう、ねらいをもって指導を行うことが必要です。
(2) 学級の目標の設定及び組織
年度始めに形式的に学級目標を設定し、その後、その目標に向けて学級集団や生活を見
直すことがなく、学級目標がほこりをかぶってしまっていることがあります。これでは、
子どもに主体的な態度を育てることは難しくなります。一人一人が互いの出会いを大切に
しながら、目標づくり、組織づくり、役割分担などを行い、協力し合って問題を解決して
いく集団、教師と子どもが共に創り上げていく集団が、学級です。
① 教師と子どもでつくる学級目標
この章の 16・18 ページには、
「学級の教育目標」とは、学校の教育目標や学年教育目標
36
を踏まえ、一年間を通してどのような子ども(学級)を育てていきたいのか、担任の願い
を明らかにした目標だと述べてきました。
ここでいう「学級目標」とは、学級の教育目標を踏まえて、一年間所属する学級集団の
在り方や学級生活のめあてを、子ども自身が考え、言葉で表した目標です。子どもたち一
人一人の、所属する学級集団や学級生活に寄せる思いや願い、期待などが集約された、学
級活動のスローガンだともいえます。教師は、子どもといっしょに、目指す学級集団像や
生活イメージ像について考え、目標設定にかかわるようにします。また、年間の学級生活
の中で、絶えずこの学級目標を意識付けていくことが大切です。
② 組織をつくり活動内容を決める
当番活動、係活動、さらに学級活動などを充実させるための組織をつくり、具体的な活
動内容を決めていく必要があります。子どもたちの意向を受け止めながら、教師が適切に
指導していくことによって、望ましい組織、活動内容が決定されていきます。
③ 小集団づくりから学級集団づくりへ
まず、小集団活動の中で、一人一人の子どもが自己存在感や自己有用感をもてるように
することが大切です。小集団内での役割分担や活動の進め方について十分留意し、必要な
指導を行うように心がけたいものです。こうした活動を基盤に、学級集団が一つにまとま
って取り組む活動に発展していくよう指導することも重要です。
④ 集団の規律意識
様々な集団活動が展開される中で、つまずきやトラブルが起こります。それに応じてい
ろいろな約束を決めていきます。このときの約束(きまり)は、集団の目標や活動を生き
生きとさせるものでなくてはなりません。集団生活が楽しく、発展するために、必要な集
団の規律意識を子どもたちと共に高めていくことが必要です。そのためには、常に子ども
に、集団の一員であることを自覚させ、集団への寄与、貢献、奉仕等の意欲や態度を育て
ることが必要です。
(3) 多様なコミュニケーション活動の設定
子どもたちのコミュニケーション活動を充実させることが、望ましい集団づくりや活動
を行う重要なポイントです。コミュニケーション活動なしに集団活動を行うことは、不可
能だからです。
子どもたちは、自由な雰囲気の中で、お互いの思いや願いを出し合いながら、協力し合
って集団活動を行っていきます。そして、集団への所属感や自己効力感を高めていくので
す。このとき、教師は、自由で建設的なコミュニケーション活動が活発に行われるように、
創造性を発揮して適切な指導を行うことが大切です。
また、子ども相互のコミュニケーション活動の機会を増やすために、朝の会、帰りの会、
学級の掲示物による情報交換など、子ども相互のよさを理解し、認め、高め合う場を多様
に設定することが必要です。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
『教師のしおり(改訂)』
1978 年
文責
末武
正好
37
12
学級活動は、どのように指導すればよいか〔小学校 活動内容(1)(2)〕
学級活動は、望ましい集団活動を通して自主的・実践的な態度をはぐくむ活動です。こ
こでは、主に小学校の活動内容(1)(2)における指導上の留意点について、述べていきま
す。
ポイント
1
2
3
学級活動は、週の中程に設定すると準備や活動がしやすくなります。
活動内容(1)は、共同(みんなの)問題をみんなで解決していく活動です。
活動内容(2)は、共通(いっしょの)問題を自分で解決する活動です。
活動内容(1)は、子どもたち自身の運営が基本です。一年間の学級目標をまず真剣に考
え、決めます。その上で、学級目標の実現に向けて、例えば、学級会での議題に「学級の
歌をつくろう」「みんなが仲良くなれるような集会をしよう」「学級の1年間の思い出づ
くりをしよう」などを取り上げ、集団活動を通して、一人一人がお互いにかかわり合いな
がら、よりよい学級・学校生活を創り上げていく(充実と向上を目指す)活動を行います。
活動内容(2)は、年間35時間(小学校第1学年は34時間)の中で、学級の実態に応
じて、教師が意図的、計画的に指導を進めるとともに、子ども一人一人が自分をみつめ、
主体的によりよく生きるために自己実現を目指す活動を行います。
(1) 活動内容(1)…共同(みんなの)問題についてみんなで協力しながら実践する活動
① 学級会の目的を踏まえて指導する
学級会は、学級を自分たちの力でより楽しく、豊かなものに築き上げていく活動です。
学級会では、特に次の三つの点を頭に入れて指導することが大切です。
・児童の自発的な活動(自分から進んでする)
・児童の自治的な活動(自分たちのことを自分で解決する)
・実践的な集団活動
② 活動の流れや話し合いの進め方を指導しておく
教師は、子どもたち自身の手で活動が進むように、学級会の手順や話し合い活動の進め
方などを指導します。活動の流れの例は、以下に示したとおりです。参考にしてください。
また、活動の流れや話し合いの進め方は、教室に掲示しておくとよいでしょう。
事前の活動1
<議題ポストの提示>
・みんなで話し合えば解決(何とか)できそうなことかな?
・みんなが楽しくなることかな?
・みんなの役に立ちそうなことかな?
<司会団の事前の準備が大切>
・議題集めをします。
・議題の選定と決定をします。(※必ず教師がかかわるようにします。)
・話し合いの柱を決めます。
・役割や資料の準備を計画します。
38
事前の活動2
ア
イ
ウ
エ
議題ポストや急ぐ提案等から議題を選ぶ。
司会グループ(学級計画委員)は、先生と相談しながら議題を決定する。
話し合いの計画を立てる。
みんなに議題や計画を知らせる。
話し合いの準備や資料を作る。
事中の活動
<話し合いの進め方>
・子ども自身が司会・記録・書記などの役割をします。学年が進むにつれて、で
きるだけ輪番制にして全部の子どもが経験するようにします。
・司会ノートを作り、司会の仕方・質問の仕方・意見の出し方等を掲示します。
・個人の学級会ノートを作り、自分の考えや友達の意見をメモしたり、自己評価
に活用したりします。
ア 話し合いをする。
イ 決まったことを知らせ、確認する。(集団決定)
ウ 決まったことに向けて活動する。
事後の活動
ア 活動を振り返る。「よかった点、もっとこうしたらよい点」を評価し(自己評価
や相互評価等)、振り返りを次の活動に生かす。
(2) 活動内容(2)共通(いっしょの)問題を解決する活動
① 意図的、計画的な指導の中に、子どもが自主的に問題を解決する活動を工夫する
この活動は、日常の生活や学習への適応及び健康や安全に関するもので、子どもたちに
共通した問題を取り上げます(共同の問題というよりは、個々に応じて実践されることが
多い問題です)。また、教師の意図的、計画的な指導により解決されるものを多く含んで
います。しかし、そのような問題を扱う場合においても、できるだけ子どもたちが創意工
夫して、調べたり発表したりしながら、多くの解決例の中から自分が解決していく方法を
自己決定できるような学習活動を工夫することが望ましいといえます。
② (2)日常の生活や学習への適応及び健康や安全に関することの内容
(2)の具体的な内容として、学習指導要領解説(特別活動編)には、次のア~キが示さ
れています。指導上の留意点も示されているので、目を通しておくとよいでしょう。(注1)
ア 希望や目標をもって生きる態度の形成
イ 基本的な生活習慣の形成
ウ 望ましい人間関係の育成
エ 学校図書館の利用
オ 心身ともに健康で安全な生活態度の育成
カ 学校給食と望ましい食習慣の形成
キ その他‥‥休日や長期休業日、学校行事の事前・事後の指導など
《参考文献》
・文部省 『小学校学習指導要領解説
特別活動編』 東洋館出版
1999 年
P25(注1) 文責
佐方
はるみ
39
13
学級活動は、どのように指導すればよいか〔中学校 活動内容(3)〕
活動内容(3)は、中学校教育の目標の一つである「社会に必要な職業についての基礎
的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養う
こと」(学校教育法第 36 条第2項)を念頭に置いて行われるものです。ここでは、中学校
の活動内容(3)における指導上の留意点について、述べていきます。
ポイント
1
2
3
夢の実現に向けて、生徒自身が答えを見出していける活動を仕組むことが大切です。
適切な選択を行う能力を育成するために、ガイダンス機能の充実が必要です。
学業生活の充実と進路指導とを関連させて指導に当たることが大切です。
(1)
「学業生活の充実」の指導について
右は、学業生活の充実に関する活動内容
「学業生活の充実」に関する活動内容例
例です。指導に当たっては、教科の学習か 1 学ぶことの意義の理解
ら生まれた興味・関心に基づく進路選択や、 2 自主的な学習態度の形成と学校図書館の利用
希望する進路の実現を目指した学習の選択 3 選択教科等の適切な選択
など、学習の選択と将来の生き方や進路の選択とを関連付けて行うことが有効です。
① 学ぶことの意義の理解
「何のために学校で学ぶのか」といった
<学ぶことの意義への気付きの観点例>
素朴な問いに、生徒自身がその答えを見出
・自分自身の学習のつまずきを克服するため
・自分のよさや得意なことを伸ばしたりするため すことができ、学習に意欲的に取り組むよ
うになることが望まれます。そのためには、
・自己を高め、充実した人生を送るため
・学ぶことの楽しさやおもしろさに気付くため
左の「気付きの観点例」に示したような、
・自分の将来の夢や希望を実現するため
学ぶことの意義に生徒が自ら気付くよう、
日常の教科の学習や選択教科の選択、当面する進路の選択や将来の生き方を考える学習と
の関連を図りながら活動を進めていくことが必要です。題材例としては、
「充実した人生と
学習」「学ぶことと職業」「学習の選択と自己責任」などが挙げられます。
② 自主的な学習態度の形成と学校図書館の活用
自己教育力の基礎、生涯学習の基礎づくりとして、主体的に学ぶ意欲や態度を身に付け
ることが望まれます。また、学び方の習得において、学校図書館が学習教材の宝庫である
ことに気付き、積極的に活用しようとする態度を身に付けさせることも大切です。
指導に当たっては、生徒が、勉強することの楽しさを感得したり、自分にふさわしい学
習方法を見出し、学習の悩みを克服したりするなどして、意欲をもって学習に取り組むこ
とができるようになる内容を取り上げることが必要です。また、学校図書館を積極的に活
用するような内容を取り上げることも大切です。題材例としては、「自ら学ぶ意義や方法」
「不得意教科の克服」「学校図書館の活用」などが挙げられます。
③ 選択教科等の適切な選択
生徒一人一人が、選択教科の適切な選択とその学習を通して、自己の個性を伸ばすとと
もに、進んで学習に取り組み、充実した学校生活を送ることができるようになることが望
まれます。したがって、以下のことに留意して指導に当たることが必要です。
40
・選択の過程で選択教科の学習に積極的に取り組もうとする心構えがもてるようにする。
・選択にかかわる諸活動が、日常生活の他の選択場面においても生かされるようにする。
具体的な題材例としては、
「選択教科の種類と選択の仕方」
「自分の進路計画と選択教科」
「選択教科の理解と自分にふさわしい選択」
「先輩に学ぶ選択教科の選択」などが挙げられ
ます。
(2) 「将来の生き方と進路の適切な選択に関すること」の指導について
右は、将来の生き方と進路の適切な選択に関する
「将来の生き方と進路の適切な選択」
活動内容例です。指導に当たっては、生徒が自己の
に関する活動内容例
将来に夢を抱き、その実現を目指して主体的に進路 1 進路適正の吟味と進路情報の活用
2 望ましい職業観・勤労観の形成
を選択していく能力を養うことが必要です。
3 主体的な進路の選択と将来設計
① 進路適性の吟味と進路情報の活用
中学生ともなると、生徒は、自己を探究し始めるとともに、その過程で、自分と社会と
のかかわりや将来の生き方について関心を抱くようになります。そこで、人の生き方や進
路との関係で自分を知ることができる内容を取り上げることが必要です。また、当面する
進学や就職にかかわる情報を収集、
活用して、進路に関する理解を深める内容を取り上げ、
指導に当たることが大切です。具体的な題材例としては、
「人と個性」
「自分のよさと職業」
「職業と産業」「人生と職業」などが挙げられます。
② 望ましい職業観・勤労観の形成
望ましい職業観、勤労観をはぐくむことは、
「生き方指導」としての進路指導にとって重
要な課題であるといえます。そこで、自己と社会とのかかわりを考え始める中学生の時期
をとらえ、様々な職業及び職業生活について理解することができる内容を取り上げること
が必要です。また、将来、職業人、社会人として積極的に社会にかかわり、生きがいのあ
る人生を築こうとする意欲・態度をもつことができるような内容を取り上げ、指導に当た
ることが大切です。具体的な題材例としては、
「身近な職業」
「働く目的と意義」
「働くこと
と生きがい」などが挙げられます。
③ 主体的な進路の選択と将来設計
人は、その人生において、生き方の変化の中で幾度かの進路選択を迫られます。このよ
うな変化を視野に入れ、人の生き方、人生の在りようについて、その多様性を理解すると
ともに、自分の将来の生き方や生活について夢や希望がもてるような内容を取り上げ、指
導に当たることが大切です。題材例としては、
「自分の進路先」
「進路計画の意味と必要性」
「進路計画と進路の選択」「人生と生きがい」
「自己を生かすとは」などが挙げられます。
生徒は、教師の適切な指導の下で行われる活動内容(3)での活動を通して、自己の将来
に夢を抱き、その実現を目指して学習することの意義を理解していきます。また、学習や
進路を主体的に選択していく能力が身に付いていきます。以上述べてきたポイントに留意
し、各学年にわたって、系統的・発展的な学級活動を実践していくように工夫しましょう。
《参考文献》
・文部省
『中学校学習指導要領(平成 10 年 12 月)解説-特別活動編-』
・森嶋昭伸・鹿嶋研之助編著
『中学校新教育課程の解説
特別活動』
1999 年
第一法規
2000 年
文責
山本
浩三
41
14
生活習慣づくり(しつけ)とその指導は、どのようにすればよいか
生活習慣づくり(しつけ)は、児童の人間形成において極めて重要なことです。この時
期に身に付けた生活習慣は、生涯にわたってあらゆる行為の基盤となるといわれます。
生活習慣づくり(しつけ)の適切な指導について考えてみましょう。
ポイント
1
2
3
4
生活習慣づくりの決め手は、ほめ方にあるとさえいわれます。心からほめましょう。
生活習慣にかかわるルールは、子どもたちに話し合って決めさせましょう。
合い言葉、モットー、約束ごとを工夫しましょう。
教師自身が、望ましい、魅力的なモデルとなるように心がけましょう。
(1) 心からほめる
生活習慣づくりの決め手は、ほめ方にあるとさえいわれます。どんなに小さなことであ
っても、その動機や過程を認め、何をほめられているかがよく分かるように、ほめましょ
う。言葉だけではなく、心からしっかりとほめ、意欲を引き出しましょう。子どもの心に
響くようにほめることが大切です。
(2) 話し合って決めさせる
学級会などで、話し合って決めることも大切です。教師から生活習慣を提示することが
主となりがちですが、子どもたちの話し合いで、自分たちのルールを決めることも大切な
ことです。自分たちで決めたルールは、子どもたちが主体的に守っていきます。互いにほ
め合ったり、注意し合ったりしながら、定着していくものです。
特に、学年が進むと自我が発達してきますので、自分たちで話し合うことにより、生活
習慣づくりの意欲が高まったり、形成が容易になったりします。子どもたちの自主性を引
き出していきましょう。
(3) 約束ごとを工夫する
合い言葉、モットー、約束ごとを申し合わせ、常に繰り返して定着を図ることも大切で
す。覚えやすいように「ごろ」のよい言葉を組み合わせて、生活の中へ溶け込ませ、反復
して生活習慣づくりをしていきましょう。
<例1:返事のしかた>
・よい子のへんじは、げんきに「はい」
・はなしのしっぽは、
「です」と「ます」
<例2:あいさつのしかた>
・あいさつの「あ」は、
「明るく」
・あいさつの「い」は、「いつも」
・あいさつの「さ」は、「先に」 ※「先に」が特に大事
・あいさつの「つ」は、「つつましく(心を込めて)」
42
(4) 教師がよいモデルになる
子どもは、教師のすることを見よう見まねで身に付けていきます。これがいわゆる「モ
デリング」です。生活習慣づくりの基本的な方法です。口で教えたことはなかなか子ども
の身に付いていきませんが、教師の言動はモデルとして無意識のうちに取り入れられてい
くものです。
「背中で教える」という言葉があるように、常に教師自身が望ましい、魅力的
なモデルとなるように心がけましょう。
また、生活習慣づくりにおいては、教師の毅然とした態度と、心から子どもに尊敬され
る教師であることが最も大切な条件であることはいうまでもありません。
(5) その外に工夫していきたいこと
〇 家庭との連携を大切にしましょう。連絡帳や学級通信等を活用して連携を図っていく
ことも忘れないようにしましょう。
〇 「北九州市 子どもの誓い10か条」
(子どもを育てる10か条の子ども編)や「心の
ノート」の積極的な活用もしましょう。
・「北九州市 子どもの誓い 10 か条」の活用
「北九州市 子どもの誓い 10 か条」は、子どもたちが自分自身を育てるための誓いです。
生活習慣づくりと深くかかわっています。教室掲示や学校掲示をしたり、朝の会、帰りの
会等で機会を見付けて唱和したりすることもできます。
・「心のノート」の活用
道徳性をはぐくむために、全国の子ども一人一人に「心のノート」が配布されています。
「心のノート」のキャッチフレーズは、“いつでも、どこでも、何度でも”です。「心のノ
ート」は、道徳の時間だけではなく、学校や家庭での生活全体を通して、子どもが自ら進
んで繰り返し使用するものです。もちろん生活習慣づくりに関する内容もあり、子どもの
意欲を引き出すように工夫された構成になっています。繰り返し活用することにより、子
どもの生活習慣づくりの形成につながっていきます。また、
「心のノート」は学校と家庭と
の「心の架け橋」ともなるよう作られています。家庭との連携を図るという面からも、活
用の仕方を工夫したいものです。
<身に付けさせたい生活習慣・小学校低学年>(小学校学習指導要領解説 道徳編より)
〇
健康や安全に気を付け、物や金銭を大切にし、身の回りを整え、わがままをしない
で、規則正しい生活をする。
〇 気持ちのよいあいさつ、言葉遣い、動作などに心がけて、明るく接する。
〇 自分がやらなければならない勉強や仕事は、しっかりと行う。
〇 よいことと悪いことの区別をし、よいと思うことを進んで行う。
〇 うそをついたりごまかしをしたりしないで、素直に伸び伸びと生活する。
〇 みんなが使う物を大切にし、約束やきまりを守る。
《参考文献》
・文部省
『小学校学習指導要領解説
道徳編』
大蔵省印刷局
1999 年
文責
彌永
和利
43
15
子どものほめ方、叱り方は、どのようにすればよいか
子どもをほめることは、子どもを元気づけ、叱ることは、子どもを反省させ、奮起を促
すのに役立ちます。ここでは、ほめたり叱ったりする際の留意点について考えてみましょ
う。
ポイント
1
2
3
目指す子ども像を明確にし、ほめたり叱ったりするときのめやすにしましょう。
ほめるときは、具体的にほめるように配慮しましょう。
叱るときは、公平に、叱る内容を一貫させるように配慮しましょう。
学校生活の中で教師が子どもをほめたり叱ったりする機会は多いと思います。ほめるこ
とは、子どもを元気づけ、自信をもたせるために役立ちます。叱ることは、子どもを反省
させ、奮起を促すのに役立ちます。しかし、その方法を誤ると、教師の意に反して、思わ
しくない結果を招くこともあります。
子どもの人格を尊重した上で、愛情をもって、
ほめたり叱ったりしなければなりません。
子どもの心の成長にプラスに働くように、ほめたり叱ったりすることが大切です。そのた
めには、次のような配慮が必要です。
(1) 目指す子ども像を、ほめたり叱ったりするときのめやすにする
あなたは、子どもをほめたり叱ったりする際、何を判断の「めやす」とし、具体的にど
のようなことを指導しますか。
子どもをほめたり叱ったりする際の判断のめやすとなるのは、学校教育目標や学年目標
を踏まえた、学級の「目指す子ども像」
(学級の教育目標、または学級目標のことを指して
います。36 ページを参照してください。)だと考えましょう。その子ども像に照らしなが
ら、「何がよいことなのか」「何がよくないことなのか」について、具体的に指導すること
が大切です。
(2) ほめるときに配慮すること
① 具体的にほめる
「『○○さん、すごいね!』って、先生は言ってくれたけど、何がすごいのかよく分から
ないな。」という子どもの心のつぶやきが聞こえませんか。
ほめるときは、
「何が、どうよいのか」を具体的に子どもに伝えましょう。そのためには、
日頃から子ども一人一人をよく観察して、よさやがんばりを見付けておくことが大切です。
最初は、簡単な「声かけ記録」などを作成して活用するのもよいでしょう。ほめたり声か
けをしたりしたら、名前の横に印を付けていきます。昼休みなどに、
「まだ、ほめたり声か
けをしたりしていない子どもはいないかな」と、声かけ記録を確かめてみましょう。でき
るだけ、どの子どもに対しても、一日一回は、ほめたり声かけをしたりしたいものです。
② ほめたり声かけをしたりする場を広げる
・学習‥‥ねらいに向かって活動する子どものがんばりやよさなどを見取り、ほめる。
・給食‥‥いっしょに給食を食べながら、あまり話さない子どもに意識的に声をかける。
44
・遊び‥‥いっしょに遊びながら、友達関係づくりのよさなどを見取り、ほめる。
教師が「ほめたり声かけをしたりしよう」という意識を常にもっていさえすれば、様々
な場で実践することができます。
(3) 叱るときに配慮すること
① 公平に、叱る内容を一貫させて叱る
学級の中に、
「いつも叱られる子ども」はいませんか。「○○さんは、××のことをして
も叱られないのに、なぜ、ぼくが××のことをすると、先生は叱るのかな。
」「この前は、
先生はいいと言ったのに、なぜ、今日はだめなのかな。」などのつぶやきが子どもたちの中
から聞こえてきませんか。
学級の「目指す子ども像」に照らして、どの子どもに対しても、公平に叱りましょう。
また、叱るときは、極力、例外をつくらないよう配慮することが大切です。
② ときと場所を考えて叱る
相手の心を傷つける言動のあったとき、あるいは生命の危険につながる行為をしたとき
などには、すぐにその場で叱ることが大切です。また、小学校低学年の子どもの場合、日
にちをおくと、自分がしたことや言ったことを忘れてしまったり正確に思い出せなかった
りします。叱る場合は、その場その場で、というのが原則でしょう。
逆に、緊急を要さない場合や、高学年の子どもの場合は、時間を少し置くことも大切で
す。子どもの気持ちが落ち着いてから、気持ちをじっくり聞きながら叱った方がよい場合
もあります。とりわけ、個人のプライバシーにかかわったり、精神状態が不安定だったり
する子どもの場合は、全体の場を避け、静かな場所で、教師と一対一でじっくりと話し合
った方がよいでしょう。
③ 子どもの特性を考えて叱る
「小さなことでも、学級の友達の前で叱られると、それだけで萎縮してしまう子ども」
「叱られれば叱られるほど、教師に反発する子ども」など、いろいろな特性の子どもがい
ます。このような子ども一人一人の特性を考えながら、その心に深く伝わるように、叱り
方を工夫することが大切です。
④ 愛情を込めて叱り、叱った後のフォローをする
教師自身が感情的になったり偏った情報で判断したりして、叱らないようにすることが
大切です。もちろん、体罰は絶対に許されません。正確な情報をもとに、問題事象をでき
るだけ客観的かつ的確に分析した上で、愛情をもって叱ることが大切です。叱るときは、
端的に、適切な言葉を選び、教師の言葉が子どもの心に届くようにしましょう。
叱った後に、保護者への連絡が必要になる場合があります。連絡をする場合は、事実確
認を正確にした後で、早急に行うことが大切です。また、叱った後は、
「叱った内容を理解
し、納得したのか」「精神的に落ち込んでいないか」「その後の友達関係、教師との関係」
「子どものがんばり」などについて、子どもの様子を観察しましょう。そして、子どもの
がんばりをほめて、子どもに自信をもたせ、次の活動へとさらに意欲を高め、行動化でき
るように支援しましょう。
文責
山下
直子
45
16
教室環境は、どのように整えればよいか
毎日の学習や生活の拠点でもある学級の教室環境は、児童生徒の望ましい人間形成に直
結しています。ここでは、教室環境づくりの具体例について挙げてみましょう。
ポイント
1
2
3
望ましい人間形成のために教室環境を整えていくことは、教師の重大な責務です。
教室環境づくりは、意図的・計画的に工夫していくことが必要です。
明るく、健康的で、安全な生活をする場として教室環境を整えることも大切です。
(1) 教室環境づくりに当たって
掃除の行き届いた教室。学級目標、教師の思い、児童生徒の作品などが整然と掲示され
ている壁面。このように、教室環境が整えられた学級の雰囲気は、児童生徒の心を豊かな
ものにしていきます。教室環境づくりは、単に物を掲示したり、配置したりするだけでは
十分とはいえません。児童生徒の、個として、あるいは集団としての日々の行動や学習の
軌跡、心の働きなどを表したものが意図的・計画的に、しかも適切に整備・配置されるこ
とによって、はじめて教室環境による効果が期待できます。児童生徒の望ましい人間形成
のためにも、生きた授業を展開するためにも、創意に満ちた教室環境を構成し、整えてい
くことは教師の重大な責務であるといえます。
〇
「環境は人をつくる」「環境は無言の教育者である」と言われるとおり、環境が教
育に果たす役割の大きさを認識しなければなりません。
〇 学校生活の大半を過ごす教室の環境は、学習を助け、学習意欲を高め、学級生活を
楽しく豊かにするものでなければなりません。
〇 教室の掲示物は単に「物がある」のではなく、児童生徒へ「働きかける、問いかけ
る」ものでなければなりません。
(2)
①
教室環境づくりの具体例
掲示物などの整備・配置の工夫
ア 教室の正面
教室の正面には、学校生活を支える基本的事項について、常掲的性格のものを整然と掲
示しましょう。
〇 黒板上方の壁面は、学校・学級の教育目標、学級目標、校歌、北九州市子どもの誓い
10か条などの掲示が考えられます。
〇 正面掲示は、学校の月・週の生活目標や計画、時間割、日課表、栄養指導板等のうち
から精選されたものを掲示しましょう。
イ 教室の背面
生きた学級の活動を反映するため、かなりの部分を児童生徒に開放して(任せて)、創造
性をかき立てる動的環境の設定を工夫しましょう。
〇 背面黒板は各係の掲示、児童生徒会、各委員会からの伝達事項などの掲示に活用しま
しょう。
46
〇
背面の掲示については、平面的な作品や研究物の展示が考えられますが、その際、児
童生徒の優秀な作品のみでなく、教育的意図をもった展示を工夫しましょう。例えば、
児童生徒の心の交流を深めるようなコーナー、学習内容にかかわるクイズやコラムなど
のコーナー、時の話題のコーナーなど、児童生徒の発想や創意工夫を大切にするコーナ
ーをぜひ設けたいものです。
ウ その他の場所
教室の側面(廊下側や窓側)は、観察や飼育、それらの記録物の提示、保管など、教師
や子どもの創意を生かしたものにしたいものです。
② 掲示に当たっての留意点
例えば、このような教室環境を見ることはないでしょうか。
・何か月も貼りっ放しで、変色しかけた掲示物
・単に、美化のためや壁面をつぶすための掲示物
・無計画で、児童生徒への働きかけが感じられない掲示物
・児童生徒の考えが生かされていない掲示内容
・保護者参観、研究授業等の時だけきちんとしていて、後はそのままの教室
など
これでは、せっかくの教室掲示が生きてきません。以下に述べる点に留意し、意図的・
計画的な教室掲示を心がけましょう。
