秋田大学次世代がん治療推進専門家養成プラン がんプロニュース No.18 平成28年10月 1日 【発行】 秋田大学次世代がん治療推進専門家養成プラン事務局 HP http://www.med.akita-u.ac.jp/~ganpro24/ もっと素敵な秋田県になって欲しい。私たちは秋田のがん医療をよくしようと頑張っています。 私たちの使命を皆さんに知っていただきたい。それは「がんのプロ」と呼べる医療人の育成です。 共に考えてゆきたい、どうすれば秋田のがん医療は良くなるのか。皆さんの意見もお聞かせ下さい。 「何がこの方の緩和になるのか」 秋田大学大学院医学系研究科 地域生活支援看護学講座 医学系研究科附属地域包括ケア・介護予防研修センター 中 村 教授 センター長 順 子 緩和ケアについては皆さん度々耳にされてい ることと思います。現在では治療の手段がなく なった時に緩和ケアに移行するのではなく、が んの診断が付いたその時から人が抱える全ての 痛み(全人的痛み)の緩和を目指すケアと位置 づけられています。 ところで、緩和ケアはがんの方にだけ使われ る名称ではありません。例えば神経難病はその 多くが現代の医学では治す手段が見つかってい ないだけでなく、闘病期間の長さや時に過酷な 患者の状況とそれに伴う介護の大変さから、患 者だけでなく家族も様々な苦痛を抱きながら 日々の暮らしが続いています。「難病は診断が 付いたそのときから緩和ケアが必要」と言われ る所以です。 緩和ケアとは何かと示されたとき、医療者は “病を抱える人の痛み”として苦痛を全人的に 捉えなければならないとはっきりと気づかされ ました。“病気を見るのではなく、病気を持っ た人を見るのだ”ということです。考えてみま すとこの言葉は100年以上も前に近代看護の母 であるナイティンゲールが使った言葉です。看 護のケアは実はずっと緩和ケアでなければなら なかったはずです。ナイティンゲールは病気だ けでなくその方を取り巻く環境、家族、社会を 見て“生命力の消耗を最小にするように生活す べてを整えること”が看護だと言いました。何 がこの方の苦痛なのか(生命力を消耗させるの か)、全人的に捉えなければ看護ケアはできな かったはずです。 高度な医療の発展の中で“治す医療”が中心 となって来た中、もしかしたら看護も「緩和ケ ア」という呼び名に動かされ、自分たちの足元 を見つめなおす時を得たのかもしれません。 緩和ケアにルティーン(決められたやり方) はあるのでしょうか。Aさんには治療を継続す ることが緩和であり、Bさんには治療をやめる ことが緩和となることもあるかもしれません。 常に「何がこの方にとっての緩和になるのか」 という問いを持ち、患者さんや家族と関わり、 よく話を聞き気持ちを確かめ、そのプロセスを 共にしお互いを信頼すること。このことが支え る医療としての緩和ケアと緩和ケアと呼ばれる 看護本来のケアにつながるのではないかと考え ます。 講演会を開催しました 9月17日(土)、秋田大学本道キャンパスにおいて「秋田大学 次世代がんプロ」と「北東北がん医療コンソーシアム」の共催 により講演会を開催いたしました。がん化学療法における後 発医薬品使用、暮らしの保健室について、また、秋田県のが ん対策、第2期がんプロ成果についてなど私たちのこれからの 暮らしや医療に関わる興味深い講演内容となりました。皆様 のご来場ありがとうございました。 【発行】 秋田大学次世代がん治療推進専門家養成プラン事務局 がんになっても安心できる社会の構築と人材育成Vol.3: がんを減らす社会”Living Wisely”の構築 秋田大学大学院医学系研究科 総合診療・検査診断学講座 廣 川 教授 誠 がん対策基本法が2006年に公布されてからちょう ど10年が経ちました。当院に腫瘍センターが設立さ れたのが同じ2006年11月であり、元附属病院長の加 藤哲夫先生(小児外科学講座教授)より外来化学療 法室、緩和ケアチーム、がん登録システムなどを立 ち上げるよう命を受けたことが思い出されます。10 年の時を経て、化学療法部、緩和ケアセンター、腫 瘍情報センター、がん相談支援センターへと発展し た姿をみますと、感慨深いものがあります。 