L I F E o f P R O T E I N S (九大)は Dsk2 の過剰発現により出芽酵母の生育が阻害される に見出し,これが 10C-box との相互作用部位であることを示し ことを見出し,この生育阻止に対して耐性を示す変異株の解析 た。Scythe と Rpn10c の相互作用の構造的基盤とともにその生 を通じて Sem1 とよばれる 89 残基のアミノ酸がプロテアソーム 物学的意義の解明が期待される。 構成サブユニットである Pre9 と相互作用してプロテアソーム タンパク質社会の破綻と神経変性疾患に関連する研究も多く の活性に関与している可能性について報告した。小亀浩市さん 発表された。遠山正彌さん(阪大)は,アルツハイマー病の (循環器病センター)が報告した Herp をはじめ,Ubl は様々な 原因遺伝子とされるプレセニリン 2(PS2)のスプライシング タンパク質の中に見出されている。白川昌宏さん(横浜市大: 変種 (PS2V) について興味深い報告をした。PS2V は,低酸素 栃尾豪人さんの代理で発表)は,hHR23B の Ubl とのプロテア 下において神経細胞特異的にエキソン 5 が脱落した結果として ソーム構成サブユニット Rpn10 の UIM との相互作用様式およ 発現するものであり,小胞体ストレスセンサーの機能障害を引 び Dsk2 の UBA とユビキチンとの相互作用様式を NMR を用い き起こす。今回,PS2V が生じるスプライシング異常のメカニ て解析した結果を報告した。川原裕之さん(北大)は,Rpn10 ズムの一端が解き明かされた。すなわち,核タンパク質であ には 5 種類のスプライシングアイソフォームが存在することを る HMGA1a が PS2 遺伝子エクソン 5 の 3' 端の配列に結合する 報告し, それらの構造機能解析を行った結果について発表した。 ことがスプライシング異常の原因となっていることが示唆され 特に,初期胚特異的に発現している Rpn10c には従来知られて た。実際,この配列の「おとり遺伝子」の導入により PS2V の いる 2 個所の UIM 以外に新たなポリユビキチン鎖結合モチー 産生が抑制できた。このように HMGA1a の結合を阻害する因 フが存在することをつきとめ,この領域を 10C-box と名づけた。 更に,Rpn10c と結合するタンパク質として同定した Scythe の 分子中に,従来知られていた Ubl とは異なる Ubl 配列を新た 子はアルツハイマー病の治療薬となる可能性がある。後藤祐 ラ イ フ クラシコ・インディア 遠藤斗志也 バンガロールで見かけたアンバサダー 12月に学会(FAOBMB)でインドに行く機会が あった。南部カルナータカ州の州都バンガロールと いう町で,標高920m のところにある高原都市だ。 冬でも日中は30℃くらいまで気温が上がるが,湿度 は高くなく,ちょっと木陰に入れば過ごしやすい。 ゆるやかに流れる時間に身をまかせ,穏やかな空気 の中で飲むとびきり甘いチャイが,頭をハッキリさ せてくれる。そういえば,学会の事務をしている人 たちも,仕事の合間にちゃっかりチャイを楽しんで いる。なるほど,チャイってこうやって飲まれてい るんだと納得。 それでも下町に出ると,貧しいトタン屋根の街並 み,あふれる人々(物乞いの子供たちを含む),そ して迷い牛 (ではなく, 実は飼い主がいるそうだが)。 確かにその風景には圧倒される。 駅周辺もすごいが, 市場の付近も面白い。自動車関係のジャンク店が並 50 オ ヴ プ ロ 児さん(阪大)は,L- アミノ酸と D- アミノ酸を種々に配した Aβ(25-35)ペプチドを合成し,チオフラビン T の蛍光でリア テ イ ン ズ の裏街道 ぶ一角は,煤けたモノクロームの風景。ここでは, ジャンクを材料に数千円でオート三輪が組み立てら れてしまうという。肉屋(もちろん鳥肉だけ)街では, 解体を待つ生きた鶏を詰め込んだカゴが道路までは み出していて,鳴き声がけたたましい。上を見上げ ると,おこぼれの肉を求めて飛交う猛禽類がいっぱ い。 そんなバンガロールの街をまわるには,オート三 輪のアトウ(リキシャ)とよばれる簡易タクシーが 便利だ。運転が荒くて,バスやトラックの隙間を すり抜けるように走っていく上に,ドアがないの で,棒にしがみついていないと振り落される心配が ある。それでもスピードがあまり出ないので,安全 性は見かけほど低くなく,なんといっても適度に風 を直接受けて街を走り回れるのが心地よい。そんな わけでアトウを使って街をまわっていると,不思議 に目についたのが,白い車体がまぶしいクラシック カーだった。