〇 児童生徒の作品やグラフなどの掲示をする場合、その意義と効果、児童生徒に与える
影響などを十分に考慮しましょう。
〇 児童生徒にとって、自己の学習についての見直しや、励ましになるような効果が期待
できる掲示となるように工夫しましょう。
〇 いたずらに競争心をあおり立てるもの(ドリル点取り一覧表等)や、児童生徒の力で
はどうにもならない家庭環境の違いが影響したりするもの(宿題・忘れ物グラフなど)
は、児童生徒の心を傷つけることになるので、十分な配慮が必要です。
〇 掲示物の文字やイラストなどは、落ち着いた色合いを使いましょう。
〇 月単位・学期単位で掲示を替え、季節や時事が分かる掲示にしましょう。
③ 健康的で、安全な生活の場としての教室環境づくり
教室の扉や窓、ガラス、机や椅子、壁などに破損しているところがあると危険です。す
ぐに、修理するように配慮しましょう。教室内でのけがや事故は、思いのほか多いもので
す。また、健康面では、採光、換気、騒音、用具の置き方などの管理面にも注意を払いま
しょう。風邪が流行しているときは、窓の開閉による換気を心がけるなど、担任として留
意すべきことはたくさんあります。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
『教師のしおり(改訂)』
・中嶋公喜・加藤八郎編著
1978 年
『学習意欲を引き出す教室環境・教室壁面』
明治図書
文責
1998 年
行實
マリ子、勝山
優子
47
17
出席簿の取扱いと欠席の子どもへの配慮を、どのようにすればよいか
出席簿は、登校児童生徒の確認のために、必ず使用される重要な公簿です。また、その
記録から子どもたちの出欠の傾向も読み取ることができます。
ポイント
1
在籍者数、出席日数、転出入者の記録と週末、月末、学年末統計はきちんと記録し
ましょう。
2 欠席している子どもやその保護者には、特に気を配るようにしましょう。
3 不登校の子どもへの適切な支援や、不登校を予防する積極的な取組が望まれます。
(1) 出席簿の取扱い
① 出席簿の記入
出席簿は、表紙裏に記入方法が具体的に記載されています。例示に従ってその都度、正
確に記入しましょう。ていねいな記述が望まれます。鉛筆で出欠を表示したり、略記号(〃)
など用いたりすることのないよう留意してください。
② 出席停止や出席扱いについて
学校保健法や学校管理規則等では、
伝染病による出席停止や臨時休業が定められており、
性行不良による出席停止も規定されています。
また、不登校等で、適応指導教室「ふれあい教室」やフリースクールに通った場合、出
席扱いが可能になることがありますので、関係機関に確認が必要です。
③ 学校備付帳簿としての出席簿
各学級担任は、出席簿を常に身近な所定の場所に置き、担任不在の場合にも適切な対応
ができるようにしておく必要があります。災害発生時には安否確認の大事な資料にもなり
ます。法に定められた学校備付帳簿として5年間の保存が義務付けられています。また、
長期休業中等は一括して保管するなどの手だてが必要となります。
(2) 欠席の子どもへの配慮
子どもは、欠席している間も学校の様子が気になるものです。家庭への連絡を忘れない
ようにしましょう。特に登校する日の時間割変更や持参するもの等は、連絡を受けないと
児童生徒本人が困ります。このことが学校不信や不登校につながることもあります。担任
が本人や保護者とのコミュニケーションも兼ねて、できるだけ家庭訪問をすることがよい
でしょう。
(3) 不登校の兆候と支援
① 早期発見
次ページに示した表のような兆候がみられる場合には、不登校のサインであることが心
配されます。もし、このような様子が見られたら、
「様子をみる」のではなく、早めの対応
が必要です。子どもの話を受容的に聴いたりふれあう機会を増やしたりします。保護者や
同僚からも情報を集め子どもの状況を判断しましょう。また、担任一人で抱え込まずに、
校内組織を生かして連携して取り組むようにしましょう。
48
学校では‥‥
家庭では‥‥
・遅刻・早退の数が増えたり、休み明けの日に欠 ・朝、なかなか起きられなくなった。
・朝食時、食欲がなく、表情が暗くなった。
席が増えたりしだした。
・登校時間になると、体調不良を訴えること
・休み時間に一人で過ごしている。
が多くなった。
・保健室によく行くようになった。
(頭痛・腹痛・発熱など)
・授業に集中できない様子や無気力が見られる。
② 心の居場所づくり
「○○さんといっしょのときは楽しい」「この活動をしていると、夢中になれる」「わた
しがいないと□□がうまくいかないはずだ」等、子どもにとって居心地のよい場所や必要
とされる人間関係や時間があります。そんな心の居場所を、教室につくりたいものです。
また、教室に入れない子どもたちのために、心のエネルギーを補充する場所として校内
サポート室(保健室・相談室等も含む)を利用することも、場合によっては有効です。
(4) 不登校の児童生徒への支援
不登校の原因を明らかにすることは難しいことです。無気力型、学校生活上の影響型、
怠学傾向、非行型等様々で、複合した要因も考えられます。なぜ、登校しないのかと子ど
もを追いつめると、
「仮の原因」を作り出すこともあります。大事なことは、本人や保護者
の思いを聴き、学校や担任として応援しているという熱意を伝えることです。
① 保護者と信頼関係を築く
本人の思いと保護者の考えが違うこともあります。まずは保護者と会って話をしましょ
う。場所や時間等を決めるときは、保護者の意向をよく汲みましょう。
② 学校・教職員の組織を生かしてチームとして取り組む
独断で対応するのではなく、同学年や生徒指導・教育相談組織を生かして、子どもの様
子やよさを多面的に理解するようにしましょう。また対応する方針が決まったら、絶えず
情報交換に努め、独断で動かないようにすることも大切です。
③ 学校外の人的資源を生かす
各区役所の子ども・家庭相談コーナー、適応指導教室、フリースクール、医療機関、民
生委員等と連携をとりながら、より多面的な支援を目指しましょう。
(5) 不登校にならないようにするために
まず、何よりも大切なのは子どもの自己実現を図る授業づくりです。子どもが「よく分
かった」「楽しかった」
「感動した」と思えるような教育活動の展開が必要です。
また、授業の際の教師のカウンセリングマインドも大切な要素になります。子どもの思
いや発言を受け入れて、それを集団の思考や活動に生かしていこうとする姿勢が大事です。
教師が、子どものよさを見取ろうとしているかどうかを、子どもは敏感に感じ取ります。
さらに、子どもの人間関係能力の素地をつくり、社会性を伸ばす意図的な取組をするこ
とも有効です。その技法の例として、
「構成的グループエンカウンター、ソーシャルスキル
トレーニング、ピア・サポート、アサーション、ストレスマネジメント」などがあります。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
・諸富祥彦著
『生徒指導推進要項』
1993 年
『学校現場で使えるカウンセリング・テクニック
・福岡県教育委員会、福岡県教育センター
上・下』
『不登校の解消をめざして』
誠信書房
2004 年
文責
髙丸
美津子
49
18
子どもの転出入事務は、どのようにすればよいか
子どもの転出入については、国立・県立・私立学校を対象とした転出入など、様々なケ
ースが考えられますが、ここでは、市外への転出、市外からの転入、市内の区間異動、区
内間異動にかかわる事務手続等について、その要領ならびに留意点を解説します。
ポイント
1
2
転出入の事務手続きは、学校事務提要に則り、正確に行うようにします。
外国への転出入や外国人の転出入などの事例が生じた場合は、自分で判断せず管理
職の指示を仰ぐなど、適切に処理しましょう。
3 転出入の書類は、児童生徒の個人情報として慎重に取り扱いましょう。
(1) 転出入に関する事務手続きについて
① 市外への転出
保護者の転勤等により、市外へ転出する場合は、各区市民課(または出張所)で転出の
届出を行い、転校手続きをします。
ア 保護者は、転出する区役所市民課に住民異動届を提出する。
イ 市民課は、住民異動届をもとに、除籍通知書を作成し、保護者に渡す。
ウ 保護者は、転出校へ除籍通知書を持参し転校手続きを行う。
エ 転出校は、保護者からの除籍通知書を受け取り、転校書類を作成し保護者へ渡す。転
入校から転入学通知書が届いたら、転入校へ指導要録の写(うつし)等を送付する。ま
た、学事課へ児童・生徒異動連絡表により報告する。
オ 学事課は、児童・生徒異動連絡表に基づき、学齢簿を加除訂正する。
② 市外からの転入
市外からの転入の場合は、各区市民課(または出張所)で転入の届出を行い、転校手続
きを行います。
ア 保護者は、転入する区役所(新住所地)市民課に住民異動届を提出する。
イ 市民課は、住民異動届に基づき、就学通知書を作成し、保護者に渡す。
ウ 保護者は、転入校へ就学通知書を持参し、入学手続きを行う。
エ 転入校は、入学手続終了後、転出校へ転入学通知書を送付する。転出校から指導要録
の写等が届いたら、転校書類受領書を送付する。また、学事課へ児童・生徒異動連絡表
により報告する。
オ 学事課は、児童・生徒異動連絡表に基づき、学齢簿を加除訂正する。
③ 市内の区間異動(市内間異動)
市内間異動については、次の手順で事務手続きを行います。
ア 保護者は、転居の前日までに、現在通学している学校(転出校)に転校届を提出する。
イ 転出校は、転校届の内容を確認の上、転校書類を作成し、保護者に渡す。
ウ 保護者は、転入する区役所(新住所)市民課に住民異動届を提出する。
エ 市民課は、就学通知書及び除籍通知書を作成し、保護者に渡す。
オ 保護者は、転入校へ、就学通知書及び除籍通知書と転校書類を持参し、入学手続きを
行う。
50
カ
転入校は、入学手続き終了後、転出校へ転入学通知書及び除籍通知書を送付する。ま
た、学事課へ児童・生徒異動連絡表により報告する。
キ 学事課は、児童・生徒異動連絡表に基づき、学齢簿を加除訂正する。
ク 転出校は、転入校から転入学通知書が届いたら、転入校へ指導要録の写等を送付する。
ケ 転入校は、転出校から指導要録の写等が届いたら、転出書類受領証を送付する。
④ 区内間異動(転居)
ア 保護者は、転居の前日までに、現在通学している学校に転校届を提出する。
イ 転出校は、転校届の内容を確認の上、転校書類を作成し、保護者に渡す。
ウ 保護者は、居住区の区役所市民課に住民異動届を提出する。
エ 市民課は、就学通知書及び除籍通知書を作成し、保護者に渡す。
オ 保護者は、転入校へ転入学通知書及び除籍通知書と転校書類を持参し、入学手続きを
行う。
カ 転入校は、入学手続き終了後、転出校へ転入学通知書及び除籍通知書を送付する。ま
た、学事課へ児童・生徒異動連絡表により報告する。
キ 学事課は、児童・生徒異動連絡表に基づき、学齢簿を加除訂正する。
ク 転出校は、転入校から転入学通知書が届いたら、転入校へ指導要録の写等を送付する。
ケ 転入校は、転出校から指導要録の写等が届いたら、転校書類受領書を送付する。
(2) 転入学に際しての留意点
① 学校が作成する転校書類とは
保護者からの届けに基づき、転出校は転校書類を作成し、保護者へ渡さなければなりま
せんが、ここでいう転校書類とは、転出する児童生徒がその学校に在学していたことを証
明する在学証明書、及び使用していた教科用図書の教科用図書給与証明書を指します。
② 転出校が転入校へ送付する書類とは
転入校より転入学通知書が届いたら、転出校は「転入校へ指導要録の写等を送付する」
とありますが、送付するものは原則として以下のとおりです。
〇 児童・生徒指導要録写(写である旨を証明する校長の職印が必要)
※ 指導要録の抄本(中学校の場合は小学校から送られてきたもの)を求められる場合
がある。
〇 児童生徒健康診断票(歯・口腔を含む)
〇 その他(ゴム印や、児童生徒の事務手続き等に使用していたものであり、これらの送
付は任意である。)
③ 転出した児童生徒の除籍日はいつか
除籍日とは、転入校が受入れた日(転入日。原則として就学通知書の日付)の前日であ
り、除籍通知書の日付とは必ずしも一致しません。
除籍通知書の日付と転入日(就学通知書の日付)が何日か開いている場合、その間の学
籍は原則として転出校にあります。
《参考・引用文献》
・北九州市教育委員会
『学校事務提要
第7論
学校教育
第1章
就学事務』
文責
川野
修一
51
19
学級会計事務を行うとき、どのような注意をすればよいか
学級会計事務の仕事は、収入から支出までの経緯を明確にし、不信をまねくことのない
よう、適正に管理、執行しなければなりません。
本市では、学校事務の適正化を図る目的で、学校における児童・生徒負担金会計基準(学
校事務提要 平成 15.4.1)を決め、具体的な取扱いについては、児童・生徒負担金取扱マ
ニュアル(平成 18.3.13)に基づき処理することとなっています。
ポイント
1
支出に当たっては、児童・生徒負担金ファイルに領収書を添付し、その都度記載し
ます。
2 負担金の名称ごとに通帳を作成し、年度末には保護者に収支報告をします。
(1) 「公費」と「私費」について
① 「公費(学校予算)
」とは
学校を設置する地方公共団体の予算として、各学校に配分されるものです。学級担任は、
直接現金を扱うことはありません。
② 「私費」とは
保護者から徴収するものです。学級担任等が直接徴収にかかわり、購入したり支払った
りします。私費の扱いや管理・処理などは、正確に進め、校長の決裁を得る必要がありま
す。
(2) 児童・生徒負担金会計基準について
① 児童・生徒負担金とは
学校において徴収できる負担金とは、現行制度上児童生徒の私費負担となっている経費
のうち、学校教育活動を通じて、児童生徒に直接還元されるもので、校長が学校教育活動
に必要なものと認め、学年、学級及び特別活動におけるクラブを単位として、学校が定め
た金額を児童生徒から徴収する経費のことです。
② 負担金の名称及び内容
各学校では、負担金の名称を以下の5項目に統一し、徴収しています。
ア 共同購入費(副読本、ワークブック、ドリル、テスト類、実験実習材料等)
イ 共同活動費(映画、音楽、観劇、遠足、社会見学、キャンプ、児童生徒会、学年・学
級等)
ウ 給食費(給食材料費)
エ 積立金(修学旅行、記念文集等)
オ 保健費(日本体育・日本スポーツ振興センター)
③ その他
ア 事務組織、予算編成、徴収金額及び方法、収入・支出・還付事務、決算の調製、保護
者に対する説明などが記載されています。
イ 標準帳票名と標準的な各書帳簿の様式もあります。
※ 本市の会計基準をもとに、金銭の取り扱い事務を慎重に行いたいものです。
52
(3) 学級会計事務を行う場合の配慮事項について
① 校長の承認を受ける。
子どもを通じて保護者より金銭を集めるときは、金額の多少を問わず、必ず前もって学
年主任を通じ校長に届けて、承認を受けるようにします。
② なるべく学校で現金を徴収しない。
なるべく、
年度当初に保護者に説明した負担金以外は、
現金を徴収しないようにします。
③ 口頭だけで集金をしない。
子どもに口頭だけで集金をすると、趣旨が徹底せず、思わぬトラブルが起こることがあ
ります。校長名で趣意書を持たせるなど、必ず学校からの指示が保護者に伝わるよう十分
な配慮が必要です。
④ できるだけ早く集金し、係に提出する。
紛失、盗難予防のため、できるだけ朝早く集金し、自分の手元に置かずに、早く係に提
出しましょう。
⑤ 現金は絶対に学校に置かない。
職員室、教室等の引き出しなどに無雑作に現金を入れて帰宅するなどは、絶対に避ける
べきです。現金は、速やかに金融機関に預貯金します。
⑥ 流用しない。
教師として出納簿を明確にし、公私の別をはっきりさせておくことが必要です。いつ説
明を求められても応じられるように、負担金出納簿、領収書(証拠書類)、学級会計通帳等
を整備しておきます。
⑦ 必ず年間計画を作成するとともに、会計報告をする。
年度の初めに私費徴収の年間計画を作成し、その徴収時期などを決定します。私費の年
間徴収計画は、保護者に速やかに知らせ協力を依頼します。その際、徴収の金額だけでな
く、使用目的を明確に知らせることが必要です。
また、支払いが終了した後には、校長に報告し、保護者に速やかに会計報告を行います。
【学級活動費会計報告の例】
平成
円
円
◎収入
◎支出
品
年度
目
第
学年
単
組
価
平成
年
学級活動費会計報告
個数(人数)
合
月
日
計
内
訳
◎残高
0円
上記のとおり、学級活動費の会計報告をいたします。
北九州市立○○学校
第○学年○組
担任
○○○○
印
《参考文献》
・北九州市教育委員会
『学校における児童・生徒負担金取扱マニュアル』
・無藤隆・澤本和子・寺崎千秋編著
・『学級担任の基本』
『学級実務の効率化を図る』
ぎょうせい
2002 年
教育出版
文責
櫛永
ひとみ
53
20
指導要録の記入や取扱いには、どのような注意がいるか
指導要録は、児童生徒の学籍及び指導の過程並びに結果の要約を記録したもので、①児
童生徒の指導のための資料、②外部に対する証明のための資料、という二つの性格をもっ
ています。この指導要録の、記入や取扱い上の留意点について、述べていきます。
ポイント
1
2
指導要録の内容は、児童生徒の個人情報です。保管・管理に十分気を付けましょう。
指導要録は、適切な時期に記入するように心がけましょう。
(1) 指導要録の作成及び保存
① 指導要録の原本は児童生徒の卒業の翌日以後、
「学籍に関する記録」については20年
間、「指導に関する記録」については5年間、保管しなければなりません。
② 児童生徒が入学すると、すぐに指導要録を作ります。
③ 児童生徒が転学すると、原本の写(うつし)を作り、転学先に送ります。それを受け
取った転学先の学校では、新たにその児童生徒の指導要録を作ります(写に継続して記
入してはいけません)。
④ 幼稚園又は小学校から送られてくる指導要録抄本は、児童生徒がその学校に在学する
間保存しなければなりません。
(2)
主な記入事項と記入内容
主な記入事項
※
次ページの参考様式を参照してください。
記入する内容、及び記入の際の留意点
・原則として学齢簿の記録に基づいて記入する。
学籍の記録
「十分満足できると判断されるもの」を
各教科の学習の記録 ・観点別学習状況は、
A、「おおむね満足できると判断されるもの」をB、「努力
を要すると判断されるもの」をC、の3段階で評価する。
・評定は、小学校第3学年以上は、3段階で評価する。中学
校は、5段階で評価する。
③ 総合的な学習の時間 ・学習活動、観点、評価を記述する。評価については、文章
により記述する。
の記録
・特記すべき事項及び所見を全員について記入する。
④ 特別活動の記録
⑤ 行動の記録
・特記すべき事項について○を記入する。
⑥ 総合所見及び指導上 ・各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間その他学校
生活にわたる児童生徒の行動や性格について特徴を記入す
参考となる諸事項
る。学校内外における奉仕活動、表彰を受けた行為や活動、
知能や学力等について標準化された検査の結果など、指導
上参考となる諸事項及び児童生徒の成長の状況にかかわる
総合的な所見を記入する。
・授業日数、欠席日数、出席日数等を記入する。
⑦ 出欠の記録
①
②
54
小学校児童指導要録(参考様式)
左上(様式1:学籍に関する記録)
右上(様式2:指導に関する記録)
右下(
〃
裏面)
55
(3) 記入する時期と主な内容
学年末にあわてて記入するようではいけません。記入する時期と、主な内容は次の通り
です。
記入する時期
① 入学・転入学時
② 学年の当初時
③ 変更の都度記入
④ その都度記入
⑤ 学年の終了時
⑥
卒業時
記入する主な内容
・学校欄、学籍の記録、校長・担任氏名印、学年組等
・学級及び整理番号の欄、年度の欄
・現住所、保護者、校長、担任の異動
・標準化された検査の記録、転学・退学、転入学・編入学
・出欠の記録、各教科の学習の記録、総合的な学習の時間の
記録、特別活動の記録、行動の記録、総合所見及び指導上
参考となる諸事項、校長・学級担任者氏名、押印
・卒業、進学先、就職先等
(4) 記入上の全般的注意
① 長期間保存し証明のための資料ともしますので、事実を客観的にとらえて慎重に記入
します。
② 記入は原則として常用漢字、現代仮名遣いを用い、楷書で記入します。数字は算用数
字を使用します。
③ 記入するときは、黒または青インクを使用します。内容の一部をパソコンで印字する
場合は、印字する事項(範囲)を学校内で確認しておきましょう。
④ 現住所等に変更のあった場合は、その都度記入します。2本線で消して年月日を入れま
す。誤記のあった場合も2本線で訂正して、訂正個所に記入者の認印を押します。
⑤ 学校名、所在地、現住所等の記入は、公称名及び新住所表示によります。
⑥ 「入学・編入学等」の欄には4月1日と記入し、
「卒業」の欄については3月31日と
記入します。
(5) 取扱い上の注意
① 指導要録は部外秘です。本人といえども閲覧はできません。しかし、今後、
「個人情報
の保護に関する法律(平成 15 年5月 30 日法律第 57 号)」の基本的な考え方に基づき対
応していくことになります。
② 外部に対して証明する場合は、校長の承認を得て、必要な部分のみを目的に沿って証
明します。
③ 火災や紛失に備えて、常に錠のかかる耐火書庫に保管します。
④ 指導要録の記入事務のために職員室などに持ち出す場合は、事務が終わり次第、その
都度所定の場所に保管するようにします。
《参考文献・引用文献》
・布村幸彦編集
『新指導要録の解説と記入』
教育開発研究所
2002 年
文責
56
井津
弘
研究ト実践
実践シテイルカラ
イ ロ イ ロナ 問 題 ガ デ テ ク ル
問題ガアルカラ
研究スル
実践ト
反省ト
研究スル先生ノ教室ダカラ
子 ド モ モ 勉強セザルヲエナクナル
研究ト
年「教育創造」3)
アア ソコニ
ホンモノノ かりきゅらむガ生マレ
ホンモノノ にんげんガ育ツ
逆モマタ 真デアル
(昭和
38
学習指導
Ⅲ
57
1
授業が成立するとは、どういうことか
授業をするとは、普通、子どもたちに教えたい知識を説明して伝えたり、技能を練習に
よって定着させたりすることだと思われています。もし、そのように知識や技能を伝える
ことが「授業」の中心なのであれば、教えたい知識や技能に詳しい人ならだれにでも授業
はできることになります。「教える」ことの専門性は、あまり問題にならないわけです。
しかし、
「教える」ということも「授業」という営みも、そのような単純なものではあり
ません。教師にとって、
「授業」をすることがごく日常の仕事であるだけに、「授業」とは
何なのか、
「授業が成立する」とはどういうことなのかについて、しっかりした見方・考え
方をもって、日々の実践に取り組むことが大切になってきます。
ポイント
授業が成立するとは、その根本として、次のことが実現できるということです。
1 教師の教えたいことを子どもにとって学びたいことに転化でき、子どもたちの主体
的な学習活動を引き起こすことができる。
2 その結果、一人一人の子どもを変える(目指す力を付ける)ことができる。
(1)「授業」とは
「授業」とは、教師の側から見ると、教材を媒介にして子どもを目標に近づけていく過
程だといわれます(教授過程)
。一方、子どもの側から見ると、教材を媒介にして子ども自
身が知識や技術などを獲得していく過程であり、同時に精神的に能力的に成長・発達して
いく過程だといわれます(学習過程)。
この関係を、右の図で見てみ
教師
ましょう。授業は、左側の三角
形、つまり、教師、子ども、教
材の三者から成り立っている
(成長・発達)
といわれます。教師は、子ども
教材
子ども
目標
と教材とを出会わせるという
働きかけを行い、三者の相互関係(お互いに働きかけたり働き返されたり)の中で授業が
営まれていくわけです。そして、三者の相互関係の中で、教材を媒介にして、教師が子ど
もを目標に導くとともに、子ども自身が知識や技術などを獲得し成長・発達していく過程
を、「授業」といっているのです。
もう少し言葉を足すならば、
「授業」とは、外からの働きかけ(教授過程)と内からの成
長・発達(学習過程)とが統一して組織され、教師の積極的な教授活動が子どもたちの主
体的な学習活動を引き起こし、それによって子どもの成長・発達(目標達成)が実現され
ていく営みのことをさしているのです。
(2)「授業が成立する」とは
「授業が成立している」とか「成立していない」という言い方がよくなされますが、そ
れは、単に子どもが学習によく参加しているとか、落ち着いて参加していないとかいった、
外側から見た動きだけをさしていることが多いように思います。学習習慣や学習規律の定
着自体は、授業を成立させるために大切なことなのですが、授業が授業として成り立つ根
58
本の要件となると、それだけでは十分だといえないでしょう。
(1)で述べてきたように、「授業」とは、単なる知識や技能の受け渡しではなく、教授過
程と学習過程との統一により、子ども自身が主体的に学習活動に取り組み、それによって
子どもの成長・発達が実現されていく営みそのものです。ですから、私たち教師にとって
「授業が成立する」とは、以下の二点を成り立たせ得たのかどうかが、根本として問われ
なければなりません。逆にいえば、このことが成り立っていない場合は、「授業として十
分に成立していない」と受け止める厳しさが必要だと思います。
〇
教授過程と学習過程との統一、つまり、教師の教えたいことを子どもにとって学び
たいことに転化でき、子どもたちの主体的な学習活動を引き起こすことができたのか。
〇 その結果、一人一人の子どもを変えることができたのか。一人一人の子どもに(目
標に沿った)力を付けることができたのか。
私たち教師は、教えることのプロです。ですから、どの時間でもどんな条件のもとでも、
子どもの主体的な学習活動を引き出し、一人一人の子どもを変え、力を付ける授業ができ
るようになりたいと切実に願っています。しかし、思ったように子どもは活動に興味を示
してくれず、時間は費やしたが子どもになかなか力が付かない、という悩みの中に日々を
送っている教師も多いことでしょう。このような「授業がうまくいかない」という悩みを
もつことは、教師として決してはずかしいことではないと思います。
「自分の授業は今のま
までいい。
」
「うまくいっている。」という思い込みの中からは、何の教師としての課題も授
業の改善点も見出せないからです。
吉本均氏(元広島大学教授)は、その著書『授業の構想力』の中で、教師に求められる
「教えること」の技術について、次のように述べています。(注1)
教えねばならない基本的内容というのは、自然や社会や人間に関する科学及び芸術における概
念、法則、関連、構造、イメージの発展などを意味している。これらの「内容」は、それ自体を
直接に教えてはならないし、教えることはできないのである。それ自体は、いわば、子どもたち
には、まだ「見えないもの」なのであり、まだ「わからないもの」だからである。だからそれを、
子どもたちの「見えるもの」にし、「わかりたいもの」「追求したいもの」にすることによって、
子どもたちの能動的なとりくみをよびおこしていくところに、教師の教えるという技術の使命が
存在しているのである。
そして、
「教えること」の技術とは、
「教材・教具づくり(実体)」と「知的能動活動をよ
びおこす教師による働きかけ(作用)」にあると指摘しています。私たちは、子どもたちの
「わかりたい。」とか「追求したい。」とかいった能動的な活動を引き出せるよう、吉本氏
のいう「教えること」の技術を日々の授業実践の中で身に付け磨いていきたいものです。
その意味で、私たちが、
「授業」とは何なのか、「授業が成立する」とはどういうことな
のかについて、しっかりした見方・考え方をもっておくことは、とても大切なことです。
日々伸びていきたいという願いをもって教室に来る子どもたちに対し、
「果たして、今日の
授業は成立したのか。」と謙虚に日々の取組を振り返ってみる教師でありたいと思います。
《参考文献》
・吉本均編集
『現代授業研究大事典』
明治図書
1987 年
P55、P423
『授業の構想力』
明治図書
1983 年
P43、P44
《引用文献》
・吉本均著
(注1)
文責
中村
直史
59
2
授業改善のために、どのような視点をもつことが必要か
自分の授業を日々振り返り、授業を改善していこうとする使命感をもつことは、教師と
していつの時代にも求められる資質能力であるといえます。授業力に定評のある教師、学
級経営力に優れている教師は、常に日々の授業改善を積み重ねているといっても過言では
ありません。ここでは、各教科等に共通する、授業改善に当たっての具体的な6つの視点
について述べていきます。
ポイント
授業改善のためには、次の6つの視点をもち、授業を見直していくことが必要です。
1 目標設定 → 目標(目指すもの)の適切かつ明確な設定
