授業場面にそったコンピュータのマルチメディア機能の活用 ∼児童自身がマルチメディア機能を活用する社会科の授業を目指して∼ 村山市立楯岡小学校 1 テーマ設定の理由 早坂 和重 OHP・VTR等の整備・利用の中で1のよ コンピュータの整備が進み,児童は小学校の うな機器の利用方法は研究が進められてきてい 低学年から授業の中でお絵かきソフトで絵を描 る。コンピュータの利用法を考える際もそのま いたり,文書作成ソフトで招待状を作成したり ま生かせるものが多いのではないかと考える。 している。その中でコンピュータの基本操作・ また,2については学習したことを発表する 周辺機器の扱い方を学び,コンピュータに親し 場面でコンピュータが使われ始めている。しか んできている。 し,目的にそった機器利用という点でどうかと 学年が進み, 中・高学年になると調べ学習を行 振り返ってみると,機器利用そのものが目的に う際にインターネットを活用することも多い。 なっているような時がある。これらのことから また,調べた結果をまとめること,発表や発信 研究の仮説を次のように設定した。 のためコンピュータを使うこともある。 ① 「教師がコンピュータのマルチメディア機 そうしたこれまでの経験から,児童はコンピ 能を学習活動で活用することで児童もコン ュータがさまざまな事のできるマルチメディア ピュータの活用に意欲をもつことができる のではないか。 であることを知っており,良くも悪くも「コン 例:操作の仕方が分かる・使い道に気づ ピュータ=万能の機械」と信じている面も見ら く・有効性を感じる れる。 ② 多様なコンピュータのマルチメディア機 しかし,普段の授業を振り返ってみると,ど 能にふれることで,児童は自分の発表内容 うも「コンピュータの活用=調べ学習=インタ に合った機能を選択できるようになるので ーネット」という図式,そして「インターネッ はないか。 トで集めた情報を丸写しし,発表し,調べ学習 終わり」という単純な流れから何かもうひとつ 抜け出せていない感じがする。そこで,授業の 3 研究の方法 ⑴ 年間計画について 具体的な場面でのコンピュータの活用法を研究 前半は,コンピュータでどんな時にどんな していくことにより,こんな授業の場面ではこ ことができるのかというイメージを持てるよ のような使い方が有効というところを少しでも うにする。そのため教師はマルチメディア機 明らかにしていきたいと思い,この研究テーマ 能を生かしたコンピュータの利用を意図的に を設定した。 行うようにする。 後半は,前半で見聞きしたことを生かす段 2 研究の仮説 階と位置づける。児童が自分の伝えたいこと 「学習指導における効果的なコンピュータの活 をより効果的に伝えられるように指導する。 用」を考える時,大きな2つの方向性が考えら コンピュータの活用を考えた時「何のために」 れる。 という機器利用の目的意識を大切にしたい。 1 その目的を達成するための手段の一つとして 他者が,ある情報を児童に効果的に伝え るための利用(他者発−児童行き) 2 児童が自分の思いや考えを他者に効果的 に伝えるための利用(児童発−他者行き) コンピュータが生かされるようにしていく。 ⑵ 15年度の年間研究計画 月 コンピュータ活用のねらい 5 教師による多様 6 な情報提示の方法 7 にふれ,コンピュー タでできることを 8 が児童の活用場面(選択制)・他は教師による活用 教科 単元・内容(授業場面) 音楽 おぼろ月夜(パート練習) 音楽ソフト 体育 市陸上競技会(意欲付け) スライドショー 学活 2組の歴史(振り返り) スライドショー 社会 3人の武将と全国統一 スライドショー (新聞作りのテーマ選択) 知る。 9 研究計画の見直し 社会 10 歴史研究(テーマ設定) スライドショー インターネット素材集 11 児童がマ 12 ルチメディ 1 ア機能を活 社会 歴史研究(研究発表会) 2 思いや考え 3 を表現する。 