職業能力開発の政策とその実施状況のPDFファイル

ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
3.1
職業能力開発の背景
2009 年 4 月 1 日付国勢調査によるとベトナムの人口は 8,650 万人である。労働人口は
そのうち 53%と高く、今後数年間も引き続きその水準は維持されるであろう。ベトナムの
豊富な若い労働力は国際的経済統合の競争において強みではあるが、逆に雇用創出という
点においてはベトナム政府にとって大変なプレッシャーとなっている。また、熟練労働者
の比率は労働力全体の 30%強と低く、国家経済のため職業訓練の需要が非常に大きい。ベ
トナム政府は職業訓練に関連するいくつもの政策を採用してきた。2006 年末に国会で職業
訓練法を採決、その後現在に至るまで労働傷病兵社会福祉省(Ministry of Labor, War
Invalids and Social Affairs:MOLISA)は新たな政策や、最近政府へ提出されたばかりの
「2020 年までの職業訓練改革及び、発展のための国家プロジェクト(National Project on
Renovation and development of vocational training by the year of 2020)」、「2020 年ま
で の 職 業 訓 練 改 革 の た め の 国 家 戦 略 ( National Strategy for Vocational Training
Renovation by the year of 2020)」(現在、第 6 草案)、「2020 年までの農民に対する職業
訓練発展のための国家プロジェクト(National Project on Development of Vocational
training for farmers by 2020)」等の職業訓練に関わる戦略を策定してきた。これらの政
策が打ち出されたことにより近い将来職業訓練の力強い発展の実現が可能となるであろう。
【社会経済情勢】
(1) 国際情勢と世界の教育動向
グローバル化と国際的経済統合を背景に、連携には常に過激な競争が伴い、その状況下
では人的資源の質こそが競争における大きな強みとなる。また、グローバル化と国際的経
済統合は先進国から発展途上国への資本の流れや国家間での労働移動を創り出す。結果と
して資源は国際化し、新しい国際分業となる。ベトナムをはじめとする発展途上国は国際
労働市場で参加するチャンスが与えられる一方で、国内市場でも激しい競争を強いられる。
したがって、人的資源の質こそが個々の国の競争力という点において中核的な課題かつ、
決定的な要因となる。
国際的経済統合により、先進国から発展途上国への研修事業の進出がさらに加速する。
これは途上国にとっては挑戦というだけでなく、早い段階で世界の知識経済に統合する先
進教育や研修を受ける絶好の機会ともいえる。新たな知識経済と特に IT 部門をはじめと
する日々目覚しい発展を遂げる世界の科学技術は経済間の隔たりをなくし、つながりを作
った。IT は途上国も科学技術の成果に関する情報を取得し、先進国との発展格差をなくす
チャンスをもたらした。
需要主導型研修は効果的で発展途上国に順調に広がった。国際労働機関(ILO)はグロ
ーバルワークプログラムで各国に「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕
事)」の創出という労働市場の要求に応えて柔軟性のある職業訓練を進めるよう推奨した。
世界的な科学技術革新の急成長は最新技術の使用とともに、多くの新しい職業や仕事を創
出するであろう。職業訓練は最新技術の資格を有する技術スタッフ団を研修するためにも
定期的に内容を見直し、より高度に、もしくはさらに新しい研修カリキュラムへ改善して
いかなければならない。
1
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
(2) 国内情勢
戦略的方向付けによると、ベトナムは経済と労働力構成に着実な改善を行い、基本的に
2020 年までに先進工業国となることを目指している。近代工業は高度な技術を有する労働
者が必要で農業部門も近代化しなくてはならない 1。結果、職業訓練は職業や地方、地域別
による技術レベルの構造の観点から発展、改善するべきである。
ベトナムは WTO の正式加盟国となり、多大な協力が得られたと同時に競争も激しくな
った。経済的競争力の改善につなげるためにも、労働力へ外面的スキル(専門技術)と内
面的スキル(創造性、変化に対する適応力、コミュニケーション能力)を含む高度な職業
能力開発が必要である。一般的に今もなお発展途上で貧しい農業国であり 2、まだ人的資源
の質と競争力が低いベトナムにとってこれは大きな挑戦である。世界銀行の評価によると
ベトナムの人的資源の質は 10 点満点中 3.79 点で、アジア 12 カ国中 11 位である。ベトナ
ムの低い競争力の主な原因の 1 つがここにある。2006 年には 125 の国や経済の中でベト
ナムは 77 位にランク付けされた 3。したがって、教育と特に高いレベルでの職業訓練の改
善を強く推し進める必要がある。
2008 年のベトナムの人口は ASEAN では第 3 位、世界では第 13 位の 8,570 万人である。
ベトナムの若年人口及び、若い労働力はベトナムにとって強みであると同時に、職業訓練、
雇用創出、そして貧困削減の分野においては試練となっている。2002 年までの産業発展戦
略のためには、さまざまな技術レベルにおける人的資源の必要性も含めて職業訓練戦略を
適切に発展させる必要がある。
(3) チャンスと課題
現在の国際・国内情勢は、ベトナムの職業訓練にとって以下のような絶好のチャンスと
重大な課題と両方を生み出している。
(a) チャンス
・ 政党、中央・地方政府、産業、企業と社会は職業訓練に注目し、投資を行っている。
・ ベトナムはここ何年か高度経済成長を維持、雇用を創出し、多くの熟練労働者を呼
び込んだ。
・ ベトナムの職業訓練にとってさらなる国際的経済統合は、近隣諸国や世界の職業訓
練経験と実績をより早く得ることのできる絶好のチャンスとなる。
(b) 課題
・ 国際的経済統合に伴う労働市場の開放は、海外だけでなくベトナム国内の労働市場
においてもベトナム人技術者と他国の技術者との間に激しい競争をもたらす。企業
によっては海外から高度技術者を呼び寄せるという現象が起きており、ベトナム人
技術者が外国人技術者に太刀打ちできないという危険が浮上している。
・ 職業訓練(特に高度な技術を有する労働者に対して)の規模拡大と質向上のため、
1
2
3
世界銀行によれば、先進工業国となるには国内総生産のうち、農業の割合が 10%未満でなくてはならな
い。
国連人材開発報告書(2008 年)、世界銀行報告書(2009 年)によれば、ベトナムがインドネシアに追
い着くのに 51 年、タイと歩調を合わせるのに 95 年、シンガポールの 1 人当たり所得に並ぶのに 158
