企業情報データベースシリーズ 活用事例紹介 第 9 回 快進撃を続ける韓国サムスン電子の強みと課題 城西国際大学 経営情報学部 客員教授 株式会社プロネクサス主任研究員 岡東 務 株式会社プロネクサス データベース事業部 快進撃を続ける韓国サムスン電子の強みと課題 城西国際大学 経営情報学部 客員教授 プロネクサス主任研究員 岡東 務 1.はじめに 韓国の電機メーカーであるサムスン電子(Samsung Electronics Co., LTD)が快進撃を 続けている。同社のアニュアルレポート 2010 年版によると、売上高は 155 兆ウォン、営業 利益は 17 兆ウォンを達成した。2010 年の売上高は 2009 年に対して 13%、営業利益は 58% それぞれ増加した。高い収益力を背景に財務内容も健全である。連結ベースでみて 50.3% の負債比率(liability ratio)、66.5%の自己資本比率(capital adequacy ratio)の健 全な財務構造を維持している。サムスン電子の世界的なブランド価値は 2009 年に対して 11%増加して、195 億米ドルと推定されている。また 2010 年のビジネスウィーク誌の世界 的なブランド調査の上位 100 社の世界的なブランドの中で現在 19 位にランクされている。 サムスン電子の躍進の理由について、同社の Geesung Choi(崔志成)副会長兼 CEO は「R&D 投資について大胆な意思決定を行った結果である」と胸を張っている。 これに対して、重電、家電、半導体を含めたエレクトロニクス分野の先進国である日本 の電機業界は立て直しに懸命の努力を続けているが総じて劣勢である。「打倒、サムスン電 子」の秘策は日本の電機業界にあるのか、サムスン電子のライバル関係にあると目されるソ ニー、東芝、エルピーダメモリとルネサスエレクトロニクスの現状と今後の経営戦略を紹介 しながらサムスン電子の強みと同時に課題の研究を試みることにしたい。 2.サムスン電子 (1)業績の概要 サムスン電子の業績の推移を概観しておこう。2010 年までの業績の推移は[図表 2-1]のと おりである。売上高は 2006 年の 86 兆ウォン台から 2010 年には 155 兆ウォン台へと右肩 上がりに一直線に上昇している。売上高営業利益率をみると、2008 年には米国のサブプラ イムローン問題に端を発した深刻な不況を受けて 5%に落ち込んだものの、2010 年には 10%を超える水準に戻している。日本の電機メーカーが受けた傷に比べると概して軽かっ たしその後の立ち直りも早かった。 一方、キャッシュ・フローの推移も高水準である。営業活動によるキャッシュ・フロー は、15 兆ウォン台から 2008 年には 13 兆ウォン台まで落ち込んだものの、最近では 23 兆 ウォン台にまで駆け上がっている。 高水準の営業活動によるキャッシュ・フローを受けて、投資活動によるキャッシュ・フ ローもおおむね活発に推移していることがわかる。 1 図表 2-1 サムスン電子の業績の推移 (単位:百万ウォン、%) 業績ハイライト[通期] 科目名 売上高 2006 2007 2008 2009 2010 85,834,604 98,507,817 121,294,319 136,323,670 154,630,328 9,129,025 8,973,286 6,031,863 10,980,009 16,621,030 10.64 9.11 4.97 8.05 10.75 8,193,659 7,922,981 5,890,214 9,760,550 16,146,525 当期純利益 16,119,746 15,343,560 11,416,118 19,332,148 31,945,560 当期利益率 9.23 7.53 4.56 7.02 10.22 52,880 49,502 37,684 64,888 105,992 営業利益 営業利益率 経常利益 1 株利益 財政状況[通期] 科目名 2006 2007 2008 2009 2010 純資産合計 47,939,867 55,971,908 62,923,954 73,045,202 89,349,091 資産合計 81,366,206 93,375,136 105,300,650 112,179,789 134,288,744 58.9 59.9 59.7 65.1 66.5 897,514 897,514 897,514 897,514 897,514 株主資本比率 資本金 キャッシュ・フロー[通期] 科目名 2006 2007 2008 2009 2010 営業CF 15,080,599 14,790,812 13,360,075 18,522,468 23,826,779 投資CF -11,097,707 -12,002,059 -13,128,424 -14,177,260 -23,984,877 財務CF -3,889,230 -1,599,812 1,934,221 -1,363,639 -152,295 4,222,027 5,831,989 8,814,638 10,149,930 9,791,419 現金同等物 期末残高 (資料)プロネクサス『eol AsiaOne』 、一部修正。Samsung Electronics [2011] pp.30-31 [図表 2-1-1]はサムスン電子の業績を円貨換算した数値である。ウォン安、円高の影響を 受けているため、ウォン建ての数値と比べると少し印象が異なるが、それでも 2010 年の売 上高は 11 兆 2,014 億円と高水準である。日本電機業界では、日立製作所の 2010 年度の売 上高が 9 兆 3,158 億円でトップだから、サムスン電子の売上高は日立製作所を約 20%上回 っている巨大企業であることは間違いがない。 2 図表 2-1-1 サムスン電子の業績の推移(円貨換算) (単位:百万円、%) 業績ハイライト[通期] 2006 2007 2008 2009 2010 @7.80 @8.37 @13.88 @12.56 @13.80 10,996,957 11,757,794 8,734,403 10,848,365 11,201,420 1,169,592 1,071,042 434,354 873,767 1,204,027 10.64 9.11 4.97 8.05 10.75 経常利益 1,049,755 945,679 424,154 776,725 1,169,654 当期純利益 2,065,229 1,831,391 822,074 1,538,413 2,314,136 9.23 7.53 4.56 7.02 10.22 6,774 5,908 2,713 5,163 7,678 科目名 売上高 営業利益 売上高営業利益率 売上高当期利益率 1 株利益 財政状況[通期] 純資産合計 資産合計 株主資本比率 資本金 6,141,959 6,680,750 4,531,153 5,812,790 6,472,447 10,424,475 11,145,162 7,582,699 8,927,043 9,727,876 58.9 59.9 59.7 65.1 66.5 114,987 107,126 64,629 71,422 65,015 キャッシュ・フロー[通期] 営業CF 1,932,096 1,765,416 962,059 1,473,980 1,726,011 投資CF -1,421,817 -1,432,554 -945,378 -1,128,198 -1,737,465 財務CF -498,281 -190,952 139,283 -108,516 -11,033 540,917 696,100 634,742 807,711 709,290 現金同等物 期末残高 (資料)プロネクサス『eol AsiaOne』 、一部修正。 (2)事業内容 サムスン電子の事業内容を見てみよう。主要な事業分野は 2 つに大別される([図表 2-2] 参照) 。このうち Set Business と呼ばれる完成品分野は、さらに Digital media 事業と情報 通信事業(テレコミュニケーション事業)に分けられる。一方の Component Business と呼 ばれる電子部品分野は半導体事業と LCD 事業に分類される。 サムスン電子の営業利益率を部門別に見たのが[図表 2-3]である。同社の収益源は半導体、 次いで情報通信事業であることが読み取れる。しかし、その半導体も 2008 年のリーマンシ ョック時には赤字こそ免れたものの、極めて厳しい状況に置かれていたことが分かる。 3 図表 2-2 サムスン電子の主要事業 Set Business Digital media 事業 デジタルテレビ、モニター、プリンタ、エア (完成品分野) Component コン、冷蔵庫等 情 報 通 信 事業 ( テ レコ 3G phone・スマートフォンなどの携帯電話、 ミュニケーション) 情報通信システム 半導体事業 DRAM、システム LSI、ストレージ製品 LCD 事業 テレビ、モニター、NOTE PC などの LCD パネ Business(電子 部品分野) ル 図表 2-3 サムスン電子の部門別営業利益率の推移 一方、サムスン電子のデジタルメディア事業や LCD 事業は必ずしも万全ではないようで ある。日本の家電メーカーの多くが家電部門で利益を十分にあげられる状況にないことを 考えるとある意味で当然のようにも思える。 サムスン電子の業績や収益構造を概括的に言えば、半導体が大きな柱になっていること である。市況に左右されやすい性格が強い。それを携帯電話事業やデジタルメディアが補 完している形だが、いずれの分野も競争が激しいだけに、開発競争に後れをとるような事 4 態になると一転して厳しい状況に陥る危険性もある。 [図表 2-4]はサムスン電子の 2010 年度の営業利益の部門構成比をみたものである。営業 利益のうち、半導体が 58.5%を占めている。次いでテレコミュニケーションが 24.9%、LCD が 11.5%、デジタルメディアが 2.8、その他が 2.3%である。 図表 2-4 サムスン電子の種類別営業利益の構成比:2010 図表 2-5 サムスン電子の第 1 四半期の部門別営業利益 5 [図表 2-5]は 2010 年と 2011 年の各第 1 四半期の業績を示したものである。それによると、 収益源は引き続き半導体、テレコミュニケーションであるもの、デジタルメディアや LCD は 2011 年に入ってむしろ苦戦している様子が読み取れる。 (3)主な報道記事の紹介 サムスン電子の好調ぶりを受けて、サムスン電子と同社の攻勢を受けて立つ格好の日本 勢の動きを伝える報道記事のいくつかを次に紹介する。 ◇「新興国で液晶 TV 開発、東芝、インドなど 3 ヵ国に拠点」 東芝は新興国で液晶テレビの開発に乗り出す。インド、インドネシア、ベトナムの 3 ヵ国にデザイン拠点を置き、(2011 年)10 月から現地仕様の製品を企画する。2012 年以 降は設計やソフトウエア開発などの機能に加え、現地ニーズを反映しやすいようにする。 専用モデルを拡充しサムスン電子など先行する韓国勢に対抗、世界販売台数に占める新 興国向けの割合を現状の約 2 割から 13 年度に約 5 割に引き上げる。 東芝はこれまで深谷事業所を液晶テレビ開発の中核拠点と位置づけ、一部の欧米向け を除き、海外モデルも日本で開発してきた。欧米と異なり、新興国市場では地域によっ て生活環境や消費者の好みが異なるため、よりきめ細かい商品開発が必要だと判断した。 東芝は 13 年度までに液晶テレビの世界販売を 10 年度比 8 割増の 2500 万台に増やす計画 を打ち出している(2011 年 8 月 16 日『日本経済新聞』)。 ◇「スマートフォンの台湾 HTC、特許狙い買収加速」 台湾のスマートフォン専業大手、宏達国際電子(HTC)は画像処理用半導体メーカーな どの米国 3 社の買収を決めた。M&A を通じてスマートフォンの性能を向上させ、関連サー ビスを拡充する。 HTC はスマートフォン市場で急成長をしており、今年 7~9 月期の出荷台数は前年同期 比 98%増の 1350 万台に達する見通し(2011 年 8 月 22 日『日本経済新聞』 ) 。 図表 2-6 スマートフォンの世界シェア 企業名 シェア アップル(米国) 19.1% サムスン電子(韓国) 16.2 ノキア(フィンランド) 15.7 リーサーチ・イン・モーション(カナダ) 11.6 HTC(台湾) 11.0 その他 26.4 (注)米 IDC 調べ、出荷台数ベース(2011 年 4~6 月期、全体の台数は 1 億 650 万台) ◇「電子部品でもサムスン攻勢」 日本メーカーの独断場だった超小型の電子部品市場で異変が起きている。スマートフ 6 ォン(高機能携帯電話)向けなどで需要が急増している超小型の積層セラミックコンデ ンサーで、韓国サムスングループのサムスン電子(記事では電機)が 2010 年度(11 年 3 月期)の販売金額で村田製作所に次ぐ 2 位に躍り出た。ウォン安を背景に価格攻勢を強 めており、電子機器だけではなく、部品でも日本勢の優位性が薄れ始めている。 セラミックコンデンサーはスイッチやコネクターと違い、アジア勢は決して追いつけ ない電子分品とされていた。内部を分解して組成を調べてもまねできない。リーマンシ ョック後にいち早く増産投資に出て、09 年度には TDK、10 年度には太陽誘電を販売額で 抜き去った(2011 年 8 月 27 日『日本経済新聞』) 。 ◇「東芝、日立、ソニー、中小型、世界で勝負『液晶首位連合』官が主導」 東芝、日立製作所、ソニーの3社と官民ファンドの産業革新機構は、8 月 31 日、中小 型液晶パネル事業の統合会社を 2012 年春に設立すると正式発表した。電機 3 社の技術力 を結集して新工場を建設し、スマートフォン向けなどに急拡大する中小型の液晶市場を リードする。革新機構が 2000 億円の資金を投入し、再編を主導する。 新会社「ジャパンディスプレイ」は 3 社の液晶子会社を統合して発足する。第 3 者割 当増資を引き受ける革新機構が 7 割の株式を保有し、残りを 3 社で均等に分け合う(2011 年 9 月 1 日『日本経済新聞』)。 