2 教
材 → 学習の成果を生み出すような教材の選択と活用
3 指導過程 → 子どもの思考の流れを考慮した指導過程、単元構成
4 指導方法 → 一人一人を生かす学習活動や、指導方法の工夫
5 指導技術 → 発問や板書など、効果的・効率的に授業を進めるための技術
6 授業評価 → 自己の授業を観点に沿って振り返り、改善に生かす
(1) 目標の設定は適切か
児童生徒の今の姿(実態)を、目指す児童生徒像(目標)に近付けていく過程が授業で
す。ですから、目標の設定は授業の生命線であるといえます。そのために、
「この授業でど
のような力を子どもに付けたいのか」「どのような姿を実現したいのか」、授業の目標を適
切かつ明確に設定することが大切です。この目標設定は、まず、児童生徒の実態をとらえ
ることから始まります。これまでの学習によって児童生徒にどのような力が身に付いてい
るのかを的確に把握した上で、その力を系統的・発展的に伸ばすことができるよう、目標
を吟味し焦点化していくのです。実際に目標を設定する際には、本市が作成している『教
育課程編成資料』を活用して、目の前の児童生徒の実態に即した適切な目標にするととも
に、単元または単位時間で何をねらうのかを明確にしていくことが大切です。
(2) 教材の選択や活用は適切か
授業は、教師、子ども、教材の三者の相互関係の中で営まれます。また、子どもと目標
との間をきり結ぶものが「教材」です。ですから、どのような教材を選択し活用するかが、
授業の成否に大きく関係するわけです。そのため、目標がより効果的に達成できるような
教材が選択されたのか、その教材が効果的に活用されたのかを検討することが大切です。
この第Ⅲ章では、62 ページに「教材研究の進め方」について述べています。また、主た
る教材である教科書に関して、106 ページに「教科書の使い方」について述べています。
これらの記述を参考にしながら、学習の成果を生み出すような教材の選択と活用の仕方に
ついて学んでいただきたいと思います。
(3) 子どもの思考の流れを考慮した指導過程、単元構成になっているか
子どもが、自ら進んで課題解決に向かうようにするためには、子どもがどのような考え
をもち、その考えがどう展開していくか(思考の流れ)を想定しておくことが大切です。
60
このことで、一人一人に無理のない追究活動が展開されるとともに、教科の特性を生かし
た指導過程を設計し、単元構成を工夫することができるのです。
(4) 一人一人を生かす学習活動や指導方法の工夫が図られているか
学習指導要領総則には、
「体験
◇ 個に応じた指導の工夫
◇ 少人数指導の工夫
的な学習や問題解決的な学習を
◇ 学習ルールのつくり方
重視し、自主的、自発的な学習
◇ 子どもの発表力や話し合う力を育てる工夫
が促されること」が強調されて
◇ 学習習慣を育てるための予習・復習の工夫
います。また、
「個に応じた指導、
◇ 学習のめあての設定の仕方
など
少人数指導、コンピュータを活
用した指導」等の指導方法の工夫についても示されています。授業改善のために、一人一
人を生かす学習活動や指導方法の工夫が求められているのです。第Ⅲ章では、上に示した
ように、指導方法の工夫や学習の基盤づくりにもふれています。参考にしてください。
(5) 基本的な指導技術を、教師が身に付けているか
ここでいう指導技術とは、発問や板書など、
◇ 教師の話し方-発問、指示、助言
授業を効果的・効率的に進めるための教師の技
◇ 指名の仕方
術をさしています。ベテラン教師が、日々の授
◇ 机間指導の在り方
業の中で子どもの主体的な学習活動を引き出す
◇ 板書の仕方
ことに成功しているのは、授業づくりの基盤と
◇ ノート指導の仕方
なる基本的な指導技術をきちんと身に付けてい
◇ 学習形態の工夫
など
るからに外なりません。第Ⅲ章では、右に示し
たように、基本的な指導技術についてそのポイントを述べています。それぞれのポイント
をおさえながら、実際の授業実践を通すことによって指導技術を高め、自分の授業の改善、
指導力の向上に取り組んでいきましょう。
(6)
授業評価を適切に行っているか
《授業評価の観点の例》
◇ 子どもが意欲的に学習に取り組んでいたか。
◇ 子どもが何を学習し、何を身に付けようとしている
のかが、よく分かる授業であったか。
◇ 子どもを変え、目指す力を付けることができたか。
◇ 子どもが学習の約束ごとを守れていたか。
◇ 授業の場面展開がスムーズに行われていたか。
◇ 教師は、適切な助言を積極的に行っていたか。
◇ 教師は、一人一人の学習の様子を的確に見取り、指
導に生かしていたか。
など
《参考文献》
日頃から、自分の授業の在
り方を正面から見直し、その
改善を図ることは、教師にと
って不可欠な営みです。左に
示したのは、授業評価の観点
の例です。このような観点に
沿って、自己評価したり、時
には同僚教師に評価してもら
ったりするなど、授業改善に
向けた不断の努力を行ってい
きたいものです。
・東京都教職員研修センター監修 『若い教師をサポートする授業力アップのポイント 100』 ぎょうせい
・谷友雄編著 『教師のための授業改善』 ぎょうせい
2004 年
文責
井上
2005 年
勝美
61
3 教材研究は、どのように進めればよいか
授業を成立させる三つの構成要素として、子ども・教師・教材が挙げられます。授業は、
教え、学ばれる教材を媒介として進行していきます。したがって「教材研究」は、取り扱う
教材の意味や価値を分析することはもちろんですが、教師がどのような発問をし、子どもに
どのような活動をさせるのかなど、授業展開の構想までをも含めて行うことが大切です。
ポイント
1 教材とは、各教科等の指導の目標がより効果的に達成できるように、再構成、再組織さ
れたものです。
2 教材研究とは、授業を前提に教育内容、教材、教授行為、学習者を関連付けることです。
3 教材研究は、
「計画」
「実行」
「評価」
「改善」のサイクルで行うことが基本です。
(1) 教材とは
教材は、教師及び子どもにとって、次のような意味をもつ対象です。
教師にとって : 教育内容を子どもに習得させるための事物・事象
(子どもに学ばせたい具体的状況を、より顕在的にもっている)
子どもにとって: 学習の直接の対象となる事物・事象
(子どもが直接問いかけ、働きかける対象である)
したがって、教材とは、生の素材そのものではなく、各教科等の目標がより効果的に達成
できるように、教師の手で再構成、再組織されたものであるととらえることが必要です。文
部科学大臣の検定を経た教科用図書(教科書)は、教育課程の構成に応じて組織排列(配列)
されており、その意味において各教科の主たる教材であるといえます。また、子どもの「問
いの追究」
「思考の連続」を生み出す事物・事象は、すべて教材として機能していくととらえ
ることもできます。したがって、広義には、学級の友達によるアイデアや情報の提示、教師
の発問、指示、助言などの行為も、教材に含まれるといえます。
(2) 教材研究の対象となる四つの問題領域
教材研究を行うとは、次の四つの異なるレベルを関連付けることです。
教育内容 : 各教科等の目標に照らして、授業で子どもに習得させることが意図されて
いる概念、法則、知識、技能など
→ 何を学ばせるか
教
材 : 各教科等の目標がより効果的に達成できるように選ばれた事実、現象、言
語テキストなど
→ どういう素材を使うか
教授行為 : 発問、指示、板書、子どもの発言への対応など、授業中に教師が子どもに
働きかける活動のすべて
→ 子どもにどのように働きかけるか
学 習 者 : 学ぶ主体である子ども(個人または集団として)
→ それによって子どもの状態はどうなるのか
62
(3) 教材研究の進め方
① 教材研究の第一歩として行う教材の解釈
教材の解釈とは、教師が、子どもに学ばせたい価値を教材の中から見出し、それをいかに
教えていくかを考えていくことです。具体的には、次のような内容を含む授業前・授業中に
行う教師の行為です。
○ 教育内容に基づいた教師自身の教材に対する解釈
〔学習指導案の「教材観」
「授業観」
〕
・教材についての教科等の専門的解釈を行う。
・専門的解釈を基盤としながら教授学的解釈を行う。
○ 教材に関する子どもの解釈内容についての的確な把握
〔学習指導案の「子ども観」
〕
・教材に関する子どもの解釈は、正答だけでなく誤りやつまずきを含んだものとし
てとらえる。
単元全体、1時間の授業全体を見通し、以上の2点から教材を解釈することが大切です。
② 教材研究の具体的な進め方
教材研究とは、各教科等の目標がより効果的に達成できるように教材を吟味・検討し、構
成組織していく教師の日常的な実践活動です。したがって、以下の「計画」
「実行」
「評価」
「改善」のサイクルで行うことが基本となります。
〈計画の段階〉
○ 単元のねらいと取り扱う教材との関連について検討する。
○ 子どもたちの実態と教材との関連について検討する。
○ 単元の指導計画、評価計画を作成する。
・1時間毎の授業構想を具体的に検討する。
(発問構成や子どもたちの反応の予測)
・板書事項を整理し、実際の板書のとおりにレイアウトする。
・教材、教具、補助資料、学習プリントなどを準備する。
〈実行の段階〉
○ 子どもの活動の様子、教師の指導助言の内容、時間配分などを実践記録として残す。
・学習プリント、ノート、作品、子どもの自己評価など
・授業記録用紙の記録、VTR記録など
〈評価の段階〉
○ 授業記録をもとに授業を振り返り、成果と課題を明らかにする。
〈改善の段階〉
○ 評価に基づき、教材や授業展開の改善点を整理する。
○ 明らかになった改善点を、次時の授業に反映させる。
《参考文献》
・藤岡 信勝著 『授業づくりの発想』 日本書籍
1989 年
・恒吉宏典・深沢広明編 『授業研究 重要用語300の基礎知識』 明治図書 1999 年
・東京都教員研修センター監修 『若い教師をサポートする 授業力アップのポイント100』 ぎょうせい 2005 年
文責:山本 浩三
63
4
学習指導過程は、どのように組み立てればよいか
学習指導過程は、学習を進めていく道筋、言い換えると、学習者が学習内容を身に付け
ていく過程でもあります。その一連の学習の活動を支えるのが、学習者の気持ちです。興
味・関心をもち、やる気が起こり、意欲が持続し、学習目標に到達した達成感、充実感を
味わう。その経験が次の学習への意欲につながっていく。こうした学習者の心理を、学習
内容の系統や体系と考え合わせることが、学習指導過程を組み立てる上での大きなヒント
になります。
ポイント
1
子どもの興味や意欲など気持ちの流れを大切にする学習過程を組み立てることが
大切です。
2 また、教材の系統性を考慮した学習過程を組み立てることが大切です。
3 子どもの実態を把握した上で、ふさわしい学習過程を工夫することが必要です。
学習指導過程を組み立てるに当たっては、基本的に次の二つの要素を踏まえて、子ども
の気持ちや思考の流れに沿った学習指導(学習活動)の順序を考えることが大切です。
①
子どもたちの問題意識を高め、興味や意欲の高まりに沿って展開する順序を考え
る。(心理性)
② 教材の系統に即し、易から難へ、具体から抽象へといった発展を目指す段階的な指
導の順序を考える。(論理性)
ここでは、特に、子どもの興味や意欲などの気持ちの流れ、教材の系統性に沿った順序
などに着目して、単元全体または単位時間の学習過程(導入、展開、終末・まとめ)の組
立方を考えてみましょう。
(1) 子どもの興味や意欲など気持ちの流れを大切にする学習過程を組み立てる
① 興味・関心を喚起する導入
子どもにとって、学習の対象や目標が分かり、学習の全体を見通すことができ、学習へ
のモチベーションが高まることが、導入時には大切です。そのためには、学習の対象と出
会わせる時点で、子どもが「不思議だ」
「なぜだろう」
「ちょっと待てよ」
「えっ!」と考え
るような、子どもの既有の知識や経験とのずれを感じさせ問いをいだかせる場を設定する
工夫をしましょう。
② 問題意識をもたせ、意欲を持続させる展開
展開場面では、学習を継続する意欲を持続させる工夫が必要です。
脳の活動は、
体を動かすことによってさらに促進される面をもっています。実験や実習、
実技などをともなう教科では、子どもにとっては課題などを把握しやすく、比較的に意欲
を持続させやすい面があります。一方、机に向かってじっくりと考える場面の多い教科に
おいても、子どもが主体的に手を動かしたり考えを述べ合ったりするような活動を位置付
けた学習過程を工夫することによって、学習意欲を持続させることが大切です。
64
③ 山場のある終末
終末の山場を登山に例えると、山頂に近付き、頂に立ったときの喜びを期待しながら最
後の努力をする、そして、いざ山頂に立ったときに、今まで目にしたことのなかったもの
が見えるときだといえましょう。
「あっ、そうか」
「うん、わかった」
「おっ、できた」とい
うような、爽快な気分を味わう場面です。学習の目標、めあてが達成される終末の段階に
おいて、学習者が強いインパクトを感じるような学習場面を工夫したいものです。
④ 成就感・達成感を味わうまとめと評価
山場がうまくできれば、おのずと達成感や充実感を味わうことができ、学習は一段落す
るのですが、学習の成果を次の学習へと生かしていきたいものです。学習で身に付けた知
識や技能、学習の方法、加えて学習意欲を、これからの学習の糧にするために評価し、学
習指導過程の工夫改善を図りましょう。
(2) 教材の系統性を考慮した学習過程を組み立てる
「何を教え」
「どんな力を付けるのか」をはっきりさせ、そのために「どのような方法で」
「どのような順序で」指導をしていくのかを工夫します。指導者は、学習全体を見通し、
学習指導過程を組み立てます。
簡単なことから難しいことへ、単純なことから複雑なことへ、具体的なことから抽象的
なことへ、という流れが一般的な指導過程といえるでしょう。
教科書は系統性を考えて作成されているので、教科書を基本に指導することが望まれま
す。また、他の教科の学習内容との関連や学習の時期などにも考慮し、効果的な学習指導
過程を工夫する必要もあるでしょう。
(3) 児童生徒の実態を把握し、ふさわしい学習過程を工夫する
児童生徒の実態を、次のような面から把握する必要があります。一つは、学習者の知識
や技能など、能力に関する面から、もう一つは、学習者の特性、あるいは学習集団の特徴
やどんな学習方法を身に付けているかという面からです。
学習者の学習能力や理解能力を考慮し、例えば、初めに原理原則的なことを提示し、そ
の後発展させていくような演繹的な学習活動がよいのか、課題解決や多くの例から一般的
な法則を見付けるような帰納的な学習活動がふさわしいのかを見極めることも、学習過程
を組み立てるときには考慮する必要があります。
学習者一人一人の理解力や速度の違いなどから、小グループに分け、それぞれに異な
った学習過程を設定したり、つまずきが生じた場合にフィードバックできるような学習過
程を工夫したりすることが必要な場合もあるでしょう。
学習指導過程については、歴史的にはヘルバルトの「4段階教授法」や、その流れをく
むラインの「5段階教授法」、また、デューイの「問題解決学習」、近年ではブルーナーの
「活動主義カリキュラム」など様々な研究者による提言があります。
これらの学習指導過程にも学び、学習者の心理、教科等の論理などに配慮し、学習内容
がどの子どもにも身に付くような学習過程を工夫したいものです。
文責
勝山
謙之
65
5
個に応じた指導を、どのように工夫すればよいか
各教科等の指導を進めるに当たり、児童生徒一人一人の特性等に応じた指導を工夫し、
学習内容を確実に身に付けさせるために、
「学校や児童(生徒)の実態に応じ、個に応じた
指導の充実を図ること」
(小中学校学習指導要領総則)が求められています。
ポイント
1
個に応じた指導を充実させることの意義を、教師自身がよく理解しておくことが大
切です。
2 課題別グループ学習や習熟の程度に応じた少人数指導など、指導方法や指導体制を
工夫改善し、個に応じたきめ細かな指導を行うことが大切です。
3 個に応じた指導を行う際には、子どもの実態を的確に把握し、それを生かすととも
に、多方面に配慮しながら指導に当たることが肝要です。
(1) 個に応じた指導を充実させることの意義
激しい社会の変化に柔軟に対応し、主体的、創造的に生きていくことができる資質や能
力を養うことが、学校教育に強く求められています。そこで、現行の学習指導要領では、
基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせるとともに、自ら学び自ら考える力を育成す
ることなどを目指しています。
こうした力をはぐくむためには、教師が、子ども一人一人の能力や適性、興味・関心、
生活経験等、特性が異なることを理解するとともに、個々の子どもの特性に応じたきめ細
かな指導をしていくことが不可欠です。言い換えると、個に応じたきめ細かな指導の充実
は、基礎・基本の確実な習得や主体的な学習への取組と、表裏一体の関係にあるというこ
とです。
したがって、各学校において個に応じた指導を充実させることは、今日的な教育課題の
解決に取り組んでいるのだということを、教師自身が理解しておくことが大切です。
(2) 個に応じた指導の工夫
各教科等において、子ども一人一人の実態や願いに応じて指導を進めるためには、次の
ような多様な指導方法や指導体制を工夫することが必要となります。
個に応じた指導
・一斉指導
指 導 方 法
・グループ指導
・個別指導
・理解や習熟の程度、学習課題、学習スタイルに応じた
指導
指 導 体 制
・教師一人による指導
・TT方式
・少人数指導
「小学校算数科特定課題調査研究最終報告書」より抜粋 (注1)
授業を構想・実施するに当たって、このような指導方法や指導体制をより具体化してい
くためには、次のような工夫が考えられます。
66
〇
課題別グループ学習
・テーマ(調査内容、興味・関心の内容)別グループ編成
・調査(実験・実習)方法別グループ編成
・調査対象別グループ編成
・制作物別グループ編成
・材料・用具等別グループ編成、など
〇 習熟の程度に応じたグループ学習
・既習の知識・理解・技能(事前の経験・体験の程度を含む)等の定着度によるグルー
プ編成、など
〇 個別指導
〇 コース別学習
〇 教材・教具の工夫や開発
・ヒントカード、指示カード等の提示
・具体物、半具体物の活用
・視聴覚機器、パソコン等の活用、など
〇 評価の工夫
・自己評価カードの活用、など
(3) 個に応じた指導を行う際の留意点
個に応じた指導を行うに当たって、次のようなことに留意することが大切です。
〇 学習指導要領に則り、教科等で目指す資質・能力に照らして子どもの実態を的確に把
握するとともに、それを最大限に生かし、伸ばすことができるように、指導方法や指導
体制を工夫改善する。
〇 学校の環境、施設・設備、教職員の構成などに応じ、学校全体の共通理解のもとに、
総合的な力を発揮して指導に当たる。
〇 それぞれの子どもが主体的に学習に取り組むことができるよう、学習内容だけでなく
学習方法への注意を促し、自分なりの学習方法を模索するような態度を育てる。
〇 中学校における選択教科による学習や、小中学校における理科・社会科等の選択内容
による学習をはじめ、子どもが学習する内容や方法を選択できる学習場面を工夫する。
〇 コンピュータ等のメディアを活用し、個に応じた学習環境の工夫をする。
〇 学習過程に自己評価する活動を適宜位置付け、自己評価力を高めるようにする。
〇 学習内容に応じて、個々の学習の成果を出し合い互いに学び合う活動を取り入れて、
理解が深まるようにするとともに、自他の高まりに気付かせ、さらに学習意欲が高まる
ようにする。 など
《参考文献》
・工藤文三編集
『教職研修
11 月号増刊
今日から始める実践課題の基礎・基本
№4
・文部科学省教育課程課・幼児教育課編集
今日から始める習熟度別指導の基礎・基本』
『初等教育資料
№741、758』
教育開発研究所
東洋館出版社
《引用文献》
・北九州市算数科特定課題調査研究推進委員会 『小学校算数科特定課題調査研究最終報告書』 2005 年
文責
P26(注 1)
上杉
良子
67
6
少人数指導を、どのように工夫すればよいか
少人数指導のねらいは、分かる授業を実現し、
「確かな学力」の向上を図ることです。し
かし、少人数に分けて指導したからそれでよい、多様な学習集団を編成して指導したから
それでよいということではなく、その先にある指導方法の工夫改善や、個に応じたきめ細
かな指導の展開などが重要です。
ポイント
効果的に少人数指導を進めるためには、次のことに留意して指導の在り方を工夫する
ことが大切になります。
1 少人数指導を実施することが有効な単元等を明確にすること
2 目的に応じて学習集団の編成を柔軟に行うこと
3 各学習集団における指導内容の焦点化を図ること
4 各学習集団において指導方法の工夫改善に努めること
(1) 少人数指導の学習形態
少人数指導を実施する場合の形態として、次の三つが考えられます。
○ 学級を二つ以上の学習集団に再編成する。
○ 複数の学級を学級数より多い学習集団に再編成する。
○ 複数の学年や学級を学級数より多い学習集団に再編成する。
どのような学習集団の編成の仕方をした場合でも、それぞれに教師が付き、それぞれが
独立して学習活動を展開することになります。
また、学習集団の具体的な分け方としては、
主に次の四つの分け方が考えられます。
○ 児童生徒の理解や習熟の程度に応じた分け方
○ 児童生徒の学習ペースや学習スタイルに応じた分け方
○ 児童生徒の学習順序選択に応じた分け方
○ 児童生徒の学習課題選択に応じた分け方
学習集団の分け方については、各教科等の学習活動の特質に応じて工夫されなければな
りません。また、実際の授業においては、複数の方法を組み合わせた形で行われる場合も
多いでしょう。いずれの場合にも、教師の適切な指導助言のもと、児童生徒自身が集団を
選択したり、学習集団を自由に移ったりできるように配慮し、集団が固定してしまわない
ようにすることが必要です。
(2) 効果的に少人数指導を進めるための留意点
個に応じた指導の充実を図り、児童生徒が学習内容を確実に身に付けることができるよ
うにするために、少人数指導があります。そのことをよく踏まえて、効果的に少人数指導
を進めるために、特に次のことに留意して指導の在り方を工夫をすることが大切です。
① 少人数指導を実施することが有効な単元等を明確にすること
児童生徒の理解や習熟の程度に差が出やすい単元、児童生徒の理解や習熟の状況が多様
になることが予想される単元など、少人数指導を実施することが有効な単元を明確にする
ことが大切です。
68
② 目的に応じて学習集団の編成を柔軟に行うこと
実施する単元を明確にしたら、その単元等においては、理解や習熟の程度に応じること
が大切なのか、学習ペースや学習スタイルの違いに応じることが大切なのか、あるいは、
興味・関心の違いに応じることが大切なのかなどを検討し、指導のポイントを明らかにし
ます。その目的に応じて、学習集団の編成を行い、場合によっては単元の途中で編成の仕
方を変えるなど、柔軟な対応を行うことが大切です。
③ 各学習集団における指導内容の焦点化を図ること
少人数指導の効果を上げるためにも、それぞれの学習集団において何に重点をおいて指
導するのか、指導内容の焦点化を図ることが大切です。
<例 単元の終末で、学習内容の定着を図る活動を、習熟の程度別に行う場合>
・グループA…既習の図形の求積方法を使って、学習した図形の求積を繰り返し練習する
など、その単元の学習内容の知識・技能の定着に重点をおく。
・グループB…既習の図形の求積方法をもとにして、未習の図形(台形やひし形)の求積
方法を考えるなど、数学的な考え方の定着に重点をおく。
④ 各学習集団において指導方法の工夫改善に努めること
各学習集団の特質(違い)に応じて、指導方法の工夫改善に努めることが大切です。
<例 習熟の程度別に集団を編成し、教師のかかわり方を工夫する場合>
・グループA…個別指導に重点を置き、個々の学習状況を確認しながら指導を進める。
・グループB…自学できるように学習方法を提示したり手引きを準備したりして、自分の
ペースで学習を進めさせる。
(3) 年間の指導計画の作成について
少人数指導の年間指導計画を作成する際には、次の点を明確にすることが大切です。
○ どの学年、どの教科で、少人数指導を実施するのか。
○ どの単元等の全部または一部で、少人数指導を実施するのか。
○ 加配教員やその他の教員について、年間の計画指導時数はどうなっているのか。
(4) 評価について
通常の授業における評価と変わるものではありませんが、学習集団ごとの評価規準の設
定を工夫したり、指導者同士が子どもの学習状況について情報交換したりしながら、少人
数指導における評価を充実させていくことが大切です。また、児童生徒の自己評価を次の
学習に生かしていけるような工夫も必要です。
(5) 児童生徒や保護者に対する配慮
児童生徒や保護者に対して、実施の意図やねらいを分かりやすく説明し、十分な理解や
協力を求めていく必要があります。具体的には、
「学校だより」や「学年・学級だより」の
中で少人数指導の取組について紹介したり、少人数指導による授業を公開したりするなど、
保護者に積極的に知らせていくことが大切です。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
『平成18年度少人数指導等推進要項』
・北九州市教育委員会
『少人数指導実践の手引き』
2003 年
文責
小笠原
有子
69
7
学習のルールを、どのように育てていけばよいか
学習指導が効果的に進められるためには、子どもたちに、意欲的かつ主体的に学習に取
り組もうとする態度や習慣を身に付けさせることが大切です。また、そのためには、学習
にふさわしい場づくりや、学習活動の進め方、学習用具の安全な取扱い方などについて、
学習のルールをきちんと育てていくことが大切です。ここでは、基本的な学習ルールをど
のように育てていけばよいかについて、述べていきます。
ポイント
1
2
学級の実態や学年の発達段階を考慮した学習のルールを決めます。
学習のルールの指導は、計画的にほめながら育てることを基本にして、定着するま
で繰り返し取り組むことが大切です。
3 教師自身が身をもって手本を示すようにします。
(1) 学年の発達段階を考慮した学習のルールづくり
子どもが落ち着いて学習に向かうとともに、教室を学習するにふさわしい場にするため
に、例えば次のような学習ルールを身に付けさせたいものです。ここに示したのは、あく
までも一つの例ですが、学級の実態や学年の発達段階に応じて、学習ルールの内容や程度
を考え、指導を進めていきましょう。
① 授業の始めと終わりのルール例
ア チャイム席
・チャイムが鳴ったら、すぐ席に着きます。
・授業が始まるまで、本を読むなどして始まりを待ちます(短い待ち時間でも自習ができ
るような習慣へとむすびたいものです)。
イ 授業の始めと終わりのルール
・授業の始めのあいさつをする前に、机の列がきちんと揃うように机の整頓をします。
・机と自分のおなかの間にげんこつが1つ入るぐらいの隙間をあけて、背筋を伸ばしてイ
スに座ります。
・姿勢正しく、全員の視線が教師の方を見ているかどうかを確認してから、始めのあいさ
つの「礼」をします。
・
「礼」をした後、全員の視線が教師の方を向いているかどうかを確認してから、授業を始
めます。
・終わりのあいさつの「礼」の後に、次の学習の準備をして、椅子を机の下に入れて席を
離れます。
② 授業中のルール例
ア 発言の仕方
・挙手するときは、考えをまとめている友達のことを考えて、何度も「はい、はい」と言
わないようにします。「はい」は1回だけにするか、無言で挙手するようにします。
・挙手して指名されてから発言します。
・指名されたら、「はい」と返事をしてから発言をします。
70
※挙手してから発言するとき、席に着いたまま自由に発言してよいときの区別は、発
問や指示を行う際に先に示しておいた方がよいでしょう。
・指名されて、分からない時は「分りません」とはっきり言うようにします。
イ 話し方・聞き方
・話し手は、聞き手の方を見ながら、場や状況に応じた声量で分かりやすく話します。
・聞き手は、話し手の方に体を向け、話し手の目を見て発言を聞きます。
・聞き手は、話し手の発言内容が聞き取りにくい場合は、
「もう一度言ってください」と言
って聞き直すようにします。
・発言が終わったら「同じです。
」
「ほかにもあります。
」
「付け加えます。」などの意思表示
をして、発言をつないでいくようにします。
ウ 安全面、準備・後片付け
・実験、実技の際には、安全に気を付けて道具などを取り扱います。
・学習の準備や後片付けを友達と協力して(全員で)行います。
エ 整理・整頓
・机の中、筆箱の中は、いつもきれいに使いやすい状態にしておきます。
