効果的な「保育実習指導」に関する研究 - プール学院大学・プール学院

プール学院大学研究紀要 第54号
2013年,275∼284
効果的な「保育実習指導」に関する研究
―事前指導における部分保育案作成の試み―
中 山 忠 政・上 田 慎 二
1 はじめに
「保育実習」は、保育士養成課程において、保育所やその他の児童福祉施設等で、児童や利用者
と直接関わることによって、保育所や児童福祉施設等の機能や役割、援助の実際について、理解を
深めることを目的とする実習科目である。
第1筆者は、これまで、保育士の養成校において、「児童福祉施設等で行われる保育実習」の運
営を担当してきた。
「保育所における保育実習」についても、事前・事後指導の一部や巡回指導な
どに携わってきたが、「保育実習Ⅰ(保育所)1)」において、部分実習の機会が一度もなく、観察・
参加実習のみで実習を終える学生がみられた。これは、受入側の意向や都合によるものであったが、
学生の保育技術の習得や次の実習(保育実習Ⅱ)に向けての動機づけに影響するのではないかと懸
念されるものであった。
A大学の「保育士コース」においては、2013年2∼3月に、保育士養成施設の指定を受けて初め
ての保育実習が行われることとなっていた。筆者らは、この保育所での実習に向けて、学生の動機
づけを高めることを目的に、部分保育案作成を取り入れた事前指導を計画し、実施した。本稿では、
部分保育案作成を取り入れた「保育実習指導1」の指導経過を報告し、その効果の検証を行うもの
とする。
2 「保育実習指導」における「部分保育案の作成」について
筆者らは、
「保育実習指導Ⅰ」の事前指導において、部分保育案を作成させる試みを行った。こ
こでは、「保育実習」と「保育実習指導」の位置づけ、保育実習指導における部分保育案の作成に
ついて確認しておきたい。
保育士養成課程における教科目や履修方法等は、「児童福祉法施行規則第6条の2第1項第3号
の指定保育士養成施設の修業教科目及び単位数並びに履修方法(厚生労働省告示第278号改正)」に
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定められている。保育実習と保育実習指導については、必修科目として「保育実習Ⅰ」と「保育実
習指導Ⅰ」を、選択必修科目として「保育実習Ⅱ」または「保育実習Ⅲ」、「保育実習指導Ⅱ」また
は「保育実習指導Ⅲ」を履修することが定められている。
具体的には、「指定保育士養成施設指定基準」の別紙2の「保育実習実施基準」によれば、「保育
実習Ⅰ」(4単位)は、
「保育所での実習」と「保育所以外の児童福祉施設(乳児院や児童養護施設、
障害児入所施設)等での実習」からなる。A大学においては、
「保育実習Ⅰ」を二分割し、それぞれ「保
育実習1A(保育所)」と「保育実習1B(施設)」(各2単位)としている。また、
「保育実習Ⅱ」
は保育所での実習、「保育実習Ⅲ」は「保育実習Ⅰ(施設)」の対象施設に児童厚生施設などが加え
られた施設での実習となる。A大学においては、それぞれ「保育実習2」と「保育実習3」として
いる。
このように、保育士養成施設において保育士資格の取得を目指す学生は、
「保育実習Ⅰ(保育所)」
と「保育実習Ⅰ(施設)」、
「保育実習Ⅱ(保育所)
」または「保育実習Ⅲ(施設)」の3つの実習を行い、
それぞれに対応した「保育実習指導Ⅰ」と「保育実習指導Ⅱ(保育所)」または「保育実習指導Ⅲ(施
設)」を履修することとなる。
続いて、「保育実習指導」における「部分保育案の作成」について整理しておきたい。「教科目の
教授内容2)」には、
「各教科目の教授内容の標準的事項」が示されている。これによると、「保育実
習Ⅰ(保育所)」では、「観察や子どもとのかかわりを通して子どもへの理解を深める」ことが「目
標」の一つとしてあげられ、
「観察実習」と「参加実習」を中心に行うこととなっている。一方、
「保
育実習Ⅱ(保育所)」では、
「作成した指導計画に基づく保育実践」が「内容」としてあげられ、
「観
察実習」「参加実習」に加えて、「責任実習(半日・全日)」が行われる。
しかしながら、「保育実習Ⅰ(保育所)」においては、「ほぼ全員の学生が、実習の際に見学や観
察に加えて、手遊び・紙芝居や絵本の読み聞かせ・ピアノの伴奏の実践を、おおよそ2回ずつ経験
している」との報告3, 79)があるように、「保育実習Ⅰ(保育所)」においても、「保育実習Ⅱ」で求
められるほどではないが、短時間の「部分保育」の実施がなされている。「保育実習Ⅱ」において「責
任実習(半日または全日)」が行われることを考えれば、「保育実習Ⅰ(保育所)」において、「観察