図表 2-7 中小型液晶パネルのシェア(2010 年出荷額ベース) 企業名 シェア ジャパンディスプレイ(新設予定) 21.6 東芝 (9.2) 日立製作所 (6.3) ソニー (6.1) シャープ 14.8 サムスン電子(韓国) 11.9 鴻海傘下の奇美電子(台湾) 11.7 友達光電(台湾) 7.1 LG ディスプレイ(韓国) 5.8 その他 27.1 (注)米ディスプレイーサーチ調べ。シェアのカッコ内はうち数。 ◇「ドコモ・サムスン・富士通、日韓で携帯用半導体、合弁設立へ」 NTT ドコモ、富士通など日本の通信関連企業は韓国サムスン電子と次世代携帯電話技術 を使ったスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)向け中核半導体を共同開発する。 2012 年にも合弁会社を設立する方向で最終調整に入った。開発するのは米社が高いシェ アを占める通信制御用の半導体。日韓連合で半導体開発の主導権を確保、世界市場の開 7 拓を狙う(2011 年 9 月 13 日『日本経済新聞』)。 (4)サムスン電子の沿革 今や飛ぶ鳥を落とす勢いのサムスン電子であるが、同社の誕生には幾多の困難が待ち受 けていた。簡単に同社の生い立ちから今日までの歩みを振り返ってみる。 韓国では 1960 年代後半になって電子産業が立ち上がった。電子産業といっても実態は組 み立てたラジオを少量ながら東南アジアや米国に輸出するというものだったという。以下、 日本サムスン[2010]に拠りながら、同社の歴史をまとめてみた。 創業~テレビ生産 1968 年 2 月、会社設立準備のために、当時のグループの中核企業だったサムスン物産内 に「開発部」が設置された。創業にあたって先代会長のイ・ピョンチョルは 3 原則を掲げた。 それは、①電子団地の大型化、②工程の垂直系列化、③技術開発力の早急な確保、だった。 この 3 原則に従って、地理的にも近く、電子工業国として世界的に著しい成長遂げてい た日本の企業に協力を求めた。こうして 1968 年 11 月、三洋電機(現在はパナソニックの子 会社)と資本、技術での合弁に関する協定書に調印、1969 年 1 月サムスン電子工業(1984 年に現社名に変更)を設立した。 工場用地もソウルから約 40 ㌔離れた水原 (スウォン)。 敷地面積は 45 万坪と広大だった。 新会社は白黒テレビの組み立てから始めた。日韓合弁企業として日本の技術者とサムスン 電子の社員が共に汗を流しながら生産の現場に立った。そしてついに 1970 年 11 月、サム スン初の 12 ㌅真空管式白黒テレビを出荷、翌年には中南米に向けて輸出を始めた。 1975 年、石油ショック後の省エネブームの中で発売した節電型の「エコノテレビ」はサ ムスンの独自技術で開発した製品として韓国内でヒットした。1977 年にはカラーテレビの 輸出、冷蔵庫や音響機器、エアコンなどの生産も始まった。 携帯電話 通信事業に参入したのは 1977 年。それまでは人手に頼っていた電話の配線交換をコンピ ューターで行う電子交換機の開発や設置などを手掛ける。 1984 年に日本から技術を導入して自動車用携帯電話を製造した。これが携帯電話事業に 乗り出すきっかけとなった。 1989 年、自社技術による初の携帯電話「SH-100」を完成した。当時、韓国の携帯電話市 場は米国メーカーの独占状態だった。サムスンは試行錯誤の末、1994 年、山が多く、起伏 が激しい韓国の地形に強い携帯電話「Anycall」を発売した。 「どこからでも通話できる」 という意味を込めたモデルだった。済州島にある韓国一の高い山であるハルラ山の頂上か らその携帯電話を使って実験したというエピソードが残っている。 半導体 1970 年代、韓国の電子業界は半導体の大部分を日米から輸入に依存していた。80 年代に 入り世界的に半導体の需要が高まり、製品の安定確保が最重要課題になった。1983 年、サ 8 ムスン電子は半導体事業へ乗り出すと宣言。しかし韓国政府や経済界は巨額の投資や先発 企業との差を理由に否定的だった。 そこでサムスンは半年間で生産工場を立ち上げることにし、それを実現、同年不可能と 言われた「64K DRAM」の開発に成功した。 新経営 1993 年に 2 代目会長イ・ゴンヒが「サムスン新経営」を打ち出した。 「愛する家族以外は すべて変えよう」と全社的に呼びかけた。 (5)サムスングループ サムスングループの母体企業はサムスン物産である。1938 年の創業以来、貿易を通じて 韓国経済とともに成長。1975 年に韓国政府が韓国の総合商社第 1 号に認定、1996 年にサム スン建設と統合。現在は商事部門と建設部門を軸に事業を展開している。 ◇商事部門:世界 90 ヵ国以上に現地法人を設立、エネルギー/環境、資源、産業資材の 各分野を中心に活発に海外展開。 ◇建設部門:建築、土木、発電プラント、住宅、開発事業を手掛ける。 ・世界一の高さを誇るアラブ首長国連合・ドバイの高層タワー「Burj Khalifa」 ・韓国では最長・世界では 7 番目に長い仁川(インチョン)大橋 ・マレーシアの「ペトロナスツインタワー」 ・釜山(プサン)の港湾施設 ・仁川国際空港 ・蔚珍(ウルジン)原子力発電所 サムスン電子は 1969 年の設立。同社の設立を含めて、サムスングループの日本での歩み を[図表 2-5]にまとめた。 図表 2-5 サムスングループの日本での歩み 年/名 サムスン物産 サムスン電子 サムスンジャパン 日本サムスン ・その他 1953 東京支店開設 1969 設立 1974 東京事務所開設 1975 設立 1976 大阪支店開設 1983 東京支店開設 1989 サムスン電子ジャ パン設立 1992 サムスン 9 横浜研究所設立 1998 日本サムスン設立 2005 日本経団連に加入 2008 サムスンテレコム ジャパン設立 2010 サムスン東京支店 開設 (資料)http://www.samsung.com/jp/aboutsamsung/japan/history/2000.html(採録日:2011 年 8 月 3 日) 3.ソニー サムスン電子の攻勢に事業の再構築を迫られている日本の電機メーカーはどのような戦 略の下で生き残りをかけた戦いを繰り広げようとしているのか。 (1)業績の推移 まずサムスン電子とテレビ向けの液晶パネル生産の事業で合弁会社を設けているソニー から検討してみよう。ソニーの業績の推移は[図表 3-1]のとおりである。 図表 3-1 ソニーの主要な経営指標 (単位:百万円、%) 2006 年度 2007 2008 2009 2010 8,295,695 8,871,414 7,729,993 7,213,998 7,181,273 持分法投資利益 78,654 100,817 -5,109 -30,235 14,062 営業利益(損失) 150,404 475,299 -227,783 31,772 199,821 税引前利益(損失) 180,691 567,134 -174,955 26,912 205,013 53,888 203,478 -72,741 13,958 425,339 126,328 369,435 -98,938 -40,802 -259,585 3,370,704 3,465,089 2,964,653 2,965,905 2,547,987 11,716,362 12,552,739 12,013,511 12,866,114 12,924,988 株主資本比率 28.8 27.6 24.7 23.1 19.7 減価償却費等 400,009 428,010 405,443 371,0014 325,366 設備投資額 414,138 335,726 332,068 192,724 204,862 研究開発費 543,937 520,568 497,297 432,001 426,814 売上高 法人税等 当期純利益 株主資本 総資産 (資料)ソニー[2011]『アニュアルレポート 2011』「財務セクション」 ソニーの 2010 年度の業績は微減収の 7 兆 1,813 億円となったものの、営業利益段階では 2009 年度に比べて 1,680 億円増加し、1,998 億円になった。