年かかるであろうとされている。
2006 年の世界経済フォーラムによると、2005 年ベトナムは 120 カ国中 79 位にランク付けされた。
2
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
インフラや設備整備、職業訓練講師や管理者の質向上が必要とされるが、投資額は
限られている。
・ ベトナム経済は社会主義型市場経済への移行段階にあるため、新しい状況に沿った
構造改革と職業訓練改革を必要とする。
国際・国内情勢においてベトナムにその強みを維持し、近代化に向けた職業訓練の再生
と発展のチャンスをつかみ、工業化と近代化のために上質の人材育成と供給を行う必要が
ある。そうすることにより労働力輸出、国際的経済統合や雇用創出が促進し、労働者の生
活水準が向上する。職業訓練の改善と発展は差し迫った、なおかつ長期的要件である。
(4) 2020 年までの労働力の研修計画
人口家族計画省総務部の 2010∼2050 年人口計画によるとベトナムの人口は 2020 年に
は約 9,900 万人、そのうち、労働年齢に達するのは 5,750 万人(労働傷病兵社会福祉省、
国際労働機関による 2010∼2050 年労働力計画)になるとされている。計画投資省による
2020 年までの人材開発計画に関する基本的指標では、産業構造はそれぞれ農林水産業30%、
工業、建築業 32%、そしてサービス業 38%になるといわれ、年間約 100 万人もの農業従
事者が工業やサービス部門へ転職するとされている。
工業化、近代化そして国際的経済統合の過程で情報科学、オートメーションや輸出向け
生産など知識集約型産業やハイテク産業の経済産業は今後も力強い発展を実現し、高い技
術を持った労働者が集まるであろう。主要な経済産業、グループ、大企業では 2020 年ま
でにおおよそ年間 6∼7 万人もの優秀な人材を必要とすると思われる。その人材の 8 割以
上を職業訓練中等レベル以上の労働者が占め、経済活動が海外に拡大した際には、その要
求はさらに増すといわれる。海外へ派遣された労働者は全員が職業訓練を保証され、その
うち半数は中等レベル以上の研修を受けることができる。
労働力人口全体の約 55%は研修を受けた労働者で、産業ごとの熟練工の割合は農林水産
業が 35%、工業部門が 63%、サービス業が 50%である。職業訓練レベル別の割合は、初
等レベルが 72%、中等レベルが 14.4%、専門学校・実践的技術者レベルが 13.6%である。
3.2
1.
職業能力開発を進めるための国の政策
職業訓練法
2006 年 11 月 29 日、第 11 回国会第 10 議会において職業訓練法を承認し、2007 年 6 月
1 日より施行された。この職業訓練法は全 6 章 92 条から成り、職業訓練機関の組織と運営
に関する規定、及び職業訓練に関わる組織や個人の権利と義務が規定されている。
2.
2020 年までの職業訓練改革国家計画(政府へ提出予定)
(1) 2020 年までに職業訓練改革及と発展に関するガイドライン
・ 労働市場と社会の需要に応えるため、供給主導型から需要主導型の取り組みへと大
きく転換。
・ 職業訓練の標準化と近代化を行い質の飛躍的向上を狙い、国の工業化、近代化そし
3
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
て国際的経済統合を担っていく高度技術を有する労働者を育成。
・ 国家標準の職業訓練高校や職業訓練大学でカリキュラム、指導員、管理スタッフ、
インフラ、設備等の質に対し職種ごとに総合的投資を行う。ただし国際又は、地域
標準達成のため、研修が必要な主要産業の職種、ハイテク業界の職種、技術職等を
優先。
・ 職業訓練促進のためすべての社会的資源を動員し、国が重要な役割を担う。
・ 職業訓練促進と質の高い技術労働者の育成は政府と政党の方針である。それらは着
実で持続可能、かつ効果的な社会経済開発の決定要因であり、社会的公正や国民へ
学習及び、生涯学習の機会を確立する。
(2) 2020 年に向けた職業訓練改革と発展の目的
(a) 総合目標
生産、ビジネス、サービス部門で知識、職業遂行能力、職業倫理、良識を有する技術労
働者育成のために職業訓練の質の大幅な躍進を目指し、国内労働市場の要求にかなう勤務
形態を整える。国際、全国、そして各地域標準レベルの職業訓練を実施し、職業訓練の規
模を拡大し 2020 年までに全労働力の 55%に対し研修を行う。研修すべき職業と研修レベ
ルの構造を確立し、職業訓練施設と企業を結びつける。
(b) 個別目標
a)2009∼2020 年
・ 581 万 5,000 人に対する職業訓練中等学校、職業訓練大学、技術者レベルでの研修
を含め 2,458 万人に対し職業訓練を実施し、ASEAN の先進諸国や世界で適用され
る職業能力開発水準に従った研修を 11 万 5,000 人に対して行う。
・ 4 万人に対して職業教育と職業能力開発の研修を行い、職業訓練指導員を育成する。
b)2020 年まで
・ 私立学校 40 校を含む職業訓練大学 230 校と私立学校 70 校を含む職業訓練高校 310
校を設立する。そのうち公立 10 校を含む職業訓練大学 15 校で国際標準職業のコー
スを職業別に 3∼5 コース、公立 20 校を含む職業訓練大学 25 校で地域標準職業の
コースを職業別に 3∼5 コース、公立 120 校を含む職業訓練大学 140 校で全国標準
職業のコースを職業別に 2∼3 コース設置する。そうすることにより 86 種類の全国
標準職業、30 種類の地域標準職業、20 種類の国際標準職業の研修が可能な職業訓
練システムの確立を狙う。職業訓練センター、もしくは職業訓練高校が各地域に 1
カ所以上は設立されるものとする。
・ 職業訓練指導員が学科と実技、両方を組み合わせたすべての研修を提供するものと
する。指導員の 40%を大学院卒業生とし、職業訓練大学、高校いずれも指導員対生
徒の割合は 1:15 とする。全管理スタッフは職業訓練管理に携わらなければならな
い。
・ 職業訓練大学レベル、高等レベルの全職業に対して訓練カリキュラムを用意する。
先進国の研修プログラムを 30 種類の地域標準職業、20 種類の国際標準職業に対し
て取り入れ、一般の職業向けに 130 種類、実践的技術者レベル向けに 40 種類の研
修プログラムと講義要綱を用意する。
4
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
・ 職業訓練大学及び、職業訓練高校で実施される全職業訓練のために職業訓練設備基
本リストを作成する。
・ 職業訓練大学及び、専門高校の 90%、職業訓練センターの 70%、そして職業訓練大
学及び、専門高校で行われる研修プログラムの 70%を職業訓練認定制度で管理する。
・ 400 種の職業に対して国家職業技術基準を制定し、その基準に従って評価を行う。
600 万人もの労働者がこの職業技術によって評価を受ける。
2011∼2020 年までの職業訓練戦略
3.
