広告を超える屋外広告 - 市街地経営研究機構

広告を超える屋外広告
コミュニティファイナンス創造の時代へ
OUTDOOR ADVERTISING Surpassing in traditional Ad.
“The strategy of creating community finance”
Executive Summary
急速に進む地域の衰退に対して、欧米では屋外広告がその救世主となった。
その救世主とは、悪化する都市環境に対し、市街地での屋外広告収入を都市景観整備事業
に用いるストリートファーニチャー広告である。
本論分では、地域の新たな財源(コミュニティファイナンス)として世界で広く活用されて
いるストリートファーニチャー広告を取り上げ、わが国での実現に向けてこれまで問題と
されていた課題に対する対応策を提示する。さらにはまちづくり会社を市街地メディア主
体として捉えた、日本版モデルの検討を行う。
近年のわが国において地域社会を取り巻く急速な環境変化、中心市街地の空洞化が著しい。
この状況に対応する根本的解決は、財政的脆弱性の改善である。
ダイナミックな都市経営を行う、欧米諸国のモデルを元に、わが国の地域を救う広告モデ
ルの提案を行いたい。もはや、地域間競争は危機的状況ではなく、逆に大きなビジネスチ
ャンスとして捉えるべきである。
コミュニティファイナンス機能を持った広告こそ、地域間競争時代に求められる、地域と
密着した広告であり、地域再生に向けた現実的な解決策である。
この論文を書くにあたって、各方面の方々にご協力いただいた。
早稲田大学商学部の亀井教授、屋外広告指全般について、海外の事例をご紹介頂いた城西
大学の清水教授。また、商店街やTMO政策に関して、ご助言を頂いた中小企業庁商業課
の横田課長、中心市街地活性化推進室の岡田室長。専門家でいらっしゃる、流通経済大学
の原田教授、専修大学の渡辺教授。TMOの実態について教えて下さったハイマート久留
米(TMO)のタウンマネージャー山口氏、愛知商店街振興組合連合会の坪井理事長、早稲田
商店会安井潤一郎会長。また企業ヒアリングに出向かせて頂いた、5社の企業広報宣伝部
担当者の方々。論文に関してご指導頂いた慶応大学SFC訪問研究員の駒崎弘樹氏には、
格別の御礼をこの場を借りて申し上げさせて頂く。
その他、本事業の可能性に共鳴し激励をしてくださった多くの方々にも重ねて御礼申し
上げる。
OUTDOOR ADVERTISING Surpassing in traditional Ad.
“The strategy of creating community finance” December 2003
2
目
序
次
章 ......................................................................... 4
問題意識......................................................................................................................... 4
第一章
地域では今、何が起きているか .......................................... 5
1.1 衰退しゆく地域 ....................................................................................................... 5
1.2 地域を取り巻く政策 ................................................................................................ 5
1.3 諸外国の政策........................................................................................................... 6
1.4 市街地マネジメントの行方 ..................................................................................... 8
第二章
わが国の都市経営基盤の現状 ........................................... 11
2.1
経営危機に陥るまちづくり会社 ...........................................................................11
2.2 TMO の事業規模とその負担 .....................................................................................11
2.3 資金調達方法......................................................................................................... 12
第三章
広告が地域を救う...................................................... 14
3.1 ストリートファーニチャー広告とは ..................................................................... 14
3.2 事業契約モデル ..................................................................................................... 16
3.3 実施地域................................................................................................................ 17
3.4 ストリートファーニチャー広告事業が示唆するもの ............................................ 18
3.5 進まない、わが国の次世代屋外広告事業.............................................................. 19
3.6 ボトルネックの改善の兆し ................................................................................... 20
3.7 市街地マネジメント組織における実現容易性 ....................................................... 21
