日本政治学会2007年研究大会(分科会J) 07/10/06(於明治学院大学

日本政治学会 2007 年研究大会(分科会 J)
07/10/06(於明治学院大学)
「2007 年フランス大統領選挙の考察:フランス社会党ロワイヤル候補はなぜ敗北したのか」
○ はじめに
・ 社会党は 95 年、02 年の大統領選に続いて三度目の敗北
→党と候補者との間で政策路線が食い違うというねじれ現象…本報告では候補者と党との関
係をもとに分析
○ ロワイヤル敗北の選挙分析
・ロワイヤルの敗北は「議論の余地のないもの」
→過半数は①若年層、②高等教育修了者、③移民系フランス人の 3 グループのみ
→従来がターゲットとする「生活困窮者」層では 47%、労働者層でも 49%の支持
・敗北の原因その1(ペリノー)
:①「参加民主主義」による有権者不信、②外交政策での失言
←「スポークスマン型大統領」イメージを優先(←→「能力主義的大統領」イメージ)
・敗北の原因その②(ミシカ)
:①参加民主主義への過度の傾斜、②サルコジをルペンの同一視
による極右支持者の喪失、③党路線からの離反、④党の有力候補者との協力を拒んだこと
・実際選挙公約はかなりの程度パッチワーク的:保守的な社会政策、財政支出への消極性…伝
統的な社会党候補者政策とはかなり異質
⇒このような政策はどのように生まれて、何故採用されたのか?
○地方政治での経験と動員戦略
・党内では基本的に「アウトサイダー」的な位置
→1981 年から大統領補佐担当官(保健・環境・老齢問題担当)、88 年に仏中西部のドゥー=
セーヴル区に落下傘候補、以後同選挙区を地盤とする
→環境相(92-93 年)
、家族・児童政務大臣(01-02 年)など 3 度の閣僚経験
→他方、党内ではリーダー格になることはできず
・大統領候補となるためには、①候補者としての地位を確立し、②党組織を動員し、③メディ
アを利用した国民への直接的呼びかけ
→ロワイヤルは党内基盤を欠いたために、むしろ③→②→①と逆コース
・全国的知名度は 2004 年 3 月にポワトゥ=シャラント地域圏議会議長に就任した際
←26 地域圏中、社会党が 21 議会で多数派
・地域圏議長時代に実践されたものがその後の選挙公約のベースに:「参加フォーラム」開催、
「市民審査員」、参加型予算、遺伝子組み換え農作物の禁止、ハコモノ行政の撤回、サードセ
クターでの若年雇用創出、マイクロ・クレジット制度の創設など
→改革のシンボル、社会党復調の象徴として全国的知名度を得る
・党内は依然として派閥政治、派閥リーダー(エレファント)が大統領候補適格者である状況
→ロワイヤルの戦略:党内派閥政治の回避…6000 回以上ものミーティングを開催、ウェッブ
サイトを利用したミリタン(党活動家)の動員
→「コミュニケーション的権力」
(シャンタル・ムフ)の立ち上げ
→党内予備選(史上 2 回目、一般公開は初めて)でも、圧倒的な世論支持率を背景にファビ
ウス、ストロス=カーンの 2 名の派閥リーダーを破る
→党内政治と世論支持率の 2 つの軸の対立の場
・背景には、
「セレブ化」=候補者個人に対する関心、メディア露出、欧州憲法条約国民投票か
ら活発化したネット・キャンペーンなども
1
⇒ロワイヤルの政策的思想はどこにあるのか
・ドロール主義との共通性(仮説)
・
「市場とこれを修正する行動、長期的な国家の活動、さらに社会パートナーによるダイアロー
グと合意という社会モデル」
・ドロールは「価値観の共有」を主張:
「彼女の選挙キャンペーンには 3 つの至宝がある。境界
線を越え、政治に見捨てられているという感情を持つ国民の声に耳を傾け、権威と家族とい
う私が重きを置く価値観を守ろうとしていることだ。そしてこれらの価値を、彼女は参加的
議論(débats participatifs)によって浮かび上がらせた」
→ロワイヤルの労使協調路線が最もドロール主義を色濃く反映:労働編成のあり方、労働条
件、労働時間の各政策領域はコンサルテーションによって決定する、と表明
→ドロールが蔵相時代(81-85 年)に模索し、その後欧州レベルで部分的に実現した政労使
協調路線(『ヴァルデュシェス会議』)のリヴァイバル…「参加民主主義」とも調和的
⇒しかしこのようなドロール路線は 21 世紀に入っても党内で主流にはならず…なぜか?
○ロワイヤル敗北の構造的分析
・イデオロギー的側面はドロール主義、戦略的側面は参加民主主義…しかしこの 2 つはフラン
ス左派の歴史的文脈ではかなり異質
→解題:政党と労働運動との乖離・対立的(市民権と議会主権の早期確立、アミアン憲章)
→20 世紀に入って革命主義と改革主義、インターナショナリズムとナショナリズム、共和主
義と反体制的革命主義との間で明確な路線選択ができず
→対内的(党内)においては、常に革命主義的・国家主義的である方が支持を固めるのに優
位
…マルクス主義的なラディカリズムとケインズ主義的な再配分に基盤を置く国家機能への信
頼:「ソーシャル−ナショナリズムという誘惑」(Reynie,2007)
→社民主義や参加民主主義の実践、引証としてのコーポラティズム戦略は、党内だけでなく組
織化された利益集団も、社会を統御する中間団体も存在しないフランス社会で享受されるも
のではなかった
○ 終わりに
・「参加民主義」にみられる受動性 + 党内での社民主義的姿勢
←この 2 つがロワイヤル敗北の構造的原因
→市民社会の自律性の低いフランスにおいて、大統領は社会のエンパワーメントではなく、
むしろこれを抑止し導く機能を担わなければならない(←サルコジはこの点において信頼
性を勝ち得た)
→今後の方向性を占ってみると…
・選挙敗北後、党内改革派はマルクス主義と国家主義の破棄を主張
→現在は党内改革派の勢い強い…ジョスパン、ファビウスが左派路線に固執…「近代人」と
「古代人」の競争再び
→党リーダーの多くはロワイヤルを批判、次期大統領選候補となるのは難しいか?
・政党政治の次元:イタリア方式(中道左派連合の形成)
、英国方式(ニューレイバー的な刷新)、
ドイツ方式(極左政党の結成)
→二大政党制の圧力強まる(右は陣営統一をほぼ達成)…左派陣営での緩やかな連合が合理
的
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