ヤンマー第2世紀への船出

10
第
章
ヤンマー第2世紀への船出
2012(平成 24)年 ~
■ 創業100 周年を迎えて
第10章 ヤンマー第2世紀への船出
2012(平成24)年∼
沿革編
映すること」
「グローバル視点での基盤づくり」の2点を
創業100周年を迎えて
重視するように要請された。
山岡社長は市場ニーズも技術革新も、急速に変化する
現代においてヤンマーが今後も成長し続けるためには、
次の3点を常に実行することが必要だと述べた。
1. 100年目の経営方針
2012(平成 24)年、当社は創業 100 周年の年を迎えた。
1912(明治 45) 年3月 22 日、創業者山岡孫吉が山岡発
動機工作所を創業してから1世紀の歳月が流れたのであ
・ビジネスチャンスを確実に捉えるための「変革」を成
功させる
・ヤンマーのミッションを見失わない(ミッションステー
トメントの認識)
・受身ではなく、自らが結果を出すという執念を持っ
て職務に取り組む
る。小さな町工場は世界中に拠点を持つヤンマーグルー
そして、
「 次の 100 年も、世界中のお客様に愛される
プに成長した。7、8名だった従業員は1万 5,000 名
企業とならなくてはなりません」と締めくくった。
を超えた。多くの先人たちが苦楽を分かちながら会社を
発展させ、幾度もの危機を乗り越えてきた。顧客、得意
先、取引先、地域社会など大勢の人々から温かい支援と
協力を得てきた。それらの到達点としての 100 周年は、
2012年度ヤンマーグループ経営方針示達式
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2. ミッションステートメントの制定
次なる 100 年への出発点でもあった。
2012(平成 24)年度のヤンマーグループ経営方針の発
2012 年1月、2012 年度のヤンマーグループ経営方
表に続いて、山岡社長は新たに策定した「ミッションス
針が山岡健人社長によって発表され、それに続いて新し
テートメント」と「行動指針」を発表し、その趣旨と意義
い「ミッションステートメント」が公表された。
を説明した。
2012 年度は、2011 年度に引き続き「収益構造の改革」
ヤンマーグループには 2005 年3月に制定されたミッ
と「グループ成長に向けての準備期間」の年と位置づけら
ションがあったが、創業 100 周年を機にこれを全面的
れた。収益構造の改革では、リーマンショック後に世界
に改定し、名称もミッションステートメントと改めた。
経済の回復を牽引する新興国を対象としたコスト競争力
この改定の背景には、次のような狙いがあった。厳し
や収益モデルの確立が急務であった。グループ成長に向
さを増すばかりの事業環境のなか、ヤンマーグループは
けては、アジアにおける現地生産の拡大、アメリカにお
世界中での競合に打ち勝ち、多種多様な市場やお客様の
ける自社ブランドトラクタの商品・販売戦略の展開など
要望に応え、グループの永続的な成長を追求していかね
に加えて、農機・建機などの重要市場でグループ共通の
ばならない。その実現のためには、徹底した企業競争力
マーケティングプロセスの運用が開始されている。
の強化が必要である。
2012 年度はこれらの活動を継続・発展させ、2013
現在、総力を挙げて取り組んでいる企業としての基盤
年度から 2015 年度までの「グループ成長を実現する期
強化や仕組みづくりだけではなく、社員一人ひとりが高
間」へとステップアップしていく計画であった。そして、
いモチベーションを持ち、潜在能力を最大限に発揮でき
中期戦略を確実に実行し、成長に向けた投資を遂行して
る強い組織へと進化しなければならない。そのためには、
いくために、
「お客様の声を的確に把握し、事業活動に反
次の 100 年に向けてグループ全社員の共通の指標とな
ミッションブック
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第10章 ヤンマー第2世紀への船出
2012(平成24)年∼
沿革編
るミッションや行動指針、そしてミッション経営の制度・
長は日々の業務を行動指針に照らし、競争力ある行動を
仕組みづくりが必要であると判断し、新しいミッション
生み、成果につながっているかを絶えず検証するように
の策定が決定した。策定に当たっては若手社員でプロ
要望した。
ジェクトを組み、ほぼ1年をかけて検討を重ね、内容を
また、2010 年5月に制定されていたブランドステー
練り上げていった。
トメント
「Solutioneering Together」
は、ミッションステー
ソリューショニアリング
トメントを社内外に簡潔に表現するものと改めて意味づ
ミッションステートメント
けられた。
「Solutioneering」
は
「Solution」
と
「Engineering」
わたしたちは
を合成した造語である。
自然と共生し
さらに、ミッションステートメントの理解度・浸透度
いのち
生命の根幹を担う
を高め、社員一人ひとりの実践につなげていけるように、
食料生産とエネルギー変換の分野で
人事評価制度と連動したアセスメントシステム、研修・
お客様の課題を解決し
教育制度、成果事例の共有など制度や仕組みの整備も進
未来につながる社会と
めている。
より豊かな暮らしを実現します。
3. 創業100周年記念事業
行動指針(YANMAR 11)
改定の大きなポイントは「食料生産とエネルギー変換
1.