(1) 総合目標
合理的で柔軟性があり、効果的な最新職業訓練制度を実現させる。それは誰にも平等で
利用しやすく、継続性のある制度でなくてはならない。特に農村部における労働者の生活
水準を改善するためにも人々の競争力強化に貢献し、さらに 2020 年までに 1 日も早くベ
トナムが先進工業国となるよう、国の社会経済開発に役立つ内容でなくてはならない。
(2) 個別目標
【目標 1:労働市場と社会の開発需要に応じた適切な職業訓練制度の確立。先進工業国の
ニーズを満たす知識集約型経済への取り組み】
先進工業国の労働力の質に適合し、労働力構成を活用するための職業訓練プログラムや
コースを作るためには、雇用者や職業訓練生のニーズが最も重要な基礎となる。
【目標 2:最新の認定職業訓練制度の効果的な運営】
論理的に配分した資金に基づき職業訓練は標準化、近代化、統一化を目指して発展させ
る。職種によっては地域レベル、国際レベルの研修の提供を行い、質、職業技能開発の向
上、創造性、健康や労働者の勤務形態の現状を打破する突破口を作る。研修終了後、研修
生は競争の厳しい労働市場でも通用する職業技能の習得が約束される。
【目標 3:すべての人の生涯学習の必要性を満たし、利用しやすく、平等で柔軟性の高い
職業訓練】
急速に成長するテクノロジーを背景に需要主導型の職業訓練を保証するため、研修は社
会的パートナーが関わる柔軟な制度にしなくてはならない。同時にその制度はすべての人
や社会団体、特に社会や労働市場における弱者の要求を満たし、国内雇用と労働力輸出の
要求も満たす必要がある。
【目標 4:職業訓練制度の継続的な発展】
国際市場の厳しい競争の中で経済の変動し続ける開発ニーズに関連し、優れた職業訓練
制度をまとめ、発展させるための資源を集める最も適切なメカニズムを確立する。
3.3
政府及び関係団体の制度、組織、機能
1. 職業訓練施設のネットワークの設置
・職業訓練施設のネットワークは社会経済開発戦略と国家、産業、地域、準地域、地方そ
れぞれの基本計画を基準に、研修を行う職種や研修レベルによって計画される。
職業訓練施設のネットワークは次のとおり進められる。
5
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
*産業や経済区域、労働力輸出のための質の高い労働力への需要を満たす地域標準及
び、国際標準レベルの労働者を育成するため、職業訓練大学と職業訓練高校は国家
基準を満たす職業訓練が可能となるよう高度化する。職業訓練大学と職業訓練高校
では、訓練指導員に職業技能資格証明書を交付する通常の研修、又は補習研修が課
題となっている。各省ではその地域の労働市場の需要に応じ、最低 2 つの職業に対
する国家標準レベルの職業訓練が可能になる見込みである。
*南西部、中央高地部や北西部では、貧困削減が困難で各地域間での社会経済開発の
格差縮小が難しい省等を優先して職業訓練大学と職業訓練高校を発展させる。
*労働者、特に農村部や少数民族を対象にした職業の一般化、転職、雇用創出、増収
や生活水準の向上促進のために職業訓練センターを設立する。この課題は 2020 年
までの地方労働者のための職業訓練基本計画で取り組まれている。
・公立職業訓練大学、高校でいくつかの主要な職業に対し国際標準レベル、全国標準レベ
ル、そして各地域標準レベルの職業訓練が実施できるよう、国家予算を集中的に投入す
る。
研修を行う職業選定の指標や過程について大学や高校は開放性、透明性を保ち、民主的
に行わなくてはならない。国内外の組織や個人に対して私立の職業訓練学校設立を奨励し
ている。
2.
職業訓練指導員の育成
職業訓練大学と職業訓練高校で全国レベルの研修指導ができる指導員を育成する。公認
職業訓練指導員の国家基準を専門家レベル、教育レベル、職業能力開発レベル別に明示し
指導員の標準化を実施する。職業訓練専門教育学校での全学科の職業教育職の標準化、公
立、私立を問わず国際標準レベル、全国標準レベル、そして各地域標準レベルの職業訓練
を行う職業訓練学校での職業能力開発を統一する。大卒者が職業訓練大学、又は職業訓練
高校レベルの職業訓練指導員となるための技術教育と職業能力開発をまとめる、指導員に
対して毎年研修方法や最新技術についての情報提供を行い実際に国内外の生産現場、ビジ
ネス及びサービス施設での実地研修を行う、等の方針に従い早急に公認職業訓練指導員を
増員する。
職業訓練大学と職業訓練高校で、さらに国際レベル、地域レベルの研修指導ができる指
導員を育成する。先進国の職業訓練指導員の基準を適用、国家資格を持つ教師、優秀な大
卒生や大学院卒生、さらには生産、ビジネス、サービス業の経験豊富な専門家を講師に採
用し、指導員へ先進国の研修プログラムに従った技術教育学や職業能力開発を実施する。
指導員へは英語教育を施し、毎年研修方法や最新技術についての情報提供を行い、実際に
先進国各地の生産現場、ビジネス及びサービス施設での実地研修を行う。また、職業訓練
初等レベル及び、3 カ月以下の研修指導ができる指導員を育成する。この課題は 2020 年
までの地方労働者のための職業訓練基本計画に明記されている。
6
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
3.
職業訓練管理スタッフの育成
職業訓練施設の管理者と全職務の管理スタッフに対する研修プログラムを先進国のプ
ログラムを応用して改善する。また、3 地域における技術教育大学 3 校で職業管理研修セ
ンターを設立し、国内外の職業訓練管理官に対し定期的な研修や補習研修を実施する。
4.
