第1節 第 節 経営戦略 経営戦略 特に、1990年代中頃からのインターネットの普及による市場環境の急 激な変化は、いち早く対応した企業と変化に追随できなかった企業との 間に明確な企業業績の明暗となって現れ、環境変化に対応した経営戦略 の重要性を浮き彫りにしている。 ① 経営戦略の階層と競争戦略 学習のポイント ◆経営戦略は、企業の長期的な基本設計図であり、全社戦略と 事業戦略から構成される。後者では競争戦略が重要である。 ◆競争戦略は、ポジショニング・ビューと資源ベース・ビュー の双方の観点から検討される。 ◆バランススコアカードの考え方は、中長期の観点から企業組 織の全体最適を実現する有効な手法として普及してきた。 ◆経営戦略策定のプロセスは一定ではないが、本書では内外環 境分析、重要成功要因の抽出、事業ドメインの再定義、競争 戦略の選択(経営課題)としている。 経営戦略は大きく、全社戦略(corporate strategy)と事業戦略(business strategy)に分けられている。 最も上位の全社戦略は企業戦略ともいわれ、事業ドメインの決定や、 事業間の経営資源の配分など企業全体の方向性を示す戦略である。次の 事業戦略(business strategy)は、個々の事業分野の単位で策定される 戦略である。 この中で事業戦略の策定においては、特に競争優位を確立することが 求められており、競争戦略が重要視されている。 競争戦略とは、市場社会における競争相手企業との関係を有利に導く ための基本的な手段の選択であり、自社の事業領域内における経営資源 の展開方針を指す。企業が組織として存続し発展していくためには、妥 当な利潤を確保し続けなければならない。企業が完全自由競争の中で中 長期的に成長し発展していくことは、一般的に極めて困難なことである。 中長期にわたり企業が発展し存続していくためには、競争の中にも差別 1 経営戦略の基礎 ( 1 )経営戦略とは 経営戦略とは、企業を取り巻く内外の環境変化に対して、積極的に適 合し、企業を成功に導くためにどのような手段を講じるかを示したもの であり、企業に関与する人の指針となり得るものをいう。この経営戦略 は、市場環境の変化の中で企業組織が存続し発展していくための中長期 的な優位性を作り出す必要がある。 ② 経営ビジョンと経営戦略 企業が、あるべき姿またはありたいと思う姿を経営ビジョンとして描 き、一方で現実の姿を確認して、中長期的にその差分を埋める手段の選 択をすることを、経営戦略の策定という。 ( 2 )戦略策定の基礎知識 的な基本設計図である。したがって、企業を取り巻く市場社会の変遷に 経営戦略の概念は、1960年代のアメリカから普及した。実践的な立場 つれて、経営戦略も定期的または適宜に見直し、再構築していく必要が から体系的な理論を展開したH.I.アンゾフは、製品と市場の組合せから、 ある。 図表 1 − 1 − 1 のように企業の戦略を市場浸透戦略、市場開拓戦略、製
© Copyright 2024 Paperzz