第四章
屋外広告市場の持つ潜在的成長性 ....................................... 23
4.1 わが国の広告マーケットの性質 ............................................................................ 23
4.2 屋外広告市場......................................................................................................... 24
4.3 わが国におけるストリートファーニチャーのポテンシャルマーケット ................ 25
第五章
地域と広告の新たな道 ................................................. 29
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序
章
問題意識
本論文を始める前に、私達の問題意識の背景を紹介したいと思う。筆者の中の一人、木
下は1999年より早稲田商店街において始まった「環境まちづくり」を行った中核メン
バーの一人である。
「環境まちづくり」は、商店街が地域の多様なプレイヤーとの協同によ
って、環境問題の取り組みを切り口に地域を活性化するというものであった。
手法の斬新さからマスコミなどでも話題になり、96 年からわずか 7 年の間に全国 70 箇所
を越える地域で同様モデルが展開されるようになった。
(ソフト化経済センター・ソフト化賞、環境 goo 大賞、環境自治体グランプリ・コラボレ
ーション部門賞、防災まちづくり大賞
消防庁長官賞、防災功労者賞 内閣総理大臣賞
など受賞)
その現場の中に身を置く中で、つくづくわが国の地域活性化は、活動の粋を超えないも
のが多いことを痛感した。
諸外国の地域活性化は様々な専門企業、NPO がしのぎを削り、よりよいサービスを提供
しようと努力している。わが国における活性化の進まぬ現状は、政策的な問題点によると
ころが確かに大きい。しかしながら、民間側でも絶え間ない最善の努力がなされているか、
という点に関しても疑問視をせざるを得ない。
本稿の内容は、欧州を中心として発達しているストリートファーニチャーによる、市街
地屋外広告事業を通じて、新しい地域社会の営みを分析している。本事業は、わが国の OOH
媒体として大変斬新なビジネスモデルであると同時に、市街地問題に対する解決策でもあ
る。
私どもとしては、小論を通じ、諸外国における社会問題解決に対してビジネスを用いて
挑む姿勢に敬意を表するとともに、わが国での事業化の可能性を探り、新たな地域に密着
した広告のあり方を問うことができれば、幸いである。
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第一章
地域では今、何が起きているか
1.1 衰退しゆく地域
地方分権一括法の施行、財源権限の中央から地方への委譲が近年、急速に進んでいる。
わが国は、これまでの地域間格差是正政策から地域間競争促進政策へと大きく転換を遂
げつつある。
そして、その影響は既に地方都市を中心に顕在化している。ここ数年の地方中心市街地
の空洞化は、単に経済的影響だけでなく、地元治安や就業環境、居住環境等に多大な影響
を与え、地方都市の社会基盤自体を揺るがしている。
しかしながら、地域間競争政策はわれわれの国だけでなく、米国や欧州でも一般的に実
施されている。わが国より先に地域間競争時代に突入している諸外国の市街地マネジメン
トから、まち再生に繋がるヒントを得ながら、論を進めてゆきたい。
1.2 地域を取り巻く政策
その中で、わが国では市街地商業保護を目的とした規制として大店法、郊外化の歯止
めとして都市計画法等を実施することで、高度経済成長期から 30 年間以上にわたり、
「規
制」に依存した市街地政策を展開してきた。しかし、時代が成熟経済成長期に入り、わが
国の市街地保護による消費の誘導的抑圧は国際的な経済摩擦課題へと変化していった。そ
して、これらの「規制」は各国からの圧力により、全面的な見直しを図らざるを得ない状
況に追い込まれることとなった。
1998 年、中心市街地活性化法、改正都市計画法、大規模小売店舗立地法といった、新し
い枠組みで、日本の都市機能のグランドデザインは描かれた。その中でも、中心市街地活
性 化 法 に は 、 中 心 市 街 地 再 生 を 目 指 し た 「ま ち づ く り 会 社」( Town Management
Organization 略してTMO)の設立が打ち出された。
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■まちづくり三法の枠組み
中心市街地活性化法
1998 年、空洞化の進行している中心市街地の活性化を図るため、地域の創意工夫を活かしつつ「市街
地の整備改善」「商業等の活性化」を柱とする総合的・一体的な対策を関係省庁、地方公共団体、民間
事業者等が連携して推進することにより、地域の振興と秩序ある整備を図ることを目的として制定さ
れた法律。
改正都市計画法
1998 年、従来の都市計画法に加え、これまで 11 種類に限定されていた「特別用途地区」の種類を廃
止し、市町村の判断で、特別用途地区の種類や目的を柔軟に定め、 地域の実情に的確に応じたまちづ
くりを進め、都市計画における地方分権を図ることを目的として制定された法律。
大規模小売店立地法
2000 年、大規模小売店舗の立地に際し店舗が地域社会との調和を図っていくために、店舗への来客、
物流による交通・環境問題等の周辺の生活環境への影響について適切な対応を図ることが必要との観
点から、地域住民の意見を反映しつつ、地方自治体がその周辺地域の生活環境の保持のため、施設の
配置及び運営方法について適正な配慮がなされることを確保することを 当該大規模小売店舗の設置者
に求めるよう制定された法律。
1.3 諸外国の政策
上記まちづくり 3 法のうち、市街地経営に関する法律となった中心市街地活性化法は、
欧米各国における市街地マネジメントの手法を参考にしたところが大きい。
米国においては 1980 年代のレーガン政権下における地方への補助金の大幅削減、英国
ではサッチャー政権におけるスリムな政府化により、地方都市は国から切り離されること
による政策的、特に財政面での大きな打撃を受けた。同時に、欧米諸国においても 60 年
代から始まったモータリゼーションによる都市機能の郊外化が、急速に進み、エッヂシテ
ィ問題 i・インナーシティ問題として大きな社会問題となっていた。
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その中、米国においては市街地活性化特別区(BID ii)、英国では地域マネジメント組織