職業訓練プログラム、カリキュラム、講義要綱、研修方法の開発
職業訓練大学と専門職業訓練学校用カリキュラムの枠組みの開発を促進し、2010 年には
独自のカリキュラムや講義要綱を設ける。各学校にカリキュラム開発の自立性を強化する
ため選択科目を 40%まで増やす。教師には各学校で組まれた研修カリキュラムを基本に研
修内容を決める権利を与える。政府は 2015 年まで職業訓練の枠組みの管理に携わらない。
研修の構成を学科、実技と別々に行わずに学科、実用技術、勤務態度の要素を組み合わ
せて改善する。職業訓練プログラムは企業の参加による世界の先進的方法(DACUM 職業
分析)に沿った職業能力開発基準、又は遂行能力を基準に発展させる。参加企業での実習
期間は現在より長くなる。実習や実技、学習過程での積極性、独立性、共同作業、実技と
自己学習期間の長期化に重点を置いた研修や学習方法に改善する。職業訓練とオンライン
学習で IT の活用の強化を行う。また、指導員に対しては職業訓練指導カリキュラムと講
義要綱作成の研修を行う。
職業訓練中等レベルから短大や大学へ、大学から職業訓練短大へ、職業訓練大学から専
門技術大学へと各研修レベル間で編入可能な制度を作る。研修によっては海外の同様の研
修と振り替えることもできるようにする。評判が良い職業訓練の講義要綱を作成し、全国
の職業訓練学校で導入するよう推奨する。熟練技術者に対し特定の職業訓練大学で地域、
国家、そして国際資格となるパイロット研修プログラムを作成する。
職業訓練大学で行う地域及び、国際レベルの研修とは、以下のとおりである。
・ ベトナムに適した先進国の職業訓練プログラムを取り入れる。
・ カリキュラムやその枠組み、職業能力開発基準、講義要網、指導方法を同時に導入
する。常に最新の研修プログラムを進められるよう、講師に対しその研修や補習研
修を実施する。
5. 職業訓練設備やインフラの標準化と近代化
(1)設備とインフラの標準化
・ 職業訓練大学や高校の建物の基準を明確にし、単位制の研修プログラムに適した研
修指導、研修、労働環境、労働者の安全等の条件を実現する。
・ 職業やレベル別に必要な研修設備、基本的な設備から実技に必要な模擬装置等の最
新装置や設備の標準リストを作成する。
(2)管理スタッフの幹部への研修実施
(3)生産現場や企業内で必要な標準、現代技術を研修するための設備やインフラに投資
を行う。
(4)研修生が実技研修を行うための実習場を校内に作る。
7
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
3.4
予算と財源
(1) 計画、予算配分、利用方法の革新
・ 労働傷病兵社会福祉省が財務省
(Ministry of Finance:MOF)、計画投資省(Min istry
of Planning and Investment:MPI)、地方の労働傷病兵社会団体とともに地方の財
政計画部門の協力の下、各省や部門、地方の職業訓練に関する年間予算の配分、監
視、支出に関与する。
・ 職業訓練への投資に関しては国家予算が中心となる。教育及び、研修に関する歳出
のうち、職業訓練開発に対する年間予算の成長率は 2020 年には 12%に達する。
・ 現在の職業訓練施設が国から与えられた予算を管理するというメカニズムは、職業
訓練施設が研修サービス契約を締結し、その契約に基づき研修目的や対象者に対し
ての研修サービスを提供するというスタイルに徐々に移行する。特殊な職業や兵役
除隊者、貧困層や少数民族、また、公立、民間を問わず認定職業訓練施設に対して、
優先的に投資が行われる。
・ 各職業グループ の研修レベル別に設定されている料金を基準に計算された研修費
用によって、支出計画や配分がなされる。
・ 各省における職業訓練開発基本計画や職業訓練生への支援政策を実施するために、
必要な予算を地方各自で十分に確保可能にする。
(2) 国家予算の利用方法
・ 質の高い職業訓練大学や高校設立のための集中投資
・ 学校を革新的基礎として、少数民族地域をはじめとした問題を抱える省の公立職業
訓練短大、高校への優先的投資の促進
・ 労働市場での需要が多いにもかかわらず社会化が困難な職業の研修を実施する研
修施設への投資
・ 人気のある職業のカリキュラムとその枠組み、講義要綱の作成
・ 地域及び国際資格の職業の研修において、認可研修プログラム、カリキュラム、講
義要綱や海外の教材使用
・ 職業訓練指導員、管理スタッフ、検査官幹部に対する研修や補習研修の実施
・ 職業訓練設備の標準リスト作成
・ ハイテクや最先端分野の職業、危険や有害な職業、研修生が集まりにくい職業に対
して研修を義務化
・ 学費免除、又は控除対象の研修生受け入れ施設に対する補償
・ 学費を負担できない地方研修生への援助
・ 職業訓練認定制度の運営
・ 公立職業訓練認定センターの促進支援
・ 職業能力開発試験の基準策定と問題作成
・ 労働者の職業能力開発評価の経費支援と国立職業能力開発評価 センターの建設支
援
8
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
(3) 職業訓練の社会化のための投資促進を目指すメカニズムの発展
職業訓練開発において企業や伝統工芸村の参加を最大限に高めるために、政府は優先的
貸付や税務政策、研修費用の支援に関する政策等を含む刺激政策を公布する。企業や伝統
工芸村は企業内研修や職業訓練施設への投資に参加し、研修生に対し実際の生産現場での
職業訓練やさらなる高等研修を提供する。政府は研修を終えた労働者を採用する企業に、
職業訓練費用の負担を促す政策も準備する。また、研修費用支援を目的とした増収のため、
職業訓練施設における生産、ビジネス、サービス、団体、合弁事業を拡大する。
職業訓練に対する海外投資を増加するためにも、政府は教育や職業訓練における外国投
資や海外取引先との連携に関わる政令をより明確で、便利な手続きや投資条件の内容に改
正、補完を行う。インフラ、設備、技術支援を主に、職業訓練に投資する外債の計画を優
先する。さらに研修カリキュラムや講義要綱を作成し、管理スタッフや講師へも補習研修
を実施する。職業訓練の研修内容を充実させることで、それに見合った研修費用の徴収を
可能にさせるのである。
(4) 財政監視の促進
職業訓練に費やされる地方予算の有効性の評価指標と手順の調査と開発を進める。また、
職業訓練における卒業、トレーニング、財政能力の基準を示すと同時に、政府規則に従い
上部団体への会計報告の機構を導入し、予算の法的で公然と、正しく、透明性をもって使
われることを保証する。各施設がそれぞれの内部支出規則に従った予算や収益の支出を行
っているか社会的な監視メカニズムを導入し監視する。
(5) 職業訓練の予算額
困難が山積しているもののベトナム政府は教育や研修に多大な予算を費やしている。
2001 年に教育・研修に投じられた割合は国家予算全体の 15.5%を占め、2008 年には 20%
にまで増加した。ただし、教育・研修に関わる予算全体のうち、職業訓練に投じられた割
合は 2001 年で 5%、2008 年には 7.5%に増加したものの依然として低い。
表 3‐1
(単位:10 億ドン4)
職業訓練に費やす国家予算(2001∼2008 年)
2001
2002
2003
2004
2005
2006
GDP
481,295
535,762
613,443
715,307
839,211
国家予算支出額総計
127,675
143,764
181,183
209,024
19,747
22,541
28,835
15.5%
15.7%
968
項目
教育・研修関連支出額
教育・研修部門支出割合
(対国家予算支出)
職業訓練関連支出
職業訓練関連支出割合
(対教育・研修関連)
経常費
4
2007
2008
973,791
1,129,598
1,338,000
239,470
297,232
356,678
398,980
34,872
42,943
54,798
71,336
79,796
15.9%
16.7%
17.9%
18.4%
20.0%
20.0%
1,240
1,644
2,162
2,791
3,671
4,993
5,985
4.9%
5.5%
5.7%
6.2%
6.5%
6.7%
7.0%
7.5%
569
661
796
915
1,335
1,735
2,200
2,944
1,000 ドン=5.0872 円(2009 年 10 月 15 日現在)
9
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
国家目標プログラム関連支出
基本建設関連支出
104.7
139.6
168
265
425
630
1,050
1,100
294
439
679
982
1,031
1,306
1,743
1,941
*出典:General Department of Vocational Training, 2009.