・学習資料のプリントやテスト類は、ファイルなどにきちんと整理し、保管します。
③ 家庭学習のルール例
・毎日の宿題や家庭学習をする時間をおおよそ決めて行います。
・宿題がない場合も、自分で考えて自主学習などの学習を行います。
※76 ページの「学習習慣」の項も、併せて参照してください。
(2) 学習のルールの指導の進め方
〇 学習のルールの指導は、計画的にほめながら育てることを基本にして、定着するまで
繰り返し取り組むようにします。
〇 学習のルールの指導は、集中的に行います。学習を進める基盤となるルールは、6月
に入るぐらいまでには身に付けさせるようにしたいものです。
〇 学習のルールがある程度定着してきたら、学習が深まっていくようなルール(話し合
いの仕方、学習の手順、自主学習の進め方など)について指導をしていきます。
〇 ルールが守られているかどうかを確認したり、ほめたり励ましたりしながら丁寧に指
導します。個人差に配慮し、指導が必要な子どもには個別に指導するようにします。
〇 教師自身が身をもって手本を示すようにします。
・子どもの話を最後まできちんと聞き取る。
・教師自身が意識して時間を守る(チャイムに合わせた授業開始、終了、など)
。
・教師の机上や教師用戸棚の中などを、常に整理・整頓する。
・子どもといっしょに、丁寧に掃除をする。など
《参考文献》
・桒原昭徳著
『わかる授業をつくる先生』
・鹿児島県鹿児島県立田上小学校編
・有村久春著
図書文化
『確かな学力が身に付く学習のしつけ』
『学級経営実践チェックリスト』
・教師の技と心研究会編
1997 年
『学級経営MAP』
教育開発研究所
東洋館出版
小学館
2003 年
2004 年
2005 年
文責
山下
直子
71
8
子どもの発表力や話し合う力を、どのように育てていけばよいか
子どもたちに、自分の意見を積極的に発表したり話し合ったりする力を育てるためには、
まず聞く力の指導を行うことが大切です。そして、日頃から教師や友達と対話する機会を
増やし、学級の中に受容的な雰囲気を高めながら、友達の発言を温かく受け入れられる学
級風土を作り上げていくことが大切になります。
ポイント
1 聞き合うことの大切さを指導しましょう。
2 小集団の話し合いができるようになることから始めましょう。
3 「なぜ」と聞いたり、「それは(そのわけは)、‥‥」と答えたりできるよう、継続
した指導を行うことが大切です。
(1) まず話を聞こうとする態度を育てる
① 聞くことの習慣づくりを日常的に実践しよう
〇 まず、どの子どもも安心して話すことのできる場(学級の雰囲気)をつくることが必
要です。例えば、次のような視点を示し、聞くことの習慣づくりに取り組みましょう。
・あ‥‥相手を見て聞く(話をしている人の方を向いて聞く)
・い‥‥いい姿勢で聞く
・う‥‥うなずきながら聞く
・え‥‥笑顔できく
・お‥‥おしまいまで聞く(相手の話をだまって聞き、途中から割り込まない)
〇
読み聞かせや教師の話をする機会を意図的に位置付け、指導に取り組みましょう。
② 発表は、
「相手に聞いてもらいたい」という思いや願い、気持ちをもたせ、認めるこ
とから出発しよう
〇 単語での応答から、徐々に主語・述語のある話し方ができるように指導しましょう。
〇 声の小さな子どもには、聞き取りにくいことを注意することよりも、まず発表しよう
としたことを認めましょう。そして、「○○さんの声が聞こえるように、みんな静かにし
っかり聞いてね。」などの励ましをすることを、心がけましょう。
〇 小さな声で発言した場合には、教師が近づいて聞いて代弁するのではなく、集団が静
かに聞こうとする態度と雰囲気をつくることが大事です。
③ 聞くことと話すことを結び付けよう。話が苦手な子どもには、話題を工夫しよう
〇 短い時間をとって、
話を聞き取る練習を位置付けましょう。
「いくつ話すでしょう」「何
について話すでしょう」など、聞く観点をもたせ、注意深く聞き取る練習をしましょう。
〇 低学年では、みんなの前で話す練習として、ゲーム感覚で、しりとりや、知っている
動物、食べ物の名前等の発表から始めましょう。
〇 中高学年では、文章しりとりをしましょう。前の人のいうことをよく聞いていないと
つなげることができないゲームです。例えば、自己紹介ゲームです。始めの人が自分の
ことを言うと、次の人は、前の人の言ったことを言ってから、自分のことを加えていき
72
ます。「いちごが好きで、最近○○に凝っている△△さんと、ケーキが好きでいつも食べ
過ぎてしまうわたし、▲▲です。」というように続けます。
〇 1分間スピーチは、その場で指名するのでなく、ローテーションを組むなど、前もっ
て話を準備できる余裕を与えましょう。特に、みんなの前で話すことが苦手な子どもに
対しては、得意な話題を準備してあげる配慮が必要です。その子どもの趣味や、好きな
「もの・こと」、思い出深い出来事など、得意になって話すことができるような話題を、
普段の生活の中でさぐっておくようにしましょう。
(2) 話し合いは、隣同士の対話から小集団へ
① 隣同士から、小グループへ、そして学級へと広げよう
〇 朝の会や学習場面等で、話題を決めて、話のキャッチボールをさせましょう。
〇 一人が話した後に、相手にする質問を一つずつ増やしていきます。
「それからどうしたの?」「その時どう思ったの?」「それは、何だったの?」など、お
互いの会話をもとにいろんなことを聞き合うと、話もはずみ、相手について知ることも
増えてきます。
〇 授業の中に意図的に隣同士や小グループの話し合い活動を位置付け、話し合った結果
をまとめて発表する機会を、多くつくっていきましょう。
② まず、声を出すことの抵抗をなくそう
〇 朝の時間や授業の始まりの時間を活用して、声を出すウォーミングアップとして、ま
ずみんなで詩や短い文章を声に出して読んでみましょう。みんなで読んだ後は、隣同士
でお互いに聞き合うなど、多様な形態も工夫してみましょう。一度に何回もするより、
継続することが大切です。
(3) 分からないことを「なぜそうなの?」と素直に聞くことと、「それは、○○だから」
と答えようとする指導をする
① 自分の考えと違うことや理解できないことに対して、質問したり答えたりすること
を、日頃から育てよう
〇 話し合う力は、発表したり話し合ったりする経験を積むことによって、養われます。
すぐにはできなくても、継続していけば、必ず身に付いてくるものです。特に学級活動
での話し合いは、自分たちの考えや創意工夫が実践できる活動です。やりたいことを実
現できたという成就感・達成感を通して、話し合いの意義を理解することができます。
② 低学年のときから、主述を整えて話すように指導しよう
〇 基本的な話型を教室に掲示して、発表や話し合いの仕方を身に付けさせましょう。
・「わたしは、〇〇だと思います。」「〇〇さんに付け加えます。」など
〇 低学年のときから、主述を整えて話すよう指導しましょう。単語のみで答える習慣を
なくすためには、教師もきちんとした尋ね方や答え方をして範を示すことが大切です。
・T「何のくだものが好き?」
→ C「いちご。」
・T「何のくだものが好きですか?」→ C「わたしは、いちごが好きです。」
《参考文献》
・北九州市教育委員会
『教師のしおり(改訂)』
1978 年
文責
佐方
はるみ
73
9
入門期の指導を、どのように進めればよいか
学習指導で大切にしたいことは、
「子どもが目的や目標を意識し、個性的に活動を展開し、
望ましい経験をしていく」ことです。教師が一方的に目的や目標を与え、活動を限定し、
指示をして進めていくものではないということです。教師中心の教え込みの指導では、主
体的に学習する子どもは育たないことを十分に踏まえ、教師の適切な導きと支援によって
学習が展開されるように心がけましょう。
ポイント
1
2
3
子どもの発達段階を考えた指導を心がけましょう。
子ども一人一人のよさをしっかりととらえて指導しましょう。
子ども一人一人のよさが生かされるように学習活動を工夫しましょう。
(1) 子どもの発達段階を考える
子どもは、発達段階によってそれぞれ特徴をもっています。ピアジェの認知発達論は4
段階で構成され、それぞれ感覚-運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期といわ
れています。小学校1年生に入学してくる子どもは、前操作期(2~7歳)に当たってお
り、次のような特徴をもつといわれています。
この時期の特徴としては、言語能力と象徴的活動の発達である。例えば、ブロックを
並べて列車と見立てたりするのだが、言葉を使うことで、自分の体を使わずに(例えば
四つんばいになって馬の真似をする)象徴的に例えるのである。しかし、この頃の思考
形式はまだ成人のものとは異なり、質量、長さ、数の保存というものが理解しがたい。
例えば、同量の水が同じ容器に二つあり、一方を細長い容器に移し替えた時、どちらが
多いか聞けば、細長い方を選ぶのである。この時期のもう一つの特徴としては、自己中
心性が挙げられる。他者も自分と同じように考えていると思っていて、会話の時でも相
手がすでに分かっていると思うから重要な説明を抜かしてしまうことがあるのである。
(注1)
すべての子どもが同じような特徴を示すということではないのですが、このような発達
段階にあることを踏まえて、子ども理解をすることは、適切な指導をしていく上で重要な
ことだといえます。
(2) 子どものよさをしっかりととらえる
発達段階に共通した子どものよさとともに、一人一人の子どもがもつ、それぞれ固有の
よさというものがあります。そのよさを教師がしっかりととらえることが大切です。子ど
もが入学してくる前には、いろいろな情報をもとに、子ども一人一人のもつ特徴をとらえ
ておくようにします。また、入学してからは、子どもをきめ細かく観察し、そのよさを見
付け、指導に生かしていくことが大切です。
<子どものよさを見付けるための視点例>
〇 登校してくる時の様子(表情、あいさつ、身だしなみなど)
74
〇
〇
〇
〇
健康観察時の様子(返事、表情、声の調子など)
授業中の様子(集中力、活動の様子、発言、ノートの記述など)
給食中の様子(食べる量、食事のマナー、準備や片付けなど)
休み時間の様子(友達関係、遊びの種類など)
(3) 子どものよさが生きる授業に
それぞれの子どもがもつよさを学級の中で認め合い、生かしていくことが大切です。教
師の適切な指導によって、授業中に子どものよさを発揮させ、子どもの学習意欲を高めて
いきたいものです。
<子どものよさを授業で生かすために留意したいこと>
〇 授業の初めと終わりは、きちんとしたあいさつをする。「礼に始まり、礼で終わる」
〇 聞くときは、子どもの目を見ながら、心の中の思いを理解するようにする。
〇 一人一人が主体的に表現できる活動場面を増やす。
〇 その子らしい発言を大切にする。(ほめる、認める、広げるなど)
〇 その子なりの努力の過程をほめる。(姿勢、態度、考え方など)
〇 ほめるときは、みんなの前でほめる。叱るときは、個別に呼んで叱る。
学校生活の大半が授業時間です。子どもへの指導は、この授業中になされることが中心
であることを認識し、授業中の指導に力を入れることが大切です。子どものよさが生きる
授業づくりに力を入れていきましょう。
「学級が落ち着かないから授業ができない」のではなく、
「分かる授業をつくり、落ち着
いた学級をつくっていく」のです。
学校教育の中核となるものは、どこまでも授業という仕事である。しかも、単に技術
や知識を伝達するというだけの授業ではなく、文化遺産である教材を使って、子どもの
中にある可能性を引っぱり出していくような授業や行事を学校教育の中核としていか
なければならないのである。
(注2)
(4) 子どもの学習意欲を大切に
入学したばかりの小学校1年生に「学校で何がしたいの。」とたずねると、
「勉強。
」と答
えます。そして、「漢字が書けるようになりたい。」「計算ができるようになりたい。」とい
う子どもの声をよく耳にします。このように、子どもたちは、学習すること、自分が伸び
ていくことに対して意欲的です。
この子どもたちの意欲を失わせてはなりません。教師として「子どものよさを生かす指
導」を常に意識し、子どもの指導に全力を尽くしていきたいものです。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
『教師のしおり(改訂)』
1978 年
《引用文献》
・波多野完治著
・斎藤喜博著
『ピアジェ』
岩波書店
『教育学のすすめ』
1980 年
筑摩書房
(注1)
1980 年
(注2)
文責
蒲原
路明
75
10
学習習慣を育てるための予習・復習は、どのようにさせればよいか
「自分から進んで学習する」という習慣、そして「分からないところ、できないところ
をそのままにしておかない」という態度を身に付けさせること。このことは、自ら学び自
ら考える力を育てる上でとても大切なことです。そのために、
「①予習する⇒②授業⇒③復
習する」という学習スタイルを、発達段階に応じて身に付けさせていきましょう。
ポイント
1
2
3
4
家庭学習の習慣づくりのための約束を決めましょう。
家庭学習における予習や復習の仕方をしっかりと指導しましょう。
家庭学習の課題を出すときには、どの子もが取り組めるように配慮しましょう。
自発的な学習への取り組みを奨励していくようにしましょう。
(1) 家庭学習のための習慣づくり
① 決まった時間に、決まった場所で
学校から帰って、遊びは何時までとか、学習は何時から何時までするなどの日課表を作
るようにします。このことによって、目標どおりにできたかどうか、自分の生活を見直す
ことにもつながります。また、できなかったときの原因は何か、無理な計画ではなかった
か、などの振り返りもできるようになります。
② 個別のアドバイスを行う
学習の習慣化ができていなくて飽きやすい子どもは、家庭で学習する教科や内容をいく
つか組み合わせながら、短時間に集中して行うとよい場合もあります。子どものタイプに
応じて、適した方法は様々です。どのようにすれば一定時間集中して取り組むことができ
るのか、子どもといっしょに考え合うことが大切です。
③ 学習環境を整える
教科書やノート、筆記道具などの学習道具がある程度整理されていないと、能率的な学
習はできません。週に1回ぐらいは、日頃学習する場所の片付けをさせるようにしましょ
う。また、学習中に気が散るようなものを近くに置かないことも大切です。
(2) 復習や予習の仕方を指導する
① 家庭学習は、学校の時間割に合わせて
小学校低学年は、学校での学習の復習を中心にします。学年の進行に伴い、少しずつ予
習ができるようにしていきます。学習内容は、時間割に合わせて(復習は当日に学習した
教科、予習は次の日に学習する教科)行うようにします。
② 復習の仕方のポイント
宿題がなくても、学習したことを忘れないために、復習することが大切です。まず、そ
の日学校で学習した教科の教科書やノートの見直しから始めます。
小学校中学年以上は、「ノートまとめ(自分のノートづくり)」をするように指導すると
よいでしょう。その際、矢印や線、色の使い分け、図式化など、自分なりに工夫してノー
トを作るようにしていきます。
76
ノートは、ただ写すものではなく、自分が分かりやすいように作り上げていくものであ
ることを教えましょう。そうすることによって、学習したことを確実に理解し、定着させ
ていくことができます。
〇
〇
〇
〇
〇
今日学習したところの教科書やノートを読み返す。
授業のときに難しいなと思ったところをもう一度やってみる。
新しい漢字や用語、公式などを、もう一度ノートに書き出して覚える。
テストやプリントは、必ずまちがったところをやり直す。
学習したところに関係のあるドリルや問題集などをやってみる。
③ 予習の仕方のポイント
小学校の高学年から中学校では、予習ができるようにしていくことが大切です。予習と
は、次に学ぶ事柄や新しい課題に対して、進んで調べたり考えたりして、授業に積極的に
取り組むための準備をすることです。したがって、予習は、何が分からないのかをはっき
りさせて、授業への構えをしっかりとつくることが大切です。予習の仕方として、次のよ
うなポイントを具体的に指導していきましょう。
〇
〇
〇
〇
〇
翌日の時間割に沿って、教科書を読む。できるだけ声に出して読むようにする。
読めない漢字や、意味の分からない言葉、よく理解できないところに線を引く。
線を引いた漢字や言葉を辞書や辞典で調べたり、家の人に尋ねたりする。
調べて分かったことをノートに書いてまとめる。
興味のあることについては、さらに関係のある本などを読んで調べてみる。
(3) どの子もが課題に取り組めるようにするための配慮
子どもに与える課題は、教科書、ドリル、自作プリントなど、いろいろなものがありま
すが、子ども自身の力で取り組めるものであることが大切です。また、子ども一人一人の
習熟の程度に応じた内容や分量であることも必要です。負担加重になることのないように
するとともに、次のような点にも配慮しましょう。
〇
子どもの実態に応じて課題の分量や内容を調整するとともに、子ども自身が選択で
きるようにする。
〇 与えた課題には、教師が必ず目を通してコメントをしてあげるようにする。
(4) 自発的な学習を奨励する
与えられた課題に取り組むだけでなく、子どもが自ら興味・関心をもって取り組む学習
態度を身に付けさせることが、家庭学習においては最も大切なことです。読書や日記、自
主勉強や自由研究などにも進んで取り組ませるようにしましょう。
読書記録や日記帳、自主学習ノートなどを通して、その子の興味・関心や生活の様子を
把握し、自発的な学習を奨励することは、学習習慣を育てる上でとても重要なことです。
《参考文献》
・松浦宏他編著
『指導技術 100 の工夫』
学習研究社
1986 年
文責
花島
秀樹
77
11
学習の「めあて」は、どのように設定すればよいか
「今日は、教科書のこの問題を考えていきましょう」など、教科書の問題をそのまま子
どもの学習のめあてとして授業を進めていないでしょうか。
教師によって一方的に与えられた課題は、子どもたちに解決の意欲が生まれにくいもの
です。学習も退屈になりがちで、子どもにとって学ぶ喜びのある学習とはならない場合も
多くなります。一人一人の子どもが自ら課題を見付け、見通しをもちながら自らの考えで
解決したり表現したりできる学習、学ぶ喜びを実感できる学習を創造するためには、教師
が子どもとともにねらいにせまる学習の「めあて」を設定することが必要となります。
ポイント
1
2
3
既習事項をもとに解決方法の見通しをもたせ、めあてを設定することが大切です。
子どもの問いをもとに、めあてを設定することが大切です。
興味・関心を高めながら、めあてを設定することが大切です。
(1) 既習事項をもとに解決方法の見通しをもたせ、めあてを設定する
第4学年の算数の学習の、小数のかけ算の計算の仕方を考える場面を例に、めあての在
り方について考えてみましょう。
ここでは、まず「1本2リットル入りのペットボトル4本分は、何リットルになるか
な。」という問題を考えさせます。もちろん、これは、既習事項であるので、簡単に解
決ができるでしょう。解決後には、式と答えを確認します。
その後、「1本0.2リットル入りの紙パック4本分は、何リットルになるかな。」
という問題を提示します。この問題では、先の解決方法を参考にします。言葉の式をも
とに類推するなどして、「0.2×4」の式を見出せるようにします。
この式は、未習事項の小数のかけ算なので、すぐには計算できません。しかし、既習
事項の整数の場合をもとにして話し合うことで、子どもたちは「整数のときと似ている
ので、小数の時も同じようなやり方でできそうだ」という見通しをもつでしょう。
そこで、「整数の場合をもとにして、0.2×4の計算のしかたを考えよう。」とい
うめあてが生み出され、解決方法の見通しをもち、意欲的に学習に取り組んでいくよう
になります。
(2) 子どもの問いをもとに、めあてを設定する
第5学年の算数、「分数と小数・整数の関係」の学習をもとに、考えてみましょう。
ここでは、次のような問題を設定します。
水そうの図
ジュース2ℓを、同じように3つに分
けると、1つ分は何ℓになりますか。
2ℓは、同じように3つに分けることができ
ます。水そうの図などをもとにすると、式が
2÷3となり、その答えがあることは、直感的に理解できます。
78
2ℓ
しかし、2÷3=0.66‥‥と、答えは割り切れず、小数では表現できません。図で
は、目に見える形で分けることができるのに、小数では表せません。
「なぜかな」「不思議だな」「でも、図に表せるなら、必ず数にも表せるはずだ」‥‥こ
のような「どのような数になるのだろう」という子どもの問いを大切にして、「2ℓを3つ
に分けると、何ℓになるか考えよう。」というめあてを設定します。
そうすることで、子どもたちは、自らもった問いの解決に向けて主体的に学習を進めて
いきます。
(3) 興味・関心を高めながら、めあてを設定する
第1学年の算数の学習の、「ながさくらべ」では、まず、2本の鉛筆を全体の長さが見
えないようにして子どもたちに提示します。そして、「どちらが長いでしょう。」とた
ずねてみます。子どもたちは、口々に「赤い鉛筆の方。」「あっちの鉛筆。」などと予
想するでしょう。そのうち、何人かが「かくれた所を全部見せてください。」と言って
くるでしょう。
「それでは。」と、今度は、2本の鉛筆を両手に1本ずつ持ってそれらの間を離して
提示し、同じように「どちらが長いでしょう。」とたずねます。子どもたちは、「そん
なに離していたら比べられないよ。」と口々に言い出すでしょう。
このようなやり取りを子どもと行いながら、「ながさをきちんとくらべるほうほうを
かんがえよう。」というめあてを設定していきます。そして、「長さとは何なのか」「ど
のようにすれば、長さがくらべられるのか」を考える中で、長さの比較や測定の基礎と
なる考え方を学んでいくようにするのです。
これまで述べてきたように、学習のめあてを設定するときには、めあてを子ども自身
のものとする教師の働きかけが必要です。
めあてを子どものものにすることにより、学習指導に次のようなよさが生まれてきます。
〇
〇
〇
〇
学習意欲が向上します。
自分で見通しをもちながら学習を進めることができます。
本時のねらいの達成に向けて主体的に学習を進めていきます。
子どもがまとめをするときの手がかりとなります。
そして、めあてをはっきりさせた一連の学習を通して、子どもたちに、学習を進める上
での様々な学び方が身に付いていくのです。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
『教師のしおり(改訂)』
1978 年
文責
末武
正好
79
12
望ましい発問や助言は、どのようにあればよいか
発問とは、
「授業の中で教師が児童生徒に対して問いかけること、およびその問いの形式
や内容」です。発問によって、子どもの内にあるものを誘い出したり、変化させたり、あ
るいは行動を引き起こしたりして、子ども自らの学習活動を進展させていくことが大切で
す。そのためには、教師の発問や助言を、教える内容の伝達注入ではなく、子どもを刺激
して思考を促すような作用をするものにしていかなければなりません。
ポイント
1
発問を行う際には、「閉じた発問」と「開かれた発問」を使い分けることが大切で
す。
2 「よい発問の条件」を常に念頭において、精選した発問を行うことが大切です。
3 助言は、平易な言葉で、簡潔に、分かりやすく行うことが大切です。
(1) 発問の工夫
① 「閉じた発問」と「開かれた発問」
国語科の学習で「この物語には、どんな登場人物が出てきましたか。」と問いかければ、
その答えは限定されたものになります。これが「閉じた発問」です。一方、
「この言葉から、
どんなお父さんの様子を思い浮かべますか。」と問いかければ、多様な反応が子どもたちか
ら返ってくるでしょう。これが「開かれた発問」です。
いつも「閉じた発問」ばかりを繰り返していると、教師と子どもとの一問一答のやりと
りだけに終始する学習に陥ってしまいます。その中に「開かれた発問」を織り交ぜること
によって、「ぼくは‥‥と思う」「わたしは、ちょっと違って‥‥」という子どもたち同士
の話し合いが生み出されます。
この2種類の発問を、学習のねらいに応じてうまく使い分けることが必要です。
② よい発問の条件
○
○
○
○
○
○
ねらいがはっきりしている。
答えを出す方法が具体的にだれにもよく分かる。
用語が適切で、話型が整っている。
子どもの経験や能力を配慮している。
前後の発問と関連がある。
子どもの内にあるもの(思考や心情)を深めたり、発展させたりする。
③
答える意欲をもたせる発問の例
○「きのう勉強したことを話します。足りない点を教えてください。
」
○「本やノートを見て答えてもいいですよ。」
○「ここができたのだから、これもできるぞ。さあ、やってみよう。
」
○「このやり方ですると、ここはどうすればいいかな?」
○「先生はこう思うが、きみたちはどう思うかな。」
80
④
思考を起こさせる発問の例
○「この答えを出すには、どんな方法が考えられるかな。」
○「これとこれを比べてみよう。」
○「答えはいくつあるだろう。一つとは決まっていないよ。」
○「こんな方法もあるね。ほかの方法はないだろうか。」
○「変わってきたよ。ここに注意してもう一度考えてごらん。」
(2) 助言の工夫
子どもたちが学習活動に取り組む際の手がかりを与えたり、学習活動が停滞していると
きに考えるヒントを与えたりするのが教師の助言です。適切な助言を行うことによって、
学習を活性化していくことができます。
効果的な助言を行うためには、子どもたちの発達段階に応じて、理解できる言葉で分か
りやすい助言を行うことが必要です。
① 助言の種類
・ほめる
・考えるヒントを与える
・手がかりを示す
・方法を示す
・足りない部分を付け足す
②
1
2
3
4
5
※
・態度、方法、内容のよい点を指摘してほめる。
・具体例を与えて考えさせる。
・調べる対象や注意する箇所を示す。
・やり方、考え方、選び方を示す。
・考えの及ばない部分、言い足りない部分を補足する。
分かりやすく説明するための5か条
難しい言葉は、分かりやすくかみ砕く。
身近なたとえに置き換える。
抽象的な概念を図式化する。
伝える内容をきちんと分けて、適切な順序に並べて伝える。
バラバラの知識に関係性があることを示す。
ある出来事について、ひとつひとつの言葉や数字を説明するだけでは、本当に分
かったとはいえないこともあるのです。自分がもっている断片的な知識をつなぎ合
わせ、ジグソーパズルのようにはめ込みながら、全体像が作りあげられたとき、
「分
かる」ということになるのです。
(注1)
発問や助言は、教材の取り上げ方や子どもの活動の方法をどうするかによっても変わり
ます。日頃から意図的に研究を重ねることが大切です。
《参考文献》
・今野喜清・新井郁男・児島邦宏編
・北九州市教育委員会
・野地潤家著
「わかる授業
「教育話法入門」
・石田佐久馬著
「学校教育辞典」
教育出版
小学校編」
明治図書
「子どもが生きる発問の工夫」
東洋館出版社
《引用文献》
・池上彰著
「相手に『伝わる』話し方」
講談社現代新書
(注1)
文責
藏内
保明
81
13
指名は、どのようにすればよいか
小学校低学年の学級で、子どもが「はい。はい。はい。」と元気よく手を挙げる姿をよく
見かけます。しかし、早く手を挙げた子ども、元気よく「はい。はい。」と言っている子ど
もだけを指名し続けると、だんだん学級集団の話し合いの内容が上滑りになり、しまいに
は手を挙げる子どもが限られるようになってしまいます。なぜなのでしょうか。
授業の中で、教師は、発問するという働きかけを行い、その一環として子どもの指名を
行っています。この指名のタイミングを誤ったり指名の対象者が偏ったりすると、子ども
は、十分な思考ができにくくなったり発言の意欲をなくしてしまったりするのです。
ここでは、指名をするときの留意点や、よい指名の仕方について、考えてみましょう。
ポイント
1
2
3
発問の意図とむすんで、目的をもって指名をするようにします。
子どもが考える時間に配慮して、指名するタイミングを考えることが大切です。
子どもの学習意欲を高めるためにも、公平な指名に心がけるようにします。
(1) 目的をもって指名する
子どもを目標に近づけていくためには、子どもの学習状況を確かめながら授業をするこ
とが必要になります。そのために、教師は、子どもに対して発問を行い、子どもの反応を
確かめながら授業を展開していきます。
「指名」とは、発言する子どもを指定し発言を促すことですが、子どもの反応を確かめ
るための「発問」に連動する教育的行為であり、発問と指名とは切り離すことができませ
ん。それは、確かな指導を行うためには、目的や意図をもって発問や指名を行い、子ども
の学習状況を的確に把握し、その把握に基づいてさらに指導の手だてを考えることが大切
だからです。