(TCM iii)といった市街地経営制度が、民間主導の形で形成されていった。
米国の BID においては、ある市街地を特別
区として認定し、その特別区内住民から固定
資 産 に 上 乗 せ す る 形で 共 同 負 担 金 の徴 税
(Assessment)を実施する。そしてその財源は、
地元の企業や住民等による自主的な BID 運
営事業 NPO に業務を委託し、様々な事業を
■ニューヨーク・タイムズスクエア
展開させている。行政側(州並びに地方政府)では、数年ごとにスタート時に制定した到達
目標を元にしてパフォーマンス調査を行い、その後の継続契約について住民投票を実施し
て決断することとなっている(サンセット条例制度)。
英国の TCM は比較的米国よりも、民間
の「地域活動」に近い組織であったが、来
年度から制度が英国においても法制化され、
本格的な地域マネジメントへと向かおうと
している。また 91 年よりチャレンジシテ
ィをコンペ方式で選定し、重点的な支援を
■ノッティンガム TCM
行ってくる等のこれまでの蓄積をより継続
的な市街地活性化につなげて行くためにも、複数年の継続的財源の確保が必要と考えられ
たことがあげられる。
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1.4 市街地マネジメントの行方
1998 年前後を境に大きな変化を問われたわが国のまちづくり関連法案は、諸外国で見ら
れる市街地を特別区域化した上で、「財源や権限を地元専門組織へ移行し」、集中的に「地
域マネジメント」を実施していく、という世界的な潮流に沿った形で作られた。
しかしながら、その具体策は「財源」に関しては、俗に言うヒモ付助成金の形で行われ
ており、その事業内容は全国で均質化されている。
また、具体的な「権限」は基本的に地元行政や商工会議所、商店街などのステイクホル
ダーの協議の下に進められるという形態をとっており、組織への自治体からの具体的な権
限譲渡は実施されていない。しかしながら、経済産業省中心市街地活性化推進室岡田室長
によると、関連 12 省庁による合同施策として実施されており総合的サポートを得られる
環境になっている。権限委譲はないが、地域の調整役にはなれる立場にある、とのことだ
った。
■日米英の権限委譲と財源委譲の状況
権
日本
限
財
源
国の定めるメニューに沿うのが中心。
補助金(公共団体の出資比率により、事
自治体側では再開発事業主体として
業費総額の 2/1,1/3,4/1 を自己負担)
の委託などが行われている。
米国
英国
BID 主体。自治体なども基本的に運営
BID 特別負担金 を徴収す る権限 を委
方針や予算編成には関与せず。
譲。ほかは企業寄付など。
これまで特別な権限委譲はなし。
2003 年度から BID 制度を導入し、基礎
今後は段階的に実施。
的な財源を負担金でまかなう。コンペ
ティションによる重点的補助金投下。
出所:ATCM BIDs pilot project (http://www.ukbids.org/), IDA(http://www.ida.org/)
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上記のように、わが国では薄く広い補助金システムが展開され、その上にのみ地域マネジ
メントが実施されている。また諸外国のような PFI 形式の事業なども展開されておらず、
旧来型の再開発事業を実施する場合が多い。
この施策環境による弊害は、決して小さなものではない。その結果は、下記の経済産業
省中小企業庁経営支援部商業課まとめ「TMOのあり方懇談会」報告書の実態調査結果に
顕著に現れている。
■表
タウンマネージメント事業に必要なこと
出所:平成 15 年 9 月経済産業省中小企業庁経営支援部商業課まとめ「TMOのあり方懇談会」報告書
上記のように、経営基盤の確立を実に全体の半数以上が指摘している。特に、第三セク
ターの形態で成立されている TMO に至っては 75%近い数字となっている。
ここから、財源確保に対する政策が打たれていないため、慢性的な経営難にあることが
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読み取れる。特に、新たに第三セクター型 TMO では、緊迫していることが伝わる。
それでは、続いてまちづくり会社の事業規模・内容について詳細に見てゆきたい。
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第二章
わが国の都市経営基盤の現状
先の経営基盤の脆弱性を背景に、中心市街地活性化法施行から 5 年がたった今、わが国
のまちづくりは大きな曲がり角に差し掛かっている。
2.1
経営危機に陥るまちづくり会社
2001 年7月、全国で2番目に設立された TMO「まちづくり佐賀」が負債総額16億円を
抱え破綻した。各地の研究会では先進事例としてもてはやされていたが、中心市街地活性
化の担い手としてデビューしてわずか5年、自己破産に追い込まれた。破綻したまちづく
り佐賀は氷山の一角に過ぎず、同様にして福岡県大牟田市の第3セクターが会社「タウン
マネジメント大牟田」も破綻している。全国には再開発がらみのTMOが数多く存在し、
岡山県津山市のTMO会社「津山まちづくり」等、キーテナントの確保に苦慮している。
基本的にTMOの資金調達手段は、駐車場等の収益事業による資金、商工会議所、商工
会からの会費収入、3セク会社への各種団体・個人からの出資のみであり、残りすべてが
「補助金と借入金」で賄われている。
2.2 TMO の事業規模とその負担
TMOの事業費規模は、1 億円以上 10 億円未満が全体の 50%以上を占めており、またそ
れぞれの自己負担率は 25%∼50%にまた 50%が占められている(下表を参照)。この 2 つの統
計から推定される事業負担額は、平均として 2 億∼3 億円程度となっていると言える。
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表
TMO 計画認定団体ごとの事業費総額(代表的 26 の TMO への調査)
事業費
実数
割合
1 千万円未満
5
19.2%
1 千万円以上 1 億円未満
6
23.1%
1 億円以上 10 億円未満
14
53.8%
10 億円以上
1
3.8%
出所:TMO は機能しているのか(斎藤豪 2001 年)
表
事業費における自己負担率(代表的 26 の TMO への調査)
自己負担率
実数
割合
0%
1
3.8%
0%超 25%以下
10
38.8%
25%超 50%以下
13
50.0%
50%超 75%以下
0
00%
75%超 100%
2
7.7%
出所:TMO は機能しているのか(斎藤豪 2001 年)
自己負担額は出資金と若干収益事業をベースとして、不足するものは借入金で補完して
いる。また、借入金の返済期間は長期にわたるため、キャッシュフローが著しく低下し、