この大幅な増益はネットワー クプロダクツ&サービス(NPS)及びコンス―マー・プロフェッショナル&デバイス(CPD) 10 分野の損益改善によるもの。ただし繰延税金資産に対する評価性引当金の計上により法人 税等の負担が増えた結果、最終損益は 2,596 億円の損失と大幅赤字になった。これで 3 期 連続の赤字となった。 なぜ法人税が増えたのか。その理由は次のとおりである。ソニーは、地方税について個 社で税務申告を行い、国税については日本の完全子会社とともに連結納税申告を行ってい る。日本のソニーとその連結納税グループは 2010 年度において 3 年累積で損失計上となっ た。 米国会計原則では、3 年累積での損失は繰延税金資産の回収可能性を評価するに当たり 重要な否定的証拠とみなされる。特に日本における税務上の欠損金の繰越期間が 7 年と比 較的短いことに加え、東日本大震災が日本国内の短期的な業績見通しに及ぼす影響が、こ の否定的証拠を克服することを困難にした。その結果、2010 年度第 4 四半期において、ソ ニーは、米国会計原則上、日本における繰延税金資産に対し、評価性引当金の計上が必要 であると判断した( 「第 5 経理の状況」連結財務諸表注記『22 法人税等』参照) 。 図表 3-2 ソニーのセグメント情報の内容 セグメント 1 2 構成する商品・サービス コンス―マー テレビ、デジタルイメージング、オーディオ・ビデオ、半 ・プロフェッショナル 導体、コンポーネント、プロフェッショナル・ソリューシ &デバイス(CPD) ョン ネットワークプロダクツ ゲーム事業及び PC・その他ネットワーク事業 &サービス(NPS) 3 映画 米国を拠点とする Sony Pictures Entertainment (SPE)に よる映画及びテレビ番組などの事業 4 音楽 米国拠点の Sony Music Entertainment 及び日本のソニ ー・ミュージックエンターテインメントによる音楽制作事 業 5 金融 ソニー生命、ソニー損害保険、ソニー銀行を傘下に置くソ ニーフィナンシャルホールディングス(SFH)及びソニーフ ァイナンスインターナショナルなど 6 ソニー・エリクソン Sony Ericsson Mobile Communications (ソニー・エリ クソン)では携帯電話の設計・開発・製造・販売を行う 7 その他 ディスク製造事業、日本においてインターネット関連サー ビスを行うソネットエンターテインメント等の事業 (注)ソニー・エリクソンはソニーが株式の 50%を保有する持分法適用会社であり、その業 績はソニーの連結財務諸表に直接連結されていない。しかしながら、ソニーは当開示 が有益な追加情報になると判断したと説明している。 11 次にソニーの 2008 年度の業績を概観しよう。すでに説明したように 20008 年度は米国 のサブプライムローン問題に端を発した世界的な不況の影響を受けた時期である。ソニー も例外なく大きな影響を受けた。売上高は前年度に比べて 12.9%減の 7 兆 7,300 億円とな った。 これは主力のエレクトロニクス分野が円高による悪影響及び世界的な景気後退にともな う事業環境の悪化や価格競争の激化により前年度比 17.0%の減収、ゲーム分野が主として 円高の影響に加え、PS2 の売上数量が前年度比減少したため、18.0%の減収となったこと が響いた。 このほか、映画分野が為替の悪影響及び DVD ソフトの売上が減少したことにより、前年 度比 16.4%の減収に、金融分野がソニー生命の保険料収入は増加したものの、日本の株式 相場の大幅な下落により、7.4%の減収など軒並み厳しい結果になったことなどによる。 営業損益は前年度比 7,031 億円悪化し、2,278 億円の損失になった。これは主力のエレク トロニクス分野が、円高による悪影響、ソニー・エリクソンに関する持ち分法による投資 損益の悪化、価格競争の激化による原価率の悪化、事業環境の悪化により、ゲーム分野は、 PS3 のハードウエアのコスト改善及びソフトウエアの売り上げ増により損失が縮小したも のの営業損失と主力 2 部門の不振が陥ったことが大きな理由である。さらに金融分野は、 主に日本の株式相場の大幅な下落によりソニー生命の損益悪化により損失を計上したこと も追い打ちをかけた([図表 3‐3]参照)。 ただし、2007 年度の営業利益には、旧本社跡地の一部の売却益 607 億円、長崎での半導 体製造事業に関する設備等の一部の売却益 156 億円、ベルリンの都市複合施設の売却益 100 億円が含まれていたので、前年度比では落ち込みが一層目立った。 図表 3-3 ソニーのセグメント情報 2008 年度 CPD 4,357,749 3,518,119 3,572,744 営業利益(損失) -115,571 -53,174 2,898 -2.7 -1.5 0.1 1,755,643 1,572,616 1,579,331 -87,428 -83,265 35,569 -5.0 -5.3 2.3 717,513 705,237 599,966 29,916 42,814 38,669 4.2 6.1 6.4 387,053 522,616 470,743 27,843 36,513 38,927 売上高 営業利益(損失) 営業利益(損失)率 映画 売上高 営業利益(損失) 営業利益(損失)率 音楽 2010 売上高 営業利益(損失)率 NPS 2009 売上高 営業利益(損失) 12 営業利益(損失)率 金融 売上高 営業利益(損失) 営業利益(損失)率 携帯電話事業の 営業利益(損失) 7.2 7.0 8.3 538,206 851,396 806,526 -31,157 162,492 118,818 -5.8 19.1 14.7 -30,255 -34,514 4,155 530,126 460,766 447,820 3,105 -4,976 8,554 0.6 -1.1 1.9 持分法投資利益 (損失) その他 売上高 営業利益(損失) 営業利益(損失)率 (資料)ソニー[2011]『アニュアルレポート 2011』「財務セクション」から作成。 (2)ソニーの収益構造分析 図表 3-4 ソニーの収益構造の分析 セグメント 売上高 営業利益 製造業部門(CPD+NPS) 5,152,075(68.9%) 38,467(15.5%) 非製造業部門(映画、音楽、金融、その他) 2,325,055(31.1%) 209,123(84.5%) 合計 7,477,130(100.0%) 247,590(100.0%) (注)対象は 2010 年度で、全社(共通)及びセグメント間取引消去前ベース。 