カー・キャビネットからの距離はベタベタのオン・マイ クから最大で3メートルまで離すことができる。マイク の隣接効果だけでなく、スタジオのルーム・アンビエン トまで見事に再現されている。マイクの狙い方もスピー カーのセンター・キャップの真正面からエッジ部分まで の間で、微妙な位置にセット可能だ。レコーディングで あれば、リアンプという手法を使って、オン・マイクの 音とオフ・マイクのアンビエント・サウンドを使い分け 写真6 パワー・アンプのシミュレーションで、マーシャルなどで 使われているEL34パワー管をプッシュプルで動作させた状態を選 択している ることもできてしまう(写真4) 。 このマイキングの設定によって得られるサウンドの変 化は2×12インチとか4×10インチなど、スピーカ トやそれを拾うマイキングに加えて、その手前に位置す ー・キャビネットのタイプによっても異なるし、スピー る真空管パワー・アンプの部分もシミュレーションして カーの持っている指向性でも違ってくるのだから、これ くれるということだ。 も実にリアルだ。 そして、このマイクで拾った信号は±20dBという広 い可変幅を持った、ギターのサウンドに最適化された5 ワー真空管として定番の6L6、EL34(6CA7)、EL84 一般的なロード・ボックスと一線を画すのは、スピーカ バンドのイコライザーを通すこともできる。ライブの際 (6BQ5)、KT88から選択することが可能で、さらに回 ー・キャビネットとそれをマイクで拾うマイキングの部 などにPAのオペレーターに任せっきりにするのではな 路方式もそれぞれについてシングル/プッシュプルを選 分までをもリアルにシミュレーションした信号が得られ く、自分で積極的に出音をコントロールすることが可能 べるようになっている。加えて、パワー・アンプ回路の るということだ(写真2) 。 だ。 NFB(ネガティブ・フィードバック)で動作するプレゼ ンスやデプス(レゾナンス)などのコントロールも装備 実際に使用してみると、これまでのロード・ボックス しているという、これまたリアルなものとなっている という概念を完全に覆すほどの新次元の世界だ。試奏に ギターの歪みサウンドは、やはりチューブ・アンプの、それもパワー・アンプ部のオーバードライブで発生するモノが 出力に何もつながれていない、つまり負荷がかかってい はマーシャルのmodel 1987(JTM45)という50ワッ 一番気持ち良いサウンドだし、それを求めるギタリストも多い。このホンモノの真空管アンプならではのサウンドを、 ない状態だと、トランスの手前のパワー・アンプ回路に トのアンプ・ヘッドを使ったのだが、パワー・アンプ部 デジタルのギター・プリアンプもいろいろあるが、こ レコーディングでもライブでも手軽に使えてしまうという、ユニークなイクイップメントが、最先端のデジタル技術を ダメージを与えてしまう。本来流れるべき電流が流れず での心地良い歪みサウンドが、ライン出力からモニター のTORPEDO Liveと使うことによってデジタル臭さを 駆使して登場した。(文:アイク植野/Ike Ueno) に、上流で堰き止められた状態になり、氾濫してしまう を通して鳴ってくれるし、ヘッドホンでも同様だ。 なくし、音楽的で気持ちの良いチューブ・アンプのサウ ような感じだ。 モデリング・アンプは進歩したが… TORPEDO Liveには出荷時に、標準搭載で22種類の このため、真空管のアンプ・ヘッドのライン・アウト スピーカー・キャビネットが用意されており、TORPE- すことが可能だが、自宅でとなるとそうはいかない。都 だけ使う場合でも、必ずスピーカーをつないでいなくて DO Remoteというソフトウェアを使えば、さらにその 市部であったり深夜であればヘッドホンが必須で、そう はならない。スピーカーから音を鳴らしたくなくても、 バリエーションを増やすことが可能だ。現在トータルで でなければエレクトリック・ギターをナマ音で弾くとい これはマストなのだ。そこで、前述のパワー・アッテネ 45種類あり、その数は今後さらに増えるそうだ。 うことになってしまうだろう。 ーターや“ロード・ボックス”と呼ばれるダミー抵抗を (写真6)。 写真3 マイクの選択画面。楽器用集音マイクの定番、シュアーの SM57が選ばれている状態だ 様々な使い方が… 興味深いのはシミュレーションされているのがスピーカ 実際の使い方としては、使い慣れたマーシャルなどの ー・ユニット単体ということではなく、それが収められた アンプ・ヘッドのスピーカー・アウトとTORPEDO ウンドで、心地良くギターを弾きたいとしても、最近よ 使い慣れたアンプ・ヘッドのライン出力だけでなく、パ キャビネットのキャラクターまで再現されているというこ Liveを接続し、レコーディングであればS/PDIFデジタ く見かける数ワットのチューブ・アンプですら自宅で鳴 ワー・アンプ部で歪みが発生した状態のサウンドを、ラ とだ。