【中学校作文の部】最優秀賞 失ってから気づいたこと 中学校3年生 私には、自慢のひいおばあちゃんがいました。90歳になっ ても自分のことは自分でしていたし、畑仕事もする元気なひい おばあちゃんでした。亡くなる前の日には、自分の服を自分で 洗っていたそうです。そんな元気なひいおばあちゃんに、私は “年齢”という差を感じてしまっていました。もうあまり聞こ えなくなった耳。曲がった腰。全て抜けてしまって、代わりに つくられた歯。たくさんのしわ。私にはなくて、ひいおばあち ゃんにあったもの……それらは、私たちをだんだん引き離して いきました。 耳が聞こえないから。そんな理由で、私はひいおばあちゃん と話さなくなっていきました。小さい頃はひいおばあちゃんと よく遊んでいたのに、遊ぶどころか話すらしなくなっていった のです。正直、めんどくさいなあと思いました。耳が聞こえな いがために、何か聞かれてもうなずくだけで、目をそらしまし た。そのときは、考えていなかったのです。ひいおばあちゃん は、今何を考えているんだろう。何がしたくて、何をしてほし いんだろう。感情のないロボットのはずがないのに、私はまる でひいおばあちゃんのことを考えていなかったのです。こんな の、差別じゃないか。今の私は思います。だけどもう、ひいお ばあちゃんに、ごめんねと言えません。ありがとうと言えませ ん。私のひいおばあちゃんは、私が中学2年生の春、亡くなり ました。あんなに元気だったひいおばあちゃんが、救急車で運 ばれた、もう無理かもしれない、とおばあちゃんから電話がき ました。朝の7時前くらいのことです。私たち家族は急いでひ いおばあちゃんのいる病院に行きました。ひいおばあちゃんが、 気持ちよさそうに眠っていたのをよく覚えています。前にも一 度、ひいおばあちゃんは病院に運ばれたことがありました。そ のときは、元気で帰ってきたのです。だから、お医者さんに「無 理かもしれない」と言われても、私は心のどこかで信じていま した。また、元気で帰ってくると。でも、駄目でした。棺に入 ったひいおばあちゃんは、とてもきれいな顔をして、安らかに 眠っていました。今思い出しても涙がにじみでます。悲しみと 後悔で、私は誰にも見つからないように泣きました。静かに静 かに泣きました。もう、あのくしゃっと笑う顔は、見ることが できません。思えば、最後に一緒に笑い合ったのはいつだった でしょう。それどころか、最後に会話したのはいつだったかす ら、覚えていません。私は、とんでもないことをしてしまいま した。耳が聞こえなくても、紙に文字を書いて伝えればよかっ た。どんな容姿だとしても、私の大切なひいおばあちゃんだっ たはずなのに……。私は差別をしない。人権のことについて学 習して、何度もそう思ってきたのに、一番身近な人を差別して しまっていたのです。 私が話すと、笑って聞いてくれました。私が笑うと、一緒に 笑ってくれました。ひいおばあちゃんにとって私とふれあう時 間は、幸せで大切な時間だと思ってくれていたことでしょう。 私もそうだったはずなのに、何故か大切なことを見失っていま した。 今、日本にはたくさんのお年寄りの方がいます。そして、私 のような人も多いのではないかと思います。そんな人たちに少 しでも私の想いが伝わってほしくて、この作文を書きました。 失ってからでは遅いのです。必ず後悔します。たくさん話して ください。たくさん笑ってください。一緒にいてあげてくださ い。天国で泣くおじいちゃん、おばあちゃんや、後悔して泣く 子供達が少しでもへりますように。天国にいるひいおばあちゃ んに私の想いも、一緒に届きますように。今までありがとう。 またいつか、いっぱい話そうね。自慢のひいおばあちゃんでし た。本当にありがとう。
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