円借款による途上国支援と債務問題 2004 年 2 月 17 日:FASID 国際

円借款による途上国支援と債務問題
2004 年 2 月 17 日:FASID 国際開発援助研究会
財務省国際局開発政策課長 中尾武彦
1.
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最初に:
財務省国際局は、IMF や G7(国際機構課)、世銀、アジア開発銀行などの国際開発
金融機関(開発機関課)、債務問題、イラクやインドネシアなど個別重要国、JBIC
の監督一般、財務省の ODA 予算・政策一般(開発政策課)、JBIC の円借款や輸出
金融等(開発金融課)、などの所管を通じ開発問題に関与。
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我が国の ODA の特徴として譲許的なローン(円借款)の活用がある。譲許的なロ
ーンは、①グラントと比べても経済開発に不可欠な経済インフラの整備に大規模資
金を動員できる、②途上国側のオーナーシップやプロジェクトの効率性につながる
面がある、③財政投融資資金を活用することにより我が国の豊富な貯蓄を活用でき
る、などの長所。
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一方、多くの途上国で重債務問題が発生、中でも HIPC イニシアティブによる債務
削減や中所得国への債務問題の広がりなど、ローンによる途上国支援に対するネガ
ティブな要素も生まれている。こうした中で、債務問題について理解を深めること
は、日本の ODA の将来について考える上でも不可欠。
2.
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譲許的なローン(円借款)の活用の状況
円借款の承諾累計は 21 兆円(うち上位 10 ヶ国(すべてアジア諸国)で 76%)
。貸
出残高も 11 兆円に上る。
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DAC 統計でも日本の ODA におけるローン重視は明白。2002 年のネット・ベース
(ロ
ーンの返済額控除後)で日本の ODA は 93 億ドルに対しローンが 21 億ドル(DAC
諸国全体では総額 583 億ドルに対しローンは 10 億ドル)。ローンは、米、独、仏を含
めほとんどの国でマイナス(返済超)。
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日本の ODA ローン(2002 年のグロスで 50 億ドル)は、IDA(69 億ドル)に近く、
アジア開銀の譲許的資金である ADF(9 億ドル)より遥かに大きい。
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ただし、最近の円借款の貸出実行額は減少傾向。また、一般会計 ODA 予算の中で
も円借款のための JBIC 出資金の減少幅が大きい。
3.
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パリクラブの役割
パリクラブは二国間公的債務の債務再編を目的とする公的債権者(19 ヶ国)の非公
式会合。一般概観会合とリスケ会合があるが、ほぼ毎月開催されている。
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もともと liquidity の問題にリスケで対応する役割だったが、HIPC イニシアティブ
に見られるように solvency への対応も迫られるようになっている。
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債務国の所得、状況などにより異なるリスケ・ターム(繰延べ等の条件)を適用。
HIPC では債務削減を実施(このほか例外的にエジプト、ポーランド、ユーゴスラ
ビアにも債務削減)
。
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4.
HIPC イニシアティブ
・ 重債務貧困国として 42 ケ国を認定。債務持続可能とされるベトナムなど 5 ヶ国を除
く債務救済適格国は 37 ヶ国。そのうち 27 ヶ国が適用決定時点(DP)、このうち 10
ヶ国が完了時点(CP)に達している。
・ HIPC イニシアティブにおいては、貧困削減戦略ペーパー(PRSP)の策定・実施な
どにより、債務国側の適切な貧困削減・社会開発の努力を確保した上で、債務削減を
実施。G7 諸国は二国間 ODA 債権、COD(カットオフデート)前の非 ODA 債権を
100%削減(米、英、伊、加は COD 後も 100%削減)。
・ イニシアティブに基づく債務救済額( 2002 年の NPV ベース)のうち、G7 諸国が約
3 割、その他パリクラブ諸国が 1 割、非パリクラブ諸国が 1 割、マルチ機関が 5 割(う
ち IDA が 2 割、アフリカ開銀が 1 割、IMF が 1 割弱)、民間が若干、を占めている。
・ 更に、G7 諸国の中での負担を見ると(2000 年 1 月の名目値債権保有額ベース:リ
ベリア、スーダン、ソマリア、コモロを除く 33 ヶ国への債権額)、G7 全体で 340 億
ドル(うち ODA が 165 億ドル)のうち、日本が 90 億ドル(ODA が 80 億ドル)、
仏が 100 億ドル(ODA が 37 億ドル)
、独が 50 億ドル、米が 37 億ドル、伊が 34 億
ドル、英が 18 億ドル、加が 7 億ドル、となっており、日本の負担が大きい。
・ 従来、我が国は円借款を削減する場合(1978 年の国連 UNCTAD 貿易開発理事会
(TDB)の決議及び HIPC イニシアティブに基づく削減)には、債務救済無償資金
を供与する方式(返済後に同額を供与)を採ることとしてきたが、平成 15 年度より
JBIC の債権放棄を行う方式に変更(円借款残高の総額は 9000 億円超)。
・ 円借款を重要な途上国支援の手段としている我が国としては、HIPC イニシアティブ
の適用が上記の 37 ヶ国以上に拡がらないことが重要。
5.