例えば、同じセレッションのVintage 30というス ティーは飛躍的に向上している。また、DAWなどを使 らすのは不可能に近いはずだ。アンプのスピーカー出力 イン・レベルにしてレコーディングしたりすることが可 ピーカー・ユニットでも、マーシャルやフェンダー、さら ったレコーディング環境も、自宅で簡単に整えられるよ とスピーカーの間に接続して音量を下げることができ 能になるのだ。 にはブティック系のDiezelやBrunettiなどの異なるキャ うになり、マルチ・エフェクターを使わなくてもプラグ る、パワー・アッテネーターと呼ばれるものもあるが、 インのモデリング・アンプを使って、手軽にギター・サ どうしても音の迫力に欠けたり、期待するような音質に の歪みサウンドではあるのだが、スピーカー自体が持っ ウンドを録音できるようになった。 ならなかったりする。 ている音のキャラクターは反映されていないことになっ マルチ・エフェクターにもモデリング・アンプが搭載さ 真空管ギター・アンプのパワー・アンプ部での歪みサ れるようになった。弾き心地も含めたビンテージのチュ ーブ・アンプをイメージさせるレベルまで、そのクオリ しかしこれだけでは、確かに真空管のパワー・アンプ ル出力かTRSバランス型のオーディオ・アウトを使うこ 写真4 マイクとスピーカーとの距離を設定する画面。0%ならベタ ベタのオン・マイクで、100%にすると3メートル離した状態を作 り出すことができる う、十分なプロ用スペックを備えている。 製品名に付けられた“Live”という部分を活かし、ラ ビネットに搭載された状態でのサウンド・キャラクターの イブ・パフォーマンスで使用する場合であれば、アン 違いまでもが再現されているのだから驚きだ。 パワー・アンプ内蔵? てしまう。また、スピーカーから出た音をマイクで拾う とになる。AD/DAコンバーターも24bit/96KHzとい プ・ヘッドのスピーカー・アウトからの信号をこの TORPEDO Liveのスピーカー入力に接続し、その隣に しかし、モデリングやシミュレーションは、まだまだ 自宅でのレコーディングの場合には、パワー・アッテ “ホンモノ”、つまり真空管ギター・アンプが目の前で鳴 ネーターでなんとか近所から苦情の出ない音量にしたと っている状態には及んではいない。特にチューブのパワ しても、マイクを立てて音を拾おうとすると外からの騒 TORPEDO Liveは基本的にはデジタルのロード・ボ につなぐ。そして、ライン・アウトの出力をダイレクト ー・アンプ部と出力トランス、さらにはスピーカーとの 音が被ることもあるだろうし、やはりライン信号での録 ックスと位置付けられ、真空管アンプのスピーカー出力 にPA卓に送り、スピーカー・キャビネットからの音は 相関関係により発生するインピーダンスやダンピング・ 音ということになってしまう。そこで前述のように、モ と接続するという使い方なのだが、リアパネルにはライ あくまでも自分のモニターとするのが、この製品本来の ファクターなどの、渾然一体となった動的な変化という デリングによるアンプ・シミュレーターを使うことにな ン入力が装備されている。この端子はライン出力、つま 真価を発揮する使い方と言えるだろう。マイキングやイ ような要素などは、まだまだ最先端のモデリング技術を る。 りギターをダイレクトというのではなく、ギター用のプ コライジングなど、PAのオペレーターの“ウデ”に影 リ・アンプの信号を入力するためのものだ(写真5) 。 響されずに、常に安定した自分のギター・サウンドをオ という部分も介在しないことになる。 ある“THRU”という端子をスピーカー・キャビネット 新しいブランドの新しいアイデア Two notes AUDIO ENGINEERING社はフランスを もってしても再現されていないようだ。気持ち良いギタ 拠点とする最近誕生したばかりのブランドで、ミュージ ー・サウンドという意味では重要な要素なのだが…。 シャンでもあるエレクトロニクスのエンジニアと若いソ そしてこの端子を使う際には、なんと真空管パワー・ フトウェア開発者からなる集団だ。真空管の形状のイメ アンプとしての役割も果たしてくれる。と言っても、実 実はこのTORPEDO Liveはベースでの使用も可能と ージから“TORPEDO”(魚雷)と名付けられた同社の 際にスピーカーをドライブするパワー・アンプ回路を搭 なっている。