実習」と「参加実習」が中心とされながらも、保育実習Ⅱで行われる「責任実習」の準備として、
「部
分実習(部分保育)」が行われているのは当然といえよう。
また、部分保育案の作成については、「一般的に、実習生には、(中略)部分的な指導計画を立て
るだけではなく、それを詳細に書くことが求められる」とされ、
「保育の流れや留意点を把握して
保育に入ることが出来るからである4, 49)」とされている。
このように、「保育実習Ⅰ(保育所)」においては、「設定保育(部分保育)」が実施されることが
多く、学生には、詳細な部分保育案を作成することが求められるのである。このため、養成校にお
いては、事前指導において「保育実習(1)において指導計画の作成についてのレクチャーが必
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要5, 244)」とされ、「初回実習前から学生自身が保育実技を身につけることの必要性を認識し、さら
に主体的自主的に学ぼうとするような支援指導の工夫が必要6, 79)」と指摘される状況にあるのであ
る。
これまで、
「保育実習指導Ⅰ」において「部分保育案の作成」の指導を行うことは、「保育実習Ⅰ
(保育所)
」における実際上の必要にもとづくものであることを確認してきた。続いて、筆者らが行っ
た、部分保育案作成を取り入れた「保育実習指導1」の指導経過の報告と効果の検証を行いたい。
3 「保育実習指導1」における部分保育案作成の指導経過
2012年10月∼2013年2月、A大学の「保育士コース」において行った、部分保育案作成を取り入
れた「保育実習指導1」の指導経過をみていきたい。
A大学の「保育士コース」(定員20名)においては、2年次末(2∼3月)に、「保育実習1(保
育所)」が行われることとなっていた。そのため、「保育実習1(保育所)」の事前指導は、2年次
の後期期間中(2012年10月∼2013年2月)に行われ、筆者らがその指導にあたった。事前指導にお
いては、保育所実習の意義や目的の理解、日誌の書き方、実習中の注意事項や諸手続の指示、保育
所の所長による講話などの一般的な指導内容に加えて、部分保育案作成の指導を行うこととした。
部分保育案については、
「部分保育案①(「製作」を活動内容とするもの)」と、
「部分保育案②(ペー
プサート・エプロンシアターなどの視聴覚教材を用いるもの)
」の2つを作成することとした。こ
の2つを指定したのは、先行研究7, 253)において、部分実習として多く実施されている活動内容(絵
本の読み聞かせ・手遊びを除く)であったからである。
まず、部分保育案の作成に向けた準備活動として、テキスト8, 91)に掲載された部分保育案を書写
させ、保育案の構成を理解させることとした。その後、書写をした部分保育案において記載がない
部分を、具体的に記入するようにさせた。
続いて、活動内容を「紙鉄砲」とする部分保育案の作成を課した。活動内容を「紙鉄砲」とした
のは、「紙鉄砲」の活動内容は、「折り方」や「鳴らす場所」など配慮すべき事項が多くあり、この
時点では認識が薄かった「配慮事項」に着目させようとしたものであった。
提出を受けた紙鉄砲を活動内容とする部分保育案をもとに、グループ毎に配慮点についてのディ
スカッションをさせた。学生からは、「『折り方』は口頭のみの説明は難しい場合もあるので、大き
な見本を用意したり、作り方を記した模造紙などが必要であること」、「鳴らす際発生する『音』に
配慮して遊戯室等へ移動すること」、「鳴らす前に注意事項を記した用紙を用意して『約束』を確認
する必要があること」などの気づきが発表された。このように、
「紙鉄砲」を活動内容とする部分
保育案を作成させ、ディスカッションを行うことによって、
「配慮事項」に対する認識を高めるこ
とができたのではないかと思われる。
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この間、学生は複数の部分保育案を作成し、提出された部分保育案に対しては、添削指導が行わ
れ、学生は書き直しの作業を行った。一方で、同時期に、保育内容各論の授業においても、保育案
についての指導が開始された。学生からは、保育案のフォーマットの違いや、子どもへの「言葉がけ」
を記入するか否かなどの「書き方」について、当惑の声が聞かれた。そのため、授業担当者と連絡
をとり、指導内容の確認をはかるとともに、第2筆者が学生との個別面談を並行して行うなどした。
続いて、「製作」を活動内容とした「部分保育案①」を作成させることとし、これにもとづいて