発表に合った機能・ソフト 学年の学習のまとめスライドショー作成 学年の学習のまとめ スライドショー (復習・定着) 用し自分の ※ マルチメディア機能及びソフトの活用 総合 研究発表(研究のまとめ) 文書作成ソフト 次年度の計画 普段授業をしていて,こういうものがあればよいという静止画像・動画・音声データ等があれば記 録を蓄積し,自作教材作りに生かしていく。 4 実践 自分の研究テーマを何にするか検討する。 実践1 単元名「歴史研究をしよう」(社会) ② 研究テーマにそって情報を集める。 本単元「歴史研究をしよう」は自分が興味・ ③ 集めた情報を整理し,発表内容を検討す 関心のある歴史的事柄を追求していく中で情 る。 報活用能力を育んでいこうとするものである。 ④ 発表に向け,発表資料を作る。 ここでいう情報活用能力とは,目的にそった ⑤ 発表会を開き,互いの研究を発表し合う。 情報を集め,整理・活用し,問題を解決する 能力ということである。単元全体の目標と機 器利用の目的は次のように設定した。 ⑴ ⑷ 授業の中から ・ 単元全体の指導目標 導入で提示する写真資料は,身近にあ りながら児童が意外と知らない建造物や ・ 歴史上の人物や文化遺産への興味を持つ。 史跡などを取り上げた。そのギャップが ・ 驚きを生み,もっと調べてみたいという テーマにそった情報を集め,発表用の資 料を作る。 ・ 歴史上の人物や文化遺産について知る。 機器利用の目的 ・ 児童が研究テーマを何にするか検討する 際の支援ができるようにする。(教師) ・ 聞き手をひきつけた分かりやすい発表が できるようにする。(児童) 動機付けになるようだった。 ・ ⑵ ⑶ 指導計画 スライドショーを提示する際,資料に ついて児童の想像力を刺激する発問をす ることで動機付けを図った。 ・ プロジェクターを使用することで手描 きした資料についても大きく提示し,聞 き手に見やすい状態で発表することがで 身近なところに残る史跡や建造物,これ きる。大判用紙に書くなど資料自体を大 までの歴史学習に関する内容を振り返り, きく作る必要がないので資料準備を効率 ① 的・経済的に行うことができる。 ・ ④ 源平「一の谷の合戦」での両軍の配置 集めた情報を整理し,どのような項目を おこしてまとめるか検討する。 など図で示すと分かりやすい内容について ⑤ 研究のまとめを作成する。 はスライドを作成し,発表していた。また ⑥ 図書館に研究のまとめを寄贈し,後輩の 「壇ノ浦の合戦」など動きがある内容につ 学習に活用してもらえるようにした。 いては黒板を利用して説明していた。発表 内容に合わせ発表手段を選択する姿が見ら れた。 ⑷ 授業の中から ・ 野山を歩き,命を保つために絶対必要な ものは「食べ物」だと考え,今年の学級全 体の研究テーマは「食」となった。 ・ 自分の研究テーマを決める段階では,調 べてまとめるだけのテーマではなく,調べ た結果をもとに自分なりの意見を持つこと ができるよう留意した。そのため一人一人 のテーマと研究の方向性について相談を受 ける時間を設けた。 ・ 実践2 単元名「食」の研究(総合) 本単元「食」は食べ物に関する事柄を追求して いく中で,児童の情報活用能力を高めていこう 研究と並行し,そばの栽培活動を行った。 種まきからそば打ちまで経験した。直接体 験ができたことで食べ物のありがたみを身 をもって体験することができた。 とするものである。ここでいう情報活用能力と は,目的にそって情報を整理し,各教科で得た 知識を結びつけ,課題に対する考えをまとめる 能力ということである。単元全体の目標と機器 利用の目的は次のように設定した。 ⑴ 単元全体の指導目標 ・ 食や自分の体・命に関心を持ち,それら について積極的に考える態度を養う。 ・ テーマにそった情報を集め,研究のまと めの資料を作る。 ・ 食の安全性や栄養について知る。 ⑵ 機器利用の目的 ・ レイアウトを考えた分かりやすく見やす い研究のまとめを作成することができるよ うにする。(児童) ⑶ 指導計画 ① 野山を歩き,命を保つために絶対必要な ものは何かを考える。 ② ・ 調べる活動では,はじめのうちは図書室 にずっとこもっている児童と,コンピュー タ室にこもっている児童の二手に分かれて いた。しかし,調べ学習が進むにつれ,よ り良い資料を求め,だんだん他の場所に移 っていった。