ここで改めてソニーの収益構造を分析してみる。[図表 3-4]は 2010 年度の売上高と営業 利益を製造業部門と非製造業部門に大別して、それぞれの構成比を計算したものである。 それによると、主力の製造業部門(CPD+NPS)は売上高の 68.9%を計上しながら、営業 利益はわずかに 15.5%しか稼いでいない。一方後発の非製造業部門(映画、音楽、金融、そ の他)は売上高の 31.1%を占めるが、営業利益は 84.5%を獲得している。この簡単な分析か らも理解できるように、本業の不振ないし低迷がソニーの現状を端的に説明している。 サムスン電子は、2008 年は 32.8%の営業減益となったものの、5%の売上高営業利益率 は確保していた。ソニーの最大の課題は、本業の、かつ創業事業である製造業部門の再建 が急務になっている。 4.東芝 (1)はじめに 東芝は、日立製作所、三菱電機と並んで日本を代表する総合電機メーカーとして存在感 をほしいままにした時代があったが、近年事業構造の転換を推し進めて、事業領域をデジ タルプロダクツ、電子デバイス、社会インフラ、家庭電器の 4 部門に集約・整理して自ら 13 を「複合電機メーカー」と名乗るようになっている。同社の事業内容の変化を辿るととも に最近の業績の推移や財務内容を検討しながら同社が目指している方向を探ってみよう。 (2)業績の推移 東芝の業績の推移は次のようになる。2007 年度の売上高は 7 兆 4,043 億円と史上最高記 録を達成したが、2008 度にリーマンショックなどによる影響を受け、大きく落ち込んだ。 2010 年度になって事業構造転換の成果が表れてきた。同年度の売上高は 6 兆 3,985 億円と 2007 年度に比べて 1 兆円以上減少したが、2010 年度の売上高営業利益率は 3.8%と 2000 年度の 3.9%に次ぐ水準にまで戻ってきた。主要事業を絞り込み、不採算事業から撤退して いる成果が出ている。最近の例では、2010 年には携帯電話事業を富士通に譲渡したほか)、 2011 年に入って中小型ディスプレイ事業を営む東芝モバイルディスプレイを産業革新機構 の主導の下で新たに設立する会社に、ソニー(ソニーモバイルディスプレイ) 、日立製作所(日 立ディスプレイズ)とともに譲渡することが正式に発表された。今後も事業構造の見直し が続くことが予想される。ただし現段階でリーマンショックの傷跡が完全に癒えたわけで はない。 図表 4-1 東芝の業績の推移 科目 2006 年度 2007 (単位:百万円、%) 2008 2009 2010 6,859,729 7,404,284 6,512,656 6,291,208 6,398,505 247,210 240,356 -233,408 125,248 240,273 3.6 3.2 -3.6 2.0 3.8 315,870 258,056 -261,467 34,413 195,549 4.6 3.5 -4.0 0.5 3.1 137,429 127,413 -343,559 -19,743 137,845 2.0 1.7 -5.3 -0.3 2.2 総資産 5,931,962 5,935,637 5,453,225 5,451,173 5,379,319 株主資本 1,108,321 1,022,265 447,346 797,455 868,119 18.7 17.2 8.2 14.6 16.1 130 12.0 -46.8 -3.2 16.6 減価償却費 258,835 339,363 306,895 252,523 215,699 設備投資額 373,841 464,497 355,516 209,380 231,001 研究開発費 365,260 370,273 357,520 311,751 319,693 売上高 営業利益 営業利益率 経常利益 経常利益率 当期利益 当期利益率 株主資本比率 株主資本利益率 (資料)東芝[2011a]「ファクトブック編(主要データ)」 (注)東芝は 2010 年 6 月 17 日付けで携帯電話事業の統合に関して富士通と基本合意にたっ し、2010 年 7 月 29 日に最終契約に調印した1)。これにより東芝は 2010 年 10 月 1 日付け で携帯電話事業を新会社(富士通東芝モバイルコミュニケーションズ)に譲渡し、新会社 の株式の 80.1%を譲渡した。携帯電話事業は、Accounting Standard Codification(以下 「ASC」という)205-20「財務諸表の表示―非継続事業」に従い、2011 年 3 月期において 14 非継続事業となったため、2010 年 3 月期以前の数値を一部組み替えて表示している。 2008 年度の業績を簡単に振り返ってみよう。売上高は前年度比 13.2%減少した。営業損 益は 2,502 億円の損失。前年度が 2,464 億円の黒字だったから、実に 4,966 億円も減少し たことになる。当期純損益は繰延税金資産の取り崩し等により、3,436 億円の損失になった。 需要の急減に費用等の削減が追い付かなかった。 2010 年度は、震災や円高などの影響があったものの、テレビなどの映像部門やメモリな どの半導体部門が増収となり、売上高は前期比 1.7%増えた。販売費及び一般管理費の削減 が進み、営業利益は 91.8%増えた。当期利益は 1,378 億円と 2 期続いた赤字から転換でき た。 (3)4つの主要事業部門 東芝はセグメント情報を次のように開示している。 図表 4-2 東芝の事業の種類別セグメント 番号 種類別セグメント 主な事業 1 デジタルプロダクツ パソコン、映像機器、ハードディスク装置、複合機等 2 電子デバイス 半導体、液晶ディスプレイ等 3 社会インフラ エネルギー関連機器、医用機器、IT ソリューション、昇降機 4 家庭電器 冷蔵庫、洗濯乾燥機、照明器具、空調機器等 5 その他 物流サービス等 (資料) [2011b]30.セグメント情報、57 頁。 このうち「その他」を除く 4 部門を主要事業部門と位置づけている。主要 4 事業部門の 2010 年度の概況は次のようになる。 デジタルプロダクト部門:テレビ等の映像事業がアナログ放送終了予定や新興国向けに 販売台数が伸びた。パソコン事業も米国、アジア中心に増収となった。記憶装置(ハードデ ィスク装置、光ディスク装置等)事業は価格低下の影響を受けて減収になったものの、部門 全体では増収に。同部門の損益は減益となった。パソコンは増益だったがテレビ等の映像 事業は黒字を確保したものの為替などの影響が響いた。 電子デバイス部門:スマートフォン等携帯機器向け製品や SSD の需要拡大、価格の安定 によりメモリが増収に。損益面はメモリが増収、コスト削減等の効果により部門全体の営 業損益は大幅に改善し、868 億円の黒字になった。 社会インフラ部門:電力・産業システムは産業システムが海外を中心に好調だったが、 社会システム、IT ソリューション、医用システムが市場低迷、価格低下により減収となっ た。部門全体も減収。