がん対策推進基本計画の3つの大きな目標は、① がんによる死亡者の減少(75歳未満の年齢調整死亡 率の20%減少)、②全てのがん患者とその家族の苦 痛の軽減と療養生活の質の維持向上、③がんになっ ても安心して暮らせる社会の構築であったことは、 多くの方が知っていらっしゃることと思います。国 立がん研究センターが公表しているデータによりま すと、全国のがん死亡率は人口10万対で1995年 108.4人、2005年92.4人、そして2014年79.0人に減 少し、がん死亡率の減少目標は全国平均でみればほ ぼ順調に到達しつつあるように見えます。秋田県に おいても1995年111.2人から2014年86.5人と減少し ているのですが、残念ながらがん死亡率の高い5県 に2012年以来毎年リストアップされる状況が続いて います。がん死亡率の減少に寄与する取り組みとし て、がんの早期診断・早期治療とそれを支える人材 の育成が重要であることは言うまでもないことです が、人的・物的・財政的資源を際限なく医療に利用 できる時代はもはや過ぎ去っている今日において、 がんの発生そのものを減らす取り組みとそのための 体制構築について真剣に考えるべき時期に来ている と思われます。 私が現在所属している部署はプライマリ・ケア (家庭医療)および病院総合診療に貢献する医師の 育成をひとつの大きな目的としています。WHOは 「プライマリ・ケアとは国民のあらゆる健康上の問 題、疾病に対し、総合的・継続的、そして全人的に 対応する地域の保健医療福祉機能」と定義していま す。日本人のためのがん予防法として、喫煙、飲 酒、食事、身体活動、体形、そして肝炎ウイルスや ピロリ菌などの感染に関する提言が国立がん研究セ ンターから出されていますが、コミュニティの第一 線で活動するプライマリ・ケア医は、これらがんの 一次予防を推進する大きな力を発揮することが期待 されます。 喫煙を例に取ってみれば、タバコは肺がんだけで はなく、口腔・咽頭、喉頭、食道、胃、大腸、肝 臓、膵臓、副鼻腔、子宮頸 部、卵巣、膀胱、腎臓・尿 管、骨髄性白血病などのリ スクとなることが報告され ています(Lancet Oncol 2009;10:1033-1034)。ち なみに秋田県では、口腔・咽頭、食道、胃、大腸の がんによる死亡率が男女ともに高いのですが、国立 がん研究センターが公表している都道府県別のがん 死亡率と喫煙率のデータを使って両者の関係を自分 のパソコンでチョッと計算してみましたところ、や はり統計学的に意味のある相関関係にあることが分 かりました(図1、矢印が秋田県)。喫煙率のみを 下げてもがんの死亡率が低くなるとは限らないので すが、多くの識者が古くから提唱しているように私 たちもトライする価値はあると思います。ライフ・ スタイルの修正によるヘルス・プロモーションは、 がんだけではなく心・血管系イベントの減少にもま た貢献するはずです。 米国の内科専門医を認定する試験委員会 (American Board of Internal Medicine, ABIM) はエビデンスに基づく医療上の大切な選択肢を、医 師および患者向けに“Choosing Wisely”と銘打っ たサイトに公開しています。これに倣った造語で恐 縮ですが、私たちは、健康寿命を延ばすためにより 良い選択をするライフ・スタイル“Living Wisely”を患者およびコミュニティの人たちに伝え広め ることができる医師を育成し、ひいてはがんを減ら すことができた秋田を見たいと願っています。月並 みですが、「未来は変えられる!」 図1.喫煙率とがん死亡率の関係(都道府県別) がん死亡率(年齢調整死亡率)は人口10万対で表記。Pearson correlation 0.461、P=0.001。元データは人口動態統計による都道府県別がん死亡データ部位 別75歳未満年齢調整死亡率および国民生活基礎調査による都道府県別喫煙率 データ(国立がん研究センターHPより引用)。
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