ナバックレター 養豚版Vol.75

ナバックレター 養豚版 Vol.75
豚群の更新―資金を早期回収するためにも、直ちに実行を
James Christian, Chief Operating Officer, JSR Genetics, Ltd, UK.
資金、輸送の手配、純然たる重労働など、考慮すべき要因があまりにも多いため、豚群の全頭更新は決して安易に決められるも
のではありません。どのような見返りがあるのでしょう?本稿では、農場が現実に期待できる経済的利益についての概要と、今
日の飼料価格の高騰を考えれば、今が最もそれを実行すべきときであることをお伝えしていきます。
純粋に実際的な要因を考慮すべきなのはもっともですが、まずは経済的な動機に注目してみましょう。加齢とともに豚群の疾病
負荷は増大します。疾病との闘いにエネルギーを要するため、飼料効率が低下して成長が遅れ、肥育期間の延長や出荷時体重の
減少に繋がります。通常は 7 年ごとにユニットを空にして清浄化し、更新すべきであると獣医師はアドバイスしています。
飼料コストの割合が投入資金の 60%を超えてしまうと、飼料効率の悪化による利幅の減少は避けられなくなります。豚の事故
率や獣医師費用も含めると、生産者の収益の悪化は深刻なものとなります。
資金の回収―後ではなく今すぐ
原料価格は過去最高値であり、農場の飼料要求量を減らす戦略はどれも見逃せません。データや農場での経験から、豚群の更新は、
健康状態の改善、飼料 1 トン当たりの肉生産量(MTF)の増加、および利益の増加に重要な役割を果たすことが、私達にはわかっ
ています。飼料価格が高騰すれば豚群の更新に必要な資金の回収期間が有意に短縮されることが、詳細なキャッシュフロー予測
によりはっきりと示されています。
3∼4 年前は資金回収に 18∼20 ヶ月は必要でした。DAPP(dead weight average pig price:食肉処理後の平均豚価)140
ペニー(p)/kg、飼料 1 トン当たり平均 220 ポンドの場合、当時と同程度の改善、すなわち年間 1 母豚当たり子豚 1.5 頭の増産と、
1 頭当たりの肥育飼料 35 kg 減(飼料効率の改善および事故率 7%低下の結果)が達成できれば、14∼15 ヶ月で資金を回収で
きます。
10%の改善
生産成績の 10%改善が生産コスト(COP)に及ぼす影響について、重点地域を対象に評価したブリティッシュ・ピッグ・エグゼ
クティブ(BPEX)の分析データも、豚の更新を支持する材料として利用できます。
たとえば、成長率が 10%改善すると COP は 4.34p/kg 減少します。同様に母豚 1 頭当たりの年間離乳頭数が 10%改善すると
COP は 4.35 p/kg 減少します。これら 2 つの改善は BPEX が記録した 583 の母豚群の平均値ですが、110,000 ポンド近い
利幅の増加に匹敵します(BPEX2009 年版年鑑データに基づく)。
全てのユニットに適しているか?
豚群の更新による利益は立証済みですが、疾病問題が未解決のままのユニットが近隣(3 ㎞以内)にある場合、この一連の活動
はお勧めできないかもしれません。
その場合を除けば、清浄化し、全頭更新したユニットは、薬剤を用いた早期離乳やパーシャル・デポピュレーションなどの疾病
軽減対策を取っているユニットより良好な成績をあげることが JSR Genetics の経験からわかっています。豚群の更新には、
新しい豚群への投入資金以外に、生産の一時中止を持ちこたえる力も必要ですが、その影響は慎重な管理により最小限に抑える
ことができます。前群の肥育豚を収容する敷地外農場の施設および、健康状態良好な新しい未経産豚を飼育する施設も用意しな
ければなりません。
考慮すべき項目
現在、生産者の多くは飼料原料をフォワード(先渡し)取引で購入しています。養豚生産に空白期間が生じるということは飼料の
必要量の減少を意味しますから、現在の生産ユニットが持つカバー(在庫)の量についても考慮しなければなりません。余剰分の
売却や繰り越しによって、現在のカバーをうまく活用できるかもしれません。フォワードカバーがない場合は、次の飼料原料が
必要になる前のこの生産の空白が、市場が落ち着くまで一息つく時間になるかもしれません。人的要因も考慮します。生産ユニッ
トの成績の向上は、すべての関係者にとって大きな動機付けになります。生産成績が悪くやる気を失っていたかもしれない人々
も、生産ユニットに明るい未来があることに気づくでしょう。
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成功のための準備
豚群の全頭更新および清浄化は様々なメリットがあることに加えて、以前より迅速に投資を回収できる可能性を持った、有効な
戦略です。
JSR Genetics などの信頼できる育種会社の支援があれば、将来のプランによって可能な限りストレスがなく、経済的利益のあ
るプロセスが策定できます。JSR Genetics は以下を推奨します:
●健康状態良好な証明書付きの未経産豚/種雄豚による更新を行う。
●この機会を利用して、選んだ市場に適合する遺伝的特性を選択する。
●計画、清浄化および更新期間中を通じて、JSR Genetics などの育種会社に獣医師間の連絡を確実に提供してもらう。
●可能な場合には常に全頭更新。部分的な更新では長期保証が提供できないうえ、低いヘルスステータスへ戻る可能性がある。
生産損失の軽減
●出荷豚群に未経産豚を追加供用し、頭数を増やす。
●新しい豚群に未経産豚を追加供用し、次の豚群の頭数を増やす。
●JSR Genetics のデポピュレーション/更新計画は、キャッシュフローの影響を最小限に抑えるのに役立つ。
更新計画
●農場内の疾病を確認し、新しい豚群に必要なワクチンについて協議する。
●母豚の供用中止時期、淘汰時期を計画し、食肉処理場への余剰な母豚/種雄豚の出荷を手配する。
●肥育豚群の収容農場および新しい未経産豚群を供用する別施設を見つけることで(JSR Genetics が支援可能)、ユニットの生
産中止期間が短縮する。
清浄化
●夏期は、病原微生物が残存しづらく、洗浄後の農場を完全に乾燥させる絶好のチャンスであることから、農場の清浄化に最適
である。
●床、壁、豚房、ゲート、天井、配管、排水管、スラリー溝、倉庫、換気装置、道路、トラクター、器具、オフィス、機器など。
●徹底したスチーム洗浄と広域スペクトルのウイルス殺菌剤による消毒を行う。
●特に高レベルの衛生状態のためには、洗浄作業を 2 度、できれば 3 度繰り返すことが推奨される。
●この機会を利用して、建物や機器を修理する。
更新
●新規の豚は、清浄化した農場にできる限り短期間で導入する(なるべく 1 回の荷下ろしで)
●成功を持続させるための厳密なバイオセキュリティの実施
更新を検討している生産者にとって、最も重要なアドバイスは、育種会社およびその獣医師と速やかに連絡を取り、厳密なバイ
オセキュリティおよび最適な豚群の健康状態の維持を実施するように計画を立てることです。
豚群の健康への投資として、豚群の全頭更新は持続的な利益をもたらします。いま更新を決めることで飼料価格高騰の影響を軽
減し、生産コストを削減することができるでしょう。わずか 14∼15 ヶ月で資金を回収できるのです。生産者は、投資から十
分な見返りを得るだけでなく、それをこれまでにないほど短期間で手にすることができるのです。
これは「International Pig Topics, Vol.26, Number8」を抄訳したものです。
※為替相場(2012 年 9 月 19 日現在) 1 ポンド=128.52 円 100 ペニー=1 ポンド
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