15分の模擬保育を行わせることとした。活動内容を「製作」としたのは、事前準備や声かけなどの
配慮事項が多くあり、実際に模擬保育として行わせることによって、「配慮事項」について、より
理解を深めさせようとしたものであった。この模擬保育に先立ち、保育士資格を取得済みで、保育
実習を経験していた上級学生に、部分保育案にもとづいた模擬保育を実施してもらった。学生には、
大変好評であった。この後、2グループに分かれ模擬保育を実施し、実施後は、教員からの講評を
行い、学生同士でも気づきを発表させた。学生達は、進め方や声かけなどについてアドバイスを相
互に行うことができ、参考になったようである。
「部分指導案①」で取り上げられた活動内容は、毛糸を使った「焼きそば」づくりや「クリップ
バッタ」の製作、折り紙などでチューリップを作る「花束を作ろう」など、工夫がなされたものも
みられたが、オリジナル感や「特別に考えられた」という感じに乏しいものもあった。学生にとっ
て初めて取り組む保育案作成であり、学生のレパートリーのなさや、イメージ力や発想力の乏しさ
を背景としていたのでないかと思われた。
続いて、「部分保育案②」として、視聴覚教材(エプロンシアターやペープサートなど)を用い
た保育案の作成を課し、教材と台本の作成を冬休みの課題とした。冬休み明けに提出された、視聴
覚教材を用いた「部分保育案②」については、『大きなかぶ』や『3匹のこぶた』などを題材とす
る者が多かった。実際に作成された視聴覚教材には、オリジナルのエプロンシアターなどの力作も
みられた。一方、「教える」ことが前面に出た部分保育案も数点みられ、基本的な保育観が得られ
ていないのではないかと思われるものも散見された。
この間、第1筆者がチューターとして行っていた、毎月の目標などを記入する「自己管理シート」
にも、「保育案をがんばる」
、「教材作りをする」などの前向きな記載がみられはじめた。さらに、
提出された部分保育案を点検しても、書き方として問題がないものが大半となった。
実習直前となった1月中旬に、事前訪問(保育所へ直接訪問して、事前オリエンテーションを受
ける機会)を行った。保育所からは事前に、希望する者は部分実習などの事前準備をしておくよう
にとの指示があったため、事前訪問の際に、作成した部分保育案と教材を持参するようにさせた。
保育所への訪問時には、実習開始後、担当の保育士から指導を受けるようにと指示されるか、その
場で部分保育案のコピーをとるなどされて、後日の指導を約束されたものが大半であった。
これまで、筆者らが行った部分保育案の作成を取り入れた「保育実習指導1」の指導経過をみて
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きた。事前指導は、部分保育案の作成を含め、おおよそ当初の計画通りに実施することができた。
学生は、2013年2∼3月にかけて、10日間の保育所での実習に臨んだ。続いて、実習を行った学生
を対象に実施したアンケートの結果をもとに、部分保育案の作成を取り入れた「保育実習指導1」
の効果について検証していくものとする。
4 部分保育案の作成を取り入れた「保育実習指導1」の効果
筆者らは、
「保育実習指導1」において、部分保育案の作成を取り入れた事前指導を行った。そ
の効果を検証するために、「保育実習1A」の実習を行った者(17名)を対象にアンケートを実施
した。アンケートの結果をもとに、筆者らが行った部分保育案の作成を取り入れ事前指導の効果に
ついて検証をしていきたい。なお、実習を行った17名のうち1名については、保育案を作成した上
での部分実習を行わなかったため、集計からは除外した。
まず、実習で行った部分実習の実施回数(
「読み聞かせ」を含む)については、平均4.44回、部
分保育案を作成した上で行った部分実習の実施回数は、平均1.19回であった。そのうち、部分保育
案を作成した上で行われた部分実習の割合は、48.01%であった。1回の保育実習(10日間)にお
いて、部分保育案を作成した上で行う部分保育が、1回程度行われていることがわかった。
部分実習を行うことになった「きっかけ」については、
「事前訪問の際に申し出た」が64.71%、
「実習がはじまってから申し出た」が23.53%、「園長・クラス担任等から言われた」が41.18%で
あった(いずれも複数回答、以下同じ)。事前指導において、保育所への訪問時に保育案を持参す
るように指示しており、部分実習をすることになった「きっかけ」として、「実習生からの申し出」
(64.71%)が最も多かったのは当然といえるが、
「園長・クラス担任等から言われた」
