ガラスファサードのゆらぎ表現の構成手法に関する系統的研究 ー近年の現代建築を対象にしてー 宇野研究室 4107037 1. はじめに 近年のファサードデザインの傾向として、ガラス建築 における「ゆらぎ表現」があげられる。ガラスファサー ドの透明度や、反射度、割り付けなどに偏りをもたせる ことで、やわらかな光環境や体感、物質感に変化を与え、 「ゆらぎ」が表現されている。 本論ではこれらを図像としてとらえ,そのパターンの複 雑性を構成する技法を体系化することを目的とする。こ こで言う「ゆらぎ」とは光や色等の視覚的変化を意味する。 2.ガラスファサードの歴史的展開 ガラスファサードの歴史的展開について(表1)に示す。 フロートガラス以前は不均質な材質で均質な透明性を表 現するものであった。均質性への指向は DPG の発明などで、 強化される。 21 世紀に入り、均質なガラスに操作を加え、ゆらぎをも たらす試みが増え、その手法は多様化している。 3. 調査と分析方法 「a+u」(2000 年〜2009 年の 10 年間)に掲載された作 品からゆらぎの効果が見られ、ファサードにガラスを用 いた 64 件の事例を取り上げる。収集した事例の表層パター ンを、次の 3 つの視点から分類する。(表2) 1848キューガーデンのパーム・ハウス 1854クリスタルパレス 蓄熱式加熱法 1873 キブル・パレス 機械吹き法の発明 1902 フルコール法の開発 コルバーン法の開発 1905 ガラス・パヴィリオン 1917ハリディー・ビル コルバーン法の導入 1918 1919フリードリヒ街のオフィスビル ガラスの摩天楼 1925ファグス工場 1926バウハウス校舎 1931ファン・ネレ工場 1932ガラスの家 1949フィリップ・ジョンソン邸 1951レイク・ショア・ドライブ・アパートメント ファンズワース邸 1952レヴァー・ハウス サスペンションクレージングを開発 1956 クラウン・ホール フロートガラス法の発明 1959 ユニオン・カーバイド・ビル 1960 カイザー・ヴェルヘルム記念聖堂 1963 レスター大学工学部 カレッジ生命保険本社 1967 フォード財団本部ビル 1978 レイク・ポイント・タワー ベルリン国立近代美術館 ケンブリッジ大学歴史学科 構法の開発 SSG 1970 構法の開発 DPG 1975ウィリス・フェーバー&デュマス社屋 1976パシフィック・デザイン・センター 1980コーニング・ガラス博物館 ガーデングローヴ・コミュニティ・チャーチ 1985イリノイ州センター 1986パリ科学産業博物館 1989東京都葛西臨海水族館 1992アンドレ・シトロエン公園 1993ルーブル美術館 1994カルティエ財団 チャンネル4テレビ局本社 1995植物園の温室 フランス国立図書館 リンゴット・ファクトリー改修、 ヘリポート+ガラスの球体会議室 ケンブリッジ大学法学部棟 水/ガラス 1997ブレゲンツ美術館 シネマ・センター 1998 UFA 1999飯田市小笠原資料館 2000オーディトリアムと会議センター なにわの海の時空間 アメリカ自然史博物館ローズ・センター ロッシェ製薬 せんだいメディアテーク ▲表1 年表 ▼表2 64 事例データ ¨ 7W ·ÂúǺøþìÖøþȾÿø jiZ ºµúþݵíÆòöÿ»ÿĀÔ³ÿÕëøþ·æøù 9 U3 ¹ÿÈÕ÷²®â¸²²ÿøæø¾ ·ÝÿÈý¶øÔV:b'A= åøÒ¸ÿ¿þ²üÖþÖþíúü Ö´Ò®·ÝÿÈý±øÔ ¢?P.