損益は電力システムが好調だったため、部門全体では微減益にとど まった。 家庭電器部門:エアコンを含む白物家電、照明も LED 照明販売数量の増加、住宅着工数 15 の増加により増収に。損益はエアコンが猛暑の影響で好調のほか、拠点再編、事業再編等 の構造改革の効果もあり、黒字転換を果たした。 主要4部門の売上高、営業損益及び売上高営業利益率の推移は次のようになる。 図表 4-3 東芝の事業の種類別損益状況(1) (単位:億円、%) セグメント デジタル プロダクツ 区分 売上高 営業利益 営業利益率 電子 売上高 デバイス 営業利益 営業利益率 2006 年度 2007 2008 2009 2010 25,361 26,742 23,114 22,632 23,286 46 88 24 213 132 0.2 0.3 0.1 0.9 0.6 16,017 16,790 12,764 12,700 13,477 1,219 740 -3,200 -204 868 7.6 4.4 -25.1 -1.6 6.4 20,790 24,319 24,053 23,190 22,677 社会 売上高 インフラ 営業利益 962 1,305 1,139 1,372 1,371 営業利益率 4.6 5.4 4.7 5.9 6.0 7,489 7,743 6,743 5,798 5,998 97 39 -271 -54 88 1.3 0.5 -4.0 -0.9 1.5 家庭電器 売上高 営業利益 営業利益率 (資料)東芝 [2011a]「事業レビュー」18-19 頁。 東芝は、社会インフラが安定的な収益源、デジタルプロダクト及び家庭電器が低収益な がら売上高の確保に貢献している一方、電子デバイスの動向次第によって収益が大きく変 動する構造になっている。その意味では、市況に左右されやすい事業ポートフォリオにな っているともいえる。特に電子デバイスの収益の変動を抑えて安定的な収益源に育て上げ ていくが大きな課題である。 東芝は、 2011 年 5 月 24 日に 2013 年度に向けた中期経営計画を発表した。 それによると、 景気変動の影響を受けにくい安定した収益基盤と財務健全性の確立を目指した「事業構造 改革」からグローバル競争力を持ったトップレベルの複合電機メーカーへの構造転換へと 軸足を移すとしている。 具体的な施策としては、①NAND 型フラッシュメモリの製品力の強化と次世代品の開発 促進、②スマートコミュニティへの取り組みとして発電からスマートグリッドまでの垂直 統合で世界をリード、③パワーエレクトロニクス・EV は環境負荷低減コア技術で環境にや さしい社会を実現、④再生可能エネルギーは低炭素発電技術で地球環境に貢献、⑤ヘルス ケア、⑥デジタルプロダクツ融合商品・サービス、を挙げている。 中長期ビジョンを受けた具体的な計数計画は次のようになる。 16 図表 4-4 東芝の事業の種類別損益状況(2) セグメント デジタルプロダクツ 電子デバイス 社会インフラ 区分 2010 年度 売上高 2011 2013 23,286 25,500 31,000 営業利益 132 200 400 営業利益率 0.6 0.8 1.3 13,477 14,500 18,500 営業利益 868 1,400 2,700 営業利益率 6.4 9.7 14.6 22,677 25,000 30,000 1,371 1,500 2,000 6.0 6.0 6.7 5,998 6,500 7,000 88 100 150 1.5 1.5 2.1 売上高 売上高 営業利益 営業利益率 家庭電器 (単位:億円、%) 売上高 営業利益 営業利益率 (資料)東芝 [2011a]「事業レビュー」14-15 頁。2011 年度は見込み、2013 年度は計画。 主要 4 部門は 2013 年度に向けていずれも強気の計画を打ち出しているが、中でも電子デ バイス部門の計画が目を引く。2013 年度の営業利益は 2,700 億円の達成を目標にしている。 その裏付けとして、東芝は NAND 型フラッシュメモリのさらなる強化に取り組む。 「NAND 型フラッシュメモリは 2010 年度に過去最高となる 1,087 億円の営業利益を上 げた。今後の成長に向けて、2011 年夏には 19nm プロセスを用いた 64 ギガビットの量産 を開始する。さらに BiCS(Bit-Cost Scalabel)、次々世代 3D メモリなどの開発を進めてい る。一方、ハードディスクとの一体開発を進め、SSD(ソリッドステートドライブ:NAND 型フラッシュメモリを使用した記憶装置)などの企業サーバー向けの品揃えを図り、事業拡 大を目指す」(佐々木則夫社長2))。 (4)むすび 東芝の業績の推移を検討してきた。同社は総合電機メーカーの看板を下ろして複合電機 メーカーにとして生き残って行く戦略を明らかにした。伝統的に強みがある社会インフラ を安定的な経営基盤として引き続き位置づける一方、電子デバイスを収益の大きな柱に育 てることが戦略上の重点になっている。デジタルプロダクツと家庭電器は売上高の拡大に は寄与するものの、厳しい競争環境を考慮すると収益的には大きな期待は持てそうにない と思われる。 リーマンショックで大きく傷ついた財務内容の改善も急務である。有利子負債・株主資 本比率(D/E レシオ)は 2008 年度の 4.0 倍から 2010 年度には 1.2 倍に改善したが、なお 17 再建途上にある。業績に安定的な拡大を通じて返済原資となるフリーキャッフローを積み 増せるかにかかっている。 (注) 1)東芝の非継続事業として組み替えて表示された携帯電話事業に係る経営成績は次のと おり。 2009 年度 2010 90,995 84,167 売上原価及び費用 100,446 98,004 非継続事業からの税金等調整前当期純損失 -9,451 -13,837 非継続事業からの当社株主に帰属する当期純損失 -5,605 -8,206 売上高及びその他の収益 (資料)東芝[2011b]連結財務諸表注記 4.非継続事業、24 頁 2)東芝 [2011a]「社長インタビュー」7-8 頁。 5.エルピーダメモリ (1) 沿革 エルピーダメモリは、 日立製作所が 1999 年に同社の DRAM (Dynamic Random Access Memory) 事業を分離し、日本電気との合弁会社(発足当初社名:NEC 日立メモリ、出資比率:各 50%) として設立した。その背景には韓国メーカーの追い上げもあって厳しい戦いが続いていた。 このため、市場の変化に即応する経営判断を行いやすい半導体専業メーカーとして独立さ せたものである(日立製作所[2010]116 頁、明豊[2010]84 頁)。 2000 年 5 月にエルピーダメモリへ商号変更し、2002 年 11 月に、外資系半導体商社経営 の経験を持つ現社長の坂本幸雄氏を招聘、経営を全面的に委ねた。同氏は経営戦略の意思 決定を迅速化させることを自らに課した。さらに 2003 年 3 月に、三菱電機の DRAM 事業を 譲り受けるとともに、開発エンジニアを受け入れた。2004 年 11 月に、東京証券取引所に上 場を果たした(http://elpida.com/ja/company/history.html:採録日 2011/09/03) 。 