LED照明が食べ物の見えに与える影響 A08AB076 田中 美有 Ⅰ.緒言 東日本大震災後、人々の節電志向は高まり、LED照明が急速に普及し始めた。LED照明は消費電力が少なく、長寿命では あるが、従来の照明とは全く異なる発光原理やスペクトルのために見え方の違いが懸念されている。これまで LED 照明は直線 型の光であるため、使用する場所が限られていたが、最近はシーリング型や前方向に光を放つ電球も開発され、今後食卓や居間 などあらゆる室内で使用されることが予想される。 そこで本研究は、 LED照明と従来の照明である蛍光灯を用いて視感評価を行い、食べ物の見えに与える影響を比較検討した。 Ⅱ.実験方法 (1)照明機器 ウォーム色を使用し、LED 照明は蛍光灯と発光条件を合わせるため、全方向に光を放つタイプを使用した。 LED :EVERLEDS(Panasonic) 2800K…黄~赤のエネルギーが強い 蛍光灯:パルックボール PREMIER(Panasonic) 2800K…青・緑・赤の三波長 (2)照度 10 軒の家庭で食卓の照度を計測した結果、平均 349lx → 350lx で実験を行う。 LED 蛍光灯 図1 分光分布 (3)食べ物と皿 食べ物:トマト(赤)・オレンジ(橙)・レモン(黄)・キュウリ(緑)・ナス漬(紫)・いなり(茶)・黒豆(黒)・ごはん(白) 皿 :丸皿と角皿を用い、色は白と黒の 2 色 図2 食べ物と皿(LED 照明) (4)実験手順 部屋の中心に机を置き、左右から照明を照らす。被験者は向かい合わせに座り、中央に食べ物を置く。 評価は 10 形容詞を用い、片側尺度による4段階で評価した。 非常に かなり やや そうでない おいしく見える 上品な 【実験期間】2011 年8~9月 【被験者】 本学科4年生 20 名 【実験場所】生活科学部棟 意匠・色彩実験室 【平均室温】26.5℃ 【平均湿度】55% 鮮やかな 親しみがある 新鮮な 大人っぽい 食欲がわく おしゃれな 現代風な 落ち着きがある 図3 実験風景 図4 評価用紙 Ⅲ.実験結果および考察 (1)視感評価による結果(照明別) LED と蛍光灯ともに食べ物の評価項目は類似しているが、評価域に差がみられる。 LED 蛍光灯 各食べ物の評価点が2~3点の間にまとまっている。 食べ物によって評価点にばらつきが見られる。 黄のエネルギーが強い LED と三波長である 蛍光灯による違いが生じている。 得点域が 得点域が 狭い 広い 図 5 評価結果(白丸皿) (2)評価項目の分類別による結果(因子分析) 因子分析から得られた因子得点をもとに、散布図を作成(図 6)。 表 1 因子負荷量(LED) 因子名 形容詞 第一因子 おいしく見える 0.943 食欲がわく 0.932 おいしく見える 新鮮な 0.747 鮮やかな 0.679 上品な 0.600 大人っぽい 0.350 親しみがある 0.215 美しく見える おしゃれな 0.660 現代風な 0.601 落ち着き 落ち着きがある -0.047 固有値 4.103 寄与率(%) 41.032 累積寄与率(%) 41.032 因子 共通性 第二因子 第三因子 -0.037 0.087 0.898 0.024 0.046 0.871 0.397 -0.307 0.809 0.254 -0.481 0.756 0.595 0.372 0.853 0.824 0.431 0.987 -0.775 -0.086 0.654 0.670 -0.142 0.904 0.661 -0.067 0.803 0.217 0.883 0.828 2.790 1.470 27.895 14.697 68.927 83.624 美しく見える 落ち着きがある お い し く 見 え る お い し く 見 え る 黒丸皿 白丸皿 白角皿 色味がない食べ物 色鮮やかな食べ物 ●白丸皿 ▲白角皿 ■黒丸皿 ●トマト ●オレンジ ●レモン ●キュウリ ●ナス漬 ●いなり ●黒豆 ●ごはん 図 6 因子得点(LED) ●第1因子「おいしく見える」 ●第2因子「美しく見える」 ●第3因子「落ち着き」 色鮮やかな食べ物、白角皿の得点が高い。 黒丸皿の得点が高い。 色味が無い食べ物の得点が高い。 (3)食べ物の見えに影響する要因(分散分析) 因子得点を従属変数として、皿の形・色、食べ物を固定変数として分散分析を行った。 表2 照明別による分散分析 第1因子【おいしく見える】 第2因子【美しく見える】 第3因子【落ち着き】 *** 0.1%有意 要因 皿の形 皿の色 食べ物 皿の形 皿の色 食べ物 皿の形 皿の色 食べ物 ** LED 9.30** 3.07 3.59* 85.12*** 145.25*** 10.40*** 0.11 3.00 7.53*** 1%有意 * 蛍光灯 3.42 3.61 8.11*** 50.63*** 69.25*** 4.39** 1.85 1.01 6.07** ●LED と蛍光灯ともに各因子に食べ物が影響している。 ●第2因子「美しく見える」は全ての要因が影響している。 ●LED と蛍光灯を比較すると各因子に影響している要因は似ており、 第1因子「おいしく見える」に皿の形のみ違いがみられた。 5%有意 (4)視感評価と測色との対応 各照明下で分光放射輝度計(コミカミノルタ製)を用いて測色した値を基に、食べ物と皿の色との明度差(⊿L)・彩度差 (⊿C)・色相差(⊿H)・色差(⊿E)を求め、相関係数より視感評価との対応をみた。 表3 視感評価と測色との対応(LED) 因子 明度差 彩度差 色相差 色差 第1因子【おいしく見える】 0.195 0.373* 0.162 0.074 第2因子【美しく見える】 0.432** 0.305 -0.236 0.187 第3因子【落ち着き】 -0.067 -0.219 -0.414** -0.129 ** 5%有意 * 10%有意 ●第1因子「おいしく見える」 皿と食べ物の彩度差が影響している。 ●第2因子「美しく見える」 皿と食べ物の明度差が影響している。 ●第3因子「落ち着き」 皿と食べ物の色相差が影響している。 第3因子「落ち着き」に関してはマイナスの値のため、色相差が小さい ことが影響している。 蛍光灯においても同様の結果を示し、食べ物の見えに影響する要因が明 らかとなった。 Ⅳ.総括 分光分布の異なる LED と蛍光灯を用いて食べ物の見え方について検討した結果、皿の形・色、食べ物の全 ての要因がおいしさや美しさの見えに影響しており、特に皿の色と食べ物の色の彩度差や明度差、色相差が影 響していることが明らかとなった。また、LED と蛍光灯は同程度に見え、評価項目も類似している。これよ り、異なる分光分布の照明による光の違いは、被験者の目が順応するため、照明の違いによる見えへの影響は 少ないと推測される。 これより、LED と蛍光灯に大差は見られず、今後、次世代の照明として LED 照明が普及していくにあたっ て、照明の変化による食べ物のおいしさの見えへの影響は小さいと判断した。
© Copyright 2024 Paperzz