®æø÷ü ŵ±ÿýøÑâþÜÑÕüþ²ÿ¼Ó¾Ò æø÷ü®ÂÑèq° öìÚÿÕ®»öȯ( ¾øÚüæø¾þâ±üþÔøþ·øý¶þ²ÿ¼Ó¾Óü ¹öüÏ®ùÿøÏí rtp¯Ððçø ÞȺøþ½×ÿøĀÆòÓâ±üþÄÚø È´È®µÿ÷ ÷ò·´óëøîÍü¯ÂØðѾǶ´n ÇðüþÙÿý¶ø âöüÈ®÷ò·´óþëøîÍü î÷·ø¯'A æø×ÿøþúÝ âöüÈ®ý±øþÖûÿÉN®î÷·ø óÕùßÕ#'Ý´âÿÕþÊüÎÿH)* ¡ÈÎǹĄæüþâ±üþæøÀø ¹öüÏ®óÕùßÕ â¶ÔùÿÆôüþȾ·² öãþ²ÿ¼Ó¾Ðò²þÈÎǹăæ´ÒþÈëÿÕ ¹ÿÈÕö÷²®îøéøü óÕùßÕ#'= ý³ÿøþ²ùÑÒ ¹öüÏ®óÕùßÕ ÖíþìòöÿMo5 ÄÏÿøþ²üÖþý» Èúý¶Ø²®÷òã÷ñ× 黒澤 徳子 1)図像 ファサードのパターンを「図」としてとらえ、その要素 を「幾何学的構成」「色彩的構成」「曲面や波打つ面によ る構成」「透明度変化による構成」「具象的イメージによ る構成」に分類する。(図1) 2)構法 1)のパターンを実現する技法として構法的特徴を取り 上げる。「支持部材の種別(主構造体か否か)」「ガラス部 材の割り付けによるパターン」「素材の操作によるパター ン(部材表面の加工・プリント加工等の有無)」の3点で 分類する。 3) 層 ガラスファサードを多層化し、その立体的な関係におい てゆらぎを実現している事例がみられるため、その層構 成についても着目する。 以上の3点の相互関係から、ゆらぎを構成する技法の体 系化を試みる。 4. 図像的構成にみるパターン操作 4.1 ゆらぎにおける複雑性ー規則性と周期性 ゆらぎのあるパターンが内包する複雑性にも、いくつか の秩序の持たせ方にバリエーションがみられる。それを 本論では「規則性」と「周期性」の2要素の組み合わせ から考察する。 a) 規則性:パターンに何らかのルールのがあるもの。 b) 周期性:規則性のうち、パターンに繰り返しがみられ るもの。 上記の組み合わせから、パターンは「規則性・周期性と もにあるもの」「規則性あり+周期性なし」「規則性・周 期性ともにないもの」の3点に類型される。(図2) これらをもとに、次の5点の構成を議論する。 4.2 幾何学的構成 「規則性・周期性が共にあるもの」→ほとんどの事例がこ れにあたり、ガラス建築においてこのパターンが多い事 が分かる。 「規則性あり+周期性なし」→面材の割り付けによるもの が多い。 「規則性なし+周期性なし」→『TOD’S 表参道ビル』の事例 に見られるが、ガラスファサードにおいてこのパターン はあまり使われない事が言える。 4.3 色彩的構成 多色により構成されるものが33事例あり、規則性/周 期性の観点からもバリエーションがみられた。 4.4 透明度変化による構成 多く事例がみられ、特に色彩的構成との関連が強いが、 いくつかの事例において、両者の構成に「ずれ」を導入 しているものが見られた。『テルマリア』は、色彩変化を 周期的に用い、より細かい透明度変化をランダムに重ね ている。 4.5 具象的イメージによる構成 2000 年代前半に複数みられるものの、近年には用いられ ていない。 4.6 ガラスの曲面や波打つ面による構成 ガラスの曲面や波打つ面により構成されるものは4事例 あり、いずれも周期性の有無に違いが見られた。 4.7 まとめ 幾何学的構成による操作については、単独的に用いられ、 そのパターンを強調する指向があるのに対し、透明度変 化の操作は、ガラスの曲面や波打つ面、色彩変化、イメー ジによる操作など複合的操作がなされる事例が多いこと がわかった。 5. 構法的特徴にみるパターン構成 4章の議論をもとに、パターンのゆらぎを実現するため の代表的技法をとりあげる。 