(望ましい発問の在り方については、80 ページを参照してください。)
発問の意図については、例えば右のようなもの
が挙げられるでしょう。このような発問の意図と ・学習意欲を引き起こす発問
むすんで、だれから指名するのか(指名の順序)、 ・問題意識を起こさせる発問
・多様な意見を引き出す発問
どの時点で指名するのか、指名までにどれくらい
・考えやイメージを出させる発問
の間をおくのか(指名のタイミング)など、目的
・収束しかけた考えをゆさぶる発問
をはっきりさせて指名をすることが大切です。い
・理解の程度を確かめる発問
くつかの例を示しておきます。
・学習内容の発展を促す発問
等
・収束しかけた考えをゆさぶるために、ある程度
全体の考えがまとまりかけた時点で、違う考えをもっているA児を指名し取り上げる。
・多様な考えを出させるために、違う考え方のB・C・D児を意図的に順に指名する。
・自分の考えをもっているのに発言しにくいE児のために、同じような考えをもつF児を
先に指名して、安心感をもたせた後でE児を指名する。
など
このような目的的な指名を行うことができるよう、一人調べや、考えを書き出す活動の
位置付けを工夫するとよいでしょう。どの子どもがどのような考えをもっているのかを予
め把握しておき、発言する内容を予想して、授業に臨むようにするのです。
82
(2) 子どもが考える時間に配慮して指名する
学級の中には、教師が発問をすると、すぐに反応し、発言できる子どもが何人かいるで
しょう。しかし、そういう子どもたちの背後には、発問の意味がつかめずに困っている子
ども、短い時間では考えをまとめにくい子ども、よく考えずにとりあえず挙手をしている
子どもなどがいることを、知っておかなければなりません。
先生は「よく考えなさい。」といっておきながら、せっかちに指名をしたのでは、子ども
は考えることができません。こういう学級では、やがて考えることを放棄する子どもが出
てきます。考える時間が保障されない学級では、考える子どもが育たないのです。
子どもが考える時間に配慮した指名となるよう、次の点を参考にしてみてください。
〇
発問をしたらすぐに指名するのでなく、しばらく待って子どもの反応をみて、タイミングよ
く指名する。すぐ挙手されないからといって、矢継ぎ早に後追い発問をしないよう留意する。
〇
考えをまとめるのに時間が必要だと思われる場合は、いったん自分の考えを書かせた上で発
言させるようにする。また、ペアや小グループでの話し合いを入れるのもよい。
〇
何人かに発言させた後、それらをもとにして考える視点をもたせ、再び考える時間をとる。
〇
指名をする際、
「はい、山田一郎さん。」というように、姓名までゆっくりと言って指名する。
このちょっとした間(ま)が、落ち着いて話す構えをつくるといわれる。
(3) 公平な指名に心がける
挙手をして指名されることを、子どもたちはたいへん喜びます。
「先生は、自分のことを
認めてくれている。
」と思うからでしょう。逆に、ごく一部の子どもだけが指名され発言す
ることが続くと、他の子どもは発言の意欲をなくし、学習意欲までなくしてしまいます。
指名の公平さは、子どもの学習意欲を左右するのです。
また、授業中にあまり積極的に発言しようとはしないが、友達の考えをよく聞き、すば
らしい考えをもっている子どももいます。教師としては、活発に挙手し発言する子どもだ
けでなく、このような黙っている子どもの考えや気持ちを引き出さなければなりません。
子どもに対して公平な指名となるよう、次の点を参考にしてみてください。
〇
座席表に指名回数を記入しながら、授業を進める。また、右図
発言回数のサイン
のように、発言回数のサインを決めておき、指名のめやすにする。
〇
挙手によらない指名でよい場合は、予め発言の順序を決めてお
く、座席順(縦、横、斜め)により指名する、小グループの中で
2回
交代して発言させる、などの方法を工夫する。
〇
1回
0回
子ども同士で指名をし合う場合は、
「〇〇さんに質問します」
「〇〇さんの考えを教えてくだ
さい」のように、発言がつながり合うように指導する。安易に指名を子ども任せにしない。
〇
挙手した全員に発言させる時間がない場合は、「同じ考え方をした人。」「違う考え方の人。
」
のように、発言内容を確かめ、認めるような手だてをとる。
<指名の際に、気を付けておきたいこと>
※
名前をきちんと呼んで指名すること。場合にもよるが、「前から2番目」という呼び方や、
ニックネームでの指名は、基本的にしない方がよい。
《参考文献》
・梶田叡一他
・多湖
輝
編
編著
『授業改革事典
3授業の実践』
第一法規
1982 年
『子どもが伸びる 102 の授業術』
東京書籍
1984 年
文責
栗田
泰徳
83
14
机間指導は、どのようにすればよいか
一斉学習を進めているときには、どの子どももよく分かったような顔をしていたのに、
個別に活動をさせながら机間指導をしてみると、意外に分かっていない子どもが多かった
という経験はありませんか。こんなとき、机間指導の大切さがよく分かります。机間指導
は、個に応じたきめ細かな指導を行うための重要な手だてなのです。効果的な机間指導の
在り方について、考えてみましょう。
ポイント
机間指導は、一斉指導の中で個を生かす大切な手だてです。そのことを踏まえて、次
のことに気を付けて机間指導を行いましょう。
1 目的をもって、意図的・計画的に行うこと
2 子どもの側に立って学習状況をつかむようにすること
3 机間指導を通して、指導と評価を一体化させ、授業改善につなぐこと
(1) 机間指導が机間散歩になっていませんか
-先生、気付いて-
机間指導は、ただ教室内の子どもの様子を見て回るのではなく、はっきりとした目的や
必然性をもって回ることが大切です。机間指導には、どんな目的や必然性があるのでしょ
うか。
① 学習状況を確かめるために
子どもたちの学習の進行状況を確認するために、机間指導を行います。学習が進んでい
る子どもや小集団に対しては、よさを認める声かけをしたり新たな課題や指示を与えたり
します。遅れている子どもや小集団に対しては、励ましたり指導・支援の手をさしのべた
りします。
② つまずきやすばらしい考えを発見するために
子どもたちが問題に取り組んだとき、ある子どもは途中でつまずき、ある子どもはすば
らしい考えをもっているというように、その反応は様々です。
つまずいている子どもに対しては、その原因を確かめ、つまずきを解消するための手だ
てを講じなければなりません。子どもたちのつまずきに共通性が見出されたときには、学
習をいったんストップして、全体の子どもに対して一斉指導をすることが必要です。
また、すばらしい考えをもっている子どもについては、その考えを全体の子どもに紹介
し学習に生かすようにします。
③ 理解度などの評価をするために
目標(めあて)がどの程度達成されているかを確認して回ります。①、②も評価して指
導をするわけですが、③の場合は全員について評価をするようにします。
④ 子どもたちの立場から
先生が自分のそばまで近づいてきて活動の様子を見てくれる‥‥。この緊張感は、子ど
もたちを学習に集中させる大切な要素です。また、教壇の上から注意をするよりも、子ど
ものそばで静かに注意した方が効果的な場合も多いものです。
84
(2) 机間指導を効果的にするためにどんな工夫をしていますか
-先生、あのね-
① 学習の仕方をよく理解させて
机間指導は、一人一人の子どもが個別に、または小集団で学習に取り組んでいるときに
行われます。ですから、子ども一人一人に「何のために、何について、どのように学習(活
動)を進めるのか」を明確に理解させて行うことが必要です。
② 事前の準備をしっかりして
机間指導を行う前に、評価の観点、つまずきを解消するための具体的な手だて、学習の
進んだ子どもに与える指示や課題、評価を行うための記録簿(チェックリスト)など、事
前の準備をしっかりとしておくことが大切です。
③ 意図的な回り方を
机間指導は、学習の段階や指導のねらいに応じて、回り方を考えるようにします。
ア
事前に、つまずき
が予想される場合
つまずきが予想される子
どもに対し重点的に回る
イ
練習問題を解くよ
うな場合
全員を見て回れるように
心がけて回る
ウ
評価後、つまずき
が見られる場合
評価規準に沿って評価し
た後、
「おおむね満足」と
判断されなかった子ども
に対し意図的に回る
④ 机間指導を全体の学習に生かす
机間指導中に気付いたことは、単に個人や小集団だけの指導に生かすだけでなく、全体
の学習に生かしたいものです。
例えば、子どものつまずきがあれば把握しておき、後でつまずきが生まれた原因を全体
のものとして考えていくようにします。また、問題に対する子どもの考え方は様々ですか
ら、それぞれの考え方の違いを把握し、それを類別して計画的に指名し、発表させます。
このようにすることは、子どもたちの学習を意欲的にするとともに、一人一人の子どもの
考えを広め深める上で、効果的です。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
『教師のしおり(改訂)』
1978 年
文責
本
村
久
85
15
板書は、どのようにすればよいか
板書は重要な教育技術の一つだといわれています。その理由として、よい板書は、次の
ような効果をもたらすからです。①子どもの学習意欲や思考を促す、②子どもの思考を整
理する、③子どもが学習内容を理解することを助ける、④子どもがノートを書く際にどの
ようなことを書けばよいのか参考になる、などです。板書を工夫することで、授業がより
よいものに変わっていきます。板書の工夫を普段から心がけたいものです。
ポイント
1
2
3
学習の流れが分かるように、板書を構造的に工夫しましょう。
内容あるいは重要度などによって、色チョークを効果的に使いましょう。
教師が使うだけでなく、子どもにも開放しましょう。
(1) 板書の内容
今学習していることや、学習の流れなどが分かるように、次のような事柄を板書するよ
うにします。その際、視覚的に分かりやすく書くようにします。また、発問と関連付けて、
板書するタイミングを決めておくようにすることも必要です。
〇単元名(教材、題材名)
〇学習のめあて
〇思考や話し合いの方向づけ
〇学習活動
〇子どもの発言
〇学習のまとめ
など
(2) 板書の技法
① 黒板は全面が使えるようにする
整然とした板書は子どもの学習活動を助け、雑然とした板書は子どもの学習活動の妨げ
となります。次ページに、小学校第5学年算数科、単元「垂直・平行と四角形」の単元導
入時の板書工夫例を示しています。参考にして下さい。
② 色チョークを効果的に使いましょう
板書している内容で特に子どもに考えさせたいところ、要点となるところなどに、色チ
ョークを効果的に使うようにします。
③ 一目で分かる工夫をする
書く内容を焦点化、視覚化し、学習(思考)の流れが一目で分かる工夫をしましょう。
④ 黒板を子どもに開放する
黒板は、教師が使うばかりではありません。子どもに開放しましょう。
・黒板を区切って書かせましょう。
・箇条書きに書かせましょう。
・指で書くところを示しましょう。
・板書したら、名前を書かせましょう。
⑤ 教師の板書のスピードが標準スピード
教師の筆速が子どもの筆速の模範となります。留意しておきましょう。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
『教師のしおり(改訂)』
・上田洋一、びわ湖会教育サークル編
86
1978 年
『板書の技法』
文責
小金丸
隆明
正方形
既習事項や考え方のヒントにな
ることを提示しておく。
3
<何に目をつけて分ける?>
辺の長さ
角の大きさ
辺の垂直、平行
形×
大きさ×
長方形
<今までに習った四角形>
4
か
考え方の交流の場となるようにする。
いおき
え
き
あ
一平行四角形
う
無平行四角形
【辺の平行】
○○さん
き
○
二平行四角形
か
あいうお
い
○
四等辺四角形
直角四角形
二等辺四角形
あいうえおき
無直角四角形
無等辺四角形
か
【角の長さ】
【辺の長さ】
え
○○さん
お
○
あ
○
○○さん
省略
学び方
○
○
………省略
感想
分かったこと
振り返り
台形・平行四辺形
とができる。
て、なかま分けをするこ
辺の平行に目を付け
まとめ
見つけよう。省略
台形や平行四辺形を
練習
めあてとの整合性を
考えて、まとめを書く。
5
形
平行四辺形
…2組の辺が平行
台
…1組の辺が平行
1(2) めあては、何をする
のかが明確に分かるように
書く。
四角形をなかまに分け、それぞれ
のなかまに名前をつけましょう。
学習の進め方がいつ
で も 確 認でき る よ う に
しておく。
2
めあて
問題 三角形や長方形の紙を
重ねて、いろいろな四角形を
作ろう。
「垂直・平行と四角形」
○/○ P.27
1(1) 学習問題を明確に提示する。
板書の工夫例
16
ノート指導は、どのようにすればよいか
ノートには、子どもの日々の学習態度の変化や内容の理解度がよく表れます。このノー
トの特性を学習指導の場でもっと活用し、単なる備忘録ノートから、様々な力を伸ばす活
動的なノートへと変えていきたいものです。このようなノート指導はどうあればよいか、
ノートの書かせ方や活用の仕方について、考えてみましょう。
ポイント
1
2
ノートは、子どもの思考の足跡です。ノートのもつ意義を、理解しておきましょう。
板書を書き写すことだけがノートではありません。子どもなりの工夫が加わるよ
う、ノートの形式や内容の工夫をしましょう。
3 ノート指導は授業改善に直結しています。ノート指導を通して、子どもたちの発想
を引き出し生かせるような授業づくりに取り組みましょう。
(1) 子どもにとってノートに書くことの意義
① 記憶の定着が図れる。(書くことで覚える。)
② 思考を深められる。
(書くことを通して考えが深まる。思考の足跡が明確になる。)
③ 練習ができる。(書き方やまとめ方を学べる。)
④ 振り返りができる。
(家庭で復習するときの参考書になる。)
など
(2) 教師にとってノートに書かせる意義
① 学習内容の要点を子どもの手元に残せる。
(板書や説明を書き留めさせることで、その
授業のねらいをおさえることができる。)
② 形成的評価ができる。
(ノートに書かれたことを、机間指導で把握したり発表させたり
することにより、子どもの学習状況の見取りとそれに基づく指導が行える。)
③ 授業の反省ができる。
(子どものノートを見ることにより、子どもの実態を把握し、授
業の成果を振り返ることができる。また、次の授業の構想、改善に生かせる。) など
(3)
困ったノートの例とその対応
a
e
88
その学年、その教科にふさわしくな
いノート(罫の間隔やマス目の大きさ
が合わないと書きづらい)
対 応 例
途中までしか書いていないノート
(授業の内容が分からない)
b なんでもノート(どこに何の教科の
内容が書いてあるか分からない)
c 色のないノート(何が重要なのかが
分からない)
d 板書だけがきれいに書き写されて
いるノート(写すことに必死)
A
ノート整理をする時間を確保する。
B
1教科1ノートにさせる。
C
色を使う指導をする。
(ムダに色を使いす
ぎない指導も必要。)
D 最初は、見た目の美しさよりも速さを重
視させる。また、思いついたことをすぐに
メモする習慣を付ける。
E 年度当初の授業で子どもに確認しておく
とともに、場合によっては学級通信等で保
護者にもお願いする。
※ よいノート例を紹介すると効果的です。
(4)
どんなとき子どもはノートを取りたがらないか(ノートを取る気が失せるか)
〇
〇
〇
〇
だ か ら
書くことが多すぎる。
書く時間がない。(書き写すスピー
ドが遅い、または時間の余裕が取られ
てない。)
〇 どこに何を書いてよいかが分から
ない。
〇 書き写そうと思った内容を消され
てしまった。
〇 書くべき内容と書かなくてよい内
容の指示が不明確。
要点をまとめた板書に心がける。
ワークシートや資料プリントを活用す
る。
(ノートに貼れるサイズにして配布する
とよい。)
〇 文章で自分の考えを書くことが苦手な子
どもには、単語で表現させる。
〇 板書の時間を確保するとともに、設定し
た時間内に書き終わる練習を繰り返す。
〇 全員が必ず書く部分を明確にする。
〇 慣れてきたら、板書通りに書く必要がな
いことを伝える。
(イラストや図で表現する
などの子どもの工夫をほめる。)
(5) ノート指導を進める際に留意しておきたいこと
① 子どもは、最初は書きながら説明を聞くことができません。慣れるまではノートを書
く時間と説明を聞く時間とを明確に区別する必要があるでしょう。しかし、繰り返し練
習することで、子どもたちは説明を聞きながらノートを書けるようになります。
② まずは見た目の美しさよりも速さを重視した方がよいでしょう。その方が子どもは説
明をよく聞くことができ、十分に考える余裕がでてきます。もちろん、速くて丁寧なノ
ートができていればしっかりほめましょう。
③ 最初は、黒板の内容をきちんと書き取っていることを評価してあげましょう。しかし、
板書を書き写すことだけがノートではありません。
「分かったこと」
「疑問に思ったこと」
などの自分の考えを書き加える、図や記号を使って整理するなど、子どもなりの工夫が
少しでも加われば、ほめていきましょう。指示されずに自分の考えを書き込めるように
なれば、かなりレベルの高いノートになっているはずです。
④ 学年に応じて、丁寧にしかも速く文字を書く力が必要となります。書く姿勢や鉛筆の
持ち方の指導、視写(文章を見ながら書き写すこと)の指導も大切です。
⑤ 子どもたちが書きたくなるノートにするためには、自由性があり、子どもが工夫でき
る余地のあるノートの形式や内容を工夫する必要があります。必要な資料を貼り込むこ
とができる、自分の考えをイラストや図も加えて自由にかき表してよいなど、子どもた
ちがどのようなノートを望んでいるのかをたずね、学年に応じて、指導に生かしていく
とよいでしょう。
⑥ 子どもたちがノートづくりを工夫できるためには、当然授業が工夫されなければなり
ません。つまり、ノート指導は授業改善に直結しているのです。ノート指導の工夫を通
して、子どもたちの発想を引き出し生かせるような授業を創り出していきましょう。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
・有田和正著
『教師のしおり(改訂)』
『新・ノート指導の技術』
・有田和正、教材・授業開発研究所編著
1978 年
明治図書
1996 年
『ノート指導改革で授業が変わる』
明治図書
2006 年
文責
野
口
徹
89
17
学習形態は、どのように工夫すればよいか
授業づくりの際には、教材・教具の吟味、発問や板書の検討などとともに、学習形態の
検討も重要になってきます。学習内容に応じた学習形態を工夫することで、授業の主眼達
成をより確かなものにすることができます。
ポイント
1
2
それぞれの学習形態の長所と短所とを理解し、学習内容に応じて活用しましょう。
小集団型の学習形態で学習を進める際には、小集団での学習が成立する条件を整え
るよう配慮しましょう。
(1) 各学習形態の長所と短所の理解
学習形態には、教師・子ども対面型の学習形態、学級会型(コの字型またはロの字型)
の学習形態、小集団型の学習形態などがあります。それぞれの学習形態の長所と短所とを
理解した上で、学習内容に応じて活用する必要があります。以下に、学習形態の長所と短
所とを示しておきますので、参考にしてください。
① 教師・子ども対面型の学習形態
<長 所>
〇 共通に指導しなければならない内容を指導する場合には、効率的であり、指導の徹底
を図りやすい。
〇 子どもたちが教師の方を向いているので、子ども一人一人の学習の様子を観察しやす
い。その観察をもとに、発問や指示が伝わったかどうかを判断したり、子どもへの個別
の指導が必要かどうかを判断したりしやすい。
〇 最前列の両端の席の子どもは板書がやや見にくいが、多くの子どもにとっては、板書
が見やすい。
〇 子どもたちが同じ方向を向いているので、テレビ映像やOHP、プロジェクターの投
影による映像などの教材を効果的に活用できる。
<短 所>
〇 座席によっては発言者の背中しか見えないので、発言・発表への興味・関心が薄れが
ちになることもある。
〇 学級全体の場で発言することに苦手意識をもっている子どもにとっては発言しにくい。
② 学級会型の学習形態
<長 所>
〇 子ども同士で発言者の表情や身振りなどを見ることができるので、発言者の気持ちを
理解することに役立つ。
〇 子どもたちが顔を向け合っているので、相互に親近感を感じることができる。
<短 所>
〇 角の座席の子どもは、ともすると話し合いからはずれることがあり、注意散漫になる
傾向が見られる。
90
③ 小集団型の学習形態
<長 所>
〇 多様な考えを引き出すことができ、子ども相互の思考を広げたり、深めたりしやすい。
〇 数名の子どもが協力しながら話し合いや作業を行うので、一人で学習する場合に比べ、
思考を深めることができる。
〇 接近して座っているため、気楽に話し合ったり作業したりすることができる。
<短 所>
〇 小集団の中心となって学習を進める子どもと受動的に学習に参加する子どもとが生ま
れ、個人差のために学習内容の定着を図ることができないことがある。
〇 グループ内の人間関係がうまく築けない場合、期待していた学習成果を得られないこ
とがある。
④ 対面並列型の学習形態
<長 所>
〇 教室の中央部を広く開け、そこに教材や教具(大きな絵地図や模型など)を置くこと
ができ、すべての子どもが観察できる。
〇 対立する意見に分けて話し合う場合、同じ考えをもつ子どもが自分と同じ側に座って
いるため、心理的な安定があり活発な意見交換が期待できる。
<短 所>
〇 ともすれば感情的になり、素直に自分の意見を発表できなくなることがある。
(2) 小集団型の学習形態での学習を行う際の配慮事項
安易に小集団型の学習形態を取り入れ、学習を進めている場面を目にすることがありま
す。小集団の学習が成立するためには、小集団にふさわしい学習場面を考えることや、小
集団での学習がうまく進むような指導をしておくことなど、条件を整える配慮が必要です。
以下、配慮事項を示しておきますので、指導の際の参考にしてください。
〇 小集団で話し合いたい、課題を解決したい、という必要感をもたせるようにする。
〇 課題が具体的で明確であること、解決方法が単一でないものなど、小集団にふさわし
い学習内容であるか、よく吟味をしておく。
〇 話し合いの仕方、友達の発言の受け止め方や生かし方の技術を十分に指導し、その技
術の程度に応じた話し合い活動(話題も含めて)を位置付けるようにする。
〇 集団思考を成立させるために、表現活動等を位置付け、一人一人の子どもに自分の考
えをもたせておくようにする。
〇 目的に応じ、また子どもの実態に応じた小集団構成を弾力的に行うようにする。
〇 日頃から小集団での活動を積極的に取り入れるようにし、望ましい仲間づくりを進め
るとともに、集団での問題解決を経験させておくようにする。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
『教師のしおり(改訂)』
・北九州市教育委員会
『若い教師のための授業の手引
・成田國英編著
『図説小学校指導技術基礎講座7
1978 年
わかる授業(小学校編)』
学習形態』
ぎょうせい
1984 年
1981 年
文責
筒井
智己
91
18
子どもの発言や誤答(考え)を、どのように生かしていけばよいか
授業は、教師・子ども・教材の相互の働きかけで成立するものです。ここでは、教師が
どのように働きかけて子どもの発言を引き出していくのか、子どもの発言をどのように生
かしながら授業を進めていくのかについて、述べていきます。
ポイント
1
2
3
4
子どもの発言を引き出すには、教師の適切な働きかけが必要です。
子どもの発言に対し、教師は様々な反応をしなければなりません。
授業での子どもの発言を広げることで、話し合いがさらに深まります。
子どもの誤答を授業で生かすには、学級の雰囲気づくりが必要です。
(1) 子どもの発言を引き出す教師の働きかけ
子どもに対する教師の問いには、次の2種類があります。
質問‥‥‥同一の答え
教師の問い
発問‥‥‥多様な答え
質問ばかりの問いをしていると、授業は、事実認識の段階にとどまっていることになり
ます。思考力や判断力を育てるとともに、教科等の目標を充分に達成するためには、児童
生徒に多様な反応を起こさせる必要があります。そのためには、「質問」次元の問いから、
「発問」次元の問いへと発展していくことが望まれるのです。
(2) 子どもの発言に対する教師の反応
① 子どもが言い終わるまで待つ
子どもが言い終わるか終わらないかのうちに、「そうですね。」などと反応することは避
けましょう。教師が望んでいた発言であっても、子どもが言い終わるまでしっかり聞いて
おくようにしたいものです。
② 子どもの発言を繰り返し説明しない
子どもの発言の後、「A君は~と言っていますね。」と、教師が無意識に繰り返して確か
めている場面をよく見かけます。これは、よいことではありません。また(場合にもより
ますが)
、子どもの発言が分かりにくかったからといって、繰り返して説明する必要もあり
ません。教師が「おうむ返し」を習慣化することにより、
「先生が再度繰り返して言ってく
れるから…」と、友達の発言を注意深く聞かない雰囲気ができてしまうからです。発言が
分かりにくい場合があれば、
「〇〇さん、分かりにくかったのでもう一度言ってください。
」
と子どもから要求が出るように指導していきたいものです。
③ 子どもの発言を聞きながら、他の子どもの表情を見る
ある子どもが発言しているとき、それを聞いている他の子どもの反応を見ることも大切
です。何か反応を示していないかと観察するのです。反応をしている子どもに対して意図
的指名をすることにより、さらに子ども同士の応答関係を生み出すことができます。
92
④ 発言をほめる
かりに、教師が期待していない発言であっても、最後までしっかりと聞き、きちんと反
応してあげましょう。発言の後、「ほかに」「ほかに」を連発されたのでは、子どもは自分
の発言は否定されたという印象を受けることでしょう。
(3) 子どもの発言を広げ、話し合いを深める手だて
① 子どもの反応を言葉にさせる
ある子どもの発言に反応を示した子どもを意図的に指名して、一つの発言を発展させる
ように工夫したいものです。例えば、B君の発言に「なるほど」という反応を示した子ど
もに「Cさんは、B君の言ったことになるほどという顔をしたけれど、どうしてかな。
」と
意図的に指名をします。すると、Cさんは、自分がなぜその発言に対して反応を示したか
を説明するでしょう。そのことが、子ども同士の話し合いの深まりにつながります。
② 子どもの同士の発言のやりとりに発展させる
次に、ある子どもの発言に対する反応を、自分から言葉にできるよう指導していきます。
「○○さんに賛成です。ぼくは~。
」
「○○さんに質問があります。」というように、反応を
言葉にする指導を行うのです。その主な内容としては、次のようなものが考えられます。
・質問‥‥「もう一度説明してください。
」「~ということですか。」
・賛成‥‥「○○君に賛成です。わけは、~だからです。
」
・反対‥‥「○○さんに反対です(と少し違います)。わけは、~だからです。
」
・付加‥‥「○○君に付け加えます。私は~だと思います。」
このような発言が続くようになれば、教師と子どもの一問一答の授業から、子ども同士の
発言のやりとりで授業が進む一問多答の授業へと、発展させることができます。
(4) 子どもの誤答の生かし方
① 誤答を認める学級の雰囲気をつくる
子どもの発言は正解ばかりではありません。誤答も必ず出てきます。まず、学級がスタ
ートした時点で、誤答を認める学級の雰囲気をつくることが大切です。そのためには、教
師がどんな発言も認め、大切に扱うことから始めます。
② 誤答を生かした授業をつくる
例えば、算数の授業でいくつもの解決方法が出されたとします。その中に、いくつかの
誤答も含まれていることでしょう。しかし、誤答を恐れてはいけません。誤答を生かせば、
子どもの思考をゆさぶり、学習を深めるよいきっかけにすることができます。お互いの考
え方を比べ合い、説明し合い、考えをねり合う活動へとむすんでいくのです。その活動を
通して、お互いの考え方のよさがさらに明確になり、その時間のねらいがさらに深まって
いくことも少なくありません。教師は、
「〇〇さんの考え方のおかげで、三角形の性質につ
いて、みんなが深く考えるきっかけになったね。」というような助言を行い、誤答がいかに
大切であるかを示すことも大切です。
《参考文献》
・辰野千寿著 『学習スタイルを生かす先生』 図書文化 1991 年
・山崎林平著 『授業の上手な先生』 図書文化 1989 年
文責
江口
徹
93
19
学習の遅れがちな子どもへの指導は、どのように進めればよいか