お客様にとっての価値を自問自答し、
の分野で」と事業領域をより具体的に明示したこと、
「お
最適なソリューションを提供せよ。
客様の課題を解決し」とソリューション提供がヤンマー
ヤンマーグループでは創業 100 周年を記念して、新
グループの存在意義であることを直接的に表現したこと
ミッションステートメントの制定、ヤンマー創業 100
2.
現場、現物、現実を直視せよ。
3.
結果を出すことに執念を持て。
4.
受身になるな。自らが活動の起点となれ。
の2点である。
周年記念大会をはじめ、数々のイベントやキャンペーン
5.
世界で勝てるスピードで動け。
6.
当たり前を疑え。創意工夫せよ。
ミッションステートメントはヤンマーグループがこれ
を実施した。さらに記念施設として、
「ヤンマーミュージ
7.
あらゆる壁を壊せ。連携し、総合力を発揮せよ。
から進むべき事業領域や価値観・社会貢献のあり方をお
アム」と「ヤンマーグローバル研修センター」を山岡孫吉
8.
同質化するな。異なる意見をぶつけあえ。
客様をはじめとするすべてのステークホルダーに宣言し
の故郷である湖北の長浜市に建設することになった。場
9.
安住するな。世界に挑め。
たものであり、グループ全社員が業務に臨む際の共有す
所は旧長浜工場の敷地およびその隣接地である。
10. 将来目標を持て。自分を磨け。
べき使命であり、基本的な考え方である。
ヤンマーミュージアムはヤンマーの 100 年の歴史と
11. 社会規範を遵守せよ。社会課題の解決に貢献せよ。
ミッションステートメントと併せて、その実現へ向け
未来への挑戦を体感できる体験型ミュージアム。ヤン
て全社員が行動や判断の基準とすべき 11 項目の「行動
マーグローバル研修センターは全世界のヤンマーグルー
経営者行動指針
指針(YANMAR11)」とマネジメント層を対象とした5項
プ社員が経営理念やミッションなどを一貫的な教育プロ
1.
社員に夢・ビジョンを語る。
目の「経営者行動指針」も制定された。社員一人ひとりが
グラムで学習するための施設である。いずれも 2013(平
2.
経営会議体を活性化し、意思決定の質を高める。
3.
お客様・パートナーと積極的に対話する。
意識革命を起こさない限り、本当の意味での企業競争力
成 25)年3月の完成予定である。
4.
事業の構造改革に挑戦する。
の向上も、ミッションステートメントの実現も望めない。
また、100 周年を節目として現在の本社ビル(1961 年
5.
後継人材を育成する。
社会や市場、お客様などさまざまな変化に気づき、自分
竣工) を解体し、新本社ビルを建設することになった。
自身も変化し、成長していかねばならないという意識を
地上 12 階、地下2階建、当社製の GHP やコージェネ
持つことが大切であり、行動指針はそのような社員全員
システムを駆使し、太陽光・太陽熱発電なども取り入れ
を向上させていくマインドや行動を示している。山岡社
(ZEB)
て、実質的な「ゼロ・エネルギー・ビルディング」
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ヤンマーミュージアム
(2013.3)
グローバル研修センター(2013.3)
新本社ビル
(完成予想図)
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第10章 ヤンマー第2世紀への船出
2012(平成24)年∼
沿革編
をめざしている。二酸化炭素も一般のオフィスビルに比
ぞれ祝辞をいただいた。
べて 57%削減する計画である。竣工予定は 2014 年 10
アウグスブルグは山岡孫吉がルドルフ・ディーゼル博
月である。
士の生誕 100 周年の折に「ディーゼル記念石庭苑」を寄
贈した市であり、当社の拠点工場のある長浜市、尼崎市
4. ヤンマー創業100周年記念大会を開催
ポートピアホール会場全景
「ヤンマー 100年の源流」
を上映
挨拶する山岡健人社長
を介して始まった同市と当社の縁を親愛の情を込めて語
られた。そして、ディーゼル博士の座右の銘「偉人は自
2012(平成 24) 年1月 24 日、ヤンマー創業 100 周年
分一人のためではなく、多くの人々のためにこの世に生
記念大会が神戸ポートピアホールで開催された。国内外
を受けたのである」と山岡孫吉の座右の銘「美しき世界は
の 1,700 名のお客様を含む 2,500 名が参加した盛大な
感謝の心から」を紹介し、この両者には人類への貢献と
大会となった。
いう普遍的な意思が共通して存在すると締めくくった。
厳かにストリングスアンサンブルで幕を開け、ブラス
張氏は当社がジャスト・イン・タイムの生産方式を導
アンサンブルのファンファーレが高らかに鳴り渡ったあ
入する際のトヨタ自動車工業の指導者であり、当時の思
と、山岡孫吉創業者の生涯と業績を紹介した VTR「ヤン
い出を繙きながら「すごく強い現場だな」と思ったとヤン
マー 100 年の源流」が上映された。
マーの生産技術に高い評価を与えられた。また、当社が
それに続いて挨拶に立った山岡社長は、まずヤンマー
不便な湖北地方に複数の工場を建設したのは創業者の郷