(41.18%)が
続いており、保育所側も保育実習において部分実習の実施を前提としていることが伺えた。
部分保育案に対して保育所側から行われた指導のタイミングについては、「事前訪問の際」が
5.88%、「実習がはじまってから」が52.94%、「実習を終えてから」が52.94%であった。「実習がは
じまってから」が最も多かったが、学生に個別に聞き取ったところによると、部分実習の実施前に
は指導がなされず、部分実習終了後のみに指導が行われた保育所もあった。
部分保育案の「指導を頂いた者」については、「所長」が17.65%、「主任」が47.06%、「クラス担
任」が70.59%であった。
部分保育案に対して「どの程度の指導がなされた」についてである。1∼5の5段階評価(以下
同じ)で、
「文字の大きさ」が1.06、
「文字の丁寧さ」が1.06、
「子どもの実態」が2.75、
「ねらい」が1.88、
「活
動の内容」が2.75、「材料・準備」が2.56、「時間」が2.50、「環境構成」が2.44、
「予想される子ども
の活動」が2.75、
「実習生の援助と留意点」が2.75であった。「子どもの実態」「活動の内容」「予想
される子どもの活動」「実習生の援助と留意点」の4つ(いずれも2.75)などを中心に指導されて
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いることがわかった。
続いて、部分保育案を作成する際の「難しさ」についてである。部分保育案を作成する際に実習
生が難しいと感じたのは、
「子どもの実態」が3.31、
「ねらい」が3.25、
「活動の内容」が3.31、
「材料・
準備」が3.00、
「時間」が3.63、「環境構成」が3.50、「予想される子どもの活動」が4.13、「実習生の
援助と留意点」が4.19であった。実習生は、
「援助と留意点」
(4.19)や「予想される子どもの活動」
(4.13)などを、特に「難しい」と感じていた。
部分保育案を作成する際に「参考にした保育案」についてである。実習生が、部分保育案を作成
する際に「参考にした保育案」は、「実習指導で配布された保育案」が29.41%、「他の授業で配布さ
れた保育案」が23.53%、「先輩の保育案」が35.29%、「保育関係の雑誌などに掲載された保育案」が
17.65%、「その他」が5.88%、「参考にした保育案はない」が23.53%であった。「参考にした保育案は
ない」(23.53%)との回答もあったが、これについては、別途検討するものとする。なお、
「先輩
の保育案」については、実習指導内で上級学生が行った模擬保育の保育案を指した回答と思われ、
本来は、「実習指導で配布された保育案」として回答されるべきものであったと思われた。
事前指導で行った部分保育案の作成についてであるが、
「子どもの理解について考えることがで
きた」が4.06、
「環境構成について考えることができた」が3.69、
「保育における援助と留意点につ
いて考えることができた」が4.19、「実習への動機を高めることができた」が4.06、「実際の実習に
おいて役に立った」が4.56であった。事前指導で行った部分保育案の作成は、
「実習への動機」を高め、
「子どもの理解」や「援助と留意点」について考えることができ、実際の実習に「役に立った」と
されたといえる。
部分保育案を作成する上で、実習指導で行った指導内容が「どの程度役立ったか」についてであ
る。「保育案の書写」が3.75、「紙鉄砲の保育案の作成とディスカッション」が3.81、「製作の保育案
の作成と模擬保育」が4.00、「友人による製作の保育案と模擬保育」が4.44、
「SA(先輩)が実施し
た模擬保育とその保育案」が4.63、「冬期休業中のペープサート等の作成」が2.94、「保育案に対す
る添削指導」が3.69であった。「模擬保育」を含んだ指導内容が高く評価され、「書写」
「添削指導」
についても評価された。一方、「冬期休業中のペープサート等の作成」は、他の指導内容と同じよ
うな評価は得られなかった。
保育案を作成した上で実施した「部分実習の種類」については、
「製作」が35.29%、
「視聴覚教材」
が41.18%、
「集団あそび」が11.76%、
「その他」が5.88%であった。「視聴覚教材を用いた活動」と「製
作活動」が大半を占めていた。
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5 おわりに
筆者らは、初めて保育実習に臨む学生が、実習に向けた動機づけを高め、主体的に取り組むこと