英国統治下時代の名残のようなこのク ラシックカーは,いったい何なのだろう。色々と調 べてみて分かったのは,以下のようなことである。 戦前のインドでは,GM やフォードといった海外 資本が自動車産業を支配していたが,1947年のパキ スタンとの分離独立を契機として,政府は輸入代替 工業化政策をとった。すなわち,外国資本を排除し つつ(輸入も禁止された),技術提携の形で国内資 メーカーの車の中から,インドの顔となるモデルが 生まれることとなった。ヒンドスタン・モーターズ 社は1950年代に英国で活躍していたモリス・オック スフォードというモデルをアレンジして「アンバサ ダー」(1957)を発売。ライバルのプレミア・モー ターズ社はやはり1950年代のフィアット社のモデル 1100をアレンジして「プレミア・パドミニ」(1952) を発売した。そしてこれらの車は,世界にも類のな い長生きなモデルとなる。すなわち驚異的なことに, アンバサダーは44年間一度もモデルチェンジをしな かったし,パドミニも62年に一回モデルチェンジし ただけという。アンバサダーはハンドルは重いしエ ンジンは非力,ドアははずれやすく,電気系統はト ラブル頻発,という欠点だらけの車である。にもか かわらず,人も荷物もたくさん積んで,インドので こぼこ道を軽快に走ってくれるということで,広く 支持されてきたという。 筆者が街で見かけたのは,このアンバサダーで あった。英国でもイタリアでもすでに消え去ってし まったクラシックモデルが,インドではいまだ現役 として生き続けているのだ。なお,90年代にはいっ 本への技術移転を図り,経済的自立のための基盤作 りを目指したのである。その結果,イギリスのブリ ティッシュ・モーターズ社と提携したヒンドスタン・ モーターズ社,イタリアのフィアット社と提携した プレミア・モーターズ社等,海外メーカーと提携し た国内自動車メーカーが幾つも誕生した。これらの アンバサダーのモデルとなったモリスオックスフォード L I F E o f P R O T E I N S ルタイムに観察することにより Aβ(25-35)のアミロイド伸長 原因遺伝子産物 parkin の Ubl の NMR 解析を行い,パーキンソ への影響を調べた。L- アミノ酸で形成されたシードに対して ン病の家系において報告されている変異部位が Ubl 上の Rpn10 D- アミノ酸で合成したペプチドを加えてもアミロイド伸長は 見られなかった。一方,部分的に D- アミノ酸を導入したペプ チドでは,さまざまな程度の伸長阻害が認められた。特に,ペ プチドのほぼ中央に位置する疎水性残基のクラスターを保存 することで,より強い阻害作用が認められた。アミロイド形成 はアルツハイマー病だけでなく,長期透析患者において見られ るβ2 ミクログロブリンのアミロイド形成による透析アミロイ ドーシスなど様々な病気の原因となる。これらの繊維形成をリ アルタイムで観察できるこのシステムは,新たな治療法開発に も役立つものと期待される。三浦正幸さん(東大) はショウジョ ウバエの複眼に過剰発現することによって細胞死が誘導される 遺伝子のスクリーニングを通じて,トランスロコンの構成因 子である Sec61αに注目した。Sec61αの発現を抑制することに よって細胞質における不良品タンパク質の蓄積が軽減され,ポ リグルタミン病の病態が改善される可能性を示した。筆者のグ ループの坂田絵理(ポスター発表)は,家族性パーキンソン病 結合部位に位置していることを明らかにし,parkin とプロテア てから規制緩和で海外資本が再び参入し,現在では これらの車の販売台数は縮小を続けている(かわり にインドの街を支配しているのは日本車と韓国車で ある) 。 * * * 車というと,実は昨年はもうひとつ似たような光 景を目にした。やはり学会で招待されたドイツのザ クセン州の州都ドレスデンにおいてのことである。 連合軍の爆撃により徹底的に焼き尽くされた街,ド レスデン。統一後やっと復興が始まり(Blobel は ノーベル賞の賞金をこの美しい街の復興のために寄 付した) ,いまなおあちこちで工事が進行中だが, この街でやはり不思議にレトロな車を何回も見かけ た。これが旧東ドイツの「国民車」 , トラバントだっ た。 メーカーは,カール・マルクス市のツビカウに ある,VEB ザクセンリンク自動車工業。1958年に 500cc の P50が誕生,62年に600cc の P60に発展, 64年にモデルチェンジされ601となった。 