同じ教師から同じように指導を受けても、子どもによってその学習効果は異なります。
比較的容易に学習の進む子どももいれば、学習の遅れがちな子どももいます。また、学習
障害等、特別な教育的支援が必要な子どももいることを、十分に考えておかなければなり
ません。教師は、これら一人一人の子どもの教育的ニーズにしっかりと目を向けて指導に
当たることが必要です。ここでは、学習の遅れがちな子どもへの指導をどのように進めれ
ばよいかについて、述べていきます。
ポイント
1
2
3
学習の遅れやつまずきの原因を的確に把握しましょう。
授業の中で、遅れやつまずきに対する指導の工夫をしましょう。
生活全般を視野に入れて、家庭と連携した取組を進めましょう。
(1) 学習の遅れやつまずきの原因を的確に把握する
子ども一人一人、持ち味が違います。画一的な指導方法にとらわれることなく、子ども
の特質に適した指導内容や指導方法を、常に新たな気持ちで探し出し工夫する姿勢が求め
られます。学習が遅れがちな子どもについては、「どこで、つまずいているのか」「どのよ
うに、つまずいているのか」をしっかりとつかむことが大切です。そのためには、テスト
の結果や、複数の教師の目を通して、つまずきの原因を的確に把握することが必要です。
① テストの結果を分析して、つまずきの原因を把握する
テストをしてみると、どこにつまずいているか、どこが理解できていないかが分かりま
す。子どものつまずきの原因を知らせてくれるのが誤答です。なぜ、このように考えたの
か、どうしてこう答えたのかを考えてみると、言葉の意味が理解できていなかったり考え
違いをしていたり学習に集中していなかったりなど、つまずきの原因となることが分かり
ます。原因が分かれば、それを解消する手だてを考えて対処することです。
② 子どもにとって得意な学び方を知り、指導に生かす
<事例> 5年生のAさんは、自分の考えをみんなの前で言うことに、とても抵抗を感
じていました。担任は、できるだけ発言しやすいように配慮し、発言の機会をつくるよ
うにしてきたのですが、Aさんにとっては、かえって学習が進みにくいようでした。
そのうち、担任は、Aさんが自分の考えを絵や言葉でノートに書き出すことが得意だ
ということに気付きました。そこで、自分の考えを表現できるノートを作り書く時間を
保障するようにしたところ、Aさんは積極的に学習活動に取り組むようになりました。
担任も、ノートに表現されたことを生かしながら指導をするよう授業を改善しました。
この事例のように、子どもによって、学習活動の好みや、学習活動を進める速さ、習熟
の程度、理解の仕方などがそれぞれ違います。具体物を持ち込んだり、思考を助けるワー
クシートを準備したり、その子どもに合った学習活動を取り入れたりすることで、つまず
きを解消することもできます。子どもによって得意な学び方は違うということを念頭にお
いて、その得意な学び方をさぐり、指導に生かす工夫をしたいものです。
94
③ 複数の教師の目で、つまずきを把握する
担任教師だけでは、つまずきが把握できないことがあります。少人数指導の担当者と協
力して、きめ細かに子どもの学習の様子について情報交換を行うなど、複数の目で、子ど
ものつまずきを把握していくことが必要です。評価カードなどを活用して、教師が評価し
た多面的な情報を共有化する工夫をするとよいでしょう。
(2) 授業の中で、遅れやつまずきに対する指導を工夫する
普段の授業の中で、なかなかめあてに到達できない子どもや、つまずく子どもが出てき
ます。その場合、どのように指導すればよいのでしょうか。
① 机間指導を意図的に行う
「分かりましたか?」と教師に問われると、子どもは「はい」と答えてしまいます。教
師は、こうした「はい」に惑わされることなく、子どもの学習状況を自分の目で確かめる
ことが大切です。そのために大切なのは、課題意識をもって意図的に行う机間指導です。
担任は、どの子どもがどの程度理解できるのか、おおよその実態を把握しています。で
すから、
「〇〇さんは、ここでつまずく可能性がある」ということを事前に予測することが
できます。この予測に基づき、机間指導を意図的に行い、個別の指導に当たることが大切
です。机間指導は、全体の学習状況把握と指導改善の手がかりを得ることが目的ですが、
つまずきのある子どもを把握し個別指導を行うことも大切な目的なのです。
② 子ども同士の教え合いや学び合いを大切にする。
授業の中で子どものつまずきに対応する場合、教師一人で対応する手だてを準備すると
ともに、子ども同士の教え合いや学び合いの手だてをとることも、考えてみましょう。お
互いが、
「小さな先生」としてかかわり合うという活動です。例えば、お互いが書いた作文
を読み合い、学習のめあてに沿って「よいところ」を指摘したり「こうしたらどう」とい
う点をアドバイスしたりするのです。友達のアドバイスに積極的に応えようという心理も
働くことでしょう。ここでは、一方の子どもが優越感をもつのではなく、分かり合えたこ
とを共に喜び合えるよう指導することが大切です。
(3) 生活全般を視野に入れて、家庭と連携した取組を進める
つまずきの要因は、授業の中だけにあるとは限りません。子どもたちの生活全般につい
ても気を配ることが大切です。
① 生活全般を視野に入れる
学習用具がそろっていない、家庭のことが気になって学習に集中できない、基本的な生
活習慣がきちんと身に付いていないために学習したことが定着しにくいなど、様々な要因
が考えられます。担任としては、子どもの学習状況や生活全般をつぶさに観察し、対処す
る必要があります。
② 保護者との連携を密にする
定期的な懇談会だけでなく、保護者と積極的に面談し、子どもの学習状況を伝えたり家
庭での協力を仰いだりすることも大切な取組です。特に、保護者の悩みや願いなどを受け
止めるとともに、家庭での生活習慣・学習習慣の形成と学校における指導とが連携するこ
との大切さについて、よく理解を得ていくようにしたいものです。
文責 弥永 和利
95
20
授業中の学習状況を、どのように把握すればよいか
「みなさん、分かりましたか。」「ハーイ。」
「それでは、次に、…。
」と、授業を進めてはいませんか。また、
「分かりましたか。
」と
いう問いかけに対する一部の子どもの反応だけで、授業を進めてはいませんか。
授業中には、子どもたちの反応や学習状況を確かめながら指導を行うことが大事です。
ここでは、授業中の子どもの、何を、どのように把握すればよいかについて、述べていき
ます。
ポイント
1
2
3
4
授業中に把握しようとする学習状況の観点を、明らかにしておきます。
全体だけでなく、一人一人の子どもの姿をとらえる努力をします。
できるだけ客観的に学習状況を把握する工夫をします。
「分からない」ということが言える、日常の学級づくりが大切です。
(1) 授業中に把握しようとする学習状況の観点を明らかにしておく
授業を進める際は、まずその時間の
<授業中に把握する学習状況の観点の例>
ねらい(目標)に沿って子どもがどの
ように活動しているかを適切に評価し、 ◎ 学習のねらいに照らして、学習活動の状況
指導に生かすことが必要となります。
はどうか。
特に、学習への興味・関心や意欲など、 ○ 何に興味・関心や意欲を示しているか。
学習に対する子どもたちの心の動きを ○ その子ならではの、見方・考え方・感じ方
しっかり把握することが大切です。
をしているか。
しかし、
「理解することができている ○ その子なりの工夫や努力が見られるか。
か」
「作業は進んでいるか」といった知 ○ 学習問題や学習内容を、どの程度理解する
識・理解や技能の習得ばかりに目が向
ことができているか。
き、子どもたちの見方・考え方・感じ ○ 発問や指示の内容が伝わっているか。
方、子どもなりの工夫や努力を見落と ○ 活動の準備や手順が分かっているか。
してしまう場合も少なくありません。 ○ 習熟の程度はどうか。つまずきはないか。
右の例示を参考にしながら、授業中 ○ 学習に集中することができているか。
に把握しなければならないことは何か ○ 学習への集中が持続しているか。
を明らかにして、日々の授業に臨むよ ○ 生理的な疲れや無理は見えないか。
う心がけたいものです。
(2) 全体だけでなく、一人一人の子どもの姿をとらえる努力をする
音楽の時間に、みんなで笛を吹いているときは正しく吹けているように聞こえたのに、
一人一人に吹かせてみると正確に吹ける子どもはほとんどいなかった、という経験をした
ことはないでしょうか。冒頭に述べた「みなさん、分かりましたか。
」「ハーイ」の応答に
も同じことがいえるでしょう。学級全体が大体理解できているといった漠然としたとらえ
方ではなく、一人一人の子どもの興味・関心の傾向、理解の程度、その子ならではの見方・
考え方・感じ方などをしっかりととらえるよう心がけましょう。
96
(3)
客観的に学習状況を把握する工夫をする
子どもたちの表情や態度を観察し、学習に対する
<状況を把握する方法の例>
意欲や、学習中の思いや願いなどを、その子の立場
に立って感じ取ることが大切です。
○ 表情や態度の観察によって
具体的には、子どもの特性、友達との関係、生活
○ 返事によって
の様子などの背景とむすびながら、学習状況を把握
○ 挙手によって
していくようにしましょう。また、いかに表情が読
○ 質問や、発表によって
み取れるようになっても、客観的に子どもの状況を
○ 机間指導を通して
把握する努力を怠ってはいけません。
○ ノート指導を通して
左の例示の中の、机間指導やノート指導を通した
○ 作品の提出によって
学習の状況把握、作品の提出なども、客観的に子ど
○ サインを決めて
もの状況を把握する方法の一つです。
机間指導については、全員を一様に指導するだけでなく、ある特定の列や班の状況を把
握したり、特に指導を要する子どもを中心に観察したりして、それを支援に生かすなどの
工夫を行うことが大切です。下に示した図のように、机間指導の際に座席表を活用し、事
前に個に応じた指導の工夫を書き込んでおいたり、把握した子どもの状況を記入したりし
て、学習のまとめや次時の学習の計画に生かしている学級もあります。
座席表を活用した例
その他、簡単な反応器(三角柱
の側面を色分けして「うまく学習
が進んでいる」
「困っている」など
を色で表示する用具)を使って、
サインを決めて学習中の子どもの
反応をとらえている学級もありま
す。また、挙手の際に、分からな
いことや質問したいことがある場
合は左手を挙げる、発言した回数
を指で示して手を挙げるなど、簡
単な約束を決めて子どもの学習状
況を把握するのもよいでしょう。
(4) 日常の学級づくりに努める
「分からないときには、『分からない』と言うことが大切ですよ。
」という指導はよく行
われます。しかし、この指導が生きるためには、分からないことを恥ずかしがらずに言う
ことのできる学級の雰囲気(支持的風土)づくりが大切です。
「分からない」ということを
だれもが言えるような、日常の学級づくりに努めましょう。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
・有村久春編
『教師のしおり(改訂)』
『
「学級経営」実践チェックリスト』
1978 年
教育開発研究所
2004 年
文責
太田
敦生
97
21
子どもの作品の取扱いと評価は、どのようにすればよいか
子どもが学習活動に一生懸命に取り組み、その成果として生み出された、作文、絵画、
工作、書写等の作品は、子どものかけがえのない自己表現であり、一人一人の子どもその
ものであるといえます。教師は、その作品を通して、子どもが、自分の思いをどのように
表現しようとしたのか、
伝えようとしたのかをつぶさに感じ取ろうとする姿勢が大切です。
作品には子どもの思いや努力のあと、成長の過程が刻まれています。それを知ることは
教師の喜びであり、子どもは教師に自分のよさを認められることで、
表現の喜びを味わい、
さらに次の学習への意欲を高めていきます。
ポイント
1
作品の完成時には、満足感と学ぶ楽しさが味わえるよう、発表の場を工夫しましょ
う。また、返却時にも配慮をしましょう。
2 作品を評価するときは、
「できた」結果とともに、
「できる」までの過程を大切にし
ましょう。
(1) 子どもに完成の喜びと学ぶ楽しさを味わわせる
作品を完成させるという子どもの喜びを、共有できる教師でありたいものです。
「ついに
完成したね。先生もうれしいよ。」と共に喜び、「ここを工夫したよ。」「○○な感じを出し
たかったよ。
」などの子どもの話をうなずきながら聞いたり、「あなたのがんばりは素晴ら
しいね。
」と心からほめたりすることで、子どもは、作品が完成した満足感と教師に認めて
もらえた満足感を感じ、次の学習への意欲を高めることでしょう。また、作品を掲示した
り返却したりするときには、
「会話文を上手に使って書けています。」
「色合いがとても美し
いです。
」などと具体的によさを伝える短評を添えたり、よくできているところに丸を付け
たりして、何がよかったのかが具体的に分かるように評価を明示します。よさや向上点、
努力点に目を向け、子どもの伸びや努力を見落とすことなく認め、自信をもたせ、学習の
楽しさを味わわせるように心がけましょう。
① 発表の場の工夫
作品発表の際には、子どもが作品に込めた思い、工夫したこと、がんばったことを伝え
合い、認め合う場が大切です。
「〇〇さんらしい工夫を発見しよう。
」
「様子がよく分かると
ころを見付けよう。
」などの観点をもって、よさを認め合う中で、子どもは自分や友達のよ
さや特徴に気付き、認められる喜びを味わいます。そして、さらに表現意欲を高めるでし
ょう。発表の場も、掲示・展示による発表、
掲示例
展覧会・発表会・鑑賞会等の形態の発表や、
文集・新聞・通信等による発表等、方法や
形態、内容や場所、時間を作品の特性や学
習のねらいに合わせて工夫しましょう。
② 掲示・展示の工夫や配慮
作品を掲示・展示するときには、右の例
のように、作品全体の題(題材名等)を示
し、併せてその学習のめあてや活動の記録
98
等も掲示するとよいでしょう。立体的な作品は、その特性に合わせて展示する場所(広い
所、屋外、暗い所、台上等)を選び、置き方・飾り方を工夫すると、作品のよさがさらに
引き出されます。また、制作途中の作品を掲示して、表現の過程を子どもたちが相互に知
り合い認め合えるように工夫するのもよいでしょう。作品を掲示するときには、どの子ど
もの作品も等しく価値あるものとして大切にしましょう。子どもは、素晴らしい作品を見
ることで、憧れを抱き「これに近づきたい」と意欲を高めるものです。優れた作品を取り
上げて見せる場をつくることも望まれます。
③ 返却時の配慮
作品は、掲示等を終えたら、できるだけ早く子どもに返却することが大切です。子ども
たちが作品を家に持って帰るときには、作品を傷めずに持ち帰ることができるように、前
もって持ち帰りの連絡をし、作品を入れる袋等を準備させるようにしましょう。また、学
期・学年の間に作った作品をまとめて綴じ合わせる(個人ファイル等)などすると、力が
伸びていった様子が見て取れます。子どもの作品は、そのときの個人の貴重な記録です。
長期間の保存ができ、後から喜んだり懐かしがったりできるような、残し方の工夫も考え
るとよいでしょう。持ち帰った作品について家族に話したり、家族から感想をもらったり
することは、子どもの意欲の向上につながります。さらに、作品を飾ったり使ったりして
もらえるように、保護者への働きかけを行うのもよいでしょう。
(2) 作品の結果と過程を評価する
作品の評価は、結果としての作品を含めて学習活動全体を対象としたものでなくてはな
りません。できた作品だけでなく、
作品ができるまでの過程を大切にして評価しましょう。
① 作品ができる過程の評価
表現の過程におけるアイデアスケッチやメモ、下がき、構成計画、制作途中の作品等か
ら、子どもの試行錯誤の過程や、取組の姿勢等が見えてきます。それらも制作過程で形成
的に評価していきます。どれだけ興味・関心をもって活動に意欲的に取り組んだのか、ど
のようにして考えをねり上げていったのかなどを丁寧に見取ります。加えて、子どもの活
動の様子からも、意欲や理解、思考、技能等の状況を見取ることが大切です。また、学習
の目標に照らして、子どもに自分の取組を自己評価させることもよいでしょう。
② できた作品の評価
完成した作品を主たる対象として行う評価ですが、外見的な器用さや見栄えのよさだけ
に目を奪われることなく、作品制作を含めた一連の学習活動のねらいに照らして、その達
成状況を、作品を通して見取ることが大切です。教師がこの学習で身に付けさせたいと考
えた能力が作品の中に発揮できているか、また、一人一人の子どもの関心や態度、理解の
状況や技能等の向上を見極めて評価しなければなりません。
「この作品で、この子は何を表
したかったのかなあ」と、子どもの心に寄り添って作品を見ましょう。作品に込めた子ど
もの心が見えてきます。また、子どもが表現しようとした主題等(表現内容)と、表し方
や言葉の使い方等(表現技能)の両面から作品を評価しましょう。
《参考文献》
・新川昭一著
『続々
・北九州市教育委員会編
子どもたちと心豊かに-これからの美術教育-』
『教師のしおり(改訂)
』
三晃書房
1983 年
1978 年
文責
野々平
美幸
99
22
テストの作成とその活用は、どのようにすればよいか
教師がテストを行う目的は、学習内容の理解度や定着度を測り、今後の学習の方向性を
明らかにすることにあります。児童生徒が、その教科のどこが理解できていて、どこが理
解できていないのかを確認し、教師自身が指導の適・不適を判断し、指導の改善を図るた
めのものです。
児童生徒の立場からテストをとらえると、自分の学習状況を自覚し、達成不十分な点を
補い、次の学習への方針を決めるという意味があります。つまり、既習事項の理解度や定
着度の確認、理解が不十分な部分の振り返りです。また、理解状況の確認だけでなく、普
段の学習の仕方を見直す手だてともなります。
ポイント
1
2
テストを作成するときは、まず評価規準の作成から取り組みましょう。
テストでの設問事項は、授業での指導内容や育てようとする能力から発想しましょ
う。
3 テスト結果を、教師の指導の手がかりと児童生徒の意欲化に生かしましょう。
(1) テストを作成するときは、まず評価規準の作成から
① 指導目標と評価規準の設定
まず、教師は学習指導要領に示された各教科の目標・内容をしっかりと把握し、学習の
めあてを明確にした授業構想を立てることから始めます。教材研究をしっかりと行い、こ
の単元で指導すべき目標・内容を洗い出しましょう。
次に、設定した指導目標をもとに評価規準を設定します。評価規準は、
「関心・意欲・態
度」
「思考・判断」
「技能・表現」
「知識・理解」などの観点に沿って、どの程度、どんな姿
が見られたら達成できたとするのかを明らかにしていきます。ここで大切なことは、すべ
ての評価規準についてテストでは測れないということを踏まえておくことです。また、評
価規準は「学習の目標や内容の定着状況を把握するためのめやすとなるもの」ですから、
格付けしたり、順位付けしたりするものではないことも踏まえておきましょう。あくまで
も指導目標に照らして、どの程度、どのような状況に到達しているかを判断するための規
準としてとらえましょう。
(2) テストでの設問事項は授業での指導内容や育てようとする能力から
① テストでの設問事項作成上の留意点
テストの設問事項や設問形式、配点のバランスなどは、授業での指導目標との関係や評
価する側の意図を明確にもって作成することが大切です。事前に指導内容の教材研究を十
分に行い、授業中の児童生徒の理解度等を考慮して、テストの設問事項を作成することが
重要です。
② 減点することでなく加点することを大切にする
100 点を基準として、誤りを見付けて減点していくのではなく、少しでも課題に対して
の取組を評価して加点していく考えでありたいものです。誤答もそれなりの理由や考え方
100
をもっています。それに気付かせ、修正することで、正しい理解に導くことができます。
「そうだった」「そうなのか」と正しさを実感することで学習の意欲が高まります。
③ 多様な考え方を導き出すことを大切にする
最低必要な知識を習得することは大切ですが、多様な価値観を問われる今日において、
もっと柔軟な思考が必要です。そのためには、一つの問題に一つの解答しかないのではな
く、多様な解答ができる問題作りも大切なことです。
④ テストを実施する時期
テストを実施する時期については、年間指導計画に基づいて適切な時期を設定すること
が必要です。単元終了後や補充的な内容の指導後等の時期を取り上げて実施し、児童生徒
の理解度を教師も児童生徒自身も定期的に把握するようにし、個に応じた指導の充実を図
るための指導方法や指導体制の工夫改善に生かしていくことが大切です。
(3) テスト結果は教師の指導の手がかりと児童生徒の意欲化に生かす
テスト後に、児童生徒自らが発見したことがあれば、再度トライさせるようにし、意欲
化に生かしたいものです。何点とれたのかが問題ではなく、どれだけ「分かる、できる」
ようになるのかが大切なのですから、自己を向上させていけるチャンスをできるだけ多く
もてるようにしたいものです。
また、児童生徒にテストの結果を知らせる際には、賞賛や激励、課題等をどのように伝
えていくのか、学級や児童生徒、保護者の実態を考慮しながら、励ましの声かけをしてい
く必要があります。
下に示したのは、教師と児童生徒がテスト結果をどのように生かすのかをまとめた表で
す。かりにテストの解答が正解であっても、そこに至るまでにどのような思考過程をたど
ったのか。不正解であったなら、なぜ成果に導けなかったのか。どのような考えが不足し
ていたのか。どこでつまずいたのか。‥‥このような児童生徒の学習状況を見極めること
のできるテストでありたいものです。それによって、教師は日々の指導の改善を図るとと
もに、児童生徒は自分の学習を振り返り今後の学習に生かしていくことが大切です。
教師の活動(テスト結果の分析)
児童生徒の活動(自己評価)
・観点別に評価規準の妥当性を検証しま ・テストまでの学習活動(授業や家庭学
す。
習)を振り返ります。
・指導方法を見直します。
・チェックリストなどを利用して、学習
・児童生徒個々の達成度をつかみます。
の成果を自覚します。
(自分にはこれだ
・児童生徒の努力を評価し、学習意欲を
け力が付いたという達成感)
喚起します。
・自分の課題を見付けるとともに、教師
の支援のもとに課題をクリアにするた
・児童生徒への具体的な支援方法を考え
ます。
めに学習方法を身に付けていきます。
《参考文献》
・国立教育政策研究所編
・奥田眞丈・水越敏行編集
『国立教育政策研究所教育課程研究センター資料
『新学校教育全集8
教科指導』
内容のまとまり』
2002年
ぎょうせい
文責
井津
弘
101
23
学力診断テストを、どのように活用すればよいか
学力診断テストは、子どもの学力の状況をとらえるために実施します。それは、その結
果を活用して、指導内容の重点化を図ったり補充的な学習を行ったり、指導方法を見直し
たりするなど、子どもが「分かる、できる」喜びを実感することができる授業へと改善を
図るためです。また、その結果をもとに、子どものがんばりを認め、自信をもたせたり次
の目標をもたせたりするためです。ここでは、学力診断テスト実施の際の留意点やテスト
結果の活用の仕方等について、述べていきます。
ポイント
1
2
学力診断テスト実施の際に、その意義を伝え、集中できる環境をつくりましょう。
学力診断テスト結果から、学級や学年の傾向と一人一人の子どもの学力の状況とを
つかみ、指導の方向性を明確にしましょう。
3 学力診断テストの結果を授業改善のヒントにしましょう。
4 目標を子どもと共有し、保護者の理解を得ましょう。
(1) 子どもに学力診断テストの意義を伝え、集中できる環境を整える
学力診断テストからできるだけ正確な結果を得るためには、テストを実施する際に、次
の点に留意し、子どもがテストに集中できる環境を整えることが重要です。
○ 学力診断テストは、気候がよく、集中しやすい午前中の早い時間帯に実施します。ま
た、実施前は、子どもが落ち着いてテストに臨めるよう気持ちを整えさせましょう。
○ 実施する時間帯を学年でそろえたりチャイムを切ったりするなど、テストを受ける条
件を整えるようにします。また、机の配置や照度、換気、騒音にも気を付けましょう。
○ 実施に当たっては、
「このテストは自分の力を測り、自分のよさを確かめたり、目標を
もったりするためのものです。
」など、子どもにとってのテストの意義を伝え、あきらめ
ず最後まで取り組むよう励まし、意欲をもてるようにしましょう。
○ テストのやり方を説明するときには、できるだけ具体的に、何を、どうするのかを説
明し、子どもがテストの受け方を十分に理解しているか確認しておきましょう。
(2) 学力診断テスト結果から、学級や学年の傾向と一人一人の子どもの学力の状況とを
つかみ、指導の方向性を明確にする
① 自分の学級や学年の傾向をつかむ
まず、学級や学年の傾向をつかむために、自分の学級と全国得点率とがどのように違う
のかを把握します。教科毎ではどうか、観点別ではどうか、得点率の高い領域はどれか、
小問の内容によってどのような特徴が出ているかなど、結果を概観します。
次に、誤答率の高い小問について、他の小問と関連させて考察します。例えば、算数科
の小数の計算 5.1÷1.7 の正答率が高く、
「5.1mのひもを 1.7mずつに切って輪を作る。輪
は何本できるか。
」の文章問題の正答率が低かったとします。これは、計算はできるが立式
がうまくいかない例であり、問題文から 5.1mと 1.7mの関係がつかめていないことが原因
と考えられます。このように、誤答を調べると課題が具体的に見えてきます。
さらに、昨年、一昨年と、さかのぼって子どものテスト結果の変化を見てみましょう。
102
伸びているところや変わらず課題となっているところなどが見えてきます。
② 一人一人の子どもの実態をとらえる
一人一人の子どもの学力診断テストの結果を、日々の子どもの表情や言葉、行動とつな
ぎながら読み取りましょう。そうすることで、結果に表れた子どものよさや課題が見えて
きます。結果に表れたよさを子どもに伝えることは当然ですが、課題については、その子
どもに応じた指導内容や方法の工夫など、指導の方向性を明確にすることが必要です。
③ 多面的に評価する
学力診断テストで、学力のすべてを測定することはできません。したがって、日常の授
業での子どもの学習状況記録、子どもの自己評価カード、学習作品などをもとに、子ども
の学力や学習状況を様々な側面から評価することが大切です。このような多面的な評価に
より、テスト結果に表れた課題の解決策、指導のヒントが見えてくることも多いものです。
(3) 学力診断テストの結果を授業改善のヒントにする
右の表は、先の 5.1÷1.7 の例のように立式す
学力診断テストの結果を指導に生かす
る力に課題があった場合の例です。
【明らかになった傾向、つまずき】
計算の正答率…高い 文章問題の正答率…低い
課題に対する工夫改善として、算数科の授業
【指導課題】
において、図で表したり具体物を使ったりして
小数の割り算の式を演算決定できる力の育成
数量の関係をとらえさせることに重点を置いて
指導します。つまずきのある子どもには、学力
【工夫改善の計画】
診断テストで把握したその子の特性を踏まえて、 算数科の授業改善
○ 解決の手だてや考え方の指導を充実する
個別指導に当たるようにします。
・整数に置き換えて考える
また、課題解決の基盤となる学習技能にも目
・似た問題を類推して考える
・具体的な場面に当てはめる
を向け、朝自習や放課後の時間を活用したり宿
・言葉の式、数直線、図などを用いる
題を工夫したりして、課題に応じた学習技能を
○ 習熟の程度に応じた少人数指導を行う
○ 個に応じた支援やヒントカードを工夫する
身に付けさせることにも取り組んでいます。
朝自習、放課後、宿題の取組
このように、テストの結果をもとに、指導方
○ 毎週月曜日、簡単な文章題2問に継続して取
り組ませる…など
法の工夫改善を図り、実践の結果を絶えず振り
返り、指導に生かしていくことが、子どもの確かな学力の育成へとつながります。
(4) 目標を子どもと共有し、保護者の理解を得る
学力診断テストの結果について、子どもと話し合う機会をつくり、子どものよさを認め
たり自信をもたせたりして、次の目標に向かって意欲的に取り組めるようにします。また、
日々の授業で個別の支援をしたり、スモールステップの学習課題に取り組ませたりするこ
とで、子どもが学習を楽しいと感じるとともに、もっと挑戦しようとする意欲的な学習態
度を育てていきます。
さらに、学力診断テストの結果について、教師と保護者とが意見を交換し合うことが大
切です。子どものよさが伸びるよう、また、足りない面が補えるよう、両者が協力して子
どもにかかわっていくようにしたいものです。
