大田市立久屋小学校 - 日本学校歯科医会

自分で考え、進んで生活習慣の改善に取り組む子どもの育成
~歯・口の健康つくりを通して~
島根県大田市立久屋小学校
9学級62名
1
研究の目標
進 ん で 生 活 習 慣 の 改 善 に 取 り 組 む 児 童 を 育 成 す る た め に 、「 歯 ・ 口 の 健 康 つ く り 」 を 視 点
においたどのような指導が有効か、実践を通して明らかにする。
2
実施した主な活動
(1)
①
授業実践における取組
「歯・口の健康つくり」に関わる知識を深める手立てを工夫した授業つくり
第1学年
「 こ ん に ち は 、 第 1 大 臼 歯 」 (学 級 活 動 )
第1大臼歯の特徴について紙芝居を通して学び、よりよいブ
ラッシングの方法を考えた。完全に第1大臼歯が生えそろう半
年から1年までは歯ブラシが届きにくいということを模型を使
って視覚的に捉えた。紙粘土、ペットボトル、発砲スチロール
などを利用し、第1大臼歯のモデルを作り、これを使って、子
どもたちは、横から歯ブラシをいれるとよいことに気付いた。
②
対話を大切にした授業つくり
第5学年
「食生活から見直そう
わ た し の 生 活 習 慣 」 (学 級 活 動 )
心 も 体 も 健 康 な 生 活 を 送 る た め に は 、食 生 活 が 大 き く 関 わ っ て い る こ と や 具 体 的 な 事 例 の
中 か ら ど う い う 食 べ 方 が 望 ま し い か に つ い て 考 え た 。家 庭 科 や 総 合 的 な 学 習 の 時 間 、保 健 の
時 間 な ど で 学 習 し た こ と を 拠 り 所 に し な が ら 、 友 だ ち と 対 話 す る 中 で 、「 時 間 」「 内 容 」「 環
境 」な ど「 よ い 食 べ 方 」の ポ イ ン ト を 見 つ け た 。そ し て 、そ れ を も と に 自 分 の 生 活 を 振 り 返
って課題や改善策を一人一人考え、実践化を促した。
③
自己課題設定・解決に向けての授業つくり
第2学年
「 歯 み が き で 守 ろ う 、 自 分 の 歯 」 (学 級 活 動 )
歯みがきカレンダー「ミュータンスハンター」に取り組む中
で、土日の昼に忘れたり、夜眠たくてできなかったりして、な
かなか次のステップにいけないという声が聞かれた。そこで、
そういう実態に即して、実践化を促すための学習をした。
歯みがきの必要性を実感させるため、むし歯ができる様子を
見せる実験をした。酸によって、歯に見立てた卵の殻から泡が
出 て 、表 面 を 溶 か し て い る 様 子 を 見 な が ら 、歯 み が き を し な い 自 分 の 口 の 中 で も 起 き て い る
こ と に 気 付 か せ た 。子 ど も た ち は 、改 め て 歯 み が き の 大 切 さ に 気 付 き 、歯 み が き カ レ ン ダ ー
「ミュータンスハンター」の取組への意欲を新たにした。
第4学年
「歯みがきから見直そう生活習慣」
歯 み が き 習 慣 が 生 活 の 仕 方 と ど の よ う な 関 わ り が あ る か 考 え た 。衛 生 習 慣 、基 本 的 習 慣 な
ど に つ い て 全 校 で セ ル フ チ ェ ッ ク を 行 い 、1 日 3 回 3 分 間 の 歯 み が き 習 慣 が 身 に つ い て い る
子どもたちとそうでない子どもたちに分けて集計し、レーダーチャートにした。
▲1 日 3 回 3 分の習慣が身についている子
▲1 日 3 回 3 分の習慣が身についていない子
(財 )日 本 学 校 保 健 会 「 歯 ・ 口 の 健 康 と 食 べ る 機 能 Ⅱ 」 よ り 改 変 し て 使 用
円 の 大 き さ や 形 を 比 べ 、1 日 3 回 歯 み が き を し て い る 友 だ ち は 、他 の こ と も よ く で き て い
る 傾 向 が あ る こ と が 分 か っ た 。歯 み が き は 、早 寝 早 起 き を し な け れ ば 、十 分 な 歯 み が き 時 間
が 確 保 で き な い こ と や 、ハ ン カ チ の 携 行 、手 洗 い や う が い な ど 普 段 の 衛 生 習 慣 、ま た 、宿 題