3.5
外国・国際機関からの援助
グローバル化に伴い競争力強化や職業訓練の需要に応えるため、ベトナムは他国やアジ
ア 太 平 洋 経 済 協 力 ( Asia Pacific Economic Cooperation : APEC )、 国 際 労 働 機 関
(International Labour Organization :ILO)、東 南アジア諸国連合( Association of
Southeast Asian Nation s:ASEAN)等をはじめとする国際機関の支援が必要である。
(1) 国際協力活動の姿勢
・APEC、ILO、ASEAN、世界技能コンテスト、ASEAN 技能コンテストをはじめとして
国際機関が主催している職業訓練活動に積極的に参加をしている。そうすることにより
学習意欲を高め、他国と職業訓練に関する情報を交換している。
・近隣諸国や世界でも卒業証書や修業証書が国内と同等の評価を得るよう、合意を得る。
世界の先進研修施設との研修協力を強化し、ベトナム職業訓練分野への外国投資を誘致
する。また、海外からの指導員招聘や、他国の職業訓練指導員との情報交換を促進する。
・職業訓練局に先進国のカリキュラムと研修サービスを選択して提供し、国際労働市場で
高い需要がある職業については英語で研修を行うことを推奨する。
・投資家や世界で評判の高い職業訓練施設がベトナムで学校を開校し易いメカニズムと条
件を作り、その他の国際職業訓練施設との合同事業を促進する。
・職業訓練の調査を促進し、ベトナムの状況に適した先端技術の採用について検討する。
(2) 外国や国際機関による職業訓練支援プロジェクトや活動
職業教育・技術教育(Vocational Education and Technical Education:VTET)プロジ
ェクトによる国内資金の投入以外にベトナム政府は外国や国際機関からの ODA 融資を受
けている。アジア開発銀行(Asian Development Bank:ADB)や北欧開発基金(Nordic
Development Fund:NDF)、フランス開発庁(Agence Française de Développement:
AFD)、国際協力機構(Japan International Cooperation Agency:JICA)やドイツ、韓
国、オーストラリア等をはじめとした外国政府の資金援助による大きなプロジェクトが進
行しており、VTET の開発進捗に大きな貢献をしている。
(a) ADB プロジェクト(1998∼2008 年)
ADB は 1998 年 12 月に職業訓練と技術教育プロジェクトに対し 5,400 万米ドル 5の融資
を承認した。このプロジェクトは AFD、JICA、NDF が共同出資者となっており、1)市
場指向の改善、2)主要となる学校、15 校(Key Schools:KSs)を設立、3)政策改革の
導入の 3 つから構成される。プロジェクトの第一段階は 2008 年末に終了し、農村部の貧
5
1 米ドル=90.6536 円(2009 年 10 月 15 日現在)
10
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
困層が目標対象となる第二段階の予算は 150 万米ドルとなっている。
(b) ADB、AFD による KSs 建設工事プロジェクト(2002∼2007 年)
ADB と AFD の融資総額 1,030 万米ドルにより KSs 建設計画は 2002 年に始まり 2007
年に完了した。
研修設備:研修設備の調達準備は 2002 年 1 月に始まった。全 12 回の一括取引によるこの
計画は、7 回(計 1,240 万米ドル)を ADB が、5 回(計 700 万米ドル)を NFD
が融資した。KSsへの搬入は KSs 自身によって行われ 2007 年 1 月に終了した。
(c) スイス政府(SWITCONTAC)による職業訓練センター収容能力増強プロジェクト
北部、南部、中央ベトナムの 3 地域の職業訓練センター30 カ所を対象に設備、研修カリ
キュラム作成に対しての投資を目的とし、全 4 段階、700 万米ドルの融資から成る。この
プロジェクトは 2008 年に終了した。
(d) KSs11 校 の整 備 を目 的 と し た ド イ ツ 政 府 資 金 援 助 (Bank of Reconstruction of
Germany:KWB 経由)プロジェクト(2007∼2010 年)
KSs11 校に対し最新設備の投入や指導員への能力向上が行われる。資金援助の総額は
1,100 万ユーロ6である。
(e) 韓国政府の資金援助による主要職業訓練校 5 校の能力強化プロジェクト
(2007∼2010
年)
このプロジェクトでは指導のための設備、研修カリキュラムの構築、研修指導員の能力
強化に対し総額 6,400 万米ドルの資金援助が投入される。プロジェクト期間は 2007∼2010
年である。
(f)
ドイツ政府による職業訓練の技術支援プロジェクト(2008∼2010 年)
総額 150 万ユーロの資金援助を投じて 1)職業訓練の協議、2)研修材料の開発、3)研
修カリキュラムの構築、4)研修の評価制度の 4 点に焦点を合わせて取り組む。
(g) EU による労働者の職業技能評価プロジェクト
このプロジェクトは ILO による技術支援とともに 1)評価者の研修、2)ガイドライン
や基準等、評価資料の作成、3)一部の職業に対し、異なった分野の職業技能レベルを用
いた試験的評価の実施を目標にしている。総予算は 1,000 万ユーロである。
(h)日本政府による職業訓練開発プロジェクト(ADB 経由)(2008∼2010 年)
メコンデルタ地域の 5 つの省に対して 1)職業訓練学校の能力開発、2)職業訓練と雇用
創出のリンクを目的に返済不要な資金援助総額 150 万米ドルが投じられる。
6
1 ユーロ=135.3645 円(2009 年 10 月 15 日現在)
11
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
3.6
職業能力開発の政策評価
(1) 社会経済開発のための実技技術研修の設立
2005 年の教育法、及び職業訓練法により職業訓練制度は生産、ビジネス、サービス分野
に直接関連した技術労働を提供するよう 3 段階の研修レベル別に開発した。それに応じて、
研修する職業リストやカリキュラムの枠組みを作成するための規則、職業訓練大学や高校
の設立手順、職業訓練の質の監視、その他の関連政策やメカニズムについて、的確で時宜
を得た職業訓練の指針となる法律を公布してきた。それらの法律や政策により、効果的な
職業訓練実施のための包括的で一貫性のある法的な道筋が作られ、2001∼2010 年の教育
戦略における目標の健全性をもたらした。
2010 年を目標とした職業訓練大学や高校の開発基本計画と 2020 年に向けての方針が実
行されている。職業訓練大学、職業訓練高校、職業訓練センターのネットワークは所有者
や研修方法という点では多様化している。2001 年と比べると職業訓練施設数は 3.3 倍にも
なった。2009 年 7 月には職業訓練大学が 102 校、職業訓練高校が 265 校、職業訓練セン