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中所得国の債務問題
エビアン・サミットに向けて HIPC 以外の途上国に対する債務の持続性の問題が取
り上げられ、これらの国に対する債務再編の新たなアプローチ(エビアン・アプロ
ーチ)に合意。
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このアプローチによれば、債務持続不可能な国については、パリクラブに戻ってこ
ないことを確保するために、包括的な債務救済措置を適用。債務削減は、例外的に
債務持続可能性分析( DSA)で必要性が明確にされた場合には適用されうる。また、
COD の調整も積極的に検討。
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HIPC 以外の諸国にまで債務削減が行われる場合、COD の変更が行われる場合には、
我が国の円借款、アンタイド・ローン、貿易保険などの債権保全に重大な影響がある。
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ODA 実施には直接関係がないが、新興市場国の債務問題にも再び注目が集まってい
る(現時点ではアルゼンチン)。債券発行による民間からの資金調達が主体で、危機
が伝播しやすいという特徴がある。これに対し、国際金融危機の予防及び解決につ
いての様々な努力、議論が行われている。
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6.
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イラクの債務問題
イラクは石油埋蔵量世界第 2 位の資源国であり、円借款による新規支援との関係も
ある。
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イラク支援に関連し、イラクの債務処理についての議論が国際的に行われている。
小泉首相とベーカー大統領特使は 12 月 29 日にこの問題について議論。
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この中で、小泉首相は「日本は 2004 年中にパリクラブにおいて相当の債務削減を行
うことにコミットし」、「もし他のパリクラブ債権国がパリクラブ合意に沿って同様
に対応する用意があるのであれば、日本もかなりの債権放棄を行う用意がある」こ
とを表明。
7.
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円借款の今後
円借款には、上述のように、①ローンによる途上国支援は債務問題を引き起こしが
ちである、という批判に加え、②大規模なインフラ開発は貧困削減に直結せず、環
境問題をもたらすという面もある、③ミレニアム開発目標(MDG)を達成するため
にはむしろ社会セクターに対するグラントでの対応が必要、といった批判もある。
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また、①DAC の ODA 定義上のグラント・エレメント(25%以上が ODA)を計算す
る際の割引率を従来の 10%から通貨別の市場を反映した金利に変更しようとする議
論、②タイド援助信用の規制をアンタイドにまで広げようとする議論、③低所得国
の新たな借入を DSA に基づきコントロールしていこうとする議論、などのチャレン
ジがある。
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更に、従来の主な貸付先であったアジア諸国について見ても、①外国からの支援か
ら卒業する国、②政治的な理由などから大規模な円借款供与の継続に自ずと制約の
ある国、③債務返済能力に注意する必要がある国、などがあり、これまでのような
規模の貸付が困難になっている。
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こうした中で、最初に述べたようなローンによる途上国支援のメリットという観点
に立って、円借款を今後とも活用していくためには、以下のような努力が必要。
①
円借款がこれまで持続的成長や貧困削減に役立ってきたこと、及び今後もそう
であることの理論的整理、新たな支援分野の開拓
②
政策協議を通じた相手国の PRSP などにおける明確な位置付け、マルチ機関を
含む他のドナーとの連携
③
我が国の国別援助計画における明確な位置付け、我が国の無償、技術協力との
連携、現地機能の強化
④
案件発掘、執行管理(調達を含む)、評価などのプロセスを通じて透明性、効率
性、実効性、社会的配慮の確保を徹底
⑤
相手国の債務持続可能性への配慮。この点に関し、生産性・返済能力の向上へ
の貢献の精査、優先返済を受けるマルチ機関と連携した取組みが必要
(以上)
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