中には市立図書館や本屋に行 く児童も出てきた。 ・ まとめの段階では,調べたことと今まで の知識や経験を結びつけることができるよ う,項目の中に「考えたこと・意見」を書 を通し,何について調べ,考えるか自分の く欄を設けるよう指示した。そうしたとこ 研究テーマを絞っていく。 ろ「チョコレートは体に良いが,食べ過ぎ ③ ネットサーフィンや図書館での本の閲覧 研究テーマにそった情報を集める。 ると前ビデオで見たように肥満の原因にも 保存しておくようにすると情報が共有 される。 ・ 機械に苦手意識を感じている一部の 児童に意欲を持たせることが難しかっ た。ただ機器を使わせる授業でなく, 機器利用のよさを強く感じられるよう な場面設定が各学年の年間学習指導計 画の中にあるとよいと思う。 ・ 発表に関わっては,音声言語能力も かなり重要だと感じた。その面でのレ ベルアップを特に国語の授業で意識し て指導していく必要がある。 なる。だから量を考えて食べることが重要 だと思う」というように以前の経験と調べ たことを結びつけた考えが多くなってきた。 5 今年度の研究の成果と課題 (1) 成果 ・ 調べ学習でテーマを決める際に,静 止画を組んだスライドショーが有効だ った。児童は身近な地域にあった歴史 的なものについて驚きを感じ,興味を 持っていたようだった。 ・ 日本の歴史に関するスライドショー は歴史学習の復習になった。一度作る と繰り返し見ることが容易なためしっ かりとした知識の定着につながる。 ・ 児童はコンピュータを意欲的に活用 するようになった。その中で,自分の 活動のねらいによってはコンピュータ を「使わない」ことを選択する児童も 出てきた。 ・ 実際の体験があると学習が深まるこ とを実感した。特にコンピュータを使 用した調べ学習の際は,常に配慮しな くてはならない点だと感じた。 ・ 自分たちで写真を持ち寄り「6年間 の思い出スライドショー」を作って卒 業式の後,映していた。機器活用への 意欲が感じられた。 (2) 課題 ・ 情報を集める際に「資料はあったが 難しくて読めない」 「読み方は分かるが 意味までは分からない」と困っている 児童が多かった。幅広い児童の課題に 1人の教師では応えきれない部分があ った。 ・ 発表の場合,大きな課題の一つに発 表の仕方がある。練習の時間があると よい。その際はTTの活用なども考え る。また時間的な保障も十分に行う必 要がある。 ・ 発表資料作りでは,大きく,はっき りという原則を教えておくべきだった。 特に手描きの物の場合はやり直しが困 難なため前もって伝えておく。 ・ ねらいによってどんな資料を示すか も変わってくるが,撮影・製作した静 止画・動画を学校でサーバー等に一括 6 次年度の研究計画 今年度の最後,児童に「コンピュータに関する アンケート」を書いてもらった。児童は機器の よさを次のように記していた。 ・ プロジェクターを使うと後ろの人も図が はっきり見えて良かった。 ・ 研究のまとめではコンピュータで文書を 作成する方が良い。理由はもっと見やすく, 分かりやすくするための手直しを簡単にで きるから。手書きだと直すのがつらい。 ・ 最新の情報をいち早く手に入れられる。 また,今後どんな力を付けたいか願いを聞い てみた。その結果,全児童の約8割が「文字入 力が速くなりたい」「プレゼンテーションが上 手になりたい」という願いを持っていた。まだ まだキーボードに対する抵抗感は強い。機械 に苦手意識を感じている児童は「打つより書 くほうが早い」「打つのがめんどうくさい」 という気持ちが特に強いようだった。 これらのことから,来年度も「視聴覚機器を 児童が自分の目的にそって活用する姿」を目指 し,今年度立てた仮説を柱に研究を進めていく。 その際は,次のことにも留意したい。 ・ 児童に適した文字入力に関する練習方法 の開発をする。 ・ 「話すこと・聞くこと」との関連をみて, 効果的なプレゼンテーションとはどのよう なものか明らかにする。
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