エルピーダメモリの社名はギリシャ語で「希望」を意味する言葉をもとに、日本の半導 体メーカー数社によるダイナミック(Dynamic)な事業統合(Association)によりなる会社 という意味がある。 2011 年 2 月、台湾における事業機会の拡大に向けて、TDR(台湾預託証券)を発行し、台湾 証券取引所に上場した。 (2) 事業内容 DRAM は、キャパシタに電荷を蓄えることで、一時的にデータを保存するメモリ半導体の こと。他のメモリ半導体に比べて、低コストで、高速、大容量化しやすい特徴を有するこ とから、さまざまな情報通信・デジタルエレクトロニクス機器に組み込まれ、メモリ半導 体の中で最大の市場規模持つ製品。エルピーダは世界第 3 位のマーケットシェアを獲得し ている。 18 エルピーダの企業理念は、最先端/高機能/高性能 DRAM を提供することによりデジタル 情報化社会に貢献し、高い収益性を有する世界 No.1 の DRAM ソリューションを目指す、と している。 その裏付けとなる同社の強みは、同社の資料「Corporate Profile」によると、次の 6 点 になる。 ① 世界最大級の生産供給体制:広島、秋田で高付加価値製品、台湾で量産製品を生産 ② 広範な製品ポートフォリオ:モバイル機器向けなどの高付加価値製品、PC・サーバ ー向け汎用品、グラフィック向けまでをそろえる ③ 世界最先端クラスの回路設計とプロセス開発:微細加工技術に注力。20011 年 5 月に 世界最小チップを実現した最先端 25nm プロセス DRAM を開発 ④ モバイルビジネスへの取り組み:大容量、低消費電力、高速データ転送、超小型チッ プを実現する Mobile RAM の提供 ⑤ 環境に配慮した生産プロセスの構築:広島工場ではガスを燃料にしたコージェネレー ションシステムを導入し、排出量の削減と必要な電力を賄う ⑥ 市世代ソリューションの開発:DRAM のさらなる大容量化と性能向上に向けて、積み重 ねた複数の半導体チップを貫通電極でつなぐ三次元積層パッケージ技術の開発が続 く (3) 株主構成 図表 5-1 エルピーダメモリの大株主上 5 社 氏名又は名称 所有株式数 (株) 所有株式数の割合 (%) 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 17,494,400 8.04 みずほ信託銀行株式会社 退職給付信託 日立製作所口 12,800,000 5.88 再信託受託者 サービス信託銀行株式会社 10,733,051 4.93 7,740,020 3.56 5,534,100 2.54 5,474,463 2.52 資産管理 日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(信託口) 日本電気株式会社 FCB-TDR (常任代理人 ELPIDA MEMORY.INC. MLPFS 株式会社三井住友銀行) (常任代理人 CUSTODY ACCOUNT メリルリンチ日本証券株式会社) (資料)有価証券報告書 (7)【大株主の状況】 エルピーダメモリの当初の出資者のうち、日本電気が 3.56%所有するものの、日立製作 所は上場時に全株を手放した3)。 (4)業績の推移 2010 年度の連結業績は、DRAM 出荷ビットは前期比 33%増、平均販売単価(ドル換算)は 12%減となったものの、売上高は前期比 10.1%増の 514,316 百万円、営業利益 35,788 百万 19 円、当期利益 32.1%減の 2,096 百万円となった。 製品分野別には、①モバイル機器・デジタル家電向け DRAM およびその他売上高から構成 されるプレミア DRAM 分野 156,239 百万円、②PC およびサーバー向け DRAM から構成される コンピューティング DRAM 分野 358,077 百万円となった。 図表 5-2 エルピーダメモリの業績の推移 年度 売上高 2006 2007 2008 (単位:百万円、%) 2009 2010 490,039 405,481 331,049 466,953 514,316 63636 -39,623 -168757 12,290 13,854 ― ― ― 8,919 16,779 当期利益 52,943 -23,542 -178,870 3,085 2,096 包括利益 ― ― ― ― 10,159 純資産額 378,977 347,875 266,469 346,782 356,004 総資産額 762,436 754,379 965,289 947,450 878,970 49.7 46.1 17.3 27.8 32.5 経常利益 税引前当期利益 自己資本比率 (資料)有価証券報告書 1【主要な経営指標等の推移】(1)連結経営指標等から抜粋。 半導体業界は市況産業である。その典型例としてエルピーダメモリの 2008 年度の業績は急 速な悪化に見舞われた。DRAM業界では、2007 年初頭より続く製品の供給過剰に加えて、 急速な世界景気後退により需要が大幅に減退したことから、競合会社の一社がDRAM市場 から事実上撤退するなど、未曾有の不況に見舞われた。DRAMメーカー各社は 2008 年9月 以降減産に踏み切ったが、市場在庫の調整が進まず、販売価格は低迷を続けた。 この結果、2008 年度の売上高は、前年度比 18.4%減の 331,049 百万円、これは主に、PC 向けDRAM価格の下落により、平均販売単価が同 52%の大幅下落となったことと、円高が 同 10%強進んだことによる。売上高が大幅に減少したことや販売価格下落にコスト低減が追 いつかなかったことなどにより、営業損失は 147,389 百万円(前年度は 24,940 百万円の損失) となった。経常損失は、持分法による投資損失 15,550 百万円を計上したことなどにより、 168,757 百万円(前年度は 39,623 百万円の損失)となった。また、特別損失として投資有価 証券評価損 1,988 百万円、主に独占禁止法に係る和解金 4,958 百万円、訴訟和解引当金繰入 額 3,136 百万円、及び減損損失 2,638 百万円を計上したことなどにより、当期純損失は 178,870 百万円(前連結会計年度は 23,542 百万円の損失)と大きく落ち込んだ。 (注) 3)明豊[2010]84 頁。 6.ルネサスエレクトロニクス (1)事業内容 ルネサスエレクトロニクスグループは、同社、子会社 58 社(国内 23 社、海外 35 社)お 20 よび持分法適用関連会社6社(国内2社、海外4社)により構成されている。同社グルー プは、半導体専業メーカーとして、各種半導体に関する研究、開発、設計、製造、販売お よびサービスを行っている。 研究、開発、設計機能は、ルネサスエレクトロニクスが主に担当するほか、ルネサスマ イクロシステム、ルネサスデザイン、ルネサスエレクトロニクス中国社、ルネサス セミコ ンダクタデザイン北京社、ルネサス デザイン・ベトナム社、およびルネサス エレクトロ ニクス・ヨーロッパ社などの国内外の子会社が担当。製造機能は、主にルネサスエレクトロニ クスおよび国内外の生産子会社が担当しているが、ファウンドリなどの外部生産委託先も必 要に応じて活用している。