曲面の平面分割 BMW ウェルト(No34) 平面1 平面2 フェデレーション・スクエア(No9) サーペンタイン・ギャラリー・ パビリオン 2002(No35) ▼図1 図像的構成の重ね合わせの例 ø´þý³Õü®. ~>F7WiL9 . x6îÍü·øîÈ ùüÍþá²Û <?®@®x6 }qÎûÿ ÇðüþÙÿý¶ø <?®@ Èúý¶Ø²Dk9 ÄÏÿøþ²üÖþý» Èúý¶Ø²®÷òã÷ñ× µ³ÿü¯ÜµÇü¿þ¹â³ÈC Ôø»üĉë´Èø ¹ÿÈÕ÷²®µ³ÿü ÆïüÉþèÿøþëÄÐòÿÊÑÒ3Q#''vJ,\ ÈÓ³ÿýüþèÿø X®ëÄÐòÿÊÑÒ2®Àüã÷ÑÇ ÜÿÝÿþÎûÿ ²øÌÑäþ²ÿ¼Ó¾Ò Ö´Ò®ÔòÑÊøÖøâ ²¿ÝÿþÎûÿ ÇðüþÙÿý¶ø Èç´ü®ÝøÊú× ÚøÌüþ²Õ¼üÉYb!W ÈÓ³ÿãüþèÿø X®ìÉÿ÷2®ºüÄÈþÆÓ³ ø´þý³Õü®x6 ~>F7WiL9 x6 èÓøþÜàÎ Óüþ²ø¼Ó¾ÕÈ î¼Æ®î¼ÆÂþÆÓ³®êöü â³üöüÖāÜÛÿý±ÿzhĂ úüÖü çÿÎÿþî÷²üþÜµÈ Òý³üäâ±ÿþÞÿÕ×ÿþ²ø¼Ó¾Óü È´È àÿæöܯ`'OR9 ŵ²ÿãøÑâþÜÑÕüþ²ÿ¼Ó¾Ò Ö´Ò®àÿæöÜ + + + = ▲図3 割付けによるパターン例 ÆÓ³þàøÔ³ü¿ éÑÆòþ²ÿ¼Ó¾Ò ¹öüÏ®úÑÓøÏí ¹â³ÈþàøÔ³ü¿¦ åüÀþ²üÖþÆòö´·Ñ¾ ¹ÿÈÕ÷²®µ³ÿü àø ²ÿ¼Ó¾Ò â³üöüÖ®·Èêÿ Èç´ü¯|( Óüþ²ø¼Ó¾ÈÕ î¼Æ®î¼ÆÂþÆÓ³ èÓøþãúÿÖµ¶´ ÇðüþÙÿý¶ø X®Øòÿõÿ¾ íÿ²1¯0 ²ÂüÐþÈÎǹ ¹ÿÈÕ÷²®¿öÿÒ ¾÷ÈäþÈÕ÷ÿÕ¯²´Ô³²þÈÕ² Ô´ý³ÑÕþ²Çð´ 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ス+ガラス以外の外壁素材」の2個に分類でき、さらに それぞれに対して以下のとおりのパターン分類できる。 ・同一パターンのずらし:『ルイ・ヴィトン、名古屋』 ・異なる材質の重合: 『eBO- ボローニャ都市情報センター』 ・異なる透明度の重合:『ネルソン・アトキンズ美術館』 上記から、層構成では、見る方向や距離の変化による動 的な「ゆらぎ」と、見た目の静的な立体感をもたせる「ゆ らぎ」操作を行っていると言える。 7. まとめと考察 1:ガラスファサードのパターンを図像的に見ると、透 明度変化のによる構成において、ガラスの曲面や波打つ 面、色彩変化、具体的イメージの張りつけなど複合的操 作がなされている。 2:1を構造的にはガラス表面のプリント、フィルムの 挟み、あるいは素材自体を加工する方法があり、主に部 材スケールを反復するもの、ファサード全体のルールを 分つものが見られた。 3:本論の対象事例では、複数のガラスを重ね合わせる 事例が多かったが、今後は、異なる素材を複合的に重ね 合わせる試みが重要になると考える。 特に、「異なるパターンの重合」、「異なる色彩の重合」に よるパターンは事例からは見られなかったが、層構成に よる事例が年々増えつつある事から、今後このような志 が出てくると思われる。 脚注:参考文献1)『a+u』株式会社エーアンドユー (2000.2〜2009.12)2)『GA 素材空間 02』エーディーエー・エディタ・トーキョー (2001)3)『THE FUNCTION OF ORNAMENT』Harvard University Graduate School of Design
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