《参考文献》
・森敏昭・秋田喜代美編著
『重要用語300の基礎知識
教育評価』
明治図書
2000 年
文責
丸山
秀雄
103
24
教材の選定や活用の際、どのようなことに留意すればよいか
指導の効率を高めるには、教師自身の力量を高めなければならないことは当然ですが、
授業をとりまく諸条件を整えることが必要です。とくに、よりよい教材を選定し、それを
効果的に活用するための工夫が大切になります。
ポイント
1
文部科学省から出された「教材機能別分類表」を参考に、教材の機能を重視した教
材整備に努めることが大切です。
2 各学校の教育目標、教育課程や特色ある学校づくりなどの諸事情に対応して、弾力
的・効果的な教材整備を図っていくことが望まれます。
(1) 教材の種類
教材は、大きく次の三つに分けることができます。
① 教科用図書
② 教科用図書以外の図書
副読本、資料集、問題集、夏休み帳、地図帳、ワークブックなど
③ その他の教材(文部科学省HPの「教材機能別分類表」より)
発表・表示用教材、道具・実習用具教材、実験・体験用教材、情報記録用教材など
(2) 教材選定上の留意点
① 教科用図書の採択は、教育委員会が行う
教科用図書は、本市の教育委員会が採択したものを使用しなければなりません。
② 教科用図書以外の図書の選定責任者は校長である
独断で副読本や資料集などの教科用図書以外の図書を使用してはいけません。必ず校長
の承認を受け、校長の責任において選定することになります。学校で決められている選定
手順にしたがって、慎重に選定しなければなりません。
③ その他の教材は「教材機能別分類表」を参考に整備する
文部科学省から出された「教材機能別分類表」を参考に、教材の機能を重視した教材整
備に努めることが大切です。「教材機能別分類表」については、次ページの例を参考にし
てください。
④ 教材選定基準に配慮する
学習指導要領に示された各教科の目標や内容、児童生徒の能力や適性に照らし有益適切
にして教育活動にぜひ必要なものだけを選定し、保護者の経済的負担の軽減を考慮し、選
定した教材の活用に努めることが大切です。
(3) 教材を活用する際の留意点
① 安易に市販品を使用しない
教材は、各学校の指導計画に基づいて、適切に使用しなければなりません。安易に市販
品を使用するのではなく、使用する場合は、規格や印刷の上から自作が困難なもの、指導
上効率を上げるのに必須なものなど、最小限の範囲にとどめるようにします。
104
② 自作教材の開発研究に努める
教師間の協力、児童生徒との共同により、簡単で親しみやすい教材をつくり出していく
ことが、楽しく分かりやすい授業の創造につながります。
③ 年間指導計画に位置付ける
採用した教材を有益適切に使用するためには、どの単元(領域)のどの段階で活用する
のかを指導計画に位置付けて活用します。
④ 指導(反省)記録を残す
使用状況(有益性、質と量、取扱い方、問題点など)について指導記録を残しておくと、
本年度の反省、次年度の参考資料として役立ちます。
⑤ 検討会で反省する
学期末にはその期間の使用状況、学年末には年度の使用状況について、学年会や教科部
会などで検討会をもつことにより、次年度の見通しを立てることが大切です。
⑥ 整理・保管を確実にする
教材の保管については、常に手入れをして、いつでもだれでも活用できるように、一定
の場所に整理しておきます。学期末には備品検査を受け、修理、廃棄、更新などの事務処
理を的確にし、次の学期に備えるようにします。
⑦ 事務処理を的確にし、経理を明確にする
児童・生徒負担金会計基準に従って事務処理を的確に行い、保護者、市民の疑惑をまね
くことのないよう、経理は明確にしておかなければなりません。
⑧ 学校の諸事情に対応した教材整備を行う
各学校の教育目標、教育課程や特色ある学校づくりなどの諸事情に対応して、弾力的・
効果的な教材整備を図っていくことが望まれます。
参考:教材機能別分類表(小学校の分類表の一部、文部科学省HPより)
文部科学省HPアドレス
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kinou/011101/001.htm
《参考文献》
・北九州市教育委員会 『教師のしおり(改訂)』 1978 年
文責
澤村
宏志
105
25
教科書は、どのように使えばよいか
学級全員の児童生徒が持っている教科用図書(教科書)は、学習指導要領の目標や内容
に基づいて編集されたものであり、学習指導を行う際の重要な教材となるものです。
ここでは、教科書の活用の仕方について、述べていきます。
ポイント
1
・
児童生徒が自ら学び、自ら考える力を育てるには、教科書を教えるのではなく、教
・
科書で教えることが大切です。
2 教科書の活用の仕方は、教科によっても書かれている内容によっても異なります。
教科書のもつ機能を生かし、児童生徒の学習の進展に即した活用を考えることが大切
です。
(1) 教科書とは
教科書の意義については、次のように定められています。
小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及びこれらに準ずる学校において、教科課
程の構成に応じて組織排列された教科の主たる教材として、教授の用に供せられる児童
又は生徒用図書であって、文部科学大臣の検定を経たもの又は文部科学省が著作の名義
を有するものをいう。
(教科書の発行に関する臨時措置法第2条第1項)
また、教科書の使用義務について、
「各教科について、検定教科書又は文部科学省著作教
科書があるときは、原則として、必ずこれらの教科書で、かつ教育委員会が採択したもの
を使用しなければならない。」と定められています。(学校教育法第21条)
(2) 教育課程や年間計画に即した教科書の活用
子どもの学習の進展を基本的に支えるものは、それぞれの学校が教育目標や地域・子ど
もの実態に基づきながら、構想し具体化した教育課程や指導計画です。その計画に即して
教科書は活用されなければなりません。
年度の初めには、まず、北九州市教育委員会発行の「教育課程編成資料」、及び各学校の
年間指導計画と、手元の教科書の単元等配列とをよく照らし合わせて、計画に即した教科
書の活用の見通しをもっておくことが大切です。
(3) 教科書の機能
おおまかに言って、教科書には次のような機能があります。
ア プログラム機能‥‥全体の見通しをつけ、ねらいを明確にする。
イ モデル機能‥‥典型的な事例を示して学習の手がかりとする。
ウ 資料機能‥‥学習に必要な資料を提示する。
エ 整理機能‥‥基本的な知識や概念を整理しおさえる。
(4) 教科書の活用
学習効果を一層高めるために、以下のような教科書の特性を生かした活用方法を、場面
106
を考えて工夫していくことが大切です。
① 教科書活用のポイント
ア 教科書を中心教材として活用し、指導する。
・
・
イ 教科書を教えるのではなく、教科書で教える。
② 教科書の活用方法
どのような学習問題をどのように把握させるかということは、子どもたちの学習意欲や
学習の深まりに大きく影響してきます。教科書には学習のめあてや学習計画などが示され
ています。
また、教科書には精選された教材や学習資料が提示されています。取り組む問題に応じ
て、教材や学習資料を十分に活用させることが大切です。その際、
「問題を解決するのに役
立つことが書かれてないだろうか。
」
「この部分は参考にならないだろうか。
」といった問い
かけを行い、子どもたち自身が主体的に教科書を活用するよう促すことが大切です。
具体的な教科書の活用方法については、次のような方法が考えられます。
ア 学習に興味・関心をもたせたり、学習問題を立てたりする。
イ 学び方の学習をする。
ウ 詳しく調べたり、考えたり、練習したりする。
エ 基礎的な知識を整理したり、まとめたりする。
オ 学習内容の重要事項や要点をとらえ、一般化したり概念化したりする。
カ 新たな疑問や興味をもたせ、学習を発展させる。
キ 家庭で予習や復習などの個人学習をする。
(5) 教科書活用上の留意点
① 内容や配列の理解
教科書を活用していくためには、あらかじめその内容や教材配列などの構成を知ってお
くことが大切です。そして、児童生徒の実態に合わせて、指導内容の重点化を図ったり、
実施する単元等の配列を考えたりしていく必要があります。
② 補助教材の活用
社会科等で地域を学ぶ場合、教科書の教材を導入等で活用するとともに、別の補助教材
を収集して教材化を図らなくてはなりません。
③ その他の留意点
ア 教材を精選する。
イ 学習者の実態に即して教材研究を行い、重点の置き方、扱い方の軽重、目的などにつ
いて配慮する。
ウ 教材観を明確にする。
エ 内容の理解や習得とともに、資料の使い方、学び方についても学習させる。
オ 参考となる資料、実物の提示などの扱い方を工夫する。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
・北九州市教育委員会
・福岡県教育委員会
『教師のしおり(改訂)』
『あたらしい授業の創造
『若い教師のための
1978 年
小学校編』1996 年
教育実践の手引』
2003 年
文責
櫛永
ひとみ
107
26
副読本は、どのように活用すればよいか
児童生徒の学習に役立てるために様々な副読本が作成されています。副読本には、有償
のもの、無償のもの、学校に送られてくるもの、こちらから希望するものなど、様々なも
のがあります。児童生徒の学習を深めていくために、副読本の活用計画を立て、計画的に
活用しましょう。
ポイント
1
あらかじめ、副読本の種類、活用できる教科等を確認しておき、活用計画を立てて
おくことが必要です。
2 単元の指導計画の中に副読本の活用場面・方法等を位置付け、授業の中で有効活用
するようにします。
(1) 副読本の種類、活用できる教科等を確認する
副読本には、様々な種類があり、日々のあわただしさの中で、「積ん読(ツンドク)」に
終わってしまうおそれもあります。自分の担当する学年や教科等において、どのような副
読本があるのかを把握しておくことが大切です。そのために、次のような一覧表を作成し、
副読本について全体をつかんでおきましょう。まず初めにすることは、副読本にざっと目
を通し、概要をつかむことです。
<副読本一覧表の例>
①題名
②教科等(学年) ③使用時期
④数(配布・保管)
⑤保管場所
みんなの道徳
道徳(5年)
通年
環境副読本
総合的な学習の
時間、社会科、
理科、家庭科等
(5・6年)
10月
40(冊)×3(クラス) 職員室学年
(わたしたち =120
ロッカー
のくらしと環
境)社会科
(配布・保管)
①
40(冊)×3(クラス) 学年戸棚
=120
(配布・保管)
題名
あらかじめ分かっているもの、送付されてきたもの等を書き入れていきます。
② 教科等(学年)
活用できる教科等(学年)を書き入れていきます。
(副読本の始めや終わりのページに活
用方法等が記されていることが多いので、確認しておきましょう。)
③ 使用時期
年間指導計画と照らし合わせて、おおよその使用時期や単元を決めます。また、年間指
導計画の一覧表の中にも 副 等の記号を書き込んでおくとよいでしょう。
④ 数(配布・保管)
数をチェックし、必要があれば連絡先に問い合わせをします。また、その副読本は学校
108
に保管しておくものか、児童生徒に配布するものかを確認しておきます。
⑤ 保管場所
取り出しやすい保管場所を決めて、保管をしておきます。すぐに使わないものは、作成
した表の必要部分をコピーして添えておくとよいでしょう。
(2) 単元の指導計画の中に副読本の活用場面・方法等を位置付ける
副読本の種類、活用する教科等は、様々であり、授業の中で活用する場面・方法も千差
万別です。単元の指導計画を立てる際には、副読本を熟読し、単元のねらいや児童生徒の
実態に沿って、活用方法を具体化していくことが大切です。
ここでは、単元の「はじめ」「なか」「おわり」における活用の仕方の一例を示しておき
ます。参考にしてください。
副
読
本
の
活
用
の
仕
方
は
じ
め
●学習問題や課題をつくるための活用
T「次の資料を読んで、思ったことを書き、話し合いましょう。」
単元の導入段階で、児童生徒に副読本の中の資料を示します。ここでは、児童生
徒の興味・関心を引き付けるような資料が効果的です。その資料から「分かったこ
と」
「疑問に思ったこと」
「心に残ったこと」などを出させて話し合います。その話
し合いをもとにして、学習問題や課題を設定していきます。
な
か
●学習問題や課題を解決するための活用
T「この資料を使って調べましょう。」
児童生徒の学習問題や課題を解決するための資料として副読本を活用します。
この場面では、副読本を児童生徒に持たせ、可能ならば、書き込みをさせたり、ノ
ートに抜き出させたりして、資料を再構成させます。ここでは、児童生徒の学習問
題や課題を解決するためにふさわしい資料であるかを吟味したり、資料の表現方法
についても副読本を参考に児童生徒に示したりすることも大切です。
お
わ
り
●発展的な学習の資料としての活用
T「さらに自分が調べたいことを調べていきましょう。」
単元の「おわり」に発展的な学習を行う際に、児童生徒に副読本を持たせ、自由
に活用させます。単元の「はじめ」や「なか」で特に副読本を活用する場面がない
場合でも、単元の「おわり」に配布することで、自主的な学習に役立つような配慮
をします。児童生徒の興味・関心や意識の流れを大切にしてください。
文責
奥田
淳一
109
27
情報教育を、どのように進めればよいか
社会の情報化は急速に進展してきており、社会の変化に応じた適時・適切な情報教育の
推進が求められています。ここでは、情報教育のねらいや、学校及び教師がどのような考
え方で情報教育に取り組むべきかなど、基本的な考え方を示していきます。
ポイント
1
子どもたちの情報活用能力の育成、すなわち体系的な情報教育を進めていくことが
大切です。
2 各教科等の目標を達成する際に、効果的に情報機器等を活用するよう努めることが
大切です。
(1) 情報教育のねらい
初等中等教育における情報教育のねらいは、以下の3観点から構成されています。
①
②
③
情報活用の実践力‥‥課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含め
て、必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し、受け手の状況など
を踏まえて発信・伝達できる能力
情報の科学的な理解‥‥情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解と、情報を適
切に扱ったり、自らの情報活用を評価・改善したりするための基礎的な理論や方
法の理解
情報社会に参画する態度‥‥社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割
や及ぼしている影響を理解し、情報モラルの必要性や情報に対する責任について
考え、望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度
各校においては、これらの3観点から構成される情報活用能力をバランスよく育成する
ことが求められています。各学校段階における情報教育のねらいは、次のとおりです。
① 小学校段階では、各教科間の関連を図った取組が行われやすいという特色を生かし、
各教科等の具体的、体験的活動の中で、
「情報活用の実践力」の育成を基本とし、子ども
たちが情報手段に慣れ親しみ、適切に活用する学習活動を充実すること。
② 中学校段階以降では、独立した必修の教科・領域を設けるとともに、各教科等で情報
手段を積極的に活用すること。
情報活用能力の育成は、情報に関する教科等のみではなく、学校教育全体で取り組まれ
て実現するものです。情報を主体的に選択・活用できる能力を育成することをねらいとす
る情報教育は、学び方や問題解決のための方法の一つとして、各教科等の目標の達成に大
きなかかわりをもちます。各教科等の学習指導において、情報活用能力の育成とのかかわ
りを理解した上で、計画的に情報教育に取り組むことが求められます。
114 ページには、文部科学省が例示した、3観点に基づく「情報教育に関係する指導内
容及び学習活動例(小学校第3・4学年分)」を示しています。各教科等の指導計画を作成
する際や、具体的に学習指導を進める際の参考にしてください。
110
(2) 期待される効果
コンピュータやインターネットを各教科等の学習指導に活用する際、それらの機能の多
様性を生かして、他の視聴覚機器・資料や図書などと組み合わせるなどの創意工夫をする
ことにより、以下のような効果が期待されます
① 興味・関心を高め、理解を助ける
コンピュータやインターネットなどの情報手段を活用することにより、教師の一方的な
説明では実現できなかった指導が可能になり、子どもたちの生き生きとした興味や関心を
引き出すことが容易になります。
② 思考力、判断力、創造力、表現力などを培う
課題研究や探究活動の道具として、コンピュータのシミュレーションやデータベースの
機能を活用したり、様々な思いや発想などを表現するための手段として、文書や図形、画
像、音声の処理・保存機能を活用したりすることが考えられます。また、インターネット
を活用した交流活動では、住んでいる環境や風習などの違う相手に対して、自分の伝えた
いことをどのように表現したら分かってもらえるか、子どもたち自身で表現を工夫するよ
うになったとの報告もあります。
③ 主体的な学習の方法を習得させる
個々の子どもの理解している状況等に応じて、様々な題材により繰り返し学習ができる
ように工夫された教育用ソフトウェアを活用することや、インターネットなどを学習の手
段として活用する方法を身に付けさせることにより、自ら意欲的に学習を進めるという主
体的な学習の仕方を身に付けさせることができます。
④ 交流、共同学習など創意工夫を活かし、特色ある教育活動を展開する
インターネットなどの情報通信ネットワークは、その双方向性の機能を活用することに
よって、学習の対象を広げ、興味や関心を掘り起こし、他の学校との交流や、地域、国境
さえも越えた交流を可能にします。また、インターネット上には豊富な情報があり、様々
なホームページなどから必要な情報を容易に取り出すことができるなど、各学校の創意工
夫によって多様な教育活動の展開が可能になります。
(3) 学習活動の例
① 事例1:お話づくりを通して、コンピュータに慣れ親しむ事例
ア 事例の概要<電子紙芝居作り>
子どもたちが、コンピュータを学習の道具として使っていくためには、コンピュータの
基本的な操作を身に付けておく必要があります。コンピュータの基本的な操作を身に付け
ることをねらった事例です。
イ 主な展開
ストーリーの相談
↓
分担して絵を描く
↓
絵をつなぐ
↓
音声を入れる
↓
少人数のグループを作りどんな話を作るか相談する。
コンピュータでお話の絵を描いていく。
できあがった絵をつないで連続して表示できるようにする。
各画面ごとの音声を録音する。
111
↓
作品を仕上げる
↓
発表会をする
↓
作品を修正し登録
作品を見ながら修正していく。
できあがった作品を発表し、意見交換をする。
意見をもとに作品を直し、全校に公開していく。
ウ
情報教育の目標との関連
友達と協力して楽しいお話を作る中で、「様々な意見があることを知る」「話し合って意
見をまとめる」ことができ、作品の発表を通じて「まとめたことをみんなの前で話す」
「表
現する力を付けていく」ことができます。また、「メディアのよさを感じ取る」
「情報をネ
ットワーク上に発信する」ことにより、
「作品を通じて多くの人とのかかわりをもつ」こと
をねらっています。
② 事例2:体験を通して、調べたりまとめたりする事例
ア 事例の概要<トウモロコシ丸ごと料理>
調べ学習を通して、自分に必要な情報を主体的に収集・判断・表現しようとする態度や
能力の育成を目指した学習活動です。
イ 主な展開
トウモロコシを調べる
↓
トウモロコシと紙
↓
トウモロコシで紙すき
↓
まとめて紹介する
トウモロコシについてテーマを決めて調べ、発表する。
トウモロコシから紙ができることについて調べる。
トウモロコシの皮で紙すきを行う。
トウモロコシでの紙すきについてまとめ紹介する。
ウ
情報教育の目標との関連
トウモロコシは身近な素材であり、色々と形を変えて私たちの生活に役立っています。
したがって、
「身近なところから様々なメディアを使って情報を集める」よい題材です。具
体的には、
「身近な人に尋ねたり、色々な機器、ネットワーク上、印刷物、放送、ビデオな
どから情報を収集したりする」活動や、自分でトウモロコシを使った紙すきを体験しなが
ら「体験を通して集めた情報を加えて、まとめをしていく」という活動が含まれます。
③ 事例3:交流活動を中心とした事例
ア 事例の概要<川でつながる>
他の学校と交流することは、児童生徒の視野を広げる上で効果的です。ただ単に交流す
るだけでは、その交流の意味を児童生徒が理解できずに交流が深まりません。そこで、同
じ河川の上流と下流との学校で、
「川」をテーマに交流学習を行います。上流の学校と下流
の学校で、各自が興味あるテーマを決めて調査し、同じテーマを選んだ相手校の仲間と調
査結果を比較したり、共通のテーマを作り調査活動を行ったりします。それぞれの立場か
ら考えを交流し、クラスやグループで意見をまとめたり、相手校との共同意見としてまと
めたりしながら、校外に向けて発信していきます。
112
イ
主な展開
川についての課題を見付ける
↓
調査活動を行う
↓
相手校と情報交換をする
↓
情報を比較する
↓
学習をまとめる
↓
調べたことを発信する
川に親しみながら自分の課題を見付けていく。
自分のテーマに従ってグループを組んで調査活動をする。
相手の学校と調べた内容を交換する。
相手校との情報を比較し、共通のテーマで調査を進める。
交流を通じて学習をまとめる。
川についての2校の思いなどを発信していく。
ウ
情報教育の目標との関連
この学習は、2校以上の学校との交流に焦点を当てています。交流するためには、様々
な手段を活用して、効果的に表現することが必要です。特に相手を意識し、相手に合わせ
た表現が求められ、
「様々な情報手段を活用して表現する」ことや「相手を考えた言葉使い
で、情報交換をする」ことなどを体験します。交流に当たっては、
「電子メールや、電子掲
示板、テレビ会議システム等のコンピュータを活用したメディアを有効に使っていく」こ
とが求められます。さらに、
「電話、FAX、手紙やビデオレター等の様々なメディアをう
まく絡ませていく」ことが肝要です。
参考:授業に活用できる素材を提供している代表的なサイト
・岡山県情報教育センター
http://www.jyose.pref.okayama.jp/
・教育情報ナショナルセンター
http://www.nicer.go.jp/
・理科ネットワーク
http://www.rikanet.jst.go.jp/
・宮崎県教育センター
http://himuka.miyazaki-c.ed.jp/
(4) 情報モラルの育成
情報モラルとは、情報社会において適正な活動を行うための基になる考え方と態度のこ
とです。日常生活上のモラルに加え、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報技
術の特性と、情報技術の利用によって文化的・社会的なコミュニケーションの範囲や深度
などが変化する特性を踏まえて、適正な活動を行うための考え方と態度が含まれています。
情報通信ネットワークを介したコミュニケーションでは、しばしば通信先の相手の存在
を忘れて、自分の目の前にあるコンピュータ端末に対して応答している錯覚に陥ることが
あります。また、ビデオゲームの場合などコンピュータの自動応答を人間的なものと混同
することもあります。通信相手が人であるかモノであるかを場面に応じて区別し、特に、
情報の収集、発信、コミュニケーションなどの活動は、基本的には「人と人との間のコミ
ュニケーション」であることを常に意識し、日常のモラルを適用していかなければなりま
せん。
《参考文献》
・文部科学省
『情報教育の実践と学校の情報化
-新「情報教育に関する手引き」-』
2002 年
文責
川野
修一
113
参考:情報教育の目標で分類した学習活動一覧(小学校中学年のみ抜粋)
観点
分
類
情報手段の基
課 題 や 目 的 礎的な操作習
に応じた情 得
報手段の適
情報手段の適
切な活用
切な活用
情
報
情報の収集・
判断
活
用
の
実
必用な情報
の主体的な
収集・判断・
表現・処理・
創造
践
力
情報の表現・
処理・創造
受け手の状況などを踏まえ
た発信・伝達
指導内容及び学習活動例(小学校中学年)
情 報 の 科 学 的 情 報 社 会 に 参画 す る 態 度
な 理解
コンピュータの基本操作を通して、ファイルやフォルダの概念を知る(総合)
キーボードを使って日本語入力をする(総合・国語)
プレゼンテーションソフトウェアを使ってスライドを作成し、いろいろな人の前で
発表する(総合・国語・社会・理科など)
後に利用する情報を収集し記録するために、デジタルカメラやビデオカメラを使う
(総合・社会・理科など)
あらゆる活動場面で、さまざまな情報手段を用いる(総合・全教科など)
見学やインタビュー内容の要点をメモに取りながら聞く(国語)
●大切な情報がどれかを判断し、後に参照しやすいようにメモを残すことを、情報
収集の基本として体験させる
身近な地域の様子、地域社会の健康・安全な生活を支える仕組みなどについて、実際
に見学したり地図や写真などの具体的資料を活用して調べる(社会)
●見学可能な事象における情報収集は実際に自分で現地に行って情報を収集させる
ことを大切にした上で、補完する情報として写真や地域の人の話が参考になること
を体験させる
地域の人々の生活の移り変わりなどについて、博物館・資料館を見学したり地域の
人に話を聞いたりして調べる(社会)
●地域のことであっても、見学が不可能な歴史的事象については、博物館や資料館、
昔の情報を持っている人などから情報収集ができることを体験させる
県(都道府)の様子や自分たちの市(区町村)などについて、地図を活用したり、
学校図書館や公共図書館を活用したり役所などへ問い合わせて資料を集めたりして
調べる(社会)
●地域の人々の生活や産業に関する統計的資料を用いることを、客観的な情報を活
用することとして体験させる
日時、場所などの簡単な観点から分類の項目を選び、整理して表や棒グラフに表す
(算数)
●時系列・場所別によって分類することで情報の効果的な整理ができ、整理した結果
を棒グラフに表すことにより直観的にとらえやすくなることを体験させる
二つの観点から物事を分類整理したり、論理的に起こりうる場合を調べたり、落ち
や重なりがないように考えたりする(算数)
●表による落ちや重なりのない整理の方法を、情報を正確に分類する方法として体
験させる
折れ線グラフの統計的な特徴や傾向をよみとったり調べたりする(算数)
●変化に関する情報は折れ線グラフで表されることが多いため、情報の読み取りや
予測などの基本的な方法として体験させる
見出しを付けたり記事を書いたり、割付をしたりしながら、中心を明確にして学級
新聞などを書く(国語)
●情報の固まりごとに見出しを付けたり、伝えたいことの優先度を考えて割り付け
ることを、情報表現の基本的な方法として体験させる
手紙文や発表の場を想定した記録文や学級新聞など、相手や目的に応じて適切に書
く(国語)
●伝える相手に応じて、表現形態や書きぶりを変えることを、受け手を意識した情
報発信として体験させる
相手に伝わりやすいように写真を入れるなどの工夫したプレゼンテーションをする
(総合・国語・社会など)
さまざまな情報手段を使った体験をもとに、情報手段の特性を整理する(総合)
情報活用の基礎となる情報
手段の特性の理解
情報を適切に扱ったり、自
らの情報活用を評価・改善
するための基礎的な理解や
方法の理解
社会生活の中で情報や情報 コンピュータやインターネットは便利である反面、その使用が長くなりすぎると、
技術が果たしている役割や 生活のリズムを崩すなどの影響が起こることを知り、健康に注意しながら利用する
及ぼしている影響の理解 (総合・体育)
IDやパスワードの大切さを知る(総合)
人の写真を撮る時や、他人の作ったものを使うときには、許可が必要なことを知る
情報モラルの必要性や情報 (総合・道徳)
自分や友達の個人情報を、知らない人にむやみに教えてはならないことを知る(総
に対する責任
合・道徳)
インターネット上には、役立つ情報のほかに正しくない情報や危険な情報もあるこ
とを知る(総合)
望ましい情報社会の創造に メディアを経由した情報を受信・発信する際には、情報のすべてを表現することは
できないことを知る(総合・国語・社会)
参画しようとする態度