を期待して、部分保育案作成を取り入れた事前指導を計画し、実施した。
事前指導を終えた時点で、保育内容の授業担当者からは、学期末に保育案の作成を行わせたが、
「保
育士コース」の学生とそれ以外の学生の間で、保育案の出来具合にはっきりとした差がみられたと
の報告が聞かれた。また、第2筆者の授業においても、グループで保育案を作成させた際に、保育
士コースの学生が、リーダー的な役割を果たしていたことが確認されていた。
しかし、筆者らは、事前指導を行う中で、いくつかの困難に直面していた。
一つ目は、
「保育実習指導1」では、学内で模擬保育を行うことを前提にした部分保育案の作成
を指示したため、「実習生の援助と留意点」の欄に、「話す言葉」を記入させた。一方、他の授業で
は「話す言葉」は示す必要があるとき以外は記入しないとの指示があったことから、学生に「混乱」
が生じた。そのため、「保育実習指導1」においては、「援助」としての言葉がけのみを記入させる
ようにした。また、部分保育案のフォーマットについては、修正が必要と判断された箇所を、順次
修正していった。その他、3月に、幼稚園・保育士科目の担当者を招いた会議が開催された際に、
授業担当者との調整を行った。
二つ目は、部分保育案の書き方こそ整えられるようになったものの、取り上げる活動に幅がない
こと、「教える」ことが前面にでた部分保育案がみられたことである。前者については、学生の部
分保育案作成にあたって主体的に取り組む姿勢が欠ける部分があったことによるものであったが、
後半になってそれを補おうとする学生もみられはじめた。保育関係の雑誌を参考にさせるなどの設
定が必要なように感じた。
この後、学生は10日間の保育実習に臨み、3年次前期期間中に事後指導を受講した。その中で、
部分保育案の作成を取り入れた「保育実習指導1」の効果の検証を目的としたアンケートを実施し
た。
アンケートの結果からは、部分保育案の作成を取り入れた事前指導は、
「実習への動機」を高め
ることができ(4.06)、「保育における援助と留意点」(4.19)や「子どもの理解」(4.06)について
考えを深めることができたとされ、実際の実習においても「役に立った」(4.56)との評価を得た。
本試みは、「実習への動機付けを高める」ことを主たる目的として開始しており、その目的が概ね
達成できたことが確認できた。
事前指導で行った指導項目の中で「役に立った」とされたのは、
「模擬保育の実施」
(4.00)や「友
人の模擬保育への参加」
(4.44)「先輩の模擬保育への参加」
(4.63)などであり、模擬保育の実施や
それへの参加といった指導内容が「役に立った」とされた。
保育所における部分実習のあり方についても知ることができた。保育所では、1回(10日間)の
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保育実習において、保育案を作成した上での部分実習が1回程度実施されるようであった。また、
部分実習をすることになったきっかけとして、
「園長・クラス担任等から言われた」
(41.18%)と
する者もおり、保育所側も部分実習の実施を前提としていることが伺えた。
別途検討すべきと思われた事項についてである。部分指導案を作成する際に、
「参考にした保育
案はない」
(23.53%)とした者がみられたことについてである。実際に行った部分実習の活動内容
が、
「友人が実施した模擬保育」や「実習指導内で行った活動内容」であった者が複数みられている。
聞き取りによれば、事前に計画等していた活動内容の実施が難しく、その際「思いついた」ものが、
事前指導の際に目にしていた活動内容だったようである。これは、事前指導においてみられた事象
と同じく、実習生のレパートリーのなさと、幅広く目を向けていくという姿勢の欠如に起因するも
のではないかと思われた。今後、保育関係の雑誌や書籍などから、適切な活動内容を選んでくると
いう課題を追加するなどして、自ら調べることなく「知っている」活動内容を行うという姿勢を改
めていく働きかけが必要であると思われた。
一方、冬期休業中、ペープサートなどの視聴覚教材の作成を課したが、その際製作したオリジナ
ルのエプロンシアターを、部分実習の教材として活用した者もおり、部分実習に向けた取り組み度
合いは大きく分かれるものとなった。
なお、今回は、保育内容各論や保育表現技術の授業で取り上げられた活動内容が、部分実習で取
り入れられたかについては、アンケート項目として設定していなかったため確認ができていない。
今後、保育内容等の授業担当者とも、意見交換などをはかっていきたい。