や 提 出 物 な ど 決 め ら れ た こ と を き ち ん と し よ う と す る 姿 勢 が 、歯 み が き 習 慣 づ く り に も 影 響
す る こ と な ど 、話 し 合 い を 通 し て 気 付 い た 。そ の 後 、自 分 の レ ー ダ ー チ ャ ー ト を 見 て 、生 活
の仕方について振り返り、実践化を促した。
(2)
①
日常指導における取組
歯みがきの知識や技能を身につける指導
ミュータンスハンター(歯みがきカレンダー)の活用
家庭での歯みがき習慣の確立のため、歯みがきカレンダー
「 ミ ュ ー タ ン ス ハ ン タ ー 」を 作 成 し た 。1 月 に 1 週 間 だ け 実 施 し 、
無理なく段階的に取り組むことができるように工夫した。
バージョン 1 は、1日 3 回 3 分の歯みがき、バージョン 2 は、
歯に合ったみがき方の技術、最終のバージョン 3 は、歯肉炎の予
防 に 適 し た 歯 の み が き 方・生 活 の 仕 方 を そ れ ぞ れ 目 標 に し た 。
ど の バ ー ジ ョ ン も 、 A,B,C,D,E の 5 つ の ス モ ー ル ス テ ッ プ
に す る こ と で 、そ の 都 度 達 成 感 が 味 わ え る よ う に し た 。ま た 、
ミュータンスハンター攻略表を作り、3 回連続してできるよ
うになったら次のステップに進めるようにし、意欲の継続化
を図った。また、どのステップから取り組むか、1人で取り
組 む の か 、家 の 人 と 取 り 組 む の か な ど 、自 分 に 合 っ た 取 り 組 み 方 が 選 択 で き る よ う に す る こ
とで、自律的な健康つくりへの1歩にしたいと考えた。
学 校 で は 、「 曜 日 別 重 点 み が き 」 を 実 施 し 、 歯 に 合 っ た み が き 方 が 身 に 着 く よ う に 支 援 し
た。
②
よい生活習慣つくりに必要な知識や技能を身につける指導
個人用「健康カルテ」の作成と活用
自分の歯や体の様子、歯・口の学習を通して調べたこと、養護教諭によるミニ保健
指導(よい生活習慣つくりの基本的知識)などの記録をファイリングし、自分の生活
習慣を見直す時に活用した。また、家庭へ持ち帰ることで、情報提供の資料として活
用した。
【ファイルしたもの】
・
健康診断結果一覧、身体測定結果一覧
・
ぼく・わたしの歯の年表(毎年4月の歯の生え方がわかるもの)
・
私の歯のちず (乳歯の抜けた日、永久歯の生えた日)
・
カミカミセンサーや咬合力測定の結果
・
歯垢染め出し結果
・
ミュータンスハンター(歯みがきカレンダー)
・
「ほけんのプリント」(養護教諭によるミニ保健指導のチェックシート)
・
歯みがきだより“歯ーモニー”
・
学級活動、総合的な学習の時間などで活用したプリント
(3)
①
など
家庭・地域・専門機関との連携における取組
実践に必要な情報を提供する取組
保護者護者へのアンケートの実施と活用
得た回答の設問間の相関を調べたところ、以下のような傾向があることが分かった。
・
夜の歯みがきをしている人は朝きちんと顔を洗っている。
・
夜の歯みがきをしている人は朝の歯みがきを食後に3分間している。
・
夜の歯みがきを食後すぐにしている人は早起きができている。
・
夜の歯みがきを食後にすぐにしている人は朝起きてからの時間が十分にある。
つ ま り 、「 夜 の 歯 み が き が き ち ん と で き る と 、 朝 の 生 活 リ ズ ム ・ 習 慣 が 整 い 、 ゆ と り を も
っ て 、 す っ き り 気 分 で 学 校 に 行 け る 」 こ と が 分 か り 、「 夜 の 歯 み が き 」 の 大 切 さ を 伝 え た 。
親子「歯・口の健康つくり」集会の開催
親子で「歯・口の健康つくり」への理解を深めることをねら
いに開催した。歯ブラシの使い方を取り入れた元気委員会の劇
の後、たてわり班の親子でクイズラリーを行い、チェックポイ
ントは、教員や栄養士が担当し、歯と口に関するクイズを出し
た 。 こ の 活 動 は 、「 歯 ・ 口 の 健 康 つ く り 」 へ の 保 護 者 の 意 識 を 高 め る よ い 機 会 に も な っ た 。
P T A 母 親 委 員 会 に よ る「 カ ミ カ ミ 献 立 」作 り
