日本大腸肛門病会誌(年間1−10号)第61巻第9号 2008年9月・第63回学術集会抄録号 691 01−009当院における毛巣洞手術症例の検討 01−010脊髄梗塞を有する難治性肛門周囲膿瘍の一例 東葛辻仲病院1),アルト新橋クリニック2) 長岡赤十字病院外科 堤 修1),辻仲康伸D,浜畑幸弘1),松尾恵吾1), 長谷川潤 中島康雄1),高瀬康雄1),新井健広1),指山浩志1), 星野敏彦1),田澤章宏1),赤木一成2) 【はじめに】脊髄梗塞を有する難治性肛門周囲膿瘍の症 例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する. 【目的】毛巣洞は肛門後方,尾骨上方に膿瘍を形成する疾 【症例】62歳,女性. 患である.原因は後天性に毛髪が皮膚に刺入し感染が生 【既往歴】脊髄梗塞により両下肢麻痺 じ膿瘍を形成し自壊を繰り返す.若く毛深い男性に多い 【現病歴】2007年6月発熱,左轡部の腫脹を自覚し,同 といわれており,また何らかの易感染性の原因がある可 年7月当院を受診した,CT施行し肛門周囲膿瘍の診断 能性が考えられる.そこで当院で根治術を受けた毛巣洞 にて膿瘍切開ドレナージ,終末式S状結腸人工肛門造設 患者の特長と治療成績について検討した. 術を施行した.細菌培養では黄色ブドウ球菌が認められ 【方法】対象は,2003年より2007年までの5年間で当院 た.抗生剤投与を行い解熱し創の培養検査で細菌が陰性 にて毛巣洞根治術を行っ33例とした. であったため創の縫合閉鎖を行った.再び,蜂窩織炎が 【結果1年齢は18歳から57歳で平均31・4歳,男女比は 増悪し発熱したため創を開放した.その後,感染は軽快 10:1であった.術前の血液検査で高血糖を認めた6例 したものの創は治癒せず縮小するにとどまった.初回手 は,いずれの症例も病識はなく未治療であった.男性だ けを見た場合,身長は162cmから181cm(平均172.6 術から約1年8か月後の2008年3月右轡部の腫脹を主 訴に来院しCTにて右側の肛門周囲膿瘍と診断され切 cm),体重は54kgから115kg(平均83.1kg),BMIは17.4 開排膿を行った.細菌培養では再び黄色ブドウ球菌が認 kg/m2から371kg/m2(平均27.9kg/m2),肥満度一 められた. 20.9%から6&6%(平均26.6%)と肥満傾向にあった. 【考察】肛門周囲膿瘍はほとんどが肛門腺感染節による 手術は全例が腰椎麻酔下で行なわれた.marsupializa− ものと言われているが自験例では細菌培養により黄色 tionを含めた開放術が10例で,一期的創閉鎖術が23 例(ドレーン挿入4例)で行なわれた.術後合併症とし て一期的創閉鎖術のうち術後創感染あるいは創し開が ブドウ球菌がみられていること,人工肛門造設後も発症 膚からの感染が原因と考えられる.基礎疾患に脊髄梗塞 6例(26.1%)に認められたが,ドレーンの有無では有意 があることで感染の発見が遅れ,膿瘍の拡大の原因と 差がなく,肥満度の高い症例に多い傾向を認めた.術後 なったと考えられる.また,移動は座位によるため磐部 していることから,肛門腺からの感染は否定的であり皮 の通院日数は,一期的創閉鎖術で合併症がなかった症例 の圧が高まることや傷つきやすいことが,治癒の遅延や が短く,創し開を認めた症例は開放術を行なった症例と 対側の肛門周囲膿瘍の原因になったと考えられた. ほぼ同等であった. 【結語】当院で行なわれた毛巣洞症例では一般よりも男 性が多く,肥満度の高い症例に術後合併症が多い傾向に あった.術式別に見た場合,一期的創閉鎖術が術後通院 日数が短く第一選択となる術式と思われた.今回の検討 では,一期的創閉鎖術では必ずしもドレーンの必要性は なかったが,切除範囲が大きい場合には皮弁形成などの 緊張のかからない縫合を行なうとともに,閉鎖式のド レーンにて持続吸引を行い死腔をなくすことも良い方 法であると考えられる.
© Copyright 2024 Paperzz