新規事業に取り組めない期間が続く問題もある。
2.3 資金調達方法
TMOをつくるメリットとして国は、「中小小売商業振興法に基づく支援措置に比べ、
手厚い補助金、高度化無利子融資、税制措置等による支援が受けられる」点を挙げている
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が、これらは、各地方自治体との強調補助が基本のため、国だけでなく、地方自治体の財
政的支援なしでは成立するものではない。事実として、先の破綻事例として述べたタウン
マネジメント大牟田の破綻は、県からの財政支援の打ち切りが引き金となった。
前述の通り、米国のBIDは地区内の不動産所有者全員から資金を調達することができ
る。具体的には固定資産税(Property Tax)の20%までの「徴税権」 iv を付与され、徴収
業務は自治体が代行する。このことから、安定的な定期収益源が確保されることで、財政
的な安定を担保されることになる。また同時に、使途に関しては綿密なマーケティングに
基づいた都市分析を反映した事業展開が可能なため、各地それぞれの状況に対応した活性
化策を策定することが可能になっている。また、米英ともに、各自治体も積極的に都市経
営整備事業や再開発事業に PFI を導入し、民間資金とノウハウを活用した都市マネジメン
トを行っている。
わが国では、徴税制度のような安定的財政基盤がないだけでなく、PFI 等のマネジメン
ト手法に対してもまだ積極的に取り組まれていないといえる。各国の市街地マネジメント
においては、NPO や各種企業との積極的な事業提携が行われていることにより、不足する
経営資源を外部から調達している部分が大きいことも否めない。
経営基盤の脆弱性は、制度的問題とともにマネジメント手法の稚拙さといった大きく 2
つの課題が大きく影響している。それでは、諸外国において民間サイドの資金やノウハウ
を活用することによる、都市マネジメント手法の中に、わが国の市街地問題の解決策を示
唆するものがあるのではないか。
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第三章
広告が地域を救う
前項までで、わが国の地域マネジメントに関する諸問題について述べてきた。
その中で、財政的課題に対して「民間の資金」を用いた財源確保の可能性に向けて、何
らかのソリューションがあるのではないか、という視点から各国の都市マネジメント事業
を調査した。
その中から大変示唆的なモデルを 1 つ見つけることができた。
それは、欧州諸国における都市景観設備事業の多くが、屋外広告収入を公共財源にして、
その設置から維持管理までを行うという、ストリートファーニチャーという新しい広告収
益を活用した PFI 事業モデルであった。
3.1 ストリートファーニチャー広告とは
ストリートファーニチャー広告とは、まず市街地全体をフィールドに人の動線に合わせ
て広告パネルや広告塔を設置する。その収益により、市街地に必要とされる様々な設備を
設置し、かつその定期メンテナンスをまかなうものである。
■サンフランシスコ
■シンガポール
■ロンドン
出所:JCDecuax Annual report 2001
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これまで一般的に、市街地に必要とされる施設整備は自治体や、地元商店街や地元企業
などによる共同事業に補助金を付加する形として、日本だけでなく諸外国も同様に取り組
まれてきた。
しかし 特に欧 州で は、市街地 の集客 や公 共スペースを 利用 する屋 外 広 告に対 する
「Public Interests(公共利益)」意識が定着していた。そして近年、旧来の規制政策から、
屋外広告物の一括管理を実施し、その収益を市民に還元できる仕組みとして、施設整備財
源として利用する方法が行われ始めた。
ストリートファーニチャーとは具体的に、
Ø
バスシェルター
Ø
バリアフリー自動公衆トイレ
Ø
情報パネル、街中案内板・防災案内板
Ø
ベンチ、ゴミ箱、街路灯、信号機
Ø
キオスク、公衆電話ボックス、インターネットブース
のように、市街地に必要とされる様々な設備一般すべてを指す。
近年では、情報設備関連にもその範囲は及び、市街地の無線 LAN 環境なども整備してい
る。また、OOH グループ大手の JCDecaux の日本法人・MCDecaux 取締役の大山氏によると、
パリ市シャンゼリゼ通りのイルミネーションなどもサポートしており、一般的には市に必
要な施設を提供・管理する総合的なエージェントとしての役割として見られている、との
ことだった。
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■様々なストリートファニチャー
出所:JCDecuax Annual report 2001
3.2 事業契約モデル
一般的に欧州各国では、PFI 事業として自治体が積極的にストリートファーニチャー広
告を推進している。本事業を請け負う企業は、20 年規模の長期契約を自治体等と契約し、
導入コストなどのリスク負担を行うことと引き換えに、ガイドラインに沿ってポスターボ
ード等の広告媒体の設置を許可される。独立採算型 PFI の代表例と言えよう。
ここでは、景観維持が厳しく管理されており、広告ボードの規模や広告物の間隔、媒体
別のクライアント制限がなされている。同時に、契約企業は 1 社に限定されるなど、屋外
広告物の乱立を制限する制度になっている。
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3.3 実施地域
現在では、欧州の上位 50 大都市のうち、46 都市が都市景観整備事業予算を何らかの屋
外広告収入により捻出されている。また、欧州を中心として展開されていた都市景観整備
事業は、近年では世界 45 カ国以上、4000 を超える都市で実施されており、大変一般的な
手法として認められているものである。近年では、韓国や台湾、シンガポール、タイ、マ
レーシア、中国など多くのアジア諸国でも活用する都市が出てきており、都市・地域マネ
ジメントにおけるグローバルスタンダートと言えるものとなっている。
■欧州 50 大都市におけるストリートファーニチャー広告実施状況
出所:JCDecuax Annual report 2001
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3.4 ストリートファーニチャー広告事業が示唆するもの
本事業は、これまでの広告パネルや広告塔の設置という旧来からある媒体にもかかわら
ず都市全体をフィールドすることで大きな広告価値を生み出している。かつ、その収益の
活用方法にソーシャルファイナンス機能を持たせることで、その展開をより容易にした。
このモデルにおいてポイントとなるのは、
1.