ターは 700 カ所以上あり、何百もの大学、短期大学、専門高校、企業が職業訓練に参加し
ている。これらの施設は各経済領域の開発状態に対応して配置されている。職業訓練施設
において国家基準の職業の研修に対し、先進国レベルの研修導入を促進する基本計画のた
め、現在調査や補完作業が行われている。
(2) 研修レベルと研修組織の調整による規模拡大
企業や労働市場の需要に応える職業リスト(高校レベルで研修が可能な職業 385 種と大
学レベルで研修が可能な職業 301 種が明記されている)の作成をはじめとして、さまざま
な政策や法令により職業訓練は供給主導型から需要主導型へと移行してきた。企業の需要
や地域の社会経済への適用に基づいた研修希望の試験的な活用が実施されるため、職業訓
練施設は企業の需要に沿った研修を計画しなくてはならない。これは国家が認可するとい
うスタイルから国家が研修を発注するという方法に移行する準備段階となる。経済と労働
の改革に貢献するため、全体の政策やメカニズムと同時に農民やたばこ、紅茶、ゴムを含
む集約農業地域での労働者に対する試験的な職業訓練も実施している。適時な政策やメカ
ニズムの導入により技術レベル、産業や貿易、地域の点において職業訓練は徐々に労働力
の需要構造に対応するよう改革されてきている。
(3) 品質と効率の改善
教育戦力遂行の間、規模拡大のほかに職業訓練の品質と効率の改善にも注目が向けられ
進展があった。投資が均等に分散されるのではなく、職業訓練ネットワーク計画に基づき
主要な職業訓練施設へ集中して行われた。同時に困難な状況にある地域の職業訓練施設を
中心に投資が行われたため職業訓練の品質を確保する状況が改善した。
職業能力を重視するイギリスの指導員向けの研修プログラムを試験的に導入し、研修レ
ベル、教育上、
(現在弱点でもある)職業能力等の指標から見て研修指導員の質も向上、標
準化してきた。職業訓練大学に職業訓練教育学科を設立し、指導員向けの研修教育専門学
や職業能力の研修を行う。現在はまだ教育技術学校は 5 校のみで、職業訓練指導員の需要
を満たしてはいない。2008 年の職業訓練学校及びセンターの指導員数は 2 万 195 人で 1998
12
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
年の 2.88 倍である。
職業訓練大学及び高校でのカリキュラムの枠組みが公布され、職業訓練プログラムは企
業参加による改良された方法が展開された。現在、職業訓練大学及び、高校レベルのカリ
キュラムの枠組みは 108 組公布されている。国家目標プログラムや ODA 基金のプロジェ
クトにより職業訓練学校 100 校及び、職業訓練センター290 カ所が投資を受け、過去 10
年間で多くの職業訓練施設のインフラや設備強化がなされてきた。主要な職業については
実用的な最新生産設備も備えている。
研修条件への投資のお陰で職業訓練センターの卒業生の質と職業技術は向上した。企業
の評価によると研修修了生の 80∼85%は適切な研修レベルで、30%は良い、又はより優秀
な技術レベルでの仕事に就いている(2006 年職業訓練総務部門の調査)。溶接工、水兵、
ホテル・レストランサービス業、調理師、又、郵便や電気通信、石油やガス、航空の分野
でのベトナム人労働者の職業技術は国際標準レベルにまで達した。ベトナムは ASEAN 主
催の 5 つの技能コンテストに出場し、そのうち 2 つで優勝、1 つで準優勝を獲得した。さ
らに 2 つの世界大会に出場し 2007 年には優秀職業賞を 1 つ受賞、2009 年には同等の賞を
5 つ受賞し大会出場国 46 カ国中 30 位にランクされた。以前は外国人労働者が占めていた
高度な技術を必要とする職業も、研修を受けた労働者が担うようになった。
政府の需要主導型職業訓練の指針を実施するにあたり、多くの地方政府や省庁、産業が
指導を行い、ある程度の成果が得られた。職業訓練施設も研修内容を需要主導型の研修内
容へ変え、企業のニーズに合わせ、国内の雇用を創出し、労働力輸出の準備を行った。約
70%の労働者は研修終了直後に就職、もしくは自営業を始めている。職種によっては研修
修了生が 90%を占めるものもある。まだ始まったばかりではあるが、農民(特に集約農業
地域での労働者)に対する職業訓練は明白な成果が得られた。職業訓練のおかげで農民は
新しい知識を習得し職業能力を向上、労働生産性の引き上げにつながり農村部の貧困削減
に貢献した。集約農業地域によっては労働者の職業訓練終了後の労働生産性が 1.5∼2 倍に
も増加した。職業訓練は国内の雇用創出に貢献しただけでなく、労働力輸出のための人材
の質向上にもなった。海外労働局の管理委員会によれば海外に派遣されている全労働者の
うち、職業技術を持つ労働者の割合は 25%である。それにより労働者の所得増加となり、
労働者やその家族の生活の安定にもつながった。
(4) 課題
・3 段階のレベル別の実技研修システムが新しく確立された。職業訓練施設、特に高水準
な研修能力を持った施設の研修規模は依然として小さく、最先端産業や基幹産業、労働
力輸出における高い技術を持った労働者への需要を満たすものではない。
・ベトナムにおける研修を受けた労働者の割合は近隣諸国と比較してもまだ低い。ADB の
評価では、タイとシンガポールの研修を受けた労働者の比率は約 60%にも達する。これ
は国際経済統合の中での競争面で弱点となり、国内労働者の雇用が進まない一方で海外
からの労働輸入促進の危険を強いる。準備統計資料によれば現在ベトナムで働く外国人
労働者は 8 万人である。
・職種やレベルに分けた研修構造は不適切なものとなっており、労働市場や産業が実際に
必要とする労働の構造と一致していない。
13
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
・一般にベトナムの労働力は規律、勤務形態、健康、創造的能力、コミュニケーション能
力に欠ける。
(5) 原因
・各政府レベルや部門において職業訓練開発の投資に適切な注意を払っていなかった。
・多くの職業訓練施設は職業訓練の点で企業との相互関係を確立しておらず、需要主導型
研修の実施に積極的ではない。
・労働者に対し高度な技術の研修を実施するための主要な高等技術を要する職業の確立、
最先端の工業地帯や主要な経済圏の労働需要に応える努力、地域ごとの専門職業の確立、
そして労働力輸出のための高度な技術を持つ労働者の育成に対する同期投資 が実施さ
れなかった。
・指導員数や有能な指導員が足りず、職業訓練施設のインフラや設備は古く、粗末である。
・職業訓練の情報、宣伝や職業指導の活動に弱く、研修生や若者が学習の進路選択を行う
ために必要な情報提供がなされていない。
・社会的資源の十分な動員がなされていない。教育・研修に関する国家予算のうち、職業
訓練のための支出が依然として低い。2001 年の教育・研修に関する国家予算のうち、職
業訓練のための支出は 4.9%、2008 年は増加し 7.5%であった。
・省や区レベルの職業訓練に関わる行政組織は与えられた職務と役割を果たせていない。
職業訓練管理スタッフの能力は乏しく専門家とはいえず、職務要件を満たせていない。
3.7
職業能力開発の実施概況
(1) 講座種類、講座別コース数、研修生の数、施設の数等
