スライド 1

日本教育心理学会第55階総会(2013)
準備委員会企画シンポジウム1
「発達・教育支援におけるエビデンスにもとづいた支援」
通常学級での発達・教育支援
「通常学級における有効な
支援形態とは?」
米山 直樹
関西学院大学文学部
通常学級における支援の必要性
• 文部科学省による「通常の学級に在籍す
る特別な教育的支援を必要とする児童生
徒に関する全国実態調査」
• 2002年:6.3% → 2012年:6.5%
• 特別支援学校、特別支援学級、小・中学
校における情緒障害及び知的障害特別支
援学級、通級による指導対象児童生徒が
著しく増加
階層的な予防的アプローチ
(Sugai & Horner, 2002)
5%
15%
80%
リスクの高い行動を呈する児
童・生徒個人に特化された個別
システムへの第三次的介入
リスクのある行動を呈する児
童・生徒に特化されたグルー
プ・システムへの第二次的介入
全児童・生徒、全スタッフ、全
場面に対する学級・学校単位の
システムへの第一次予防的介入
インクルージョンの視点で考える
クラスに在籍する子どもたち
学
力
レ
ベ
ル
一般的授業レベ
ルに対応可能な
子どもたち
一般的授業レベ
ルに対応困難な
子どもたち
インクルージョンの視点で考える
クラスに在籍する子どもたち
学
力
レ
ベ
ル
インクルー
ジョン教育で
対応可能な子
どもたち
個別支援の対象と
なる子どもたち
通常学級における支援のレベル
学級全体
個別支援が
必要な子ども
外部
専門家
管理職
行動コンサル
テーション
学年部
学級担任
教育相談部
生徒指導部
学級支援員
特別支援教育
コーディネー
ター
行動コンサルテーションの流れ
コンサル
タント
間
接
介
入
コンサル
ティ
直
接
介
入
問題
結果
(従属変数)
コンサル
介入整合性
テーション
(独立変数)
どのように高めるか?
事例:通常学級に在籍する2名の
ADHD児への介入
(金平・米山、2004)
• 対象:全校児童約300名の中規模公立小学校の6学年2学級にそ
れぞれ在籍するADHD児童2名(A児、B児)
• A児:介入時においては、授業中でも学習に取り組もうとはせずに、
漫画を読んだり描いたりして過ごしていた。またその活動に飽きる
と教室内を立ち歩き、学習しているクラスメートの様子をのぞき込
んだり、妨害したりしてしまい、そのことが原因でクラスメートか
ら非難されたり、担任から叱責を受け、癇癪を起こし、教室から飛
び出していってしまうことがあった。
• B児:介入時においては、学習活動には一切取り組もうとはせず、
紙や木材、石、土、水、ペン等のものを教室の自分の机の周辺に持
ち込み、授業中はずっとそれらを使って手いたずらをして過ごして
いた。時折、そのことでクラスメートや担任から注意されることが
あったが、その反応として暴言を言ったり、癇癪を起こして教室を
飛び出すといったことがあった。また、A児が本人をたびたびから
かいに来ることがあり、そのことが原因で興奮したり癇癪を生じる
ことがあった。
アセスメント手続き
• 大学院生による対象児2名の行動観察(1週
間)
• 担任とのミーティング(1週間)
• 問題行動改善の必要度と授業困難教科アン
ケートの実施
• 機能的アセスメント(問題行動の動機づけ尺
度(MAS)とインタビュー)の実施
介入対象となる標的行動の同定
• A児
• 「授業中、漫画を読む」
• 「勝手に教室から出て行く」
• 「癇癪を起こす」
• B児
• 「授業中、手いたずらをする」
• 「勝手に教室から出て行く」
• 「癇癪を起こす」
介入の実施
• 担任とのミーティング
• (介入方略の確認、練習、介入妥当性の検討、教師の受容
度の確認)
• ベースライン期:行動観察のみ
• 介入期1:教師のセルフモニタリングとミーティング
• 介入期2:教師のセルフモニタリングのみ
• 介入期3:教師のセルフモニタリングとミーティング
• フォローアップ期:行動観察のみ
A児の「漫画を読む」行動とB児の「手いたずら」
行動に対する機能分析と介入方略
背景要因
直前のきっかけ
学習準備態勢の不
足、活動内容の提
示不足
困難な課題の提示
手元に漫画・固執物
がある
背景要因に対する
支援
直前のきっかけに
対する支援
・学習用具の整理と
必要な物品の明示
・黒板の近くに席を
移動
・課題内容を視覚的
にプログラム化して
提示
・簡単な課題に変え
る、量を減らす
・電卓等の補助器具
を与える
・課題に対して個別
にやり方を説明する
・漫画や固執物を担
任が管理
行動
漫画を読む、
手いたずら
をする
行動に対する支援
・課題ができている
場合、できているこ
とを伝え、ほめる
・つまずいていたら、
ヒントを与えたり、は
げましたりする
結果
面白い
暇がつぶせる
結果に対する支援
・決められた課題が
できたら、トークン
(シールまたはスタン
プ)を与える
・課題が終了したら、
ほめて休息を与え、
漫画・固執物を渡す
対象児A
生起割合(%)
100
ベースライン
80
生
起
割 60
合
(%)40
20
介入期1
介入期2
SM & Meeting
SM
介入期3
フォローアップ
プローブ
SM
&
Meeting
観察のみ
観察のみ
0
100
対象児B
SMのみだと
成績が悪化
生 80
起
割 60
合
(%)
40
20
0