市街地が潜在的に持つ、集客力を媒体として広告事業化する
2.
収益を地域に必要な設備の設置・維持管理予算として活用する
という、2 つの革新性であろう。
第一として、市街地が潜在的に持っている価値、すなわち集客力というものをメディア
媒体化することで収益事業化している。これは、広告主に対して都市全体を行きかう人全
てに訴求するということで新たな屋外広告市場を開拓することに成功している。
第二に、その収益を地域に必要な施設整備費用にすることを提案した(PFI 事業化)こと
により、法律的課題などの解決策を提示でき、PublicInterests として還元する方法を提
示した。
この両輪により、広告主、市民に対して、魅力的な事業となったと言える。どちらが欠
けていたとしても、この事業は成功しなかっただろう。
この事業モデルは、都市・地域マネジメントにおける財源確保に大きな活路を提示する
だけでなく、今後の地域密着型の広告事業戦略において大きな意味を持っている。
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3.5 進まない、わが国の次世代屋外広告事業
わが国の屋外広告は、テレビの一般化などによるマスメディアに押しやられ、これまで
はその発展を止めてしまっていた。しかしながら、米国などでは屋外広告は発展を遂げ、
ネットワークボードと呼ばれる形態に移行している。つまりは、単一地域だけ、また単一
地域においても数箇所という限定的なものでは広告効果自体が認められないため、複数を
ネットワークすることにより、マスメディアと匹敵しうるような媒体価値を構築するので
ある。
近年急速にわが国においても、マスメディアから SP 分野への広告事業の割合が移行して
いるが、それでもなお進まないわが国の屋外広告事業は、そのような現代に必要とされる
ネットワーク化が大変脆弱である点を指摘できる。
市街地全域カバー型の屋外広告や都市間屋外広告 ネットワーク化の実現における問題
点を整理すると、
○都市の体制・制度面での背景
法的制約(道路法、道路交通法、屋外広告物条例)
わが国では、公道上や市街地などの公共的空間において、広告物を掲出することに広く
規制がかかっていた。また、財政的に恵まれていたため、施設整備等の資金も不足せず、
潤沢に公的投資を実行してきた。
行政の縦割り問題
各分野別で行政セクションが分かれており、複合的な領域となる都市・地域全体での事
業に乗り出すことがまず困難であった。
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○ 広告市場としての背景
急成長したマスコミ媒体
日本においては、マスコミ 4 媒体のシェアが大きかった。全土に向けて地上波放送が行
われているということで、より正確な細かい情報を提供できるテレビが広告媒体の主役
であった。
不透明かつ効果の不透明な屋外広告
屋外広告の媒体主に中小の代理店などが細かく絡み合い、ネットワーク化を困難にして
きた。かつ、その広告効果測定などが大変基準化されにくかったこともあり、効果を疑
問視する傾向も強かった。そのため、OOH の主力は管理がなされた鉄道広告となってきた。
3.6 ボトルネックの改善の兆し
しかしながら近年、屋外広告をとりまく環境が大きく変化してきている。
法的制約の変化
屋外広告物条例の制定主体が、中核都市まで下げられたことで、都市間で規制緩和の施
策差が発生している。公共に資する屋外広告は積極的に緩和の方向が強い。また、道路
法・道路交通法に関しても国土交通省が緩和の方向性を示し、通達内容を弾力的な内容
に変更している。管理権限を地元団体へ移行することを国土交通省が推奨し、ストリー
トアダプト制度の展開を進めている。
行政の縦割りの改善
TMOなどの中心市街地の総合的マネジメントを行う主体が形式上であるとはいえ、整
備された。また、地域活性化は大変大きな課題として自治体も受け止めており、各セク
ションを越えて支援をする体制が出来やすい環境にある
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屋外広告マーケットの変化
不況を背景に、投資として広告を捉える傾向が強まっている。その影響で、地域別のメ
ディアミックスを再構築しつつあり、マス媒体よりも訴求効果がある場合屋外広告もひ
とつの選択肢として考えられるようになってきた。コストのかさむマスメディア広告か
ら、低コストで確実に顧客にリーチできる点も見られている。
屋外広告調査フォーラムでは、DEC という屋外広告評価指標の統一化を複数広告代理店で
策定し始めるなど、OOH への積極的な取り組みが加速化している。
このような変化によりわが国において進まなかった、次世代屋外広告事業が進展しうる
可能性が大いに高まってきているのである。そのキーとなるのは、諸外国同様、地域との
連携型の新しい広告事業戦略であることが、にわかに浮かび上がってきている。
3.7 市街地マネジメント組織における実現容易性
わが国では、市街地施設整備事業の多くが自治体だけでなく、商店街や TMO などの地域
主体組織が補助金などを活用して設置していることは先に述べた。それだけでなく、市外
施設整備事業は下記のとおり、市街地マネジメントにおける代表的事業なのである。
TMO計画認定事業別比率
2%
2%
9%
26%
9%
9%
市街地施設整備
道路整備
商業施設建設・管理・運営
ファサード整備
テナントミックス
アーケード整備
自然環境整備
催事場整備
駐車場設置
18%
11%
14%
出所:斎藤豪 2001より作成
