Annual Report No.26 2012 三次元立体映像表示に資する α-アルミナ製シリンドリカルマイクロレンズ群の創成 Fabrication of Cylindrical Microlens Array Made of Alpha-alumina for Three-dimensional Image Display A01122 代表研究者 菊 地 竜 也 北海道大学 大学院工学研究院 准教授 Tatsuya Kikuchi Associate Professor, Faculty of Engineering, Hokkaido University A cylindrical microlens array made of porous type anodic oxide film was fabricated by successive procedures: aluminum anodizing, laser irradiation, electrochemical etching, and electrochemical dissolution. An aluminum plate was anodized in an oxalic acid solution to form thin porous type anodic oxide film. The anodized specimen was irradiated with a pulsed Nd-yttrium aluminum garnet (YAG) laser beam to remove the anodic oxide film. The specimen was anodically polarized in a CH3COOH/HClO4 solution to dissolve the aluminum substrate at the laser-irradiated area, and a micro-groove with 60 µm width and 25 µm depth was fabricated on the aluminum substrate. The electro-etched specimen was immersed in the oxalic acid solution, and then anodically polarized to form porous type anodic oxide film with meniscus shape on the micro-groove. Finally, the specimen was immersed in a SnCl4 solution to dissolve the aluminum substrate, and a cylindrical and flexible microlens array made of anodic alumina was obtained successfully. 作製法の開発が強く望まれている。 研究目的 本研究においては、出発原料としてアルミ 本研究の目的は、レーザー照射と電気化学 ニウムを選択し、電気化学的な表面処理法、 的手法を融合した新規なプロセスにより、シ すなわち、アノード酸化、電解エッチングお リンドリカルな形状を有するアルミナ製マイ よび電気化学的溶解プロセスを利用したアル クロレンズアレイ作製プロセスを開発するこ ミナ製マイクロレンズアレイの作製に挑戦す とである。これまでの研究開発においては、 る。このさい、レンズ加工プロセスとして、 マイクロレンズ作製法として(1)フォトリソ レーザー照射によるレーザーアブレーション グラフィーを用いた微細構造作製法、および 加工を利用する。電気化学的表面処理および (2)インクジェット法を用いた高分子重合法 レーザー照射は、現在工業的に多用されてい などが提案されているが、プロセスが多段に る方法であり、安価な加工プロセスである。 わたり複雑であること、化学的安定性・機械 また、レンズ構造材料であるアルミナは、化 的強度に乏しいこと、温度変化にも弱いこと、 学的安定性および機械的強度に優れ、温度変 など数多くの問題点があり、これらの欠点を 化にも極めて強い。上述のような簡単かつ安 解決した新しい材料からなるマイクロレンズ 価なプロセスにより、アルミナ製マイクロレン ─ 142 ─ The Murata Science Foundation ズアレイを作製することができれば、新たな電 形成された。アルミニウムの溶解においては、 子・光学デバイス用マイクロレンズ作製法と アルミニウム表面の凸部に電流が集中し、ア してブレークスルーとなることが期待される。 ルミニウム表面の平滑化が進行した。微細溝 の直径や深さなどの形状は、レーザー照射お 概 要 よびアノード分極条件により制御できる。 「マイクロレンズ」とは、直径数100 µm以 微細溝形成試料に再びアノード酸化を行う 下のサイズを有する微細なレンズの総称であ と、試料前面にポーラス型アノード酸化皮膜 り、各種電子・光学デバイスへの応用が期待 を化成することができた。このさい、アノー されている。従来のマイクロレンズ作製法に ド酸化皮膜の厚さは、微細溝側面が最も薄く、 おいては、フォトリソグラフィーと高分子化 微細溝底部ほど厚くなることがわかった。こ 合物の重合を組み合わせた方法や、微量の樹 れは、アノード酸化皮膜とアルミニウム素地 脂をインクジェットによりパターニングする手 金属の界面の面積がアノード酸化によって変 法が提案されているが、プロセスが複雑であ 化し、酸化皮膜中の微細孔が分岐成長するた ること、高価な加工機器・材料を用いること、 めであり、分岐成長の程度が大きいほどアノー 作製したマイクロレンズの耐久性・耐熱性が ド酸化皮膜の厚さは薄くなるものと考えられ 乏しいこと、などの問題点があるため、新し る。このようなアノード酸化皮膜の厚さの変 いマイクロレンズ作製法の開発が強く望まれ 化は、メニスカス形状を有するマイクロレン ている。本研究においては、レーザー照射と ズに対応していた。 電気化学的な手法を融合した新規な微細加工 アノード酸化皮膜化成試料を塩化すず水溶 法により、シリンドリカルな形状を有するマ 液中に浸漬すると、素地のアルミニウムのみが イクロレンズアレイの作製法を開発した。こ 電気化学的に溶解し、シリンドリカルな形状 の微細加工法は、現在工業的に多用されてい を有するマイクロレンズアレイを分離すること る手法、すなわちレーザー加工、アノード酸 ができた(リフトオフ) 。このアノード酸化皮 化および電解エッチングを融合した極めて簡 膜は、X線回折よりアモルファス構造を有し 単なプロセスにより、マイクロレンズの集合体 ており、ある程度の柔軟性、すなわちフレキ を作製するものである。フォトリソグラフィー シブル性を有していた。このマイクロレンズア を用いた微細加工法と比較して簡単なプロセ レイ形成アルミナ試料を高温で熱処理すると、 スで安価なマイクロレンズ作製を実現できる。 γアルミナおよびαアルミナへの相変態が生じ、 アルミニウム試料にアノード酸化皮膜を化 コランダム構造を有するアルミナを作製するこ 成したのち、パルスNd-YAGレーザーを直線 とができた。しかしながら、相変態に伴う応 状に照射すると、レーザー照射部のアノード 力の発生によって、アルミナ中にクラックな 酸化皮膜がレーザーアブレーションによって ど多数の欠陥部が生じ、この構造をマイクロ 破壊・除去され、直線状の皮膜除去部が形成 レンズとして使用することは困難であった。 された。レーザー照射試料を酢酸/過塩素酸 以上の研究結果より、電気化学的手法と 混合溶液中に浸漬してアノード分極を行うと、 レーザー照射を融合した新しい微細構造体作 レーザー照射部のアノード酸化皮膜が電気化 製法により、フレキシブルなアモルファスア 学的に溶解し、微細な溝がアルミニウム上に ルミナからなるシリンドリカルマイクロレンズ ─ 143 ─ Annual Report No.26 2012 アレイの作製に成功した。本研究において開 発した作製プロセスは極めて簡単な手法から なり、工業化が十分に期待できる。また、作 製したマイクロレンズは従来のガラスレンズと は異なってフレキシブルであることから、各 種微細光学デバイスや電子機器に応用するこ とが可能であろう。 −以下割愛− ─ 144 ─
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