6/12
6/27
7/10夏
休
み
9/12
10/1
月 日
10/15
10/31
11/14
11/28
対象児Aの「漫画を読む」行動および対象児Bの「手いたずらを
する」行動の授業内における生起割合の変化
A児とB児の「癇癪」行動に対する
機能分析と介入方略
背景要因
困難な課題
不明確な指示
漫画を読む
手いたずらをする
直前のきっかけ
行動
叱責・注意を受ける
背景要因に対する
支援
直前のきっかけに
対する支援
・課題内容の視覚化
・取り組み可能な課
題を与える
・漫画・固執物を担
任が管理する
・漫画・固執物の要
求の仕方を教える
・冷静な口調で指示
する
・叱責ではなく、今
何をすべきかを具体
的に指示する
・他の児童には自分
の課題に集中するよ
う伝える
癇癪を起こす
行動に対する支援
・気分の状態を聞き
学習が続けられるか
休息が必要か尋ね
る
・どのように休息を
求めたら良いのかを
教える
結果
教室から出てクール
ダウンができる
結果に対する支援
・休息を求めることが
できたら図書館へ行
くことを許可する
・戻る時間を確認し
必要に応じて促す
・教室にもどってきた
らほめる
生起数
12
生起数
対象児A
ベースライン
介入期1
介入期2
介入期3
フォローアップ
プローブ
10
生
起 8
回
数 6
(回)
4
2
0
生起数
12
対象児B
10
生
起 8
回
数 6
(回)
4
2
0
6/12
6/27
7/10 夏 9/12
10/1
休
み
月 日
10/15
10/31
11/14
11/28
対象児AとBの「癇癪を起こす」行動の授業時間内に
おける生起回数の変化
A児の「勝手に教室から出て行く」行動に
対する機能分析と介入方略
背景要因
直前のきっかけ
行動
癇癪を起こして
叱責・注意を受ける
友だちとのトラブル
教室に居づらくなる
教室から
出て行く
背景要因に対する
支援
直前のきっかけに
対する支援
行動に対する支援
・冷静な口調で指示
を出して興奮させな
いようにする
・他の児童の注目を
浴びないところに本
人を移動する
・他の児童には自分
の課題に集中するよ
う伝える
・どのように休息を
求めたら良いのかを
教える
・気分の状態を聞き
一人になりたいかど
うか尋ねる
結果
一人になれる
結果に対する支援
・休息を求めることが
できたら図書室へ行
くことを許可する
・時間を見計らって
様子を見に行く
・教室にもどってきた
らほめる
B児の「勝手に教室を出て行く」行動に
対する機能分析と介入方略
背景要因
いらいらする
背景要因に対する
支援
・表情、態度から本
人の気分の様子を
観察する
・話しかけたり、ユー
モアを使って気分を
和ませる
直前のきっかけ
退屈な場面・状況
直前のきっかけに
対する支援
・できる課題を提供
し、暇を与えない
・我慢できないよう
なら、先生に声をか
けるように伝えてお
く
行動
教室から
出て行く
行動に対する支援
・どのように休息を
求めたら良いのかを
教える
・気分の状態を聞き
休息が必要か尋ねる
・退室する際には場
所と帰る時間を聞く
結果
退屈な場面から
逃れることができる
結果に対する支援
・休息を求めることが
できたら退室を許可
する
・戻る時間を確認し
必要に応じて促す
・教室にもどってきた
らほめる
勝手に行動
100
対象児A
ベースライン
介入期1
勝手に行動
許可を得る
介入期2
80
生
起
割 60
合
(%)40
介入期3
フォローアップ
プローブ
20
0
100
対象児B
SMのみだと
成績が悪化
80
生
起
割 60
合
(%)40
20
0
6/12
6/27
7/10
夏
休
み
9/12
10/1
10/15
10/31
11/14
11/28
月 日
対象児AとBの「勝手に教室から出て行く」行動の
授業時間内における生起割合の変化
介入期1
ベースライン
介入期2
介入期3
フォローアッププローブ
40
30 対象児A
時間
(分)
20
10
0
40
30
時間
(分)
20
SMのみだと
成績が悪化
対象児B
10
0
6/12
6/27
7/10
9/12
10/1
月 日
10/15
10/31
11/14
11/28
対象児Aおよび対象児Bの学習時間の変化
事例の考察
• コンサルティによる介入行動は、コンサ
ルタントからの指示(先行刺激)だけで
は維持されず、自身の介入によるクライ
エントの行動変化(後続刺激)により、
大幅に改善。
• データを基にして介入の効果をフィード
バックすることが有効。
• コンサルタントがいなくなった後の介入
行動の維持には別途、随伴性の整備が必
要。
学校の教育相談体制における
多層随伴性
市町村教育委員会(行政)
文脈を変化させることで
教師の行動を支援
管理職(校長・教頭)
教育相談部等の校内委員会
外部専門家
(コンサルタント)
担任教師
(コンサルティ)
児童生徒
(クライエント)
シングルケースデザインの意義
•
介入内容と対象者の行動変化の関係が明確
化する。
•
介入者による介入行動が直接的に強化され
やすい。
•
一般的に効果があると言われる方法も目の
前の対象者に有効か否かは不明。
•
学校単位・学級単位の介入はRCTの知見
により選択されるが、個別事例についてはシ
ングルケースデザインによる介入を継続する
ことで有効な支援方法が取捨選択される