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これら市街地施設とは、モニュメント、スピーカー、サイン、街路灯設置等を指し、欧米
諸国におけるストリートファーニチャーと近いものが多い。したがって、市街地マネジメ
ント組織では、ストリートファーニチャーを活用した広告事業をすぐにでも始められる設
備が整っているのである。
さらに、今後はより市街地の施設整備や維持管理に関する事業は、自治体から市街地マ
ネジメント組織へ委託される傾向が強まっている。このことからも、契約主体先の諸外国
の事例のように自治体との契約だけでなく、市街地マネジメント組織と契約して実施して
いく方法が考えられる。
3.7 広告と地域の親和性
このように、地域にとって市街地屋外広告事業は財源として有効であり、かつこれまで
のボトルネックが改善される兆しを示している。そして、市街地マネジメント組織にとっ
ても対応しやすい現実性の高い事業であることを示した。
地域の抱える財政的基盤の脆弱さに対して、大変有効な手段として広告事業が挙げられ
ることは間違いがない。そして、同時に現在の地域の持つ資源を活用し、すぐにでも始め
ることができるという点でも、広告は地域にとって大変親和性の強い事業であると言えよ
う。
つまりは、屋外広告こそ地域を救えるのだ。
しかし地域にとってのみ屋外広告が有効であるのだろうか。
いや、新たな市街地屋外広告媒体は、地域の一方的な要求ではなく、広告主、広告代理
店にとっても大きな価値のある媒体なのである。
第四章では、広告業界側から見た市街地屋外広告マーケットの持つ可能性について述べ
てゆく。
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第四章
屋外広告市場の持つ潜在的成長性
4.1 わが国の広告マーケットの性質
全世界の広告市場の状況を見ると、米国のみが飛び抜けた状況にある。例えば日本と比
較すると総広告費は 4.5 倍、人口一人当り広告費は 2.1 倍、対 GDP 広告費比率は、日本の
1.15%に対して 2.38%になっている。米国は、まずその国土の大きさと人口密度において、
日本、欧州各国とは格段の差がある。これは、通販や DM の状況の違いに関係しているだ
ろう。また、米国と日本あるいは欧州とではさまざまな面で大きな影響を持つ人口動態も
かなり異なる。米国の人口は、年率 1%、人口数にして 250 万人/年程度増加してきてい
る。一方、日本の人口は、ここ数年では 0.1%程度の伸びで推移し、2006 年のピーク以降、
減少に向かうことが明らかである。広告は当然のことながら経済活動に比例して動く。そ
の経済活動の基盤は人口である。
したがって、今後の日本の広告市場を考えるときには、全体規模のようなマクロな面で
も米国の広告市場をベンチマークにすることはできない。これからは、日本よりも一足先
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に落ち着いた人口動態、成熟化した経済を経験しているヨーロッパを見ておく方が良いも
のと考えられる。(Japan Association of Graphic Arts Technology)
4.2 屋外広告市場
世界的な広告マーケットは、46 兆 8450 円規模となっている。そのうち、OOH の割合
は 6%となっており、屋外広告マーケットは2兆 8100 億円と推定される。
各国での OOH の該当分類媒体が異なるため、一概には言えないが米国の OOH は57
00億円(OAAA 調べ)、日本は5400億円(電通「わが国の広告費」交通広告と屋外広
告を合わせた金額)といったような水準を示している。
近年のわが国における OOH マーケットは全体的な広告費の低下を受け、取扱高は低下
しているが、マーケットシェアは屋外広告が 5%台、交通広告においても 4%台で比較的安
定している。
このように、わが国における広告費全体に占める OOH 媒体は約 10%近いシェアを持っ
ており、旧来型のビルボードなどに対する投資意欲の減退があるにもかかわらず、そのシ
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ェアを保っている。また、インターネットの普及による INHOMEMEDIA のテレビから
のシフトにより、マスコミ媒体のシェアは著しく低下しているが、OOH の特性上から競
合媒体にならず、OOH の優位性は保たれている。
このことからも、トラディショナルな印象の強い OOH であるが、飛躍的に増進するこ
ともない代わりに飛躍的な低下も見られず、大変安定的な効果が見込まれている有効な媒
体と言えよう。
4.3 わが国におけるストリートファーニチャーのポテンシャルマーケット
全世界的な OOH マーケットにおける分野別シェアは、下記のようになっている。
その内、ビルボード、交通広告に次いでストリートファーニチャーが全体の 16%のシェア
を占めている。わが国の OOH 事情に当てはめると、ビルボード等を屋外広告と考えるな
らば、交通広告が世界標準よりシェアとしては多くをカバーしている。
逆に、ほぼ皆無に近い 16%を持つストリートファーニチャー事業は完全な潜在的広告マ
ーケット(Complete Potential Market)と考えられる。
交通広告と現状の屋外広告が、約 44.4%と約 55.5%ずつ OOH 全体のマーケットシェア
を握っていることを踏まえるならば、国際標準シェアと照らし合わせると、