スピーカー・キャビネットは定番の 載しているのではなく、前述のスピーカー・キャビネッ AmpegやSWRに加え、EdenやMarkbassなどまで用 ギターを気持ち良く鳴らす? 真空管アンプの“厄介さ” チューブ・アンプにはソリッド・ステートのタイプと シリーズは、真空管ギター・アンプと使用するロード・ は違う、厄介な点がある。それは電源を入れている時に ボックスを高いデジタル信号処理技術によってドラステ リハーサル・スタジオやライブハウスなどでは、マー は、必ずスピーカーが接続されている必要があるという ィックに発展させたものと言える。 シャルをはじめとする常設アンプをかなりの音量で鳴ら ことだ。出力トランスがあるという構造上、スピーカー ほとんど無名に近かった同社が一躍脚光を浴びること になったのが、2009年の初頭に発表された最初の製品 であるTORPEDO VB-101だ。このモデルはレコーデ えている。ダイレクト・ボックスで単純にライン録りす るのではなく、チューブならでは暖か味やスピーカー・ キャビネットが鳴る豊かなエアー感を持ったベース・サ ウンドは、きっと新鮮で音楽的に気持ちの良いものにな るだろう。 にライブでの使用も考慮して今回新しく発表したのがこ のTORPEDO Liveだ。 ーディエンスに届けることが可能になるはずだ。 意されているし、イコライザーもベース用のモードを備 写真2 リアパネルの端子。INPUTにはギター・アンプのスピーカ ー出力を接続する。この際、TORPEDO Liveは8オームのインピー ダンスという仕様になっているので、接続するアンプ側の切替スイ ッチや出力ジャックで8オームを選択し、マッチングする必要があ る。ライブでの使用時には、隣のTHRU端子にスピーカー・キャビ ネットを接続するのが基本的な使い方となっている ィングでの使用を前提とした仕様であるが、それをさら TORPEDO Liveの様々な設定は、100個までプリセ リアルなマイキング ットが可能で、USB経由でのMIDIコントロールもプロ グラム・チェンジだけでなく、パラメーターをリアルタ ロード・ボックスの新しい形 は、スピーカー・キャビネットの前にマイクを立てて拾 った状態をシミュレーションしたものだ。マイクは楽器 写真1 やはり真空管のパワー・アンプ部での歪みサウンドは気持ち良い。出力トランスが見えているが、これが心地良いサウンドのポイント でもあり、同時に厄介な部分でもある 基本的には真空管ギター・アンプのスピーカー・アウ 用として定番のシュアーSM57をはじめとして、ゼンハ トに接続して、パワー・アンプ部での歪みも含めてライ イザーのMD421やノイマンU87などから選択すること ン信号として取り出すことができるロード・ボックスと が可能だ(写真3) 。 して機能するものだ。しかし、このTORPEDO Liveが イムで変化させられるように、コントロール・チェンジ 実はライン出力やヘッドホン・アウトから出ている音 マイキングの設定も自由度が高く、リアルだ。スピー 写真5 ギター・プリアンプを使ってライン入力を使用した際には、 TORPEDO Liveが真空管パワー・アンプの役割を果たしてくれる。 と言ってもスピーカー・キャビネットをドライブするのではなく、 スピーカーやマイキングのシミュレーションと合わせて、トータル なアンプ・サウンドを作ることが可能だ。完成されたサウンドは TRSバランス型のライン出力やS/PDIFデジタル・アウトからミキ シング・コンソールやオーディオ・インターフェイスなどの他の機 器に送られることになる ■Two notes / TORPEDO Live 価格:オープン ■問い合わせ:日本エレクトロ・ハーモニックス TEL:03-3232-7601 http://www.electroharmonix.co.jp にも対応している。エディター・ソフトとして機能する、 TORPEDO Remoteと い う ア プ リ ケ ー シ ョ ン は Windows/Mac版とも無償で配布されている。 チューブ・アンプならではのギター・サウンドを、時 代のニーズにマッチした様々なアプリケーションでの使 用を可能にする、そんなイクイップメントだ。 ElectricGuitar 54|JUL・2012 ElectricGuitar 54|JUL・2012 ンドを得ることが可能だ。 スピーカー・アウトに接続することになる。こうすれば、 デジタル技術の急速な進歩により、現在では低価格の 12 このパワー・アンプのシミュレーションについても、 こだわりを持った本格的なもので、ギター・アンプ用パ 13
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