商品をご愛顧いただいたお客様をはじめ取引先や関係者
里に役立ちたいという思いからだという話に感銘を受け、
に感謝を述べ、いくつもの危機や困難を乗り越え、会社
アメリカで工場を建設した際にはお世話になった地元の
発展に寄与してきた諸先輩や社員一同に敬意を表した。
コミュニティにできるだけお返しをしたいという方針で
そして、創業者の座右の銘である「美しき世界は感謝
取り組んだと語られた。そして、優れた多品種少量生産
の心から」という精神に基づいて、全社員が一丸となっ
技術で岐路に立つ日本の第1次産業をリードしてほしい
て「お客様の課題解決を通じた社会への貢献」をめざし、
と期待を寄せられた。
革新性・信頼性・効率性のある商品やサービスを追求し
次いで再び山岡社長が登壇し、新しいミッションス
てきた結果、今日のヤンマーグループに成長することが
テートメントの発表が始まった。発表は国籍の異なる5
できたと語った。
人の社員が登場し、ひとりずつ日本語でミッションス
さらに 100 周年を機にミッションステートメントを
テートメントの趣旨とそこに込められた思いを披露した。
刷新したことに触れ、
「私たちは新しいミッションステー
そして、最後に全員でミッションステートメントを唱和
トメントのもと、使命と誇りを新たにし、これからも『お
した。その後、山岡社長が次のように高らかに宣言した。
客様の課題にベストなソリューションの提供』を追求し、
「ヤンマーグループはこの新しいミッションステートメ
皆様から愛される企業をめざしてまいります。次の 100
ントのもと、世界の海、大地、都市のフィールドで、食
年も皆様とともに歩み、ともに成長してまいりたいと思
料生産とエネルギー変換という人々が生きていくうえで
います」と力強く決意を示した。
不可欠な事業領域で、
『お客様の課題にベストなソリュー
その後、来賓として招待したドイツ・アウグスブルグ
ション』をめざしてまいります。また、そのことを通じ
市のエヴァ・ウェーバー(Eva
て『世界の人々のより豊かな生活の実現』、そして、
『未来
Weber)経済局長とトヨタ
自動車株式会社の張 富士夫代表取締役会長から、それ
360
の姉妹都市である。ウェーバー氏はディーゼルエンジン
エヴァ・ウェーバー アウグスブルグ市経済局長
ひもと
張 富士夫トヨタ自動車会長
ミッションステートメント発表
の子供たちが安心して暮らせる持続可能な社会の実現』
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第10章 ヤンマー第2世紀への船出
2012(平成24)年∼
沿革編
に貢献し、皆様から愛される企業をめざしてまいります」
阪に出た山岡孫吉が見た夢は、ヤンマーの DNA として
続いて、社員代表による「食づくり」の Solutioneering
受け継がれ、世界へ、未来へと広がっていく。お客様の
と「エネルギー有効活用」の Solutioneering のプレゼン
課題を解決し、未来につながる社会とより豊かな暮らし
テーションが行われた。
を実現していくために。
「食づくり」の Solutioneering では、世界の食を取り巻
く状況を分析、これからの方向性を予測し、農業、施設
園芸、養殖の3つのイノベーションを目標に掲げた。
「エネルギー有効活用」の Solutioneering では、ディー
ゼルエンジンと動力伝達機構というエネルギー変換にお
ける2つのソリューションの今後を、エンジンの進化、
パワーエレクトロニクスとの融合、再生可能エネルギー
供給という観点から展望した。
いよいよ記念大会も大詰めを迎え、山岡靖幸副会長が
閉会の挨拶を行った。山岡副会長は来賓をはじめ、大会
に出席いただいたお客様、取引先、関係者に深甚の謝意
を表した。そして、創業 100 周年記念事業として「ヤン
マーミュージアム」
と
「ヤンマーグローバル研修センター」
を山岡孫吉の故郷である湖北の長浜市に建設することを
山岡靖幸副会長
発表した。併せて、ヤンマー新本社ビルの建設が決定し
100周年記念大会のフィナーレ
たことも報告した。
山岡副会長はこれらの新施設なども原動力として、新
しいミッションステートメントのもと、新しいヤンマー
に脱皮し、社員一丸となって社業発展に邁進する覚悟を
表明し、倍旧のご指導・ご鞭撻を願って閉会の挨拶を終
えた。
この日のために制作されたオリジナルメッセージソン
グ「Solutioneering Together」が男女のプロシンガーに
よって力強く披露され、100 名の社員による「ヤンマー
100 年コーラス」がステージや客席に広がって、会場全
体が一体となって合唱した。これをフィナーレとして、
創業 100 周年記念大会は幕を閉じた。
メッセージソングの合唱で会場がひとつに
大会に引き続き懇親会が神戸ポートピアホテルで催さ
れ、100 周年を祝して乾杯が行われた。祝宴は賑やかに、
和やかに進んでいった。
創業 100 周年から次の 100 年へ。湖北の寒村から大
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