販売およびサービス機能は、主に国内は、ルネサスエレクトロ ニクス販売㈱を経由し、提携する販売特約店を通じて行っており、海外では、ルネサス エ レクトロニクス・アメリカ社、ルネサス エレクトロニクス・ヨーロッパ社およびルネサス エレクトロニクス香港社など、海外の販売子会社を通じて行っている。 ルネサスエレクトロニクスは、汎用DRAMを除く半導体事業の単一セグメントであるが、 主として「マイコン事業」、「アナログ&パワー半導体事業」、「SoC(システム・オ ン・チップ)事業」という3つの製品群を持っている。 図表 6-1 ルネサスエレクトロニクスの 3 つの製品群 (2)沿革 ルネサスエレクトロニクスの前身の一つは、2002(平成 14)年 11 月1日、日本電気が汎 用 DRAM 事業を除く半導体に関する研究、開発、設計、製造、販売およびサービスに関する 事業を会社分割により分社化し、同社の 100%子会社であるNECエレクトロニクスである。 平成 15 年7月 24 日に東京証券取引所市場第一部に株式を上場した。その後、平成 22 年4 月1日にはルネサステクノロジと合併し、ルネサスエレクトロニクス㈱に商号変更した。 21 もう一方の前身がルネサステクノロジ。同社は日立製作所が 2003 年、マイコンを含むシ ステム LSI 事業を分離し、三菱電機との合弁会社(出資比率:日立製作所 55%、三菱電機 45%)として設立した4) (3)株主構成 大株主上位 5 社の持ち株状況は次のとおり。 図表 6-2 ルネサスエレクトロニクスの大株主上位 5 社 氏名または名称 所有株式数(株) 所有割合(%) 日立製作所 127,725,748 30.62 三菱電機 104,502,885 25.05 日本トラスティ・サービス 78,200,000 18.75 日本電気 69,695,857 16.71 4,022,684 0.96 STATE STREET BANK AND TRUST (資料)『有価証券報告書』 (4)業績の推移 図表 6-3 ルネサスエレクトロニクスの業績の推移 (単位:百万円、%) 2006 2007 2008 2009 692,280 687,746 550,679 471,034 1,137,898 ― ― -76,151 -54,397 1,033 税引前当期利益 -35,375 -3,252 ― ― ― 当期利益 -41,500 -15,995 -85,062 -56,432 -115,023 包括利益 ― ― ― ― -121,851 純資産額 265,068 227,138 194,704 136,338 291,058 総資産額 695,886 616,304 488,190 459,928 1,145,048 38.1 36.9 39.0 28.8 24.8 年度 売上高 経常利益 自己資本比率 2010 (注)2006 年度‐2007 年度は米国会計基準、2008 年度以降は日本会計基準 2010 年度の連結売上高は、半導体市場全般の回復、特に新興国向けの需要の伸びなどに より、2009 年度の両社単純合算の数値に対して 7.1%増の 1 兆 1,379 億円となった。この うちマイコン事業は 3,841 億円、アナログ&パワー半導体は 3,162 億円、SoC は 3,117 億 円となったほか、その他半導体は 69 億円。 連結営業損益は 145 億円となり、前期比 1,278 億円の改善となった。増収効果のほか、 減価償却費の削減や、合併に伴う製品ポートフォリオの見直しなどによる研究開発費の効 率化が寄与した。連結経常利益は 10 億円の利益にとどまった。為替差損や支払利息などの 計上があった。 当期純損益は 1,150 億円の損失。固定資産の減損損失を 361 億円、事業構造改善費用を 22 306 億円、東日本大震災の発生に伴う固定資産の修繕費や廃棄損などの災害による損失を 495 億円計上したことによる。 (注) 4)日立製作所[2010]116 頁、明豊[2010]84 頁。 7.むすび サムスン電子など韓国勢対日本電機メーカー各社の戦いはこれからも続く。1990 年代か ら 2010 年代にかけて日本の電機メーカー各社はサムスン電子など韓国勢の激しい追い上げ を受けた。現時点では韓国勢が優位に立ったことは間違いない。しかし、サムスン電子は 半導体や液晶など電子部品を核に、映像分野や携帯電話中心の製品構成であり、いずれも 市況性の強い製品群であるという弱点を持っているのに対して、日本勢はソニーの例に見 るように音楽、映画、金融などサムスン電子にはない事業分野を持っている。東芝も社会 インフラなどの安定した収益源で、かつ今後の将来性もある事業を持っているなど日本勢 も決して負けてはいない。しかも韓国勢に押され続けられた量産型の半導体や液晶など電 子部品をエルピーダメモリやルネサスエレクトロニクスなどの合弁形式の専門メーカーに 分離し、半導体分野は東芝の NAND 型フラッシュメモリなど自社の強みとする分野に特化 している。 2008 年に起きたリーマンショックの影響の点からいえば、日本の映像・家電分野は大敗 を喫した。2010 年度になってようやく赤字脱出の段階にとどまっている。解決策として新 興国向けの製品仕様を開発しようとしているが新興国でもまた韓国勢との闘いが待ってい る。日本の電機各社は、映像・家電分野を自社の事業ポートフォリオの中でどのように位 置づけしようとしているのか、必ずしも明確ではない点を指摘して、本稿をひとまず終え ることにしたい。 参考文献・資料 明豊[2010]『ひと目でわかる!日立製作所』日刊工業新聞社 エルピーダメモリ(http://elpida.com/ja/company/history.html:採録日 2011/09/03) 東芝[2009]『平成 21 年 3 月期決算短信[米国基準]』5 月 8 日 ――[2011a]『アニュアルレポート 2011 年 3 月期・事業編』 ――[2011b]『アニュアルレポート 2011 年 3 月期・財務編』 日本サムスン[2010]「サムスンを語る」 『News letter サムスンからの手紙』vol.29、10 月 発行(http://japan.samsung.com/jp/aboutsamsung/japan/prad/letter/index.html: 採録日 2011/08/03) 日立製作所[2010]『開拓者たちの挑戦‐日立 100 年の歩み‐』日立製作所 ル ネ サ ス エ レ ク ト ロ ニ ク ス ( http://japan.runesas.com/comp/indeex.html: 採 録 日 2011/09/03) 23 Samsung Electronics [2011] 『 2010 Annual Report 』「 Financial Statements 」 ( http://japan.samsung.com/jp/aboutsamsung/electronics/elecompany/basicinfo.html :採録日 2011/08/03) 24
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