正式な研修や定期研修、企業や商業村での研修について、また、農民、復員軍人、少数
民族、身体障害者や貧困層への研修等、職業訓練の規模拡大のための多くの政策が公布さ
れた。結果として職業訓練の登録者が急速に増加し 2001 年と比較すると 2 倍にもなり、
2008 年に研修を受けた労働者の割合は全体の 26%になった。さらにこの割合は 2009 年に
は 28%、2010 年には 30%にまで達する見込みで、教育戦略の目標に掲げた 26%を 2 年も
早く達成することになる。2001∼2008 年の職業訓練登録者数は 1 年間で平均 6.5%増加し
810 万人が研修を受けた。そのうち長期研修を受けた労働者は年間 15%増加の 145 万人、
短期研修を受けた労働者は年間 6%増加の 665 万人であった。
14
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
表 3‐2
2001
職業訓練登録者数と規模(2001∼2008 年)
2001-2008
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
887,300
1,005,000
1,074,100
1,153,000
1,207,000
1,340,000
1,436,500
1,538,000
9,640,900
私立
170,858
174,630
227,953
291,171
362,271
445,000
514,443
-
2,186,326
長期
126,100
146,500
176,400
202,700
230,000
260,000
*305,500
258000
1,705,200
2,522
2,930
3,528
6,081
7,620
13,000
16,803
-
52,484
761,200
858,500
897,700
950,300
977,000
1,080,000
1,131,000
1,280,000
7,935,700
168,330
171,700
224,425
285,090
354,651
432,000
497,640
-
2,133,836
995,800
1,131,100
1,220,600
1,329,400
1,409,700
1,570,000
1,696,500
-
9,353,100
私立
174,500
175,789
230,883
294,568
368,930
456,500
528,743
-
2,229,913
長期
234,600
272,600
322,900
379,100
432,700
490,000
565,500
-
2,697,400
3,560
4,089
6,458
9,478
14,279
24,500
31,103
-
93,467
761,200
858,500
897,700
950,300
977,000
1,080,000
1,131,000
-
6,655,700
168,330
171,700
224,425
285,090
354,651
432,000
497,640
-
2,133,836
新規登録者数
私立
短期
私立
職業訓練規模
私立
短期
私立
合計
(注)長期…研修期間 1 年以上、短期…研修期間 1 年未満
*出典:General Department of Vocational Training, 2009.
(2) 職業訓練機関のネットワーク
革新基本計画に従って職業訓練機関のネットワークを確立、所有形態や研修方法の多様
化によって全国をカバーした。過去 8 年間で職業訓練学校は 2 倍、職業訓練センターは 5
倍以上も増加した。
表 3‐3
地域
合計
全合計
職業訓練施設(2009 年 6 月 30 日現在)
職業訓練大学
小計
公立
職業訓練高校
小計
公立
職業訓練学校
小計
公立
職業訓練
その他
センター
職業訓練組織
小計
公立
小計
公立
小計
公立
2,155
1,301
75
64
204
153
40
19
684
433
1,152
629
1
北東部
232
175
8
8
20
8
2
1
98
64
104
85
2
北西部
38
32
1
1
5
4
2
2
14
12
16
13
3
紅河デルタ
610
383
34
29
81
53
25
8
157
101
313
198
4
北部沿海部
238
169
7
6
23
23
6
5
82
58
120
77
5
南部沿海部
213
146
6
5
20
17
3
2
63
49
121
73
6
中央高原
60
37
2
2
4
4
2
1
25
14
27
16
7
南東部
420
165
12
9
33
27
0
0
133
45
242
85
8
メコンデルタ
344
194
5
4
18
18
0
0
112
90
209
82
*出典:General Department of Vocational Training, 2009.
15
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
(3) 指導員
2001∼2008 年にかけて約 1 万 2,000 人の指導員が職業資格や技術の強化や、最新技術
や高度な方法論の知識習得のためのトレーニングを受けた。職業訓練の指導員は質が向上
した上に人数も増え、すべての職業訓練学校やセンターにおける指導員数は 2007∼2008
年の学年度には 1997∼1998 年の学年度と比べ 2.4 倍の 2 万 195 人となった。さらに、そ
のほかにも職業訓練に関わる組織に従事している指導員が何千人もいる。約 95%の職業訓
練指導員は指導員としての専門基準を満たしており、短期大学又は大学卒以上の比率は現
在 60%である。ところが、実際の需要に十分に対応するには職業訓練指導員の質、人数共
に不足している。特に地方の民間職業訓練センターでは不足している。
表 3‐4
指導員の資格別、人数と構造(2008 年)
指導員数
訓練場所
資格
博士
修士
%
人数
人数
大学
短期大学
技術者
その他
%
人数
%
人数
%
人数
%
人数
%
職業訓練校及 び訓 練セ ン タ ー
83
0.41
927
4.59
9,707
48.07
3,663
18.14
3,339
16.53
2,476
12.26
4,678
23
0.49
363
7.76
2,856
61.05
633
13.53
506
10.82
297
6.35
9,583
55
0.57
388
4.05
4,748
49.55
1,820
18.99
1,319
13.76
1,253
13.08
5,934
5
0.08
176
2.97
2,103
35.44
1,210
20.39
1,514
25.51
926
15.60
その他
15,767
105
0.67
2,667
16.92
6,767
42.92
2,264
14.36
2,005
12.72
1,959
12.42
合計
35962
188
0.52
3,594
9.99
16,474
45.81
5,927
16.48
5,344
14.86
4,435
12.33
短大
20,195
高校
センター
*出典:General Department of Vocational Training, 2009.
