70 日本写真学会誌 2005 年 68 巻 1 号:70–72 インクジェットプリントで思い通り の色を出すには How to Make Inkjet Print with Desired Color 田 代 耕 二 * Kouji TASHIRO* インクジェット ICC-PROFILE L*a*b* カラースペース レンダリングインテント inkjet ICC-PROFILE L*a*b* color space rendering intent インクジェットプリンタで画像データに忠実な出力をする方法について説明した.RGB データは機器固有の色であり,正 確な色情報が伝わらない.ICC-PROFILE を使用してデータを L*a*b* 等の機器に依存しないカラースペースに変換し,こ れを用いることでデータに忠実な出力物を得ることができる. The way to make inkjet print exact to original color image data was described. Accurate color information cannot be communicated by using RGB image data that depend on devices. ICC-PROFILE converts RGB image data to device independent L*a*b* data, and accurate color print image can be gotten by using the L*a*b* data. 1. まえがき 2. 忠実に出力する為のしくみ デジタルカメラとインクジェットプリンタの所有率は益々 高まっており,撮影した画像をインクジェットプリンタを用 モニタで見た物と同じプリントが得られないのには 2 つの 理由がある. いてご家庭で出力をした経験をお持ちの方は多いと思う.し 2.1 機器間での色の違い かしながら銀塩プリントは“プロによるお店プリント”であ 1 つめの理由は再現できる色の範囲(カラースペース)が るのに対しインクジェットプリントは, “自分プリント”であ 機器毎に異なる事にある.例えば R = 0,G = 255,B = 255 るため,きれいに出力できないと感じの方もおられるのでは のデータ値は,プリンタから見れば一番赤い色を出せという ないだろうか.一度覚えてみると何とも無い事ではあるが, 指示であるが,このような指示を出しても出力結果はプリン “きれい”に出力するにはプリンタドライバでの用紙設定や画 タの種類,使用する用紙の種類等で大きく異なるのが普通で 像補正アプリケーション設定等でいくつか気を付けるべき点 ある.このように RGB 値は機器等に依存する為デバイスデ があり,これらを間違えた事例を時々見かけることがある. ペンデントカラースペースと呼ばれるが,この RGB 値だけ ここまでは“きれい”に出せないという悩みであるが,ど では機器間で色情報等を正しく伝達することができない.そ うもこれとは別の悩みもあるようである.それは“忠実に” こで機器に依存しないカラースペース=デバイスインデペン 出力できないという事ではないかと思う.デジタル写真はモ デントカラースペースとして L*a*b* や XYZ のように測定可 ニタ上での画像確認が可能であり,一旦モニタで画像を見て 能で広い絶対的な表色系が用いられる. しまうとユーザーはそれがそのままの感じでプリントされる ただし,いきなり L*a*b* を用い機器間で情報を伝達する と感じるのが当然かもしれない.しかし,実際はモニタとは 事は不可能な為,機器毎に L*a*b* 値と RGB 等のデータ値の 違った感じでプリントされてしまう.特に修正,加工を加え 関係を記述した ICC-PROFILE を添付し,RGB 情報を L*a*b* て画像データに撮影者の意図を加えた場合にはこの差はやっ に変換しながら情報を伝達するのである.例えると L*a*b* は かいである.このため思い通りのプリントを得る為に何度も 世界中で共通語として用いられることの多い英語のようなも プリント / 修正の試行錯誤を繰り返された方も多いのではな のであり,ICC-PROFILE は英和辞典や和英辞典のような翻訳 いだろうか.今回はできるだけデータに忠実にプリントする 辞書であろう.世界中の人々が辞書を片手に英語で話してい ための方法について少し詳しく説明を行いたい. る様子を想像して頂くとわかりやすいと思う. Fig. 1 を見て頂きたい.左下の撮影画像データの RGB 値は 平成 17 年 1 月 27 日受付・受理 Received and accepted 27th, January 2005 * コニカミノルタフォトイメージング株式会社 開発センター 〒 191-8511 東京都日野市さくら町 1 番地 KONICA MINOLTA PHOTO IMAGING, INC., R & D Center, No. 1 Sakura-machi, Hino-shi Tokyo 191-8511, Japan 田代耕二 インクジェットプリントで思い通りの色を出すには 71 入力 ICC-PROFILE を参照する事で L*a*b* 値に変換される.