「トラビー」 の愛称で親しまれ,東ドイツではこれとヴァルトブ ルグという車以外はほとんどなかったというほど の, 正しく東ドイツを代表する存在だった。 フィアッ ト500やシトロエン2CV と同様のコンセプト(低コ スト,低燃費等)で開発され,東ヨーロッパ諸国で 最も普及した車だった(生産台数は総計300万台に もなり,現在でもハンガリーではまだまだ主流車と か)。ただしそのボディは紙でできているとの噂は 有名。実は,東ドイツでは鉄鋼不足のため,なんと プラスチックと紙というか布を何層にもサンドイッ チした合板のような構造にせざるを得なかったので ある。ちなみに当時の東ドイツでは, 同じ理由から, ソームとの相互作用の破綻がパーキンソン病の発症につながる というモデルを提唱した。 この他にも数多くの印象深い発表があった。遠藤斗志也さん (名大)は, 標的タンパク質に導入したポリグリシン鎖(mHsp70 に結合しないことが知られている)の鎖長を変えて,そのミト コンドリア膜透過に及ぼす効果を解析することにより,ミトコ ンドリアタンパク質前駆体のアンフォールディングと膜透過が Brownian rachet により駆動されていることを示した。さらに, 膜透過のポリグリシン鎖長に対する依存性がタンパク質の種類 により異なることから,膜透過の解析はタンパク質の(N 末端 付近の)高次構造のほどけやすさに関する知見をもたらすとい う可能性についても言及した。小出隆規さん(徳島大)は,コ ラーゲン特異的シャペロン HSP47 と基質モデルペプチドの相 互作用解析を行い,コラーゲンのトリプルヘリックスを取り囲 むように,へリックスから突き出したアルギニン残基と 3 分子 食器やカメラからドアノブにいたるまで,プラス チック化が極度に進んでいたという。それでも,車 は東ドイツでは高級品。トラバントは注文してから 手に入るまで数年,最悪で10年かかるとまで言われ た。 89年のベルリンの壁崩壊時,国境が開くと,西ド イツ側にあふれたのがこのチープでクラシックな車 であった。当時の報道写真や映像を見ると,必ずと いっていいほどこの車が写っている。しかし統一後 1年で生産打ち切りとなり,ほぼ30年の繁栄の時を 終えた。ただ,最近では逆にそのクラシックなスタ イルもあいまって,希少価値があがっているという。 実はこれ,旧東独の人々が自分たちの過去を懐かし み,それを語り始める動き,オスタルジー(旧東独, つまり東(オスト)へのノスタルジー)と無関係で ないのかもしれない。 いまは独特の気分で眺めるトラバントだが,旧東 ドイツ時代は,連合軍による大爆撃で破壊された建 物が手付かずでそのまま残った街並みを,自動車と いえばトラバントばかりが,空冷二気筒エンジンの バタバタという音をたて,排気ガスをまき散らしな がら走っていたわけである。そんな風景を想像して みると,当時の東ドイツの日常が少しだけリアルに 見えてくるような気がする。 * * * 「イタリアの某メーカーの車を所有するというこ とは,ミラノのヴィスコンティ家の家紋をエンブレ ムにしてしまったそのメーカーの血の歴史を所有す ることにほかならない」と言ったのは流行エッセイ ストの甘粕りり子だったか。車というのは耐久消費 財の中でも寿命の長い方だが,それでも30∼40年発 ベルリンの壁崩壊時のトラバント 売され続け,現役で活躍した車というのは珍しいだ ろう。それがイギリスでもイタリアでもなく,イン ドと東ドイツで可能だった,というのが面白い。 そう言えばイタ車と Mac は似ている, なんて言っ てた筆者だが,何となくコンパクトな SE30の起動 画面が見たくなった。確か通称ウサギ小屋(実験動 物舎)のどこかにしまい込んであったはずと思い, 探してみたが見つからなかった。廃棄処分にしてし まったようだ。そういえば,どこの教授室にもあっ た IBM の電動タイプライターも最近は見かけなく なったし(筆者の部屋にあったブツも数年前処分 してしまった),信頼性をその大きく重いガタイで 誇示しているかのような LKB のフラクションコレ クターもいつのまにか実験室から姿を消してしまっ た。ほんの10年前活躍してくれていたモデルさえ, いまの大学の狭隘な研究環境では生き残れないので ある。少しだけ寂しい気分になってしまった。 (……さて,去年購入した Mac の G4から,新しい G5にファイルでも移すか。どのくらいサクサク動 くか期待大。) | April 2004| No.13| 51
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