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55.5%×16/40(国際水準でのビルボードと交通広告のシェア合計をわが国の媒体シェア
で割ったもの)=22.2%となる。
これは、ストリートファーニチャー事業が OOH 全体において成長しうる可能性を持っ
たポテンシャルシェアである。
また、現在の屋外広告費である 2887 億円を基準にすると、
2887(億円)×22/55=1154 億円となり、5 兆 7,032 億円というわが国の広告マーケット から
考えると 、全体に占める割合として 約 2%程度となる 。
これはあくまで世界水準に照らした場合であり、人工化密度の高い大都市圏を抱えるわ
が国では、よりストリートファーニチャーにおける露出効果・訴求効果は高いものと考え
られる。また、通常の交通広告とのシナジーを生むことが可能である(人の生活動線による
統一広告等)ため、交通広告の発達しているわが国はさらにストリートを活用する広告媒体
は、一般的な国際水準よりは若干ながら高く設定することもできるかもしれない。
しかしながら、国際的水準を基本したものであっても、ストリートファーニチャー広告
事業は、1000 億円規模のポテンシャルを持った大きなビジネスチャンスである。成熟した
わが国の屋外広告マーケットにおいて盲点ともいえるものである。
4.3 立ち遅れたわが国の屋外広告販売
わが国における屋外広告の活用が立ち遅れている理由には、トラディショナルな屋外
広告ボードの費用対効果の問題もあるが、それと同時にその販売方法に大きな問題がある。
規格もまちまちで、かつ単体ボード売りが基本、複数の中間代理店が絡み合い、同一エリ
アでの一斉キャンペーンも打つことが困難な状況にある。これでは、活用する広告主側と
しては個別のコミュニケーションコストを考慮すると、交通広告のように全体的に管理さ
れた OOH 媒体に流れることは仕方ないといわざるを得ない。
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世界的な OOH グループ各社のストリートファーニチャーを含め、全ての OOH 媒体に
対して共通して用いているモデルがある。それが、ネットワークボードモデルである。
諸外国における OOH ビジネスの差異を下記の 3 点でまとめた。
①
屋外広告専門のメディアベンダーが存在する。
日本においては、通常総合広告代理店 が分散所有されている 各媒体 を押さえていくという シ
ステムが一般的であるが、メディアベンダーが各自ネットワーク化されたポスターボード を所
有管理しており、それを広告代理店 が購入するというのが 一般的である 。
②
屋外広告の効果指標が基本的にルール化されている。
TAB という 効果指標の監査機関が存在し、業界において標準化されたデータ の信頼度 を担保
している 。
③
TAB(第三者機関)で監査され、提出される基本データ
DEC(Daily
Effective
Circulation)
屋外広告の媒体接触効果 を表す最も基本的な指標で、「当該屋外広告前の1日当たりの 有効通
行量」を表す。
DECを使って標準化された効果指標:SHOWING
SHOWING=DEC/そのエリア人口×100 で求められ、
「当該屋外広告が1日に到達
か可能なエリア内人口の割合」を示す。屋外広告の売買では、25・50・75・100 というS
HOWINGの単位が使われるが、50SHOWING以上が一般的な取引といわれている。
このように、ネットワークされた様々な屋外広告媒体がエリア全体に網羅されており、か
つそれが複数エリアにまたがり展開されている。ストリートファーニチャー事業はまさに
市街地全体をフィールドに、様々な形態の広告媒体を設置し、それを「ネットワークメデ
ィア」として販売することにより、単独売りのような小規模媒体ではなく、マスメディア
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にも匹敵することに成功している。同時に、単独売りでは実現できないバリューを高める
ことにも成功している。
わが国では、これまで屋外広告をとりまくビジネスとしての革新も大変乏しかったため、
よりそのバリューを下げていたことも否めないことが、諸外国のモデルを見ることで顕著
になる。わが国でも新たしい指標作りに屋外広告指標フォーラムなどが取り組み始めてい
る。同フォーラム会長代行の清水教授によると、現状としては旧来型のビジネスモデルか
らの転換は容易ではなく、やっと第一歩を踏み出したばかりである、とのことだった。
今後、多チャンネル時代に入り InHomeMedia は今以上に供給過剰な状態に入ることは
言うまでもない。特に、インターネットの利用時間は年々多くなっており、テレビ広告以
上にインターネット広告市場が成長していくことが考えられる。これから成長余剰力を持
った広告マーケットは、わが国において未開拓分野の多いOOHのである。
特に供給過剰である InHomeMedia と競合にならない OOH の持つ、媒体競争力は相対
的にも増すだろう。同時に、ストリートファーニチャーなどの新規媒体の登場により、旧
来の屋外広告の再編なども進み、OOH 各媒体同士でのシナジーが期待できる。
上記により、屋外広告が持つ潜在的成長性、他の媒体との非競合性などが証明された。
これにより、広告主や広告代理店にとっても大変魅力的なマーケットであることであると
言えよう。
これまでで屋外広告事業が地域にとっても、また広告業界にとっても有効であることを