文部科学省ホームページ 「初等中等教育の情報教育に係る学習活動の具体的展開について」平成 18 年 8 月
等教育における教育の情報化に関する検討会 情報教育の目標で分類した学習活動一覧別添 2 小学校段階
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/08/06082512/001/002.pdf
114
初等中
28
学校図書館を、どのように活用すればよいか
学校図書館は、知的な資源を保管・整理し、利用者の求めに応じて提供するところです。
情報化社会において図書に限らずメディアは多様化していますが、学校図書館が、図書資
料を中心に必要な情報を入手する場所として、重要な役割を果たしていることに変わりは
ありません。ここでは、学校教育の場において、学校図書館をどのように計画的に活用す
ればよいかについて、述べていきます。
ポイント
1
学習・情報センターとしての活用‥‥各教科等や総合的な学習の時間での計画的な
利用を進め、子どもの主体的、意欲的な学習活動を充実させましょう。
2 読書センターとしての活用‥‥日常の読書活動、各教科等における読書活動での積
極的な利用を進め、読書に親しむ習慣や態度を育てましょう。
(1) 学校図書館の役割
① 学校図書館法から
学校図書館法第2条によると、学校図書館とは、次のように定義されています。
学校図書館とは、図書、視聴覚教育の資料その他学校教育必用な資料を収集し、整理
し、及び保存し、これを児童又は生徒及び教員の利用に供することによって、学校の教
育課程の展開に寄与するとともに、児童又は生徒の健全な教養を育成することを目的と
して設けられる学校の設備をいう。
これによると、学校図書館の目的は、「学校の教育課程の展開に寄与すること」と、「児童
生徒の健全な教養を養成すること」の二つに整理することができます。
同じく学校図書館法第4条には、学校図書館の運営について、
「学校図書館は児童又は生
徒及び教員の利用に供するものとする」と示されています。
児童生徒・教師ともに、学校教育の中で学校図書館を有意義に活用していくことが求め
られているのです。
② 学習指導要領から
学習指導要領総則(平成 10 年 12 月)の指導計画作成上の配慮事項には、
「学校図書館を計
画的に利用しその機能の活用を図り、児童(生徒)の主体的、意欲的な学習活動や読書活動
を充実すること」と示されています。
また、国語科の「読むこと」の領域には、次のような指導事項が示されています。
・易しい読み物に興味をもち、読むこと。(小学校第1・2学年)
・いろいろな読み物に興味をもち、読むこと。
(小学校第3・4学年)
・自分の考えを広げたり深めたりするために、必用な図書資料を選んで読むこと。
(小学校
第5・6学年)
・様々な種類の文章から必要な情報を集めるための読み方を身に付けること。
(中学校第 1
学年)
これらの記述からも分かるように、学校図書館は、①児童生徒が自ら学ぶ学習・情報セ
115
ンターとしての役割と、②豊かな情操をはぐくむ読書センターとしての役割とをもち、学
校の教育活動に計画的に活用されることが求められているのです。
(2) 学習・情報センターとしての学校図書館の活用
① 各教科等や総合的な学習の時間での計画的な利用
各教科における課題解決のための調べ学習をはじめ、特別活動や総合的な学習の時間の
中でも、有効に学校図書館を利用していくことができます。児童生徒が調べやすいように、
事前に単元の学習に関係する図書を集めてコーナーを作っておくことがあってもよいでし
ょう。ディベートの学習を取り入れた場合など、事前の調べる活動が大切になります。そ
れぞれの学習の予習などで、主体的に児童生徒が調べられるように学習計画を組むことが
大切です。
また、学習・情報センターとしての活用年間計画を立てて、事前に利用日が重ならない
ような工夫や、校内の学校図書館の運営をスムーズにする工夫も必要です。
② 幅広い図書館資料の充実や、情報機器の活用
意欲的に調べ学習ができる環境をつくるためにも、図書館資料は、幅の広いジャンルの
もの、古いものから最新のものまでが必要でしょう。主体的に学習に取り組むことができ
るように、コンピュータや情報通信ネットワークの活用により、公立図書館との連携も可
能です。各教科等の計画に合った学校図書館の整備とその利用を工夫しましょう。
(3) 読書センターとしての学校図書館の活用
① 本が好きになり、読書に親しむような図書館の利用
活字離れ、読書嫌いの児童生徒の増加が危惧される中で、学校においては意図的に本に
親しませる機会を増やすことが大切です。まずは、学校図書館のゆったりしたスペースで
読書させ本に慣れ親しませ、本が好きな児童生徒を増やしたいものです。
また、朝の読書、特別活動等において、学校図書館の有効利用が望まれます。朝の読書
の時間に、学校図書館を学級ごとに日替わりで利用したり、図書を貸し出したりすること
も、読書に親しむようになる方法です。その際、教師自ら読書に親しむ姿を見せることが
大切です。教師も児童生徒とともに読書をするようにしたいものです。
② 各教科等における読書活動での図書館の利用
各教科等においても、機会をとらえて読書活動を位置付ける必要があります。
例えば、国語科の授業では、定期的に読書活動として学校図書館を利用する日を決めて
おくこともよいでしょう。読書に親しみ、ものの見方や考え方を広げたり、自己の生活を
向上させようとしたりする態度をはぐくむため、読書をするだけではなく、読書日記や読
書紹介、集団読書の後の話し合いなどを工夫することもできます。
また、朝の会や帰りの会で、継続的に本の紹介をすることによって、学校図書館の利用
を促すこともできます。児童生徒の望ましい読書習慣を形成するために、各教科等の授業
を中心に年間計画を立てて、学校図書館を活用した読書活動を実施しましょう。
《参考文献》
・北九州市教育委員会
・文部省
116
『学校図書館運営等の手引<運営編>』
『小・中学校学習指導要領解説
総則編』
1999 年
1995 年
文責
勝山
優子
命のつながり
光貞小学校5年児童
年度人権週間入選作品)
ぼくが小さなころ、妹が生まれた。
初めて人が生まれたのを見た日だ。
小さかったので、よくわからなかったけど
心の中がキューッとちぢんで熱くなった。
小さな手が動いていたのを覚えている。
姉ちゃんも、ぼくも、妹もみんな
あんなふうにして生まれてきたんだな。
一人一人の命が
こうしてつながり
こうして受けつがれていくんだ。
今、初めて、自分の心で実感した。
あの日、ぼくにとって
大切な小さな命が生まれたんだ。
毎日 、 毎 日、どこ かでだれ かにとって
特別な命が生まれてきて い る。
命の尊さは、みんな同じ。
命は 縦にもつながり、横にもつながって いく。
(平成
15
特別支援教育
Ⅳ
117
1
本市において、特別支援教育は、どのように進められているか
「今後の特別支援教育の在り方について(最終答申)
」(注1)では、障害の種類や程度に
応じ特別の場で指導を行う従来の「特殊教育」から、通常の学級に在籍するLD・ADH
D・高機能自閉症等の児童生徒も含め、障害のある児童生徒に対してその一人一人の教育
的ニーズを把握し適切な教育的支援を行う「特別支援教育」への転換を図ることが提言さ
れました。ここでは、小・中学校における特別支援教育の体制や、それぞれにおける指導
の内容等について、述べていきます。
ポイント
1
特別支援教育とは、児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握して、適切な教育的支
援を行うことです。
2 特別支援教育は、①養護学校、②小・中学校に設置している養護学級及び通常の学
級、③通級指導教室等で行っています。それぞれにおける指導の対象となる児童生徒、
指導内容等について、よく理解をしておきましょう。
3 自立活動とは、特別支援教育における中心となる教育領域です。
(1) 養護学校
本市では、障害等に応じた教育を、養護学校や、小・中学校に設置している養護学級及
び通常の学級、通級指導教室等において行っています。
養護学校では、障害の状態に応じて充実した学校生活を送ることができるよう、施設・
設備の充実を図っています。また、障害の状態等に応じた教材・教具の工夫改善を行うと
ともに、個別指導のための自立活動室等を用意しています。さらに、将来の社会的自立を
目指す職業教育の場として、作業学習室や農園等も整備しています。
① 知的発達に遅れのある児童生徒のための学校
知的障害養護学校では、知的発達の遅れの状態が中度以上の児童生徒や、軽度だが社会
的適応力が特に未発達な児童生徒を対象にして、小学部、中学部、高等部での教育を行っ
ています。それぞれの学部では、一人一人の児童生徒の障害に基づく種々の困難の改善・
克服を目指し、もっている力を最大限に伸ばすことを目標にしています。また、児童生徒
の特性を考慮し、身辺自立の技能と習慣を身に付ける等、社会的適応力を身に付け、社会
参加のための知識、技能及び態度を養うことに重点を置いています。
② 肢体が不自由な児童生徒のための学校
運動や動作に障害があり、専門的な指導を必要とする児童生徒のために、肢体不自由養
護学校があります。肢体不自由養護学校では、児童生徒一人一人の障害の特性や発達段階
に応じた各教科等の学習の外に、障害に基づく種々の困難を改善・克服するための自立活
動を重視しています。また、一人一人の可能性を広げるための教材・教具の開発を行い、
コンピュータ等の機器の活用を図っています。
また、本校に通学できない障害の重い児童生徒のために、教師が家庭に出かけて学習す
る訪問教育も行っています。
118
③ 病弱の児童生徒のための学校
慢性疾患や虚弱体質のため手厚い配慮が必要な児童生徒や、心身症等により通常の学級
に登校できない児童生徒のために病弱養護学校が設置されています。
病弱養護学校では、医療機関と密接な連携を図りながら、児童生徒一人一人の実態に応
じて、児童生徒のペースに合わせて各教科等の学習を進めています。
各教科等の学習では、
学習内容を精選し、教材・教具の開発や指導方法を工夫し、楽しく学習できるようにして
います。病院に入院している児童生徒には、病院内で学習できるように養護学校から教師
が出向き訪問教育を行っています。また、門司養護学校では、原則として寄宿舎に入舎し、
24 時間の指導体制の中で心身の健康回復を図っています。
障害のある児童生徒等一人一人の教育的ニーズに応じて適切な指導及び必要な支援を行
う特別支援教育を進めていく上で、盲・聾・養護学校は様々なニーズに適切に対応してい
く必要があります。
現在、盲・聾・養護学校に在籍する児童生徒のうち、半数近く(肢体不自由養護学校に
おいては約4分の3)の児童生徒が重複障害学級に在籍するなど、障害の重度・重複化へ
の対応が喫緊の課題となっています。
(2) 養護学級
小・中学校には、障害があるために通常の学級における指導では十分にその効果を上げ
ることが困難な児童生徒を対象に、少人数で編制された養護学級(特殊学級)が設置され
ています。
養護学級では、特別の教育課程を編成し、個別の年間指導計画(個別の教育支援計画)
を作成する中で、発達段階に応じた教育を行い、障害に基づく種々の困難の改善・克服を
図るとともに、集団生活に参加していく力を培っています。また、学校行事や一部の教科
等の学習において、日常の教育活動の中で通常の学級との交流活動も行っています。
本市には、以下のような養護学級が設置されています。
① 知的発達に遅れのある児童生徒のための学級
知的発達の遅れの状態が軽度の児童生徒のために、知的障害養護学級があります。小学
校の養護学級では、体力づくり、基本的生活習慣の確立、社会生活に必要な言語の理解や
表現等、基礎的な力を伸ばす指導を行っています。中学校の養護学級では、将来の社会生
活や家庭生活に必要な知識、技能及び態度を養い、社会参加・自立への力を育てる指導を
行っています。
② 情緒や行動の不安定な児童生徒のための学級
情緒や行動が不安定な児童生徒や、人とのかかわりが難しい児童生徒のために、情緒障
害養護学級があります。一人一人の情緒の安定を図りながら、人との円滑なかかわり方等
の指導を行っています。
③ 耳の聞こえの不自由な児童生徒のための学級
難聴の児童生徒のために、難聴養護学級があります。補聴器の使い方、聞き取りや発音
の仕方等に配慮しながら学習指導を行っています。
119
④ 健康回復を目指す児童のための学級
肥満により健康上配慮の必要な児童のために、病弱・身体虚弱養護学級(通称健康教室)
があります。
各教科等については通常の学級と同じように学習し、専門医と連携しながら、
肥満解消の指導や食事指導を行い、健康回復を目指しています。
(3) 通級指導教室
通常の学級に在籍している軽度の障害のある児童生徒は、必要に応じて通級による指導
を利用することができます。その場合、教科等の学習は通常の学級で行い、児童生徒の障
害に基づく種々の困難の改善・克服を図るため、自立活動の指導を通級指導教室で行うこ
とになります。
本市では、次のような通級指導教室を開設しています。通級による指導は、週1~3時
間の個別指導が基本です。
① ことばの通級指導教室
発音が気になる、ことばがはっきりしない、ことばがつまったり出にくかったりする、
という児童生徒のための教室です。正しい発音や自分に合った話し方等、一人一人に応じ
た指導や話すことに自信を付けるための指導等を行っています。
② 情緒の通級指導教室
学習活動や集団行動にうまく参加できない、気持ちのコントロールが苦手、という児童
生徒のための教室です。学習への体制をつくる指導、児童生徒相互のかかわりを育てる援
助、場面に合った会話や行動の練習等を行っています。
③ 耳の通級指導教室
軽度の難聴の児童生徒のための教室です。補聴器の正しい取扱い方、聞き取りや発音の
仕方、分かりやすい話し方の指導とともに、耳の仕組みの学習や難聴理解にも取り組んで
います。特に中学校では、進路等の情報の提供や自分自身の障害受容への指導も行ってい
ます。
④ 目の通級指導教室
弱視の児童生徒のための教室です。単眼鏡やルーペの使い方、書見台を使った書き取り
や拡大テレビを使った読み取りの仕方、上手な見方の指導を行っています。
(4) 自立活動
自立活動は、特別支援教育において大切な領域です。その目標は「個々の児童又は生徒
が自立を目指し、障害に基づく種々の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、
技能、態度及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基盤を培う」と盲学校・聾学校及
び養護学校学習指導要領に示されています。
これは、障害のために日常生活や学習場面で出てくる困難を自分で理解したり、そうし
た困難を改善・克服したりする学習を行うことを意味しています。養護学校、養護学級の
児童生徒はもちろん、通常の学級の軽度発達障害児童生徒の特別支援教育においても、中
心となる教育領域です。
120
① 自立活動の内容
自立活動の内容には次の五つの区分があり、幅広い内容が含まれています。しかし、こ
れらの内容すべてを指導するわけではありません。児童生徒一人一人の障害に基づく困難
に応じて、必要な内容を選んで指導を行います。その際に、
「どのような困難があるかを特
定し、どのような指導内容を選ぶのか」を、だれがどのように行うかが重要です。保護者
の思いや児童生徒が困っていること、教師の問題意識、関係する専門家が考える問題点、
及びそれらの問題の程度や優先順位は、立場によっても異なってきます。これらをすり合
わせて、関係者の合意のもとに、一人一人にどのような困難があるのかを特定し、目標や
内容を決めていきます。
ア 健康の保持‥‥生命を維持し、日常生活を行うために必要な身体の健康状態の維持・
改善を図る観点から内容が示されています。
イ 心理的な安定‥‥心理的な安定を図り、対人関係を円滑にし、社会参加の基盤を培う
観点から内容が示されています。
ウ 環境の把握‥‥感覚を有効に活用し、空間や時間などの概念を手がかりとして、周囲
の状況を把握したり、環境と自己との関係を理解したりして、的確に判断し、行動でき
るようにする観点から内容が示されています。
エ 身体の動き‥‥日常生活や作業に必要な基本動作を習得し、生活の中で適切な身体の
動きができるようにする観点から内容が示されています。
オ コミュニケーション‥‥場と相手に応じて、コミュニケーションを円滑に行うことが
できるようにする観点から内容が示されています。
② 自立活動の「個別の指導計画」
自立活動の指導については、
「個別の指導計画」を作成することが、学習指導要領で義務
付けられています。障害が一人一人異なるだけでなく、さらにその障害のために生活や学
習活動に出てくる困難は千差万別です。ですから、自立活動の指導計画は、児童生徒一人
一人に応じて個別に作成することになります。
児童生徒の将来の可能性を広い視野から見通した上で、現在の発達段階において育成す
べき、具体的な指導の目標と指導内容を選定し、重点的に指導することが大切です。また、
教師の協力体制の下、専門の医師等と連携協力しながら指導方法の創意工夫に努め、指導
の効果を上げていくことが必要です。
《参考文献・引用文献》
・文部科学省
『今後の特別支援教育の制度の在り方について(調査研究協力者会議最終報告)』
・文部科学省
『特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)』
・北九州市教育委員会
『北九州市の養護教育』
・北九州市教育委員会
『通級指導教室のしおり』
・文部科学省
2003 年
(注 1)
2005 年
『盲学校、聾学校及び養護学校学習指導要領解説-自立活動-』
・全国肢体不自由養護学校校長会
『特別支援教育に向けた新たな肢体不自由教育実践講座』
文責
(1)永冨
文久、(2)金田
孝一、(3)山田
浩司、(4)橋田
由美子
121
2
通常の学級における特別支援教育は、どのように進めればよいか
各学校において、通常の学級に在籍するLD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒に
対する指導及び支援が大きな課題となっています。ここでは、通常の学級においてどのよ
うに特別支援教育を進めていくのか、校内の体制づくりや学級担任に必要な配慮などにつ
いて、述べていきます。
ポイント
1
学級担任が、子どもの「ちょっと気になる」点について考えてみること、これが、
一人一人の教育的ニーズに目を向けていくきっかけとなります。
2 校内委員会の役割は、特別な教育的支援が必要な子どもの早期発見と実態把握、学
級担任に対する適切な支援を行うことです。
3 指導のアイデア集(注1)を参考にしながら取組を進めていきましょう。
(1) 特別な教育的支援を必要とする児童生徒
特別支援教育とは、児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握して適切な教育的支援を行
うことです。通常の学級において特別支援教育を進めるためには、学級担任の温かい児童
生徒理解を基盤にして、まず特別な教育的支援を必要とする児童生徒に気付くことが大切
になります。
教室の児童生徒をじっくり観察してみると、例えば、次のようなことに気付くことはな
いでしょうか。
○ 対人関係において
・たくさんの人とすぐに打ち解けることが苦手である。
・友だちと遊んでいると、けんかになることがある。
・家でよくしゃべるのに学校ではなかなかしゃべらない。
・いつも決まった人、決まった場所でしゃべろうとする。
○ コミュニケーションにおいて
・一定の口調で話したり、おうむ返しが混じったりする。
・何回も練習すれば、集団の中でも指示通りに動ける。
・自分の言いたいことを表現することが苦手である。
○ 日常生活において
・水遊びや物を見ることに夢中になり、呼びかけても返事をしてくれないことがある。
・物を置く位置や順序など、決まったやり方を一生懸命守ろうとする。
・動きが活発で、じっとしていることを好まない。
○ 学習において
・鏡文字になる、または形の整った文字を書くことが苦手である。
・計算はできるが、図形や文章題で混乱することがある。
・ボール運動や鉄棒などでは、手足の動きがぎこちない。
・身の周りに気をとられやすく、一つの課題をじっくり取り組むと飽きやすい。
このように、
「ちょっと気になる」
「どこにつまずいているのかな」
「どうしてできないの
かな」
「こんなとき、どうしたらいいのかな」と考えてみること、これが、一人一人の教育
122
的ニーズに目を向けていくきっかけとなります。
学習活動や集団行動にうまく参加できないという、特別な教育的支援を必要とする児童
生徒に対し、次のような指導・支援を具体化し、子ども一人一人がよりよく学校生活を送
ることができるようにします。
① 学習指導の工夫
学習指導上の工夫や学習環境の整え方、活動への見通しのもたせ方など、つまずきに応
じて指導を工夫します。
② 学級の子どもたちへの理解・啓発
周りの子どもたちに対して、特別な援助や配慮への理解を促していきます。適切なかか
わり方を伝えて、協力関係をつくっていけるようにします。
③ 家庭との協力と連携
児童生徒の発達に関すること、家庭での接し方、過ごし方など、日常生活全般の情報交
換を行い、協力・連携して指導に当たるようにします。
(2) 校内体制づくり
① 校内委員会の役割
校内委員会の役割は、特別な教育的支援が必要な児童生徒の早期発見と実態把握、学級
担任に対する適切な支援を行うことです。全教職員が児童生徒や保護者への対応を共通理
解し、指導に当たります。
② 校内委員会の構成
校内委員会の構成は、校長、教頭、教務主任、特別支援教育コーディネーター、生徒指
導主事、対象児の学級担任と学年主任、養護教諭、必要に応じて関係職員及び外部からの
関係者等が挙げられます。
③ 校内委員会の流れ
下図に示したのは、校内委員会の大まかな流れです。学級担任としては、まず特別な教
育的支援を必要とする児童生徒に気付くこと、気付いた問題点は担任一人で抱え込まずに
相談する姿勢をもつことが大切になります。
学級担任の気付き
学級担任の気づき
実態把握様式Ⅰの実施
教育相談担当
実態把握様式Ⅱの実施
校内委員会
実態把握様式Ⅲの実施
巡回相談
出張教育相談
授業観察と校内検討会
123
④ 校内委員会の取組
下図に示したのは、校内委員会の取組の例です。専門家チームと連携をしながら、学期
ごとに計画的な取組を進めています。
(3) 通常の学級において担任ができる配慮
北九州市教育委員会では、
「小・中学校における 通常の学級担任のための指導のアイデ
ア」
(注1)という冊子を各学校に配布しています。このアイデア集を参考にして、関係機関
との連携を図りながら個々の教育的ニーズに応じた指導・支援の具体化に向けた取組を進
めていくことが大切です。
① 学級全体の指導の工夫
学級担任は、学級全体をまとめ、指導することが求められています。しかし、日々の学
級指導や生活指導の中で「こんな時はどうすればいいのかな」と対応に苦慮したことはあ
りませんか。アイデア集では、
「1.気持ちのよい学習環境」
「2.指示をみんなに伝える」
「3.
時間やルールを守る」「4.忘れ物を少なくする」「5.集中して視写できる工夫」が紹介され
ています。指導方法の見直しや工夫に役立ててください。
② 特別な教育的支援が必要な児童生徒への指導・対応の工夫
どの学級にも「一斉の指示だけでは授業への参加が難しい」など、気になる児童生徒が
何人かいます。そのような児童生徒もできるだけ集団行動に参加できるように、学級担任
としての指導・対応の工夫が望まれます。
アイデア集には、「1.学校生活の一日の流れに沿った指導・支援の工夫」「2.各教科等の
指導・支援の工夫」が示されており、学習指導・生活指導の両面から、指導・支援の具体
化が述べられています。児童生徒の実態や背景が異なれば、対応の仕方も一人一人異なり
ます。
「このようにすれば、必ずうまくいく」というようにはいきません。学級担任は、児
童生徒の実態を把握しながら、できることから取り組んでいくことが大切です。
《参考文献》
・北九州市教育委員会 『小・中学校における 通常の学級担任のための指導のアイデア-特別な教育的支援を必要な
子どもへの指導・支援の工夫-』
・文部科学省
2005 年(注1)
『小・中学校におけるLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)、高機能自閉症の児童生
徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)』
文責
124
山田
浩司
3
個別の教育支援計画は、どのように作成すればよいか
ここでは、個別の教育支援計画とはどのようなものか、また支援計画作成に当たっての
手順や留意点などについて、述べていきます。
ポイント
1
個別の教育支援計画とは、一人一人の教育的ニーズを正確に把握して、長期的な視
点から、福祉・医療・労働等関係機関と連携しながら、一貫した的確な教育的支援を
行う計画のことです。
2 個別の教育支援計画は、各学校におけるコーディネーター的役割を担う者が中心と
なって、対象児童生徒が在籍する学校が作成します。
3 個別の教育支援計画作成に当たっては、学校内の組織体制を整備するとともに、関
係機関との連携や保護者の積極的な参画を得るようにします。
(1) 個別の教育支援計画とは
個別の教育支援計画とは、障害のある児童生徒一人一人のニーズを正確に把握し、長期
的な視点から、福祉・医療・労働等関係機関と連携しながら、一貫した的確な教育的支援
を行う計画です。
これまで本市の養護学級や養護学校で作成されてきた個別の年間指導計画は、個別の教
育支援計画の一部になります。福祉・医療・労働という幅広いニーズを背景とする個別の
教育支援計画の中で、教育的ニーズの部分を教育課程に具体化したものが個別の年間指導
計画です。
(2) 対象となる範囲
対象となる範囲は、小学校、中学校、高等学校、盲・聾・養護学校(小学部・中学部・
高等部)に在籍し、特別な教育的支援の必要な、障害のある児童生徒になります。
(3) 対象となる障害
対象となる障害は、視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱、言語障害、情
緒障害、LD、ADHD、高機能自閉症等です。
(4) 個別の教育支援計画の内容
個別の教育支援計画の主な内容は、次のとおりです。
① 特別な教育的ニーズの内容
② 適切な教育的支援の目標と内容
福祉、医療等教育以外の分野からの支援が必要な場合は、その旨を併せて記述します。
③ 教育的支援を行う者・機関
保護者を含め、教育的支援を行う者及び関係機関と、その役割の具体化を図ります。
125
(5) 個別の教育支援計画の作成担当者と作成プロセス
個別の教育支援計画は、対象となる児童生徒が在籍する学校が作成します。学級担任や
学校内及び他機関との連絡調整役となるコーディネーター的役割を有する者が中心となっ
て、具体的な内容を確定します。
作成プロセスは、次のとおりです。
① 障害のある児童生徒の実態把握
② 実態に即した指導目標の設定
③ 基本的な教育的支援内容の明確化
④ 評価
(6) 個別の教育支援計画作成に当たっての留意点
① 学校内の組織体制の整備
学校内外の関係者の意見を集約して円滑な計画策定が可能となるよう、特別支援教育コ
ーディネーターを置くほか、学校内において計画作成委員会(仮称)のような組織を設け
ます。
② 小・中学校への支援体制の活用
養護教育センターの巡回相談や養護学校の教育相談(地域支援)機能を活用します。
③ 福祉、医療、労働等との連携
日常的な連携を行うため、特別支援教育コーディネーターと関係機関の部署(担当者)
の明確化を図るなど、相互の連携システムを構築します。特に、他分野で個別の支援計画
が作成されている場合には、それらとの連携や接続を図り、一人一人の児童生徒に応じた
総合的な支援計画にしていくことが重要になります。
④ 保護者の参画
児童生徒への適切な教育的支援を行う場合に、保護者は重要な役割を担います。個別の
教育支援計画の作成作業においては、保護者の積極的な参画を促し、内容について保護者
の意見を十分に聞いて、計画を作成し改訂していくことが必要です。
⑤ 個人情報の保護
個人情報を確実に保護するため、管理や使用の具体的な在り方について検討しておくこ
とが大切です。
文責
126
金田
孝一
教師のしおり -再改訂試案版-
平成19年1月5日
発
行
第1刷発行
北九州市立教育センター
北九州市八幡西区相生町20番1号(〒806-0044)
TEL 093-641-1775
FAX 093-641-1833
E-MAIL
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