モニタへはこの L*a*b* 値 に近似の RGB 値をモニタ ICC-PROFILE の 中から探しだし伝える.出力プリンタへも 同様に撮影データの L*a*b* 値に近い RGB 値を出力 ICC-PROFILE の中から探し出し 伝える.このように L*a*b* 値(見た目の 色)が同じになるようにデータ値である RGB 値を変更して各機器で情報を伝達し て行くのである.これで見るとお分かりに なると思うがモニタとプリント物の色を近 づけるにはモニタも十分にキャリブレー ションされている事が必要となる.モニタ Fig. 1 ICC-PROFILE を使用した色情報の伝達模式図 のキャリブレーションはプリンタと同様に ICC-PROFILE を使用する方法や目視で簡 易的に合わせる方法があるがここでは割愛させて頂く. 2.2 ドライバーでの画像自動補正 モニタで見た物と同じプリントが得られない 2 つめの理由 はプリンタドライバによる画像自動補正である.プリンタド ライバの初期状態では“きれい”と感じられるよう様々な画 像修正が自動で行われ出力されている.Fig. 2 にあるインク ジェットプリンタの初期設定であるドライバー色補正を用い グレースケールを出力した際の輝度特性を示す.データに忠 実であれば入力と出力は■の実線のように直線になるが実際 は▲の破線のように上に凸なっている事が多い.この場合に は入力データは明るめの色で出力される事になる.このよう なカーブにすると少々失敗した写真でも平均的にはきれいに 出力する事ができるが,忠実性は失われてしまう.したがっ て忠実に色を出力する為にはこれらの機能は off にする必要 がある.ちなみに●の実線は ICC-PROFILE 使用時の一例で Fig. 2 一般的なプリンタドライバー色補正使用時の入力輝度に対 する出力輝度特性 ある.かなり忠実に出力されているのがお分かり頂けると思 う.Fig. 3 は実際の画像をドライバー色補正で出力した画像 と ICC-PROFILE を使用して出力画像の例である.2 つの仕上 がり雰囲気の違いがよくわかると思う. 3. 実際のプリント方法 では実際にはどのようにすればよいのかもう少し具体的に 書いて行こう.ICM や Colorsync のような OS の機能を用い るなど い く つ か の 方 法 が あ る が こ こ で は Adobe 社製 Photoshop を用いた方法で説明する.Photoshop 以外でも各プ リンタメーカーのプリントソフトやコニカミノルタの DimageViewer 等デジタルカメラ付属ビューワーソフトの一 部に ICC-PROFILE を用いた印刷に適した物があるが,いず れも使い方や注意事項は Photoshop の場合と同じである. Fig. 3 ドライバー色補正出力とICC-PROFILE出力時の仕上がり比較 (a)ドライバー色補正出力, (b)ICC-PROFILE 出力 (本誌 p. 83 カラー参照) Photoshop で ICC-PROFILE を使うには ver6.0 以上が必要に なる.作業は以下の 3step で行う. インストールされることが増えてきている.また各プリンタ 3.1 ICC-PROFILE の入手とインストール メーカーやメディアメーカーも web 等でも公開を始めている. まず RGB 値と Lab 値との関係を記述した ICC-PROFILE の ICC-PROFILE はプリンタや用紙の種類毎に専用の物が必要 入手とインストールを行う.最近は各プリンタメーカーとも となるため,是非これらの情報をご確認されたい.例えばコ プリンタドライバインストール時に ICC-PROFILE が同時に ニカミノルタでは web サイト http://konicaminolta.jp/support/ 日本写真学会誌 68 巻 1 号(2005 年,平 17) 72 download/iccprofile/index.html にて ICC-PROFILE を提供して ③絶対的な色域を維持:白色点の補正が無い以外は相対的と 同一.白地部分にもインクが付く為写真用途ではあまり いる. Web 等から入手した ICC-PROFILE は OS 以下の所にコピー 使われない. ④彩度:入力データの相対的な彩度値を保持し,色域外の色 する. Windows98/Me の場合: C:¥WINDOWS¥SYSTEM¥COLOR Windows2000 の場合: C:¥WINNT¥SYSTEM32¥SPOOL¥DRIVERS¥COLOR Windows XP の場合: C:¥WINDOWS¥SYSTEM32¥SPOOL¥DRIVERS¥COLOR Mac OS 8.6 の場合: システムフォルダ /ColorSync 特性 Mac OS 9.x の場合: システムフォルダ /ColorSync プロファイル Mac OS X.x の場合: ライブラリ /ColorSync/Profiles は彩度の同じプリンタ色域内の色に変換.