さて、これまで報告してきたように、部分保育案の作成を取り入れた事前指導を計画・実施でき
たのは、A大学の「保育士コース」において、
「保育実習1A(保育所)」が、指定保育士養成施設
の指定を受けて初めて行われる実習であり、その実施のほとんどが筆者らに委ねられていたからで
あった。そのため、事前指導の組み立てについての自由度は高く、あわせて「保育士コース」の定
員が20名ということもあり、部分保育案の添削など丁寧な個別指導が可能であった。
最後に、筆者らが実施した、保育実習指導1における部分保育案作成の試みについて、
「ハウツー
に偏るのではないか」との指摘が予想されることについてである。第1筆者は、特に保育内容を専
門とする者ではなく、この試みにおいて、
「ハウツー」的な習得を目指す意図は全くなかった。「保
育実習1(保育所)
」に臨むにあたって、主体的な取り組みを学生に期待し、その「きっかけ」として、
部分保育案の作成を設定したのである。子どもと関わることにおいて、最も大切なのは「子ども理
解」である。部分保育案の作成は、「子どもの実態」にもとづいて、そのねらいや活動が設定され
るものである。部分指導案を作成することは、
「子どもの実態」、つまり「子どもの理解」を行わな
ければならないという「しくみ」と「機能」を有しているとのではないだろうか。アンケートの結
果からも、部分保育案の作成は、
「子どもの理解」や「援助と留意点」などについて考えを深めるきっ
かけとなったことが伺えるものであり、部分保育案の作成を行うことは、
「子どもの実態」を理解
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する必要があり、結果として「子どもの理解」につながるのではないかと思われた。
なお、本稿では、
「保育実習Ⅰ」のうち、保育所での実習の事前指導を中心に検討してきた。事
後指導ならびに児童福祉施設等での実習における事前指導等のあり方についても、効果的なあり方
について探っていきたい。
൫‫ڼ‬
1)本稿では、告示にもとづく教科目名(
「保育実習Ⅰ」など)と、
A大学における科目名(
「保育実習1A」など)
の2つが混在している。それぞれの表記にもとづくものであるが、告示にもとづく「保育実習Ⅰ」には、
保育所と施設での実習が含まれることや、A大学における「保育実習1A」との科目名のみでは、保育所
で行う実習であることがわかりづらいことから、
「保育実習Ⅰ(保育所)」や「保育実習1B(施設)
」のよ
うに、必要があれば科目名のあとにカッコを付けた表記を行うものとする。
2)「指定保育士養成施設の指定及び運営の基準について」の別紙3
3)岡本弘子(2012)
「実習に対する保育専攻の学生の意識についての一考察」『静岡英和学院大学静岡英和学
院大学短期大学部紀要』10,71−81.
4)大滝まり子(2008)
「幼稚園実習における指導案作成の留意点」
『北海道文教大学研究紀要』32,49−56.
5)林富公子・堀井二実(2011)
「立案指導についての一考察2 ―保育所実習に取り組んだ学生の立案に対する
実態調査―」『園田学園女子大学論文集』第45号,243−257.
6)前掲3
7)前掲5
8)田上貞一郎(2010)『保育者になるための国語表現』萌文書林.
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(ABSTRACT)
Effective Guidance During Internships at Nursery Schools:
Drafting Child Care Plans in Pre-Internship Guidance
NAKAYAMA Tadamasa, KAMIDA Shinji
In this research, we conducted advance guidance for university students prior to the
internships at nursery schools. In this guidance class, we had the students make a partial child
care plan. After the nursery school internships were finished, we sent out questionnaires to the
students. We confirmed that drafting this kind of plan in a pre-internship guidance session is
effective.