(4) 管理組織
省庁、地方、産業、職業訓練施設の管理スタッフ数も増員したが管理能力はまだ低い。
管理スタッフを対象とした短期補習研修プログラムは存在するものの内容は限定されてお
り、イギリスの管理スタッフ向け研修プログラムが試験的に実施されている。
表 3‐5
管理スタッフの資格(2000∼2008 年)
職業訓練管理スタッフ
2000
2005
2008
148
173
233
士
0
0
0
士
1
5
9
合
計
資
格
博
修
16
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
学
106
136
199
短期大学
27
20
15
そ の 他
13
13
10
大
*出典:General Department of Vocational Training, 2009.
(5) 研修プログラム、カリキュラム
多くの研修プログラムは実際の生産現場の要求に見合うよう改善された。2009 年までに
108 もの短大及び高等レベルの職業訓練カリキュラムの枠組みが作成された。研修プログ
ラムやカリキュラム内容は改訂、更新されたものの、実際の市場の要求を十分満たしてい
ない点が課題となっている。
(6) インフラと設備
過去 10 年間で職業訓練学校 100 校と職業訓練センター290 カ所を含めた多くの職業訓
練施設のインフラと設備は、国家目標プログラムや ODA 資金のプロジェクトにより強化
された。いくつかの主要職業の研修においては実際の生産設備に関連する最新設備を備え
る。ただし、省によっては新設された職業訓練学校、及びセンターにおける研修や学習の
設備が粗末である。職業訓練施設全体の 20∼25%のみが適切なレベルの設備投資を受ける
ことができ、その他の施設には基礎実習用の設備が設置されているだけである。
3.8
3.8.1
公共職業能力開発実施機関
目的、組織、施設など
2008 年末には全国で計 1,268 校もの公立職業訓練施設が設立された。そのうち職業訓練
短大が 70 校、職業訓練高校が 171 校、職業訓練センターが 434 カ所、そのほかにも職業
訓練を提供している施設が 590 カ所ある。
ほとんどの公立職業訓練学校は規模が小さく、入学定員数が限られている。実際の収容
数は収容定員数より 17%多い。
・収容定員数が年間 1,500 人以上の公立職業訓練学校は全体の 6%のみである。
・収容定員数が年間 300 人未満の公立職業訓練学校は全体の約 15%である。
・公立職業訓練学校の約 50%までは年間収容定員数が 300∼500 人である。
【設備と施設】
近年、多くの公立職業訓練学校は国際・国内プロジェクトにより設備が装備された。し
かし一般的には実技練習や実習のための設備や施設は不足しており、その質も良くない。
現在の職業訓練学校に設置されている施設や設備のうち、今日の生産プロセスや技術に適
していると見なされているのは全体の 35%にとどまる。反対に 9%以上は今日の開発に追
いつけていない旧式のものばかりである。
17
ベトナム(調査大項目 3:職業能力開発の政策とその実施状況)
作成年月日:2009 年 10 月 15 日
3.9
民間企業が行う職業訓練への支援体制
職業訓練の資源の多様性に関する指針は最初の成果となった。多くの組織や企業、個人
が職業訓練機関の設立に投資を行った。結果、非国営部門の投資は 2008 年には 40%も増
加した。民間の職業訓練機関は 2008 年には 34.1%を占め、そのうちの 24.5%は職業訓練
学校やセンターである。社会政治的機関の会員への職業訓練コース受講の奨励と促進に関
する関与は強い。
ここ数年間で、国は民間職業訓練機関に対し、研修カリキュラムや必要不可欠な設備、
指導員の面での支援を行った。結果、民間職業訓練機関の職業訓練能力が大幅に改善した。
企業も実習生の受入、研修設備の提供、研修生に対しての奨学金の提供等の点より職業
訓練の支援を実施している。さらに企業は職業訓練学校と協力し、取引や職業のリスト作
成、研修カリキュラムの企画、経験豊富な専門家を派遣し研修生に対し実技指導等を行っ
ている。しかし全般的には民間企業を含む企業と職業訓練機関の間の協力は少ない。企業
は職業訓練に対する企業としての責任を十分に理解しておらず、また逆にこの問題に関し
て企業に対する法的規制もない。
以上のように、教育開発戦略の職業訓練に関する主要な内容や目標を革新、達成し、こ
の時期の社会経済的発展による技術労働力の緊急的な需要に応えた。しかし国内外の情勢
を受け、職業訓練は次期には厳しい問題に直面するであろう。国際的経済統合の流れの中
で産業化や近代化に貢献するには、2011∼2020 年の間に職業訓練システム全体の質の進
展を遂げるためにすべての資源を集中させ、特に高い競争力や有利性を持つ職業や伝統的
な職業を中心に、合理的な研修構造を確立しなくてはならない。農業部門や農村部での職
業訓練に重点的に取り組み、農業部門での労働改革の促進や労働の質向上に貢献するべき
である。
【参考文献】
1.
General Department of Vocational Training. Annual report, 2007, 2008 and 2009.
2.
General Department of Vocational Training. Information on the market of
vocationally trained labor 2005, 2006, 2008 and 2009.
3.
4.
General Statistical Office. Statistical yearbook, 2007.
Ministry of Labor, Invalids and Social Affairs. Labor market information bulletin,
2009.
5.
Ministry of Labor, Invalids and Social Affairs. Manual of labor market information
statistics in Vietnam. Hanoi: Labor - Social Publishing House, 2003, 2004, 2005,
2006, 2007, 2008 and 2009.
6.
Ministry of Labor, Invalids and Social Affairs. National targeted program on
employment in period 2006-2010. Hanoi, 2008
7.
Ministry of Labor, Invalids and Social Affairs. Sixth draft national strategy on
vocational training development by 2020. September 2009.
8.
Labor Code of Socialist Republic of Vietnam 2002.
9.
Law on Vocational Training 2006.
18