階調性が悪い 為写真には不適.ビジネス文書等用. 先ほど ICC-PROFILE を翻訳辞書に例えたが,レンダリング インテントを例えると翻訳の仕方の違いといえよう.知覚的は 自然な日本語になるように前後の流れを重視した意訳であり, 相対的な色域を維持は知覚的よりも自然さは劣るが厳密性を 持たせた翻訳をイメージして頂けたら分かりやすいと思う. 3.3 プリンタドライバの設定 最後に自動画像補正のキャンセルを行う.用紙サイズや用 Windows 機の場合はファイルを選択し右クリックでプロファ 紙種類等の設定を行った後,Canon 社製プリンタでは色調整 イルのインストールを選択すると上記のコピー作業は不要で をマニュアルに変更し,マッチング方法で“しない”を選択 ある. する.EPSON 社製プリンタでは詳細な設定に入りカラー調 3.2 Photoshop の設定 整で“色補正無し”を選択する事で自動画像補正をキャンセ 次は入力画像と出力画像の ICC-PROFILE を指定して共通 ルする事ができる.ここでは主な例を簡単に書いたが詳細な の言語で話ができる準備の工程である.画像を開いた後,プ 設定等は機種毎に変わる場合があるのでプリンタメーカーや リントプレビュー画面を開き,その他のオプションにチエッ メディアメーカーの web 等を参照して頂きたい. クを入れ,カラーマネジメントを選択する.Fig. 4 はこのと 以上の 3 step を踏んでプリントを行えば初期設定よりも忠 きの画面の一部である.まずソースカラースペースを確認す 実に出力できるはずである.文章で書くと非常に複雑なよう る.デジタルカメラで撮影したものなど多くの画像データは に思えるが一度設定してしまえば後は簡単である.なお染料 sRGB である事が多いが,カメラによってはより色域の広い インクを使用しているプリンタでは印字直後の濃度や色調変 Adobe-RGB を使用している物もある.一般に sRGB 画像を 化が大きいため,プリント画像を見て再度画像修正を行う場 Adobe-RGB で開くと蛍光色の派手な色になり,逆に Adobe- 合は時間を置いてプリント画像が安定した後作業を行うこと RGB 画像を sRGB 画像で開くと地味な画像になるのですぐに をお奨めする.また,ここまでの説明でお分かりかもしれな 判ると思う. いが ICC-PROFILE は正確に色情報を伝える為の手段であり, プリントカラースペースのプロファイルは先ほどインス トールした物を用いるが,プリンタ,出力メディア,出力モー 表現できるカラースペースが広がる等の装置の性能向上や元 データ以上の仕上がり品位向上は期待できない. ドに沿った物を選択する.マッチング方法はレンダリングイ ンテントと呼ばれており,2 つのカラースペース間で色合わ 4. 最後に せ方法の指定である.Photoshop 上での名称とその特徴は以 今回ご紹介した方法は入力データ値を正しく伝えてプリン 下のようになるが,写真用出力としては知覚的又は相対的な トにする方法であり,Photoshop 等で画像を修正,加工して 色域を維持のどちらかを選べば良いと思う. 出力する際には有効な手段となる.しかしながら,最近のプ ①知覚的:肉眼で観察したカラーが元のカラーと違和感が無 リンタは様々な設定が可能で,写真調や Vivid-Photo といった いように,カラー間の視覚的な関係を保つように処理す 全体的な仕上がり調子の変更の他にもノイズ除去,出力ガン る.正確さは劣るが自然で階調に破綻が少ない. マ変更,カラーバランス変更,といった個別性能変更がドラ ②相対的な色域を維持:正確さを重視し,共通色空間部分は イバー上で簡単にできる.そしてこれらを選ぶことによりモ できるだけそのまま出力する.変換先に無い色は明度を ニタで見たとき以上にきれいな仕上がりが得られることも少 保ちながら適当な比例関係を持って置換する.また白色 なくない.この分野でメーカーが技術競争を行っているので 点が元のデータから補正される. 当然であると思う. インクジェットプリンタは銀塩写真のフイルムを選ぶのと 同様にプリンタの種類やメディア,ドライバー設定を選ぶ事 で色々な仕上がりを楽しむ事が可能である.いつもプリンタ ドライバのデフォルト設定で出力するのではなく,今回ご紹 介したような ICC-PROFILE を用いた忠実出力やその他の設 定を是非試して頂けたらと思う.必ずご自分のお気に入りの 設定が見つかるはずである. Fig. 4 Photoshop での入出力 ICC-PROFILE 設定例
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