物質エネルギー科学実験 A 補足: 抵抗の誤差について 理科教育講座 神田 2 - 問題 いま抵抗値 R の抵抗を作るのに、手元には R 2 と 2R 直列抵抗 2つの抵抗を図 1 のように直列接続した場合、全体 の抵抗素子しかないとします。さて、 R 2 を直列にする の抵抗値 R は のと、2R で並列にするのと、ど ちらが精度がよい (= R = R1 + R2 誤差が小さい) でしょう? 具体的には実験の時間とおなじく、5 %の精度の抵 R1 抗素子 (金色の帯) を用いるとします。60 kΩ の抵抗を (3) R2 実現するのに 120 ± 6kΩ と 30 ± 1.5kΩ のいづれを用 いるか考えることにしましょう。単純な足し算ではま 図 1: 直列接続 ずいことはすぐ 判るとして、さて、直列並列ど ちらが よい結果でしょうか?それとも同じ? となります。これを式 1 に適応します。2つの抵抗 素子は別々のものですから 、その抵抗値 R1 と R2 は 1 完全独立と考えて差し支えないでしょう。それぞれの 変分原理と誤差伝搬 抵抗の誤差分散 δR1,2 は、 まずは2つの抵抗 R1 , R2 を組み合わせたとして答え δR1,2 = R1,2 × 5% を求めておきましょう。そのためには誤差伝搬の式から 出発しなければなりません。ある函数が x1 , x2 , x3 , ...xn と表せます。あるいは の n 個の変数からなるとき、この函数の変分は、 2 (δf ) = n n i= 1 j= 1 Cij ∂f ∂f δxi δxj ∂xi ∂xj δR1,2 = 5% R1,2 3 から R1 および R2 についての編微分を求め、相関行 列は式 2 にしてよいので 、 数 xi についての誤差分散、δf がそれらの変数によっ (δR)2 て記述される函数 f に伝搬した誤差分散だと考えれば xj の関係の程度を示しています。xi と xj が完全独立 ∂R 2 ∂R 2 ) (δR1 )2 + ( ) (δR2 )2 ∂R1 ∂R2 (δR1 )2 + (δR2 )2 (6) ( となります( 直列は簡単ですね! ) 。だから、 な変数ならば 、 0 (for i = j) = = よいでしょう。ここで Cij は相関行列とよばれ 、xi と Cij = δij = { (5) とすれば誤差の相対的な大きさが表現できますね。式 (1) となります。これが誤差伝搬の法則です。δxi は変 1 (for i = j) (4) δR = (2) (δR1 )2 + (δR2 )2 (7) これが直列の場合の一般式です。 さて、2つの抵抗 R1 と R2 が等しいならば 、式 7 は 1 となります 。 δR = これを用いて誤差を計算してましょう。 1 この √ √ 2(δR1 ) = 2R1 × 5% (8) とできます。つまり合成したことで全体の抵抗は2倍 √ になりますが 、誤差分散は 2 倍にしかなりません。 δij をクロネッカーのデルタ記号と呼びます。 1 だから式 4,5 のように誤差を R に対する比で表すと 、 R2 についての偏微分は添え字の 1 と 2 を入れ替える R は R1 の2倍ですから、 だけです2 。 δR = = δR R = √ R × 5% 2 2 1 √ R × 5% , 2 1 √ × 5% 2 それでは式 1 に適応させましょう。やはり2つの抵 抗は独立です。 (9) (δR)2 (10) = √ ということで、直列の合成抵抗の誤差は 5%/ 2 にな ですから、 ります。 具体的な値は式 8 に、R1 = 30kΩ を用いれば 、 δR = √ 2 × 30[kΩ] × 5% = 2.12[kΩ] = δR = (11) ∂R 2 ∂R 2 ) (δR1 )2 + ( ) (δR2 )2 ∂R1 ∂R2 R24 (δR1 )2 + R14 (δR2 )2 (14) (R1 + R2 )4 ( R24 (δR1 )2 + R14 (δR2 )2 (R1 + R2 )2 (15) これが並列の場合の一般式です。 ( ちょっと美しくな いですね。ひとつ前の式 14 を眺めた方が見通しがい となります。 いですね。) ど うですか!?単純に 60k Ω の金帯抵抗を用いるよ やはり2つの抵抗 R1 と R2 が等しいならば 、式 15 は √ 2 2R1 (δR1 ) δR = (2R1 )2 √ 2 δR1 = 4 1 √ R1 × 5% = (16) 2 2 り精度が良いことが判るでしょう。 3 並列接続 つぎに並列接続の場合について考えましょう。一見 すると並列の方が良くなるような気がしますが 、果た とできます。つまり合成したことで全体の抵抗は半分 √ √ になりますが 、誤差分散はさらにその 1/ 2 の 1/2 2 してそうでしょうか? 接続は図 2 のようになり、今度は R1,2 は得たい合成 倍にしかなりません。ここで直列の 1/4 と勘違いしそ 抵抗のより大きい抵抗を組み合わせることになります。 うですが 、よくみると R は R1 の R1 δR = = R2 1 2 倍ですから、結局 1 √ 2R × 5% 2 2 1 √ R × 5% 2 (17) あれあれ?つまり、直列の時の結果の式 10 に対応する 形で R の誤差分散を表すと、 1 δR = √ × 5% R 2 図 2: 並列接続 ということで、直列の合成抵抗の誤差も並列と同じく √ 5%/ 2 になります。 全体の抵抗値 R はよくしられているとおり、 R1 R2 R= R1 + R2 (18) 具体的な値は式 8 に、R1 = 120kΩ を用いれば 、 √ 2 × 120[kΩ] × 5% = 2.12[kΩ] (19) δR = 4 (12) となります。後の式を見やすくするため、ここで式 12 となります。 を R1 , R2 について編微分しておきまし ょう。 ど ちらでも同じとは 、ちょっと以外でしたね。式 8 と 16 が直感的に予想できたのですが 、かえってそれ ∂R ∂R1 R2 R1 R2 + R1 + R2 (R1 + R2 )2 R2 = ( )2 R1 + R2 で引っかかってしまうようです。 = 2 こういうときに2回計算するようなことをしては人生の時間が 足りません。よくみると R1 , R2 について全く対称になっています。 またついでに、抵抗を抵抗で偏微分したので、その答えが無次元に なっていることにも注意してください (13) 2 4 こめんと 結局のところ、直列も並列も2つの要素のランダム さが平均化されて、小さくなるわけです。しかしラン ダ ムさは正負いづれに顕れるか判らないのですから 、 単純な和を取ってはなりません。この考え方のヒント は式 1 と式 7 です。3 これらの式をよく見ると、係数はさておき、基本的 に分散の2乗和を取っていると解釈できるでしょう。 これが本質的です。 5 さらに統計的な考察 さて、2つでなくて、3つ、4つ、n 個の抵抗の直 列、並列接続ではど うなるでしょうか?当然数を増や すに従って、誤差は小さくなっていくのではないでしょ うか?まってください、確かに小さくなりそうですが 、 それっていったいど ういうことでしょう。ひょっとし て一本一本の抵抗の平均値を正確に求める、というの と非常に似通っていませんんか? さらにこの話を、n 人の人の平均身長、と置き換え てみましょう。こうなると初歩の統計の教科書に出て いる標本抽出の問題と対応して考えることが出来ます。 各人の身長 Li に対して平均は < L >= L1 + L2 + L3 + ... + Ln n (20) ですが 、 n1 がなければ抵抗の直列と同じですね。これ で n を増やしていくと、たしか中心極限定理とか大数 の原理とかがありましたね... このさきはみなさんに考えていただきたいと思い ます。 3 式 15 でも同様なのですが偏微分の項で少し見通しが悪いです。 式の単純な直列の方をまず眺めてみましょう。 3
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