示した。最後に旧来からの広告の概念を越えた、地域と広告の新たなあり方について述べ、
屋外広告のこれからの道を示す。
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第五章
地域と広告の新たな道
地方分権一括法、財源権限委譲による三位一体改革。
これからわが国は地域格差是正から、地域間競争の時代に入ってゆく。それは、地方は
各々が都市経営を独自のやり方で進めなくてはならないことを意味する。
しかしながら、現在ではその競争力となるような公的な財源、そして経営ノウハウもま
た慢性的に不足している状態にある。
これは世界的に例外的な事例ではなく、諸外国でも同様の悩みを抱えてきた。しかし、
諸外国では都市経営を公共事業としてではなく、一つのビジネスチャンス として捕らえ
様々な企業や NPO が参入し、よりよいサービスに向けて競争している。
そして今、地域間競争時代をついに迎えるわが国においても、都市経営はもはや単なる
行政サービスではなく、ダイナミックなマーケットとして考えることが必要であるのだ。
欧州における都市の市街地を活用した広告マーケットは、大きなビジネスチャンスとし
て古くから各社が参入を試みてきた。その競争から、都市景観整備と広告事業をあわせた
新しいビジネスモデルが生まれ、地域と広告業界双方にとってプラスとなりうるシステム
が定着していった。
景観保護の強い欧州でなぜストリートファーニチャーは普及したのだろうか。
それは、行政コストを民間資金で押さえ、かつ常に整備されたストリートファーニチャ
ーでえられた資本が地域に再投資される、というソーシャル・ビジネスとしての側面を兼
ね備えていたからではないだろうか。
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つまり、これからの地域と密着した新しい広告のコンセプトは、地域社会システムと広
告ビジネスの融和した「コミュニティファイナンスの創造」が柱になるのである。
地域間競争時代においては、自ら財源を生み出し、その財源により地域に必要な投資し
ていくこそが要求される。その必要性に対応できるのが、屋外広告事業なのである。
広告で得られた収入を財源として、地域に必要な様々な施設から地域社会に不可欠なサ
ービスなど幅広い地域向けの投資が行われていく。さらには、地域の価値が上がることに
よって、より屋外広告の持つ価値も上昇し、投資財源が多く確保されるというスパイラル
を生み出してゆける可能性を秘めている。
広告収入を地域投資資本として活用することによって、広告事業は社会資本としての機
能を果たすことになる。それは、
「広告が地域を支え、地域を活用し広告する」ということ
である。
これまでの広告の概念を超えて、地域社会にとってのコミュニティファイナンスとしの
機能を全うしてこそ、屋外広告の持つ新たな可能性は開花するのである。
我々には屋外広告をコミュニティファイナンスとして活用する道を開拓し、新たな魅力
ある地域社会を次の世代に手渡す大きなチャンスが今、ここにあるのではなかろうか。
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脚注
エッヂシティ問題とは。米国において 1920 年以降のフォード社の自動車価格の低価格化
によるモータリゼーションとともに、第二次世界大戦の退役軍人に対する郊外住宅購入に
関する優遇策が実施され、急速な住宅の郊外化が進んだ。その影響で、商業機能や就業機
関などが市街地から流出し、その周辺(エッヂ)に完全な独立都市が複数構築され、市街地
が空洞化した現象。
ii BID とは BusinessImprovementDistrict の略。
iii Town Center management
iv General Municipal Law,980-k,(b)
i
参考文献
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『商業界』2001
年 11 月号、商業界
保井美樹(1998)「アメリカにおける Business Improvement District(BID)−NPOによる中心市街地活
性化―」『都市問題』1998 年 10 月号、東京市政調査会
保井美樹(1999)「中心市街地活性化主体に関する―考察―日本のTMOとアメリカのBIDの比較検討
を中心に―」『第 22 回日本計画行政学会全国大会論文集』
保井美樹、大西隆(2002)「「負担者自治」という観点から見た米国BID制度の評価に関する研究」『都
市計画』2002 年 6 月号、日本都市計画学会
斉藤豪(2001)「TMOは機能しているのか」『京都学園大学経済学部論集』2001 年 7 月、京都学園大学
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そ急務」『日経地域情報
危ういTMOへの過剰期待
中心部の集積を高めるゾーニングこ
№.394』
永家一孝(2002)「TMOの動向と課題」『日経地域情報
№.399』
原田英生(1999)『ポスト大店法時代のまちづくり』、日本経済新聞社
通商産業省産業政策局中心市街地活性化室中小企業庁小売商業課編(1999)
『Q&A
わかりやすい中心市街地活性化対策の実務−その仕組みと自治体等の役割』、ぎょうせい
石原武政(2000)『まちづくりの中の小売業』、有斐閣
JC Decuax Annual Report 2001-2002
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