Chapter 1 The order of the natural world 本文の訳は省略 捕捉 Definition of Ecology (Krebs のエコロジーより) Ecology という言葉は 1 9 世紀の終わり頃に使われるようになった。 1869 年に Ernest Heckel が「生物的環境と 非生物的環境 における 生物 の 関係性のすべて」といったん定義したが, これでは Ecology でないものはこの 世にな いふうで , うまくなかった。 遺伝学,進化学,生理学,行動学のどれとも近い関係があるけれど,そのどれとまった く 同じでもないのが Ecology なのだ。 (ところで Ecology を生態学と訳したのは三好学という美濃岩村藩出身の植 物学者で 1895 年のことだった)。 Charles Elton は Animal Ecology (1927) という当時としてはとびぬけた名著 を 著し, 生態学を科学的博物学と定義してみた(まだ少し曖昧だ)。Eugene Odum (1963) は「自然の構造と機能 についての 学問」 と 言った(やっぱり曖昧だ)。 Andrewartha (1961) が「生態学とは生物の 分布と量についての 学問」と定義して, やっとはっきりした。しかし,これにはまだ「relationship 関係」という重要な要素が欠けてい るのでこの点を補うと,生態学とは「生物の分布と量を決める相互作用についての科学」となる(Krebs, 1972)。 Ecology (生態学)とエコロジー(エコロジーな視点,エコショップ,エコロジーライフなどのように日常使われ る )は異なるものだということをはっきりと述べておきたい。 エコロジーは環境問題, 人間活動による環境への影響 と, それらから派生する社会問題を扱う「環境学」である。 Ecology は人間の環境に対するインパクト「だけ」を扱 う 科学 ではなく , あらゆる 植物と動物の相互関係を扱う科学である。 たとえば, 生態学研究によって, CO2 の増加 による 地球温暖化 が何をもたらすのか明らかにすることはできても, そのために「何をなすべきか」とか「地球温暖 化が善いことか悪いことか」を決めることはできない。 Summary 1. 自然にはパターンがある。自然について抱く疑問が生態学のはじめである。生態学では,自然がどのようなものか, 機能は,メカニズムは,進化は,ということを考える。 参考 ティンバーゲンが提唱した行動研究に関する「4つの質問」(蒼樹書房 行動生態学より) 例 なぜウグイスは春になるとホーホケキョと鳴くの? (1) 行動の発現機構の研究 春になり日長が伸びて体内のホルモンレベルを変化させる引き鉄が引かれ,声帯が発達するから。 鳴管を空気が通って声帯が震えるから。 (2) 行動の発達過程の研究 ウグイスは両親やまわりの個体からさえずりを学習するから。 (3) 行動の機能の研究 ウグイスは繁殖のためにメスをひきつけようとしてさえずる (4) 行動の進化の研究 ウグイスの複雑なさえずりは祖先の種の単純な地鳴きから進化した ティンバーゲン [Tinbergen, Niko (Nikolaas)](岩波書店 生物学辞典より) (1907.4.15~1988.12.21) オランダ生れのイギリスの動物行動学者. ライデン大学に学び, 同大学講師を経て 1947 年実験動物学教授.渡英し オクスフォ ー ド 大学において動物行動学の教授 (1966) となる. 動物の行動 に関す る多くの業績があり, トゲウオ ・ ハイイロジャノメチョウ ・ セグロカモメ などでの本能とその解発機構の研究がよく知られている. とくに実験室と野 外 とを結びつけた広汎な実験によって, 生得的解発機構における階層性を明らかにした. 1973 年, 動物行動学を確 立した業績で, K.von フリッシュ, K.Z. ローレンツととも にノーベル生理医学賞を受賞.その後,自閉症の研究を 行う.夭折した弟 Luk も動物学者で,鳥の捕食に関する研究で知られ,また兄 Jan はノーベル経済学賞受賞者. 2. さまざまな種類の生物がいる。だいたいの形や食性はそっくり同じなのにびっくりするほど多種多様な色彩がある とか(チョウなど)なんてこともある。 3. 自然には,多くの種が相互に依存した複雑な関係が見られる。 例 カミキリの羽の上の黴を食べるダニを食べるサソリモドキとダニを匿うカミキリ 4. 自然には,生死や盛衰が見られるが,個体群は繁殖の過程によって一見,不変にも見える。 5. 物理的・生物学的な作用や法則が自然界のパターンのもととなっている。このような作用や法則を知ればパターン の帰結を予測したり説明することも出来る 例 恒温動物の代謝速度は体重の 0.75 乗。体重当たりにすると-0.25 乗。 6. 自然淘汰による進化のせいだ,と考えると「どうして自然はこのようになっているか」がよくわかる。 参考 自然淘汰(共立出版 生態学辞典より) 自然的原因にもとづく淘汰.次の3状況がみたされるときに生じる過程である (J.A.Endler,1986) (a) 変異.繁殖集団中の個体の形質 ・ 性質 (あるいは遺伝子型) の間に違いがみられる (b) 適応度の差.それらの性質 (あるいは遺伝子型) の違いとその個体の適応度 (交配能力 ・ 受精能力 ・ 繁殖力 ・ 多産 性 ・ 生存率の間の相関がみられ,その適応度の差はランダムに生じる差よりも大きい (c) 遺伝. それらの 性質 はある 程度次世代 に伝えられる. この3条件がみたされるとき, それらの形質の頻度が齢 別間や世代間で変化するというような進化的変化を生じる。 7. 自然についての解釈は,我々の感覚的な制約や,モノの見方によって変わってしまう。 参考 フランシス・ベーコンの四つの「心の幻影(イドラ)」 「種族の幻影」で,自己の偏見に合う事例により心が動かされるといった人類に共通の幻影 「洞窟 の幻影」は, 個人の体質,偶然事,教育等に由来するもので,いわば洞窟に閉じ込められ広い世界を見ない ために生じるイドラ 「 劇場の幻影 」 で舞台上の手品や作り話に迷わされるように, 伝統的な権威や誤った規則, 論証, 哲学説に依存す ることに由来するイドラ 『市場の幻影』は,市場で不用意かつ便宜的に作られた言語によって誤るような言語的錯誤 8. 博物学(自然史)は生態学の基礎である。 参考 1 博物学(岩波書店 生物学辞典より) 自然物すなわち動物 ・ 植物 ・ 鉱物の種類 ・ 分布 ・ 性質 ・ 生態などの記載を主とする学問. 東洋でも西洋でも自然に関 するもっとも 古 い学問の一つ. 近世以降, しばしば物理学の意味になる natural philosophy と対立する語でもあっ た . 本草学 ・ 殖産学 とも 歴史的に関 係が深い. 生物学およびその新分野の発達にともない, 1 9 世紀後半以降には博 物学として総括する意味が稀薄となり, 今世紀には学問の名称として使われる こ と が 少 な く な っ た . な お natural history の語は natural history of animals(動物誌),natural history of population(人口の自 然誌) などの形 でも広 く使われる. 参考 2 日本が誇る博物学者たち 南方熊楠(1867~1941) 9. 生態学的知識に欠けた行為は,時には,生態学的な大災害をもたらす。 例 ビクトリア湖に人為的に導入されたナイルパーチのせいで,もうなにもかも滅茶苦茶だ。
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