PTA母親委員会が主催し、公民館や栄養士さんと
連携し、よくかめる食材を取り入れた「カミカミ献立」
作りを行った。作ったメニューは、各家庭に広めた。
②
○一日の
からだも
スタートすっきり
・ビビンバ
・具だくさんお味噌
親子で取り組む歯みがき標語作り
こころも
・カミカミサラダ
・ヨーグルトパフェ
意欲や意識を高める取組
○みがいたら
献立は・・・
ハ(歯)ッピーに
歯みがきで
など、歯みがき標語作りに全家庭で取り組み、健康つくりへの意識を高めた。
③
継続化を促す取組
PTA研修部による「ノーテレビデー+α」
「 毎 月 2 0 日 の ノ ー テ レ ビ デ ー 」の 他 、各 家 庭 の 実 情 に 合 わ せ て 、全 家 庭 で 、生 活 習 慣 の
改 善 を テ ー マ に 取 り 組 ん だ 。当 初 は 、
「二世代だとなかなか取り組めない」
「仕事の時間が不
規 則 で 」な ど 各 家 庭 の 事 情 が う か が え る 感 想 も あ っ た が 、実 施 率 は 、月 を 追 う ご と に 高 く な
った。
3
成果○や課題●
○
授業や日常指導を通して、また家庭や地域、専門機関の協力を得ながら「歯・口の健康
つくり」に関わる知識をたくさん習得することができた。
○
得た知識をもとに、友だち同士で対話することで、断片的な知識につながりができ、生
活習慣を見直すポイントとなる「使える知識」まで深めることができた。
○
生活習慣を見直すポイントをもとに、健康ファイルなどにファイリングされた自分の生
活や健康の記録を振り返りながら、生活習慣を見直し、実践化につなぐことができた。
○
セルフチェックの集計から「歯みがき習慣の確立が、他の衛生習慣や基本的生活習慣の
確 立 と 大 き く 関 わ っ て い る 」こ と が 分 か り 、児 童 が 歯 み が き 習 慣 の 大 切 さ を 再 認 識 で き た 。
○
歯みがきに関することだけでなく、生活習慣全般に肯定的な変容が見られた。
※
児 童 の 生 活 ア ン ケ ー ト( 事 前 … H 21.6 月 実 施 、事 後 … H 22.12 月 実 施 )で 肯 定 的 な 変 容 が 顕 著 に
見られた項目(数値は回答を点数化したものの平均得点。1 点~4点)
設問
○
※
事前
事後
・給食のあとの歯みがきはどれくらいしますか。
3.53
3.98
・朝起きてから、家を出るまでの時間はどれくらいですか。
2.31
2.57
・朝のはみがきはどれくらいしますか。
2.78
3.05
・夕食の後、おやつをたべますか。
2.12
2.46
・今までに我慢できない歯や口の痛みがあったことがありますか。
1.31
1.62
・歯茎の病気があることを知っていますか。
2.09
2.34
・歯みがきは、歯茎の病気の予防に役立つと思いますか。
3.29
3.44
歯みがきに関する取組が、かむことにもよい影響を与えた。
「 児 童 の 生 活 ア ン ケ ー ト 」( H 22.12 月 実 施 ア ン ケ ー ト ) の 設 問 間 の 相 関 よ り 以 下 の よ う な 傾 向
が見られた。
○
・
朝、歯みがきを3分する子は、給食・夕食のとき、30回くらいよくかんでいる。
・
給食のあと、歯みがきをいつもする子は、夜も歯みがきをいつもしている。
生活習慣の中でも、特に歯みがき習慣やかむ習慣は、家庭の協力も呼びかけ、改善に結
びついた。
○
「 歯・口 の 健 康 つ く り 」の 意 義 や そ の 必 要 性 に つ い て 、職 員 や 保 護 者 の 認 識 が 高 ま っ た 。
●
歯みがき習慣を始め、生活習慣の確立のためには、家庭との連携が不可欠であり、協力
体制のあり方について更に工夫していく必要性がある。
※ 「 ミ ュ ー タ ン ス ハ ン タ ー 」の 取 組 か ら 、早 い 段 階 で 家 庭 の 協 力 が 高 か っ た 子 ど も は 、定 着 が よ く 、
最 初 か ら ず っ と 子 ど も だ け で 取 り 組 ん だ 子 ど も は 、半 年 経 っ て も 次 の ス テ ッ プ に 進 み に く い と い う
傾向が見られた。
●
歯みがき習慣を軸に、児童が今後も生活習慣の改善をめざして継続的に取り組んでいけ
る手立てを工夫したい。